⑭美紗の覚悟2【みさゆき】


ガサガサ...


美紗「雪音、」


雪音「進捗はどうですか」


美紗「えーと...」


雪音「聞いてみただけですよ。

   貴女の文が待ち遠しくて堪ら

   ない、とでも言いましょうか?」


美紗「...絶対、からかってるでしょ、」


雪音「ダメ出しばかりしている女と

   思われたくないですからね。」


美紗「別に気を使わなくていいのに」


雪音「ただの本心ですよ」


 雪音の隣に座って。白いベンチの上から覗く木漏れ日の光を二人で眺めながら、どこまでも続く空を見詰める。


雪音「....」


雪音「...あと4日ですね。」


雪音「本当にあっという間でした」


雪音「晴華さんの事も、...貴女には感謝

   してもしきれません。」


雪音「杏里さんが私の友人で心から

   良かったと思っています。」


雪音「...貴女に会わせて下さった女神様

   には毎日感謝しているんですよ。」


 風がふいて、雪音の髪がたなびく。


雪音「これで...私の言い残した事は

   なくなりました。」


美紗「それを伝えにわざわざ...?」


美紗「私が此処に来るかも分からない

   のに...」


雪音「来ますよ。」


美紗「え、」


雪音「貴女は"此処"に来ます。」


美紗「凄い自信、」


雪音「...私はどうやら女神には愛されて

   いるようですからね。貴女にも」


美紗「まぁ、実際来ちゃいましたし...」


雪音「そんな気はしていたんですよ」


美紗「...雪音と会った頃のこと、思い出

   して色々回ってたんだ。」


雪音「今思い返して見ても

   酷かったですね。お互い」


美紗「まぁ...色々、あったもんねー...。」


雪音「ですが、どれだけ冷たくあしらっても

   貴女は私の側に居てくれました。」


雪音「...それだけで充分です」


雪音「お陰で、今となっては貴女は

   私の大のお気に入りですよ。」 


美紗「...ちゃんと来たご褒美に一つ

   聞いて良い?」 


雪音「どうぞ」


 ずっと雪音に聞きたかった。


 あの場所で聞けなかったこの言葉が、今この場所を逃してしまったら もう一生聞けないかもしれない。


美紗「雪音、本当はあの絵コンテスト

   に出したかったんじゃないかなって」


美紗「反論がなかったら」


雪音「.....。」


雪音「...そう来ましたか、」


雪音「どうしてそのようなお考えに?」


美紗「タイトルが書いてあったのも

   そうだけど、」


美紗「"出さない方が良い"ってあの時。

   思い出したように言ったから」


 ずっと気になってた。雪音がこの絵をコンテストに本当に出したいと思ってるのかどうか...、


 あの時雪音は「無理をして出さなくて良い」って言ってくれたけど、雪音には"そういう癖"があることを私は知ってる。


 自分が希望を持たないように、諦めるように。"わざとそういう言い方"をして私がやめたいと言うのを待ってるみたいに。


雪音「.....。」


雪音「結果が全てです、...金賞を

   取れないような駄作を私が気に

   するはずがありません。」


美紗「雪音にとってあの絵は本当に

   駄作なの?」


雪音「私の絵がもっと上手ければ...貴女

   もこのような惨めな思いをせずにすんだの

   ですよ。」


雪音「...それが"駄作"以外の何ものだというの

   ですか、」


雪音「...金賞も取れないような絵に。

   無理矢理感想を書いてもらう側の

   気持ちにもなって下さい。」


雪音「そんなの...」


雪音「...言えるわけないじゃない

ですか、」


美紗「...そっか、」


美紗「それが聞けて良かった。」


 本当は雪音もこの絵を出したいと思ってて、それでも出す事が出来なかった。


《その絵じゃ、金賞をとれない》


 だから言ったんだ。『出さなくても良い』って、自分の我が儘が叶うなんて思ってもなかった


 でも、宛が外れた。私が"出したい"なんて言うから雪音は期待してくれたんだ。


美紗(...え、そう思うと雪音がめっちゃ

   可愛く思えてきたんだけど、

   え、雪音すごい可愛い...) 


 ...雪音もこの絵の事を気に入っている。その事が分かっただけで、私の下克上はフル稼働する。


美紗「私がこの絵を絶対に名画にして

   見せるから、」


美紗「誰にも駄作なんて言わせない、

   そんな凄い文章を書くっ!!」


美紗「絶対金賞がとれない、なんて言ったことを

   後悔させるくらいの名文に仕上げて見せる

   から。だから...!!」


美紗「上手くいったら」


美紗「自分の好きな絵は、嘘をついてまで

   嫌いにならなくていいって約束

   して、」


雪音「....。」


 雪音は驚いたように、視線を剃らすと無言で手を胸に当てて少ししてから首を下ろして小さく頷いた。


雪音「...貴女の力で、私の意見を

   覆してくれる事を願っています。」


ブブッ


『そろそろ授業始まるから

   教室に戻った方が良いよ。』


雪音「.....。」


美紗「え、あっ。」


美紗「そ、そろそろ戻ろ、授業始まるから

   戻って来いって。」


雪音「...時間というものは

   いつまで経っても空気を読まない

   物ですね。」


※キャプション


 授業が始まってチャイムが鳴る。新学期なのかは分からないけど、午前の授業は殆どが黒板に書いた物を写す授業だった。


 まぁ、大体の授業がそうなんだけど...とにかく。今日はノートの文字が多いなぁって思うくらい多い。


美紗(作文書きながらだと、少ない方が

   助かるんだけど...、あ、そろそろ

   お昼。)


