①海編2【みさゆき】

美紗「じゃ、行って来まーす」


樹理「I'll see you later ♪」


と、樹理先輩は笑顔で上機嫌そうに向こう側で手を振ってくれてる。


美紗(...私がやっても、あぁはならないん

   だろうなぁ。樹理先輩ってほんと顔が

   良いから何やってても、可愛い...)


 私も笑顔で樹理先輩の方に手を振る。英語だから、正直何言ってるかよくは分かんないけど。多分、またね的なやつであってるよね...?


美紗「いえーす!!」


美紗(まぁ、取り敢えずイエスって叫んどけば間違いない気がする。うん!!)


 そう思って、樹理先輩に向かって両手を振りながら足で砂浜を踏むと


美紗「な、なにこれ!?...あっ、つ!?あっつ

   いんだけど!?足火傷してない?!」


ありえないくらいに砂浜が熱くなっていた。


 お昼時なのもあってか、熱しきった砂浜が私の足にダイレクトにアタックを仕掛けてきてる...、


...もう一度だけ。ちょんちょんと足を砂に付けてみたけど、これは...人がちょっと渡って良いものではなかった。


美紗「ま、まるでこれは熱した鉄板を

   歩いているような、それ的なあれを

   感じる...!!」


美紗「...んー、...どうしようかなぁ。海に入る

前においてきちゃったんだよね...サンダ

ル。...此処からテントまで距離、は...」


美紗「...結構、ありますねぇ...。」


 マッサージをしながら二人で会話している、雪音と朝乃先輩の方に目配せをしようと考えた瞬間に雪音と私の目と目がバッチリと合う。


美紗(...もう、これは私と雪音は運命の赤い糸

   で繋がってるとしか、...考えられないん

   じゃ...///)


美紗(困った時に意思疎通が出来るなんて...

   これは、運命的な何かを感じる...!!)


美紗(助けて、雪音...!!)


雪音「.....」


雪音(...私に、杏里さんのサンダルを取りに

   行かせるおつもりですか?)


雪音(....古池の一人娘である、この...私に?) 


美紗(...凄い///、もう話してなくても雪音が

   言いたい事が肌身で感じられる...///!!

それはもう!!全身で...///!!)


美紗(...これが、...愛///!!)


 息を深く、吸い込んで私は大きな声でこう、叫んだ。


美紗「...朝乃先輩ー!!すみません、サンダル

   持ってきて下さいー!!」


 朝乃先輩は驚いたように、こっちを見て雪音に何かを言いながら絵に描いたようなオロオロとした様子で


 急いでテントの方に走っていく姿は完全に大型犬のそれ、だった。


美紗(先輩、後ろ姿めちゃめちゃ可愛い

   んですけど...。ワンちゃんみたい...///!!)


 先輩は駆け付けるようにこっちに向かって走ってくる。はぁ、はぁと息を荒げて肩で息をしている朝乃先輩はサンダルを差し出し、少し苦しそうににこっと笑った。


朝乃「...み、...美紗ちゃん大丈夫?」


 明らかに大丈夫じゃないのは誰がどう見ても、朝乃先輩の方だ。


美紗「...いえ、朝乃先輩の方が大丈夫ですか?

   顔大分苦しそうですよ...?」


朝乃「全力で走っただけだから...、大丈夫だよ」


朝乃「普段運動してなくて...。」


と、朝乃先輩が足をぷるぷるさせながらとってきてくれたサンダルを履いて地面を踏むと、日陰においていたのもあってかまだ歩けるレベルになった。


朝乃「海水、冷たくて気持ちいわ...///」


 リラックスしてるときに出る朝乃先輩の口調にも、もう大分違和感を

感じなくなってきた。


美紗「本当、ビックリしました。砂浜が

   まさか歩けなくなるらいに暑くなってる

   なんて...」


朝乃「地球温暖化の影響を肌身に感じる

   ね。年々暑くなってる気がする

   ...、美紗ちゃんも日射病には気をつけてね」


美紗「でも、朝乃先輩のお陰で本当に助かり

   ました。一生懸命走って来てくれて、

   凄く嬉しかったです。ありがとうござ

   います、朝乃先輩」


朝乃「ううん、困ってる人が居たら助けるのは

   当たり前の事だよ。...でも、凄いね。

海栗や牡蠣がこんなに沢山...、これ全部

   美紗ちゃん一人で?」


美紗「いえ、樹理先輩と二人で採ったん

   ですよ。網がいっぱいになちゃった

   んで、お皿を貰って皆に配ってこようかな

   って戻って来たんです」


 朝乃先輩と二人で歩いて、雪音のパラソルに入っていくと...。いつの間に置いてあったのか小さい白い机も増えていて...その上にお洒落な紫色のジュースも置いてある...。


美紗「雪音ー、お皿貰っていい?」


雪音「紙皿と割り箸でしたら事前にテントの

   方にございますので、ご自由にお使い

   下さい。」


 雪音はすっかりリラックスモードなようで、サングラスに瞳を閉じながらパラソルの下。白い椅子に寝そべって、空を見ているようだ。


雪音「...本当に、杏里さんは瞳だけで何を

   考えているのかお分かりになられる

   のですね」


 雪音は確かに一瞬だけ、こっちに目を向けて。...そして、そのまますぐに青空を見つめてしまった。


雪音「...何も言わずとも。...私にそのような対

   応をなさるのは、貴女だけです。...

   そして、それに対して不快に思われない

   のも」


雪音「......」


 ...雪音も私に対して、何時もと違う対応してるのやっぱり気にしてるのかな...?そんなに気にしなくても良いのに。


美紗「...うん。ありがとう、雪音。でも、折角

   海に来たんだもん、雪音の好きなふうに

   すれば良いよ」


美紗「マッサージに夢中な雪音も可愛かった

   し、そういう意地悪なところも悪くない

   なって。...雪音ももっと、好きにして

   いいと思う」


美紗「だって、雪音は雪音なんだから」


雪音「...貴女が、...そういう返事をなさる

から...。...私にはそれが...どうしても

   、理解出来ません」


雪音「私は、模範でなければなりません。

   皆(みな)が見ているのは私ではなく

   古池を通して、見ている存在」


雪音「...このような私でも杏里さんは良いの

   ですか?...感情のない私でも。貴女は...」


雪音「....何でも、ありません。...今のは

   聞かなかった事に...」


美紗(...確かに最初はただの一目惚れだった

   のかもしれない)


美紗(...でも、...あの時の機械のように優しい

   雪音よりも今の素の雪音の方が絶対に、

   良いなって思う、)



美紗「私はっ!!古池、雪音が大好きだー

   ...っ///!!」



 私は出せるだけのありったけの大声で雪音が好きだと、海に向かって

叫んだ。


雪音「....」


朝乃「....、確かに今のははっきり伝わるね。

   ...でも私には恥ずかしすぎて出来ないかなぁ...///」


 隣に居た朝乃先輩がまじまじと感心したように顔を見られて、ぼっと身体が暑くなった。


美紗(...さ、...流石に大声で叫ぶと恥ずかしい////!!)


美紗「ゆ、柚夏達にも配って来なきゃだから///、

   またね、雪音///!!朝乃先輩も!!

   ありがとうございました///!!」


 雪音にそうとだけ言い残して、私は逃げるようにテントの方に向かって走って行った。


美紗(....あぁぁぁあ///顔から火が出そうな

   くらい恥ずかしい...///)


美紗(...でも。...えへへ、言えて良かった///)


※キャプション


 テントに戻ると、奈実樹先輩の方もまだ途中のようで...。取り敢えず

二人とも加熱した物を後で食べたいって言ってたから


奈実樹「それにしても、最近の若い子は積極的

    やねぇ...」


美紗「つい、勢いで...。あは、は...///

...此処まで聞こえてましたか///」


奈実樹「愛を伝えられるというのは良いこと

    やと思うけどなぁ、な?小栗はん」


奈実樹「うちも見習わななぁ...。」


小栗「確かにそうね、けど...あまり言い過ぎ

   なのも可哀想よ。この子、顔真っ赤じゃ

   ない...」


 急いでスマホとお皿と割りばしだけ貰って、私は柚夏と流雨さんの元へと急いだ。


奈実樹「あらあら、逃げられてもうた」


小栗「私も同じ立場だったら、そうしてるわ...」


※スライド


 柚夏と流雨さんがいる砂浜に走って、行くけど私はその前に、重大な事に気付いてしまった...。


美紗(柚夏の方に聞こえてたりしてたらどうし

   よぉぉ...///うぅ...///絶対、からかわれる...///)


美紗「ゆ、柚夏っ!!」


 そこには流雨さんのお腹を撫で回して、見たこともないくらい優しい顔で微笑んでいるゆずかーさんが居た。


美紗(...あ。...これは、大丈夫そうな予感)


美紗「柚夏ー...事案しちゃったの...?」


 がばっと、立ち上がった柚夏は息を荒げて肩を持ちながら弁解するように首を全力で左右に振っている。


柚夏「いや!!、まだっ。まだ何も

   してないから」


美紗「...まだ?」


 なんか、否定の仕方がガチでやってる人っぽいんだけど...。柚夏さん...本当にちっちゃい子に興奮するという...その、そういう趣味が?


柚夏「美紗は何か誤解してる!!、そもそも

   流雨のが私より年上だからね!?」


美紗「へぇ....。」


美紗「.....」


美紗「...って、流雨さん年上っ!?」


 流雨さんは砂風呂に興味があるのかな、寝ころびながら手で自分の身体に砂を掛けていたのを見ていた柚夏が軽く流雨さんに砂を掛け始めた。


柚夏「...これでも、二年生の先輩だよ。」


流雨「ん....」


美紗「....見えない、、」


柚夏「分かる」


美紗(...二人とも、砂熱くないのかな?)


美紗(ん...?)


