マジックとファイアーバード【ゆずるう】


??「お帰り〜」


柚夏「ただいま、」


柚夏「って...ん???」


と、靴を脱いで寮の部屋に戻ると何故か師匠が部屋の中で居座っていた。


柚夏(久々に、ただいまって言った気が

   する...。)


柚夏(というか 当然の様に部屋に居るけど、

   不審者だったらどうする気なんだ。

   寮長さん)


...なんか凄いバサバサ動いてるんですけど


師匠「生き物だからね」


柚夏「生き物??」


 白い布の中に被せられた籠の中に入ってるものはもう大体見当はついてるんだけど、なんで寮に連れて来れたんだろう。


柚夏「開けて良いんですか」


師匠「大人しい子だから大丈夫」


と白い布を取った瞬間、翼を広げて籠の周りを飛び立つ鳩。さっきまで凄い大人しかったのにアグレッシブだなぁ


鳩「ポポッポポッ」


師匠「折角だからマジック以外も芸を覚え

   させようと思ってね。先日、飛ぶのが

   早い子を知人から贈って貰ったんだ」


師匠「マジックの大道具って結構お金が

   掛かるからさぁ。」


師匠「鳩レースのために雛から育ててるん

   だけど、それが思ったより大変で...」


師匠「その中でも大人しい子を

   柚夏ちゃんにあげようと思って。」


柚夏「大人しい...?」


めちゃめちゃ飛び回ってるのだけど...


鳩「ポッポー」


柚夏「というか寮で鳩飼って良いん

   ですかね。」


師匠「柚夏ちゃんの事情を話したら

   良いって寮長さんが言ってくれた」


柚夏(なんでさり気なく寮長さんと仲良く

   なってるんだろうこの人...)


師匠「柚夏ちゃんが良かったらだけど、

   育ててみない?餌もちゃんと送るからさ」


と鳥かごに餌と水の入った鳩を貰う。


柚夏「えぇ...鳩の飼い方なんて全然知らないん

   ですけど...」


柚夏「それに、普通にペットをお世話する

   時間もないですし...。」


師匠「普通に水と餌をあげて、鳥籠を定期的に

   洗ってあげれば良いだけだよ。」


師匠「その子は柚夏ちゃんのとっておき

   だからさ」


師匠「それに、マジシャンを名乗るなら

   一匹くらいギンバトを持ってないと」


柚夏「師匠は知らないと思いますけど

   私マジシャンじゃないです。」


師匠「私の家にいるより、飼い主を一人占め

   出来る方がこの子も幸せだと思うし」


師匠「お願いだよ〜。雛のお世話ってほんと

   大変なんだよ〜、他のギンバトにお世話

   させてるんだけどめっちゃ突付かれるし」


鳩「ポッポ」


うーん、鳩かぁ...


