②京都編【ゆずるう】

そろそろ、夏休みも終わりがかる8月の下旬。私は凄く早くてお値段も高いあの新幹線に乗りながら


流雨の隣でお弁当を食べていた...。


柚夏「...いや、本当に良いの?美紗?」


柚夏(新幹線とか、小学生の修学旅行以来で

  少し落ち着かないなぁ...。けど

  なんか、わくわくするかも)


 景色が流れるように過ぎ去っていく、子供の頃は何も考えずに乗ってたけど...。中学では金銭面の問題もあって行けなかった事もあって


...新幹線の中はやはり少し興奮してしまう。


 親友とこうやってお喋りしながら新幹線に乗れるなんて思ってもないサプライズプレゼントだった。


美紗「柚夏もそろそろ誕生日だし。ちょっと

   早いけどこれが私のプレゼントって

   事で、おめでとう柚夏」


柚夏「ありがとう。美紗 本当に良い

   プレゼントでビックリしたよ」


柚夏「それにしても、ちょっと豪華過ぎ

   ない?大丈夫なの?」


 三人ペアチケットで、食事代付きの日帰りコース。美紗のお母さんが出してくれたのかな...?


柚夏(美紗の家には一度行ったことある

  けど、家の人と仲良さそうだったもん

  なぁ...。)


柚夏(それにしても太っ腹なご両親だ...)


美紗「うん、だってタダだもん」


柚夏「は...?」


 思っても無かった、返答に私はただ困惑する。


柚夏(ご両親に出して貰ったから、タダ的

  な?いや、流石にそれは...)


柚夏「いや、新幹線代がまず掛かるし、

   お弁当代だって...タダな訳ない

   でしょ」


美紗「いや私も本当にビックリしてて...。

   たまたま、お母さんと買い物行ってた

   時に福引きを回してたんだけど...」


美紗「1等の京都の旅行券の福引き券が当た

   るなんて...。あれって当たる時

   あるんだね」


柚夏「...え??大丈夫??死なない??」


美紗「死なないよ!!」


美紗「確かにラッキーとは思ったけど、

   それだけで死んだら私何のために

   生まれてきたのってなるじゃん」


柚夏「確かになんでチケットなのかなとは

   思ったけど...。そういう理由かぁ...」


柚夏(...もってるなぁ...美紗。古池さんと

  付き合えたのもそうだし、金運とか

  高いのかな?)


柚夏(人望もあるし、神は美紗に何物

  与えるんだ)


美紗「この間、縁蛇さんに手を握って貰った   

   事があったんだけど...まさか此処まで

   くるとちょっと恐いよね」


柚夏「...でも ご両親と一緒じゃなくて

   良かったの?私と流雨を誘っちゃって...」


美紗「うん、三人だとお父さんが余っちゃう

   から。...どうせなら家族全員で行きた

   いし、自分で稼いだお給料で行きたい

   なって」


 そういって窓際で景色を見ながら、話す美紗。


柚夏(...あれ、...美紗ってこんなに大人っ

   ぽかったっけ...。)


※スライド


 はぐれないように流雨と手を繋いで新幹線から降りると、巫女服を着た女性がお出迎えしてくれる。なんか知ってるようにはしゃいでるけど


 ...美紗の友達だろうか。美紗は友達が沢山いて良いなぁ、だからと言ってそんな欲しいとも思わないけど...


美紗「あ、縁蛇さん。今日は巫女服なんだね」


??「ちゃんみささん、よくいらっしゃい

   ましたねっ!!」


柚夏(ちゃんみさ...)


 私達そっちのけでブンブンと美紗の両手を振り回しながら、ハイテンションで握手をする巫女さん。


柚夏(...濃い人だなー。)


美紗「え、縁蛇さん、...酔う、から...」


 バシッと、腕を掴み笑顔でにこにこと同じように巫女服を着た女性が微笑みながら腕を引き離す。


柚夏(まるで蛇の首を掴むかのように...)


