第二十七部「親友と友達」【ゆずるう】


柚夏(...正直凄く、気まずい。)


無言で私の作ったお弁当を隣で食べ進める流雨。その隣で無表情の古池さんが座りながら、優雅に食事を嗜んでいる。


柚夏(なんで、よりにもよって真っ正面...。)


 私から時計周りに美紗、古池さん、流雨という順番で座りながら食べてる。...何故そうなったのかというと


美紗「私が間に入れば、大丈夫だよ」


という誰かさんからの提案からだった。


まぁ、今の私は彼女の意見に逆らう事なんて出来ないんだけど...、


 一方古池さんはというと このメンバーで微笑む必要もないだろうというばかりの真顔で食事を口に運んでいる。


柚夏(...。)


柚夏(...はぁぁぁぁ、)


美紗「柚夏、ほら見てっ。凄い景色だよ」


 私の気持ちを知ってか知らずか、誰かさんは屋上の絶景を楽しんでいるようだった。


柚夏「すごいね...。」


柚夏(お弁当の味がよく分からない...、)


美紗「あれ? 柚夏...」


柚夏「ん? ...何?」


 シートを敷いている途中に美紗は何か気になる事でもあるのか、不思議そうな顔で私のシートの上に座る。


美紗「流雨さんのお弁当の中、肉巻きも

   玉子焼とか...全部柚夏のだよね?」


美紗「流雨さんにお弁当作ってあげてるの?」


 ...そういえば、美紗には流雨にお弁当作ってるって事言ってなかったんだっけ。


 最近急に色んな事があって、結構バタバタしてたから...


 柚夏「あぁ...それ。流雨って結構偏食で、

    放っておくと鮪のお握り生活をおくり

    だすから、最近作るようになったん

    だよ」


柚夏(...考えてみたら、流雨と会うまで

  そこまで美紗以外の人と関わろうと

  さえ思ってなかったからなぁ)


柚夏(今は朝乃先輩達のが私と流雨の事情に

  詳しいって事なのか。...美紗のが付き合い

  長いのに、そうか...)


美紗「え〜...柚夏私には交換じゃないと

   くれないのに。流雨さん良いなぁー。

   私も柚夏の料理食べたいなぁー」


柚夏(他のお母さんの味知りたいし...、

   等価交換と思えば別に不思議じゃない。)


流雨「ん...」


と流雨が古池さんの目の前で私の作ったお弁当箱を美紗に差し出す。


柚夏(...あの。流雨?? 美紗と古池さん

  一応つき合ってるのに、そんな)


美紗「え? 良いの?」


 古池さんは一切気にしてない様子で無表情のまま、食事を続けている。え?...こういうのって普通嫉妬するものじゃないの?


柚夏(...お弁当渡すの気にしてるの私だけ??

  それとも友達的なあれなのか??、友達

  ってそういう事するのが当たり前なのか??)


 取り敢えず、止めとくけど...。美紗ももっと乙女心っていうものを学ぶべきなんじゃないかな...。照れとかなしか...、そういう物なのか?


柚夏「ただでさえ少な目の流雨のご飯が

減るから駄目です。少食なんだよ彼女」


柚夏「それに美紗は自分の分があるでしょ。

   流雨はご両親が忙しくてお金だけ渡して

   貰ってるから、私が作ってあげないと...。」


柚夏(”作ってあげないと”...、何...?)


これは使命感からなのか??


ご飯を食べている流雨とは、っと目が合う。


流雨「...柚夏。...友達は本当に大事」


柚夏「私からすれば、流雨も大事な友達だよ」


柚夏(別にいじわるして言った訳じゃない、

  それは”流雨”の為に作ったもので)


柚夏(美紗の事、気にかけて言ったん

  だろうけど...美紗にはお母さんが居るから)


 流雨にもお母さんはいるのに、なんでこんな事....。...まるで、子供みたいな理由。


柚夏(お弁当だって私が押し付けてるみたいな

ものだし、ね...。言ってしまえば『友達』

  も...)


柚夏(いや、...これ以上はやめよう)


柚夏(私の悪い癖だ...。)


柚夏「取るなら私のに」


美紗「ありがとう、流雨さん。でもお母さんの

   料理も美味しいから平気だよ。」


美紗「交換すると減っちゃうし、本当は

   どっちでも良かったんだー」


柚夏(美紗との付き合いあるし、美紗は

  顔で答えは大体分かるけど...)


