第三十部「現実とリアル」【ゆずるう】


 階段を上がって行くと、流雨に折り畳み傘を振りかざそうとした人が廊下で正座しながら 古池さんに土下座しているのが遠目から見えた。


柚夏(...あー、私より彼女の方が向いてるね。

  怒るの...)


古池さん「...私に興奮なさっていらっしゃる

     のですか?」


 遠くで聞こえる古池さんの冷め切った声に。...離れているのにゾクッと背筋が凍る。


女生徒「...ど、どうか、お許し下さい///...ふ、古池様ぁ...///」


女生徒「私、綺麗な人に弱いんです。モデル

    とか、イケメンとか、、怒られる

    姿も優雅で美しい...♡♡」


古池さん

「ゴミの用な精神の方にお慕いされましても正直に申し上げて差し上げますと、虫唾が走る...それだけです。」


 古池さんも色々溜まってるのかかなりその...。...目が怖い。完全に、...人を見ている目じゃなかった。


古池さん

「傘は人を叩く物ではなく、雨の日に

 差す物です。貴女はそんな当たり前の事

 でさえも理解なされない」


古池さん「低脳な方なのでしょうか?」


 近くに寄ったのにも気付かないくらいの冷え切った空気に、古池さんの近くに居た朝乃先輩と美紗の笑顔が完全に引きつっている。


古池さん「...戻ったのですね。静谷さん」


 きっと靴を舐めようとしたのだろう足元に近付いた女生徒を


何の躊躇いもなく踏みつけて、古池さんは何時もの澄まし顔に戻っていた。


古池さん「私、"ゴミ"には興味ございませんのでこの方の後処理は静谷様にご判断お任せ致します」


女生徒「そ、そんな...古池様...///」


女豹のような鋭い目つきで、古池さんが女生徒を見下ろすと


 傘を叩きつけた女生徒はありがとうございます...///と悦に浸った目で古池さんをうっとり見ていた。


柚夏(...何があったら、こうなるんだ...。)


柚夏「...あれから40分くらいですよね?」


朝乃「...あぁ、柚夏さんは知らないのね...。

あの後の古池様の勇姿に。上げて引き

   ずり卸(おろ)すくらい凄かった...えぇ、」


柚夏(あの後、本当に何があったんだ...。)