 何か鋭い視線を感じて、そっちを見てみると

...隣に大きな蟹が、居る。


美紗「...何これ。...凄い!!蟹、だよね?」


柚夏「...流雨作、私は一切手出してない。

   まぁ。土を固めるのを手伝っただけだよ」


美紗「...クオリティヤバくない?才能があり

   過ぎるとかそういうレベルじゃない

   よ、これ?...本当に柚夏この蟹自体には

手出してないの...?」


柚夏「それには私も同感。流雨の腕は見て

   分かると思うけど、私が手を出したら

   邪魔する事になるってレベルだよ」


美紗「あの柚夏でさえも...。美術館とかに

   普通にありそう...流雨さん、スマホに撮って良

   い?」


柚夏「流雨、蟹。写真撮って良いかってさ」


流雨「...ん。」


 流雨さんは出来上がったものにはもう興味はないとでも言うように砂の掛かった流雨さんはとても満足そうに目を瞑っていた。


美紗(...職人!!私もこんな風に出来たら

   良いのになぁ...。)


 スマホの高校生アルバムというファイルに流雨さんの作った蟹の画像を保存して...、


柚夏「...パラソルは、無事に出来たようで」


 柚夏は流雨さんに砂を掛け終わって満足したのか再度立ち上がって、視線が朝乃先輩達の方に向かっている柚夏と同じ方向を私も見つめる。


美紗「うん、あれから朝乃先輩と一緒に作った

   から。朝乃先輩の方はまだ雪音のオイル

   塗ってるみたいだね」


 立派なパラソルの下で朝乃先輩が雪音のマッサージをしている。どうやら身体は終わったようで、今は腕の方をしているのかな。


 柚夏は朝乃先輩を観察するように顎に手を当てて何か考えるようにじっと朝乃先輩を見つめているようだけど...。


美紗(柚夏も興味あるのかな?)


美紗「朝乃先輩のお母さんがモデルさんの

   マネージャーさんでよく練習台にされ

   てたんだって。凄く気持ち良いみたい」


美紗「私もいつか、やって貰おうかな?

   今日は流石にもうそんな雰囲気じゃない

   し、頼めないけど...。」


美紗(朝乃先輩も疲れてるのか、なんか悟り

   を開いた顔してマッサージしてるし...)


柚夏「へぇ...、ちょっと興味あるかも」


美紗「肩揉みくらいなら私も出来るよ?」


柚夏「...、遠慮しとく。何か不安だし...」


美紗「不安?握力ないから折れる事はないから」


柚夏「...もう、その発言が怖いから。それより

   も何かあったの?」


美紗「あ、そうなんだ。ウニ採ってきたから、

   皆で食べようと思って」


柚夏「....」


柚夏「...ごめん、ちょっと。」


 柚夏は困惑した表情で、こっちを見る。


美紗「え?どうかした?」


柚夏「....」


柚夏「...いや、なんでも。...食中毒とか

   大丈夫?」


 やっぱり、柚夏も奈実樹さんや樹理先輩と同じように食中毒に当たるのを気にしてるみたいだった。


美紗「此処の海は汚染されてなくて、牡蠣も

   生食で取れるから問題ないって雪音が

   言ってたよ」


柚夏「これだけ綺麗な海なら確かに大丈夫だと

   は思うけど...。下水で処理しきれずに

   流れてしまったノロウイルス菌が貝に

   蓄積されてなるって店長も言ってた

   し...」


柚夏「...どうやって採ったの?」


美紗「トング借りた」


 そうやって話している間に、うにを割って黄色い身が出ている状態で紙皿を柚夏に手渡す。


柚夏「古池さんとは?」


美紗「朝乃先輩が奈実樹先輩に塗り終わって、

   2番目に雪音にオイル塗ってたから、

   その間に樹理先輩と2人で。はい、

   柚夏と流雨さんの分」


 流雨さんは急に立ち上がってまるで猫のように身体に付いた砂を揺すって飛ばした後、柚夏の隣にやってきた。


 柚夏は紙皿を受け取って、じっと紙皿を見ている流雨さんにまるでご飯を待っている猫に缶詰をあげるかのように黄色い海栗を見つめてる。


柚夏「けど、まさか...海で海栗食べれる

   なんて思っても無かったよ...」


流雨「うに...」


柚夏「あげるから、ちょっと待って...。実だけ

   取り出すから、...うにありがとね、美紗」


美紗「そういえばさっき雨宮先輩、サザエも

採れるって言ってた気がする。次は

   サザエにしようかな」


流雨「サザエ...」


柚夏「まだ採るの?」


美紗「うん、雪音にもっと喜んで欲しいから。

   樹理先輩も待ってるし一回スマホ預けて

   海に入ってくるよ」


柚夏「気をつけてね」


※キャプション


 サザエを取りに行く前に、雪音と朝乃先輩にも海栗を渡そうとパラソルの方に移動する。


 まだ、ちょっとだけ恥ずかしいけど...///。やっぱり、雪音にも食べて貰いたいから...。


美紗「さっきはありがとうございます、先輩。

   これ、お皿持ってきたので良かったら

   食べて下さい」


朝乃「え?良いの?わぁ...、家に持ち帰って

   母さんにあげたいな」


雪音「よければ輸送させていただきますよ。

   先ほどのマッサージとても良いものでし

   た。是非、お礼としてお送り致しま

   しょう」


朝乃「い、いえ。私は見返りとかそういう

   つもりで...、した訳では...ないので。

   ...釣銭が多すぎます」


雪音「でしたら、貸しという形にしておきま

しょうか。篠崎さんのお言葉もあること

   ですから」


朝乃「私が出来る事でしたら、喜んでお手伝い

   しますよ」


雪音「...私としては大変助かるので良いのです

   が、事前に何をしたらよいかなど。交渉

の際はすべきですよ?」


雪音「晴華さんが貴女の事を心配する理由も

   分かる気がしますね...」


美紗(雪音が他の人と普通に喋ってるのって

   初めて聞くかも...)


朝乃「晴華さんがですか?」


雪音「勿論、彼女だけではございません」


雪音「私としましてはお二人が仲がとても良い

   事で、微笑ましい限りです。貴女方の

   ような関係は私達には真似出来ない事

   ですから」


雪音「立場上、どうしても越えられない壁

   というものもありますからね。」


美紗(なんか懐かしいな、雪音のこういう感じ...)


雪音「私がそのように感じていなくとも、私は

   彼女達の恩人。本来ならば私と彼女との

   出会いはまずありえませんでしたか

ら...」


雪音「私では、その場には立てません。

   だからこそ、貴女には心から感謝して

   いるのですよ」


と、瞳を閉じながら上品に海栗を食べている雪音。...流石はお嬢様、海栗にも上品さを忘れる事はない。


雪音「美紗さんもお疲れ様です。流石はお母様

   にお出しするために養殖されている魚介

   類達ですね。とてもなめらかで、

   身もたっぷりと詰まっています」


雪音「美紗さんは、また海へ?」


美紗「うん、次はサザエをとってくるね」


雪音「流されてしまわれないように注意して

   下さいね。また、余った網は杭で刺し

   て海水に付けておくと鮮度が落ちません

   よ」


美紗「ありがと雪音、あ、あと。スマホは此処

   においておくね。先輩達に見てもらうの

   何か申し訳ないから...、」


朝乃「確かに奈実姉ぇは怒らせると怖いけど、

   世話好きだからそんなに気を使わなくて

   も良いと思うけどね」


 次はサンダルを近くに置いてから、海に入って、雪音から貰った棒で杭を打ち込んで網を掛けていると


 樹理先輩が泳ぎながらこっちにやってきた。


樹理「おかえりー、どうだった?」


美紗「...あ、お菓子の事。柚夏に言うの忘れてました...」


樹理「えっ」


※キャプション



サザエを発見して、網に入れる。やっぱり、この場所ビックリするくらい普通にサザエが落ちてる気がする...。


美紗(...確かに、サザエ取りは生まれて

   初めてしてる。...わけだけど)


美紗(いくら何でも普通はこんなに採れない

   っていうのは分かるよ...、雪音が来る

   から事前に用意されてたとか...?なのかな)


 形も大きいのが沢山落ちてるし、まるでどこから運んできたかのような...。


美紗(...まぁ、...皆で美味しいもの沢山

   食べれるし、...何でも、いっか!!)


美紗「ふーん、ふー♪」


樹理「あの二人、スタイル抜群だよね

   ー...」


美紗「...?」


 いつの間にテントに戻ってきていたのか、柚夏が先輩の隣に腰を降ろして、楽しそうにお話している。


美紗「奈実樹先輩と...、柚夏の隣に居る

   あの、色っぽい人ですか?」 


樹理「そうそう、小栗さん。私はあんまり

   小栗さんの事知ってる訳じゃないん

   だけど...、凄く綺麗な人だなって」


樹理「勿論、...私はナミのが好きなん

だけど...///えへへ///ナミ、私が作った

ブレスレットちゃんと見てくれて

   るよぉ...///」


美紗(...あの二人。)


美紗(...なんか柚夏が隣だとこう、...大人の

   怪しい関係に見えなくも...。子供(流雨

   さん)が寝てるうちに不倫してるなん

   て...)


美紗(...ま、顔だけヘタレじゃない柚夏さん

   に限ってそれはない、か。うん、あの

   柚夏にはそんな度胸なんて、あるはず

   ないもんね...)


 確かに、あの人は大人っぽくて綺麗な人だけど...。なんだか、近寄り難い雰囲気があって...今日初めて会ったからなのもあるんだろうけど...


美紗(何だろう...、あの人に近付いちゃ

   いけないような。そんな気がするん

   だよね...)


 それよりも、スマホから距離を離して打ってるの。


打ちづらくないのかな...?...目が悪くなるのを防止するため、...とか?


