第12章「先行料理体験、」【みさゆき】


 樹理先輩と奈実樹先輩のデモが一通り終わった後、さっそく私達は調理に取り掛かかった。


美紗「取りあえず、野菜とお肉持って

   来ますね」


 前のデモテーブルに一通り置いてある野菜はすべて見つかったけど...、


 いくら捜しても鶏肉だけ近くに見当たらない...。


美紗「あれ...?鶏肉が無い...。」


樹理「お肉は後で入れちゃうんだ。まな板

   にカンピロバクター...悪い菌が、

   付いちゃうと食中毒を起こしちゃうから」


樹理「料理を作る時はお野菜から先って

   覚えておくと安全だよ」


 戸惑っているのに気付いた樹理先輩が洗い物をしながら私に説明してくれる。


樹理「それに、冷やしておくと菌の増殖も

   抑えられるから」


樹理「お肉は本当に使う直前に冷蔵庫から

   出すのがso good、その時は

   声掛けて欲しいな、」


美紗(そう、グッド...)


美紗(料理の事になるとやっぱり

   駄目だなぁ...)


美紗「...そうなんですね、...私料理は

   あまり得意じゃなくて...。」


樹理「むしろそういう人のために先行体験

   をしてるから、大丈夫だよ」


美紗「そうなんですか?」


樹理「そうだよ。勿論普段から料理してる

   子達も来てくれるけど、」


樹理「そういう子達はどっちかというと

   料理というより人と話すのが好きで

   来てくれてる子のが多いから」


樹理「知らなくて当然。むしろ知ってる

   方が凄いというか、」


樹理「勿論私達も危ないけど、特に免疫の

   少ないお子さんだと本当に危険

   だからね。」


樹理「小さい子が妹さんにいる子とか、

   一応言っておかないと危険だから」


奈実樹「加熱不足から起きた食中毒事件で

    亡くなった子達も中にはいはる

    からね。そういうのは特に注意

    しないと、」


美紗(そういや、お父さんも...食中毒の

   事に関しては特によく言って

   ったっけ...生焼けがどうとか...、)


美紗(内容はあまり覚えてないけど...)


樹理「料理は安全に食べられるのが当たり

   前で、笑顔を作るものじゃなきゃ

   いけないからね、」


樹理「だから、美紗ちゃんがお嫁さんに

   なった時のために覚えておいてね。」


樹理「美紗ちゃんは可愛いから、きっと

   いいお嫁さんになれると思うよ」


美紗(....、)


美紗(...橘晴華さんといい、樹理先輩と

   いい...なんか///、こういう台詞

   よくさらっと出てくるよね...///、)


美紗「えへへ...。樹理先輩こそ、きっと

   奈実樹さんの良いお嫁さんになれる

   と思いますよ」


樹理「ナミの...///?」


 樹理先輩の手からお皿が離れた瞬間、後ろに立っていた奈実樹さんがお皿を受け止めた。


樹理「あっ、」


奈実樹「話に夢中になるのはえぇけど、

    怪我はせんようにな」


樹理「ごめんなさい...」


美紗「すみません、私も変な事言ちゃっ

   て...、昨日もこういうことあった    

   んですけど...」


奈実樹「怪我した後では遅いからなぁ、

    美紗ちゃんも怪我せんようにね」


樹理「...美紗ちゃんには、...優しいんだね」


 寂しそうに、掠れそうな小さな声で樹理先輩はそう言った。


奈実樹「...。」


 奈実樹さんはまるで、その言葉が聞こえなかったかのように食器を拭いてる...。


美紗(え、なんか凄い険悪じゃない...?)


縁蛇「準備できましたよー?早く作っちゃ

   いましょー!!」


と、縁蛇さんが私を呼び掛ける。


美紗「あ、うん、」


美紗「樹理先輩、また後でお話しま

   しょう。時間、無理にでもとって

   ください」


 そう言葉を残して私はデモテーブルから野菜を持って、縁蛇さんの元に戻ったのだった。


樹理「美紗ちゃん...」


※キャプション


美紗「えーと...、遅くなってすみません」


 私が野菜を取りに行っている間に用意してたのかフライパンや鍋がコンロの上に置いてある。


 ピーラーや菜箸など調理に必要そうな物も全部、調理台の上に並んでいた、


晴華「何かあったのー?」


 お米を洗い終えた橘晴華さんが炊飯器の中にお米を入れて、スイッチを入れる。


 どうやらご飯を炊いてたようだ。


美紗(レシピを見れば分かるかな...?)


