⑮雪音の夢野編~序章~【みさゆき】


 光輝く門を抜けると、そこは...


 美術の教科書とか映画とかで一度は見たことあるくらい超巨大、かつメジャーな大都市...


美紗「わぁ...、」


 ピザとかトマトで有名なあの国の首都、ローマの美しい町並みが目の前に広がっていた。


美紗(まさかの外国...、)


美紗「.....、」


美紗(言葉通じるかな。)


門番さん『今から行く世界では絶対に

     死んではいけません』


美紗(って、門番さんが言ってたから)


美紗(できるだけ目立つ行動は

   避けた方が、良いんだろうけど...)


 凱旋パレードみたいに広い道の真ん中で歩いてる人達に、白い大きな日傘の下 スーツ姿で何か真剣に話をしてる人...。


 目に入ってくる景色はどれもロードショーで見たような日本とは全く違った文化で、


 神殿のような格式ある建物がずらっと並ぶ光景は街全体がもはや『芸術』そのものっていうか...


美紗(外国に来てまで住もうとは

   思わないけど、こういうお洒落な

   お家は憧れるよね...、)


 それほどまでに美しすぎる町並みは まるで自分が別の世界に迷いこんでしまったかような錯覚さえ起こってしまう程だった。


美紗(錯覚、っていうか普通に別世界

   から来てる訳なんだけど...)


 どんなに景色が綺麗でもそこに共感できる人がいなければ、感動はすぐに薄れてく。


 前まではそれが当たり前だったけど...


美紗「門番さんもこんな感じだった

   のかな。」


美紗(...流石に一人だとちょっと

   はしゃぎにくいけど、いつか雪音

   とこういうところに行けたらいいな。)


美紗(本場のジェラートとか、

   二人で違うの選んで食べあいっこ

   するのもいいし。同じのを選ぶ

   のも良いし...) 


美紗(んー、食べ物の事考えてたら、

何か食べたくなってきちゃった。

   良いお店ないかなー...)


 お店の名前とか、書かれてる文字は全然読めないけど(スペルが微妙に分かるくらい)


 何故か書いてある事はなんとなく分かる。


美紗(一応文字は分かるみたい

   だけど...でも、どう考えても

   ここ日本じゃないよね?)


美紗(スマホがないから。お店を捜すのは

   手探りになっちゃうけど、人はい

   るから困ったら誰かに聞けばいい

   かな。)


※スライド


美紗「....」


美紗「........んー、」


美紗「...おかしいなぁ、そろそろ

   何かあっても可笑しくない

   はずなんだけど。」


 お腹が空いたから何か食べたかったのに...、


 歩いても歩いても、食べ物の匂いどころか、食べ物が描かれた看板さえ見つからない。


美紗「結構、歩いたんだけど...食べ物屋さん

   無さすぎじゃない...?」


美紗「観光としてやってける...?」


美紗(というか。これだけ距離あるのに

   飲み物屋さんすら見つからない

   って...、)


美紗(周りも、よく見たら図書館とか

   本屋さんばっかだし...。)


美紗「やっぱりこの街...なんか、変だよ、」


 あまりにも娯楽が無さすぎる。此処まで距離があるなら飲み物屋さんも絶対儲かるはずなのに...、


美紗「ふぅ...。ベンチとか休憩する

   場所はちゃんと揃ってるんだけ

   どなぁ...、」


美紗「美術館とか役所とか、公共機関に

   お金掛けすぎて建てられなかっ

   たとか?」


美紗(...どっちにしても、この世界は

   現実にはない世界なんだろうなぁ...。)


美紗(でも、此処まで折角来たなら何か

   食べて帰りたい...、)


美紗「...あっ、」


美紗「美術館の中なら売店とか自販機

   とか普通にあるよね、何で今まで

   気付かなかったんだろ、」


美紗(寧ろなかったらどこにあるのって

   話だけど)


 そうと決まれば美術館目指して、今すぐレッツラゴー!!


??「学生さん?」


...って、思ったところで隣から声を掛けられた。


美紗(もー、いいとこだったのに、)


美紗「って...、あっ。」


晴華「休みなのにこんなとこ

   まで来て偉いね。」


晴華「喉が渇いてるなら、公共施設の

   水を飲むと良いよ。」


美紗「晴華さん、」


晴華「ん?」


晴華「あぁ、私の事知ってる人かな?

   オフだけど気にしないで、

   困ってるように見えたから、」


美紗(あ、いつものノリで話しちゃった

   けど...もしかしてこの世界の晴華

   さん、私の事知らない...?)


晴華「んー...。でも学生さんでしょ?

   会う機会なんて殆んどないと思う

   し...、どこかで会ったかな...?」


美紗「あー...、」


美紗「最近この国に来たばかりで。

   その、私の知り合いと凄い

   顔が似てたので...。」


晴華「その人も晴華って言うんだ。

   私と同じ名前、」


美紗(なんか普段の晴華さんよりぐい

   ぐい来る...、)


美紗「この街って、観光施設とかはないん

   ですか?」


晴華「観光施設...?」


美紗(もしかして存在自体ない...?)


美紗「いや、私食べるのが好きで。飲食

   店をさっきからずっと捜してたん

   ですけど...」


美紗「なかなか見つからなくて...。」


晴華「え、知らないの?」


晴華「今は皆家の中で食べるのが当たり

   前だよ。最近制度が変わったから、」


美紗「"制度"が変わった...?」


晴華「観光客の人には悪いけど、あの人

   達来ると。ほら、ゴミとかさ...」


晴華「無断で捨てちゃう人多いでしょ?」


晴華「文化が違うのは仕方ないけど...、

   その度に私達がごみ拾いしなく

   ちゃいけなくて...。」


晴華「なんで外から来た人のゴミを私達が

   掃除しなきゃいけないの?って」


晴華「皆ずっと不満に思ってたんだけど、」


晴華「車からゴミ捨てたりね。」


晴華「それを知った"椿様"が法律を

   変えて下さって。」


美紗(雪音のお母さん...?)


晴華「飲食店とかコンビニ、娯楽施設全般を

   封鎖して。より良い環境の街作りの

   一環として」


晴華「"常識ある著名人"とか"汚いのが嫌いな

   貴族の人"とか"自然を心から愛する人"

   しか」


晴華「この街に住めないっていう法律を

   作ったの。観光は誰でも来れるん

   だけどね」


晴華「貴族の人がどうしても一般人と

   住むのが嫌で、街から追い出された人

   もいるみたいだけど」


晴華「前と違ってゴミはないし」


晴華「ゴミを捨てるような"非常識"な人

   もこの街には来たがらない」


晴華「"何もない"からね」


晴華「それに地球温暖化にも貢献

   出来るでしょ?」


晴華「制度が決まってから この街も

   本当に綺麗になったし、」


晴華「今では 誰もが住みたい

   『理想の街』なんて

   呼ばれてるんだよ。」


晴華「貴族じゃない人は娯楽もない

   から勝手に出てくし、私達は娯楽

   施設なんてすぐ作れるから」


晴華「防音で家の中なら法律上問題

   ないしね。誰にも迷惑かけないし」


美紗「...そうなんですか、」


美紗(という事は、やっぱり美術館にも

   売店はないのかな...。)


美紗「それでも残りたいって人はどう

   するんですか?」


晴華「勝手に出ていったから私達は

   分からないけど、物価の安い街

   に移動したんじゃないかな」


晴華「あの人達にはお金がないし。此処

   の税金も払えないよね...、でも

   この街に来たいって人は結構いる

   から、」


晴華「土地が開いて 次はどんなマ

   ンションが立つのかなーって」


晴華「皆それぐらいしか考えてないと思う

   よ?」


美紗(でもそれって...、お金持ち

   以外の人に大分恨まれない?)


 雪音のお母さんはもっと打算的だし、


 街全体にカメラを仕掛けてゴミを捨てた人をCMみたいなノリでテレビ放送するぐらいのがまだ"現実味"がある。


 雪音のお母さんだから、一部にヘイトが集まるような事をするとは思えないんだけど...


美紗(お金持ちの税金だけで国が成り立つの

   かな。)


美紗「此処は"お金持ちの国"なんですね」


晴華「中央だけだけどね。」


晴華「それでも医療を受けたい人とか、

   本が好きな人なんかはよくこの街に

   来るよ。」


晴華「学生さんとか、参考書は

   腐るほどあるから。今は絶版中の

   本もここではあったりするし」


美紗(確かにハロウィンの後とか掃除

   しない人がいて、大変な街がある

   ってニュースで見た事あるけど...)


美紗(でも、今まで住んでた人を追い出して   

   まで作る"理想の街"って...。本当に

   『理想の街』って言えるのかな...)


晴華「あっ、雪音様、」


美紗「えっ、どこっ、」


晴華「この国を作った女王様だよ、

   頭下げて、」


 そういって頭を下げる晴華さん。私もみよう見真似で頭を下げる、


雪音「.....。」


晴華「凄い綺麗だよね♥、才色兼備で

   神童とも呼ばれる凄い人だよ。」


晴華「全世界の女の子の憧れ みたいな」


 雪音が女王様っていうのも驚きだけど、それより


今、この国を作ったって...、


美紗(この国を作ったのが 雪音...?)