??「縁蛇、お客様に何をしているのです。

   あなたは東京で何を学んできたの

   ですか。」


縁蛇「暴力反対ですよ、団長...。色んな人と

   出逢い、縁を果たすためですよー...」


??「お友達に出会って嬉しい気持ちは

   分かりますが、相手がお客様である

   事も忘れてはなりません」


美紗「...縁蛇さんのお母様ですか?」


??「これはどうも、娘がいつもお世話に

   なっています。娘はちょっとあれです

   けど、良かったら仲良くしてやって

   下さいね」


縁蛇「私が仲良くしてるんですよー」


 無言の圧力で、巫女さんを黙らせる。巫女さんの満面の笑みが凄く恐い。


??「本日ご案内して頂く、白館 和巳

(みねはら かずみ)と申します。と

   言っても、ただの幹事ですから

   ご自由に回って下さい」


??「...このチケットは屋台での千五百円

   分になりますので、好きな物を買って

   食べて下さいね。」


??「16時頃には料理が出来上がって

   いますので、」


??「それまでには境内にいらして下さいね

   私からは以上になります。ごゆっくり

   京都の旅を」


 と、巫女さんから一人ずつ100円分のチケットが15枚付いているクーポンを貰ったのだった。


※キャプション


 美紗が古池さん達との待ち合わせの時間が来るまでの間。集合場所である神社の階段に座りながら私達は話していた。


柚夏「...中々、凄い巫女さん達だったね。」


美紗「まぁ...縁蛇さん... だから...。」


美紗「それより...なんで、柚夏...階段...、、 

   こんな...急なの、平気なの?」


柚夏「日頃鍛えてますから。...流雨は?」


美紗「神社の階段多すぎ...」


流雨「ん...」


 流雨は物珍しいのか、キョロキョロと蛇の石像やらを眺めている。流雨も美紗と同じように最初は休憩していたが


 すぐ神社に興味がいったらしく、引越し先の家を確認する猫のように辺りをじっくりと見回していた。


柚夏「やっぱり、美紗の体力がないだけだよ」


美紗「うぇえー...」


 美紗は境内の方へと倒れ込んで、ぐたーっと身体を横たわらせる。...木の木漏れ日に当たりながら、すっと涼しい風が通り抜けていった。


柚夏(...山の方だと大分(だいぶ)涼しいな。)


柚夏「...美紗って結構色んな人と付き合って

   るよね。前は私だけだったのに、」


柚夏「私も流雨と出会ったり...此処

   4ヶ月で...本当に色々あったよ。」


柚夏「美紗と喧嘩したり、流雨に助けて

   貰ったり。海に行ったり。...けど、

   色々楽しかったな」


柚夏「流雨の苛めがなくなってると

   良いけど...」


美紗「...そうだね。私も雪音に会ったり、

   生徒会の人達と出会って...樹理先輩

   達に柚夏にあげるお菓子作ったり...」


美紗「色々あったよ。...だから、ちょっと

変だけど、あの時柚夏と喧嘩して

   良かったなって今では思ってるんだよ?」


 よっと、倒していた身体を起こして。美紗はにかっと微笑む。本当に良い笑顔だ


美紗「柚夏と仲良くなるために色んな人が

   助けてくれたんだ。だから、柚夏も

   あの時、本当の気持ち言ってくれて」


美紗「ありがとう。柚夏っ」


柚夏(...まだまだ、子供だと思ってたのに。

  ...成長したね。...美紗も)


朝乃「はぁー...、はぁー...」


 と汗だくで階段を駆け上がってきたのか、朝乃先輩は息を切らしながら膝を付いている。


柚夏「朝乃先輩!?」


朝乃「...晴、」


柚夏「橘先輩がどうしたんですか!?」


朝乃「まだ...」


柚夏「今日来るんですか?」


朝乃「...良かっ、た」


柚夏「先輩...?...先輩っ!?」


 先輩はばたりと崩れ落ちて...横になった。身体が熱い...。汗が...乾いて...。


柚夏「...これ、熱中症だ!!」


美紗「水分取らずに、神社の階段駆け上って

   くるとか朝乃先輩アホなんですか!?」


柚夏(まぁ、正論っちゃ正論だけど...!!)


柚夏「取りあえず境内運ぶから、どいて美紗!!」


 先輩を抱っこし、急いで日陰に運ぶ。日陰でハンカチを湿らせて朝乃先輩の口元へ押し付けた。


美紗「縁蛇さん...!!、、大変...!!熱中症で朝乃

   先輩が...!!」


縁蛇「分かってますよ、急に嫌な物が

   見えたので」


 境内の奥から急いで巫女さんが裸足で走ってくる。巫女さんは朝乃先輩を抱きかかえ...


スポーツドリンクを口に含み、口付けで飲ませたのだった。


※キャプション


柚夏「...朝乃先輩、大丈夫そうですか?」


縁蛇「...え?駄目だと思いますよ?」


 朝乃先輩をベットに寝かせて、優しく頭を撫でている巫女さんはきょとんとするように答える。


柚夏「え...!?もしかして、手遅れとか!?」


縁蛇「裸足で境内にあがるとか、後で掃除が

   大変なのですよ...。団長に何言われる

か...」


美紗「そっちじゃなくて、容態です。」


縁蛇「いえ、この人。前世でよっぽど

   女垂らしだったのか知らない

   ですけど、」


縁蛇「兎に角何か不幸に襲われる体質して

   ますね!!浄化しても、すぐに

   集まって来ますし...しつこい油呪い

   ですね!!」


柚夏(...そんな、油汚れみたいな感じ

  なのか...?呪いの類(たぐい)って...。)


縁蛇「此処まで酷い人は近年稀に居るか、

   居ないかくらいの酷い女難の相が出て

   いるのですよ!!」


柚夏「ワァ、ソレハタイヘンデスネー」


柚夏(...前世とか、胡散(うさん)臭い話は

   ちょっと興味ないかなぁ...。呪いとか

   お化けとか...有る訳ないし...)


柚夏(けど...厄除け御守りくらいは買って

  おこうかな。折角京都まで来たんだし...

  お土産にね...)


 巫女さんは目を閉じながら、深呼吸して朝乃先輩の額に手を添える...。その瞬間、ビシッと空気が凍てついたように静まり返った。


というか、音がした。ビシッって


柚夏(...え、...何!?....お、...お化け!?)


