第二十六部「鏡言葉と本音」【ゆずるう】

美紗「ねぇ、雪音と一緒にご飯食べない!? 

   流雨さんも誘ってさ!!」


 ...急に何を言い出すんだろう、この子は...。


柚夏(美紗の事だから、古池さんと私を

  なんとか仲良くさせたい。って考えて

  そうだけど...)


柚夏(相性が、悪いんだよなぁ...)


柚夏「...まぁ良いけど 一応理由聞いて

   いい?」


柚夏(...正直、今更仲良くなるだなんて

   虫が良すぎる...。)


美紗「うん。あのね、柚夏は雪音の事

   誤解してるんだよ」


柚夏(誤解...? ...そりゃ、私の方に偏見は

  あるんだろうけど...。)


 ”お金持ち”は許せない。お金持ちは”敵”。


 ...中学の頃の私は私から母親を奪った父親を悪者にして、お母さんが居ない現実を受け入れてきた。


 中学生はアルバイトなんか出来なかったし、急な貧乏生活で人に迷惑を掛けたくなくて


 事情を知ってる人から野菜や惣菜パンを貰ったり、クッキーが誕生日プレゼントなんて日だってあった。


 そんな私が金持ちである古池さんと急に仲良くなってくれと言われても


性格が真逆そうだし...。


柚夏(...私はいつまであの時間に捕らわれ

   なきゃいけないんだろうな。)


柚夏(...自分でも...もう、嫌だ...、すぐに

でも忘れてしまいたいのに...) 


 今はアルバイトもしてるし、前みたいにもうひもじい思いもしてないのに...なんで...。許せないんだろうなぁ...、、


柚夏(お金持ちの人全員がそうじゃないって

  のは分かってる。けど...あの顔を思い

  出すと腹が立って仕方ない)


柚夏(...古池さんが悪い訳じゃないのに、、)


美紗「土曜日に雪音が柚夏の事どう思って

   るのか聞いてみたんだけど」


美紗「雪音は柚夏の事、嫌ってない

   って言ってたよ。」


美紗「むしろ興味すら感じてないってっ!!」


柚夏「....。」


柚夏「はぁぁぁぁ...、、」


柚夏「そりゃ、そうだよ...。」


 古池さんがこんな貧乏臭い私なんかに興味ないっていうのはまぁ分かり切ってた


 ...けど、そうもはっきり”興味ない”って言われたらそれはそれで普通に傷付く...。別に興味なくて良いんだけどさ


柚夏「...それ、嫌われるより余計タチ

   悪い事言われてるって気付いてる?」


美紗「嫌われてないなら大丈夫じゃない?」


柚夏「なんてポジティブなんだ」


柚夏(私はそうは思えません...)


柚夏「美紗って時々ビックリするくらい

   底抜けにポジティブな時あるよね」


美紗「そうかなぁ?大抵自分が嫌われてる

   って思い込んでる事のほうが多い

   からね」


柚夏「とーさんは羨ましいです...。」


美紗「柚夏は離婚したお父さんがお金持ち

   だったから同じお金持ちの雪音が

   苦手なんだよね?」


美紗の口からあの人の話が出るなんて...。好きだからこそ、美紗にはあまり話したくなかった暗い話。


柚夏(向こうも本音で向き合ってきてる)


...私も、そろそろ覚悟を決めるべきなんだろう。『優しい私』じゃなくて”本当の私”に


柚夏「...美紗の言う通りだよ。お金持ちの

   人を見るとどうしてもね...。」


柚夏「だから...」


だから... 何...?


 美紗から目が離れる。...逃げたっていい、どんなにみすぼらしくてもいい。私は...