どこかの貴族

「女王様の前でゴーレムを倒せたら、

 女王様と婚約出来るという話

 は本当なのですね?」


??《それは、私としても初耳

   ですが...。》


美紗「え、」


晴華「どうしました?」


美紗(ん"ん...??)


 なんか、某ゲームの亜人キャラが動物に変身した時の声みたいな 二重音のくぐもった声で雪音の声が聞こえる...。


美紗(...結構、横暴な事言われ

   てるけど 反応それだけ...?)


美紗(というか...ゴーレム?)


 雪音が凄い真剣な顔でゴーレムとか言うともう違和感しかない。というか、それより...


美紗(なんで私、雪音の心の声が聞こえ  

   てるの...?)


 隣の晴華さんはきょとんとした顔でこっち見てるし、


美紗(聞こえてるのは私だけ?)


雪音「宝箱さえ開いて頂ければ

   王妃様もあなたの願いをきっと

   聞き受けて下さる事でしょう」


雪音「例えそれが私の婚姻だとしても。

   王妃様が望めば私はそれを

   受け入れます」


雪音《この者がゴーレムを倒せるとは

   到底思えませんが...椿様の決めた

   婚約相手がまた重なるというだけの

   話。》


雪音《そもそも婚約というものに対して

   あまり興味もないのですがね》


美紗(門番さんが、サポートしてくれるって...

   もしかして、これの事...?)


美紗(...いや、まぁありがたいと言っち

   ゃ...ありがたいんだけど)


美紗(...えぇっ、)


美紗(門番さん的にこれは良いの...?

   雪音の心の声、凄いだだもれ

   だけど...)


 ん"ん...、まぁ私の知ってる雪音とそんな変わらないから大丈夫なのかな。


大丈夫、だよね...?


 ...世界は違っても雪音は私の知ってる雪音でちょっと安心したかも


美紗(相手の頭の中で考えた事

   が聞こえるって...、私だったら

   すごい嫌だなぁ...。)


美紗(取り敢えずこの事は雪音に

   気づかれようにしないと...、)


晴華「あ、そっちは」


晴華「椿様の領地...美術館は

その隣...」


美紗(という事は、私は本人の目の前で

   不法侵入してるって事だけど、)


美紗「知らなかったんですっ!!、、」


雪音「貴女も"挑戦者"ですか?」


美紗「へっ!?、えっ...、いや...?、」


雪音《身形(みなり)から考えてルネミア学園

   の生徒でしょうか》


雪音《学校も近いですし、美術館と間違え

   たと考えるのが妥当でしょうか》


美紗(学校も同じ名前...)


美紗「.....、」


 もしかしたら、なんて...思ったけど。


 やっぱりこの世界の雪音も私の事を知らない。本当の雪音を知ってるのは私だけで、この世界には私のことを知ってる人はいないんだ...


雪音「....。」


 返事がない違和感を感じた顔に、初めて会ったときのようにどこか遠い眼をした黄金の瞳...、


 もう...それだけで。


美紗(...私が一方的に雪音を

   知ってるだけで、)


 この世界の雪音からすれば...私は全く知らない見ず知らずの人なんだなって、そう気付くには充分過ぎる程だった。


雪音「此処は椿様の領地です。関係者

   以外は立ち入り禁止となって

   います。どうかお引き取りを」


美紗「...すみませんでした。」


 あくまでこの国は、雪音が女王で。私はこの街に迷い混んでしまったただの旅人でしかない。


雪音「そちらの方は知り合いですか?」


美紗「あ、いえ、...この人は」


晴華「私は、ただ道案内をしてた

   だけなので...!!」


晴華「仕事の方がありますので、すみま

   せん、失礼しますーっ!!」


 雪音の言葉を聞くと同時に、晴華さんは逃げるように祈りのポーズを残してから頭を下げて去ってく。


 ...いや、私も悪いけど、、さっきまであんな親しげに話してたのに...。晴華さんが凄い現金な人みたいになってる...。


美紗(私が知ってる晴華さんはそういう

   の凄い嫌がりそうだけど...、)


 むしろ残って説明するまである。


 もしかしてこの世界、中の人の性格が逆になってたりするのかな...?


雪音《それにしても...この辺りは銃を構えた

   ガードマンが沢山いるので》


雪音《まず誰も入って来ようと思わない

   はずなのですが...》


美紗(さっきの祈りのポーズそれ

   か!!!!!)


美紗「ご、ごめんなさい...私この国

   に来たばかりでこの国の事、

   全然知らなかったんです!!」


美紗「すぐ出ていきますのでっ...!!」


 急いで向こう側に戻ろうとすると


雪音「お待ちなさい。」


と、止められる。


美紗「....、」


美紗「パン、フレット...?」


雪音「此処に足を踏み入れるという事は

   この辺りの土地の事もあまり

   ご存知ではないのでしょう?」


雪音「此方のパンフレットを差し上げます。

   少しでも多くの方にこの街を

   好きになっていただますよう」


雪音「もっと別の方法も考えなくては

   いけませんが、分かりやすい

   とは思いますので」


雪音何も無いよりは便利かと


美紗「...ありがとうございます、」


美紗「携帯も何もなくて本当に困って

   たので、これがあるだけでも

   全然、違うと思います。」


 私の事を知らなくても、やっぱりこの人は私の知ってる雪音なんだなって。


 王女様の雪音はパンフレットを開いて場所を親切に教えてくれる。


雪音「ルネミア学園は此方ですね。

   ...確かにこの辺りは道も複雑で

   分かりづらいですから、」


雪音《やはり、もっと可愛いデザインの

   方が親しみやすかったでしょうか?》


雪音「間違えてしまうのも無理はあり

   ません。最近物騒な事件も増えて

   いますのでお気を付けて」


雪音《万人受けするデザインというと、

   どうしてもこのような形になりがち

   なんですよね》


雪音《シンプル過ぎると それはそれで

   "何もない街"だと思われますし...》


雪音学生の相手はやはり難しいですね...。


美紗「すみません...、なんか...

   色々ありがとうございます...。」


美紗(そういえば前、同級生と話が合わない

   みたいな事言ってたっけ)


雪音《それにしても懐かしい...、

   ルネミア学園。一年の間しか

   通えませんでしたが...》


雪音《私はあの場所で凄く大切な物を

   学ぶ事が出来た、あの学園に通う

   理由もよく分かります。》


雪音私だって"通える物"でしたら...


雪音《いえ...、これは椿様の

   御意志...。私が口を挟むなど...。》


雪音《こんな広い神殿に住めて幸せ

   ではないですか》


雪音《何不自由ない専属の家庭教師

   に豪華な食事...不満な事など

   どこにもないはず。》


雪音《...椿様が居なければ

   私は存在すらしていないのですから、》


??《 "Mウ_遅X-<" 》

→もう遅い※ゲームでは翻訳なし


美紗「っ...、」


美紗(何、このノイズ...、)


??《...Ano悔u時、無不可理Sテda モ

  molッt 通っ留0学バ、良居/ッ タ。》

  →あの時、無理してでも

   もっと通っておけば、良かった。

  (後悔、不可能(出来ない)、

   留まりたい、学びたい、居たかった

   という感情がごちゃごちゃに混ざってる)

   バグ未来語です。


美紗「良いんですか...?勝手に結婚を決め

   られちゃって...」


雪音「...」


雪音妙な事を聞く方ですね...。


雪音「先程のお話を聞かれていたのですか」


雪音《...盗み聞きとは感心いたし

ませんね。それとも、向こうの声が

   それほど大きかったか...》


雪音「良いかどうかと言われましても。」


雪音「...后様があの方を気にいったの

ならば、私はその御心に従います。」


雪音「愛する人がいなければ、両親が

   決めた婚約者としても同じこと」


雪音「今の私があるのは椿方のお陰

   と言っても過言ではありません。」


雪音「そこに私の意思など必要あります

   でしょうか?」


美紗「.....。」


雪音《このままでいる事が国民に  

   とっても 椿様にとっても

   "良いこと"なのです》


雪音《"不幸"を"不幸"と思えない人間だから

   こそ 私がその役を担うのが道理

   という物でしょう。》


雪音《そこに"良い"も"悪い"もありません。

   それこそが私の使命ですから、》


美紗「でも、やっぱり自分で決められない

   のは不幸だよ。」


雪音「不幸...?」


??《止不幸、私ハ失... "大%命物"...》

  →止められない不幸。私は失った。

   (命より)大切な物を


??《 "Sウ、私ハ 守→R_ナ#っタ" 》

  →そう、私は守れなかった


??《何#VALUE》→何で


??《#VALUE 何/、》→それは何、


美紗(ッ、また...、この声ッ...、)


美紗(雪音にはこの呪文(ルビ:ノイズ)みたいな、、この世のありとあらゆる雑音が混ざった嫌(や)な 不快な音が、聞こえ、ないの...?)