縁蛇「あー....。」


 巫女さんはぼーっとしたように目を薄めながら一言ずつ喋っていく...。


柚夏(なにこれ、すごい恐いんですけど...!!、、)


縁蛇「...二つの魂、女性を...選べ...。どちら

   も愛す事は叶わぬ。...一つは兎(う)

   の女。もう一つは...白虎の女...」


縁蛇「...兎(う)を選べば、白虎は兎(う)

   を噛み殺さん。白虎の女選べば、

   兎は...」


朝乃「....あれ、私...」


 ふっと、張り詰めた気配は消えて...。無くなった...。


柚夏(この神社、呪われてない?大丈夫...?)


縁蛇「...あ、覚めちゃいましたねー。

折角良いところでしたのにー、潜在

   意識を探った方が楽なんですけどねー」


朝乃「...私男の人になってて...何か夢を見て

て、...あれ、涙が...」


 目を覚ました先輩はボロボロと涙を流しながら、手で目をこすっている...。熱中症中だからね。うん...


縁蛇「んー、そうですねー。貴女の前世を

   見ましたけど、二人の女性から愛され

   てて同じ結果を何回も辿っていますね。」


縁蛇「優しい女性を取れば冷徹な女性に

   あなたは殺されています。ある時は

   首締め、斬殺、虐殺...それは無惨に」


縁蛇「冷徹な女性を取れば...で、跳ね返され

   ちゃいましたね。...貴男自身がそれを

   知るのを拒否したのでしょう 多分」


朝乃「...えっ。と...」


ガタッと、後ろから戸を開ける音が聞こえた。


美紗「朝乃先輩、起きたんですね...!!

   良かったぁ...。...いや、でも...

   良くなくて...、、」


 美紗は困ったようにおろおろと周りを見回している。さっきまで何処かに行ってたと思ったら...あれ?


柚夏「流雨は...?」


美紗「柚夏、どうしよう...。流雨さんが

   さっきから見当たらなくて...!!スマホ

   で電話しても...、、」


柚夏「え!?」


美紗「さっきから、捜してるんだけど...。声

   掛けても返事が...」


柚夏「流雨!?」


 戸を開けて、大声で声を掛けるが返事がない...。...電話が繋がらないって事は...もしかして、誘拐...?


柚夏「流雨っ!!」


 急いで捜そうと立ち上がると、後ろから声を掛けられた。


縁蛇「さっきの人ですか?...だったら、

   危ない気配はしないので大丈夫ですよ?」


 と巫女さんは一切慌てる様子はなく、笑顔でにこにこと無邪気に微笑んでいる。


柚夏「そんなの、実際に見てもないのに

   分かんないじゃないですか。捜さない

と...」


縁蛇「精神的な障がいを持った方は何かと

   神様に好かれてますからね。何かに

   導かれただけだと縁蛇は思うですよ?」


縁蛇「此処丁度神社ですし、」


縁蛇「宛のない場所を無駄に捜すより縁蛇

   の言うことを聞いといた方が損は

   ないと思いますですよ?」


縁蛇「貴方は迷いたいのですか?」


 巫女さんの顔はなんで??といったように首を傾ける。その光景を見て、巫女さんから雨宮先輩のような面影を感じた。


柚夏(あぁ...、何もかも 知ってる顔...)


美紗「縁蛇さんの言う通りだよ、柚夏。

   焦っても何も始まらない。こういう時

   こそ冷静に対処しなきゃ」


柚夏「あんたがいうか」


 手が震えてるし...焦ってるのは私だけじゃない。私達が無作為に捜すよりも、この土地に詳しい人に頼むべきだろう


柚夏「...ふぅ。...確かにそう、流雨が居なく

なって焦ってたかもしれない...。

   流雨が今、どこにいるか...」


柚夏「...あなたなら分かりますか?」


縁蛇「分かりますよ。...けど、見付けたら

 縁蛇にお米を下さると約束してくれ

   ますか?」


柚夏「お米...?」


縁蛇「縁蛇はお酒はまだ飲めないので、ご飯

   として代金を頂くのですよ。力に

   対する供物なのです。報酬がないと

   やる気が出ません」


柚夏(お金じゃなくて...米?...変な報酬。

  まるで、物々交換の時代みたいだ...)


縁蛇「お金だとなんかフィッシング詐欺

   みたいじゃないですか」


縁蛇「あんたがいうか...」


柚夏「...見付けたら、約束します。」


縁蛇「交渉成立ですね!!」


縁蛇「後は、先払いが当たり前なのです

   が...。縁蛇は心が広いので、許して

   あげちゃいます」


柚夏「あげますから、早く見付けて下さい」


 この辺で米って売ってるだろうか。というか本当に見つかるのかな...


