第二十九部「大好きなキモチ」【ゆずるう】

柚夏「ッ痛(ッツ)...!!」


 保健の先生に消毒液を塗って貰い、しっかり包帯を巻いて貰う。というかめっちゃ滲みるな!!、、


柚夏「はぁ...。やっぱり、滲(し)みますね...」


 前回のように保健室に入ると、流雨は「戻っても良いですよ」と先生から追い出されてしまった。


 その時の流雨の心配そうな顔が目に焼き付いて離れない。苛めの中でも、流雨の心は私を巻き込んで申し訳ないという気持ちでいっぱいだった。


柚夏(一応、美紗のとこに行くよう言って

   おいたけど...あの子、大丈夫かな)


柚夏(あぁいうのは、私より美紗のが向いてる

   からなぁ。...私は誰かを癒やす事なんて

   出来ない)


柚夏(こういう事しか...)


保健医「骨が折れてないと良いけれど...一応

帰ったら病院に行くべきね。

    部活はやってるの?」


 中学の時に剣道をしてたから分かるけど、個人種目とかは怪我してでも出たがる人は結構いる。


 一生懸命練習して、剣道の大会でも腕を怪我してるのに出場してた人と当たったりもした事もあった。


柚夏(...それでも手加減はしなかった

   けど)


柚夏「今は何もしてないですけど...、テスト

   明けにバイトのシフトが入ってますね...。

   それまでに治れば良いんですけど...」


保健医「兎に角、腕をあまり使わず安静に

    すること。基本だと思うけど、

    やっぱりそれが一番治りが早いから」


柚夏「分かりました。...ありがとうございます。」


保健医「お大事にね」


柚夏「はい。」


柚夏(...治るまではあまり動かさないように

   しないとな。左利きで良かった)


保健の先生に頭を下げて、右手で保健室の扉を開ける。


...すると、ガッと扉の前で何かに当たった。


柚夏「ん?」


柚夏「る、流雨?」


 ドアをゆっくり開けるとしょぼんとした顔で流雨が立ち上がっている。


柚夏「ごめん...まさかドアの前に居るとは

   思わなくて、大丈夫?」


 保健の先生に手当てしてもらってから今までずっと流雨は保健室の廊下で待っていたようだ。美紗の所に行けば良かったのに


流雨「...大丈夫...じゃ...ない...」


柚夏「えっ!?また何かされたの!?」


流雨「待ってた...。ずっと此処に居たから...」


柚夏「そっか、」


柚夏「...苛めの事、知らなくて

   ごめん。」


流雨「こっちこそごめん...言えなくて」


流雨「でも、柚夏が謝る必要はない。まして

   や私を助ける道理もない...私は誰にも

   関わっちゃいけなかった...、、」


柚夏「そんな事ない。」


流雨「柚夏まで巻き込んじゃった...、

   ...私のせいで...。私のせいで...

柚夏にまで...迷惑掛けた、、」


柚夏「流雨のせいじゃない。」


 流雨は怪我した右腕を見ながら。まるで悪いことをしてしまった子供のように包帯に巻かれた傷を気まずそうに手を添えてうつ向いてる。


 それに反して、私は流雨から包帯が見えないように向きを変える。別にこのアザは流雨に付けられたものじゃない。


柚夏「...こんな怪我、剣道の試合に比べれば

   全然”重く”ないよ。見かけ倒し。

   ちょっと派手に見えるけど、すぐ治る」


柚夏「でも、これだけは言わせて。何の理由が

   あろうと苛めをして良い理由なんて

   絶対にない。」


流雨「...なんで、どうして...こんな...事...

   ...したの...。私は苛められっ子なのに...」


柚夏「...そういうの嫌いなんだよね。裏で

  悪口言ったり、群れて集まるの」


柚夏「犬みたいで。」


柚夏「もっと堂々と言えば良いのに」


流雨「私を助けようとする人なんて

   今までいなかった、、皆関わりたく

   ないから」


流雨「それが普通で...柚夏みたいに助ける人

   なんていない。私は『慣れてる』から」


柚夏「"慣れてる"からって辛いのは辛いよ」


流雨「....。」


流雨「私は、..."人と違う”から...。人から

   貰ったお弁当の点数つけたり、柚夏と

   友達になれないって言ったり...」


柚夏「そう言って、泣いてる子に手を差し

   伸べないのは人間としてどうかと思う

   んだ」


柚夏「...私はそうやって 見て見ぬふりして、

   死んじゃった人がいるから...。」


柚夏「だから、もう後悔したくないの」


柚夏(お母さんの事は救えなかったけど、

   もう意地やあの人なら大丈夫だろうと

   いう考えは捨てよう。)


