第三十一部「とある夏の日の思い出」【ゆずるう】

柚夏「…流雨、ごめん」


柚夏「本当ごめん...。」


 思う存分に撫で回された流雨はぐったりとした様子で、軽く目が此方じゃない世界に入ってしまっている。


流雨「…..。」


柚夏(ちょっとやり過ぎたかな…。

   えっと…こういう時は…)


→A「何か買ってあげる」

→B「何処かに連れていく」



→A「何か買ってあげる」


柚夏「…何でも買ってあげるから、その…。」


柚夏「…忘れて///、、」


 必死に隠してきた事を 考えて出てきたのは、…我ながら、酷い台詞だった。


柚夏(好きなだけ触って、)


柚夏(…食べ物で、釣る…。とか…)


柚夏(流雨は、美紗とは違うんだから…、

   …というかもっとまともな台詞も

   沢山あっただろうに…!!)


流雨「…」




→B「何処かに連れていく」


柚夏「今から何処かに行く??」


柚夏(犯罪者ーーーー!!、完っ全、に

   犯罪者ーーッ!!)


柚夏(何をしてるんだ。私は、手を繋いだ

  までは良かったけど 何処かに連れてくっ

  て、なに)


柚夏(確かに小さい頃から可愛いものが

  好きだったけど、それはそれとして

  どうかと思う...)




 猫のような流雨の気だるそうな表情に罪悪感がぐさっと突き刺さってくる。…美紗ならともかく流雨にはこんな台詞言いたくはなかった。


流雨「…取り敢えず...横になりたい…。」


柚夏「あっ、うん。横になろう」


※スライド


柚夏「...テスト期間中だけど、そろそろ

   移動する?」


流雨「おんぶ…」


流雨「して欲しい...」


柚夏「…えっ!? あ、はっ」


柚夏「するよ。するする」


 流雨に頼ってもらえて凄い嬉しい。「おんぶで良い?」と聞こうとした瞬間、流雨の方から私に甘えるように"おんぶ"と答えた。


 見栄え的には抱っこの方が良かったんだけど、腕がこの状態じゃ仕方ない。


柚夏「"おんぶ"ね。」


流雨「して、ほしいけど…でも…

   難しそうなら良い...」


柚夏「流雨に掴まって貰えば平気だよ。

   右腕とか飾りみたいなものだし」


流雨「右腕は大事...」


このまま流雨を乗せて、運動場を五周しろと言われたら本当にそのまま出来そうなくらい気分が向上する。


人に頼られるのってこんなに嬉しいんだ。


柚夏「…右、使えないから気を付けて」


流雨「…ん」


 すぐさま腰を下ろして、流雨の前に屈み込む。よいしょ、っと左手で落ちないように流雨の太ももに手を入れた。


 右腕が使えないくらいで何も出来ないくらいやわな腕はしてない。バランスを取るのは大変だけどまぁ、なんとかなるでしょ


流雨「…柚夏に、迷惑掛かる…。」


流雨「…もう…掛かって…た。色々...」


柚夏「...そんな事ないよ」


 少しだけ流雨の身体が揺れる。というか初めて会った時もこんな風だったっけ。


 雨が振っててずぶ濡れの子猫みたいに濡れてるのに、何故か凄く"自然"だった。あの時放って置かなくて本当に良かったなと思う


 流雨との距離が近い。すぐ近くに流雨の顔があると思うと、流雨は疲れてるのか私に寄り添って小さくため息をはいた。


 私はベンチのある2年の屋上に向かって流雨をおんぶしながらその足を進める。


柚夏「…流雨の体、少しひんやりしてるね」


おんぶして分かったけど、平熱が低いのか流雨の身体がほんのり涼しく感じる。私、暑くないかなぁ


流雨「柚夏は…ちょっとあったかい…」


柚夏「美紗も暑いの苦手なんだよな…」


 流雨の体温が私につられたのか、徐々に温かくなっていく感じがする。なんかこんな凄い暑い日に申し訳ない...


