第二十三部「大切なあの子」【ゆずるう】


柚夏(朝乃先輩に教わった道のりで

   正しければ、確かこの辺りのはず

   なんだけれど...。)


柚夏「あっ、...此処かな?」


 骨董屋の扉の前には大きな植木鉢や金魚鉢があったり 様々なボタンやらアクセサリーなどの小物が箱に入れられ積み重なっている


 ショーケースの中には置物や硝子物なんかもあったりして、文房具店というより"なんでも中古買い取り屋"みたいな感じだった。


柚夏「まぁ新品のより助かるかな。

...絵の具が出れば良いんだけど」


 それ以外にもどんな用途で使うのか分からない大きな木彫りの熊や、机なんかも置いてある


柚夏(掘り出し物とか何かないかな)


柚夏「流雨はこういうところに来たこと

   ある?」

流雨「文房具とかはあるけど...」

流雨「こういうところはないかな」


と座りながら鉢植えのメダカを見る流雨。

中身よりそっちか


お爺さん「そのメダカはお客さんから

     頂いたものなんだよ。お嬢さん」


 と優しそうなお爺さんが店の奥から出てくる。なんか地域交流って感じ 小学生の時にこういうのよくあったよね


流雨「キラキラしてる」

お爺さん「ラメ入りのメダカだね。黒いのとか

     白いのとかいるんだよ。それは白」

流雨「ラメ入りとかあるんだ...」

お爺さん「他にも色んな色があるみたい

     ダルマとか」

柚夏(店員さんには人見知りしないのか...)


柚夏「どうも」


お爺さん「お連れのお兄さんは何をお捜しで?」


柚夏「あー...。私これでも女なんです。

   ...学校で絵の具を切らしてしまって」

柚夏「白の絵の具を捜しているんですけど、

   使えるやつってありますか?」


お爺さん

「そりゃすまんかったなぁ。もう年取ると分からなくて」

お爺さん「絵の具ならいくらでもあるよ。お客さんの言う通り使えないやつもあるかもしれないけど」

お爺さん「こっちにおいで。」


お爺さん「学生さんは此処最近じゃあんまり見掛けなくなってね、昔は沢山来てたんだけど」


柚夏「あぁ 無理に付いてこなくて良いよ」

柚夏「気になるならそっちを見てて。絵の具を

   見てくるから、流雨は店の周りをゆっくり見てるといいよ」

柚夏「付き添いに誘ったのは私だし」


流雨「うん...」

柚夏「ただ店から出ないでね。外は見てて

   良いけど」

お爺さん「仲の良い姉妹じゃなぁ」

柚夏「いや、あの...友達です。どっちも高校生...」

柚夏(しかも向こうのが年上)

お爺さん「凄い身長差だね」

お爺さん「てっきり兄弟かと思ったよ」


柚夏「やっぱり変ですかね。」

お爺さん

「男らしい女の子だって居ても良いと思うぞ。

 ただお前さんはもうちょっとしゃきっと

 せなあかんな」

柚夏「仰る通りですね...、」


 とお爺さんと会話をしていると、


 ふと横に飾ってあった藍色の和服を纏った日本人形と目が合う。


柚夏「...るー...、ちゃ」


柚夏(...違う...。凄い似てるけど... "目"が

違う。服の色とかも微妙に...。)

柚夏(...同じ人が作ったやつかな)


お爺さん「...ん?その人形が気になるのかい??」


 人形の下に書かれた数字を見てみると、小さな紙で2,5000と書いてある。


柚夏「昔買って貰った人形とよく似てて...」

柚夏「もう捨てちゃったんですけど。

   こんな所にあるなんて...」


柚夏(2万5千円...学生の私にはお高い...。

   いや、でも人形としたらめちゃめちゃ

   安い)


柚夏「目とか服は違うんですけど...

   捨てちゃった事、...凄い

   後悔してるんですよね。」

柚夏「あ、いや...すみません途中で止まって

しまって」


お爺さん

「お客さんお目が高いね~。その人形、普通はそんな値段で売ってないんだよ。知り合いの人が亡くなってその遺品にあった物だから」


お爺さん「大事にしてくれる人ならそのくらいの値段で売ってくれって頼まれてね」

柚夏(亡くなった人の遺品...。)


 ...吸い込まれるようなこの瑠璃色の瞳。なんて綺麗なんだろう、...忘れもしない、私はあの目に恋をしたんだ。


柚夏(亡くなった人のやつだけど、別に

  大切に扱うなら大丈夫だよね...??)

