第30話『油断しないほうがいいよ』
「気を抜くにはまだ早いわよ!」
忌々しげに固まった頬を撫でている青年に魔装器を向けると、マリンは瞬時に白い波動を閃にして撃ち放った。
「調子に乗るな!!」
青年は苛立たしげに吐き捨てると、拳を握り締めて閃光を叩き落とそうと振り上げたが、弾けないと判断したのか、激しく舌打ちをすると後ろへ飛んでかわす。
「マリンの魔装器、油断しないほうがいいよん? かなり恐ろしいから」
さらにクレオが追い撃ちを仕掛けた。拳が空を裂いて青年の顔面に襲い掛かる。
「肉弾戦なら僕に勝てるとでも思っているのか? 甘く見るな!」
青年はクレオの手首を薙ぎ払うと、返し手でクレオの顔面を殴りつけようとしたが、クレオは宙でくるりと身を翻すと青年の顔面に回し蹴りを打ちつけた。
「ぐぅっ!」
青年は顔を抑えて低く呻きながらよろめき、今にも踏み外しそうな足取りで二歩、三歩後ろへ下がった。
「とどめよ!」
クレオが巻き込まれない位置まで青年から離れたのを見計らって、マリンは魔装器に込めた純白の波動を閃光にして青年に向けて解き放つ。
閃光が青年に炸裂する直前に、無数の茨が守るように青年を覆ったのが見えたが、マリンは構わずに撃ち続けた。
数十秒の間、閃光は青年を強襲し続けて、駆け抜けていく。
光が去った後、青年を覆っていた茨はほとんどが吹き飛んで残骸を残すだけとなり、身に纏っていた高級そうな軍服もあちこちが破れて、半裸の状態になっていた。
マリンの攻撃は間違いなく直撃したのだ。マリンは父親と、その同士たちの強さに絶対的な信頼を置いている。マリンがその人たちから借りているのは術の一つであり、カプセルに込められている限られたほんの一部に過ぎない。
それでもあの人たちの術が直撃した今、青年は甚大なダメージを負い、もう動くことはできないだろう。
終わった、とマリンは思った。
「軍隊に連絡するんでしょ? はい。私の携帯貸してあげる」
マリンは安堵すると、激しい疲労に襲われている体を引き摺りながら、クレオの元へ行くと携帯電話を取り出して差し出した。
クレオは青年の様子を注意深く伺いながらも、マリンに視線を移すと微笑んだ。
「うん。ありがとう。使わせてもらうね」
微動だにしない青年に、クレオもようやく勝ったと判断したのか、マリンが差し出した携帯を受け取ろうと手を伸ばしてきた。
「それを使うことはきっとないよ?」
その時、嘲笑うかのような青年の声が聞こえ、二人は同時に青年へ振り返った。
青年は口許に嫌味な笑みを浮かべながら軍服の上着を脱ぐと地面に落とし、やれやれとばかりに小さく頭を左右に振ると、マリンとクレオを見据えて口の端を吊り上げた。
「少し脅かして口を封じるつもりだったのだけど、どうやらそんな子供騙しは通用しないみたいだね」
青年からこれまで以上の重い威圧感を感じて、マリンは息苦しさを覚えた。
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