第25章「ワンころ先輩、」【みさゆき】

※キャプション



 あの後、生徒会室に入っていく雪音を

私はただ無言で見送る事しか出来なかった...。


美紗(...雪音、...私の事避けてたよね)


 ...これが、...私がいる事で怯えて、虐待...するくらい...お父さんが恐れてた、事。


...だったのかな。


 あの時の雪音の目...。

私に興味を無くした、瞳...


美紗(...そう、...だ、ね。...確かに、

  これは、)


 雪音の期待に応えるのは 必ずしも自分である必要はないんだと気付いてしまった。


...その、恐怖。


美紗(...かなり、...辛い、や)


 雪音の消えていった...。重く閉じた生徒会室のドアの前で私は去る事も出来ずに


 俯いたまま私はその場でずっと立ち尽くしていた...。


美紗「...雪音、...。」


 このまま行っても 雪音に掛ける言葉なんて今の私には...何も、ない...。


 それにもう雪音は、私に話し掛けられるのも煩わしいと思ってるかもしれない...


美紗(...でも、)


ずっとこのままなんて...、


...嫌、...だ、よ


??「...あ、さっきの。...入ります?」


美紗「はえっ!?」


...突然、話し掛けられたからビックリした。


美紗(...うっわ、今、すごい変な声出た...///)


??「...あ、...えーっと、」


 反応にどうして良いか分からず、相手の人は手を伸ばしたまま困ったように目を泳がせている。


美紗「...あ、いえッ...!!大丈夫です...!!

   何でもないですから...。

   ど、どうぞ!!私の事は気にせず、

   中に入って下さい...、」


 急いで生徒会室のドアから離れて先輩と思わしき人に道を譲った。


美紗「...あっ、...と、それと...通行の邪魔

   しちゃって、...ごめんなさい」


??「...あ、その...。何か...、...ごめんね」


美紗「いえ、こっちも悪いので...。

   ...本当に...気にしなくても、大丈夫

   ですから...」


 まるで犬の耳のようにピンクの髪の先だけ白い先輩は私の様子を気にしているように不安げに見つめながら


 生徒会室の中へと入っていく...。私はその様子をただ呆然と...その場で眺めていた。


美紗(さっきの人...、雪音と一緒に柚夏の事

  助けてくれた人...。柚夏は先輩って

  言ってたから...先輩で良いんだよね?)


美紗(初めて見た時も思ったけど、大きな

  ワンちゃんみたい...、)


 すると、もう用事が済んでしまったのか。その先輩はすぐに生徒会室から出てきたのだった


??「...えっと、ごめんね」


と、先輩は謝りながら扉を開ける...。


美紗「...あ、...ごめんなさい。...二回も、」


 扉の隙間から、生徒会室の席の奥に座っている雪音と一瞬だけ目があったような、...そんな気がした。


??「...えっと、...一人で生徒会室入りにくいと

  かなら...良かったら一緒に入りましょうか...?」


 いつまで経っても生徒会室に入ろうとしない私の事を気にしてくれたのか、


 ガラガラと、引き戸を閉めながら先輩は私に声を掛けてくれる。


美紗「...いえ、...特にこれといった用事も...

   ないですから...。」


??「...あー、と...芽月さんのお友達で

   大丈夫、なのかな...?」


美紗「...あ、はい。大丈夫です、...さっき、

   柚夏の事助けてくれた人ですよね。

   隣に居たから...」


美紗「...柚夏の事、助けてくれて

   ありがとうございます」


美紗(...柚夏、元気になってると良いな)


 先輩に頭を下げてお礼を言う。柚夏もきっと、これで安心して流雨さんの事を好きになれると思うから...。


??「ううん...私がしたくてした事

   だから。...中に居るのは古池様

   だけだけど...、さっきまで一緒に

   居た、よね...?」


美紗「...」


 私は黙って ただ、先輩のその質問に対して...俯くことしか出来なかった。


美紗(...そっか、さっきまで一緒に居たとこ

先輩には見られちゃってるから...)


??「...えっと、...もしかして...

   喧嘩とか...しちゃった?...とか?」


美紗「...うぅ、」


??「えっ!?あっ、ご、ごめん!?

