第三十二部「お洋服とデート」【ゆずるう】

 

 終業式が終わって、長い夏休みがやってくる。


 バイトをしている私にとっては別にそこまで休みという感じではないんだけど…。


柚夏(…水着専門店、此処かな)


…流雨に告白したあの事件から何故か、沢山の子から声を掛けられるようになってて。


 可愛い水着を売ってる店を捜してるって話をしたら、最近新しく出来たらしい この水着店を紹介してくれた。


 因みに腕の怪我の方は剣道をしてたお陰か骨が普通の人よりも頑丈だったらしく、折れてはいないとの事で…。


柚夏(包帯も、もう必要ないかなって言ってた)


 だから包帯はもうつけてない。右腕を軽く動かしてももう痛くないし、…これなら流雨に近い内に猫抱っこも出来そう。


柚夏(…それにしても、中学で剣道してて良かったな。本当…バイトに間に合って良かった)


パートの人達には本当にお世話になってるし、皆に迷惑掛けるわけにはいかないから…。


柚夏「助かったけど…、未だに信じられないなぁ…。」


柚夏「まさか、私のファンクラブがあったなんて…」


お嬢様の古池さんやモデルの晴華さん、ミーハーなファンが多そうな雨宮先輩とかならしも…

 

私はただの一般人で、そういうのとはまったく無縁だと思ってた…。


流雨「…柚夏…人気者。」


柚夏「お金持ちじゃないし、かなり陰湿

   だって、本当の私をあの子達は

   知らないんだよ…」


柚夏(変に期待されて幻滅されるのも

   嫌(や)だなぁ…。)


流雨「…希望を…見れるだけで…幸せ…。

   その期間が過ぎようと、柚夏が

   人気なのを誇りに思う」


柚夏「…はは、流雨が言うと説得力が違うな」


 こんな顔の良い子に言われると違うな。...初めての経験で恋愛の距離感が分からないので、取り敢えず横向いとく


…ウィーン


言われたお店に着くと自動ドアが開き、お洒落で可愛い店員さんが駆け寄ってくる。


 まるで羊のようにふわふわとした髪がとてもキュートな店員さんだ。お店の宣伝用の服なのか ガーリィな服装がよく似合ってる


柚夏(服屋さんの店員さんって皆本当に

   お洒落だよね。私も見習わないと…)


 まるで森ガールのようなふわふわ系のコーディネートをした店員さんを見ていると、こういうの似合う人って本当限られた人間だけなんだよなって思う。


柚夏(私には絶対似合わないもんなぁ…、、)


店員「いっらっしゃいませ~、お二人様でよろしいでしょうか?」


柚夏「あ、はい。」


 このお店は店員さんが案内してくれるタイプのお店のようだった。


柚夏(店にもよるけど、ガッツリお勧めしてくる

   人って結構苦手なんだよね…。自分で

   じっくり決めたい...)


柚夏(今日は流雨の服を選びに来たから

 そういうのは別に要らないんだよなぁ…。)


店員「夏にお二人でデートですか?それともプールで、彼女とサマーライフをお楽しみに?」


 この店員さんの見た目がふわふわしてるのもあってか、それほど話し方に違和感はなく普通に話し掛けやすい人だった。


柚夏(…周りからすると私は流雨の彼氏に

   見えるのか。嬉しいけど、少し複雑

   だなぁ…)


柚夏「私…一応女なんです…」


店員「はいっ。勿論です、此処は女性専門店ですから。お客様はバストがございますもんね」


柚夏「女性専用店ですか…?今時珍しい」


柚夏(…あー…そりゃ、そうか…教えてくれた

   子、育ち良さそうだったからなぁ…)


柚夏(…女性用専門店だと高いだろうなぁ。一着

   1万とかする店だったら居づらいなぁ…)


 チラッと、横目で値段を見てみると5000という数字が見えて安堵する。


柚夏(あ、普通に買えそう…。良かった…)


 …本当こういう時、視力が良くて良かったって実感するなぁ。…そして高かったら、恥を凌(しの)いで確実に逃げてた。うん


店員「職業柄、オーダーメイドを作っているとそういうのが分かってくるんですよね~」


柚夏「…あ、すみません。てっきり、デートと

   言われたので、男性と勘違いされたと

   ばかり…」


店員「女生徒同士でデート、中々良いじゃない

   ですか。好きな人の前では良い格好で

   居たいですから」


店員「私も…、好きな人が女性なんですよ。

  なので分かっちゃうんです。そういうの」


店員「ふふっ、お客様方が恋人だなって

   いうのは」


柚夏(…この店、今度から愛用しよう。)