縁蛇「はぁー、せっかちですねー...。」


 ...巫女さんは目を閉じると、十秒くらいして静かに目を開いた。


縁蛇「...兎(う)を連れ、猫は現れん。」


晴華「柚ちゃん!?、朝乃ちゃんが倒れたっ

   てメール来てたけど大丈夫...?」


柚夏「橘先輩...??」


美紗「はい、今は神社の中で寝むって

   いますから」


晴華「はぁ...良かったよー...もー、

   朝乃ちゃんったら...。」


流雨「ん...」


柚夏「橘先輩と...、流雨!?どこに行ってた

   の...!?凄く、心配したんだよ!?」


 橘先輩の隣に流雨はいた。流雨は何故私が怒っているのか分からずに困った顔をしている。


流雨「...ごめん...なさい」


柚夏「なんで電話取らなかったの?」


流雨「...充電...忘れてて...」


柚夏「...はぁ。これから居なくなる時は

   ちゃんと相談する事、分かった?」


流雨「....」


 流雨は俯いてしょぼんとしている。流雨は可愛いし、誘拐されたりしてもおかしくないんだからそういうのはしっかりとして欲しい。


柚夏「流雨、返事は?」


美紗「まー、まー。見付かったから良い

   じゃん 柚夏。折角の旅行だよ?」


美紗「それにしても、縁蛇さんの力凄いね!!」


縁蛇「えっへんなのですよ。霊媒とかも

   出来るのですよ!!もっと褒めて

   下さっても良いのですよ?」


柚夏「...お米は学校に持っていきますね」


縁蛇「こう見えて、縁蛇は人気巫女なのです

   よ?予約1年待ちもザラではないの

   のです!!あ、お米は今のでしたら」


縁蛇「茶碗1杯くらいでいいですよ。霊媒

   とかなら、米5kgくらい頂いちゃい

   ますけどお腹空くので!!」


柚夏「本当に米なんですね...」


縁蛇「お米のエネルギーを先に頂くだけ

   なので、食べる時の味、超絶不味い

   ですけどね!!最後まで頂きますよ!!」


柚夏(不味いのに食べるの...?)


美紗「だって、柚夏。縁蛇さん凄いね。

   手を握って貰っただけでチケットが

   当たったりするんだもん。本物だよ」


縁蛇「ちゃんみささんは褒め上手ですね、

   へへー、縁蛇そんなに褒められちゃう

   と調子乗っちゃいますよー」


柚夏「あ、美紗。古池さん」


 お澄まし顔でゆっくりと神社の階段を上がる古池さんが此方を見て何時ものように微笑んだ。...縁蛇さんに対してだろうか?


美紗「恋愛運とかって...」


縁蛇

「縁蛇は残念ながら、恋占いの方は専門外

 なのですよねー。恋愛は自分でどうにか

 するものですから」


柚夏「自分で何とかしなさいって事。私も

   後で流雨には沢山話したい事がある    

   から、恋人として」


 流雨はビクっと身体を震わせて、美紗の後ろに逃げ込んだ。そんなに怖いか。


柚夏「...けど朝乃先輩、大丈夫かな。」


 橘先輩も不安そうにしてるし、私達は朝乃先輩の元に戻る事にした...。


※スライド


晴華「朝乃ちゃん...、大丈夫...?」


 朝乃先輩の枕元に正座で座り、右手を両手で優しく支えながら心配した様子で橘さんは朝乃先輩を見ている。


柚夏(...なんか、夫の不治の病を看病してる

  妻みたいな構図に見えるけど、寝れば

  治ります。多分)


朝乃「晴華さん...。...私、馬鹿ですよね...」


 物惜しげに、溜め息を吐いてから目を閉じる朝乃先輩...。だから、なんで湿っぽい雰囲気出してるんですかね...。


晴華「...朝乃、ちゃん」


朝乃

「 ...ずっと楽しみにしていました。貴女と

 共に...美しい京の町並みを、愛しい貴女

と共にこの世界を見たかった...」


 橘先輩の両手を包むように朝乃先輩は起き上がって両手を添える。


柚夏(...私達は何を見せられてるのだろう)


晴華「ねぇ...。どうして...?、なんで...、

朝乃ちゃんだけが...こんな、...目に...

合わないといけないの!?」


柚夏(...完全に役になりきってるよ、この人達...)


朝乃「...前から、」


朝乃「...私は晴華さんと同じ時が過ごせる

   この日が来るのを今か、今かと

   待ちわびていました。」


朝乃「...前日になり、...緊張して中々寝付け

ず...寝過ごしてしまって...。」


朝乃「晴華さんより早く着かなければと...

私は必死で走りました...。それで...

   気がついたら...。」


朝乃「...アホ過ぎて自分でも笑えないです。」


...とてもその通り過ぎて、皆何もフォローが出来なかった。


晴華「私は朝乃ちゃんの様子を見てるから、

   皆は色々観光して来てね」


晴華「朝乃ちゃんに話したい事があるから」


 と、橘先輩は立ち上がって私達を押し出す。...この人華奢な見た目の割に、意外に力が強い。


晴華「折角京都まで来たんだもん。ゆっき

   ー達はデートを楽しまなきゃ」


柚夏「ですが...」


 流石に二人を置いて、楽しんでくるというのは忍びないというか...。


朝乃「...晴華さんも、ですよ。」


と後ろから声が聞こえた。


朝乃「貴女も、お祭りを楽しむ権利はあるん

   ですから...。アホな私なんて放って

   おいて、皆で楽しんできて下さい」


朝乃「私にとって、貴女の幸せが一番の幸せ

   であり...。晴華さんの不幸は私自身の

   不幸でもあるんです...」


朝乃

「お願いですから。どうか、私に大好きな

 貴女の足を引っ張らさせないでやって

 は貰えませんか?」


と笑顔で朝乃先輩は言った。本当にこのまま行っても朝乃先輩は橘先輩に対して何も思わないのだろう。


晴華「...朝乃ちゃんは、」


晴華「私とは一緒に居てくれないの...?」


朝乃「晴華さんの為なら、私...」


 立ち上がろうとする朝乃先輩を押し倒し、どこからだしたのか紐で縛り付ける橘先輩。その手付きはとても鮮やかで美しさすら感じた...。


晴華「病人は寝てなきゃ駄目だよー?、

   ね?ゆっきー?」


 橘先輩のニコニコな笑顔が、古池さんに向かう。その笑顔に流石の古池さんも少したじろいでいるようだ。


 モデルさんの笑顔には古池さんも流石に弱いらしい


古池さん「...そうですね。...では、私達も

見回りましょうか」


柚夏「...そう、ですね、えっと...別行動で...