柚夏(別に事故で亡くなった訳でもないし)


 その人の友人ってことは結構お年が召されてるはずだ。ちょっと怖いけど、 それより『欲しい』という気持ちの方が上回っていた。


柚夏(...確かにこの目は 本物の瑠璃)


お爺さん「だから少し値も張るんだけどね。

     それでも安いんだけど、ほぼ

     瑠璃代」

お爺さん「瞳には特に気合い入れてるから

     って」


お爺さん「絵の具はそこに沢山あるから好きなのを選ぶといい。ただちょっと開けないと怪しいのもあるから」

お爺さん「まとめて300円で売るから好きなやつ持ってきな、違う色(やつ)でも5つくらいなら良いよ」


柚夏「ありがとうごさいます、助かります。」

お爺さん

「間違えたお詫びだよお詫び。お茶とか飲んでくかい??」


お爺さん「若い子がこういう所に興味を持ってくれてる事が嬉しいんだよ。絵の具の方はよくわからんから、力になれんくてすまんの」


柚夏「いえ、画材もあまり傷んでいないみたい

   ですし...次から此処で買っていこうと

   思います。」


お爺さん「それがいい。学校からもそう遠く離れとらんしな、わしは奥におるから」

お爺さん「買うものが決まったら呼ぶといい。もう歳じゃし」


柚夏「はい、色々ありがとうございます」


柚夏(...まずは先に用事を済ませるのが先か)


柚夏(これ、学校のと殆ど変わらない...)

柚夏(しかもほぼ新品...。それにこの画材...

  朝乃先輩が持ってたのと似てるし、

  普通にありだな)


 蓋は開いてるけど、中身はそんなに乾いていないし 開けてからそこまで時間は経ってなさそう


柚夏「よし、これにしよう」


お爺さん「貸してごらん。包んでおくよ」


柚夏「あっ、ありがとうございます...」


 と店内を整理していたお爺さんが気を利かせてくれたのか 画材を新聞紙で包んでくれるようだ。


 画材と絵の具の方はお爺さんに任せて、さっき見付けた人形の前で立ち止まる。


柚夏(...それにしても、この人形...)


 藍色の服を身にまとった美しい黒髪の人形はあの時と変わらない笑みで微笑んでいた。大事に飾られてたんだろう


 こっちまでその気持ちが伝わってくる。というかめちゃめちゃ綺麗なのだ

、汚さないように丁寧に使われた証拠


柚夏(けど、るーちゃんを放って

   おいて...他の人形を買うなんて...)

柚夏(でも...同じ人形なんてもう二度と会えない

  かもしれない。こんな出来が良ければ

  他の人に買われるかもしれないし...)


流雨「...柚夏、」


柚夏「......。」


流雨「柚夏...??」


柚夏「...え...あ、いや、...ごめん。...この人形、

昔大事にしてた人形にそっくりでさ」

柚夏「思い出してたんだよ...。...色々

   懐かしくて、」


流雨「...ラピスラズリ。」


お爺さん

「この人形も3年前までは普通に売られてたみたい

 だけど、お察しの通り今はあまりなくてね。

 確か...原価は5万円くらいだったかな?」

お爺さん「これを買った奴がそう言ってた気がする」


柚夏「ぐらいはしますよね...。...子供に

   5万の人形か...。...捨てなければ

良かったな...」


 父親は金持ちだったからそこまで痛手ではなかったんだろうけど...


柚夏(今の私からすれば、結構大金...。)


 ...あれでも昔は私を愛してくれていたんだろうか。あの人に誘惑されるまでは...


柚夏(...まぁ、仮にそうだったとしても

   あいつのやった事は許せないし。浮気を

   するやつは人間としてどうかと思う。)


柚夏「ごめん、流雨」

柚夏「もう少しだけ見てて良いかな?」


流雨「ん...。」


柚夏(この人形を見てるとお父さんの   

   事も思い出すんだけど)

柚夏(それにしても...相変わらず可愛い...。

ずっと見てても飽きないだろうけど...)

柚夏(...流雨を待たせ過ぎるのもちょっとな)


15分ぐらい見つめて、やっと決心が付いた。一生飾るのなら2万5千は安いものだろう。


というか最初から答えは決まっていたんだけど


柚夏(...今は買えないから お金が貯まったら

   買いに行こう。)

柚夏(買いたい家具があったから貯金してた

  けど、今のお金だと少し忍びないし)


また会いに行くから。それまでに買われてたら縁がなかったと思うしかないか...