雪音「この国の女王である私がただの学生よりも

   不幸と仰るのですか?」


美紗「少なくとも私は不幸だって思い

   ます、」


美紗「..."自由のない"生活なんて。」


雪音「......。」


雪音《...案外、こうやって自分の意見を

   通せる方の方が女王には向いて

   いるのかもしれませんね。》


美紗(やっと、鳴りやんだ...)


美紗(雪音の心の声が聞こえるデメリットとか...?)


雪音《こういう方が作った政治の方が

   以外と、国民の支持率は高かった

   りしますし、》


雪音《最終的には己が利に走ったりする

   事も少なくはないのですが...》


雪音どちらにせよ...、


雪音「后様はあの箱の中身を所望して

   います。我々は早急にあの宝箱を

   開けなければなりません。」


雪音「開けば願いが何でも叶う

   宝箱...、后様はその宝箱の中身を

   何としても欲しているのです。」


美紗「本当に何でも願いが叶うの?」


雪音「...椿様がそう仰えばそうなの

   でしょう。お金でしたら后様が

   幾らでも支払うと、国をあげて」


雪音「そのように仰っていますから。」


雪音《...数多の挑戦者が挑み、傷一つ

   付けられないゴーレムが守るとさ

   れている宝箱。》


雪音《突如現れたゴーレムに、謎の

   宝箱の存在...課題は山積みだと

   いうのに...》


雪音《椿様は何故、あのような法律を

   作ったのでしょう...。》


雪音《あの者が開けられるとは

   思いませんが、そろそろ約束の

   場所に行かねばなりません...。》


雪音「...急いでいますので、

   お先に失礼します。」


 ビアンカに似た白馬が来たかと思うと、本当に急いでいるのか雪音は上に乗って風のように駆け抜けていった...。


美紗(すご...、)


※スライド

 

 発砲される前に急いで領地を出て、取り敢えず...雪音から貰ったパンフレットを見ながら何処か休めるとこを捜す。


美紗(学校の場所も教えて貰ったけど、

そもそも私ここの生徒でも

   何でもないし...。)


 学校に行っても良いんだけど、もし私がこの世界でここの生徒じゃなかったら色々と困りそうな気がする。


 あんまり悪目立ちもしたくないし...、


美紗(というか隣街の方が色々楽しそう

   ...、この街から一歩出たらジェラ

   ートも売ってるみたいだし。)


美紗(この世界の雪音には悪いけど、

   ちょっとなら 隣街を覗いちゃっても

   良いよね?)


美紗(学校よりも絶対そっちのが楽しそう

   だし、隣街の視察もこめてレッ

   ツゴーっ!!)


 バスに乗って 隣街の近くの駅まで行く。幸運にもすぐそこに隣街へと行くバスが停まってたから、私はすぐに乗った。


美紗(パンフレットに書いてる通り、

   本当に交通機関も全部無料なんだ)


美紗(...でも、こうやって見ると本当に

   綺麗な街だな...。)


 図書館だらけの町から出るってだけでこんなテンションあがるのも不思議だけど...本当に、時と場合だよね。


美紗(本を読むのは別にそんな嫌いじゃない

   けど私は花より団子だなぁ、)


美紗(流石に飲食店が一個もないのは

   ないけど、『理想の街』っていうより、

   『綺麗過ぎる街』だよね。食品とか

   どうしてるんだろ)


 次は何処に行こっかなーと パンフレットを見ながら行き先を決める。


美紗(なんか此処見た目だけはローマ

   っぽいし、折角だからピザ食べ

   たいなぁ...。)


美紗(...でも。雪音から貰ったパンフレット

   ちゃんと隣街の事も書かれてるんだね)


美紗(雪音はいうほど隣街の事嫌ってなかった

   りするのかな...)


 でも、そんな事を国民が知るはずもない。晴華さんがいってたこの国の王妃様が新しく制度を作ったって言ってたけど...。


美紗(それを聞いて雪音はどう思った

   んだろう...。)


縁蛇「ねぇ、ねぇ。聞きましたか?」


雀「聞いたって。あの噂?」


縁蛇「王妃様がこの街を封鎖するって

   話ですよ、」


美紗(あれ、縁蛇さんは普通だ...)


雀「なんかその噂最近流行ってるよね。

  案外本当の事だったりして」


雀「火のない所に煙は立たないって言うし」


縁蛇「またデモが"怒りそう"ですね、

   "起こりそう"だけに!!」


縁蛇「...なんか突っ込んで下さいよっ!!

   縁蛇が滑ったみたいじゃない

   ですかーーっ!!」


雀「いや、普通に上手かったから...」


運転手さん『次は隣街~、隣街~』


美紗「あ、降りまーす!!」


 ブシュッ、とバスは音を発して走っていく。


美紗(此処が隣街...、)


 さっきと全然違って何処かしらも美味しそうなお店が開いてる、


 ...多分あの街にない分こっちにいっぱいお店が傾いちゃったんだろうなぁ...。こっちは寧ろ娯楽施設ばっかり


 ゴミ捨て禁止の看板が至る所にある。ちょっとありすぎな気もするけど...、そうでもしないとゴミが勝手に捨てられるんだろう


柚夏「だからさぁ...、あの街には自由

   ってもんがないわけっ!!」


雨宮先輩「あ~、分かった分かった。

     取り敢えず落ち着こうよ、」


柚夏「そっちは金持ちだから良いよね」


柚夏「税金高すぎ、家賃高すぎ、物価

   高すぎ!!貧乏人は飢えて●ね

   ってか!!」


雨宮先輩「でも一応、救済措置はある

     じゃん?」


柚夏「あんなん女王がデモを抑えるため   

   に流しただけでしょ。」


雨宮先輩「まぁまぁ、そんな怒鳴って

     ばっかいると此処のお客さん

     減っても知んないよー?」


柚夏「どうせ此処の客は料理目当てな

   人しか来てないし、良いんだよ

   別に。」


雨宮先輩「マスター料理だけは上手い

     しね、」


柚夏「お客さん来たから。」


美紗(柚夏と雨宮先輩...?なんでこんな

   とこに、っというか別人なんだ

   っけ...、)


美紗「こんにちは、」


雨宮先輩「こんにちは。可愛い子だねー、」


柚夏「当店ではセクハラは禁止

   となっています。」


雨宮先輩「分かってるよー、可愛い子に

    可愛いっていうくらい良いじゃ

    ん。別に何もしないし、」


柚夏「何かする奴が決まってそう言う

   んだよ。お客様は私が守ります

   のでごゆっくりどうぞ、」


柚夏「注文、どうします?」


美紗「ピザで!!」


柚夏「ご注文承(うけたまわ)りました。作る

   までちょっとお時間頂きます、」


美紗(あるんだ...。)


美紗(でも柚夏のピザなら絶対はずれ

   ないよね、出来るのが楽しみ

   だなぁ...///)


美紗(...はぁ。...やっと何か食べられる

   ーっ!!)


雨宮先輩「もしかして、隣街から来た人?」


美紗「なんで分かったんですか?」


雨宮先輩「そんなお腹空いてますって

     顔されてちゃね。あそこって

     本当に何もないでしょ?」


雨宮先輩「元住民として恥ずかしい

     限りだけどね、」


美紗「さっき話してた救済処置って

   何ですか?」


雨宮先輩「あぁ、」


雨宮先輩「ほら、新聞にも書いてある

     ゴーレム討伐の話。勝ったら

     一億円が国から降りるんだ

     よ。」


雨宮先輩「まぁ、今までゴーレムに

     勝った人なんていないんだ

     けどね」


雨宮先輩「僕もまぁ、少しはお金がある

     からさ。何度も挑戦したんだ

     けど...ぜーんぜん駄目、」


雨宮先輩「剣は勿論、銃も利かない、

     火炎放射器も駄目。ほんと

     開くのあれ、って感じで

     ね...。」


柚夏「ほんとそっちも諦めないよね。」


雨宮先輩「宝くじなんかよりは、まだ

     よっぽど望みがある

     と思うよ?」


雨宮先輩「確率的にもね。」


柚夏「此処に来るお客さんも言ってたよ」


柚夏「実は国の資産でゴーレムを作って

   て、お金目当てで近寄ってくる奴を

   選別してるんじゃないかって。」


柚夏「強い人はボディーガードとかに

   するんじゃない?」


雨宮先輩「うわー...ありそう、でも国が

   作った奴でも壊せばお金はちゃん

   と貰えるでしょ?」


柚夏「分かんないよ?壊した人を拉致して

   壊さなかった事になんていくら

   でも出来るだろうし。」


雨宮先輩「マスターには夢がないなぁ。

     そんなんだから彼女に逃げられるん

     だよ」


柚夏「夢だけじゃ食べてけないから

   ね、というか仲直りしたから」


柚夏「私は女王様の遊びに付き合っている

   ほど暇じゃないし、普通に働くよ。」


雨宮先輩「僕はお金が稼げればどっち

     でもいいんだけどね、」


柚夏「装備代もただじゃないでしょう

   に」


美紗(当たり前だけど、想像以上に

   雪音は嫌われてるみたい...。話し

   てみれば良い人だって分かるん

   だけど...)