美紗「樹理さん達、大丈夫かな...。」


雪音「御二人方にも色々あるのでしょう」


 デモテーブルから持ってきた野菜をカゴから出してく。


 グラムごとに計ってあるのか蓮根やゴボウなどの大きい野菜は事前にカットされていた。


晴華「まずは調理分担をした方が良いよね

   ー?どうする、ゆっきー」


雪音「杏里さんはしたい事などあります

   でしょうか?」


と雪音が急に話を振ってくる。


美紗「私?」


美紗(なんか雪音から話振ってくるのって

   新鮮かも...、こういう形とはいえ)


雪音「はい。晴華さんはご覧の通り、

   調理部の方々は勿論事前にすべての

   工程をこなしているはずです。」


雪音「また、私も生徒会などで器具に

   触れる機会がございましたから」


雪音「ですので、美紗さんの経験に残る

   ような作業をするのが良いのでは

   ないでしょうか」


美紗(え...、雪音が私を気遣ってくれて

   る...、、めっちゃ優しい...、)


美紗「...うーん、けど私料理に自信ない

   から洗い物するよ。多分野菜の形、

   歪になっちゃうから...、」


晴華「駄目だよー?、美紗ちゃんー。

   歪になるからこそ、練習しなくちゃー」


晴華「私と美紗ちゃんで野菜切るから、

   一年生の子達は調味料混ぜてくれる

   と助かるかなー」


美紗「えっ!?」


縁蛇「おkなのですよ!!」


 と早速、代茂技さんと縁蛇さんは一緒に小皿を持って調味料を混ぜ合わせに行ってしまう。


美紗「いや、私...冗談とかじゃなくて、

   本当料理は駄目なんで...、、」


晴華「ゆっきーは蓮根としいたけの

   下処理、出来たらゴボウの笹掻きも

   お願いしていいー?」


雪音「分かりました」


 と、橘晴華さんの指示であっという間に分担が決まってしまった。


晴華「一緒にすれば大丈夫だよー、やら

   なきゃ上手くなるものもならない

   し?」


晴華「私が握っててあげるから♥️」


美紗「えぇっ、、」


晴華「そっちのが分かるでしょー?」


美紗(包丁あまり触った事ないし、指とか

怪我しないように気をつけないと...)


晴華「まずはこうやって、猫の手で

   切っていくんだよー」


美紗「あっ...、」


 と、目の前で見やすいようにゆっくりと人参をカットしていく橘晴華さん。


美紗(凄い綺麗に切れてく...、)


晴華「乱切りって言うんだけどねー、

   切り方はこうやって」


 背後から、私の手に手の平を乗せて切り方を教えてくれる橘晴華さん。...わぁ、指長っがー。


美紗(それにしても、あの雪音が普通に

   従ってるくらいだし...。やっぱり

   姉妹だと仲良いのかな...?)


晴華「...よく、ゆっきーと私って姉妹

みたいって言われるんだけどねー?


晴華「本当は違うんだよー」


美紗「え...」


 橘晴華さんに心を読まれて、ドキッとする。


美紗(...もしかして、サイコメトリーって

   実在するのかな...?)


晴華「私とゆっきーは血は繋がってないよ

   ー?...心は繋がってるけどねー、

   世間でいう、両思いってやつなのか

   なー?」


美紗「...両、...思い?」


 言葉の意味が理解できず、思考が停止する。


...両方からの告白を思いあってる?


ん...??


美紗(...いや、雪音がそんなめんどくさい

   事をするはずが...、、)


手汗がすごい。


晴華「うん、...ゆっきーは私の大事な人

   だよ。だから...あ、その切り方

   違うよー」


美紗「えっと...、、」


 ただの一般人の私よりも誰がどう見たってモデルの橘晴華さんと雪音の方が100人中100人は橘晴華さんの方が


 雪音とお似合いって、言うだろう。


晴華「ゆっきーは美紗ちゃんより、ずっと

   私の事、信頼してくれてるよ?」


晴華「私も昔からゆっきーの事本当に

   大好きなんだー♥️」


 雪音と過ごしてきた時間が違うっていうのも、今日1日、2人の雰囲気とか雪音の態度を見て分かった。 


美紗(雪音が私より、橘さんを信頼してる

   っていうのも全部分かってる...、)


美紗(でも...。)


 こんな事で諦められるなら、最初から雪音に告白なんかしてないんだよなぁ...、


美紗「わ、私、...負けませんから!!」


晴華「...モデルの私が、相手でも?