 その人が柚夏にスマホを手渡すと、柚夏は海岸に居る雨宮先輩の方を見てからスマホの画面を見始めて。しばらくすると


 その人にスマホを返して、呆れたような顔で腰を上げて立ち上がった。


美紗(...柚夏、雨宮先輩とメールで何か

   お話でもしてるのかな?)


樹理「...小栗さんの近くでナミがスマホを

   使ったら駄目やよって言ってたから

   何でだろって思ってたんだけど」


樹理「小栗さん。心臓の病気で、ペース

   メーカーを付けてるからなんだって、

   狛さんが言ってたんだ」


美紗「ペースメーカー...、あれって電波とか

   大丈夫なんですか...?」


美紗(...私、バリバリスマホ使ってました

けど...。本当に心臓の病気だったら、

   大変なんじゃ...)


樹理「だから、距離を離さないと気分が悪く

   なっちゃうんだって...大変だよね。

   小栗さん...」


樹理「狛さんはスマホの電源切ってるから

   出掛けてる時は何時も隣に座ってる

   って言ってたよ」


 確かに考えて見れば、あの人電車に乗ってる時も皆から少しだけ離れてた気がする...。


 避けられてるような気がしてたのはそういう事だったんだ...、


美紗「言って貰えれば全然、電源消すのに...」


樹理「自分のせいで楽しい気分を邪魔させたく

   なかったんじゃないかな...。小栗さん

   も、きっと」


美紗「んー...、でもそれで先輩が苦しんでる

   のは私嫌です...。...そんなのってない

   ですよ、そんなの...、悲し過ぎま

   す」


美紗「私だったら、全然何も思わないの

   に...。好きで身体が弱くうまれた訳じゃないですし...、」


美紗「最初から悪い人間なんて...どこにも

   居ないのに...。」


 皆理由があって、悪物になるんだって私が大好きだった本に書いてあったのを今でも覚えてる。


美紗(お父さんがキレてた時に破いちゃった

   から。...もう、読めなくなっちゃったけど...)


 お父さんも、捕まりたくないってお母さんに嫌われたくないって...。美紗が大好きだって...、ただそれだけだったのに


美紗「...誰も傷ついて良い、理由なんて、

   無いんです...どこにも...」


樹理「本当に美紗ちゃんは優しい子

   だね...、私もつられて涙が出て

   きちゃったよ...」


樹理「私も朝乃さんと、古池のお嬢様に

   伝えておくね。もしかしたら、ナミに

   叱られちゃうかもしれないけど」


樹理「小栗さんが辛い思いをするよりは、ね」


美紗「樹理先輩...!!」


樹理「いくよ、美紗ちゃん!!」


美紗「はいっ...!!」


※スライド


 さっそく樹理先輩と一緒に泳ぎながら海から上がって、海岸においておいたサンダルを先輩と一緒に履く...。


樹理「あ、サンダル持ってきてくれたんだ。

   ありがとう。美紗ちゃん!」


美紗「さっき砂浜に上がったとき凄く暑かった

   ので...、でも...勝手に持って

きちゃって...」


美紗(一応、奈実樹さんに聞いてはみたけ

   ど...。やっぱり、樹理先輩に何も言わず

   に勝手に持ってきちゃうのは良く

   なかったかな...)


樹理「ううん、サンダル履いててもこんなに

   熱いんだもん。それにまたこっちに

   来たら二度手間になっちゃう」


樹理「だからありがとねっ、」


 髪を解いた樹理先輩の金色に輝く長い髪が、水しぶきで光輝いてる...。それはまるで禁断の果実を知る以前のイヴの様に


 無邪気な、穢れなんて一切ないと思えるくらいのような...そんな光景だった。


樹理「...それに、もう美紗ちゃんは私の可愛い

   後輩なんだから。可愛い後輩が私の

   為に気を利かせてくれたんだよ?」


樹理「嬉しくないわけないよ、」


美紗「樹理、...先、輩?」 


 ...すごい、お顔が近いんですけども///金色の睫に、水色の瞳。近くで見ても、樹理先輩の顔すっごく可愛いなぁ...。


美紗(吸い込まれそうな綺麗な瞳...)


 サンダルを履き終えた樹理先輩は天使を思わせる満面の笑顔で笑う。...そんな悩みなんて、かき消してしまう程の笑顔に釣られて私も思わず微笑んだ。


樹理「本当にありがとね、チュッ」


美紗「....へっ///?」


...頬に、...柔らかな感触が残る。笑顔で微笑む、樹理先輩...。


....というか、今私っ、キス、された///!?


美紗「樹、理先輩!?キ、きき...!!

   キス///!?」


樹理「ん?」


美紗(ん?....じゃ、なくてっ///!!)


 樹理先輩はきょとんとした顔で、首を傾げる。いやっ、そんな何でそんなにビックリしてるの?みたいな反応されても...///!!


美紗「私には雪音がっ、...居ますから...///!!

   ...そ、そういう悪戯は...駄目なん

   ですっ///!!」


 物語に出てくる女の子みたいに可愛い樹理先輩からのキス...、嬉しいですけど...///!!嬉しいけど...///!!、その気持ちには答えられないというか何というか...///!!


樹理「....haha、haha!!」


樹理「違う、違うよ。これは大好きなお友達に

   するキス、腕とかは完全にアウトだけど

   スウェーデンではよくするの」


樹理「本当にありがとーー!!って時とか、

   会えて嬉しい時とか、ほっぺに喜びを

   表現するためにちゅってするんだよ」


美紗「...そ、そうなんですか?」


※フラグたててないと出ない

美紗(そういえば...雪音とデッサンしたとき

   勢いでキスしちゃったけど...。あれ、

   今思えば色々大丈夫だったのかな...)


樹理「うん、キスする場所によって意味は

   違っててね?これ聞くと皆何故か

   驚くんだけど、」


樹理「家族には愛情の印に挨拶として

   帰ってきたら、ハグをしてから口に

   キスするの」


美紗「情熱的ですね...」


 ...やっぱり、日本に居て良かったかも。母さんに付いて行ってたら。もしかしたら、そういうのも当たり前になってたのかな...。


樹理「好きって気持ちが直接伝わるし、私は

   全然良いけど...。ナミはキスすると

   複雑な顔するし...私、やっぱり魅力

   ないのかな...」


美紗「いや?、それはないと思いますよ?」


 実際、多分三年生の中で樹理先輩がぶっちぎりで一番可愛いと思うし...。奈実樹さん達はどっちかというと美人系だから...。


美紗(奈実樹さんも、キスに対してどう反応

   して良いか困ってそうだなぁ...)


※キャプション


美紗「雪音、今大丈夫...?」


 樹理先輩と一緒に雪音の居るパラソルへ...。日差しが遮るパラソルのなか、私は雪音の元に近寄る。


雪音「.....」


 真剣そうな表情で、これだけ近付いても私がいる事に雪音は気がついてないみたいだった...。


※イラスト


 何時もは隙なんてまったくない雪音が...珍しく、目を細めて遠い何かを見詰めるように、海岸を見つめてて...。


 サングラスの間から見える雪音のその綺麗な鼈甲色の瞳は何処か儚げで、今にも壊れてしまいそうで...。


美紗「雪音?」


 私はそれをどうにかしたくて、思わず、すぐ側にあった雪音の細長い手をその手に取ってしまった。


雪音「どうかいたしましたか?」


と、ようやく私の声に気付いたのか、雪音は顔をあげて私の方を少しだけ驚いたように見詰めてる...。


美紗「どうしたの?雪音、ぼーっとして

   たけど...」


雪音「いえ、...大した事では...。

   それよりも私に何かご用でしょうか?」


樹理「朝乃さんも!!」


朝乃「え?私も...?」


美紗(雪音の事は気になるけど...、うん。

   今はこっちが優先だよね...)


※スライド


樹理「狛さんからは内緒にしておいて欲しい

   って言われたんだけど...。でも、小栗

   さんの事でどうしても伝えておきたい

   事があるんだ...」


美紗「私からも、是非知ってて欲しい事だった

   から...」


雪音「どうやら、...急用を要する事態なご様子

ですね。良いでしょう、すぐにお話を

   お伺い致します」


と、雪音は身体を起こしてから、白い椅子の上に体制をむき直して上品に座る。その隣で朝乃先輩が何事かといった様子で立ったまま驚いた顔をしていた。


樹理「小栗さん、実は心臓病みたいで...小栗

   さんの近くでは出来るだけ機械を使わ

   ないようにして欲しいの...」


美紗「私からも、お願い雪音。...誰かが辛い

   思いをしてるのは嫌だよ...、」


樹理「特に朝乃さんっ!!小栗さんとナミから

   離れてスマホしてねっ!」


朝乃「あっ、え、そうだったんですね...。

   心臓病の人が居たんだ...、後で謝って

   おかないと...」


美紗「私も知らなかったから...、せめて

   今からは使わないようにしなきゃと

   思ってて...。」


朝乃「って、えっ!?、奈実姉ぇもペース

   メーカーしてたのっ

?」


樹理「...してないけどっ!!、ナミから

   離れてっ!!」


雪音「なる程...、その事でしたか...。」


 雪音がふっ、と溜め息を付くと周りが静かになった。


 ...やっぱり、雪音の発言は何というか重みがあるというか


皆ちゃんと聞かなきゃって思うのかな...?


美紗「その事とは」


朝乃「...そんな、ネットで検索する時に書く言葉

   みたいな言い出し方の方が私、少し気に

   なるかな...」


 と、ちょっと面白かったのか朝乃先輩は頬を緩めながら視線をそらしてる...。シリアスは出来るだけ破壊しておきたいから、嬉しいけど...。


美紗(...でも、...そんなに完成度高く

なかった...、、)


雪音「...いえ、山鹿(やまが)様がペースメーカーを

   お付けになられている事は

   存じておりますが...」


美紗「雪音、知ってたの!?」


美紗「ええぇぇえええええ!!」


雪音「...リアクションをなさる反応、若干...

