第60話『あんた……』
「うぉ、登場と同時にいきなり中和!? さっすがマリン。ぬかりないね」
クレオはにんまりとした笑みを浮べると、マリンに近付いてきて両手を肩の高さまで上げ『アドちゃんに治してもらった?』と付け加えた。
「あんたたちが喧嘩してるからでしょう? そうじゃなきゃこんな力使わないわよ」
マリンは唇を尖らせてクレオに返答をすると、上げられたクレオの手のひらに自分の手のひらを重ね、ハイタッチをしながら『うん』と頷き、もうなんともないことを告げる。
「まぁ、イングヴァイさんはそうでしょうね。全ては自己責任だと簡潔するでしょう。
でも、それを周りから見る人がどう感じるか考えたことあります? 親御さんは? ご友人は? 風紀委員のお仲間さんは? 私は?」
ユーリはゆっくりと振り返ると、口許だけの作り笑いにやや怒りを宿した瞳でマリンを見つめ、踵を返してゆっくりと近付いてきた。
確かにそんなことは考えてもいなかった。
自分と同年代の少女がやることの手伝いをするような軽い気持ちであったし、あんなに強い相手と命を懸けた戦いになるとは思っていなかった。
もちろん、反省するべき点は幾つもあるだろう。軽はずみだったと言わざる得ない。
しかし、だ……。
「心配してくれるのは嬉しいけど、私は間違ってるなんて思っていないわ。
あの時、私が一緒に行っていなかったら事件を解決できなかったと言い切れる。
そしたら、居場所を突き止められたあいつらが結界を張り直してそのまま待機、なんてことで済んだとは思えない。
逆砕覚悟でもなんでも攻めてきて、今頃学園は戦場。生徒たちの平和は破られていた。だから、私は胸を張って言える。私は間違ってない、と……。
親もみんなも、私が自分を信じて進んだ道なら、どんな結果になっても受け入れてくれるわよ。あなたは違うの?」
「そんなことはイングヴァイさんじゃなくても、誰でも安易に想像できることですし、私はイングヴァイさんが間違っていたなんて一言も言っていませんよ?
クレオさん一人では解決できなかったと言っていましたけど、イングヴァイさんが同行しても危険だったんですよね?
私がいれば、もっと簡単に解決できたのではないですか?」
ユーリは小首を傾げてマリンを見つけると、探るように見つめてきた。
「あんた……」
マリンはユーリの様子が可笑しかった理由を悟った。
やはり、クレオの先導者としての適正などどうでもいいのだ。彼女は、昨日マリンが置いていったことを拗ねていたのだ。
クレオへの風当たりが強かったのも、ただ単にユーリの知らないところでマリンと任務に当たったことに腹を立てていたのだろう。自分だけが蚊帳の外だったことに対しての八つ当たりだ。
マリンを使用者にと考えているユーリにとって、戦闘するときはもちろん、そのほかの時も常に一緒でなければ気が済まないのだ。付喪神とはそういうものらしい。
つまりユーリは、自分だけのけ者にされた苛立ちを吹き飛ばすために、適当な理由をつけてクレオに相手をさせて暴れたかっただけなのだ。
そのことに気付くと、マリンは呆れてしまった。
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