 流雨は俯きながら涙を浮かべて、私の制服を弱々しく掴む。...そんな流雨が一瞬母さんと重なって見えた。


お母さん『柚夏、私の可愛い娘...』


あぁ、そっか...この子が一番”恐かった”んだ。


柚夏「余計なお世話だった?」


 右腕を確認しながら、左手でゆっくり流雨を抱きしめる。...今の私は流雨に何を言われても流雨の事を嫌いになんてなるつもりなんてなかった。


流雨「こんなことしてたら、柚夏まで...」


柚夏「別に大丈夫でしょ。まぁ...やっちゃった

   物はやっちゃった物だし、流雨は私が

   あの人より弱く見える?」


 流雨は首を2回横に振る。けど、まだ不安そうに私の腕を見ていた。


流雨「...もし、...取り巻きが来たら...」


柚夏「その時は全力で逃げる。」


流雨「家まで...、追ってきたら...!!」


柚夏「...流雨」


 流雨の視線に合わせて、膝を曲げる。左手で流雨の頭をゆっくりと撫でた。それにしても、使えない右手がすごくもどかしい...。


柚夏「そんなに怯えないで。流雨は

   強い子だから、人はいらないと思うけど」


柚夏「私は弱いから流雨が居ないと心配なの。だからもっと自分の事を大切にして欲しい」


 流雨のエメラルド色の瞳が私を映す。ほら、そうやってすぐ涙を我慢する...。


まるで母さんみたいに。


流雨「...どう、して、そこまで...するの...

   私なんかの...ために...」


柚夏「...流雨は優しいから。だから、私は

   流雨の事が好きになった」


柚夏「私は美紗みたいに語彙力が

   ある訳じゃないから。こうとしか言えな

   い...。...それじゃ駄目かな?」


流雨「...優しく、なんて...」


柚夏「大抵の人が自分の事しか考えていない

   中、人の事を考えられる。そんな流雨が

   私は好き...だから」


柚夏「...それに。傘で叩かれて文句も言わず、

   人の事を心配する人なんて中々

   いないよ」


流雨「でも...、私は...」


流雨「...ゆ、...柚夏?」


流雨の裾を左手で上にあげる。...やっぱりだ。


柚夏「それよりも。あの人に付けられた?

   赤く腫れてる...なんか急にセクハラ

   みたいでごめん」


流雨「ううん、...はたかれただけだよ」


...さっきから痛そうに身体が動いていたから。...あの時やっぱり何かされてたのか。...本当に私は何をやってるんだ。


柚夏(これは、雨宮先輩に怒られても

   仕方ないわ...)


流雨「...別に慣れてるから。良い...、でも...、

   柚夏が私のせいで苛められては駄目...」


 流雨はすぐに裾を戻して、怯える子猫のように上目遣いで私を見詰める。別に流雨の事を責(いじ)めたりしないよ


柚夏「...はぁー...。」


流雨「ため息なんて酷い...」


柚夏「なんか色々めんどくさいなって思って」


 流雨も中々強情だ。というか...私が流雨の事を好きだって分かってくれてるのだろうか...。精一杯の告白なのに


柚夏「前も言ったでしょ。私が良くないの。

   流雨が苛められてるのは私が苛められて

   るのと一緒なんだよ」


流雨「...? 柚夏は...私じゃない...」


柚夏「そりゃ、好きな人が馬鹿にされてたら

   私だって怒るよ」


流雨「好きな人...?」


柚夏(ほら、やっぱり伝わってない。)


柚夏「流雨だよ」


流雨「私が...?」


柚夏「こうやってまじまじ言われると照れる

   んだけど...、好きでもなきゃあんな

   事しないよ」


柚夏「庇ったり」


柚夏「皆の前で、キスとかしたり...///、、」


流雨「...あるわけない。...絶対嘘」


 流石に好きという言葉を否定されるとむっとくる。でも可愛いから許す。


柚夏「その根拠は?」


流雨「だって...私、柚夏に迷惑ばかり...

   中々起きれない...。」


柚夏「まぁ。確かにそうだね」


流雨「うぅ...」


柚夏「私が好きだから守りたいって言っても

   嘘って言うし」


流雨「...だって!! ...私を好きになる理由

   なんて...ない」


 保護猫のように今にもフーッ!! と言い出しそうな流雨。...はぁ。....全く、可愛いな。


柚夏「...流雨はさ、初めて会ったときお人

   好しって言ったの覚えてる?」


流雨「今でも...思ってる...」


柚夏「...そりゃどうも。」


柚夏「私は流雨と初めて会ったとき他人と

   関わるのなんてごめんだし、めんど

   くさいって思ってたんだよ」


柚夏「また、誰かと関係を持つのが怖かったから...」


流雨「...」


柚夏「けど...流雨と会って、変わっていった。

   流雨を見て、私も流雨みたいに誰にも

   染められない人間になりたいなって」


柚夏「あの時の私には何もなかった。でも

   今は、」


柚夏「...流雨の事、守れて良かった。

   本気で...、...愛してるから。流雨の事」


 左手で流雨を抱き寄せて身体を寄せる。例えこの気持ちが届かなくても...気持ち悪いと思われても


流雨「...ゆず、」


 ハグとかそういう綺麗な物とは程遠い...。それは私がただ抱きついてるだけの本当に醜いものだった。


柚夏「迷惑と思われても、流雨が危ない目に

   あって、怒りが湧く程。流雨の事、

   好きになっちゃったんだよ...。」


柚夏「逃げられてもいい、拒否されてもいい...