   遅くないですか?」


 私てっきり知らないと思ってたから、結構思い切って言ったのに...!!


美紗(...あと、リアクション若干遅い時あるからハムスタ

   ーみたいってのは確かによく言われ

   る!!)


雪音「事前に雨宮様からお伺いしています。」


樹理「って、事は...朝乃さんも知ってて...?」


 樹理先輩は朝乃先輩の事を信じられない物を見たような目で見つめながら一歩下がる。その樹理先輩の目を横目で見ながら私は思った。


美紗(...こんな時にあれだけどっ、今の樹理先輩

   の瞳、ちょっと...ドキっとする...///)


 いや、そういうんじゃなくてっ!!、...普段可愛い人が、こう...。普段見せない、素顔を見せた姿...みたいな...?そういうの...///!!


美紗(それを察した、雪音の突き刺さる

   視線が...!!私にっ...///!!)


 ...それに、そういう表情ってある程度、仲良くないと見せてくれないものだもん...///


正直、二度手間だったけど...。樹理先輩のそういう表情が見れたから良かったのかな...?


朝乃「いやっ、初耳ですよ!?」


樹理「....」


朝乃「本当ですって!!」


美紗(朝乃先輩達、仲良いなぁ...。)


朝乃「いや...けど確か、ネットニュースで

   15cm距離が離れていれば大丈夫

   みたいな記事を読んだ事があった気

   が...」


朝乃「...でも、マスメディアはガセネタの場合

   も無きにしもあらずなのでちゃんと

   そういうのは聞きますよ...。」


雪音「なるほど...報連相が見事に機能していません

ね。事業ではあまりにも致命的

   です」


雪音「今のペースは昔の物と違い少しの磁場なら問題ないとは聞きますが、精神的にもしかしたらという場合もあるでしょう」


 二人の様子を見ていた雪音は立ち上がり、朝乃先輩と樹理先輩はきょとんとするようにその様子を見つめてる。


雪音「そうですね...。一括送信で、山鹿様のみ

   クローズし、送信なさったら良ろしい

   のではないのでしょうか?」


美紗「...えっと、スマホもってない柚夏は

   どうするの?」


雪音「彼女はスマートフォンをお持ちでは

   ないのでしょう?お教えする必要性を

   全く感じません」


美紗「そうやって仲間外れが出来上がって

いくんだよ...、雪音...」


雪音「必要がございましたら致しますよ。

   彼女ももう、ご存知のようですから

   必要はないでしょう」


雪音「兎に角、雨宮様にはそのように

   後程フィードバックをお送り致します

   ね」


美紗「はーい」


美紗「...ん?」


美紗「何か、良い匂いする...クンクン、」


樹理「美味しそうなお味噌汁の匂い...。」


 美味しそうな匂いのする方向を見てみると、柚夏が金網の上の鍋の中をかき混ぜて出汁の味見をしていた。


美紗「柚夏の料理!?柚夏が何か

   作ってるの!?」


 もうそれだけで期待、大だよ!!柚夏のお味噌汁なんて、いつぶりだろう...!!


美紗「わぁい...っ!!」


朝乃「そんなに、芽月さんの料理って

   美味しいの?」


美紗「めっっっちゃ!!、美味しいです...!!」


 最近はお菓子が多いけど、柚夏の料理は舌が唸る程に美味しい。くゆにも柚夏の料理を一度だけ分けてあげた事があったけど、


「どこの店で売ってたの?」って聞かれたんだよね...。柚夏が作ったんだよって言ったら次の日にくゆが同じもの作ってたなぁ...、


朝乃「そんなに美味しいんだ...」


雪音「それは楽しみですね。あれだけの量が

   あれば皆さんに配る分も作っていらっ

   しゃるのでしょう」


樹理「味覚がクレイジってる朝乃さんには

   多分、味なんて分かんないと思う

   けど...」


朝乃「クレイジってる...新しいですね、

   チャットで意外と流行りそうかも

   しれないです」


樹理「味覚障害を治す努力!!ちょっとは

   ナミの事も考えて!!」


 また樹理先輩と朝乃先輩が喧嘩してる...。普通、嫌な相手なら話さないもんね、樹理先輩と朝乃先輩は本当に仲良しさんだなぁ...。


美紗「樹理先輩と朝乃先輩は本当に仲良しさん

   なんですね!」


樹理「どこがかな!?」


朝乃「でも、そんなにハードルを上げられる

   芽月さんの料理が楽しみだよ」


美紗「...味は私が保証しますっ!!」


朝乃「あはは、大きく出たね」


美紗「本当に美味しいですからね!!」


樹理「でも、狛さんが言ってた火を起こし

   てくれる人って、美紗ちゃんのフレンド

   さんの事だったんだね」


美紗「あっ、でも火が炊けたって事は...

サザエとか牡蠣も焼けますよ!」


樹理「丁度帰ってきたところだし、ベスト

   タイミングだね!!美紗ちゃん!!

   私達も貝を焼きに行こ?」


※キャプション


 皆で柚夏と合流して、事前に用意していた網に海栗と牡蠣を乗せて少し時間が経った頃...。


柚夏「どう調理するってくだり、結局最初から

   私に押しつける気満々だったんじゃ...」


 樹理先輩と交代で火の番をしながら、柚夏のお味噌汁を食べようと歩いていると柚夏が何か愚痴っていた。


美紗「何の事?」


 パチパチと火が鍋を焦がす音が何だか懐かしい。キャンプファイアーとかで山に行った事を思い出すなぁ...。


 お母さんが居るときはお父さんも本当に優しくて、その時だけは本当の家族みたいで、凄く楽しかったから...


柚夏「いや、こっちの話...。あの男装した

   先輩と色々合わなくてさ...、まぁ...

嫌いという訳ではないんだけど...なんと

いうかね...」


美紗「えー、でも、あの人良い人だよ?

   面白いし、私は好きだなー」


柚夏「謝礼として、パシり扱いしてくる先輩

   を良い人だと思いたくない...」


美紗「あー、ね。仲良しの人だと気を使わ

   ないタイプの人なのかな?でも、それ

   だけ仲良しって事なんじゃない?」


 柚夏がついでくれたお椀と箸を受け取って、ふー、ふーと湯気に息を掛けてからお味噌汁を啜る。


美紗「...ふぅ」


 身体の中に温かいものが流れてくる...。...はぁ。...凄く、優しい味、...ちょっと、しょっぱいけど...でも、...何だか落ち着くな


柚夏「どう?海だからちょっと濃いめにして

   みたのだけれど...」


美紗「この鯵...、凄く美味しいね...。身が

   引き締まっててなんか違う気がする...!!」


柚夏「...鯵なんて入ってないけど」


....ぐっ、魚の種類はあんまり知らないから、思い付きで魚の名前を言ってしまったのが柚夏にバレた...!!


美紗「....」


美紗「...思い付きで言いました。すみません」


柚夏「よろしい、これは鯛。」


美紗「でも!、味噌の出汁が効いててすっごく

   美味しいよ!!柚夏の作る料理は本当に

   最高だもん!!」


柚夏「まぁ、身が引き締まってるのは正解

   かな。さっと湯通しして余計な脂を

   落としてから煮込んでるから...」


樹理「こっちも焼きあがったのから皆自由

   に取って食べてねー」


美紗「ソーセージとかもある...!!」


柚夏「はいはい...、行ってらっしゃい」


 ほっかほかのご飯の香りと、美味しそうな匂いに釣られて三年生の先輩達の傍に行ってみると丁度野菜が焼き終わった後だったのか、


 奈実樹さんが大きくて美味しそうなソーセージを焼いている所だった。


美紗「わぁ...、大きいソーセージ...!!」


新しいお皿を持って、野菜を取っていると奈実樹さんがトングで私のお皿の上にソーセージを乗せてくれる。


美紗「えっ、その...!」


手際よく、奈実樹さんはソーセージを裏返しながら隣で玉葱を取り出して金網の上で焼いてる...。


美紗(...凄いなぁ) 


奈実樹「ふふ、丁度、焼き上がったとこさかい

    出来立てやよ」


美紗「あ、ありがとうございます...///」


お皿に盛り付けられたキャベツをもぐもぐと食べていると、なんか何時も食べてるキャベツと味が違って柔らかい気がする...。


...これ、春キャベツかな?


美紗(このキャベツ、甘い味がする...。)


 くゆが生のキャベツ好きだから、何かすっかり詳しくなちゃったな...。


 そのまま、ソーセージも入れたいけど...うーん。流石に行儀が悪いかな...?


樹理「あはは、美紗ちゃん頬張りすぎだよ」


美紗「...らっへぇ、...全部おいひ

   ...くてっ///!!」


奈実樹「慌てんで、ゆっくり喋ったら

    ええんよ」


 口に含んでたお肉達をゴクリと、飲み込んで口を開く。


美紗「だって...!!、どれも本当っ、すっごい

美味しくてっ...!!」


奈実樹「料理作っとる身からすると、美紗

ちゃんほんまかわええわぁ...」


樹理「好きなだけ、食べても良いんだよ?

   ほら、美紗ちゃんがとってきた

   サザエもー」


と、樹理先輩は笑顔で次々にお皿にサザエを置いていく。ほくほくのサザエの白い身が湯気を立てて...


美紗「はふっ、はふっ」


 口の中に入れて、噛んでみるとぷりっとした食感が口の中に広まっていった。


美紗「ん~...///、美味しい物がいっぱい

   食べれてしあわしぇ...///」


奈実樹「余ったとこはいちご煮にしよか。

    ふふっ、人数が結構おるから作りがい

    があるな」


美紗「苺を入れるんですか...?」


樹理「青森県名物で、アワビとうにを

   使った名物だよねっ。うにの卵が

   赤みがかってるからそう言われてる

   の」


美紗「へー、お吸い物...、」


奈実樹「よく勉強しとるな」


樹理「えへへー///、残りの貝は鍋にしちゃおうかなー」


美紗「体重とかは今日は気にしない方向で

   行きますっ!!!」


※スライド


 お肉やお野菜を食べ終わって、満足した私はふっと、柚夏の事を思い出して...