柚夏「お爺さん、此処って予約とか出来ますか?」


お爺さん

「出来るけど、すまないねぇ。...実はその人形たったさっき買い手が決まったばかりなんだ」

お爺さん

「欲しいって言ってきた人がいるんじゃよ。その人なら大事に扱って貰えると思うし、お金もちゃんと貰ったから。」


柚夏「そうなんですか...。...でも、それなら

   しょうがないですよね、」

柚夏(まぁ...商売だもんね...。)


柚夏(先に非売品かどうか聞いておくべきだった...。

   買えない物に長く悩んで、流雨を待た

   せてしまって本当に申し訳ない...)


お爺さん

「それだけ縁があるなら多分また会えるよ。ある日突然人形の方からお前さんに会いに来たりしてな」

柚夏(それはそれで恐い。)


 ...でも、逆にこれで良かったのかもしれない。大事に扱ってくれそうな人だし


まぁ 今回は縁がなかったって事で。


柚夏(私より可愛がってくれる人ならそっちの

   方が幸せだもんね。...また見ることが

   出来ただけでも、良かったって思わないと)

柚夏(他にもあるかもしれない)


お爺さん「本当にすまないね。こっちの方でもその人形を捜しておくから、また来てくれると嬉しいのう」


※黒スライド


柚夏「待たせちゃってごめん、流雨は

   何か欲しいものあった?」


流雨「...うん。...買った」


柚夏「もう買ったんだね。良かったら

   見せて貰ってもいい?流雨は

   何が気に入ったの?」


 流雨の興味有るもの...ってなんだろう。硝子細工?それとも置物とか?


流雨「メダカ...」


柚夏(メダカ...。そういえば流雨って魚が

   好きなんだっけ 毎日鮪のおにぎり

   食べてるくらいだし)


柚夏「あれは 多分売り物じゃないと

思うけど...(人から貰ったって言ってたし」

流雨「家にいるから...いい」

流雨「ただ、あぁいう種類のも居るんだな

   って」


柚夏「...そっか。でも流雨の欲しいものが

   見つかって良かったよ」


流雨「あの人形...。」

流雨「思入れあるの??」


柚夏(ずっと見てたからやっぱり、

   気付いちゃうか...)


柚夏「...あの人形は、小さい頃お父さんに

   買って貰ったやつだったんだよね。」

柚夏「"お父さん"とは思ってないけど」

柚夏「それでも、結構大事にしてたやつ

   なんだよね」

柚夏「人形趣味なんて意外だと思うけど...」


流雨「私もあの人形は良いと思ったし」

流雨「人形趣味の人がいるから人形は

   売れるんだよ」

柚夏(確かにその通りだ。...人形

   趣味っていうのはちょっと

   差別的だったかな。)


柚夏「流石に子供の時みたいに連れ回したりは

   しないけどね、飾っておきたいというか」


柚夏「流雨は待つの嫌じゃなかった...?」


柚夏「折角連れてきて貰ったのに面白く

   なかったらごめんね。こういうのって」

柚夏「 好きな人って人によると思うし」


 無言の沈黙...。...でも私にはその沈黙が凄く 気まずかった、何を喋ろう


退屈してないかなとか 私と居て楽しいのかなとか そんな考えばかり浮かんでくる。


柚夏「普通の人はこうやって悩んだりしない

   よね。私と居て楽しい?とか買い物

   見てて自分だけ楽しんでて申し訳ないとか」


流雨「柚夏が楽しかったら良いんじゃない??」


柚夏「.....、」


流雨「楽しい事は"辛い事"だと思ってない??

   別に良いじゃん。」

流雨「自分だけが楽しくても」

流雨「『他の人』が楽しくなくても。」


流雨「人生楽しんだ物が得する世の中だと

   思うよ。それで"楽しくない"と思う人は

   相性が良くないから。」

流雨「あんまり付き合わない方が良いと思う」

流雨「《相手にとっても自分にとっても。》」


流雨「相手が"つまらなかった"って決め付ける

   のは良くない。直接聞かない限り

   相手の心なんて分からないのだから」

流雨「人は人の事を簡単に嫌いになるし、

   別に"その人じゃなきゃいけない"っていう

   理由もない」

流雨「柚夏は私と居て楽しかった?」

柚夏「....。"楽しかった"けど...」


流雨「じゃぁ、それで良いでしょ。他に悩むこと

   ある??」


柚夏(流雨は"楽しかった"のかな。なんか凄い

   言動をはぐらかされた感あるけど...)

柚夏(何か思うことあったのかな...)


柚夏「お昼ご飯、食べに行こっか。」


これ以上萎えさせてもあれだし


 少し気になる気持ちを抑えながら 流雨の小さな手を握る。女の子ってこういうの好きだから。


 お爺さんから貰った絵の具と画材を持って、骨董屋のお爺さんに別れを告げた後  私達は街行(ゆ)く商店街を見ながらファミレスに向かっていった


※キャプション


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る