   良いんですよね?」


 靴を履きながら神社の外に出て、私達は賽銭箱の前で立ち止まる...。頭の大きさほどある大きな鈴が私達を見下ろしていた。


美紗「うん。16時までには此処に集合で、

   雪音は人前でそういうのあまり出した

がらないから...。」


美紗

「たまにはこういう所で恋人と二人っきり

 っていうのも悪くないよね。雪音」


古池さん

「...貴女がそう思って下さっているの

     ならきっと、そうなのでしょう」


 横幅の広い神社の階段を下っていくと、人通りの賑やかな声が聞こえ始めてきた。


美紗「来た時は出店に人も居なかった

   けど...、如何にもお祭りって感じ!」


 美味しそうな匂いや、楽しそうな話声などが此処まで聞こえてくる...。小さい頃に行ったお祭りも、こんな感じだったな...。


柚夏(...あぁ。懐かしい、なぁ)


柚夏

「じゃぁ、此処で私達は左側に行くけど...

迷子にならないようにね。美紗」


美紗「雪音が居るから流石にそれはないよ」


柚夏「...はぁ。...迷子になる事をまず、

否定しようか...」


 階段を最後まで下って、私達は美紗と古池さんに別れを告げてから東方面へと歩いて向かって行ったのだった。


※キャプション


柚夏(流雨にとってはいつ叱られるか分から

   ない状況だからかな...。)


柚夏(けど、今回ばかりはしっかり言い

   聞かせないと...)


 どことなく、しょぼんとした顔で手を繋ぎながら流雨は歩いている...。屋台が気になるのかチラチラと店を眺めているようだが...


柚夏(...と、言ってもただの注意なんだけど...、)


 ちらっと、私の顔色を伺いながら出店を見る流雨。そして暫く経つと、しょぼん顔で...また私の顔を見る流雨...。


柚夏(怒られてるのに楽しんじゃいけ

  ない...。...あ、でもお店、気になる

  みたいな)

 

柚夏(...もう、すっごい、ピュア...ッ!!、、)


 口元を隠して、流雨の視線から少し顔を背ける。すると流雨は怒ったのかな?と伺うようにこっちを不安げに見つめている。


柚夏(...ぐぐ...可愛い。怒ってたのになー、

  危険な目にあってなかったのか)


柚夏(心配してたって注意しなきゃいけない

   のになぁぁァ...!!)


柚夏(こんな、叱られた子猫みたいな顔

   されたら怒るに怒れない...)


柚夏「...はぁ、流雨。...私も、もうそこまで

   怒ってないから...。....私が怒ってた

   のは流雨が充電忘れてた事じゃなくて」


柚夏「流雨が危険な目に合ってたらどう

   しようっていう"心配"」


柚夏「...本当に流雨に何かあったら、私は

   自分自身が許せない。どす黒い感情に

   支配されそうになるの」


柚夏「他の人より"保護欲"が強いのかな」


柚夏「それが、私にとって 自分の死よりも

   恐ろしい事だったから...。だから」


柚夏「...そういう事は事前にちゃんと

相談して欲しい。」


柚夏「何処かにいかないで」


 そう言って涙が零れそうで、歩きながら、流雨に話す。これはちゃんと言っておかないといけない事だから...。


柚夏

「...流雨は心配し過ぎだって思うかもしれ

 ないけど、...私の母親は大丈夫だって思

 ってたから 居なくなった...。」


柚夏「死ぬ訳ないって勝手に思い込んでた。

   ...危ない目に合ってからじゃ、もう

   遅いんだよ。」


柚夏「...流雨も、私より先輩なんだから...

   私の前から突然居なくなったり

   しないで」


柚夏「...私...家族居ないから、流雨まで

   居なくなったら...。...死にたくなる

   くらい、泣く。」


柚夏「母さんと同じ鬱になって自殺

   する...これが怒ってた理由。私は

   死にたくないの」


流雨「分かった。...これからは気を

   つける...。柚夏...」


柚夏「...?」


流雨「頭...下げる...」


 流雨に言われるままに頭を下げると、流雨の小さな手が私の髪を撫でた。


流雨「よし、よし...」


柚夏「....なっ////!?ひ、人が見てる

から///!!、、」


流雨「私は居なくなったりしないから」


...けど、どうしてだろうか。何故か目から涙が溢れてくる


 その手を拭う私。皆従姉妹か何かだと思っているのか...ほっこりとした顔で去っていった...。


柚夏「....あー、もう、キャラじゃない...///」


 泣いて真っ赤になった顔を隠すようにして、前を歩く...。羽織っていたシャツを脱いで腰に結んだ。


柚夏「...流雨、お昼だし、そろそろ何か食べ

ない?流雨は何食べる?」


 雰囲気を紛らわせるために、お昼を取る事にしよう、うん。私はアイスコーヒーでも買おうかな...。


流雨「美味しい、物...」


柚夏(美味しい物...)