 作文を考えながらしてたから思ったより授業が早く感じたけど。手がちょっと痛い...。


美紗「今日の授業、ノートに書くの

   多いよね。んー...、お陰で手が痛い...」


柚夏「大丈夫?確かにもうちょっと消す

   のは遅くても良いような気は

   するけど...この時期は特に覚えるのが

   多いからね。」


柚夏「冬休みに授業ができないから、此処で

   増えるのはまぁ仕方ないのかな」


 因みに朝、シーウェをくれたのは柚夏じゃなくて柚夏の知り合いだったみたいで


 私が中々帰って来なかったから。その人から携帯を借りたんだけど


 スマホで文字を打ったことのないかーさんは使い方が分からなくて。それを見たその人が、柚夏の代わりに文字を送ったらしい。(柚夏曰く)


美紗(知らないアドレスからシーウェが

   来てたのは、そういうことか。)


美紗「でも、柚夏のお陰で遅刻せずに

   すんだよー。学校の中に居て

   遅刻するっていうのもあれだけど」


柚夏「美紗ならともかく。古池さんと

   一緒に居たならその心配はなかった

   かな」


美紗「そんな事ないよ」


美紗(...シーウェで軽く聞いたら『少々

   "用事"がありまして、遅れてしまい

   ました。』って言えば)


美紗(時期的に、大体の教員は察してくれる

   みたいな事言ってたし...)


美紗(日頃の行いの差がここで。)


柚夏「履歴とか残ってたりしたらあれだ

   から そういうのもちゃんと聞いて」


柚夏「あるようなら消すよう言っておくよ。

   知らない人からメール来たら怖いと

   思うし、」  


美紗「別にそこまでしなくて良いよ。

   もし変なのが来たらブロック

   するし」    


美紗「でもよく覚えてたね。私のシー

   ウェの名前」


柚夏「美紗の家の犬の名前でしょ?」


美紗「そうそう、みさとくゆでみゆ。

   ほんと可愛いんだよ。」


美紗「私の顔を見たときさっきまで凄い笑顔

   だったのに、スンッて急に真顔

   になるの。」


柚夏「それは可愛いって言えるの...?」


美紗「まぁ、みゆが好きなのはくゆ

   だからね。私がくると唸るし」


柚夏「前にも猫に唸られてたよね...」


美紗「人間の匂いでもするのかな?

   体臭、する?」


柚夏「いや 知らないけど...。」


柚夏「それで、書く内容は決まったの?」


美紗「大体決まってるけど、思ったより

   雪音との思い出が多くて...どれ

   にしようか迷ってるとこ。」


美紗「授業中にちょっとずつ書いてた

   んだけど、どれを削って良いか

分かんなくて...」


柚夏「...まぁ緊急事態だし、分かるけど。

   ご飯はちゃんと食べないと頭

   働かないよ?」


柚夏「勉強の方は後でね。」


 今なんか最後の方にちょっと幻聴が聞こえた気がするけど、賢い私は聞かなかった事にした。


美紗「時間があんまりないからねぇ...

   食べたらすぐ書かなきゃ」


柚夏「徹夜は頭の回転下げるから

   逆に非効率だよ」


美紗「出来るだけしないようにする、」


美悟(まぁ、"寝れない"んだけどね...)


 コンテストの時間まであと少し。雪音の残してくれたこの絵の良さを少しでも多くの人に知って欲しい。


キーンコーンカーンコーン


 その後も、私は授業の合間を縫いながら少しずつ文を書き足していった。


美紗「もう6限終わった?」


柚夏「私はバイト行くけど、はいこれ」


美紗「くれるの?」


 手の平には100円の硬貨と50円玉の硬貨


柚夏「約束したからね。ジュース代、

   これで好きなの買って頑張って」


美紗「ありがと、...なんか今日は

   忙しくてごめんね。」


柚夏「美紗がそんな器用な子とは

   思ってないから。今度はちゃん

   と応援するからね。」


柚夏「遅刻するからもう行くけど、

   無理だけはしないこと。

   分かった?」


美紗「おかーさん...、」


柚夏「まだ若いから。

   せめてねーさん」


美紗「かーさんはかーさんだから。」


柚夏「そこは譲らないんだ...。まぁ、

   別にいいけどさ、最近なんか

   慣れてきたし...。じゃ、またね」


美紗「バイト頑張ってねー」


美紗(柚夏も応援してくれたし、頑張ろ。

   でも...文章をまとめるの

   やっぱ苦手だなぁ...、)


美紗(取り敢えず今まで書いた文を

   まとめて。考えるのはそれからにしよ。)


...ガラガラッ、


豆雲先生「杏里ー、いるかー?」


美紗「先生?」


美紗「今、ちょっと忙しくて...

   来週にはどうにかしますから。その

   間は他の人に」


豆雲先生「いいから、ちょっとこっち

     来い」


美紗「...?」


豆雲先生「面白い話を耳にしたんだが、

     ...古池財閥が主催するコンテ

ストに出たいんだって?」


美紗「あ、はい...。でもうまくまとめ

   られなくて」


美紗(というか先生どこで知ったん

   だろ...。)


豆雲先生「私も手伝おう。」


美紗「はい?」


 そう言って。急に科学室に呼び出された私は、ソファーの前に座らせられて。先生からコーヒーを受けとる。


 先生はさながら夕焼けをバックにドラマでよくあるワンシーンかのように、大事な話があると言いたげにソファーを背に白衣姿で窓際に立つ


美紗(絶対、意識してるな...。)


美紗「なんで先生が...?」


豆雲先生「なんだ、私だと不満か?」


美紗「いや、まぁ...、心強いですけど...」


美紗(え、でもなんで先生...?)


豆雲先生「教員が生徒の悩みを解決

     するのはそれほど可笑しな

     事でもないだろう?」


美紗「いや、先生とかあんまりしなさそうで。

   そういうタイプじゃないじゃないですか」


 だからこそ、この人だけは普通に話せる。大人だけど...