 柚夏の方を覗いてみると魚を捌いてる柚夏の姿が見えた。


 その姿は真剣そのもので何をしてるのかなーっと覗きこんでみると...。


美紗「わぁ、ガチな奴だ...!!」


 木の箱舟に綺麗に並べられたお魚がまるで旅館で見るやつみたいに頭付きで飾られてる!!


柚夏「あったから、してみたんだけど...、

   ちょっと...やり過ぎたかな...」


美紗「柚夏、三年生になったら調理いった

   方がいいよ!!絶対才能あるって!!」


柚夏「私が...?」


美紗「うん!!絶対上手くいくと思う!!

   柚夏が作る料理なら、私いくらでも

   出せるよ!!」


柚夏「ははっ、いくらでもって」


 勿論、柚夏は絵も上手だし、そっちに行きたいって言うのなら別だけど...。なんていうか、折角料理の才能があるのに凄く勿体ない気がする。


美紗「それにこれなんて、もうプロの人

   みたいだよ!!スッゴく、綺麗...!!」


持っていたスマホで写真を撮って、ファイルに保存する。...帰ったら、柚夏が作ったって晴華さんにも送って...、


柚夏「...そんなに、かな」


 スマホを触っている私の顔を見つめている柚夏の瞳がどことなく、寂しげに思えた。


美紗「そんなに、だよ。これ、食べても

   いーい?」


柚夏「まだ食べるの?」


美紗「うー、んまい!!」


柚夏「食べるの早いなぁ...」


※キャプション


美紗「.....」


 お腹がいっぱいになって、もう少し片付けも手伝いたいけど...。凄い、眠い...、


美紗「.......」


柚夏「美紗、そろそろ終わるし、もう後は

   私がやっておくよ」


美紗「ううん、私いっぱい食べたから...最後

   まで...手伝わないと...。柚夏ばっか、頼ってちゃいけないし...」


柚夏「...頼ってよ」


美紗「...え?」


 柚夏さんから、普段じゃ絶対に聞き慣れない言葉が出てきた気がする...。


柚夏「海栗とか、サザエとか取ってきて

   くれたでしょ。そのお礼」


柚夏「...そんなので怪我でもされたら、

   嫌だからさ。私」


美紗「怪我してるのは柚夏の方だけど...」


柚夏「良いから、代わって」


と、柚夏は金網を持ち上げてブラシで擦り始めた。なんかよくわかんないけど、助かったのかな...?


美紗「んー...無理、限界...」


柚夏「え、ちょっ美紗大丈夫!?」


と、ふらふらと地面が青い所まで何とかたどり着いたとこで私の意識は途絶えたのだった。


※キャプション


美紗「ん...、んぅ...?」


 のそりと、身体を起こして...。目を擦ると...、近くにはまるで眠り姫のように眠っている樹理先輩の上に...


流雨さんが覆い被さって眠ってる...。


美紗「...私、寝ちゃってたのかな、」


 ぐあぁぁ...と欠伸をすると...。鼻につーんとした海水のしょっぱい匂いが鼻腔に貫通してきた...。


美紗「...磯の臭いがっ、は、鼻に...っ!!」


美紗(そ、そうだ...。私海に来て、...あれから

  疲れて寝ちゃってたんだ...。うぅ...折角、

  皆で海に来たのに...、勿体ないなぁ...)


 涙目で鼻を抑えて、しょっぱい匂いに耐える...。...うぅ...鼻が、痛い...。


美紗「...はぁ、えらい目にあった...」


 傍にあったハムスターのキーホルダーの付いているスマホを手に取って、たったさっきまで皆でバーベキューをしてた場所を私は振り返る。


...鼻を抑えるのも忘れて、ただぼーぜんにその光景をぼんやりと、まるで夢を見ているかのようにその光景を見ていた...。


美紗「...無くなちゃってる、」


 さっきまで美味しそうな玉葱やソーセージを焼いていた網は銀色に磨かれ、そこにはただの無機質で綺麗なステンレスが置かれているだけ...。


美紗(...当たり、前。...だよね、寝てたんだもん

  ...、そっか...皆が私が寝ている間に片付け

  をしてくれたんだ...)


美紗(...確か寝る前に洗うの、柚夏が代わって

  くれたんだっけ...。...柚夏には後でお礼

  言っておかなきゃ...後は...、...何だっけ)


美紗「...時間、今...何時、」


 近くにあったスマホの電源を付けて、ホーム画面を見ると...


美紗「え"っ、...16時00分!?」


 ...時間が、大変な事になってしまっていた。


美紗「...2時間経ってる!?」


樹理「んー...ナミぃー...」


美紗「あ、ご、...ごめんなさい...、」


樹理「んん...、」


美紗「....」


むにゃむにゃと。流雨さんに下敷きにされてる樹理先輩は幸せそうな顔をしながら寝言を言ってる...、


美紗(大丈夫だった...。のかな...?)


 すぅすぅと、寝息を立てて寝てる二人を起こさないようにそーっと...


 立ち上がると、向こうの方で日傘を差した雪音が皆とお話をしておるみたいだった。


美紗(雪音...。皆と集まって、何のお話してる

  んだろう...)


※スライド


 砂浜を走って、ゆっくりと皆に近付く。...急に入っていっても話についていけないだろうし...、んー...、困ったなぁ...。


美紗(というか寝ちゃったし、)


美紗(...結局、雪音とあまり関われなかった

  けど...。でも...皆と絡めたから、それは

  それで良かったの...かな?)


 何を話してるのかは此処からじゃ、よく分からないけど...、雪音の手が首元の近くを掴もうとしてるのが見えた...。


 ...もしかして、...マフラーを掴もうとしてる...?


美紗(雪音...。...何か、不安になる事でも

  あったのかな)


 ...雪音の不安は取り除いてあげたいけど、雪音が何を不安なのかは私には想像も出来ない...。


 私が一番されて、落ち着く事って何だろう...


美紗(...怒られるかもしれないけど、...うん!

  それでも良いんだ...、雪音の存在が少しでも安心出来るんなら...私はそれで良い)


美紗「雪音っ、皆と何お話してるの?」


 雪音の日傘に当たらないように、私はそっと、雪音に後ろから抱き付く。ぎゅっと瞳を閉じて...。


美紗(あくまでも自然に、っと、)


古池さん「杏里さん...、おはようございます」


美紗(あれ...?雪音、怒んないんだ...。)


美紗「おはよう、雪音。寝ている間にすっごい

   時間過ぎちゃってビックリしたよ...。柚夏だって起こしにき

   てくれても良いのに」


美紗(あれ?...もしかして本当に...夢?)


 雪音は何も言わずに、抵抗もせずそのまま立ち止まっているだけだった...。


柚夏「自分で起きなさい。16時30には

   帰るからね、だからあと、美紗には30分

   しか残されてないね...」


 そんな中、柚夏の声ではっと我に帰る。そっか...もう、2時間しか時間残ってない。


ゆっくりと雪音から離れて、私は柚夏の言葉に耳を傾ける。雪音が不安を感じていた事が、柚夏にバレないように...。


美紗「うぇー!!そんなぁ...!!」


美紗「...んー、でも過ぎた事は戻らないし、考えるだけ時間が勿体ないから...。」


 でもせめて最後には心に残るような事がしたいなぁ...。海でしか出来ない事...、


美紗「じゃあ、せめてっ!海!!最後に泳ごう

   よ!!」


※スライド


柚夏「うーん...そうだなぁ...」


柚夏「流雨を起こしてあげたいけど...。それだ

   と副会長もきっと、起こしてしまうだろ

   うし...どうしようかな...」


奈実樹「樹理に後で泣きつかれても、困って

    まうさかい...。うちからも起こして

やって、もらえへんかな?」


 奈実樹さんにそう頼まれてしまった柚夏は、そう、ですか...?、でしたら...。と軽く戸惑いながら柚夏は息を吸い込んで大きな声で流雨さんを呼んだ。


柚夏「流雨ーっ!!」

 

 柚夏の声が届いたのか、少し経ってから流雨さんがむくりと身体を起こし始めると同時に樹理先輩の身体もぴくっと動く。


 流雨さんが起き上がると、樹理先輩は完全に目を覚ましたのか、慌てて身体を起こしてさっきの私と同じようにスマホを持って固まっていた。


美紗「...あぁー、さっきの私見てるみたい...」


※スライド


 慌てたように急いでこっちに走ってくる樹理さんと鉢合わせして...。


 樹理先輩と一緒に海に走っていくと、何故か途中で柚夏から足止めを食らう。


柚夏「...ちょっと、待った!!」


美紗「えっ、何、柚夏?」


美紗(少しでも、失った時間を早く

   取り戻したいんだけど...)


 柚夏の切羽詰まった声に、私と樹理先輩は足を止めて振り返る。まるで学校の先生みたいな柚夏の言い方に何か軽ーく、嫌な予感が...。


美紗「残りの時間も、もうあんまり残ってない

   から、早く入りたいんだけど...」


樹理「私も美紗ちゃんの意見に賛成!!」


美紗「もう良い?柚夏、私達、先行くよ?」


 柚夏は私が寝てる時、皆と何か色々遊んでたみたいだけど...。私達はずっと寝てたんだよ?今遊ばなくて、いつ遊ぶの...!!nowでしょ!!


