第37話『だめぇ!!』
「まだそんな顔ができるんだね? 安心していいよ? もう形勢逆転はありえないから」
青年が笑みを濃くさせて囁くと、茨がさらにマリンを締め上げた。
「あぁぁあああああ!」
悲鳴など上げたくないのに、噛み殺すことができずに口から出てしまう。
「どうだい? そろそろ僕のことを他人に話す気も起きないくらいのトラウマは、埋めつけられたんじゃないかい?」
青年は口の端を吊り上げ流し目で二人を一瞥すると、屈んでマリンの落とした魔装器を拾い上げて、指先で弄ぶとクレオに向けた。
「な……にを……」
痛みを堪えて青年を睨みつけると、呻くように喉から声を絞り出して詰問した。
「彼女は道化師の娘だよね? それならさすがに生かしておけないよ。
それに間近で僕が簡単に人の命を奪っているところを目の当たりにすれば、それこそ、君は僕に恐怖して口外する気もなくなるだろう?」
青年は魔装器をクレオに向けたまま、軽薄な笑みを浮べてマリンには視線さえも向けずに、含み笑いで冷たく言い放つと、魔装器の発動を開始した。
銀色の筒状を深い紫に染めて行くと、先から暴れ狂う同色の波動の塊が生み出される。
クレオは茨に拘束され、まるで十字架に磔にされているように両手を左右に広げられ、両足は一括りにされて宙に吊るされている。顔を蒼白させて必死にもがいているが、関節など要所を拘束されていては、自力で抜け出すのは絶望的だった。
魔装器の先で光の粒子が集結して球体を作り出し、どんどん膨らんでいき術が完成した。
「自分で使うとこの術に凄さを改めて実感できるよ。
さぞ名高い術者のものなのだろうね」
完成した術を見て感嘆の声を上げると、嬉々とした笑みを浮べて青年は波動の塊をクレオに向けて放射させた。
波動の塊が周囲の空気を巻き込んで、唸りを上げながら身動きの取れないクレオに襲い掛かった。
「だめぇ!!」
あの波動術の威力は十分に分かっている。あれにはクレオの命を簡単に奪えるだけの威力が備わっている。
マリンはもう後のことなど考えられずに、全力で中和を発動させていた。
マリンを始点に白い光が周囲に広がり、辺りを白一色で包み込む。
マリンを締め上げていた茨も周囲に生えていた茨も、クレオを吊るしていた茨も、それに向かっていく波動の塊も、光が触れた瞬間に消失していった。
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