柚夏「はい、これ。マルゲリータだ

   よ。ジュースは此処まで来た

   おまけ」


美紗「え、良いんですか?」


柚夏「あー、良いよ。良いよ、」


柚夏「さっき隣街から来たって言って

   たでしょ?あそこだと何も食べれ    

   なかったと思うし」


美紗「あなたが神か...、」


柚夏「大袈裟だよ、」


美紗「ん"~~っ///」


美紗「良い匂いっ~...♥、」


 もし性格が逆で料理が凄い下手だったらどうしようって、思ったけど...!!


美紗「美味しいぃっ〜////、、、」


 マスターをやってるだけあって、この世界の柚夏も料理は大得意なようで安心しかない。


 読みが外れてこんなに良かったって思う事はなかった、


柚夏「ピザには二種類あってイタリア

   発祥で生地の薄い方がピッツァ、

   アメリカ発祥で厚い方がピザ。」


柚夏「私はこっちのが好みだから。一応

   ピッツァを作ってみたんだけど

   お一人様みたいだし...」


柚夏「こっちで良かったかな?」


美紗「そっちのが好みなんで!!」


柚夏「はは...、なら良かった、」


 口に入れるだけで涎が出てきて、あー、チーズの美味しそうな匂いと生地の薄さが私の好み過ぎて、...ヤバい。


美紗「うま!!、はむっ、」


 カリッ、と...。生地にいれた歯がさくっと進んで...、また進むっ、幸せだ。


これが...、幸せなんだ...。


美紗「はふっ、はふ、」


熱いけど、美味しい餃子の皮にも似たパリパリの食感が私の胸を踊らせる。


美紗(なんて、美味しいの...、)


 何も食べてなかったから...感動がまるで海の波のように押し寄せてくる...。


 感動だ...、感動しかない。本当に、本当に美味しいかったから...


美紗「ッ、ふっ、ぐぅ...っ、...ッく、」


柚夏「ま、不味かった!?」


美紗「...ち、がっ、」


美紗「...ッ、凄、い...美味しくて、私、

   幸せ、で...。」


 いつもの柚夏の味で安心して涙が出てきちゃった、だって顔が同じなのに皆私の事知らないんだもん、うぅ...、


柚夏「あんたも色々苦労した

   んだな...、よし!!もう一品違う

   料理もサービスするか!!」


美紗「...ッ、う"ぅっ...、」


美紗(というかよく考えたら私お金

   持ってない...。どうしよう...)


 此処に来たとき全部没収されたから。というか夢の中でスマホとかお金を持ってるわけがない


美紗(なんで此処だけリアル...、このシーン

   だけ飛ばせないかな )


 美味しかったからお金を払いたいんだけど、ポッケの中に手を入れてもお金がない事に気付く。


美紗(食い逃げするつもりとか

   無かったのに、柚夏が知ったら

   ...、)


??「これで足りますか?」


美紗「ゆ...、」


雨宮先輩「ねぇ。...君、隣国の女王に

     似てるって言われない?」


??「何方かと勘違いされているようです

  が、女王がこのような所に来る

  訳がないでしょう...。」


雨宮先輩「ふふ、それもそうだね。美しい

     髪色だったからついね」


??《財布を入れるような鞄も持って

  いなかったので、もしやとは思い

  ましたが...》


??《食い逃げをするつもりだったんですか?》


??《ポケットに手を入れてそんな

  顔をされれば誰だって気付きますよ、》


??《そもそも何故お金を持たずに飲食店

  に入ったのですか。この方は...、》


美紗「あ、私の知り合いの人なんです!!

   財布を家に忘れたのに、気付いて

   取りに来てくれたみたいで!!」


美紗「いやー、本当、顔が真っ青に

   なりましたよ、まさかポッケの

   中にお金が入ってないなんて...」


美紗「いや... 本当に...」


雨宮先輩「別にそれくらいなら僕が払っ

     てあげたけど、」


雨宮先輩「友達が来てくれて君は本当に

     "助かった"って訳だ。」


雨宮先輩「此処はお金がない人が多い

     からスリとかじゃなくて

     良かったね。」


美紗「えっと...、」


樹理「それにしても君、まるでお人形

   さんみたいに綺麗な美人さん

   だねー。名前はなんていうの?」


??「私は...ゆき...、」


??「...雪(ゆき)です。」


雪《嘘はついていません、一応、

  雪はついていますよ...。》


雨宮先輩「雪ちゃんかぁ、今度一緒に

     どっか食べに行かない?お友達

     も誘ってさ、」


雨宮先輩「君僕の好みなんだよね。そう

     いうクールな瞳とか本当

     最高、」


雪「....。」


雪《困っていたのを助けただけなので、

  これ以上は催促して欲しくないですが...》


美紗「マスター!!すみませーん!!」


柚夏「え、なになに??まだ焼いてる

   途中なんだけど、」


柚夏「って...、あー...。」


柚夏「...またこいつナンパしようと

          した?」


雨宮先輩「そんな事ないよ、ね??」


美紗「すみません、お願いします...。」


柚夏「あんた奥さんいるでしょう

   が!!外では良いけど、うちの客に

   手を出したらバラすって何度

   も言ったよね!?」


雨宮先輩「いや、あの...、ただ食事に

     誘おうとしただけで...。本当

     何(なん)もしてないって!!」


雨宮先輩「ごめん。今日は用事あるから

     帰るね二人とも、じゃ、

     また!!」


柚夏「いや、ほんとごめんねー。うち

   の客あぁいうのが多くって...、

            今度きつく言っておくから。」


雪「...此処の治安はそれほどよくは

   無いんですね、」


柚夏「隣の王女様がお金持ちだけしか

   住めなくして。皆ストレスがたまっ

   てるんだよ、」


....。


柚夏「お客さんも気を付けてね、引った

   くりとかここら辺じゃ多いか

   ら。」


雪「...気を付けます、」


柚夏「じゃ、お客さんの分も作らないと

   ね。有り合わせの物で作るから

   メニューはなし、」


柚夏「その代わり安いから」


 そういって柚夏はまた店の奥へと消えていく。すると、私がお礼を言う前に雪音が口を開いた。


雪「どうして私を助けてくれたん

  ですか。放っておけば良いのに...」


美紗「どうしてって、お礼を言うのは

   こっちですよ。」


美紗「バスには乗れたから...お金を持って

   ない事に気付かなくて、本当に

   困ってましたから」


 むしろ食い逃げしようとしてた人にお金を出してくれるとか、感謝しかない。雪音がお金を払ってくれなかったら私は何も食べれなかったから


雪「公共施設は基本的に全部無料

  ですよ、それが目的で多くの

  学生が来ます。」


雪「バスだけじゃなく病院も無料で

  診察できますよ」


美紗(あー、だからバスには乗れたん

   だ。というか公共施設が全部無料

   って...それはそれで凄い...、)


雪「本当にこの国の事を何もご存知では

  ないのですね。」


雪音《...この国の情勢を知らない方

   だからこそ、私も話掛けやすいの

   でしょうか。》


雪「貴女は何処から来たのですか?」


雪「...少なくともこの国から来た人では

  ないというのは分かります。」


雪《この方は一体何処から来て、どのような

  世界で育ってきたのでしょう。どっちに

  しろ平和な国には違いありませんね》


雪《女王である私に不幸と述べた

  事、どんな暮らしをして

  いればそのような言葉が...》


美紗「....。」


美紗「言っても信じて貰えないかも、」


雪「言っているお話が嘘か本当かどう

  かくらいは、聞き分ける自信は

  ありますよ。」


一応これでも一国の女王ですからね


雪「...言わずに後悔するのなら、言って

  後悔した方が良いとは思いません

  か?」


美紗「...それって、」


 私があの時。雪音に伝えた言葉...。


美紗(多分、向こうとしては意識せず

   言った言葉なんだろうけど...)


 今の雪音にはそれが出来ないから。だからこそ、雪音は敢えてその言葉を選んだのかもしれない。


美紗「確かにそうだね。」


美紗「言わずに後悔するより...、信じて

   後悔した方が私らしいや。」


 この世界がどういう世界であっても。雪音は雪音のままで、雪音が私の事を覚えてなくても


 この人が私にとって大切な人だという事は何も変わらない。


美紗(私以外、記憶を忘れた世界...かぁ)


美紗「一回友達になれたんだもん、

   別の世界でも多分それは同じ。」


 このまま何も伝えずにただ去っていくより、雪音に似てるこの人の悩みを解決してから帰った方が、私としても後腐れなく帰れるし。


 それに...なにより、そんな言葉なんか聞き飽きたかのように臆(おく)せず対処する彼女の姿に私は...ずっと憧れていたから。


美紗「私が居た世界では。ゴーレムや

            魔法は それこそ夢や絵本の中だけの世界

            で...、」


美紗「この世界とは全く違った世界

   なの。日本っていう国で、そば

   やお寿司が有名なんだけど...」


美紗「...知ってる?」


雪「日本...、という国の事はよく存じ

  上げませんが...、お蕎麦とお寿司は

  この世界にもありますよ。」


雪「小さな離島ですよね」


美紗(って事は...日本の概念自体は

   あるのかな。)


 ルネミア学園はあって、"日本"は知らない雪音。学校には通ってたけど、今は通ってない...