流雨「…柚夏」


柚夏「ん?」


 言い出しづらい事なのか、私の名前を呼んだ後無言の時間が続く。



柚夏(…なんか、"親子"みたいだなぁ...。私が

   欲しかった日常。いや、違う…、

   …恋人同士だもんね。)


柚夏(この子はお母さんみたいな目には絶対

  合わせない。腕を怪我してろうが

  そんなの関係ない)


流雨「藤菜…。」


柚夏「その話はもう、お終い。流雨にも思う

   とこはあると思うけど 私は流雨の

   笑った顔の方が好きだな」


柚夏「それに、何かあったら今度は私が必ず駆け付ける。」


流雨「.....。」


流雨「…柚夏と…友達に…、なりたい…」


流雨「"本当"の友達に」


柚夏「そう、言ってくれるのは嬉しいけど…。

   私はもう友達にはなりたくはないかな…」


流雨「…柚夏は…私と…"友達"になりたくない…?」


 背中の上でしょぼんとしている流雨の顔が此処から見えなくてもはっきり分かる。恋人と友達の違いってなんだろうね


柚夏(何度も自分から言うのって恋に恋してる

   みたいで、なんとなく嫌なんだよね…)


柚夏(…けど好き、だから。…流雨が分かって

   くれるまで…何度でも言い続けよう。)


柚夏「…流雨は知らないと思うけど、恋人は

   友達より上のランクだからね。私は

   友達には戻りたくないかな」


流雨「恋人...」


流雨「…私みたいのと"恋人"になりたいの??」


流雨「...かわってる。」


柚夏「流雨だってかわってるよ。流雨の前

   では自分を偽る必要がないんだから」


 流雨は自然体で、警戒心がない。でも美紗はなんというか...時々何かから逃れるよう 話を逸らす時がある。


 そういった人は結構いるんだけど、流雨はその名の通り"嫌"な感じがしないんだ


柚夏(美紗も何か大きな物を抱えてる...。)


 ぎゅっと流雨の手の握る力が強くなる。…心無しか、流雨の身体がさっきよりも少しだけ重く感じられた。


※説明→気絶してる人と起きてる人の重さは違う。つまり、流雨がリラックスした事により流雨の重力の抵抗が減り、柚夏は重たく感じた。


柚夏(…こう、今まで隠してきた物を分かり

   やすく言うのって、…すっごい、

   …照れる///)


 日の当たらない方のベンチに流雨を下ろすと、流雨はごろんと横に寝転ぶ。こっちを向いた状態からふいっと仰向けに寝返った。


柚夏「テスト中だって言うのに、…色々、

   大変だったね。」


 私はそのすぐ側にあるコンクリートの上に腰を下ろす。スカートが少し汚れるけど、たまにはこういうのも良いだろう


 チチッと飛んできたハクセキレイと目が合う。ハクセキレイは人に警戒心があまり無いのか、尻尾を振りながら私の目の前を素通りしていった。


流雨「ん…」


柚夏「流雨はテスト大丈夫そう?」


流雨「…一応、…勉強はしてる、…けど

   間違って…よく覚えてる。皆基本だけ

   覚えておけばいいと思ってるけど」


流雨「そういうの出来ないから」


柚夏「…そっか、」


ジジジジッ…※蝉


 青い、空…。蝉が鳴いて、大きな茶色のプラスチックで出来た植木鉢に向日葵が立派に花を咲かせている。


柚夏「…テストが終わったら、…もう

   夏休みだね。早いなぁ」


流雨「…夏は蚊が、…ねぇ…。」


流雨「休みは嬉しいけど」


柚夏「…それは 分かるけどね…。…けど、

   夏もさ。良いもんだよ。海とか夏祭り

   とか...。楽しい事、いっぱい」


柚夏「夏祭り、...懐かしいなぁー」


柚夏(美紗のお陰で自分の気持ちに素直

   になれるようにはなってきたけど…)


柚夏(これで良いのかな...)