美紗「教育ドラマでも見たんですか...?」


豆雲先生「そんな夢見る教師と一緒に

     するな、今年で私ももう

     35だぞ。」


美紗(生徒の前でそれ、言っちゃうかぁ...、)


豆雲先生「まぁ、そんなのは建前で...。」


豆雲先生「新聞部に出回ると非常に

     マズい画像を撮られて、

     不味いので。」


豆雲先生「私はそれを何としてでも取り

     返したいという訳だ。」


豆雲先生「お分かり頂けたかな」


美紗「先生として良いんですかそれ...」


 コツコツ、と音を立てながら教室を歩き回る先生...。


豆雲先生「ただでコーヒーが飲めるから

     良いだろ。」


豆雲先生「私は困ってる生徒をただ助けている

     だけだからな、"大人とはそういう

   生き物"だ。」


美紗「夢も希望もないです」


美紗「でもなんで新聞部の人が...私を?」


豆雲先生「そんな事は私も知らん。」


豆雲先生「撮ったやつが芽月柚夏の大

     ファンで、彼女の力になり

     たいんだと。」


豆雲先生「そこで本人が交渉、もとい

脅してきたというわけだ」


豆雲先生「...うちの生徒が賢すぎて、

     先生涙が出そうだよ。」


美紗(それって...自業自得じゃ...、)


豆雲先生「因みにどういう経緯で出そう

     と思ったんだ?」


豆雲先生「ただ出したいってだけで、

     出すようなコンテストでも

     ないしな。」


美紗「それは...。」


豆雲先生「安心しろ。生徒のプライバシ

     ーは尊重する、...破れば違法

     だからな。」


豆雲先生「先生にも内申点って物が

     あるんだよ。」


美紗「そこは先生なら杏里のためだ

   とか、言うとこじゃないですか」


豆雲先生「先生は普通じゃないからな。

     発明家だから、創造神なんだよ。」


豆雲先生「人と同じにしないでほしい」


  ...なんか、いっそ此処まで清々しいまでにそこまで自我を貫かれると。逆に頼りがいすら感じてくるから人間って不思議だよね...。


美紗(...やっぱり自分に自信を持って

   る人って良いな。...私もちゃんと

   人に言うべき、だよね。)


美紗(自分の伝えたい事や内容を)


 ...私は、今までの事を全部先生に話した。


 今の私と雪音との関係。どうしてコンテストに出したいのかも全部...、一通り説明した


 なんかよく分からないけど、この人なら大丈夫だってそう思えたから。


※キャプション


豆雲先生「つまりなんだ、杏里は

     昔親に虐待されていて

     その時の自分と重ねてる

     って事か」


豆雲先生「...本当に人間は身勝手な生き

     物だからなぁ、まぁ、私もその

     大人の中の一人なのだが。」


 真っ黒なコーヒーを一口飲む。砂糖は入ってるけど...やっぱり、ちょっと苦い。


美紗(柚夏のブラックよりましだけど...

   やっぱり紅茶のが好きだな

ぁ...。...ミルク入れよ、)


美紗「...勿論、雪音が自分じゃないという事は

   分かってますし」


美紗「それで今までの私が報われるとも

   思ってないですけど...」


美紗「...友達のために此処までするのは

   変ですかね。」


豆雲先生「恋人というより、そこまで

     いくともう"親"だな。」


美紗「親、ですか...」


 親にはあんまり良い思い出ないけど...


豆雲先生「私は杏里と同じ年にある研究

     結果を信頼していた人に、

     全部取られてな。」


豆雲先生「...本当に親みたいに思って

     たよ、思ってたのは私だけ

     だったみたいだけどな。」


豆雲先生「お前みたいな友人が学生時代

     にいたら。私の人生も少しは

     変わってたんだろうな」


豆雲先生「"変"というより、それだけ情熱を

     注げられる人がいる事が羨ましい

     よ。」


豆雲先生「...大人になると色んな事から目を

     遠ざけて。日を追うごとに心が若さを

     保てなくなってくからな...。」


豆雲先生「それが出来るのは若い内

     だけだ、やらなきゃ損だろ?」


豆雲先生「そんな面白い事」


豆雲先生「...っと、あった。」


先生から本を受けとる。


美紗「これ、...就活の本なんですけど」


豆雲先生「文の構成自体は一緒だから

     良いんだよ。書き方さえしっかり

     してたら」


豆雲先生「以前それ薦めてコンテスト

     入選したやつもいるから、

     問題はない。」


美紗「落ちたら先生のせいにしますね」


豆雲先生「それだけが敗因とは限らない

     だろ、私に分が悪過ぎない

     か?」


豆雲先生「そんなに不安に思うなら図書室で

     借りてこればいい、そもそも重要

     なのは中身だからな。」


豆雲先生「その紙、」


豆雲先生「もうまとまってるんだろ?

     授業中に書いてるのバレて

     ないとでも思ったか。」


豆雲先生「私の授業で悪い成績とられる

     と困るんだよ。昇給が掛か

     ってんだから、」


美紗「先生の授業、皆点数いいじゃない

   ですかー」


豆雲先生「それは私の授業が面白いからだ」


 そう言いながら、先生にノートに書いた文章を渡す。


豆雲先生「科学なんて就活ではまず

     必要ないけどな。専門職なら

     ともかく、まぁ面白いから」


豆雲先生「知ってて損はないぞ。」


豆雲先生「ぶっちゃけ、就職は時事問題と現文、

     英語数学だけちゃんとやってれば

     受かる」


美紗「科学の先生がそれ言っちゃって

   良いんですか...。」


 コピー機でコピーした文字を、先生はすらすらと赤のボールペンで修正してく...。


豆雲先生「まぁ、良いんじゃないか?」


先生にしては字が綺麗だ。


美紗(こういうの適当にやってそうなのに、

   字は凄い綺麗なんだよね...)