   ただ、私は...どうしようもないくらい

   流雨の事が好きなんだ。」


※スライド 


流雨「...ゆず、か」


...流雨をこのまま離したくない。


 けど、こんな薄汚い感情を流雨にぶつける事なんて今の私には出来なかった。


...今はただ腕の中に収まるこの小さな温もりに。


ただ、この時が永遠(とわ)に続けば良いと思った。


柚夏「...。」


 ...流雨になんて、話掛けたら良いか分からない。だからって弱ってる流雨にこの感情を向ける事も出来ない


...私はただぎゅっ、と流雨を抱き締めている手の力を強める事しか出来なかった。


柚夏(もう失敗しない...。)


流雨「...本当に、」


流雨の掠れて振り絞って出す声が、耳元で自分の発する心臓の音と共にゆっくりと聞こえる。


流雨「...私で、...良い...の?」


...自分の耳を一瞬、疑った。


 急いで顔を上げて流雨の顔を見つめる。恐怖とは違った、怯えた瞳。流雨の顔は泣いた後で目と鼻が赤くなっていた...。


柚夏「...ううん、違う」


柚夏「私は、流雨が...良いんだよ。」


 時が止まったかのように流雨の瞳に吸い寄せられる。私は頬に左手を添えて、お姫様に軽いキスを贈ったのだった。


触れた唇が流雨の頬から離れていく。


柚夏「...続きは二人の時にその、」


柚夏「...ゆっくりしたいから。...今は」


...ぽりぽりと私は人差し指で左の頬を軽く掻きながら、流雨から視線を逸らす。


柚夏「...戻ろう。美紗達に助けて貰ったお礼しなきゃね」


左手を流雨の前に差し出しすと、流雨は一度手を添えて少しだけ考えるように手を引いて...。私の顔を上目遣いで見詰める。


柚夏「私は流雨と手を繋ぎたい。...駄目かな?」


その瞬間、流雨の指がそっと触れる感触がした。下を見つめたまま、目を逸らす流雨。


柚夏(...流雨が私の手を、...選んで...くれた。)


...口元の口角が上がる。...後でゆっくりと流雨と話をしよう。美紗達にお礼を言って、今はそうじゃなくてもまた流雨と友達に戻りたい。


...それは今からでもきっと遅くないはずだ。


柚夏(...今度は、絶対に離れて行かないように。解(ほど)けないような優しさを)


柚夏(お母さんの分まで流雨に捧げよう。)


 流雨はそれを受け入れるように、交互に指を重ね合わせて包み込むようぎゅっと手を握る。


柚夏(...少し、恥ずかしいけど...///、これがきっと一番離れられない繋ぎ方のはず。...だから...まぁ///、仕方ないよね。うん、仕方ない...。...///)


 流雨の顔を横目で見ると、繋がれた手を流雨はとても優しい顔で見ていた。


柚夏(...これが。...流雨の、笑顔)


初めて見た流雨の笑顔に、言葉に言い表せないような感情が胸いっぱいに埋め尽くされる。


それを悟られないよう、私は急いで視線を元に戻す。


...私が見てるのに気付いたら、多分いつもの顔に戻ってしまう。...そんな気がしたから。

 

柚夏(...それにしても、)


柚夏(...保健室前に、人が居なくて良かった...。)


勢いとはいえ、流雨を抱き締めたり...、キス...したり...///、、


 こんなの誰かにでも見られてたりしたら...、どんな顔をして校内を歩けば良いか分からない。


...というか想像もしたくない///。


柚夏(...私は一応今まで、真面目な人間として生きてきたし、そういう風紀を乱す人とは無縁で...。というか真逆の存在だったし、)


柚夏(そもそも、私だってまさか自分があんな事するなんてさっきまで思いもしてなかった。...う〜ん、)


柚夏(...今になって思い返すと結っ構...大胆な事...、したなぁ...。...いや、結構所(どころ)か、 かなりして...。)


 さっきの光景が今になってもんもんと思い浮かんでくる。「本気で...、...愛してるから。流雨の事を。」


...どんどん自分の口がアヒル口になっていくのが分かる。


柚夏(...だから、こういうの私は絶対似合わないから無理だって///!!)


...穴があったら今すぐ入りたい///。だめだ、だめだ...!! こんな顔では美紗に絶対会えないし、こんな気持ち悪い顔、見られるなんて一生の恥だ。


柚夏(というか、私のクールなキャラが崩壊する...///!!)


柚夏「...すー、...はー」


 二階に行く前までに落ち着くように私は深い深呼吸をしながら、流雨と一緒に二年生の教室へと戻っていったのだった。


※キャプション

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