柚夏(…やっぱりトラウマは、簡単には

   消えてくれないな…)


柚夏「夏だねぇ...、」


トントントントン...※包丁の切る音


お母さん『…夏は柚夏が生まれて来てくれた年だから、夏が一番好きかな。他の季節も良いんだけど』


お母さん『柚夏の名前は全部の名前が入ってるから。だから季節の度に私に元気な姿を見せて頂戴』


お母さん『それだけで、お母さんは幸せなの』


柚夏(嘘つき、)


柚夏(全然幸せじゃなかった癖に。)


柚夏(私が居るだけで幸せなんて...、だったらなんで死んでったの。なんで私を置いて行ったの)


柚夏(母さんの後を追おうとは思わない

  けど、)


柚夏(...皮肉にも、母さんが亡くなったのが

夏だったっていうのは何か理由が

あっての事だったのかな...。)


柚夏(ごめんなさい、母さん)


 今はまだそっちにいけそうにありません。逆にこういう子をちょっとずつでも幸せにしていきたい


 それが私の夢だから。まだ私の夢は曖昧で、具体的には決ってないけど


いつかはあの人みたいな子ども達を救える存在になりたい。その為にもネガティブなのを少しは抑えなきゃ


??『はい、お花。あなたはもっと自尊心を

  増やした方が良いよ。私みたいにね』


柚夏(…今は美紗も流雨も居るから。

   別に寂しくもないんだけど、ね…)


でも、あの頃の事が凄く懐かしく思える。お父さんとお母さんが仲良かった頃。色んな場所に連れて行った。


 最近はバイトづくしだったけど、たまにはそういう所も行ってみるべきなのかもしれない


美紗「柚夏ー?」


と、噂をすれば 美紗の呼ぶ声が聞こえた。


柚夏「美紗?」


 扉の空いた階段を覗くと、瞬時に美紗と目が合う。古池さんの事はほっといて良いのか??


美紗「柚夏、良かったぁ。やっと見つけたよ。教室にも居ないし、もう帰ちゃったと思った」


柚夏(…ぬいぐるみのにように思いっきり

   抱き締めて疲れた流雨にお願いされて

   屋上に行った)


柚夏(なんて、まぁ言える訳もなく...。)


柚夏「ごめん、何かあった?」


 先に何してたか質問すれば、…美紗なら話してる内に疑問を忘れてくれるって信じてる。


美紗「あ、えっとね。夏休みに電車に乗って雪音と海に行こうと思ってたんだけど」


美紗「どうせなら皆で海行った方が楽しいと思って、朝乃先輩がおkしてくれたから」


柚夏「へぇ…美紗って朝乃先輩とも知り合いなんだ、私も朝乃先輩は知ってるよ」


美紗「ううん、さっき初めて話した」


柚夏(…これがコミュ力の強者か)


美紗「他の人も誘おうと思うんだけど、柚夏にも来て欲しいなって。あっ、柚夏と仲良い人達とかも全然誘って良いよ。」


美紗「流雨さんとか」


流雨「それは...どうも...」


美紗「因みに8月3日くらいにしよう

   かなって思ってる」


柚夏「はいはい、3日ね。バイト空けとく

   けど、私は強制参加確定なんだね…。」


柚夏「拒否権なしか」


美紗「そりゃそうだよ。私より予定のが大事...?」


柚夏「別にないから良いけど」


美紗「ないんかい。」


柚夏「流雨はどうする? …私は流雨と一緒に

   行きたいんだけど…駄目、かな?」


流雨「水着ない…」


柚夏「お金は出すから、…買おう!!」


柚夏(フリルとか絶対似合うだろうなぁ…///

   私は適当なので良いけど、流雨のは

   コーデしないと絶対勿体ない。)


流雨「…ん」


柚夏「金曜日の終業式の日に終わってから、

   行こっか」


流雨「ん…大丈夫…」


 たまに忘れそうになるけど、先輩なんだよねこの人。


美紗「これだけ誘っておきたくて捜してたんだ。時間とかはまた決まり次第学校で伝えるね。じゃあ、またね柚夏。流雨さんも」


 左手で美紗に手を振って、私と流雨はオレンジ色のツインテール姿が消えていくまで見送った。


そうして、私は夏休みのバイト生活の間(あいだ)に束(つか)の間の休憩として流雨と海に行くことが決まったんだけど…


柚夏(美紗さん…知ってたけど、本当に忘れててくれてありがたいけど…。)


柚夏(親友が脳みそハムスター並っていうのもなんか、複雑なのはなんでなんだろう…)


※キャプション

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