柚夏「...二人とも、何か忘れてません?」


柚夏「海に入る前には必ずすべきことが

   あるのを」


美紗「すべき...」


樹理「事...?」


 海に入る前にすべき事...?、なんだろう...。水着に着替えるとか...?いや、でも...もう着替えてるし...。


柚夏「準備、体操です!!」


美紗(...うん。多分、長くなるし、うに採ってた

  時してなかったのは柚夏に黙っとこっ)


※キャプション


 柚夏監視管が監視する中、樹理先輩と五分くらいでちゃっちゃっとストレッチを済ませてから海に入る。


美紗「冷たっ」


 あんなに暑かった砂浜ももうそこまで暑くはなくなっていて、海の中も最初に入った時よりも随分、冷たく感じた。


樹理「慣れれば、そうでもなくなるよ」


美紗「樹理先輩は平気なんですね」


樹理「スウェーデンは日本の北海道と同じ

   くらい寒いんだって。だからなのかも」


奈実樹「せやけど、女の子が肌を冷やしたら

    あかんよ樹理」


樹理「じゃ、じゃぁ...!!ナミにくっ付いたら

温かくなるかも...//」


 と、樹理先輩は奈実樹さんの傍に寄って、恋人のようにピッタリと寄り添っている。んー、やっぱり二人とも仲良さそうなのになぁ...。


雪音「杏里さん、随分お早かったのですね」


美紗「雪音、お待たせ」


 雪音達はもうラジオ体操をしてたみたいで。先に浸かってたんだけど、泳ぐというよりは歩いて海を見てるような感じだった。


美紗「うん、大分カットしたから」


雪音「私は拝見しておりますので、お二人とも

   最後の思い出に泳がれては如何

   でしょうか?」


美紗「良いの?」


雪音「何故私に許可を取る必要があるの

   ですか...?」


雪音「杏里さんがしたい事は杏里さんご自身の

   意志です。自分の人生はいつ終わりを

   迎えるかは自分でさえも知ることは

   出来ません」


雪音「...後悔を、しない生き方こそ。人生では

   ないのでしょうか。運命を人に委ねてはいけませんよ」


美紗「後悔を...しない、生き方...」


樹理「美紗ちゃん、一緒に泳ごっ」


と、樹理先輩が笑顔で手を握って引っ張ってくる。


 私は最後に一度だけ雪音の方を振り返ってから、樹理先輩のその誘いに乗って残りの時間を最大に楽しんだのでした。


※キャプション


美紗「お疲れ様でしたー」


雪音「お疲れ様です」


樹理「随分寝ちゃったけど、最後に思いっきり

   遊べて楽しかったね。美紗ちゃんっ!」


美紗「はいっ!うに取りとか、サザエ取り

   も凄ーっく!楽しかったですっ!!」


樹理「美紗ちゃん。ちょっと、ごめんね」


美紗「樹理先輩?」


と、海水から出ると同時に樹理さんと向こう側に居た朝乃さんがブルブルッと、ワンちゃんのように身体を振るわせて海水を飛ばしてる...。


美紗「何だかんだ言ってても、やっぱり、

   二人とも仲良しさんなんですねっ!」


樹理「...ん?なになに?何のお話?」


 思いっきり遊んで...。楽しかった海での時間もあっという間に終わり、電車に乗り遅れないうちに皆で雪音の別荘の中に入ろうとホテルの方へ向かっていくと 

 

 朝に案内をしてくれた人が雪音の別荘の前でタオルを持って立ってくれていた。


案内人「お疲れ様でした、皆様。本日は

    お楽しみ頂けましたでしょうか?」


案内人「シャワールームは、彼方となって

    おります。一度タオルで身体を

    お拭きになられましたら、ご案内

    させて頂きますね」


 と、案内人の人はタオルを皆に配り終えると瞳を閉じてピンと姿勢を伸ばしたまま目立たないようにしている。


美紗(...すごい、なぁ)


案内人「皆様、ご準備は宜しいでしょうか...?

...では、ご案内させて頂きますね」

  

※スライド


美紗「ふぅ...」


 シャワーを浴びて、海水を洗い流して蛇口を捻った。


 ポタポタと零れ落ちる滴に再度、きゅっ、と最後まで蛇口を捻る。


美紗(...いや、...ちょっと私今、凄い事

   気付いたんだけど...。さっき、雪音、

   隣の個室に入ってたんだよね...)


美紗(壁一枚向こうでは雪音のぜ、ぜ、ぜ

   ぜん、...生まれたままの雪音がいらっ

   しゃって...///?)


 ぼんやりとした影からでもわかる美しい雪音の女性らしいスラッとしたライン。


 結ばれていた髪を解いたのか、セミロングの長さに変わった後。暫くして、影は湯気と共に消えてしまった。


美紗(人生は...上手くいかないように

   出来ていると思う...)


ガチャッ...


美紗(雪音...?)


 どうしたんだろ...、私の気配を感知したにしては雪音の反応が早すぎる気がする...。


 そもそもそういう理由だったら、私の隣でシャワーを浴びるなんてまずないだろうし...、


美紗(...それに今日の雪音、...何だか、

   無理してるような...そんな感じ

もしたし...。)


雪音「後悔をしない生き方こそ。人生では

   ないのでしょうか」


美紗「やっぱり、雪音の事気になる...」


美紗(...後悔、したくない。)


 着替え終わって、すぐに更衣室を出て部屋の中を早足で歩く...。...何で、こんなに広いんだろう...、


※キャプション


雪音「...」


美紗(良かった、...見つけた!!)


 一枚の絵画を見ながら、雪音はその絵画に吸い込まれるかのように見入っていた。


美紗「...ゆき、」


...あの時、調理室で見た雪音の儚げな表情。これが雪音の大事な人との思い出である事に、私はすぐに気付いた...。


美紗「....」


美紗(...あの絵、多分...雪音の大好きだった、

   雪音のお婆さんが描いた絵かな...。)


 雪音の傍に近付いて、額縁に飾られた大きな絵画を正面から覗くと...


 その絵には目を奪われる程の美しい...女性が居て...、


美紗(なんて...、綺麗な絵なんだろう...)


 この絵を見ただけで何をモチーフに描かれた物なのかなんて、すぐに分った。


美紗(...大人になった、雪音の絵...、)


 右翼だけの翼に深い慈しみを感じる優しい黄金の瞳をした女性が絵の中で幸せそうに微笑んでいる


 見ているだけでも「温かさ」というか、深い愛情が伝わってくる...。そんな絵だった


雪音「...私はこの絵が完成するのがとても楽しみ

   でした。ですが、この絵は絶対に

   完成する事はなくなってしまった...。」


雪音「それは...作者である祖母が他界して

   しまったためです。不完全だからこそ

   の魅力、とは一体何なのでしょう...」


雪音「....」


雪音「...杏里さんにはこの絵を見てどのように

   感じましたか?」


雪音「どうか...杏里さん。貴女の言葉で、

   私にお聞かせ下さい、私と祖母に...」


 雪音は額縁に飾られた絵を一度だけそっと触れると、瞳を閉じてそう私に問いかける。


美紗「....うん」


美紗(色んな言葉は思い付くけど...、どれも

   何か、違う...。雪音にちゃんと伝えな

   きゃ...)


美紗(お婆さんの、この...、、気持ち...。

   ...この絵に込められた思いをなんとか

   形に...どうにか言葉に...)


美紗「....」


 閉じていた雪音の黄金の瞳が、開くと同時に雪音のお婆さんが描いた絵とまったく同じ優しい顔で雪音は微笑む。


美紗「えっ!?」


 目を擦って、再度...雪音のお婆さんが描いた女神の絵を見る。...一瞬だった、けど...絵画の絵が雪音と重なって見えた...。


美紗「...雪、音?」


雪音「どうかなさいましたか...?」


美紗「...この女神様、...なんだか雪音に

   似てるかも。目元とか特に...」


雪音「お婆様がお描きになられた絵画が...

私に...ですか...?」


美紗「...これ、赤い首輪の鈴の付いた黒猫

   の絨毯は雪音の嫌いな物だし、

   お菓子の沢山入った籠は雪音の大好

   物でしょ?」


美紗「それに、後ろには白いトロイの木馬

   まである...」


雪音「...ビアンカ、」


美紗「この絵は、雪音のお婆さんが雪音の笑顔

   を想像して描いたものなんじゃないか

   な...」


美紗(...これが、雪音のお婆さんの集大成...)


 雪音のお婆さんの生き甲斐は...雪音、そのものだったんだ...。猫をモチーフにした絨毯も、お菓子が沢山入った籠も...。全部...全部、雪音との記憶で、感情のピースで...。


美紗「雪音が幸せになれるように、願いを

   込めて...。雪音のお婆さんはこの絵を

   描いている事自体に意味があったん

   じゃないかな」


雪音「...幸せ、ですか」


雪音「富と地位があれば一般の方よりは、確か

   に幸せなのかもしれません。私は恵まれ

   ています、...私は」


雪音「...私は、...本当に幸せなのでしょうか?」


 お婆さんが描いたイラストを俯きながら見詰めている雪音。少し、寂しいけど...私の幸せは雪音の幸せではきっとないはずだから...。


美紗「...ううん、...それは私じゃなくて、

   雪音が感じる事なんだよ」


美紗「雪音が幸せに疑問を感じてたら、それは

   何処かに不満があるって事何じゃない

   ?」


雪音「...不満、ですか?」


美紗「不完全だから、人生って楽しいんだな

   って。...私は思うんだ」


美紗「楽しいも、嬉しいも苦しいや悲しいが

   あるからこそ、あるんだって。普段の

   勉強は辛いけど、今日は雪音と遊べて」


美紗「私、凄く楽しかったよ。」


雪音「私も...です...」


雪音「...杏里さんの言葉に変換すると...楽し

   かった、のだと思います...。」


※キャプション


雪音「此処は、お婆様が最後に描かれ

   た未公開の絵が飾られた場所です...。」


雪音「...そして同時に、お婆様が最後の時を過ごした

   場所でもあります。」


雪音「お婆様もきっと、大変喜ばれて居る

   ことでしょう。賑やかなパーティーなど

   がとても大好きな方でしたからね」


美紗(...あ、雪音が何時もと様子が違ったの

   って...お婆さんとの思い出を誰にも邪魔されたく、なかった

   から...?)