豆雲先生「.....。」


豆雲先生「...此処と此処、一つにまとめ

     て良いと思う。正直文章

     自体はそこまで悪くない...。」


豆雲先生「だが、強いて言うなら。"これが

     一位とは思えない"な。」


豆雲先生「文の書き方も基本は間違って

     ないし。...普段から何か書い

     てたりするのか?」


美紗「まぁ...、小説を書くのが趣味ですか

   ら...。ファンタジーとかですけど...」


豆雲先生「読んでて思ったのは、」


豆雲先生「...結構無理して書いてるのが

     伝わってくるんだよな。文字がすっと

     頭に入ってこない」


豆雲先生「もっと子供でも何回でも読みまわ

     したいものじゃないと審査員の心は

     掴めない。」

     

美紗「コンテストってそういうもの

   じゃないんですか...?」


豆雲先生「プロばかりの作文だからこそ

     、かえって高校生らしい文章

     の方が目に止まりやすいんだよ。」


豆雲先生「作文というより。得意な小説を

     書いてるイメージで書いて

     みると良いかもな。」


豆雲先生「物語風にして万人受けさせ

     る。引っ越しの事を重点において、」


豆雲先生「分かりやすく、自分でなく

     とも共感出来るよう意識

     して書くといい。」


豆雲先生「どれだけ面白い作文でも、固い文章

     だらけの小説を読みたいと思うか?」


美紗「それは思わないですけど...。良いん

   ですかね、」


豆雲先生「馬鹿でも分かる文で良いん

     だよ。例えばラブレター

     みたいに書くのも良い

     かもな。」


美紗「それは面白そうですね、」


豆雲先生「歴代の優勝者の作文を見ても

     わりと大人っぽい作文の方が

     少ないぞ、」


美紗「え、どんな内容ですか?」


 他の人の作品を読んでも先生が言ったとおり、サイトを開いて見てみると...確かに皆柔らかい文字のイメージがある。


美紗「好きな風に...書いて、

   良いんですかね、」


豆雲先生「大事なのは個性だからな。

     杏里にしか書けない文章を

     書けば良い。」


美紗「....個性、」


 ...私にしか、書けない文...。


 確かに今まで誰かの真似をして書いてた気がする。そうすれば絶対間違いないから、


 ...うまい人のを真似して"誰か"の好きそうなものを書いて。私はずっと"自分だけの"文章が書きたかったのかな...、


美紗「先生...。私...、頑張って書きま

   す。私にしか書けない文...、」


 そして、何度も書き直して。それから毎日先生のところに通って、面接の練習もして...


 それから.....。


美紗「...」


美紗「.......」


※キャプション


 徐々に意識が覚めていって、


 ...目を開けると。私は美しい雲と空の境界線上に立っていた。


雪音「...晴華さんから、言われたばかり

   なのに。貴方はまた無茶な事ばかり

   しているのですね。」


雪音「これも全て、私の力が及ばない

   ばかりに...」


美紗「も...、」


美紗「...門番、 さん...?」


門番「随分と久々に逢(あ)う気分です。

   お久しぶりです。美紗さん」


 門番さんと交わした最後の約束。黄金の草原で消えていく彼女の姿が... 私はあの時、何も出来なくて...、


 全身から、温かい涙が... 溢(あふ)れてくる。


美紗「良かった、、本当に、良かったっ!!、、」


 門番さんを抱き締めると同時に。


 内の底から込み上げる喜びと 胸がぎゅっと苦しくなる。


 良かった、ほんとに...。


美紗「『もう、会えないと思ってた』」


門番さん「『私を◆いていったのは◆◆◆の方

     ですよ』」◆→置、あなた

    ※小説限定で答え付き。


門番さん「....」※ん?って顔


門番さん「やはり...、」


門番さん「...貴方も《覚えている》の

     ですね。」


美紗「でも...どう、して...、」


これは "私"の記憶...?


 あの時、門番さんは確かに私の前で消えたはず...


此処が夢...、だから...?


 でも、...そんなこと。 今は、どうでもよくて、


美紗「...ッ、」


 ただ、彼女に会えた事が、何よりも嬉しかった。


門番さん「....、」


門番さん「今の"◆"は雪音の中のほんの

     一欠片の断片に過ぎません。」

     ◆→私


門番さん「本当の"◆"はもう存◆すら

     なくとも。お互いの◆◆が無く

     なろうとも...」

     ◆→私、存在、記憶


 まるで、水の中で喋ってるみたいに。


 何故かそこだけ門番さんの言葉が"聞こえ"ない。


美紗(ん"ん...前にもこうやってくぐもって

   聞こえない時が...、)


門番さん「...それでも」


門番さん「私は"貴女"を愛しています。」


門番さん「どのような形であっても、

     "貴女"と会えるだけで...」


門番さん「私は幸せです。」


美紗「...。」※困り顔


門番さん「やはり...、"都合の悪い

     お話"は聞き取れないよう

     になっているみたいですね」

     

