第39話『大丈夫だから。』
青年は二挺の銃を巧みに操って二人を追撃するが、動いている的を易々と射抜けるわけもなく、二人は銃弾をかわしながら反撃の機会を伺う。
これまでなら自由になった途端逃げることを最優先に考えただろうが、中和の光で包み込んだこの空間内では波動は使えない。
つまり、青年もクレオも波動の使えない普通の人間になったのだ。
今なら、クレオと二人掛りでなら青年を倒すことも不可能ではない。
マリンは幼少の頃は家で、中学に入ってからは学園で、毎日欠かさず武術の鍛錬を積んでいる。波動術を使用されるとさすがに叶わないが、純粋な武術ならば大人が相手でも引けを取らない。
的にならないように動きは止めずに、青年の動きを注視して攻め込む隙を伺う。
銃弾が切れるのを待ったが青年は弾が切れるとすぐにマガジンを使い捨て、すぐに装填は完了してしまう。予備を幾つ持っているのか分からないが、弾切れを狙うなら絶望的だろう。
マリンとクレオは目配せをし、マリンは青年を中心に対極に立って円を描くように走った。目的は背後へ回り込むことと、青年の両手を開かせて命中率を下げさせることだ。
二人を狙撃しようとする青年は、二人の思惑通りに大きく両手を広げて銃を乱射してくるがその命中率は思いの他高く、足を止めたら撃たれてしまいそうだ。
「逃げてばかりじゃあ僕は倒せないよ? この空間だってずっと続く訳じゃない。術の効果が切れたらまた茨で攻撃するよ? 今が好機なんじゃないのかい?」
よほど射撃に自信があるのか、口許に笑みを浮べたままでいやらしい挑発をしながらも、正確に二人を狙撃してくる。かなりの訓練を積んでいるのが伺えた。
だが、挑発だと分かっていても青年の言っていることは最もだ。マリンは次にマガジンを詰め替える一瞬の隙を着いて飛び掛ろうと狙いをつけた。
「マリン。大丈夫だから。もうちょっと……」
マリンの考えを呼んだように、クレオが引き止めてきた。
なにか秘策があるのかマリンをジッと見つめると、大きく頷く。
クレオの自信のありそうな瞳にマリンは懸けてみようと思い、頷き返すと青年に打たれないように円を描くように走り続けた。
「大丈夫だなんて、簡単に言う言葉じゃないよ? そんな自信満々で言うのなら見せて御覧よ?」
青年はその場で円を描くようにその場でクルクルと回転しながら銃を撃ち続け、興味深そうにクレオを見つめると、楽しそうに喉を鳴らした。
「大丈夫。期待してていいよ? とっておきの切り札をちゃんと用意してるから」
クレオは足を止めずに走りながら、にんまりと意味深な笑いを浮べて青年を見返した。
余程の自信があるにせよ、ただのハッタリにせよ、かなりの挑発と言えるだろう。
青年は一瞬真顔になってクレオを警戒してか睨みつけると、すぐに口の端を吊り上げて凶悪に笑った。
「この状況でそんなハッタリが通じると思っているのかい?
そんなものがあるならもうとっくに試しているんじゃないかい?」
「今のこの状況だから使える切り札もあるしねぇ……。
そんなに気になるの? だったら見せてあげるよ」
「ちょっとクレオ!」
相手の挑発に載せられて、切り札とやらを見せるつもりなのか青年に向かって駆け出すクレオにマリンは慌てて制止の声を掛けた。
例えそれがどんなに強い攻撃であったとしても、警戒されているのでは効果は激減してしまう。どれだけ自信があるとしても、待ち構えているところにわざわざ攻撃をしてやる必要はないのだ。
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