『命を、簡単に捨ててるんじゃないわよ!』

 爆発が治まるとそこに少年の姿はなかった。木っ端微塵に砕け散ってしまったのだ。

 なにが起きたのか把握し、マリンはユーリの背後から出ると覚束ない足取りで、ほんの数分前まで少年の居た場所へ歩いていった。

 状況は認識しているが、感情がそれを拒絶しているのだ。

「なんでよ! なんでここまでするのよ!! こんなことになんの意味があるの!?

 命を、簡単に捨ててるんじゃないわよ!」

 自爆、それが少年の取った選択だった。ユグドラシルに保護されるくらいならば、全員を巻き込んで死ぬという選択を選んだのだ。

 本当に自爆したのだと理解すると足から力が抜けてその場に膝を着き、やり切れなくなって俯くと、爆発で抉れて焦げた地面を握り締めて言葉を絞り出した。

 少年がなぜあそこまでユグドラシルを嫌悪していたのか知らない。クレオの言葉を信じるなら、それこそ、そんな理由などなかったはずだ。

 仮にクレオが嘘をついていたり、クレオも把握していないところで、少年とユグドラシルの間になにかがあったとしても、死ぬ必要などないはずだ。

 死んだほうがマシ"なんて言葉は、命に対して、自分に対して、これまで出会った人たちに対しての冒涜だ。

 クレオが近付いてくるとマリンの肩に軽く手を置いた。

「それがタロットだよ」

 クレオの声音にいつも含んでいる人を小馬鹿にしたような緩いものはなく、真剣そのものだった。

「人間社会はもちろん、ユグドラシルでもアニマムンディでもクロスやデリートでさえ、少数でも人が集まる以上、最低限の規則や秩序が自然とできてくる。

 それさえも守れなくて数々の組織から追放された人たちが集った場所。それがタロット。

 破壊と殺戮を好み、戦うために国や他の組織に戦闘を仕掛けて、一度戦争が始まったら手段は選ばない。投降も降伏も認めず、組織を壊滅させる狂心者の集まり。

 あの子もきっとタロットで他の組織を、特にユグドラシルを憎むように教育されたんだと思う」

 マリンの肩に置いたクレオの手が小さく震えながら握り締めてきた。

「赦せないよね。なにも知らない子供にそんな教育するなんて。

 酷いよね。あんな、私たちより小さな子にあんなことさせるなんて……」

 クレオの声は怒りを含んでいるのか、それとも悲しいのか、普段よりも低く、そして、震えていた。

「だから私たちは行くんでしょ? そんなタロットからあの町の人を救うために……」

 マリンは肩に置かれたクレオの手に自分の手を重ねてそっと握ると、上目使いで見上げて微笑み掛けた。

「うん」

 クレオは力強く頷くと満面の笑顔を浮かべた。

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