美紗「都合の悪い話...?」


門番さん「"雪音"には直接関係ない

     話ですから」


門番さん「あまり気になさらないで

     下さい。私は結構めんどくさ

     がり屋なので」


門番さん「私的な会話は一度きりです。」


門番さん「"答えられない質問もある"という事

     ですね」


門番さん「ですので、考察でしたらお答え

     しましょう」


門番さん「...此の世界は"雪音の中の可能性

     が秘められた世界。"私はあく

     まで"その門番"であり、」


門番さん「今雪音が知っている事しか

     此の世界ではお話出来

     ないようになっている...。」


門番さん「...ようですね、」


門番さん「まるで鍵が掛かってるよう

     にその言葉が《プロテクト》

     されてしまうので...」


門番さん「やはり人が居ると勝手が

     違いますね...、」


 そう言いながら空中から出したメモを書いてる門番さん。


 夢だからあんまり違和感ないけど。二度手間を嫌うとことか見てると、本当に雪音の門番さんなんだなって思う。


美紗(前の時と景色(ルビ:くうき)が違う)


美紗(...好きな人との会話、っていうより

   好きな人と雪音の会話で盛り

   上がる感じに近いけど)


 それでも、やっぱり門番さんとお話するのは凄く楽しい


美紗(雪音に言ったら 怒られちゃうかも

   しれないけど...、)


美紗(昔、本当にこの人の事が好きだったん

   だろうな...。付き合えたか付き合えて

   ないかは分からないけど)


美紗(この人といると、凄い安心する。)


 彼女の話を聞いてるだけでも本当に飽きないというか、いつか目が醒めるのは分かってても


この人ともっと話がしたい。


 それはただ、この人が雪音の門番さんだからという理由じゃなくて...


 将来、好きな人が居たらこんな感じなんだろうなぁ って思う。感覚にすると難しいけど


門番さん「どうかしましたか?」


美紗「...ううん、何でもないよ。

   門番さんとお話するの

   楽しいなって思っただけ」


門番さん「お話...というより、私が一方

     的に話をしているだけです

     けどね。」


美紗「...それで良いよ。話をするより

   聞いてる方が好きだから」


美紗「門番さんの声もっと聞きたい」


門番さん「...その言葉は私ではなく、

     雪音のためにとっておいてあげて

     下さい。」


門番さん「きっと彼女も喜ぶと思います

     から、」


門番さん「そもそも今までに雪音が

     此処まで心を許す人なんて

     いませんでしたからね。」


美紗「晴華さんは信頼してなかったの?」


門番さん「彼女は『少々特別』な存在

     ですから。」


門番さん「信頼したくとも、しづらい

     面もあるのでしょう」


門番さん「それは貴女が"一番知っている"の

     では?」


美紗「記憶喪失だから...?」


門番さん「ふふ、私が何でも話すと

     思ったら大間違いです」


門番さん「少しは自分で考える事も

     大事ですから。」


門番さん「それにそれを今言ってしまった

     ら、...それこそ面白くないでしょう?」


門番さん「どうせ言っても伝わりません

     からね。貴女がそれを望んでいれば 私が此処で言わずとも、

     いずれ分かる時が来ます」


門番さん

「まぁ、彼女の事が気になるのも

 分かりますが...。あまり若い子に

 対して周りがとやかく言うものでは

 ありませんよ」


門番さん「私では物足りませんか?」


A「そんなことない」

B「目の前に門番さんがいるのにごめん」



→A「そんなことない」


門番さん「彼女には"彼女達の距離感"が

     あるんです」


門番さん「雪音さんはちゃんと

     晴華さんの事が好きですから。」


門番さん「そこまで心配する必要

     ありませんよ」


→B「目の前に門番さんがいるのにごめん」


門番さん「...ふふっ、折角一緒にいるの

     ですから。もっと楽しみましょう」


門番さん「二人の分かつ時が交わる間に」





 歩いていた門番さんの足が、立ち止まる。


門番さん「人の言葉によって、支えられた

     世界はやはり安定感が違いますね。」


門番さん「今までいた世界はすぐに穴があいて

     しまい その度に修復し直すのが

     大変でした。」


門番さん「家の中では家より巨大な猫と

     目があったり、彼女の中では

     そのように見えてるんですね」


美紗「家より巨大な猫。」


美紗(見てみたい、)


門番さん「穴の空いた屋根からちょ

     ちょいと大きな手でちょっかいを出すんですよ」


門番さん「ですが、貴女のお陰で 雪音の心は徐々に

     その姿を取り戻しています」


門番さん「美紗さんがこうやって。"雪音の

     世界"を変えてくれたから、

私は『外核』にいられる」


  ※【外核】雪音の夢野の外側。門番さんは

    とある理由から追い出されています。

    

 ※【とある理由】心を守る門番さんは基本的に特権で自由に内側(内核)に行き来出来ますが、雪音の祖母が亡くなってしまってから「もう、お婆様はいない...」と心の深いところで雪音が思ってしまってから門番さんは出禁(存在が薄くなってしまった)になってしまいました。門番さんは助けたいのに入れません。


→ゲームでの説明ないです。察して下さい。




門番さん「...また、あなたとこうやって話が出来る、」


門番さん「それだけで...どれだけ雪音

     (ルビ:わたし)にとって

     支えになってるか...、」


門番さん「この階段を見て下さい」


 果てしなく続く空と対面している鏡のように、


 ...何処までも一面に透き通る広大な空の海。 まるで天国に続く階段のように、宙に浮いている透明な光の階段が空に向かって上に続いてる。


 『天国』が本当にあるなら、多分此処がきっと天国なのかな。って 思うくらい...凄く綺麗な情景だった...。


門番さん「綺麗...、ですよね。」


門番さん「私も初めてこの場所を見た時

     はそのあまりの『美しさ』に感動

     したものです。」


門番さん「今の貴女みたいに、」


 門番さんは、まるで昔から私を知ってるかのようにその手を握って空を見つめる。


門番さん「...天空の階段、此処は神々が

     住まうのに最も近しいと

     言われる場所です。」


門番さん「この景色をずっとあなたと

     見たかった」


門番さん「...ですが、普通の人間は此の

     世界を認識する事すら困難

     なんですよ。」


美紗「え、私もししかして過労...」


門番さん「生きてます。」


門番さん「ちょっとヤバかったです

     けど...、生きています。」


美紗(ちょっとヤバかったんだ...)