 一番困る回答。視線の先にはちょこばなな、林檎飴、イカ焼きと店が点々と並んでいるのが見える...。


柚夏「"美味しい物"か...、なんだろ...」


→「ちょこばなな」※好感度アップ10

→「林檎飴」 ※好感度アップ15

→「イカ焼き」※好感度ダウン10



→「ちょこばなな」


 茶色のチョコレートは勿論、水色や白色、オレンジやピンク色など色とりどりのチョコレートの上に


アイシングが掛かったチョコバナナ達が並べられている。


柚夏「チョコバナナ下さい、一本」


お姉さん

「はい、まいどあり。

   お嬢ちゃんはどれがいいのかな?」


 出店の店員のお姉さんは子供好きなのか、流雨を見ながら笑顔でそう答える。


柚夏(お姉さん、この子...。こう見えて

  私より年上なんですよ...)


柚夏「どれがいい?流雨」


流雨「ん...、これがいい」


と流雨は水色のチョコバナナを指差す。...こういうとこ、...こういうとこが見た目の年相応に見えちゃうんですよ流雨。


お姉さん「これだね、200円になります」


柚夏(え、えらく安いな...)


お姉さん「はい、お嬢ちゃん。落とさない

     ように気をつけてね」


流雨「ん...」


 と後ろに並んでいる子もそれを見て欲しくなってしまったのか、お姉さんに話しかけていた。


流雨「チョコバナナ好き...」


柚夏「流雨はチョコ系が好きなの?

   パフェの時もチョコ頼んでたし...」


流雨「ん...、毎日...食べる...」


 はぐはぐと、チョコバナナを小さなお口でかじる流雨。...なんか、軽い犯罪臭がするのですが...。


 まぁ、美紗も此処には居ないしセーフだろう...。小動物みたいに可愛い...///


柚夏(...別に、私はそういうのじゃ...。

  あー...もう。クッソ、...雨宮先輩の

  ほくそ笑む顔が浮かんでくる...。...///)


流雨「...柚夏?」


※スライド


→「林檎飴」


柚夏「林檎飴だって、流雨。流雨は林檎飴

   好き?」


 屋台と言ったら定番とも言える林檎飴。


 流雨と最初会った時も飴玉をあげて仲良くなったんだっけ...、今となってはそれも懐かしいな...。


流雨「...ん」


柚夏「林檎飴、一つ下さい」


おじさん「300円ね。まいど、はい

     お嬢ちゃん」


 300円分のチケットをおじさんに渡して、おじさんはにこにこと微笑みながら流雨に林檎飴を手渡した。


柚夏(完全に、子供と勘違いしてるなぁ...。)


※スライド


柚夏(...色んなお店があるなぁ、笑顔で楽し

   そうな子達もちらほら。そんな走ると

   転んじゃうよ)


柚夏(子供は無邪気で良いなぁ...。)


流雨「...ん、柚夏...」


と、林檎飴を食べていた流雨が声を掛けてきた。あれから結構経ったけど、まだ林檎飴の殆どが残っている。


柚夏(...まぁ、林檎まるごと一個は

     食べるのに結構時間掛かるよね)


柚夏「持っとく??」


 買った時みたいに林檎に袋を被せていればいつでも食べられるだろう。私も何か食べようかな


柚夏(出店の料理って結構お金掛かるんだよ

   なぁ...。でも、田舎だからか安いのが

   多いな)


流雨「違う...残り...食べて...、...食べるの、

飽きて...きた...。バリバリするのは

  良いけど...リンゴ丸ごと一個はキツい...」


と流雨から残りの林檎飴を手渡される。甘いの最近食べないとかそれ以前に...


柚夏「これ、流雨さんと間接キスに

  なっちゃいますけど...!?...えっ!?」


流雨「...確かにそう」


流雨「でも恋人なら気にしない。柚夏には

   義恩がある、だからこそ

   間接キスくらいなら良い...」


柚夏「恩義の事??」


流雨「そうともいう。」


流雨「私の間接キスは嫌...?」


柚夏「いやいやいや、そんな事ない

   です、、」


 何故か急に敬語になる。気にしてるのは私だけ...??いや。友達とシェアする事なんて結構あるじゃないか


 美紗と出掛ける時とか平気で好きじゃないからあげるって渡してくるし


流雨「柚夏、林檎飴嫌い...?だったら

   食べる」


柚夏「無理して食べるのは逆に食べ物に

   対して失礼だから...。食べるよ」


流雨「...ん」


柚夏「....」


柚夏(はぁ...。気にしてるのは私だけ、

  かぁ...。...本人が気づいてないのは良い

  ことなのか、悪いことなのか...。)


シャリッ※林檎音


柚夏(まぁ、後はほぼ林檎だし。甘い物苦手

  でもわりかしイケるな...。というか普通

  なら買わないからなぁ)


柚夏(...それにしても。なるほど、

  お子さんのコミュニケーションを取る

  分には)


柚夏

(大きすぎて食べれない林檎を両親が

 食べてあげる事で信頼を勝ち取るという

 目的としては林檎飴は優秀と言える...)