   ...ちょっと、無神経過ぎたかな

   っ!?...その...大丈夫...?」


美紗「...雪音を...、雪音を...怒らせ

   ちゃって...」


??「え...?あの人を...?」


 ...私だって、雪音があんなに怒るなんて思ってなかったから...。


美紗「怖くて...、動けなくて...どうして

   良いか分からなくて...、」


??「....」


??「...怖くて、...仲直りする勇気が

出せない?」


 先輩は困ったような瞳で私の顔を見詰める...。...この人、多分...凄い...いい人なんだろうな...。


...すごい優しい人の、目。


美紗「......。...幻滅、されちゃって...、

   また『お話出来ると良いですね』

   って...」


??「『お話出来ると良いですね』

   かぁ...、」


??「...んー、...それってもう関わら

  ないで欲しいって事...?でもあの

  古池様が本当にそんな事言うかな」


美紗「...嘘じゃ、...ないんです」


 目頭が熱くなって、雫が少し零れてしまう...。


 それを見た先輩は慌てたように手を振ってから、行き場を失った両手で右耳(髪)を撫で始める。


??「えっと、そうじゃなくて...、何か

   それだけ聞いてると別に避けられ

   てる感じに見えないっていうか...」


??「『お話出来ると良いですね』って、

   良い意味でも使うだろうし...、」


美紗「....え?」


 急に雷に撃たれたかのような、


 先輩からそんな衝撃的な一言が私の前に振りかかってきたのだった...。


??「えっと...だから、お話出来ると良いです

   ねってまたお話しましょうって意味

なんじゃないかな...?」


 どうやら、目から出てきたのは涙だけじゃなかったらしい。


...涙と共に鱗もボロボロと落ちてきた。


美紗(....雪音、は)


美紗(私に幻滅した訳、...じゃ...ない?)


 もし仮に...仮に、だよ?...雪音の、...雪音の命令が絶対的な指示で...、...雪音が私に対してそれを試してたら...?


美紗(雪音はまだ私に期待してくれて

   る...?)


美紗(雪音はどうして、困ってる私の

   事助けてくれたの...?)


美紗(嫌ってる私の事なんて無視すれば

   良いのに...、雪音はそれでも

   私に協力してくれた、)


美紗(雪音は私に対してどう思った...?)



→「逃げて当然」

→「恋人なのに動けなかった」



→「逃げて当然」


美紗(...誘拐に会いかけてから、雪音は

   人の事を信頼してない。それは

   勿論、私でさえも)


美紗(それは今までの雪音を見てきたら

   何となく分かる...、、)


美紗(雪音は私というより、自分の予想外

   の事をしたり返しをしたりする人に

   対して興味があった。)


美紗(お金や、利益で行動しない私が

   雪音にとっては不思議だった)


美紗(...だから雪音が想定しない事を

   私は思いっきりする事にした、)


美紗(そうすればこの気持ちをどうにか

   出来ると思ったし、そっちの

   方が楽しくて良いと思ったから、)


美紗(...このまま気まずくなって

   話掛けないまま疎遠になる事を

   雪音は想定してる。)


美紗(その想定さえ覆す事が出来れば

   雪音もまた興味を持ってくれる

かもしれない...、)


美紗(前の私なら多分早々に諦めて

   たけど...やっぱり諦めきれないし

   なぁ...、)


 ふっと、朝乃先輩の海のように深い青色の瞳と目が合う。


美紗(あ、これだ...、)


美紗(...このまま策も無しに謝っても

   許してくれないだろうなぁ...って、

   不安だったけど...!!)


美紗(...これさえ何とか出来れば!!

   ...雪音も、...勝手にキスした事

   許してくれるかも!!)





→「恋人なのに逃げた」


美紗(雪音が怒ってたのは勝手にキスした

   事で...、雪音はそんな可愛い

   性格してないし...。)


美紗(...んー、...あ、)


美紗(...そっか...間違ってた、んだ...。

   私雪音に対して謝る事だけずっと

   考えてて...、)


美紗(雪音の気持ちを

   蔑ろ(ないがしろ)にしてた...、)


美紗(本当に雪音の事を信用してなかった

   のは私の方なのかな...、幻滅された

   って勝手に決め付けて、)


美紗(雪音に嫌われた事がショックで、

   私)


美紗(怒った雪音とお父さんを一緒に

   してたんだ...、そんな事したら

   雪音だって怒るに決まってる...、、)


美紗(雪音が本当に欲しいのは対等な

   立場で話せる面白い...人だから、)


美紗(どっちが上でも。どっちが下でも

   駄目なんだ...、雪音を『手放したく

   ない』っていう感情そのものが)


美紗(雪音が最も嫌ってる感情だから...。)


美紗(...雪音は他の誰の物でもない、

   だから謝るだけ謝ってその後は

   雪音が楽しめる事を考えよう、)








 予想外の事で雪音の機嫌を悪くさせちゃったんなら、逆に予想外の事をして機嫌を取れば良いんだ...っ!!


美紗(雪音の期待を良い意味で裏切るっ、

   それが当たり前っていう常識を、摂理

   を...!!私がその固定概念を撃ち砕い

   てみせる...!!)


美紗(それが今できる、全身全霊の最大の

   誠意!!)


 これは、あれだ...!!かぐや姫の、そう!!無理難題のやつ...!!


 これは...、つまりクリアさせる気の無い課題をクリアしたら、脈あり...!!


美紗(結婚しましょうっ、てやつだ!!)


美紗「私が、竹取の翁になってみせるから...!!

   待っててね!!雪音!!」


美紗(そうと決まれば...、まずは...!!)


美紗「先輩、ありがとうございますっ...!!

   先輩のお陰で目が覚めました、私!!」


??「え?う、うん...芽月さんのお友達が

   元気になったようで良かった?」


 私は先輩の手をガシッと掴んで、真剣な表情で先輩を見詰める。


美紗「先輩、良かったら私と海行きません

   か!?」


美紗(行動、あるのみだよねっ...!!)


※キャプション



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