古池さん「...この動画をどうなさるのかは

     貴女方次第です。...どうぞ、

     お好きに使って下さい」


 と古池さんは録画されたメモリーカードを流雨に渡す。流雨は傘を叩きつけられた証拠のメモリーカードを一度受け取ってから、古池さんに返した。


古池さん「...良ろしいのですか?」


流雨「...ん。普通にそういう...趣味ない...。

   ...それに...どこかに無くしそう...」


 古池さんはそう言って微笑みながら、メモリーカードを流雨から受け取る。微笑みながらって言っても全然笑ってないけど


古池さん「ふふ、念のためですが。私もその用な趣味はございませんよ」


 それは絶対ないだろと私を含めたこの場にいた全員がそう思った。


古池さん

「...フジ虫さんでしたか? 何か、

静谷様に仰るのを忘れてはいませんか?」


と目を瞑りながら答える古池さん。...この人、絶対名前わざと間違えてるよ...。


女生徒「...静谷さん。...芽月さんも...ご、ごめんなさい。...謝って許して貰える事じゃないと思うけど...」


女生徒「すみませんでした...。」


と前とは違った雰囲気に若干違和感を覚える。


柚夏「...どうして、こんな事をしたんですか」


女生徒

「...昔、流雨と私は友達でした...。小学校の時はよく家に遊びに行ったり、学校でも毎日話したりしてて...とても仲の良い友達でした。」


柚夏「なら...どうして...。」


女生徒は俯きながら、ゆっくりと話し始める。


 彼女はなんで傘を振りかざすくらい流雨を憎むようになってしまったのか。その理由を明らかにするために


女生徒「...静谷さん、流雨は昔から発達障害の症状があって、周りの子達は自然と流雨を避けるようになっていきました」


女生徒「私は流雨の事を素人並(な)みに知ろうと、発達障害の本を読んで、色んな本を読み漁りました。」


女生徒「...あの時は流雨の事を本気で友達だって思ってたから。それに当時はそこまで有名な病気じゃなかったんです」


女生徒「当時の私は流雨は自然体で羨ましいと思っていました。特にお母さんから厳しく育てられた私には、人と違う雰囲気の流雨に憧れさえ抱いてました。」


女生徒「...でも、出る杭は必ず打たれる。昔の

    流雨は人見知りもせず性格も

    ”良すぎた”んです」


柚夏「性格も”良すぎた”...?」


女生徒「だから嫉妬されました。

    主に女子から...」


女生徒「流雨は何をやっても怒らないので

    皆調子に乗って、色んな事を

    流雨にしました。」


女生徒「流雨は怒らないから、

    ”何をやっても許される”って...」


柚夏「怒らないからって何やっても良い訳

   ないだろ。流雨も私達と同じ人間

   なんだよ」


女生徒「...私は別に流雨の事を嫌っては

    いませんでした。でも、流雨が急に

    私の事を避け始めるから...」


流雨「ある人から言われたの。藤菜は本当は

   私の事嫌だけど仕方ないから付き合って

   るだけだ、って」


女生徒「そりゃ、嫌な時は嫌だよ。好きな人が

    流雨とばっかり話してて、なんで私

    じゃないんだろうって」


女生徒「私は流雨の事を自然に見下してた。発達障害者だから、私の事なんて分からないって」


女生徒「そのお陰で好きな人と付き合ったけど

    、『流雨の方が良かった』って」


女生徒「そう言われて...流雨は私からあの人を

    取った。なんで流雨ばかり、皆から

    愛されるの??」


女生徒「私だって頑張ってるのに」


流雨「....別に愛されてない」


 隣に居た流雨に私は視線を傾ける。流雨はいつもと変わって真剣な表情で答えた。それが彼女なりの礼儀だったから。


柚夏(まさかの恋愛絡みの話し...)


流雨「私はただ疲れたの。"怒る"のに疲れた」


流雨「嫌な事があるたびに泣いて、フィード

   バックして。なんで苛めるんだろう

   って心理学の本を読み漁った」


流雨「言いたい事さえ言えなくて。藤菜なら

   良いと思ったけど」


流雨「結局駄目だった。」


流雨「藤菜は私を下に見下してたから。最初

   はそうじゃなくても、藤菜は私と

   仲良くなるのを嫌がってるって分かったから」


流雨「どうしてそこまでして私に関わるの」


女生徒「それは...流雨になりたかったから。」


流雨「”私”になりたい...?」


女生徒「流雨の全部が欲しかった。画力も、

    その顔も。ストレートに話す

    ところも、その全てが欲しかった」


女生徒「流雨さえいなければ、あの人は私に

    夢中になってくれる。流雨さえ

    いなければ...」


女生徒「でも、付き合ってみて分かった。

    なんであの時流雨を苛めたんだろう

    って」


女生徒「...流雨の反応が見たかった。ただ

    それだけの事なのに」


女生徒「それが段々エスカレートして

    いって...。...流雨も私から離れる

    ようになっていって」


女生徒「...”付き合う前”の方が良かったなぁって」


女生徒「そういう『距離感』が一番良いのかもね...」


流雨「....。」


柚夏「あんたが一番流雨を守らなきゃ

   いけなかったのに、あんたは自分の

   私腹で流雨の人生をめちゃめちゃにした」


柚夏「流雨はそこに居るだけで傘で叩かれる

   ような事をしたの??...話にならない。」


 話を聞く限りこれが本当の話なら、この人はとんだハイエナだ。...流雨の友達を奪った挙げ句


 自ら一歩引いた流雨に構って欲しくて苛めがエスカレートしていったって子供か。理由が想像以上に子供だった


柚夏(流雨より恋人を取ったのに今更戻って

  来るなんて虫が良すぎる)


柚夏(だから『フジ虫』さんなのかな...)