柚夏(こうやって余ったのを親御さんが

  食べるんだろうなぁ...。)


 目の前に居たカップルが「間接キスだね」と言いながら飲み物をシェアしながら通り過ぎていく...。


...カップルもチラホラ見かけるなぁ。


 最後の一口をかじり終え、林檎飴を食べ終わり芯を近くにあったゴミ箱に捨てた。


流雨「...林檎飴、...間接キス」


柚夏「ゴホッ、ゴホッ...」


むせた。


柚夏「今気付くの!?」


※スライド


→「イカ焼き」


イカの醤油焼きの良い匂いがしてきた...。よし、お腹も空いたし...これにしよう。


柚夏「美味しそうだね、流雨」


流雨「....んー、別にいらない...かな...」


柚夏「あれ...?流雨お腹空いてない?」


ジュウウウと香ばしい匂いと共に、イカが焼かれていく...。美味しそうなのにな...。


柚夏「イカ焼き、一つ。ゲソで」


 普通に私は食べたかったので、一番安いのを一つ注文した。


おっさん「あいよ、300円だよ」


流雨

「手につくし、それに猫にイカをあげては

 いけない...」


柚夏「でも、チョコは良いんだね。」


流雨「確かに...」


※スライド


 こういう所で、昔は食べてたけど...なかなかに美味しい。家でも作れないかな...。


柚夏(...美味しいなぁ)


 流雨が恐る恐るイカを食べている私の顔をじーっと見ている。...やっぱり、食べたかったのかな?


柚夏「流雨も食べたい?」


流雨「イカは...お腹壊す...チアミナーゼ」


流雨「でも、良い匂い...」


柚夏「あー...そっちか...なら、

   しょうがないね...」


けど...美味しそうに食べているのは気になるようで...私が食べ終わるまで、流雨は私がイカ焼きを食べるのを見ていた。


柚夏((視線が)気になる...)


流雨「...間接キス、...出来ない」


柚夏(経緯は分からんが、何か凄い大胆な事

を言われた気がする...)


※スライド


 流雨の意外な一面も見れて、良かったな...。やっぱりこういう普段来ない所だと学校では見れない流雨の顔がよく見える...。


柚夏

(...先輩だからずっと側に居られる訳でも

ないし、学校に居る時の流雨って何か

 一歩置いてるって感じがするから...)


柚夏

(...こうやってまた海みたいに色々新しい

思い出が出来れば良いな。楽しい思い出

が増えればきっと流雨も...ん?)


 流雨は金魚すくいに興味があるのか、泳ぎ回る金魚を見つめながら歩いている...。


柚夏「やってみる?」


 と立ち止まると、流雨も私と同じように立ち止まった。...流雨の視線は泳ぐ金魚達に向かっている。


おじさん

「どうだいお嬢ちゃん?、金魚すくい

 楽しいよ~。一回100円、どうだい?」


 流雨は首を横に振って、無言で泳ぐ金魚を見詰めている。...流雨は飼うより、見ている方が好きなのだろうか?


流雨「ううん...、...屋台に出てる金魚は...

売れない金魚...在庫処分として出店に

   売ってる...。色、形が...駄目だった

   金魚...」


流雨

「弱ってる金魚も...多いから...長い時間、

持ってたら...死ぬ...。飼うならペット

 ショップか...金魚市...」


柚夏「...そう、...なんだ」


おじさん

「おっ、お嬢ちゃん。よく知ってるねぇ」


 流雨の言っている事は本当の事だったらしく、おじさんは苦笑いで此方を見ていた。現実って残酷だな...。


流雨「...けど...美味し、そう...」


柚夏(えっ、金魚見てたのそういう理由...?)


柚夏「...まぁ、確かに長時間持ち歩くの

   は金魚も可哀想だよね...。」


おじさん

「ははは、食わないでやってくれよ。

 お嬢ちゃん達。掬って楽しい、飼って

 可愛い金魚掬い。やっていかないかい?」


 おじさんは流雨に興味がなくなったのか、他のお客さんを呼び込んでいる。...買わない

のに文句言ったら駄目だよ


流雨

「...売れ残った金魚は、...動物の餌として

 使われたり、する...から...金魚救いって

 名前もあながち...」


男の子「パパ、金魚さん食べられちゃうの?」


柚夏(流雨、おじさんも商売だから...!!、、)


 おじさんの顔が完全にひきつっていたので、流雨を引っ張ってさっさと離れていった。


柚夏(帰るまでにはおじさん、顔忘れてると

  良いな...これが本に書いてあった

  ADHDの症状...?)


柚夏「流雨、あっちも商売なんだから

   そういう事思ってても言っちゃ駄目

   だよ?」


流雨「...なんで?...悪い事してるのに、

   正論を言ってはいけないの...?金魚に

とって...死活問題...柚夏は金魚が嫌い...?」


柚夏「金魚は嫌いって訳じゃないけど...