美紗「聞いたら...驚くと思うけど、

   この国の女王様と私は向こうの世界

   では仲の良い友達で。」


美紗「国の中でも凄いお金持ちって

   とこは一緒だけど、私の世界では

   雪音は女王はしてなかったな、」


雪音....。


雪《何となく、この方と会うのは

  初めてではないという気は

  していましたが...》


雪「....」


雪《...想定していた物より、ずっと

  予想を上回る返答が返ってきました

  ね...。》


ある意味、面白くはあるのですが


美紗(やっぱり冗談か何かに、思う

   よね...)


美紗「...ごめんね。いきなり変な

   話して」


美紗「一国の女王が別の世界では私と

   友達なんて、そんなの誰も信じ

   られないよね。」


美紗「だから、雪さんも無理してこの

   話を信じなくて良いよ」


美紗「...ただ誰かに聞いて欲しかった

   だけだから。」


美紗「嘘を付くのが下手な

   人だなーくらいに思って、」


雪「....そうですか。」


 セルフサービスのコップに水を注ぎながら、雪さんは話に興味をなくしたかのように


 無言で調理する柚夏の後ろ姿を見てる。


雪「......」


美紗「.....。」


...話が終わって、


雪《...落胆する様子もないですし。

        それに何より...この方は私の事を

        "女王だと"知った上で話をしてい

      る。》


雪《突如ゴーレムが現れるという事例も

  実際に起こってはいるので》


雪《その話があり得ないと言い切れ

  ないところもまた...、》


雪「仮にそうだったとしても、貴女から

  は悪意のある感情が一切見受けられ

  ませんでした。」


雪「...確かに貴女のしたお話は、にわ

  かには信じがたい話です。」


雪《ですが、嘘を付いているにしては

      話のどこにも"違和感"らしきもの

  を感じなかったというのも事

        実...、》


雪「その話を妄想だとそう受け止める

  のは簡単で」


雪「確かにそちらの方が理にかなった

  選択肢だと言えるでしょう。」


雪「ですが...此処は法廷の舞台でも

  何でもありません」


雪「個人で信じる分には何も問題

  ないかと。」


美紗「...雪さんにそう言われると、

   本当に嬉しいよ」


 まだ言葉にほんの少しトゲはあるけど、


 それでも...あの雪音が、妥協をしてでも私の話を聞き入れようとしてくれてる。


 その姿勢に、今は(い)ない雪音の面影を見た。


美紗(私と会うまで、あんなに人に

   興味なかった、雪音が...)


美紗(初対面の私(ひと)に対して、こんな

   に興味を持ってくれるなん

   て...、)


美紗(これは、お赤飯たかないと...ッ!!

   小豆入れたら出来るかな...、)


雪《...それに 貴女の絶対信じないだろ

  うというその態度が、見え

  透いて分かりますので。》


美紗(...あぁ、思ったよりも凄い、

   女王様的な理由で逆に安心感

   すら覚えてくる...。)


雪「それで話はおしまいですか?」


美紗「ううん、もっとあるよ」


美紗「向こうの雪音は本当になんでも

   出来る人でね、一を聞いて十を

   知るくらい聡明な人で」


美紗「それにクールで、知的で、綺麗

   で格好良くて。いつも冷静で、

   私はあぁいう人の方が好みなんだ

   よね、」


雪「...冷めた人だとは思わないのですか?」


美紗「そんな事、思った事もないよ」


美紗「少なくとも 雪音は私の事を

   人間として見てくれるから。」


雪「.....。」


美紗「でも小さい頃に誘拐にあいそうに

   なってから、雪音の感情の降り幅

   は殆んどなくなっちゃって」


美紗「雪音はそれに対して悩んでたんだ

   けど。私はそれも雪音の一つの個性

   だと思ってるから。」   


美紗「雪音の場合、冷たい人っていう

   より、むしろクールで凛々しい

   って印象かな。」


柚夏「お待ちどー、ちょっと時間

   掛かったけど、」


美紗「待ってましたーっ!!」


雪《...所々違うところはありますが、

  殆んどの人が知るはずのない。私の

  秘密をどうしてこの方が...、》


雪《此処とは違う場所に住んでる、...

      私の、話...。》


雪《その世界では私は女王じゃなくて...   

  普通の人間として暮らしてる...?》


それがもし本当の話だとしたら...。


雪《何故...、この世界の女神は、私など

  を女王としてお選びになられたのか...、》 


美紗「....。」


美紗「...私はその世界の雪音の未来を

   変えるために、」


美紗「門番さんに連れられて。この世界

   にやってきたけど...」


美紗「この世界の女王様も 私の知ってる

   雪音と変わらないって。分かった

   から、」


美紗「それが分かっただけでも。

   今は凄いほっとしてるよ」


雪「....。」


雪「貴女の事情は概ね理解出来

  ました。が...、」


雪「その話はあまり人前ではしない方

  が良ろしいかと」


美紗(それにしても柚夏が作ったさばの

   味噌煮定食、ほんと美味しいな。)


美紗「なんでそう思うの?」


雪「此処では、女王の事をあまりよく

  思ってない方も多いですからね」


雪「仲間に思われたら色々めんどうな

  事になりますよ。」


柚夏「その子の言うとおりさ、」


柚夏「貴族様達にとってあの街はただ

   の土地でしかなかったのかもしれ

   ない。けど、」


柚夏「私達にとっては、あの場所は

   家族との思い出がつまった馴染み

   ある場所だった。」


柚夏「それなのに、」


柚夏「"理想の街だから"平民が住むのには

   相応しくないって、そんな理由であの街を

   追い出されたんだ」


柚夏「給付金が出るから問題ない

   でしょ、ったって。...急に言われ

            ても困るっていうか、」


柚夏「貴族様は私達なんか見たくないんだよ」


雪《急と言っても、半年から一年程度の

  猶予はありましたし》


雪《貴族以外住んではいけないなんて

  法律、出した覚えがないのですが...平民と

  住みたくない貴族の方が住民を追い出し

  た...?》


雪《これは、また...。頭が痛い案件ですね...、

  お金を積めば何でも許されると思っている

  方が多すぎる...、》


平民も貴族も同じ人間だというのに、


美紗(雪音...こんな事言われても、雪音は

   知らなかったんだ)


美紗(悪いのは追い出した人達で、それが全部

   雪音のせいになってる...。)


柚夏「だから女王は物価や土地代を大幅

   に上げて私達一般人を住めなく

   したんだよ、」


柚夏「貴族の人しか住めなくする

   ために。」


雪《公共機関が実質全て無料ですので、

  そうせざる負えなかったのです...。》


雪《重い障害を持った方の手当てなど

  に税金は大きく振り分けられて

  いますし、》


雪《交通事故や重症患者の殆んどの

  方が リハビリを除いて基本的に

  病院外から出歩いたりしないので、》


雪《貴族しか住めないと勘違いしてる

  方も多くいるのが現状ですよね...。》


雪《税金も年収によって徴収額が違うの

  ですが...店などはどうしても収入が大きい

  のでその分、負担が掛かる》


雪《追い出された方にとっては、私達は

  "敵"なので仕方ないですが...》


美紗(確かにメディアって偉い人を

   何かと悪者にしがちだよね...、)


美紗(そっちのが視聴率があがるから

   ていう理由だけど...、雪音だって

   したくてしてる訳じゃない

   のに...。)


柚夏「貴族は私達の暮らしを奪った、

   だから、貴族は下民に何されても

   文句は言えないはずだって。」


柚夏「本気でそう思ってる連中も

   いるからさ。気を付けた方が

   いいよ」


柚夏「そういう人達にとって貴族の知り

   合いっていうのは本当に格好の

   的だから、」


柚夏「貴族本人に手を出したら何される

   か分からない。」


柚夏「けど、貴族の知り合いなら

   見せしめくらいにはなるからね」


美紗「....、」


美紗(治安悪いなぁ...)


美紗(雪さんの事は捻れた解釈もいいとこ

   なのに、そういうとこはちゃんと

   してる、)


柚夏「気持ちは分かるけど、...そんな

   事したら女王とやってる事は

   一緒なのにさ。」


 その話をただじっと聞いてる雪音の顔は、全てを悟ってるかのようなそんな顔。


美紗(国を代表するのって、本当に大変

   な事なんだ...)