雪音「あの方のお言葉は例えどんな些細な言葉

   でも受け止めておきたいですから」


 雪音は絵画から離れ、綺麗な動きで頭を下げる。


雪音「気付かせて頂けて、...心から感謝して

   います、...いえ、このような場合は」


雪音「ありがとうございます、とそのように

   おっしゃるのでしたね」


 顔をあげた雪音は朝会った時とは別人のような穏やかな表情で微笑んでいた。


美紗「う、うん...」


 こんなに素敵な笑顔で笑ってるのに...。


...ねぇ、...どうして?


美紗(...どうして。雪音はそんなに、...寂しそう

の...?)


雪音「私を追いかけるのも良いですが、髪が

   まだ乾ききっていませんね。」


美紗「あー...そうだね。急いで雪音を追い

   かけてたから...しっかり乾かしきれて

   なかった、かも...」


 髪に触れてみると、確かに雪音の言ってる通りに髪が少し...湿ってた。


美紗(...んー、後でちゃんと乾そっと...)


雪音「お慕いしている方の前では身だしなみは

   しっかりとなさるもの、そのように

   お婆様もよく仰っておりました」


雪音「...せめて、私の前ではそのような事は

   当たり前にして頂きたいものですね」


美紗「雪音...!!」


美紗(私の事...、認めてくれたんだ...)


美紗「うんっ!!これからは気をつけるね。

   雪音っ!!」


美紗「よーしっ!!そうと決まれば、早速っ

   !!すぐに凄く綺麗にとかして、雪音に

   褒めて貰うね」


美紗(頑張っちゃうぞーっ!!)


雪音「....」


雪音「皆様とのお時間も大切になさって

   下さい。あなたの長所は

   その、素直さなのですから...」


※スライド


朝乃「あぁっ!!美紗ちゃん...!!

   生乾きな美紗ちゃんだわっ...!!」


 更衣室に戻ってくると、真っ先に目が合った朝乃先輩が凄く嬉しそうにドライヤーを片手においでおいでと手招きする。


 身体を左右に動かしてるのと一緒に朝乃先輩の長い自慢のピンクの耳がぴこぴこと動いているのが、まるでワンちゃんみたいで可愛いと思った。


朝乃「美紗ちゃん、今からドライヤー掛けよう

   としてる?だったら私にさせてもらえな

   いかしら?」


 ご機嫌お嬢様モードの朝乃先輩はドライヤーのコンセントを差しながら、上機嫌そうに犬歯を見せてにこにこと笑っている。


美紗「え、良いんですか...?」


美紗(以前、お母さんにもして貰ったし普通は

こんなにしてもらえないよね...?いいの

   かな?)


朝乃「どうぞ、どうぞ!さっ、さっ...!!

早くしましょう?」


 何か急かされてるのがちょっと気になるけど...、私は朝乃先輩のテンションに圧倒され、大人しく椅子の上へと座った。


美紗「...あ、朝乃...、先輩...?」


 クンクンとうっとりとしたように目を閉じながら髪軽く持って、髪にドライヤーを掛ける先輩...。


朝乃「...くんくん」


 いや、その...ちょっと...それにしても...匂いちょっと...嗅ぎすぎな気が...。


美紗「えーと...、先輩何を...」


朝乃「んー、...この話をすると止まらなく

なっちゃうけど良いかしら///?」


美紗「何も聞かない方が多分、怖いので...」


朝乃「此処で使われているシャンプーが

   プレミアの高級シャンプーで、

   超レア物で限定販売しかされてない

   シャンプーなのよっ!!」


美紗「...シャン、...プー?」


朝乃「晴華様がモデル雑誌でちょこっとだけ

   喋ってたんだけど!!」


朝乃「幻のシャンプーとして、都市伝説に

   なってたの!!まさか、こんな処で御目

   にかかれるなんて...!!どうにかして

   古池様と交渉できないかしら...、でも」


朝乃「牡蠣を送って貰って、追加でこんな事

   頼みづらいわね、いや、でも...あ

   ぁ!!!どうしても、欲しい!!

   はぁん...///晴華様の香り...///」


美紗(朝乃先輩、私の髪の匂いを嗅いでたん

   じゃなくて、シャンプーの匂いを嗅いで

   たんだ...。...いや、でも...理由が分か

   っても...)


 鏡に映る朝乃先輩のうっとりとした視線と、興奮したように髪に鼻を寄せている朝乃先輩の姿が、本当に...。


美紗(見た感じが...変態さんにしか

見えな...、)


美紗「確かにこのシャンプー、とっても

   良い匂いすると思ってたんですよね、」


朝乃「そうなのよ!!やっぱり分かっちゃうわ

   よね?で、このシャンプーには...」


美紗(...朝乃先輩が楽しそうだから、それで

   いいのかな?)


 前から朝乃先輩の髪ってすっごく、ふわふわしてるなって思ってたけど、その理由がはっきり分かるくらい成分の説明を一から説明しだしたのだった...。


※スライド


美紗(...あ、此処)


美紗(...さっきの絵があったのって、此処

   を曲がったとこだよね...?)


朝乃「それで、晴華様は毎日シャンプーの

   匂いが違うのよね///。その中で一番頻度

   が高い匂いがまさしくあのシャンプー

   なのよ///!!」


美紗「へぇ、...そうなんですね」


 物覚えの悪い私にしては珍しく、何故かはっきりと雪音と二人で見た絵画が飾ってあった場所だけはしっかり覚えていた...。


美紗(...急いで捜してたから、道もあまり覚え

   てないはずなのに...。)


 ...なんだか、...無性にあの絵を最後に一目見ておきたいようなそんな気分になってくる。


美紗(んー...、...どうしても

さっきの絵が気になる...)


 確かにあんな思いの籠もった素敵な絵なんて、中々見れるものじゃないっていうのはあるけど...。...なんで、こんなにも気になるんだろう。


朝乃「美紗ちゃん?」


美紗「あ、すみません...、ちょっ

   と...!!忘れ物しちゃって、

   すぐに戻ってきます!!」


 ...あの、絵の元へ。まるで、引き寄せられるように私はあの絵の元へ向かっていた。


美紗(部屋の間取りは覚えれなかったのに、何故かこの絵の場所は分かる...、)


美紗「...雪音との海、楽しかったな」


 雪音がこうやってさっきこの絵を触っていたのを思い出しながら、私は優しく絵画を撫でる。


美紗(なんだろう...、この絵を撫でてると

   凄く安心する...。これが...心の籠もった

   絵の力、なのかな...)


美紗「...雪音は、家族から凄く愛されて

   たんだね。」


 今だからこそ、分かるんだ...。私がずっと憧れていた光景と欲しかった物とは全く違ってたんだって事。


美紗「でも...家族以外の愛情もちゃんとあるん

  だ。この世界には、本当に沢山の感情

   が溢れてる」


美紗(...私は、生まれてくるべきじゃ

   なかったって。ずっと思ってた...、)


美紗(それをどうしても、否定したくて。...

ただ、自分の理想の世界だけを見続けた    

   ...)


美紗(...夢を見るのは楽しかった。現実の

   何にも出来ない自分をそれで忘れる事が

   出来たから)


美紗(私にとって、お父さんからもお母さんか

   らも必要とされてない現実なんて、もう

   ...どうでもいいかなって思ってた)


美紗「...でも、あんな真っ暗だった私の

   世界に色をくれた人達が居てくれた

   んだ...。」


美紗「...その人は、こんな私なんかの為に

   怒ってくれた。...こんな、私に生きて

   欲しいって言ってくれた」


美紗「色褪せた、灰色の世界にも色があった

   事を...教えてくれた。」


美紗「そんな、...掛け替えのない愛に満ち

溢れてるこの世界を私は雪音に

   見せたいなって...思うんです。」


 まるで、この絵を描いた人が生きてるかのように...。私は話し掛ける...。


 だって、この絵の残した思いは紛れもなく、今も尚生き続けているのだから。


美紗「...だから、貴女が見ていた世界が、

   こんなにも素晴らしいと言う事を...。」


美紗「...雪音が貴女の愛に気付くその時

   まで、待っていて下さい」


 私が貰った自慢の絵の具はとても綺麗な色を持っているから、その日が来るのもきっとそう遠くはないのだと私は思うから。


美紗「あ、...先輩達、待たせてるんだった!!

   急いで戻らないと...!!」


※キャプション


美紗「...お待たせ、しましたっ!!」


 急ぎ足で待ってくれてる先輩達と鉢合わせして、先輩達の顔を見渡す。樹理先輩に朝乃先輩、奈実樹さんに...、流雨さん...。


美紗(...柚夏は私が帰ってきた頃には更衣室に   

   居なかったし、雪音は群れないし...。

   今、思えば私だけ一年生...?)


美紗(先輩達、皆優しいから全然気にはなら

ないけど...)


流雨「.....」


美紗(...それにしても、流雨さん一人

   なの珍しいかも...。いつも柚夏が側に

   居るのに...)


朝乃「...あ、美紗ちゃん。おかえり、

   忘れ物は見付かったのかしら?」


美紗「はい...!!あ、でも...ごめんなさい、

   皆さん待ってもらちゃって...」


朝乃「いいえ、実際そんなに待ってないわ。

   帰る前に忘れ物に気付けて本当に

   良かったわね、美紗ちゃん」


樹理「勿論っ、私も全然気にしてないよ?

   朝乃さんが美紗ちゃんを苛めたら

   私が絶対許さないんだからね!!」


奈実樹「朝ちゃんはそんな事しいへんし、

    それに、そないなずっとじゃれとって

    電車に乗り遅れてもうち、知らへん

    よ?」


 朝乃先輩に嫉妬して、何かと噛み付く樹理先輩に呆れ顔で助け舟を出す奈実樹さん。奈実樹さんは流雨さんを連れて先に歩いて行ってしまった。


樹理「あ、...置いてかないでナミー!!」


美紗(どっちの気持ちも分かるけど...。奈実樹

   さん普段は優しいのに樹理先輩に対して

   厳し過ぎる気は...)