柚夏「...美紗のお母さん美人だもんね。」


美紗「確かに美人だけど...、ん、いや

   凄い綺麗な人だよ。私と違って」


柚夏「私から言わせれば美紗も結構美人な

   顔してるんだけどね」


美紗「えー、そうかな??」


美紗「柚夏が褒めるなんて珍しい。」


美紗「けど、ゆずかーさんは私に対してもっと

   優しくしても良い気がする。」


美紗「あれかな? 獅子は我が子を崖から

   付き落として、楽しむっていう...」


柚夏「...楽しんだら駄目でしょ」


柚夏(だめだ。折角美紗と仲直りしたん

  だから、...今は嫉妬とかそういうのは

  やめよう)


 美紗用に作ったのは平気なのに、なんでこんな嫌な気持ちになるんだろう。


柚夏(私だって、そういうのしたい。でも

   キャラじゃないから...)


美紗「成長をね。ふふ、ゆずかーさんに

   勝ったぜ」


柚夏「...折角、おやつ持ってきたのに」


美紗「調子乗って誠に申し訳ございません

   でしたー。柚夏様〜、頂戴ー」


柚夏「美紗はほんと分かりやすいよね」


美紗「え? 私そんなに分かりやすいかな...」


 美紗は子供っぽいのを気にしてるのか、むっとした表情で少しの間悩んでいた。それが子供のようで可愛い


柚夏(美紗みたいな女の子になれたらな...

   明るくて、太陽みたいな女の子。)


柚夏「...あー、クッキー2人分しか作って

  なかった」


 巾着の中身を見て、多めに作って余った分を二人にあげようと思ってたのがラップで雑に包んである。


柚夏(古池さんのも渡さないと仲間外れみたい

  になっちゃうし...。いくら苦手って言って

  も、お嬢様に適当なものは...)


柚夏(仕方ないけど...)


美紗にはラップで包んだ方の手作り紅茶クッキーを渡す。量も多いし、美紗なら喜んで食べてくれるだろう。


その代わり古池さんには綺麗にラッピングしたのを渡す。まぁ、これはマナーなので...


美紗「んー///、美味しい〜///」


柚夏(美紗はそういうの気にしないタイプ

  だからそういうとき助かるよ...。今度

  何か作っておくからごめんよ、美紗)


雪音「お二人は無事に仲直りなされた

   ようですね」


柚夏(あ、喋った。)


美紗「うん。雪音のお陰だよ」


ずっと無言で食べていた古池さんが食べ終わったのか急に話し出す。私と古池さんより二人の方がもっと仲良くなった方が良いのでは...。


雪音「私は何もしておりませんよ。杏里さんが

   勇気を出して芽月さんと向き合う事が

   出来たからこそ、生まれた結果なの

   ですから」


 素っ気なく正論で答える古池さん。彼女、こんな人だっけ


美紗「雪音、柚夏も...もっとお話しようよ。」


柚夏(そりゃ...話せたら良いのだろうけど...)


...いや、もう真顔の人に話掛けるのって何の罰ゲームなんだろう。流雨は困り顔だから可愛いけど、古池さんの真顔はガチな真顔だ。


柚夏「...えっと、ご趣味は」


雪音「乗馬を少々」


柚夏(...趣味の格が、...違いすぎる)


 隣を見るとお弁当を食べ終えた流雨が眠たそうな顔で目を細めていた。私はそれを回収しながら、袋の中に入れる。


柚夏(美紗。ごめん、私には無理だったわ)


柚夏「今日は何点だった?」


流雨とならすっと言葉が出るんだけど...。これ以上は...気まずさが限界だ。


流雨「...85」


柚夏「85点、か...。前より上がったね」


今回のお弁当は流雨の味覚に合わせて、味が濃くならないよう調整してみたんだけど...。なんで点数付けられてるんだろ。


まぁ、高いので良しとする


柚夏(美紗は甘めが好きで、流雨はバランス

  重視...人の好みってやっぱり違うん

  だなぁ。折角だから身体に良いのが

  良いな)


その上、何故か流雨はびっくりするくらい料理の味が分かる。少し煮すぎたなと思ったのはすぐに気付くし、点数はかなり納得が出来るものばかり。


柚夏(夕飯の残りも入ってるしそう贅沢は

  言えない、...次は流雨の好きな魚を

  使ったおかずでも入れてみようかな)


柚夏「アジの南蛮付け」


流雨「キャベツ...」


柚夏(少し流雨には固いかなって思ったけど...

  此処までいくと、逆に楽しくなってくる)


柚夏「やっぱりそこくるよね...。煮る時間

   30秒増やしてみるかな...」


美紗「えっ、会話短くない?」


流雨との会話を聞いていた美紗が古池さんとの会話が終了した事に気付いてしまった。


柚夏(そのまま忘れてて欲しかったな...)