柚夏「はいはい、辛気臭い話しはこの

   辺にして。したのは私だけど、」


柚夏「折角この街に来たんだから

   美味しい物食べてってよ、」


 そう言って柚夏は雪音の座る机の上に料理を置く。


 厚切りに切られたトマトスープの上にほかのかの白身魚が湯気を出してる、それだけでも美味しそうなのに


柚夏「この店自慢の自家製チーズがけ

   サービス、」


 その上に熱せられたチーズが柚夏の手によってとろとろに掛けられていく...。


美紗「雪さんの料理、凄い、美味

   しそう///」


柚夏「良かったらそこにある小皿使う

   といいよ。」


美紗「これですか?」


雪《まさか私と分けるおつもり

  ですか...?》


美紗「知り合いって思われるためだから(小声」


それと個人的に 食べたい。


美紗「ごめん、雪さんのもちょっと

   貰って良い?私のもあげるから、」


雪「いえ、まぁ...良いのですが、」


雪《私が女王だという事は彼女も

  ご存知のはず...、ですよね...?》


雪《王族が誰かと一つの食事を分け合う

  なんて、、親族ならまだしも、

  ...公の場では絶対考えられません、》


雪《こういった事が城下町では日常

  茶飯事なのでしょうか、ですが...

  変に断るのも失礼でしょうし...。》


雪「....」


 そう思いながらも、トマトスープを交換に手にいれた鯖の味噌煮を見詰める雪さん。


雪《演技とはいえ、何故私がこの

  ような事を...、》


雪「....、」


雪「...美味しい ですね。」


柚夏「だろ?、うちの料理は旨いんだ」


雪「...プロにも充分 匹敵する

  美味しさです。」


この、スープも...


雪《一見、雑に見える切り方であっても

  ...トマトは全く傷んでいませんし。

  小骨の下処理は完璧、かつ...、》


雪《具が綺麗に見えるように。可食部

  のトマトは後入れをしているのです

  ね...。》


美味しい...


美紗「私の世界でもね、柚夏の

   料理は凄く美味しんだ。」


雪「何故、食べている貴女の方が誇ら

  しげなのですか...」


雪《値段もどちらかといえば安過ぎる

  分類に入りますし...、》


雪《この方は、...本当に食べている方の

  事を思って料理をしているのですね。》


だから...こんなにも...。


柚夏「普通に喋りながら食べて良いよ。

   喋って食べた方が美味しいでしょ、

   ウチはそういうの気にしないから。」


美紗「この店の店長さん優しいね。」


雪「...そうですね。」


《ヤハリ、下町ナドに来るべキデはナカったノだ。》


美紗(ぐっ...、)


《我ガ主が今ノ貴女様の姿を見タラ、ドウお思イにナラレるのダロウナ》


 ...何処からか、


 そんな声が聞こえる。


美紗(また、この声...、、)


 でも...、さっきより、もにょもにょ感減った?


《何故、貴女様ハその場ニ居(お)られレるのデスカ?》


まるで、雪音に答えを求めているかのような、


 テレビのノイズのような不快さを帯びた声の主は...そう、雪音に問い掛ける。ザザッ...※SE


美紗「雪さん、...聞こえる?」


雪「?」


雪「何か聞こえるのですか?」


柚夏「別に、何も聞こえないけど...」


美紗(やっぱり、私だけ...?、)


美紗(さっきよりも声がだいぶ、ハッキリ

   してきてる...。)


美紗(というか、この声、どこから

   聞こえてくるんだろ、)


 聞こえてくるのはあっちだし、雪音の声じゃないっていうのは分かるけど...、この声本当不快なんだよね...。


 出来れば 聞きたくないんだけど...、


美紗「あっち側って、何かあったり

   する?」


柚夏「あっちならゴーレムがいる場所

   だけど...、」


柚夏「...装備もなしに近付くと大怪我

   するだけだから、やめといた

   方が良いと思うけどね。」


柚夏「歩いてたら急にゴーレムに襲われ

   たって話もあるし、ゴーレムは

   本当に危険だから」


美紗「んー、なら向こうはあんまり

   近付かない方がいいのかな。

   なんか嫌(や)な予感もするし...」


雪「....」


雪《...この方は、本気でそう仰っている

  のでしょうか...、》


雪《"ゴーレム"とはあくまで、人間の手に

  よって形作られた土人形のような

  もの、》


雪《いわば太古の時代で使われていた

  ロボットのような存在です。》


雪《...この方が言っているのは、ある日

  ペッ●ー君に突然謎の意識が芽生え始め、》


雪《目に入った人間を急に襲い始め

  るといったくらい。"不可解"な事、》


雪《貴女にペッ●ー君の何が分かる

  んですか?》


 ※ペッパーくんは2020年夏を境(さかい)に生産を一旦停止になりました。


※彼女の言った言葉は全て日本語に

 訳されてます。


美紗「っ、フ、、」


美紗(怒るとこ、そこ!?!?)


柚夏「あ、熱いから気を付けて」


雪「...大丈夫ですか?」


美紗「大丈夫、」


美紗(急にペッ●ー君持ち出してくる

   の、卑怯でしょ...、、)


 怪しまれないように雪さんの心読めるの内緒にしなきゃいけないのに、これじゃ逆に不審がられちゃうよ...。


美紗(でも突然、意識の芽生え始める

   ペッ●ー君のパワーワード感、強い...、)


雪《"命令された"ならともかく、意識

  を持って人を襲うというといった行動

  はまず、本来ゴーレムにはありえません。》


雪《仮にその話が本当だとすれば、

  今頃辺り一面、焼け野原に覆われ

  ている事でしょう》


雪《ゴーレムは人間に対して"敵対行動を

  もっていない"》


雪《...ゴーレムが本気で動けばチャレンジ

  した方々も怪我程度では済まされ

  ませんし、》


雪《"襲われた"と言うのはたまたま宝箱

  に近付き過ぎたなど、そういった

  理由からでしょう。》


雪《そもそもそこまで危険でしたら、

  国を上げて交通規制を行っています...》


美紗(お店の中でもこんな感じだと...、

   雪さんの考えはあまり国民の人

   には伝わってないのかな...。)


美紗「うーん...、でも元の世界に戻る

   には宝箱を開けないといけない

   んだよね。」


美紗「その宝箱なのかは分かんない

   けど、今はそれぐらいしか行く

   宛もないし...」


 それにあの声を放っておくのはなんだか凄く、よくない感じがする...。


美紗(...でも、宝箱を守ってるゴーレム

   って あんなヤバい感じなの...?)


 さっきの声の主(ぬし)がゴーレムの声だとしたら、多分私、勝ち目ないだろうなぁ...。


 あの声がゴーレムの声じゃなかったら良いんだけど...、それは見てみないと分からないし、


雪「これからどうするおつもりですか?」


美紗(声の正体も気にはなる

   けど...。)


美紗(今の私が行っても多分、どうしようも

   なんない気はするんだよね...、)


勘、っていうか...、


美紗「まずは元の世界に戻るために、

   宝箱とゴーレムの事をもっと知りたい

   かな。」


美紗「さっきも聞いた通り私のところ

   にはゴーレムはいないから、」


美紗「図書館に寄ってゴーレムの事を

   調べようかなって。」


美紗(もしかして弱点とかもあったり

   するかもしれないし、)


雪「....。」


雪「ゴーレムの本は今はどこもかしこも

  貸し切り状態ですよ。どうやって

  お捜捜しになられるのですか?」


美紗「え、あれだけ本屋さんがある

   なら。一冊ぐらいあると思ったん

   だけど」


雪「あの街に『本屋』はないはず

  ですが...」


柚夏「『本屋』も娯楽の一部に入る

   からね。丸ごと全部移転された

   んじゃなかったっけ、」


美紗(え、何それ怖、)


美紗「え、だって駅の前とかにも沢山

   本が並んでたよ。」


雪「...それは貴族の方の"私用の図書倉庫"

  の事でしょうか」


美紗「うそ!?あれ、全部個人の所有

   物!?」


雪《国で買った分は施設の子供や図書館に

  無事に寄贈されましたよ》


柚夏「...あー、確かに知らない人から

   見ればそう見えるのか、本当に

   別の国から来たんだね。」


 外装もお洒落で、自動ドアだったから、てっきり本屋さんだと思ってたけど...。


 まさかの此処に来ての一番の驚きだった...。


※スライド


 美紗「....どうしよう、泊まるところも

   ないし...。向こうの町ならまだ

   治安は良いかな」


 お金もないし、お腹がすいたら柚夏が食べられるって教えてくれた葉っぱでも食べればいっか


美紗(一応図書館でお金の稼ぎかたも

   見ておくとして、)


美紗(日雇いで雇ってくれるとこないかなー)


美紗「早い内に図書館の休憩スペースで寝て、

   夜はあんまり風が吹かないとこ

   に行けばいけそう。」


雪《何故、スープは普通に交換出来る

  のに...。こういう時には交渉を

  なさらないのですか...、》


雪《貴女にならそれくらいの能力

  は備わっていると思うのですが...。》


雪「ローマの冬は雨がよく降ります。」


雪「この寒空の下、冬の極寒地獄に

  投げ出されて人間が耐えられる

  はずがない、」


美紗(確かにそれはちょっとまずいかも...)