女生徒「私の家に行くとアイスが食べられる

    から好きとか、靴下を履かずに家に

    上がって来たりとか」


女生徒「彼女には”常識”がなかった。

    貴女は私の事が好きだったけど、

    周りの人は皆あなたの事が”嫌い”

    だった」


女生徒「もう、あんたのヒーローは

    疲れたんだよ...。中々懐いて

    くれないし」


女生徒「皆が関わらない人に手を差し

    伸べる。いつまで経っても話が

    終わらない、」


女生徒「私だって自分の時間が欲しかった、」


流雨「じゃぁ やめれば良いじゃん。友達」


流雨「無理して手伝う必要はない。私の事を

   可哀想だと思うなら私の事を諦めて」


女生徒「あんた一人ぼっちになっちゃう

    じゃない」


女生徒「私は流雨を仲間外れから救って

    あげたのに、」


女生徒「流雨は恩を仇で返すんだ。」


流雨「....そんなの頼んでない」


流雨「だって、家からゲームを盗んだり

   テストの点を気にして見せたくない

   のに無理やり奪ったり」


流雨「それがあなたの言う『常識』なの??」


流雨「...だったら『常識』なんていらない。」


女生徒「それはあなたの友達料で、

    私はゲームがしたかった。貴女は

    お金が欲しかった」


女生徒「というかカセットだけじゃなくて

    パッケージ代も入ってるんだけど」


流雨「....。」


柚夏「だからといって、盗んで良い理由に

   ならないよね??」


流雨「当時はお小遣いが貰えなかった

   から...。お金が欲しかったの」


女生徒「だから私がお金をあげたの。

    ゲームと引き換えでね」


女生徒「なんであんたばっかり幸せそうなの??」


柚夏「...この人にあんまり関わらない

   ほうが良い。流雨」


女生徒「でも私も反省してる...。盗んだ事

は、どうせ流雨だから気付かないと

    思ってたけど」


女生徒「私が盗んだゲームを買ったって

    言ったの簡単に信じたよね。

    本当にチョロかった」


流雨「気付いてた。...なんとなく奪ったんだ

   ろうなって」


女生徒「じゃぁ、怒ってよ。私に駄目だって

    注意してよ」


流雨「人はそういう物だから仕方ない...。」


女生徒「仕方ない仕方ないって

    何回続ける気??そういうとこが

    嫌いなんだよ」


女生徒「あなたは聖人君子じゃないのに。」


女生徒「何もかも諦めて、流雨のそういう

    ところが嫌いなの」


流雨「....。」


女生徒「柚夏様もそう思わない??」


柚夏「....。」


女生徒「ほら、やっぱり何も言い返せない」


柚夏「あんたは流雨を怒らせたかったの??」


 図書館で明日には発達障害の本当を借りようと思いながら、私は引き続き話を聞く。こんな人もいるんだなって


女生徒「だって何言っても怒らないんだもの」


女生徒「私は他の子とも仲良かったし、

    流雨は私しか友達が居なかった

    けど」


女生徒「新しい友達が柚夏様なんて聞いて

    ない。晴華ちゃんとも仲良く

    して、きっとズルして仲良くなった

    んだわ」


女生徒「なんでそこにいるのが私じゃないの??」


女生徒「だから、私は流雨の事を諦めたの。

    発達障害だから”普通のひと

    とは仲良く出来ない”って」


女生徒「流雨がそう思ってたから。普通の人は

    発達障害とは仲良く出来ないの」


女生徒「あなたがそう教えてくれたから...」


女生徒「でも、柚夏様を見て冷静になれた。

    なんで、私はこんな事してるん

    だろう...。傘なんてさして...」


女生徒「...流雨は私より

    一人の方が好きだから。」


柚夏(というか、私よりこの人の方が

  流雨の事に詳しいのでは...)


流雨「...確かに私は男子の事を平等だと

   思ってた。男の人と女の人の違いが

   分からなかった。」


流雨「女の子でいう"格好いい"が分から

   なかった。実物の人間より、ゲームの

   キャラの方が好きだから...」


流雨「それに嫉妬されても困る。」


流雨「だからって、どうしたら良かったの。」


流雨「あなた達の『常識』なんて私は知らない」


 流雨は可愛いけど、何か人とは違う所がある。凄い大人びてるというか...