門番さん「...多分、」


美紗「すごい目泳いでるけど...。」


門番さん「これに懲りて睡眠はちゃんと

     とって下さい、人間は寝ない

     と死ぬんですから。」


美紗「すみません...」


門番さん「良いですね?」


美紗「はい...気を付けます...。」


美紗(だらしない生活して、頭の上がらない親戚の好きな

   姉さん女房に叱られてる気分...、)


門番さん「杏里さんは今はまだ人間なので、

     慣れないと思いますが」


門番さん「...私は"精神体"であり、この通り

     貴女の知っている"人間"とは

     別の存在です。」


門番さん「"現実には存在しない人間"という

     ことですね、」


門番さん「ですから 『超生命体の一部』である私は

     人間にはない"門番に与えられた

     権能"を使って、無理やり貴女を雪音の中

     に引き込みました。」


門番さん「...雪音の"未来を変える"ために、

     それが私の『使命』のようなもの

     ですから」


門番さん「これ以上詳しい事は教えられま

     せんが、」


門番さん「私より"上"の存在が貴女の事を

     観測してます。私は"そのため"に

     作られた、云わば『分岐点』のようなもの」


美紗「神様が私達の事を見てるってこと?」


門番さん「平たくいえば"そう"ですね。」


門番さん「...杏里さんの世界で例えると、

    【凄い長いシナリオなのに

     此処まで読んでくれてありがとうございます。】という」


門番さん「"筆者"の追加シナリオのような

     ものです。こっちは雪音の為に

     必死こいてやっているのですが...」


門番さん「神様からすればそう

     なんですね。私はただ雪音が助かればどうでも良いのですが」


美紗(門番さん、なんか疲れてる?)


門番さん「ここまでは分かりましたか?」


美紗「うん。」


門番さん「私が出禁をくらって(ルビ:中に入れ

     ない)しまったばかりに。貴女には迷惑を

     掛ける事になって...」


美紗「入れなくなっちゃったの?」


門番さん「門の開閉は出来るの

     ですが、弾かれちゃうん

     ですよね」


門番さん「ですがこのまま放って

     おけば"あの時"のように

     雪音の世界が崩壊してしまう」


門番さん「"貴女を此処に呼び戻す"

     それが今の私に出来る、

     『限界』だったのです」


 まるで異世界転生した勇者みたいなこと言うなぁ...。


門番さん「私だって。ただ美紗さんと

     話すためだけに貴女を呼び

     たかったですよ」


門番さん「ですがそうは言ってられない状況を"見て"しまったので...」


美紗「あれはいずれ起こる未来って事?」


門番さん「...未来、というより、今後起こりゆる

     事項...?でしょうか。"雪音が鬱になり"

"私は、消滅する"」


門番さん「天啓と言いますか、いずれ

     "そうなる"という意思表示

     になります」


門番さん

「私はその断片の"知識を受け取り"、

 その者に共有出来る力に優れています。」


門番さん

「何年以内に大災害が起こる

 から対策しなければならない。それを繋がりの深い人物に繋げる」


門番さん「...いつか壊れる雪音の世界を

     "見た"後、私は杏里さんにその事をずっと

     伝えようとしました」


門番さん「ですが...、私達力の強い門番は人間と"住んでる"

     世界が違うせいか。中々ちゃんと伝え

     切れず」


門番さん「なんか...ちょっとしたB級ホラーみたい

     な感じで伝わってしまいました」


門番さん

「そもそも此の世界での私の存在が結構、曖昧でちゃんと力が使えませんし...」


美紗「凄い頑張って伝えてきてくれたんだね」


門番さん「...貴女は雪音にとって、とても関係の

     深い人物でお陰で"凄い繋がり    

     やすかった"んですよ。」


美紗「それでも凄いよ。でも、これ

   だけ戻った って事は

   私はもう必要ないってこと?」


門番さん「.....。」


門番さん「...いいえ、むしろ此処からが

     本番です。私が貴女を此処に連れて

     きた理由はただの"お礼では

     ありません"」


 その場の空気が代わる。あまり知られたくない内容なのか


 門番さんは私の目を見たかと思うと、視線をゆっくり階段の方に戻して私を見る


門番さん「....、」 


 その瞳は私を危険な目に会わせたくないと言ってるようにも見えた。


門番さん「もう少しお話しましょう。」


門番さん「美紗さんも聞きたい事があれば、

     今の内に答えられる範囲内でしたら

     お答えしますよ」


美紗(門番さんのこともっと知りたい...)


A『門番さんのこと』

B『私を此処に呼んだ目的※説明を飛ばせます』

 →☆から始まる


美紗「でも本当に無事で良かった。

   てっきりもう、門番さんには

   会えないと思ってたから...」


門番さん「...そう思うのは強(あなが)ち

     間違いではないかもしれませんね。」


門番さん「あの世界が"避けられた"か

     どうかは私にも分かりませんし」


門番さん「"何が原因"で起こるかも

     分かりません」


門番さん「私の本来の力が戻れば、脅威が

     去ったかくらいは分かるのですが...」


→A「どうすれば直るの?」※☆に飛ぶ

→B「門番さんは自分の死ぬ未来を

  見て怖くなかったの?」



→B「門番さんは自分の死ぬ未来を

  見て怖くなかったの?」


美紗「門番さんは、自分の死んじゃう

   未来を見て怖いと思わなかったの?」


門番さん「そうですね...。」


門番さん「それは人間が思う事であって、

     私達はいつ消えてもおかしく

     ない存在。」


門番さん「"雪音を救えなかった"後悔は残り

     ますが、そういう物なので"しようがない"