柚夏(...お金持ちより、私は”美紗”を信じたい)


 ...離れていってしまうのが怖かった。また、目の前から居なくなってしまうから。


...でも、今は違う。


柚夏(...”本当の私”を、美紗に知ってほしい)


 ...ずっと恐れていた「一緒」を私はいつの間にか望んでしまっていた。...いや、私はそれをずっと望んでいたんだ。


柚夏「...会いたくない」


...無言の沈黙が永遠(とわ)の時の様に感じる。


美紗「...そう、だったんだ。」


柚夏「...私は、両親が居ないからさ。皆、

   同情で私に関わってきて。...昔は

   『可哀想な子』扱いだったんだよ」


柚夏「本当に『可哀想』なのは追い詰められて

   死んだ母さんの方なのに。あの時、

   私が勇気を出して母さんを元気付け

   られてたら」


柚夏「母さんは死なずにすんだかも

   しれない、」


柚夏「...そんな後悔が 日が経つたびに

   増してってね。」


美紗「...」


柚夏「だから、お金持ちが嫌いなんだ。

   幸せだったあの日を思い出すから」


柚夏「三人で手を繋いで帰った日、大嫌い

   なのに思い出す。」


柚夏「...あぁ、他の人と変わらず接して

   くれた美紗だけは絶対に大事に

   しようって思ってた。」


柚夏「こんな話...、したくなかった」


柚夏「だって、止まらないから。

   『人間不信』が 美紗にも迷惑

   掛けちゃうのに」


柚夏「守れなかった母さんの分も、大事に

   しなきゃいけないって思ってたのに」


美紗「うん...」


柚夏「親友に恋人が出来たんだったら

   普通は喜ぶべきなのに...、私は

   許せなかった。」


柚夏「あの時はほんとごめん。これからは

   私も出来る限り応援するようにする

   から」


柚夏「嫌いにならないで欲しい...、」


 美紗は私の話を最後まで真剣に聞いてくれた。...これでもう、私に心残りはなくなった。


 もう嫌われても大丈夫、ずっと止まってた時が私の中で動き出した気がした。


美紗「...ううん、...でも柚夏の本音が

   聞けて良かった。そんなの何回も

   言いたくなるよ」


柚夏「だから、美紗のお願いは出来るだけ

   聞いてあげたいんだけど...。」


柚夏「正直、古池さんと仲良く出来るかって

   言われるとあまり...。」


美紗「無理して『仲良くしろ』とは言わない

   けど」


美紗「爬虫類だってそう。理解が出来ないから

   怖いの、柚夏には”雪音の理解"が

   足りないんだよ。」


柚夏「古池さんの理解...?」


 考えた事もなかった。古池さんを知ろうなんて、噂ばっかり信じてそれ以上知ろうとしなかった。


柚夏(人の事言えないな...、)


美紗「そんなに警戒しなくても大丈夫

   だよ。別に雪音はとって食べたり

   しないから」


美紗「それに、柚夏には私が好きになった

   人と仲良くして欲しいし」


と、急に美紗はお弁当箱を持って立ち上がる。


柚夏「あまり乗り気はしないんだけどね...」


 そして、廊下に向かって足早に歩いていってこっちに向かって振り返る。


美紗「柚夏は流雨さん誘って屋上に来て

   私は雪音誘って行くから、屋上で

   待ってるからねー!!」


母さん「...柚夏、早く来てっ。ほらお父さんも

    一緒に、ね? とっても綺麗でしょう?」


 お父さんに肩車をしながら見た、花火大会。浴衣姿でカラコロと音の鳴る下駄を履いて大きく咲く夜の花畑。目に焼き付いて離れなかった


柚夏(何歳の頃だろう、今までこんな記憶...

  出ても来なかったのに...。...なんで、

  ずっと忘れてたんだろ...)


柚夏「...美紗、」


美紗「どうかした?」


柚夏「...ありがとう。」


 美紗に涙を見られないよう、私は流雨の居る二年生の階段へと登っていく。


柚夏「...っ」


...今だけは、生きていて本当に良かったと少しだけそう思った。

 

※キャプション


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る