柚夏「…えっと今日はこの子の、…水着を選んであげたくて」


 流雨はこういう店に慣れてないのか、後ろに隠れて私の裾を握っていた。はぁ…、可愛い。


店員「此方のお客様のサイズでしたら、彼方の手前から3列目のお洋服がピッタリかと思います」


店員「他にも何かお力になれる事が御座いましたらスタッフまでお気軽に声を掛けて下さい。」


 店員さんの完璧過ぎる対応に驚く。…これは、人気店になるわけだ。というか可愛いなあの人


店員「では、ごゆっくりと夏のバカンスをお楽しみ下さいませ」


 店員さんに勧められた場所に並べられた水着を見ながら流雨と一緒に移動する。


夏のイメージにあったポップなBGMが楽しげに流れ、如何にも夏らしいイメージを連想させた。


柚夏(…水着の殆どが、流行り物だし…凄いな。あれもCMで女優さんが着てた服に似てるし…)


柚夏(服のラインナップも悪くない)


柚夏「流雨は気に入ったのある?」


柚夏(…此処なら流雨に似合う水着も

   沢山見つかりそうだ。アガるねぇ...)


流雨「…よく、…分からない…。から…

柚夏が…選んだの…着る…」


柚夏「勿体ない。そんな可愛い体型なら似合う

   服なんて五万とあるのに」


柚夏「…そんな事言ったらホワイトロリータ系の沢山フリル付いたやつ選ぶけど、私は自重しなくて本当にいいの?」


流雨「目立つのはちょっと...」


柚夏「違和感が無ければロリータも

   目立たないんだよ。年相応の服って

   奴をさぁとか言われずに済むんだよ」


柚夏「可愛いのに着れない服とか買うだけ

   買って使えないの分かる...?」


流雨「確かに柚夏は服探すの大変そう...」


柚夏「背が高いからね。キャップは良いよ。」


柚夏(うーん、美紗にロリコン扱いされる

   だろうから普通に可愛いのにするか…)


 さっきから目の合っていたピンクロリータのワンピースの水着に別れを告げて、私は流雨の水着を真剣に選ぶ事にした。


柚夏「流雨は肌が露出してる服よりも、

   ワンピースに近い服のが良いかもね」


柚夏(そういうのはあの京都美人の人とか

   だったら似合いそうだなぁ。もっと大人

   の色香を持った人)


柚夏(可愛いすぎると、趣味なの? 

   とか美紗に言われそう)


柚夏「私が水着選んだって事は美紗に

   内緒にしてて。」


…何故私が此処までロリコンと呼ばれるのを気にするのか、それは、保育園実習の時あれを美紗に見られた事があったから...


女の子「お姉ちゃん、お花あげる」


柚夏『わぁ、ありがとう。大事にするね。

   やっぱ子供って 凄く可愛いなぁ...♡、、

   保育士、保育士かぁー...///』


柚夏(…甘えてきた女の子が小さくて可愛くて…ついやってしまった…。なんとか誤魔化したけど、それから)


柚夏("ロリコン"と疑われるように…)


 …今思い出しても、本当に嫌な思い出だ…///。美紗レーダーに引っかからないレベルで、可愛い水着…。


柚夏「ショートパンツにワンピース…」


柚夏(…かな。ワンピースだけだと、

   引っかかりそうだし…それに何より

   …本物のロリコンに注目されそう…。)


店員「良かったら、ご試着なさっていきませんか?」


 といつの間に後ろに居たさっきとは別の店員さんが笑顔で微笑んでいた。


店員「かいらしい彼女さんですね」


柚夏「え、あっ…ありがとうございます…。」


 流雨は店員さんをじーっと見ている。この店員さんには流雨は人見知りしてないようだった。


柚夏(この人…美紗と話していたあの美人な人

   に似てる…それに、話し方もそっくり…)


店員「顔に何か付いてます?」


と女性は不思議そうな顔で、顔を傾ける。その不思議そうな顔の表情もあの京都美人な人にそっくりだった。


柚夏「…いえ、友人の知り合いの美人な人に

   …あまりにも…似てたので」


店員「確かに私には目に入れても痛くないくらいに可愛い妹がおりますねぇ。奈実樹言うんですけど…」


柚夏「あ、そうです。その友達がその人の事

   確か奈実樹さんって」


店員「…その子、簪(かんざし)挿(さ)した

   京都弁の子でした…?」


柚夏「オレンジ色の綺麗な硝子玉の簪だった

    のがとても印象的で…」


店員「奈実ちゃんやー!! お客はんあの子、

   めっちゃかいらしないですか!?」


柚夏(…目の色がスッゴい、…光輝いてる)