     です」


門番さん

「他の誰かの記憶の中で生きていれば雪音より長く生きますし、」


門番さん「誰の記憶にも残ってなければ早い時はすぐ消えます。かと思えば、何かの切っ掛けでふと出てきたり」


門番さん「"記憶"に痛みがないから

     でしょうか?」


門番さん「"死んでる"とか"生きてる"とか

     そういう概念がないので」


門番さん「私はただあの子を"守りたい"から

     守りたいんです。"門番"ってそういう

     ものでしょう?」


門番さん「...まず、そのお話をする前に、

    『門番』というものがどういう

     存在か説明した方が良さそうですね。」


門番さん「"私達"は一般的に誰の心にも

     いる存在です。」


門番さん「"雪音"なら"雪音"の、"美紗さん"に

     なら"美紗さん"を守る門番がいます。」


門番さん「そちらの世界で言う"守護霊"

     みたいな」


美紗「私の中にもいるの?」


門番さん「くゆさんがいなければ、今の

     美紗さんはいませんよね?」


門番さん「美紗さんの中から"くゆさん"の

     存在が消えてしまったら...、」


門番さん「美紗さんでいう"くゆさん"のような存在が我々門番の

     役割をしています。守りたくて

     守ってるんですよ」


門番さん「すごい人を信用してない人とか、

     自己意識が強い方なんかは自分の

     意思の方が強いですけど」


門番さん「私は雪音にとってそれこそ、"切り離せない"

     存在のようで」


 もし、くゆがあの時プールに行こっていってなかったら...。お父さんは捕まらなかったし、それを"思う"だけで胸の動悸が荒くなってくる。


門番さん「...考えたくないですよね。

     私だってそうですから」


門番さん「美紗さんの心の中にいるくゆさんのような存在が私です。」


美紗「...雪音にとって、門番さんは

   それだけ"大事な人"なの?」


 そんな人の存在が薄れかかってるっていうのは、かなり切羽詰まった状態なんだろう


美紗(こんなに綺麗なのに...、)


 雪音の世界は、"なにもない"。


門番さん「そうですね、私もあの子に

     とって。大事な人です」


門番さん「誰かに助けを求めれば

     良いのに」


門番さん「それさえ、"出来ない"

     可哀想な子。」


門番さん「お陰で私がどれだけ

     苦労したか。助ける方も

     大変なんですよ」


門番さん「私に憧れているからこそ、見られたくない

     物もあるのでしょう。」


門番さん「...私が消えるのは、何年

     後か分かりませんが」


門番さん「切っ掛けさえあれば。...あの子

     は衝動的に"私"を求め、」


門番さん「私に"会うため"に死を選ぶ

     事に疑問を感じられなく

     なってしまいます。」


門番さん「...それほど、"心の支え"という物

     は思っている本人よりとても重要な

     物なのです。」


門番さん「雪音も貴女も"もっと楽に生き

     るべき"なんですよ。」


門番さん「人生を難しくしているのは

     他でもない"自分自身"なのですか

     ら。楽出来る事はしないと」


門番さん「死ぬつもりではなく、"殺す

     つもり"で物事を運んで

     生きましょう。」


美紗「なんか門番さんと話してると

   元気になるね。」


門番さん「それもこれも貴女が雪音と真剣に

     向き合って、此の世界を

     "安定"させて下さったお陰です」


門番さん

「今は安心して、こうやって

 ものを話すことが出来ますから」


☆→説明カットは此処から始まる


門番さん「...杏里さんが起こした行動に

     よって、雪音の未来は確実に

     よい方向へと変わりつつあります」


門番さん「だからこそ、あなたを此の世界

     に招待する事が出来たので

     す。」


門番さん「この『穢れを知らぬ世界』に、」


美紗「穢れを知らぬ...世界...、」


『"愛の女神"、それは、誰一人として侵す事の許されない楽園に住まう者。』


『"破壊の邪神"、楽園に住まう女神を怨み、妬み、愛の女神の隙を狙っている事を日々忘るべからず』


『"奇跡の鍵"、その真実の意味を知る者に愛の女神は知恵を授けん。』


『"奇跡の鍵"、その真理の意味を履き違えた者に破壊の邪神は永久(とわ)の眠りを授けん。』


『運命をも超越し、奇跡を以て、愛しき子に"必然たる未来"を与えよ』

 

 雪音が話してたお話に出てきた雪音のお婆ちゃんが、よく話してたお話...。  

 

 そんな夢の先でたどり着いた『穢れを知らない世界』。本当にこれはただの、"偶然"...?


※キャプション


願いを叶えてくれる都合の良い存在なんて、居ないって門番さんは言ってたけど。


 それでも もし女神様に会える機会があるというなら、私は愛の女神に会ってみたい。この目で 一目だけでも


美紗(雪音が女神様の話をして

   くれた時はもっと良い感じだったのに。)


美紗(なんで、門番さんが話す愛の女神は

   雪音の言った女神様と違う

   印象なんだろ...。)


まるで、"女神様そのもの"を知ってるような...