   そう言える?」


 にやっとまるで悪魔のような笑みで微笑む橘さん。


 この人...、最初から雪音の事を狙ってたの...?


美紗「雪音が橘さんを選んだら、仕方ない

   と思います。・・・ですけど!!」


美紗「私からは雪音を諦めるつもりは、

   絶対ないです」


晴華「....」


 晴華さんは無言で私の手を握り、人参を乱切りしている。


晴華「ふふっ、その気持ち。忘れちゃ

   駄目だよー?」


晴華「なにがあっても、

         絶対に、ね。」


美紗「え...」


 険悪な三つ巴ムードは何処へ行ったのやら、橘さんは満面の笑みで微笑んでいた。


晴華「ゆっきーの事が心から本当に好きな

   ら...何があっても、ねー。」


晴華「私としてはゆっきーに恋人が出来る

   のは賛成なんだよー?」


美紗「じゃぁどうして...」


 里芋を洗いに橘さんは行って、そのまま私に語り掛ける。


晴華「それは美紗ちゃんが一番知ってる

   と思うー。...けど、私は美紗ちゃん

   だったら大丈夫かなーって思ったから」


美紗「姉妹じゃないっていうのは...」


 私の事...最初から試してたの...?


 すっごい怖かったんですけど...はぁ...、まぁ...、でもよかった...の?これ...?


晴華「あっ、それは本当だよー。橘晴華

   は本名なんだー、ゆっきーが

   付けてくれた大事な名前。凄く気に

   入ってるの」


晴華「笑顔が晴れた日の華みたいだから

   って、素敵な理由だよね。」


美紗「雪音が...?」


 普通は名前は親がつけるもので、もしかして雪音が橘さんの親...?...いや、流石にそんな訳ないだろうし...。


晴華「意地悪したお詫びに教えてあげるね、」


晴華「...私小さい頃の事全部覚えてない

   んだよねー。いわゆる、記憶喪失

   って奴かな...?」


晴華「目を覚ましたら、ゆっきーと

   ゆっきーのお母様が居たんだよ。」


晴華「崖から落ちて、怪我してたん

   だって」


晴華「...びっくりだよね、」


美紗「雪音のお母様...、」


晴華「うん。それで、最初は名前がないと

   不便だからって」


晴華「ゆっきーのお母様から橘って名前を

   頂いてねー」


晴華「その後にゆっきーから晴華って

   いう名前で呼んで貰うように

   なってー、」


美紗「....すごい、壮絶な人生...ですね...。」


晴華「いやー、そのお陰でモデル活動中

   でも面接で採用させていただけて」


晴華「あの時は本当に嬉しかったよー!!

   心臓が飛び出ちゃいそうなくらい

   ね、流石に飛び出さなかったけど」


美紗「飛び出してたら怖いです。」


晴華「これで、...有名になってお母さんと

   お父さんを捜すんだって、」


晴華「それが今の私の夢なの。」


晴華「私は崖下に居たけど、お母さん達は

   どうしても見つからなくってねー...」


晴華「記憶もないし...私から見ても分かん

   ないし...。今も何処かで私を

   捜してくれてるのかなーって...」


晴華「...兎に角!!、私はゆっきーの事、

   大事な妹だって思ってるからっ」


晴華「だから、ゆっきーの事。...絶ーっ対

   幸せにしてあげてね?」


美紗「その...かなりプレッシャーですけど

...頑張ります、」


美紗(本当に、心臓に悪いよー...、、)


晴華「ゆっきーに美味しい料理作って

   あげられるように頑張ろー。最後の

   一個は美紗ちゃん、さぁ本番だー!!」


美紗「....。」


美紗「そんな話聞いてる時に教えて

   貰った事が、まともに私の頭の中に

   入ってきてると思いますか!?!?」


※キャプション

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