 妹さんの事が余程大好きなのか、声が凄く嬉しそうだ。優しそうな目つきからあの人のお姉さんと言われれば確かに分かる。


店員「もうっ、本当に自慢の妹で、、料理も上手で器用で見た目とは裏腹にしっかりしてるところとか、はぁぁぁぁ…///」


店員「奈実ちゃんは世界一の美人はんなんどすえー///!! このお店も奈実ちゃんが居なかったら出来なかったお店で…!!」


柚夏(…薪(たきぎ)に火を付けてしまった)


…ふっと視線を奥に向けると。さっき会った、店員さんが凄い複雑そうな顔をしながら溜め息を付いているのが見えた。


目が合った瞬間店員さんはにこっと微笑む。


柚夏(あの店員さんが言ってた好きな人って…)


店員「あ、自己紹介まだでしたね。奈実ちゃん

   の姉の鏡鐘 幹白(しょうきょう みきしろ)申します。」


 そう言って丁寧に会釈する幹白さん。旅館の娘さんと言われれば確かにすぐに納得出来るほど自然で美しい会釈だった。


幹白「こっちは完全な趣味で…実際はオーダーメイド専門店の店主をさせてもろてます。」


幹白「…株式会社サラトゥユはご存知ですか?」


柚夏「高級オーダーメイド店の、モデルさんとか女優さんとかの服を作成してる会社ですよね? …名前だけは」


超高級ブランドのサラトゥユ。どちらにせよ私みたいな庶民には関わりのない会社名だった。けど知ってる


幹白「その社長をさせて頂いております。一応、そっちが本業なんですよ…」


柚夏「株式会社サラトゥユの…? …って、えっ!? …社長さんですか!?」


幹白「お忍びだからっ、しー…。彼女に会いに来たんです。…そこの、可愛い羊さんみたいな子が私のお嫁さんでして」


幹白「今日彼女の誕生日やから、自社の観察と称して、…社長特権で仕事を見に来たんですよ」


※スライド


柚夏「…ですがそんな…大事な事、初めて会った人に話しても良いんですか? 社内秘とかじゃ…」


幹白「奈実ちゃんの良さを分かってくれる子に

   悪い人はおりまへんよ?」


柚夏(…本物だ、…この人)


柚夏(...この人、マジで、本物の混じりっけない、純度100%の、 シスターコンプレックス症候群だ!!しかもレベルが高い)


幹白「あー、奈実ちゃんの料理が食べたい...」


試着室の前まで移動すると、無駄のない手慣れた手付きで幹白さんは水着からハンガーを抜きあげ、流雨に丁寧に手渡す。


幹白「お待たせいたしました、お嬢様。どうぞごゆっくりお召し替え下さいませ」


 着替えてる流雨を待っている間、私は隣に居る幹白さんと会話を続ける。


幹白「…同性のカップルを見かけるとやっぱり…嬉しいんですよね。このお店もその為に建てたものなので…」


 幹白さんの視線の先には、楽しそうな二人の女の子が真剣そうな表情で服を選んでいた。


 そして、服が決まったのか片方の女性は照れたように目を反らして何か言っている。


柚夏「…そうですね、こういうお店は私も

   需要があって欲しいです」


 女性同士なのにという藤菜さんから言われた…あの言葉。…そういう偏見があるからこそ、この店の需要もあるのだろう。


柚夏(…私が、…男の方が流雨にとって幸せ

   だったのかな。)


柚夏(…堂々と一緒に居られて、変に思われる

   こともない男性の方が…此処にいるべき

   だったのかな)