 

雪《眠ってしまえば、下手したら死に

  至るというのに。分かっているの

  ですか...、この方は》


雪「...ホテル代ぐらいはお貸ししますよ。」


美紗「そんなに何度も雪さんに迷惑

   かけられないよ、」


雪《今断る状況にあるのですか、

  貴女は...》


柚夏「改装したてで物が多くて...

   私の家だと寝る場所もないしなぁ、」


柚夏「仮に泊まれたとしても、物を盗まれない

   ように鍵は掛けさせて頂くけど...。」


雪《まったく、しょうのない方です

  ね...。》


雪「...仕方ないですね、」


雪「ゴーレムの事は私がお教え致

  します。今は丁度予定もないですし、

  場所も空いていますから」


雪「夜までに泊まる所が見つからなけ

  れば、宿代くらいは"お貸しましょう"。」


雪「その代わり貴女には宝箱を開けて

  貰うのを手伝って貰いますからね。

  宜しいですか?」


美紗「日雇い雇用って事?」


雪「そうです。私が気付かなかった事に

  貴女が気付く可能性もありますから」


美紗「でも、本当に良いの...?」


雪「..."友人"なら当然でしょう、」


美紗(向こうの世界では、そうだけど...)


 そういって雪さんは会計を済ませて店から出ていこうとする。


美紗(雪さん、怒ってる...?)


雪「美味しかったので、お釣りは

  結構です。その代わり今度また来たとき

  には美味しい料理をお願いします。」


柚夏「...余計なお世話だったみたいだね。

   また、食べに来なよ。美味しい料理

   作って待ってるからさ」


美紗「本当にありがとうございましたっ!!、

   料理、凄く美味しかったです!!」


柚夏「じゃ」


 そして、私は雪さんの後を追い掛けるように 柚夏に急いで挨拶をしてから慌ててお店を出るのだった。


※キャプション


 雪「...盗聴機といった類いの物は、

  この辺りにはないようですね。」


美紗(監視、カメラ...?)


 その瞬間、急に、腕が掴まれたかと思うと


 わりと強引に片腕を引っ張りながら、走っていく雪さんに無理やり路地裏へと連れてかれる、私


美紗(やっぱり、これ、雪さん、相当

   怒ってるんじゃ...、)


 雪さんは私の腕を掴んだまま、不機嫌そうに、じっと私の事を睨んでる。


雪「....。」


雪《...何故、私は此処まで、この方に

  固執しているのでしょうか...、、》


雪《国民を"平等"に愛してこそ女王

  だというのに、》


何故、私はこのような事を


雪《怒りに任せて、女性を路地裏に

  連れ出すなど...》


女王らしくない事を...、


雪《...結局無理やり連れて来てしまい

      ましたし、》


雪《痛くなかったでしょうか、また

  恐がらせるような事をしてしまって

  はいないでしょうか...、》


雪《...ですが、この方は私を女王として

  ではなく、一人の人間として見て

  下さっている貴重な方、、》


雪《それに彼女が言ってる事がもし本当

  だとするなら。別の世界に見聞を

  広める事にも繋がります、》


雪《それならば椿様もお許しになって

  下さるはず、この方に"固執する"のは、

  あくまで国民の幸せのためなのです。》


 今まで、女王様だから。人の意見を聞くまで言いたい事も言えなかったのか 怒る事でさえ理由がないと出来ない彼女に


 世界の狭さを知る


美紗(私も今までそうだったから。

   あまり人の事言えないけど...)


美紗(この人が良いから好きだとか、

この人が嫌だから嫌いとか それさえ

"理由がない"と出来ないのか)


私も今まではそうだったのかな。


 くゆやお母さん、お父さん、柚夏が居なければ私だって多分 他人(ひと)事じゃないんだけどね...


美紗(普通に友達だからで良いと思う

   けどな、...言っても無駄っていうのは

   私が一番よく分かってるけど)


 自分でそう洗脳して(ルビ:おもって)る時点で私が何言っても言葉は通じない、だから行動で示して雪さん自身が自分で納得するしかない。


雪「私が"あの国"の女王だという事は

  貴女もご存じのはず、」


雪「何故、貴女はあの時断ったの

  です、、」


美紗(...顔近い、近い、)


雪「冬の夜長に野宿で過ごすなど。

  テントも段ボールも何もない

  のですよ?」


雪「私が、...貴族 だから。ですか?」


 雪音は自分の不甲斐なさに俯(うつむ)くように、視線を落としながら怒りに満ちたような


  それでいて自分自身を責めるような瞳で私の眼を見つめる。


雪「...王族は、目の前で困っている人を

  助けるのにも"理由"がいるのですか、」


 それは、お父さんの様な...怨みの込もった排除的な目じゃないもっと...別の...。


 信念にも似た...強い意志の込められた瞳。


雪「私がお金持ちだというのは貴女も

  知っているでしょう、ならば搾取

  すれば良いのです。私からっ、」


雪《この人に当たったところで...、

  どうしようもない、っていうのは

  分かってる》


ザザッ...、


??《ソンナ、素性の知レナい

  人間ニ国民の税を使うノ?》


ザザッ...ザザッ...、


??《そイツハ、税金を払っテなイのに。》


??《税金泥棒ヲ助け余裕がアるナラ、

  もっト税金ヲ下ゲテヨ。》


??《得体ノ知れナイ異民ニ恵んデやる程

  コノ国は豊カなの?》


...ザッ、


...それでも、 私は、


雪《皆が納得し合う結果を可決するのが

  王族である私の誇りであり、私の

  使命ですっ...、》


なのに...、


雪《目の前で困っている人一人

  救えないなんて、何が、"国の女王"

  ですかっ...!!、》

  

雪「私が自腹で払うと言っています!!しかも、

  無料(ただ)でですよ!?断る理由など、

  どこにもないはずです、」


雪「何故、貴女はそれを受け取ろうと

  しないですか...!!、」


雪《国の女王である私に...『プライド』

  なんか"ない"のに...、》


雪「自分が、"死ぬ"かもしれないのに...。」


美紗「....。」


雪「...何か、言ってみては如何ですか?」


 雪さんは多分親切心でそういってくれてるんだろうけど...。


 それは、今の私に対して。どちらかと言うと"逆効果"だった


 気持ちは凄い ありがたいけど、ノイズが言う通り私を助けたら国民から責められるのは誰でもない、"雪さん"だ。


美紗(得体の知れない、異民...か、)


美紗「...雪さんは、」


美紗「今までお金持ちの人が恵まれない

   人に対してお金を払うのは、当た

   り前の事だって教わってきたんだね。」


 ...彼女が、私の本性を知ったら


どう、思うだろう。


美紗「私だって同じ、尽くす価値のある

   人を見付けたら絶対に裏切ったら

   駄目だって教わってきた。」


美紗「雪さんは女王だし、信じられる

   家臣さえいれば"もっと良い"女王に

   なれる」


美紗「...誰よりも優れた女王に、分かる

   んだよ...、なんとなく ね。色んな

   人見てると、」


 一般の人と"そうでない人"との差。冷静な判断力に、物事の本質を瞬時に見抜ける人はいても


 それを言葉に出来る人間は本当に少ない。自分の感情に押し流されず、個人の為に"公平を保つ"ことの出来る人間にこそ


 女王としての資格があるんだろう。昨日、今日来ただけの誰かの為に雪音の信用が落ちるようであっては


 私がなんのために此処に来たのか分からなくなる。


美紗「だけど、私は戻っても何も変わらない。

ただの女子高生でしかないの、」


美紗「だから自分の命に対しては何の重みも

   感じてない。"死なないで"って

   言われたから ただ、生きてたい

ってだけ...、」


美紗「"利用価値のない人間"だから。」


美紗「私はそういう人だけど...雪さんは

   違う。雪さんは"まだ"変われる、

   雪さんは人の痛みが分かる人だから」


雪「....」


雪「...貴女が居なくなったら、」


雪「...別の世界の私はどうなる

      のですか」


美紗「まぁ...、死なないように頑張る

   つもりだけど...。」


 小さい頃から自分は価値のない人間だと思ってた。"それだけ"は 変わらない。


 価値のない人間と価値のある人間がいれば価値のある人間が勝つというのは"道理"だ


 くゆの時もそうだったけど...、


 心配されると《ほうっておいて欲しい》という"感情"が込み上げてきて...。たまに自分じゃどうしようもないくらい抑えきれなくなる時がある。


美紗(死ぬときは死ぬし。寒さで死ぬのなら

   それが"運命"なんだろう)


美紗(門番さんには怒られるかもしれないけど)


 私にとって夢も現実も"違い"はない。此処で死んでしまえばいっそ楽になるんだろうなって思ってしまってる自分もいる


別に今は苦しい訳でも。何でもないのに


 " 心配してくれてる"っていうのは分かるんだけど、それに対してこんな態度でしか返す事が出来ない自分がどこか遠い存在に思えて、


 人と関わってくなんて...愛という物が分からない私には"無用の産物"だったのかなって。


そんな答えだけが滞ってた。


 というか、もういっその事必要ない、って言われたい。その程度で怒るなんて無能はいりませんと、罵って欲しい。


美紗(私は...)