 人に対して一切、興味がないんだ。周りの視線もどうでもいいって思ってる。彼女はどうやらそれが気に入らないみたいだった


完全に逆ギレである。


柚夏「人を変えるより自分で変わった方が

   早いですよ」


女生徒「女生徒はハンカチを持つのは当たり前

    だし、そんなに可愛いのに髪がフケ

    まみれ ...なんて事もあったり」


女生徒「神様から愛されるのになんで髪を

    洗わないの?」


流雨「皆そういうけど、私だってちゃんと

   洗ってる。ただ、洗うのが下手なだけ

   で...頭に汗かきやすいから...」


女生徒「なんで私のこと避ける

    の??、私の事がめんどくさいの??」


流雨「めんどくさくないから此処に居る。

   藤菜は神経質すぎるんだよ...」


女生徒「...おかしいと思うのは思うんだから

    仕方ないじゃない」


 流雨の目が私から逸れる。...やっぱり思った通りだ...。この人と流雨は相性がかなり悪い。


柚夏「鉛筆の持ち方がおかしかろうが、

   ハンカチを持ってなかろうが、死ぬ

   訳じゃありません」


柚夏「ただ貴女がそれを我慢出来ない

   だけです。あなたの”常識”を人に

   押し付けちゃいけない」


柚夏「”常識”は一人一人違うから。貴女

   だって嫌でしょう?常識ばっかり

   かざしてストレス社会で生きていくの」


柚夏「さっき貴女がとった行動は”常識”と

   言えるのでしょうか」


柚夏「常識が間違ってるのはあなただ。」


女生徒「...常識。例えば鉛筆の持ち方とか

    モラハラとか、流雨が話した分だけ

    私も話すのが常識とか」


女生徒「小学生でも出来る事をしない、勉強

    も出来ないし、テスト順位も低い

    のに古池様や朝乃さんに好かれてる

    事よ」


朝乃「私??」


女生徒「朝乃さんはお母様が凄いディレク

    ターで、お父様が凄いアーティスト

    で有名だったじゃない」


女生徒「柚夏様も...」


柚夏「彼女が人に好かれるのはそんなに

   悪い事ですか??」


女生徒「親の七光りで生きてるのが気に

    いらないの。」


女生徒「なんで私は主人公じゃないの??、

    流雨みたいに凄い人と仲良く

    出来ないの??」


女生徒「好きなら紹介くらいしてよ。」


柚夏「私も流雨もあなたの奴隷じゃ

   ありません。ちゃんと心があって

   意思がある」


女生徒「でも、そのお陰で古池様に

    会えたのは事実だもの♡」


女生徒「私は綺麗な人だけ見てたいの。それが私の幸せ。あんた顔だけは良いのに、それだけで仲良くなるのは不公平よ」


女生徒「顔面の不公平。」


柚夏「.....。」


流雨「....」


柚夏「不公平、ねぇ...」


女生徒「前みたいな関係に戻れるならそう

    したい。けど、私はそういう性格

    なの」


女生徒「私は貴女を救ったヒーローなのに」


女生徒「流雨は私に何を与えてくれるの??」


流雨『...私はこのままで良いの。でも、

   あなたは駄目。私と居ると藤菜が

   不幸になるから』


流雨『苛められるのは私だけで良い』


流雨「...私が近付いたら、その人の人生が

   めちゃめちゃになる。私は普通の

女の子とは違うの」


流雨「あなたの思う”女の子”とは、」


流雨「お風呂に入るのも嫌いだし、皆と何か

   するより家でゆったりしてる方が好き」


流雨「それの何が悪いの...?」


女生徒「...。」


流雨「...だから、あんまり言いたくなかった。

   私は恥ずかしくないの。何を言われても平気」


流雨「髪の毛を洗うのが下手でフケまみれ

   でも。お風呂に入るのが嫌いでも」


流雨「それが、”私”なの...。」


女生徒「友達がそれで恥かいても??」


流雨「なら私一人だけでいい。」


流雨「私はもう『慣れてる』から。でも、

   柚夏や藤菜が私といて恥をかくと

   いうのなら私はそのままで良い」


流雨「私の為にイライラを我慢する

   必要なんてない。私を見てイライラする

   ならあなたが何処かに行けばいい話...」


柚夏(雨宮先輩もそういうとこあるよな...)


女生徒「あなたが、いつまで経っても

    そうだからッ...!!」


女生徒「言われた方の気持ち分かる??