柚夏「いや...だって話す事ないし...」


柚夏「流雨...?どうしたの?」


 流雨は私の隣からベンチの方に移動して、仰向けに寝ころびながら日向ぼっこをし始めた。


柚夏(はぁぁぁ...猫みたい...///)


美紗「もっと学生らしい会話をしたら

   良いんじゃないかな?」


 もう少し見てたいけど、古池さんの居る前ではちょっとね...。二人でいる時じゃないと


柚夏(けど、美紗の言う通りさっきのはかなり

  社交辞令的だった気がしなくも...)


柚夏「学生らしい...」


柚夏(...そうだなぁ、)


柚夏「高校を卒業したら、古池さんは就職

   なさるのですか?それとも進学」


柚夏(これなら、高校生同士の会話だよね)


雪音「はい、私は進学の道を考えております。

   今後の方針に向け企業設立を考えて

   おり、スキルアップを目指し日々成長...」


美紗「もう面接だね!?」


柚夏(あー、もう...変に気を使って話そうと

  するから駄目なんだ)


 向こうも一切仲良くなる気はないみたいだし、こっちも古池さんに言っておきたい事がある。


柚夏「...古池さん」


雪音「如何なさいましたか?」


美紗「柚夏...」


と不安そうに美紗が私の顔を見つめる。


柚夏(...私は別に古池さんに嫌われても

  構わないけど、美紗だけは...)


柚夏「美紗をどうか幸せにしてやって下さい」


...一人の”親友”として。


私は古池さんに頭を下げる。


雪音「...言葉の責任は取ります。私

  (わたくし)、一度申し上げました事は

   曲げるタイプではございませんので

   ご安心下さいませ」


柚夏(......。)


柚夏「...そう、...私は先に教室に行ってるよ。

   流雨は一回寝ちゃうと中々起きて

   くれないからさ」


柚夏「あとこれ、お嬢様の口に合わないかも

   しれないけど」


と、クッキーが入ったお菓子を古池さんに押し付けて 持っていた手を離した。なんか物々交換みたいだけど、別に薬物とかそういうのではない


柚夏「流雨、帰ろっか」


※キャプション


 授業が終わって、帰る準備をする。急いでショルダーバックの中に教科書を入れて肩に掛けた。まぁ何もないんだけど


美紗「土下座して頼んだら、雪音が英語教えて

   くれるって言ってくれたんだよっ!!」


 そう興奮したように、美紗が話していたのを思い出しながら私は席を立つ。


美紗「本当に楽しみだなぁ。やっぱり、席を

  くっつけて教えて貰ったりするのかな?」


美紗「これぞまさに青春、」


 嬉しそうににこにこと笑顔で身体を左右に揺らす美紗。...美紗のそういう子供っぽいとこ、私は好きだよ。


柚夏(...子供っぽいって本人がまったく気付いて

  ないとことか特に、...ね)


柚夏「...古池さんに浮かれ過ぎて赤点

   取らないようにね」


美紗「柚夏も勉強、頑張ってね」


 美紗は奨学金の事を知ってるから私の事を普通に応援してくれる。それが少しだけ嬉しかった。話して良かったと心の底からそう思う


柚夏「...うん。ありがとう」


 美紗と分かれて、下駄箱に向かって歩いていく。


 何時もはバイトで早足で掛けてる廊下もこうやってゆっくりと歩いてると景色がまた違って見える。


 テスト期間は、アルバイト禁止だから。今日はお塩を買って、それから家に帰って復習かな。


柚夏(お風呂にも塩入れようかな...。別に

   何もないと思うけど、最近運気が

   減ってるような気が...)


流雨「...柚、夏...」


下駄箱で流雨が立ち止まって私を待っていた。想像もしてなかった出会いに少しだけ、顔が緩む。


柚夏「流雨、どうしたの? 私に何か用...」


 無言で立っている流雨の顔はずっと下に下がっていた。何時もと違う流雨の様子に流雨の傍(そば)に寄る。


柚夏「流雨...?」


...パシッ


 流雨はまるで私から避けるかのように、手を払いのけたのだった。


柚夏「...え?」


流雨「...お願い、だから。...もう...私に

   関わるのは...。止めて...」


柚夏「どうしたの、何かあったなら相          

   乗るよ? 流雨とは友達だから」


突然の出来事で思考が追い付いていかない。あれ、頭ってこんなに役に立たないものだっけ...。


流雨「...柚夏は私の”友達”じゃ...ない...」


...流雨はそうとだけ言って、去っていった。


柚夏「...流、雨」


※キャプション


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