 今までの雪音なら私のどんな事でも受け入れてくれてた、それは私が雪音にとって"ただの他人"だったから。


 無能で居たくない、けど期待もしてほしくない。大事にされたいけど "必要"とされたくない。


...もう、自分でもよく分からなくなっていた。


雪「.....」


雪「貴女は、私にとっての希望なのです。」 


雪「私が女王という立場でなければ出会っていた

  かもしれない 違う世界の私にとっての、

  唯一の...友人。王族である私は」


雪「ずっと独りきりでしたから。...女王になって

  からは、変装をしなければ誰も私に近付こう

  としませんでした」


雪「周りにいるのは国のお偉い方

  ばかりで、"椿様の娘"である私に

  気に入られようとする方ばかり。」


雪「誰かに会おうとするだけで 銃を

  所持した屈強なボディーガード達が付いて

  くる、誰だって逃げ出したくもなる

  でしょう...」


雪「ですから、楽しかったんですよ。

  貴女がその中に飛び込んできてくれて。」


雪「...本当に 嬉しかった。」


雪「...私は貴女の知る雪音と違って、

  貴女の事を知ってる訳でも知人でも

  なんでもありません。」


雪「ですが、その事を何故か"悲しい"と...感じてる

  自分がいる...。...別の世界の私にとって、

貴女がよっぽど"大事な人"なのでしょう。心が、」


雪「"貴女のしてくれた事"を今もちゃんと

  覚えてる。自分でも...何を言ってるか

よく分からないですけど、」


雪「貴女には"死んで欲しくない"って

  思うんです。」


雪「今日初めて会ったばかりなのに...貴女が

  私の事を知っているからでしょうか?」


雪「少なくとも、今の私は貴女と居る

  事に安心感すら覚えてるんですよ。」


雪「...ですから、」


雪「そんな寂しい事。言わないで下さい」


雪「貴女が自分の価値に自信を持てない

  というのなら、私がそれだけの価値を

  貴女に見つければ良いというだけのこと」


雪「この世界に価値のない人間など一人も

  居ません。それが綺麗事だったとしても。

  私は"そう"であり続けたい」


雪「私は貴女の才能を買っています。私の宝

 (ルビ:自分の命)を粗末に扱う物ではない

  ですよ」


雪《...それに、もう人が目の前で死んでしまう

  のは嫌なのです。それが"叶わない"

  願いだったとしても、》


雪《一人でも多くの人が望んだ世界を

  私は作りたい》


美紗「...、」


美紗「...雪さんは女王にしては優し

   すぎると思うよ」


雪「だからこそ。貴女のような家臣が

  必要なのです」


美紗(これが...、人の上に立つ人の

   カリスマ...。)


雪「恐喝政治は長く持たないと歴史

  上の上(うえ)で証明されています。」


美紗「でも、私は雪さんみたいな

  (ルビ:そういう)人の方が女王でいて欲しい

   かな。女王に向いてる人よりも、私は

   "そっち"のがずっといい。」


雪「...馬鹿にしてます?」


美紗「してないよ、雪さんがさっき

   いったんじゃん、、」


美紗「....」


美紗(私は、ただ楽な方に逃げたかったのかな)


美紗「病院は深夜までやってるから

   事情を話せば入れてくれるかな

   って、」


美紗「慣れてたの。...こういうの。

          お父さんが本気で怒ってたとき、

   そうしないと殺されるかも」


美紗「しれなかったから...、」


 ...私は、誰からも必要とされない人間で、結局くゆに助けてもらって、それから色んな人に助けられて...。


 あっという間だった。今までの生活が"嘘"みたいに豊かになった


 やっと普通の生活がおくれるんだ、ってずっと思ってた。


でも...私は、《普通》じゃなかった


 "嫌(や)な時期"があまりにも長過ぎたのかな、


 ずっとこの世界で、夢を見てるように"私は"曖昧で。この世界は本当は"夢"で、現実の私は今もどこかで苦しんでる。


 普通の生活がしたかった。でも昔の生活とかけ離れれば かけ離れるほど、...前に居た世界との"ギャップ"を感じて、


 いつか戻るかもしれないその生活に...私はすがりきってたのかもしれない。そっちの方が"楽"だから。


美紗「...私は、誰かに"愛される"のが怖かった。」


美紗「でも...それじゃ駄目だって分かった。」


美紗「...私がつらいと怒ってくれる

   人がいる、心配してくれる

   人達がいる。」


美紗「そんな人達のために 私もいい加減

   ちゃんと向き合わないと駄目なんだよね」


美紗「いつか、...本当に理不尽だって思える

   ようになったら、皆喜んでくれる

   かな。」


美紗「小さい頃から必要とされなくて、

   それが当たり前だったけど。」


美紗「...いつかお父さんを心の底から

   許せるようになったら」


美紗「私も本当の意味で『人を愛せるよう』

   になれるのかな、」


美紗「今すぐに出来なくても...、私が

   大好きな人達はそれを受け入れ

   てくれるから。」


美紗「だから、その日が来るまで...」


美紗(人を幸せにするには...まず自分が

   幸せにならないと、駄目だから)


 私を信じてくれた人達のためにも。私はその人達の期待に、答えられるようになっていきたいと思う。


 それが私を救ってくれた人に対して出来る、私の精一杯の恩返しだから、


雪「...貴女にも」


雪「人に言えない過去があるのです

  ね。」


美紗「私の場合は話すと体調悪くなる

   から、出来るだけ思い出さない

   ようにしてるだけだよ、」


美紗「自分が自分じゃなくなってく

   感覚、」


美紗「手も、震えるし。こんな情け

   ない姿...人に"見せられない"でしょ?」


美紗「...まだまだ先は、長そう、」


雪「...貴女は、もう充分強いですよ。」


雪「武装してる中に独りで突っ込んで

  くる勇気もありますし。」


美紗(知らなかっただけなんだよな

   ぁ...、)


雪「それに、私なら...無一文で、知ら

  ない世界に投げ出されたらそれこそ

  耐えられません。」


雪《ただでさえ、人を信じられない

  というのに...。もっと早くに彼女を

  信じてあげられれば良かった

  ですね、》


美紗(やっぱり雪音の優しさは素で出来てるん

   だな...)


雪「そうと決まれば、」


雪「早い内にゴーレムについて勉強

  しましょう。何時までも此処に

  居ては日が暮れてしまいます。」


美紗(雪音人に教えるの好きだもん

   ね、)


美紗「もっと国民の人にも雪さんが

   優しい人だって伝わるといいの

   にね。」


雪「...そう思っているのは貴女だけ

  ですよ。堅苦しい、冷徹と言った

  評価の方が実際には多いです。」


美紗「でも、こうやって私の事も

   助けてくれたし。あのパンフレットも

   本当に隣街の事が好きだから」


美紗「書いた物だっていうのもすぐ分かった

   よ。やっぱりまたお母さんにそう

   言われたの?」


美紗「私の知ってる雪音もそうだっ

   たから、」


雪「ですが貴女はすぐにまた帰って

  しまうでしょう?」


美紗「...それは、」


雪「"私は"貴女の知っている雪音とは

  別の存在なのですから、」


雪「全く同じにしてしまったら駄目

  なんです。元の世界の雪音のため

  にも、」


私を好きにさせないで。


雪《どうかこれ以上、私に我が儘を

  言わせないで下さい。》


雪《貴女は向こうの雪音に

  とって必要な存在なのですから、》


雪《それを聞けただけで私はもう充分

  です。貴女の困った顔も見られました

  からね、》※現実の雪音と同じこと言ってます


美紗(雪音...)


雪「向こうの世界の彼女が

  羨ましいですね、こんなに面白い

  知人がいて」


美紗「私達だって友達になれるはず

   だよ。だって私、雪さんと話して

   て楽しいもん」


美紗「それに、雪さんが私の事を

   思い出してくれたら。きっとこの

   世界の私も出てくるんじゃない

   かな」


雪「...大した自信ですね。」


美紗「美紗だよ。美紗、『杏里美紗』、」


雪「美紗さん、」


美紗「向こうの雪音は私の事杏里

   さんって呼ぶけど、こっち

   の雪音は美紗さんって呼ぶん

   だね。」


雪「では、そちらの私より私の方が

  友達らしいという事ですか。

  ...まぁ、勝っても自分自身なのです

  が」


雪「悪い気分はしませんね、」


美紗「...そういえば、ビアンカは一緒

   じゃないの?」


雪「ビアンカは賢い馬ですので、街につい

  た時点で帰っていきましたよ。」


雪「彼女はこの街が危険だという事

  をよく分かっていますから」


※キャプション


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る