『ワシの相手が務まるのかな?』
人形に近付いて中和ができれば、それこそ戦わずにして老人の手駒を奪うことができるが、そうさせないために老人は町の人たちを操っているのだ。
ここでマリンが無理をして参戦しても、戦況が好転するとは思えない。今は二人に任せるべきだと小さく頷いた。
「分かったわ。じゃあ私は町の人担当ね。でも、危なくなったら戻ってきなさいよ?
あの人形は、この光には触れられないんだから」
二人の背中に向けて忠告すると、二人は半面だけで振り返って微笑みを浮かべて頷いた。
マリンも微笑みを返すと、中和を発動させた。
マリンを始点に青いほどの眩い純白の光が四方に向けて拡がっていき、辺りを輝きで包み込む。その光に触れた町の人たちは、まるで糸の切れたマリオネットのように、再び動きを止めてその場に崩れていく。
マリンは人形に向かっていく二人の後ろ姿を見送りながら、なにもできない自分の不甲斐なさに唇を噛み締めた。
「おや? 中和能力なしでワシの相手が務まるのかな?」
老人がにんまりと笑みを浮かべると、無駄に長い白く染まった顎鬚を撫でた。
「あら、お人形遊びは女の子の得意分野なんですよ?」
ユーリは老人を見つめて冷ややかに吐き捨てると、両手に刃の力を宿して甲冑を着た人形と向き直った。黒くて腰まで伸びる髪が水面に浮かぶように蕩い、その瞳は妖しい光を宿している。
口許には薄い笑みを浮かべて、戦闘を心待ちにしているようにさえ見えた。
「フォ、フォ、フォ。減らず口を叩き寄る。じゃが、ワシの人形操作は遊びではない。芸術じゃよ。芸術とは常に男の手により作られ完成していくものじゃ」
甲冑の人形が手に持った三角錐に柄を着けたような鎗を正面に構えると、勢いを着けて突進を仕掛けた。ユーリは鎗を紙一重でかわすと華麗に高く宙に舞い、重力を味方に付けたカウンターで、鎌の力を宿した脚を人形の顔面を撃ち込む。
金属同士がぶつかり合う、甲高い音が辺りに響き渡った。
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