美紗(普段は怒らなそうなくらい温厚な人

   なのに、何でなんだろ...?)


美紗「朝乃先輩も大変ですね...」


朝乃「大変なのは両方の関係じゃない?」


美紗(....た、確かに!!)


朝乃「それでね、さっきのシャンプーの匂い

   が凄く良いじゃない?実はそれには秘訣

   があるのよね...///」


美紗「そ、そうなんですか...」


美紗(ずっと思ってたけど...朝乃先輩、

   修羅場慣れ過ぎじゃ...)


朝乃「えっと...興味なかった、かな...?

   一人だけ楽しんじゃってごめんね?」


 怒られた子犬のようにしゅんと眉毛を下げる朝乃先輩。先輩は笑ってはいるけど、その瞳はとても寂しげなものだった。


美紗「いいえ!!そんな事ないです!!私は

   先輩の楽しそうにお話してるとこ

   大好きです、シャンプーのお話も」


美紗「気になりますし...、先輩と話してると

   癒されるなーって...思ったんです」


朝乃「そ、そうなの...///?最近、あまり

   褒められてなかったから嬉しいわ...///」


美紗「....いえ、わりと本気で癒やし系

   ですよね。先輩って...」


美紗(だから奈実樹さんも庇ってあげたく

   なっちゃうのかな...、先輩は多分あれ

   なんだと思う。母性本能をくすぐら

   しちゃう系女子...!!)


 尻尾を振っている先輩の笑顔が、褒められたワンちゃんみたいなんだよね...。


※キャプション


樹理「な、ナミ...ごめんなさい。言い過ぎた

   から...その、...お話して下さい...」


と、樹理先輩はすぐに奈実樹さんに駆け寄って手を握りながらうるうるとした瞳で奈実樹さんを見つめる。


 当事者じゃない私にも樹理先輩が本当に悲しそうな顔をしてるなっていうのは分かるんだけど...、


樹理「...ナミとお話出来ないの、

  ...辛い、...です」


美紗(え、えっと...。さっきのから、1分も

   経ってないんだよね...?)


奈実樹「...ふぅ、...まぁ反省しとるんなら

    えぇけどね。...謝るんならうちや

    なくて朝ちゃんちゃうん?」


美紗(...奈実樹さんも、あっさり許しちゃう

   んだ)


と、溜め息をつきながら奈実樹さんは立ち止まる。確かに樹理さんにあんな顔されたら、許しちゃうのも分かりますけど...。


美紗(仲直り早)


樹理「...ごめんなさい。」


朝乃「えっ、あ...私は気にしてなかったんで

   全然、あっ、はい...」


 心なしもなにもなく、本当に気にしてなかった様子の朝乃先輩。...まぁ、良いことなんだろうけど...、それはそれで...樹理先輩も気になるようだ。


美紗「良かったですね、先輩」


朝乃「いや...、本当に気にしてなかった

  のよ...?樹理さんには奈実姉ぇが

   お似合いだと思うし...美女同士で」


樹理「それ本当!?」


朝乃「え、えぇ...。ファッション雑誌の

   ゴシップ記事に出てくる美男美女

   のようにお似合いと思うわ」


美紗(例えが、...的確に致命的っ!!)


樹理「えへへ、そうかな...///だって、ナミ。

   ナミもそう思う?」


美紗(今の、まさかほめ言葉として...

   受け取ってる!?)


美紗(...樹理先輩、...凄いなぁ。)


奈実樹「樹理はまだ分かるけどな、うちは

    ほぼ一般人やから、それには当て

    はまらんからね...」


 奈実樹さんに寄り添って、ぎゅっと嬉しそうに腕を握る樹理先輩。そんな積極的な樹理先輩に対して先輩の耳が少しだけ


 赤くなってるように見えたのは、きっと気のせいなんかじゃないんだろうなぁ...。


樹理「それにしても、お風呂綺麗だったよね。

   ナミっ」


奈実樹「そうやね...」


 ロビーに出ると真っ先に流雨さんが奈実樹さんの手から離れて、とてとてと早足で柚夏の元に向かっていく。


柚夏「流、流雨...?」


 すると、ソファーの上で座ってた柚夏の上にちょこんと流雨さんが座った。柚夏に撫でられて目を閉じる流雨さん...。


美紗(...流雨さん。目を閉じて凄く、幸せ

   そう...)


美紗(私もあんな風に出来るのかな...、雪音を

   幸せに...。雪音のお婆さんにも出来な

   かった事を私が...)


美紗(...ううん、...あの愛を簡単に終わらせ

ちゃいけない。私が今、此処にいられる

  のもその愛があったから、だから...)


...そのことを雪音にも、...知ってほしい


美紗(一度回った歯車が止まらないっていうけ

れど...。雪音の感情もいつか雪解け水

のように流れてくるはずだよね...!!)


 冬が過ぎたら春がくる...。物語にいつか必ず終わりが来るように、永遠に終わらない冬なんて、ないのだから...。


美紗(...でも、...雪音の感情が雪だとするなら、

今まで溶けなかった理由ってなんだろ

  う...?)


 →雲が邪魔してる 

 →太陽がない



 →雲が邪魔してる 


美紗(...雲が雪を溶かすのを、...邪魔

してる?)


美紗(雪音の雲と言ったら、雪音が感情を

   無くした原因の誘拐事件...。それは

   私にはどうしようもないけど...)


美紗(太陽はあるんだ。雪音のお婆さんが

   太陽だとしたら、...雪音にとっての

太陽と雲の違いってなんなんだろう)


美紗(雪音は太陽が分からない、だったら...。

雪音にとっての雲。雪音の太陽と雲を

区別する違いって何...?)


美紗(愛情と相反するもの、...悪魔と天使?

   ...と言ったら、7つの美徳と

7つの大罪...その違い...)


美紗(...あ、そっか。...欲望、下心だ)



  →太陽がない


美紗「雪音のお婆さんの存在が雪音にとって

   太陽なのは間違いないと思う」





 ...もし、雪音にとって愛が理解したくても、分からない存在で。未知の恐怖で...、人の欲望と愛情の区別がついてないんだとしたら...。


美紗(あの時キスで雪音が私と縁を切ろうと

   したのは、私の欲望に対して危険と

   感じから...?)


美紗(キスして貰えて好きかもしれないって

   欲望を雪音が嫌悪していたか

   ら...?)


美紗(...自己愛と隣人愛、同じ愛でも全然

   違う。水着が見たいのは雪音だけに

   向けた感情だから...?)


美紗(下心のなかった素直な水着を見たいは

   雪音にとって欲望じゃなかった...?)


美紗(んー、よく分かんないなぁ...。でも、

   今の雪音がお婆さんの事を思い出して

   て余裕がなさそうなのは分かるよ...)


美紗「あ、雪音ー」


 雪音をぎゅっと抱き締めて、...すぐに離れる。大好きな友達にするハグのように、そして少しでも私の気持ちが雪音を元気にしてくれたら...。


美紗「...挨拶のハグっ」


 すると、雪音は少しだけ驚いたような顔をして。どういう顔をしたらよいか分からないといったような困った表情をしていた。


雪音「...杏里さん」


雪音「...」


雪音「...では、皆さんお帰りになられる

     準備は宜しいでしょうか?」


雪音「忘れ物などは無いようでしたので、

     そろそろお暇いたしましょう。」


雪音「長井さんにもご迷惑が掛かってしま

   いますから。皆さん、本日は大変

   お世話になりました」


 雪音が挨拶を終えると同時に、沢山の大人の人が高校生の雪音に対して深く頭を下げて見送りをし始める。


 雪音が去るまでの間、その人達はずっと顔を上げることなく頭を下げ続けていた。


美紗(....雪音はずっと、こんな視線の中で

  生きて来たのかな...)


 外に出てすぐのところに雨宮先輩と小栗さんを見付けて、全員集まった所で雪音のお家のヘリがやってくる...。


??「お嬢様、お時間で御座います...」


雪音「はい、把握しています。先生は

   もういらしておりますか?」


美紗「雪音っ、...今日はありがとう。

   とっても、楽しかったよ。また、

   後でメールでお話しようね」


雪音「...そうですね、またメールでお話

   をしましょう。...杏里さん」


 そうして、雪音はヘリコプターに乗ってすぐに帰っていってしまったのだった...。


美紗(雪音、本当忙しいのに...今日、無理して

来てくれたのかな...)


※スライド


雪音「「貴女と居るとお婆様と過ごした時

    を思い出しました。今日は本当に

    ありがとうございます。杏里

    さん」」


雪音「「本日はこれで、終わってしまうこと

    をどうかお許しください。ご無事

    に到着する事を祈っております」」


 メールを読み終えて、スマホの電源を切る。家に帰ったらゆっくり雪音の返信を考えようとそう、思った。


美紗「楽しかったですね、海!」


樹理「寝ちゃったのは少し、残念だったけど

   行って良かったよ!」


美紗「はいっ、本当に雪音には感謝

   ですね...!!えへへ、楽しかったなぁ...」


柚夏「...美紗。もし私が寝てたら、

   駅着いたら声掛けて...。美紗だけだと

   不安なんで朝乃先輩もお願いします...」


美紗「えー...、私だってちゃんと覚えてるよ」


朝乃「アラーム掛けておくよ、晴華さんの

   動画聞いてるから。そこは安心して」


柚夏「....」


美紗「....」


美紗(....んー?、...何か、忘れてるような)


美紗「...あっ、お菓子の事そういや話して

ない...!!」


樹理「えっ」


 ガタンゴトンと、寝ている柚夏を片目に。電車に揺られて...先輩達とお喋りをしながら私達は皆それぞれ家に帰っていったのでした。

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