と、鳥籠の中で真っ直ぐ私を見つめて首を傾げる鳩。可愛い...、、


 家に慣れたのか 師匠が言う通り本当に大人しくなった。飛び回る事をやめて大人しく羽繕いしてる


柚夏「なんだ...??私の事が好きなのか??」


鳩「ポポッポーポーポポッ」


と上下に身体を揺らす鳩。なんか、見てて飽きないな


柚夏「師匠からの贈り物ですか...。簡単なら、

   飼ってみようかなぁ...。」


師匠「ほんと!?!?助かるよ、レース用の鳩ちゃん

   を貰ったのは良いんだけど鳥がいすぎて

   困ってたんだよね」


師匠「柚夏ちゃんならしっかりしてるし、

   ちゃんと育てられるかなって」


柚夏「もうこれ以上増やさないで下さいよ」


師匠「分かってる、分かってる。行き先の

   宛はあるし血統書付きの子だから」


柚夏「よく譲って貰えましたね」


師匠「その人も多すぎて困ってるみたい」


柚夏「マジックに支障がないレベルにして

   下さいね。あなたのマジックを

   待ってる人は沢山いるんですから」


師匠「分かってるよ。本業はマジシャン

   だからね」


※スライド


 師匠にそう言われて飼ってみたけど、育てて見ると結構可愛い。首を傾げたり外に出したり糞の位置も覚えてくれたし


 肩に乗ってすりすり甘える姿がなんとも可愛らしい。


柚夏「ファイアーバードにしよう。」


柚夏「不死鳥のように長生き出来るように」


柚夏「これからお前の名前はファイアー

   バードだぞ」


鳩「ポッ」


柚夏

「ほら、餌だよ。ファイアーバード。最初は何も分からなかったけど、慣れてくると普通に可愛く思えてくるな」


柚夏「羽が凄く舞うけど...他の動物と違って

   毛は落ちないし、たまに蛇来るけど」


柚夏「よーしよし」


はっと、視線に気付くと師匠が


師匠「良いでしょ。鳩」


柚夏「いるなら普通に返事して下さい///!!、、」


師匠「最初はあれだけぶっきらぼうだった

   のに、ちゃんと育ててくれてるじゃん。」


柚夏「あなたは普通に来られないんですか」


師匠「マジシャンだからね」


柚夏「だからってベランダの上から入って

   来ないで下さい。変な格好の人が壁を

   よじ登ってたら、それこそ通報され

   ますよ」


柚夏「というか普通に入ってきた方が簡単

   だし」


師匠「通報には慣れてるから大丈夫b」


柚夏「何も大丈夫じゃないんだよなぁ...」


師匠

「それで今日来たのは、近いうちに大きな

サーカスの公演があるんだけど」


師匠「柚夏ちゃんに是非助っ人として来て

   欲しくてさ。勿論給料は弾(はず)む

   から」


柚夏「師匠の頼みなら、別に良いですけど...」


師匠「これが俗に言うツンデレ」


柚夏「一緒に行くのやめますよ」


師匠「あー、なしなし。今のなし」


師匠「本番は仮面を使ってするんだけど」


柚夏「仮面を使ってする??なんだか劇団

   みたいですね。」


師匠「マジックにはそういう雰囲気が

   大事なんだよ」


柚夏「はぁ...」


師匠「はい、これ柚夏ちゃんの仮面」


 とまるで狼にも見える長い角張った耳をした仮面を貰う。なんか師匠には貰ってばかりだな...


師匠「あのお友達にはチケットで誘ってね。」


柚夏「いや、あの...彼女。お友達じゃなくて...

恋人なんです」


師匠「わぁお。大胆発言」


師匠「友達じゃなくて恋人だったかぁ」


師匠「今の時代は女性同士の結婚は難しい

   けど、いつか近いうちにきっと

   出来るよ」


師匠「私達はひと時の魔法を見せる存在。」


師匠「だからこそ、柚夏ちゃんのその願いが

   叶うよう願ってる。私達もう家族

   だしね」


師匠「だから、ちょっと寂しいけど」


師匠「生涯を知人と過ごすのも

   悪くないかもね」


師匠「まぁ、恋人がいろうがいなかろうが

   柚夏ちゃん家には入ってくるけど」


柚夏「入ってこないで下さい」


柚夏「特に裏口からは、変な人だと思われる

   ので」


師匠「人生難しいと思うから難しいんだよ。

   特に若い頃はね」


柚夏「答えになってません」


※キャプション


 そして、サーカスの本番当日。11月下旬。そろそろ冬服が必要になってくる季節


 ライオンの火の輪くぐりや、二人揃っての空中ブランコ、大きな光るヨーヨーみたいな道具を使ってのパフォーマンスなど


皆さん色々準備してる...。


柚夏(練習は凄いしたけど、やっぱり

   すごい緊張するなぁ...、、)


柚夏(次は私が皆に夢を与える番なんだ...。)


 大きなテントの中、如何にもサーカスというステージの上で私はちゃんとやっていけるのだろうか


FB「ポッポ」


柚夏「お前はいつも気楽そうで良いな。

   今から大きな公演で発表するの分かって

   るのか??」


そうするとくるんくるんと翼を広げて2回バク転するファイアーバード。


柚夏「え、お前そんな事出来たの」


柚夏「そういうのは公演前に覚えないでよ」


柚夏「私何も教えてないよ」


 師匠から借りたもう一匹のムネちゃんもはっ!?って顔してるじゃん


師匠「準備は良いね、さぁ行こう」


柚夏「あ、はいっ」


 流雨には公演が始まるまでの間お店を見て回ってもらってるけど、大丈夫かな...迷子になったりしてないかな。


柚夏(あ、ちゃんと見てくれてる...)


師匠

「大変お待たせしました、レディース&ジェントルマン。今宵はお楽しみ頂けましたでしょうか」


 と両手を広げながら颯爽と登場する師匠。師匠のよくやる帽子をとった挨拶からのシルクハットから勢いよく飛び出す連なった旗やカード


 空を飛びながらの大演出に観客の声援が盛り上がる。


柚夏(...あの人、こんな事も出来たんだ。此処に

   居ると師匠の服も普通の格好に見えて

   くるな...)


