マジシャンとマジック【ゆずるう】

ピーンポーン


柚夏「はい」


...誰だろう。今はそんな気持ちじゃないのになぁ...と思いながらドアを開ける。


すると珍しい人がドアの前に立っていた。


柚夏「は、師匠っ!?!?、、」


師匠「はい、お師匠様です。」


師匠「お久〜、柚夏ちゃん」


と当たり前の前のように靴を脱いで家に上がってくる師匠。自分の家じゃないんだから...


師匠「元気してた??」


柚夏「私は久しぶりに会ったワンちゃん

   ですか。」


師匠「今日は此処にいると思ってね。流石に

   夏休みは寮じゃなくて、実家に帰ってくる

   でしょ」


柚夏「ゆっくりしたい時は実家に

   集中したい時は寮にいます」


柚夏「"学生の本分は勉強"ですから」


師匠「それは学生が言うんじゃなくて、

   校長先生とかに言われる言葉だと思うん

   だけどなぁ」


師匠「私が子供の頃はもっとやんちゃ

   してたよ。」


とカシュとビールを開けて削りイカを食べてる師匠。いや、あなたの家じゃないんですけど


柚夏「今だって充分やんちゃしてるじゃない

   ですか」


師匠「柚夏ちゃんの家はなんか落ち着く

   からね。ノンアルのチューハイ飲むくらい

   良いじゃん」


柚夏「...本当にお久しぶりです。様子を見に

   来たんですか」


と一応お客様なので粗茶を出す。”一応”ね


師匠「なぁに、私が中々来なくて嫉妬してる

   の??かーわい」


柚夏「もう酔ってるんですか」


 この人が過去のやさぐれていた私をまだ

"まとも"にしてくれた人だ。教頭先生から紹介されたマジシャンで私は"お師匠様"と呼んでいる


まぁ、心の中でだけど。照れくさいし...


師匠「いや〜、噛み付き狼の柚夏ちゃんに

   良いものあげようと思って」


柚夏「だから犬ですか」


師匠「昔はもっと可愛げの無い子だった

   けど、随分元気を取り戻したね」


師匠「普通の女の子みたいだよ」


柚夏「お陰様で...」


 その中でもこの人なら信用して良いかなと思う大人の一人。茶化すところはたまにキズだが、この人なら流雨の事も相談しても良いかもしれない


師匠「なんか落ち込んでんじゃん。どしたの」


柚夏「それがですね...」


柚夏「好きな人がいて...、その人から"余計な

   お世話"って言われて...」


師匠「好きな人に、」


師匠「"余計なお世話"ねぇ...。私も最初は柚夏

   ちゃんに言われたよ」


柚夏「それは...すみません...。」


柚夏「あの時はどうかしてました」


師匠「お母さんが亡くなったらしょうがない

   って」


柚夏(藤奈さんと同じ事言ってる...)


師匠「人間なんて生きてるだけで迷惑掛ける

   生き物だから良いんだよ。黙ってても

   迷惑って人もいるし」


師匠「そんなのに合わせてたらキリないって」


柚夏「まぁ...。」


柚夏「学校で苛められてた子がいて、その

   苛めっ子を懲らしめたんですけど」


柚夏「その人が突然アルバイトに来ていきなり

   家に行こうってなって。空気が凄い

   気まずくて...」


師匠「苛められっ子の家に苛めっ子が行くんだ。

   それは修羅場だねぇ」


柚夏「その子とどう接して良いか分からな

   くて...」


師匠「苛められっ子の方??苛めっ子の方??」


柚夏「苛められっ子の方です。」


師匠「...そういうのはいつまで経っても

   無くならないよね。」


師匠「それにしても柚夏ちゃんその子の

   ヒーローみたいだね。苛めかぁ...、

   どこでもそういう問題はあるよね。」


師匠「その子にとっては柚夏ちゃんが命の恩人

   みたいなものだからそれがプレッシャー

   になってるんじゃない??」


柚夏「プレッシャー...。助けなかった方が

   良かったんですかね」


師匠「それはないよ。柚夏ちゃんは良いことを

   した。それは変わらない」


師匠「話を聞く限り、その子は柚夏ちゃんとの

   関わり方が分からないだけなんじゃない

   かな」


柚夏「私の関わり方が分からない...??」


師匠「今まで苛められてきたから人とどう

   接して良いか分からないんだよ。多分

   柚夏ちゃんだけじゃない、他の子とも」


師匠「でも、おめでとう〜。あんな可愛げの

   なかった子が一端(いっぱし)に

   人のことを心配するようになってー」


と、くしゃくしゃと頭を撫でられる。


柚夏「何目線なんですか」


師匠「はいはい、そうやって噛み付かない

   噛み付かない。」


師匠「なんと、今日は柚夏ちゃんに師匠から

   誕生日プレゼントがあるの」


柚夏「めっちゃ過ぎてますけど」


師匠「プレゼント貰えるだけありがたい

   でしょ。この年になるともう誰も

   何もくれなくなったりするぞ〜」


師匠「自分から誕生日って言っとかないと」


師匠「私みたいに忘れるからさ〜。公演とか

   忙しいとついそういうのがね」


師匠「はい、誕生日プレゼント」


と手から折られた五千円札を取り出す師匠。そして五千円札を広げて私にくれる。


柚夏「ありがとうございます...」


柚夏(こうやってなにもないところから

   突然マジックするとこ変わって

ないなぁ...)