    友達じゃないって、もうやめよう

    って」


女生徒「....、」


女生徒「どうして、私は貴女を苛めてるの...?なんであなたはそんなに怒らないの」


女生徒「なんで...、」


女生徒「昔みたいに一緒にいたいだけ

    なのに、」


 お互いの気持ちがすれ違って、愛情が憎しみに変わっていったと...。


??「...やっと気付きましたか。」


古池さん「自分がおかしい事...だから、貴女はフジ虫さんのままなのですよ。」


古池さん「貴女は自分の欲望を満たすためだけに芽月さんに怪我を追わせたのですね」


女生徒「...ごめんなさい、ごめんなさい...」


流雨「藤菜...」


古池さん「謝罪だけなら誰にでも出来ます。大切なのは貴女の出来る限りの最大限の恩返しを静谷さんになさる事です」


女生徒「古池様ぁぁぁ...///私には勿体ないくらいの有り難いお言葉...、、感謝致します...///」


古池さん「薄汚れた魂がそれほど成長するとは到底思えませんが...しないよりはましでしょう。」


女生徒「あぁん...///」


柚夏(なるほど...。こういう感じで

   こうなったのか...)


 でも、一番悪いのは流雨達を罵倒した奴らだ。なのになんでこんなに歪んでしまったんだろう...。最初は友達だったのに...


流雨「私も...無視、した...から...。

   恨まれても...仕方ない...」


柚夏「発達障害だから...??」


流雨「私が関わらなかったら藤菜は苛めら

   れないと思った。でも、実際は私が

   誰かに助けられてたのかなって...」


流雨「まるで動物の縄張り争いみたい。」


流雨「だから、私は何もいらない...、、」


 流雨を左腕でぎゅっと抱き締める。...この子はずっと自分が嫌われてるって分かってて、


 友達を自分と同じ思いに合わせないようにしようとしただけだ。自分一人でずっと戦って...。


流雨「...私なん...かっと、友達になると...

   不幸になるからっ...」


流雨「なのに...柚夏は...私の事、好きって...

   言ってきて、駄目なのに...、、」


流雨「喜んじゃ駄目、なのに。また嫌われ...

   ちゃうから...嫌われてどこかに

   行っちゃうから...。...分かってる」


流雨「私にはもう、”友達”はいらないの...」


 泣きそうな顔でそう応(こた)える流雨の目元に沢山の涙が溢れる。


 ...だから流雨は私と友達じゃないってあの時に言ったんだ。自分と関わると不幸になるから


柚夏(...優し、過ぎるよ。)


...ゆっくりと流雨の頭を撫でる。


柚夏「...もう、大丈夫だよ。流雨...もう

   大丈夫だから...。もう、一人で

   戦う必要はないんだよ。」


柚夏「これからは私が流雨を守る。

   おかしくなった人から、もう苛めに

   なんて合わせない」


流雨「...っく、ゆずかぁ...」


 流雨が、私に身体を寄せて...抱きついてくる。それを私は全身で受け止めて、流雨の背中を引き寄せる。


柚夏「それに...もうさ、”友達”じゃないから...」


流雨「...」


柚夏「そこで勘違いするのは分かってたよ。

   そうじゃなくって...、」


柚夏「...”恋人”...、でしょ...。私達」


朝乃「え!? 芽月さん達、あれでまだ

   付き合ってなかったの!?」


美紗「あ、やっぱりそう思いますよね? 

   私も告白して振られたって思ってたから...」


 好き勝手に付き合ってると思われてた二人に向けて、本当にどう思われてたんだと私は目をしぼめる。


柚夏「...まぁ、...結局。...付き合ったので

   なにも言えないですけど」


女生徒「私も流石にやりすぎました。流雨

    なら何やっても大丈夫だと思って

    ました。ごめんなさい...」


女生徒「皆がそう言うから...」


流雨「....。」


苛めた主犯はあんただけどな。


女生徒「腕の事も...本当にご免なさい...。」


 流雨と友達だった女生徒は私の腕を心配するように見つめていた。流石にやり過ぎだと思ったんだろう。


これが流雨じゃなくて本当に良かった


柚夏「私の将来のお嫁さんを傷付けないで

   下さい」


女生徒「はい...。」


柚夏「アルバイトまでには治ると

   良いんだけどね...」


女生徒「働けない分のお金は支払わせて

    下さい。あと治療費も...」


柚夏「別にそこまで心配要らないよ。

   ...ただ、流雨と今まで通り仲良くして

   くれるって約束してくれる?」


柚夏「私はそれがあなたに一番して欲しい事

   だから」


??『ちゃんと嫌だって言わなきゃ分からない

  よ。』


柚夏(...それは、私が一番よく知ってる。)