門番さん「.....。」


門番さん「...やはり貴方は神に愛されて

     ますね、」


門番さん「...もし、ですよ?」


門番さん「何でも叶う"黄金の泉"があったとして、」


門番さん「その泉の底に沈んでいる宝箱を

     開ければ、何でも一つだけ願いが叶う

     というのなら...。」


門番さん「...まぁ貴女は行くと答える

     でしょう」


門番さん「ですが...、もし、その泉が"触れた者

     を徐々に黄金"へと変えていく

     泉だとしたら...?」


門番さん「...愛の女神の力とは、本来"そう

     いった物"です。」


門番さん「只の人間が神にも等しい力を

     使えば、それなりの代償と

     いうものが存在します」


門番さん「...人間はその"器の量"に耐えられない

     から」     


門番さん「一秒でも出るのが遅ければ

     全身が黄金に変わり、

     貴女は二度と大事な人達と」


門番さん「会えなくなるでしょう。」


門番さん「...それでも、」


門番さん「それでも 貴方は願いを叶え

     ますか。」


美紗「...一回出たら元に戻る?」


門番さん「.....。」


門番さん「...黄金の泉に浸かれるのは一度

     だけ、神の与える試練とは"本来"

     そういったもの。」


門番さん「人間の浅知恵は神の

     前では通用しません」


門番さん「そもそも折角人間にチャンスを

     与えてるのに、そういう厭らしい方法

     をされたら『こいつないわー』」


門番さん「『試練与える人間間違えたかも』って

     思うでしょう?」


門番さん「貴方は神に好かれてはいます

     が...愛の女神は、それを望んで

     いないのですよ。」


美紗「門番さんは?」


門番さん「....勿論。私もです。」


美紗「ううん、行って欲しいかどう

   か 聞いてるの。門番さんに」


美紗「デメリットは良いから 門番さん

   がどうして欲しいか言って。命が

   掛かってるなら尚更」


美紗「貴女はそのために私を連れて

   来たんでしょう?」


門番さん「...貴女はもっと自分の事

     を大切にすべきです、」


美紗「...うん。」


門番さん「あなたには大切な人がいて、

     大事な家族もいる。貴方が

     が居なくなれば」


門番さん「悲しむ人だって」


門番さん「その資格があっても、私は"その

     道"をあなたに選んで欲しくない」


門番さん「連れ出したのは私ですが、

     貴女が断れば私はあなたを還す

     つもりでした」


美紗「...、...うん。」


門番さん「...誰が好き好んで人の為に死

     ねるというのです」


門番さん「冗談でも...、"そういう事"は

     言わないで下さい。」


門番さん「"期待"、してしまうから...。」


美紗「でもそれで雪音が自由になれる

   んでしょ?」


門番さん「それは...。そう...、ですが...。」


門番さん「雪音が引っ越したとしても美紗さんが

     危険な目に合う訳ではありません」


門番さん「貴女が此の世界で死んでしまったら

     意味がないのです。これ以上、

     私を..."苦しめないで"下さい...、」


門番さん「これもまた...、運命なのです。

     ...私は"もう" 大事な人を

     失いたくない。」


門番さん「貴女が心の底から望まなけれ

     ば私はこの世界を閉じられ

     ません...。」


門番さん「だから、此処でちゃんと

     断って下さい...」


門番さん「...お願いします。」


美紗「....」


美紗「嫌だけど、」


門番さん「」


門番さん「...そんな事言ってる場合

     では、」


美紗「だって納得出来ないもん。」


美紗「聞いた話だと"死ぬかもしれない"

   ってだけで、必ず死ぬってわけ

   じゃなさそうだし...」


美紗「本当にそうなら、なんで神様はそんな

   試練を作ったの?」


美紗「クリアして欲しいからじゃないの?」


美紗「人間に夢を与えて、それを叶えて

   欲しいからじゃないの?」


美紗「人間にはその運命力に抗えない。だから

   こそ、試練ってものがあるんじゃないの?」


門番さん「....。」


美紗「絶対にクリア出来ない試練を

   作っても、意味がない。」


美紗「神様も多分、期待してるんだよ。

   この試練を私がクリアするのを...

   だから簡単には死なないと思う」


美紗「...というか私もう二回くらい、下手

   してたら死んでるから、」


美紗「今更だよ。私に死の恐怖は通用しない」


美紗「まぁ、そりゃちょっとは怖いけど。」


美紗「三度目の正直って言うくらい

   だから。大丈夫だよ。」


門番さん「...死ぬことが失敗でしたら

     三度目の正直は成功しては

     いけないのですが...」


美紗「二度ある事は三度あるっ!!」


美紗「私が死んだら悲しむ人がいるか

   ら、...私は死なないよ。というか

   死ねない。」


美紗「大事な人が待ってるから。神様に

   命乞いしてでも、最後まで生き残

   ってみせる。」


美紗「だから見てて、...『霙』」


門番さん「....」


門番さん「...そう、ですか」


門番さん「やっぱり貴方はそう言います

     よね。」


門番さん「...死んで帰ってきたら承知

  しませんよ、覚悟して

     望んで下さい。」


美紗「死んだらどうしようもないよ、」


門番さん「....。」


門番さん「私、生前はかなり徳が

     あったようで...特別門番の力

     が強いんだそうです。」


門番さん「他の方に比べても、」


 門番さんは透明な階段を登って。そこに手を沿えると光みたいに真っ白な、扉が少しずつ開いてく...、


門番さん「《奇跡の鍵》は雪音が描く

     希望の未来、私はそれを

     サポートする"守護"の門番。」


美紗(眩しい...、)


門番さん「雪音の深いところに宝箱

     が落ちていて、自分では

     とれないようになっています。」


門番さん「その宝箱さえ開けば、愛の

     女神の力で貴女は此処に帰って

     来られます。」


門番さん「私では、...駄目なんです。」


美紗「信じるよ。門番さんの事、」


門番さん「...ありがとうございます。

     私も出来る限りサポート

     しますから。」


門番さん「今から行く世界では"絶対に

     死んで"はいけません。」


門番さん「殺されそうになったら全力

     で逃げて下さい、」


門番さん「何があっても。」


門番さん《夢のキャンバスに貴女が描く

     未来の約束を、》


門番さん《信じていますよ。杏里さん》


※キャプション






 

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