 今日はミミちゃんもいて。ミミちゃん主役の奇跡の脱出マジックや鳩の飛び方などは流石はプロ。


いつも見てるマジックと違って見栄えが違う


 私はその助手なんだけど、二人いるせいかやっぱり反応が凄く良い。そして観客の中から一人選んで薔薇を贈る師匠。


 二本の指でカードを使ってリンゴをスパンっと刺したり、仮面のせいなのか兎に角今日の師匠は普段とは違って格好良く見える


 ギンバトが上から観客にカーネーションを落とすシーンは特に盛り上がった。


わーーー、、という喜びの拍手と歓声が広がる。最後に2匹の鳩が私の手から飛び出してその日の開演は無事終わった。


 そうして私達は会釈をして、カーテンコールの中消えていく


柚夏「サーカスだとやっぱり人が多いですね」


柚夏「それにしても、凄い歓声でしたね。

   はぁ...、失敗しなくて良かったぁ...」


FB「ポッポ」


柚夏「ファイアーバード、そうだね。

   流雨が見に来てくれたのにこんな

   弱気じゃ駄目だよね」


柚夏「まずは上手くいった事を喜ぼう。」


すりすりとそういって擦り寄るファイアーバード。


柚夏「観客っていつもこんなに多いんですか??」


師匠「いや、いつもより大分多いよ。若い

   イケメン助手が来るってツテでめっちゃ

   宣伝しといたから」


師匠「折角の柚夏ちゃんの晴れ舞台だしね。

   教頭先生にも宣伝しといたよ」


若いお客さんが多かったのはそのせいか


師匠「ついでに校長先生に頼んで柚夏ちゃんの

   学校にも貼ってもらった。」


柚夏「あなたって人は...」


師匠「新聞部の人が水を得た魚のように

   広めてたよ」


柚夏「学校に行きたくない...、、行くけど」


 中学校の教頭先生には中学生の頃、師匠を紹介してくれたり色んな事を手伝って貰った恩がある。中学の時に大変お世話になった先生だ


 教科書やご飯代など工面してくれた人だから。この学校の推薦とかもお金がない私の代わりに

「出世払い」と言って


全部教頭先生が携わってくれた。私にとって頭のあがらない人だ。


柚夏(うわぁ、久々に会うのドキドキする...)


柚夏「どうでしたか」


教頭先生「とても素晴らしかったよ。

     成長したね。柚夏さん」


FB「ポッポポッポッポ」


柚夏「どうしたのファイアーバード」


教頭先生「はっはっ、嫉妬かな。というか

     ファイアーバードって」


柚夏「長生きして欲しいので火の鳥です。」


教頭先生「よく懐いていますね」


夏夏「一人暮らしで寂しいので。よく話し

   掛けてるんですよ」


流雨「一人暮らし??」


柚夏「流雨。お父さんは今別の所に住んでて、

   お母さんの実家に住んでるんだよ。

   寮と実家を行き来してる」


柚夏「お父さんは別の人と過ごしてるらしい

   けど。今どうなってるかは知らない」


流雨「私がいる...。高校生で一人は大変...」


柚夏「確かに大変だけど。それでも良かった

   と思うよ」


柚夏「お父さんと新しいお嫁さんと一緒とか

   地獄でしかないから。」


柚夏「そこは親がお金持ちで良かったなぁと

   思う」


流雨「今日の柚夏凄かった。仮面とか付けて

   凄く格好良かったよ」


柚夏「ありがとう。お給料ももらえるし、

   たまにはこういうのも良いかもね」


師匠「たまにどころじゃなくて、開演の度

  (たび)に来て欲しいくらい」


教頭先生「それは柚夏さんが決める事ですよ」


流雨「顔つきも変わったよね。鳩を飼った

   からなのか分からないけど、前より

   明るくなった気がする」


柚夏「そう...??」


柚夏「この子もこんなに芸を覚えくれるから、

   私も頑張らなきゃなって」


と、またバク転をするファイアーバード。


柚夏「テンション上がると見せびらかすように

   するんですよ」


師匠「ねぇ本当にもっと来てくれない??

   お給料弾(はず)むから」


師匠「それも立派な芸だよ。私達の子そんな

   事しないもん」


師匠「可愛いし、これはウケるかも」


師匠「Iチューブで投稿しよ」


 と言った瞬間とことこと歩いてやめるファイアーバード。回り疲れたのかな


教頭先生「それにしても今日は凄い人数で

     凄かったですね」


柚夏「そんなに凄かったんですか。集客数」


師匠「凄いも何も、柚夏ちゃん可愛いから

   ブロマイドとかめっちゃ売れそう」


師匠「後で売っとくから見に来てよ」


柚夏「ほんとこの人達は人に相談せずすぐ

   売るな...」


師匠「だって、話したら柚夏ちゃん駄目って

   言われるかもしれないから。駄目って

   言われない限り良いかなって」


柚夏「良いかなって」


師匠「儲かるよ??」


柚夏「本当にお金のことしか考えてない

   ですね」


師匠「でも、いるでしょ??お金」


柚夏「まぁ...いりますけど」


師匠「はい、今回の御駄賃」


師匠「それでクリスマスのプレゼントに

   何か買ってあげな」


柚夏「余計なお世話です。でも、ありがとう

   ございます。」


師匠「またいつでも舞台に上がりたく

   なったら言ってよ。また誘いに来る

   からさ」


※キャプション

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る