幹白「自分が本当に男になりたい思うなら、

   なればええ。けど、なぁ…」


幹白「男になりたいって思われた相手の気持ち

   考えた事あります?」


柚夏「…思われた、方の…。…気持ち」


幹白「…そう言ってくれたのも奈実ちゃん

   やったんですよ。」


幹白「姉はん、それ愛してくれてん彼女に

   失礼な事しとるって分かってん?」


幹白「"男じゃないと好きになって貰えない

   思われた相手の気持ち考えた事あるか?"」


幹白「…そう奈実ちゃんに言われてしまって、…妹のその言葉があったからこのお店が出来たんです」


幹白「…女性が女性を好きであることにはまだまだ理解がされない世の中ですが、」


幹白「私は お客様には、女性であることを誇って欲しいと思っております。」


柚夏「…思ってるって、…思いますか?」


幹白「…私も、同じ事に悩んでいましたから」


幹白「…"女だから"。…当時は性別のせいにして、妻の気持ちから理由を付けて逃げていただけだったんですよね」


幹白「無理に世間に合わせてやる必要なんて、ないんですよ。…女である私を愛してくれている妻を私は心から愛している」


幹白「自分が女性であることを誇りに思って下さい。お客様の彼女のためにも」


雨宮先輩『僕の方がイケメンだね。君に流雨君相応しくない』


柚夏「…本当に…そう、ですね。最近ある人に言われた事が胸に引っかかっていたんです。…今なら同じ言葉を言われても」


柚夏「きっと…、」


柚夏(…男なら良かったのかなって流雨に思う事…自体が、…流雨が男じゃない私を好きになれないって)


柚夏(言ってるようなものだったのか…。)


…流雨を守る事だけが、本当の流雨の幸せではない。…流雨を幸せにしたいんじゃなくて、私が流雨を幸せにさせたかっただけなんじゃないのか…?


柚夏(…流雨が思う、"幸せ"。…か)


幹白「…お嬢様、宜しいでしょうか?」


 幹白さんはカーテンを開けて流雨が着替えている試着室の中に入っていく。


幹白「…そうですね。ショートパンツはきゅっと、結んで…」


幹白さんは水着の着こなし方を流雨に教えてくれているようだ。


 もう終わったのか、数分もしない内に出てきた幹白さんがカーテンを持って微笑んでいた。


幹白「本当に、よくお似合いですよ」


 シャーっと幹白さんがカーテンを開く。真っ白い壁に包まれた衣装室の中で、流雨は視線を左右に動かして私を見つめる。


流雨「…こんな…可愛い服…、私には…似合わない…」


柚夏「…ううん。…そんな事ない。…すごく、似合ってる。」


柚夏「…本当に凄い、可愛い…。」


流雨「…お世辞なんて、…言う必要…ない…。」


柚夏「…心理学で…見てみても?」


流雨「…。」


流雨「…、…///」


柚夏(…はぁ、可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い)


流雨「…もぉっ、…駄、目…///」


 流雨は我慢できなくなったのか、シャーっとカーテンを閉める。


柚夏「…あっ、」


…もう着替え初めてしまっているのか布の擦れる音が聞こえていた。…もうちょっと見ていたかったのになぁ…。


柚夏「さっきの服、買います」


幹白「ふふ、ありがとうございます」


幹白「では、お次はお客様の番ですね」


柚夏「…」


柚夏「…はい?」


幹白「先程のご様子から、お客の3サイズにあったものをお選びしたのですが、此方などは如何でしょう?」


柚夏「確かに水着は買う予定でしたけど…、いや…デザインも悪くないんですけど…え? …今、着替えるんですか?」


※スライド


 着替えてカーテンを開けると、流雨が試着室から出てじっと此方を見ていた。次はこっちの番と言わんばかりに


柚夏「…別に普通の水着、なんだけど…」


 この水着、見た目は普通の服なんだけど下がビキニスタイルなので…何か落ち着かない。


柚夏「…///」


流雨「…柚夏…似合う…」


柚夏「…うん、まぁ…その。…ありがと」


柚夏(普通の服より水着って思うと…

  なんか、照れるなぁ…)


幹白「とてもお似合いですよ、お客様」


と幹白さんは笑顔で手を合わせて、微笑む。半分面白がってるなこの人


幹白「因みに下の水着のみでしたら半額くらい

   お値段は下がりますがどうしましょう?」


柚夏「…商売上手ですね。」


柚夏(流雨の水着より自分の水着が高いとはいかに…)


そうして私は朝乃先輩の従姉妹の(奈実樹)姉の幹白さんと出会い、流雨の水着と自分の水着を買ってお店を後にしたのだった。


柚夏(まぁ、流雨の水着も買えたし…。良かったのかな。…予定より少しお金は飛んだけど…)


柚夏(その日が来るまでバイトを頑張ればいいだけの話、か…)


柚夏(…取りあえずは)


柚夏(今日の夕飯は、豆苗そうめんだなぁ…)


 隣で歩いている流雨の頭を一回だけ優しく撫でてから、流雨と一緒に手を繋いで近くの道路まで一緒に歩いて行ったのだった。


※キャプション

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