柚夏「というか...誕生日に現金って...」


師匠「現金の方が色々買えて良いかなって。

   それとも、お高い珈琲の方が良かったり?」


師匠「あなたが欲しいのは五千円の現金

   ですか、それともちょっとリッチな

   袋に入ったお珈琲ですか」


と左手に袋詰めの珈琲、右手に現金を出す師匠。


柚夏「泉の女神みたいなことしないで下さい」


師匠「一回やって見たかったんだよね〜、」


と懐から珈琲を出す師匠。最初からあげる気だったな。この人...なんか小さい頃に見たトルコアイスのおじさんを思い出す。


師匠「...そんな相談されるなんて、柚夏ちゃん

   にもとうとう夏が来たか」


師匠「もしかして好きな人?」


柚夏「まぁ...///、次は何処に誘った方が良い

   かなと思って...」


師匠「ひゅ〜、冗談で言ったのに。青春。

   青春」


師匠「まぁ、その子の好きなときに行けば

   良いんじゃない??」


柚夏「流雨の好きなところ...」


水族館かな...。


師匠「そろそろ、兎と鳩の世話しなきゃ

   いけないし帰るよ。」


柚夏「本当何しに来たんですか...」


師匠「え??触りたい??うちの子達に」


柚夏「そんな事一言も言ってません」


師匠「まぁ、ついでだし行こうよ」


とペットの餌を買いに車で買い物まで付き合わされてから師匠の家に行く。この人は本当に急なんだから


師匠「ミミちゃん〜♡鳩サフレ、ササミ、

   焼き鳥、モモ、ムネ、ただいま〜、」


柚夏「鳩の名前どうにかならなかったん

   ですか」


 兎は知らない人がいるのか分からないが固まったまま動こうとしない。後ろの方では、鳥籠の中で鳩がバサバサと飛びまわりながら興奮していた


餌をあげると凄い勢いでがっつく鳩達。ご飯をクチバシからこぼしながら一生懸命食べてる姿が伺える


柚夏「兎さん達可愛いですね。」


 ミミちゃんは真っ白でふわふわの毛並みに黒い瞳で此方を見て固まってる。知らない人が来て怖がっているんだろうか


師匠「触りたいでしょ??噛むよ」


柚夏「噛むんかい!!」


師匠「そういうところも可愛いっていうか、

   マジックで使わせて頂く子なので

   プライド高くって」


と、檻からご飯をあげると口を動かしながらもしゃもしゃ食べるミミちゃん。たまにピタッと止まる時があるんだけど何でだろう


師匠「ゲージから出てくるともう凄いよ」


と、兎を出す師匠。さっきまでの大人しさは一体辺を飛び回るミミちゃん。走るの結構早いな


鳩「ポッポッポッ」


柚夏「出してくれって催促(さいそく)

   してますけど」


師匠「その子達は後で放すから」


師匠「家で放すとトイレの問題がね...。だから

   広い所で飛ばすんだよ」


師匠「ちゃんと躾してるから大丈夫」


師匠「足に輪っかも付けてるし」


師匠「ほら、行って来い」


と、勢いよく青い空に白い鳩達が一斉に飛び出して羽が舞い落ちる。その光景はさながら自由を求める鳥の美しいカルテットだった


鳩「ポポッ、ポーポー」


 電線の上や木の上、畑や田んぼで毛繕いや餌を食べてたり 一匹だけ師匠の肩に止まってるが凄い首を傾げてる。こうも性格によって違うのか


師匠「元気出た??」


柚夏「懐かしい光景ですね」


師匠「まぁね。私達には翼がないから」


師匠「だからこそ、あの子達の自由さに

   憧れるんだろうね」


柚夏「自由さ...」


柚夏「...昔の事思い出しますね。」


師匠「初めて会った日も鳩を出したもんね。

   シルクハットから鳩だけに」


柚夏「それがなかったら完璧でした」


柚夏「あの時の光景は今もまだ鮮明に

   残ってます。」


あの二匹の白い鳩が大空を舞う光景を、お母さんが亡くなって人間不信だった私に色を教えてくれた人を


柚夏「師匠には感謝しかありません。」


師匠「じゃぁまたマジックをお教えちゃおう

   かな。お弟子さん」


※キャプション

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