柚夏「見下さずに、流雨が困った時は助ける

   事を誓えますか」


女生徒「はい...」


 左手を差し出して、女生徒はその手を受け取って握手する。約束の握手だ。流石にこれで反省しただろう


女生徒「...柚夏、...様///いや〜、やっぱり顔

    が素敵ですね。ホストとか将来

    どうですか。きっと凄いお金持ちに

    なれますよ、、」


柚夏「バーテンダーかぁ...。お酒は飲まない

   かな」


柚夏(...けど、流雨が私の事嫌った訳

じゃなくて本当に良かった。)


美紗「またゆずかーさんが女の人落としてる...。流雨さん居るのに」


 私は流雨以外にそういった特別な感情はないのだけれど...。というか、そんな事より大変な事が私に起こっていた。


横に首を傾げてくっ付いてる流雨が堪らなく可愛い。可愛すぎる。


柚夏「えっ、別に今の流れ普通じゃない?」


美紗「いや、いちいち仕草(しぐさ)がイケメン

   なんだって」


と、内心抱きついてる流雨に気分が高揚しながらぎゅーと左手を回してさり気なく手を流雨に回す。


朝乃「...うん、ギルティー」


美紗「罪(つみ)」


柚夏「えぇ...!?」


 こうして、私と流雨は皆の助けがあった事により無事にすれ違った友情をまた結び直す事が出来た。友情というより”恋人”だけど


柚夏「...美紗、」


美紗「ん? どうしたの柚夏?」


柚夏「雨宮先輩も...朝乃先輩も、古池さんも...

   皆、本当に...ありがとう。」


後ろで微かだったが、何かが擦れる音がした。


柚夏(...ほら、...やっぱり近くで聞いてた。)


美紗「えへへ...どう致しまして」


朝乃「...柚夏さんの助けになれて良かったよ。」


 古池さんは思うことがあるのか、無言で去って行く。その姿を女生徒は追っかけて行った。本当に美人が好きだな。


美紗「待ってよー、雪音ー。...じゃぁまたね、柚夏。流雨さんも」


 美紗は古池さんを追いかけるように足早で去ってく。朝乃先輩もその様子を見て満足そうに自分の教室へと帰って行った。


柚夏(...恋人なんて、要らないって思ってたけど...。今こうして私は流雨と付き合ってる...私は、父さんと違って一途だから)


柚夏「流雨、...恋人になったんだよね私達」


流雨「ん...」


ごくり、と生唾を飲む。...流雨の綺麗な緑色の瞳が私を不安そうに見詰める。


柚夏「...だから...流雨」


柚夏「...良い、よね?」


※キャプション


柚夏「…あーーん///!! 可愛いーーーー///!!」


私は流雨を力の限り、めいいっぱいに抱き締める。こういう小さい子を愛(め)でたい症候群に引っ掛かっていた。


ずっと我慢してたけど、まぁ恋人なら大丈夫でしょうと踏んでのことだ


柚夏「別に怪我したのは良いんだけど...ぎゅーっと、抱っこ出来ないのが残念だなぁ」


 ぶらーんと猫を抱っこする時の様に脇の下に手を掴んで流雨を持ち上げたい。あー…絶対可愛いだろうなぁ…。


柚夏「こう、そのままぐるぐる回るやつとかもしてみたいなぁ…」


すりすりと猫に頬ずりするように流雨を抱き抱えながら顔をすりすり寄せる。


流雨「…柚夏、どうしたの...?」


 流雨は私の変わり用にどうして良いかわからないようにおろおろと困り顔で辺りを見回している。またそれが、最高に可愛いいったらありゃしない。


柚夏「んん〜〜///」


もう自分でもずっと抑えて来たものが溢れ出きて、それを止めようとする気持ちさえも何処かに飛んでいってしまってた。


だってもう疲れたんだもの。発達障害とか人の嫌なとことか、もう癒やしが必要。卑しいじゃなくて癒やし ね。


※スライド

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