   それだと...流雨が...」


柚夏「おじさんにうっとおしがられちゃう」


流雨「おじさんに嫌われても何も思わないよ

   ...」


柚夏「う〜ん...」


柚夏

(...確かに流雨の意見は間違いじゃない。

 おじさんは金魚を商売道具として扱ってる

  ...けど、法に反してる訳ではない)


 こういう時はなんて、言ったら良いのだろう...?...流雨は子供じゃない。


 だから、子供を相手するように誤魔化す訳にはいかない...。


柚夏(けど...社会に出てもこのままって訳には

いかないし...。相手を怒らせないように

  しないと...また、流雨は苛められる)


柚夏「...うーん」


柚夏「難しいなぁ...」


??「...ひっく、ママー。どこぉ...」


 遠くで女の子がうずくまって泣いているのが見える。人の良さそうなおじさんが声を掛けているが、女の子はもっと大きな声で泣き始めてしまった。


女の子「ううぇえ...ぇん!!」


柚夏「迷子かな?...ちょっとごめん、流雨。

   ...絶対、此処から離れないでね?」


流雨「ん...」


 流雨に声を掛けて、女の子の元に駆け寄る。女の子は怯えるようにご両親に買って貰ったものなのか、玩具(おもちゃ)を抱き締めながら泣きじゃくっていた。


柚夏(そりゃ、お母さんが居なくなって不安

  なのに知らない人に急に話し掛けられた

  らビックリしちゃうよね...。)


女の子「ひっく...ママぁ...」


 私はポケットから、財布を取り出して100円分のチケットを女の子に見せた。


柚夏「これ、何か分かるかな?」


女の子「お金の、チケット...」


柚夏「正解、よく知ってるね。お嬢ちゃん」


 女の子は興味を持ったように、私の手の平に乗せたチケットを見ている。


柚夏(...よし、泣き止んだな。)


女の子「...うん、お母さんも使ってたから」


柚夏「じゃぁ、よく見ててね...」


 100円分のチケットを 女の子の前で見せてから、その後、手を叩くと手からチケットをみごと消して見せた。


女の子

「...無く...なちゃった。...お兄ちゃん、

    チケットはどこいっちゃったの?」


柚夏「手を開いてごらん」


...すると、女の子の手の平に私がさっきまで持っていた100円分のチケットが移動していたのだった。


女の子「わぁ...お兄ちゃん、凄いっ!!」


柚夏「そのチケットは、あなたに使って

   欲しいみたい...。だから、大事に

   使ってあげてね」


女性「...小早紀(こさき)!!何処行ってた

   の...!!もう、本当に、心配したん

   だから...!!」


 と、女性が女の子に向かって走り寄り。...女性は女の子を抱っこしてぎゅっと抱き締める。


 その瞬間、女の子は安心したようにぱぁっと顔が明るくなったのだった...。


柚夏「.....。」


柚夏「...お母さん、見つかって良かったね。」


女の子「うん!!ありがとう、お兄

    ちゃん!!お母さん...!!この

    チケットが私に使って欲しいってー」


女の子の母親

「え、あっ!!えっと、す、すみません...、この子が御世話になりました。チケットはお返ししますから」


女の子「...このチケットさんは私に使って

    欲しいって...お兄ちゃんが...」


柚夏

「...うん、そうだよ。そのチケットさんは

 私より君を選んだんだから。使ったら、

 最後まで食べてあげてね」


 と、しゃがみこみ女の子の頭を撫でてあげると。女の子もにっこりと微笑んだ。


柚夏

「そのチケットは、もうこの子の元にあり

 ますから。子供は視界も低いですし、

 迷子にならないように気をつけて

 あげて下さい」


と、立ち上がって流雨の元へ歩く。...流雨もあまり待たせたら悪いし。


女の子の母親「本当に、ありがとうございました...!!」


女の子「お兄ちゃん。ありがとー、

    バイバイー」


柚夏(うーん、お兄ちゃんじゃないん

   だけどね)


 と、女の子の母親は頭を深く下げてから、女の子と手を繋いで歩いていった...。


柚夏「...待たせてごめん。流雨」


流雨「柚夏、優しい...」


 と、その光景を見ていたのか流雨はじっと私の顔を見ながらそう言う。そして、また私達はぐれないように手を繋ぎながら歩いていった...。


柚夏「そんな事ないよ...、私も昔はあんな

   感じで誰かに連れて行って貰った事が

   あったから...。もう殆ど覚えてない

   けど、ね」


柚夏「お母さんじゃないけど。ある人にね」


柚夏(...ラムネ)


 小さい頃に父さんに買って貰ったラムネ...。あの父親を自分の親父(おやじ)とは思いたくないけれど...、...懐かしいな。


柚夏(...珈琲もあるけど、...ラムネなんて、

  お祭りぐらいしか見る機会ないから

  なぁ...)


柚夏「...流雨はさ、ラムネって飲んだこと

   ある?...お祭り自体よく行ったりす

   る?」


流雨「....ない、...今日初めて...来た」


と、流雨は首を横に振る。


柚夏(...珍しい。お祭りも初めてだったのか)


柚夏「ラムネ二本、下さい」


おばさん「まいどあり」


 券と引き換えに、ビニール袋に入っている冷えたラムネ二本をおばさんから受け取る。


柚夏「...はい、流雨。」


 流雨に一本ラムネを渡して、氷の中で冷えていたラムネを私は手に取った。


流雨「ラムネ...、瓶...どんな、味する?」


柚夏「甘い。ソーダとはまた違う味かな...」


 流雨は本当にラムネを初めて見たのか、開け方が分からなくて色んな角度から見回している。...私も昔はそんな感じだったなぁ。


柚夏「...開け方、分かる?」


流雨「...ん、これで押す...?」


柚夏「そうそう、こうやって...」


 蓋に力を入れてラムネを押すと、キュポンという音と共に瓶の隙間にビー玉が落ちる。

 

 それを見た流雨は少し興奮したように押すが、中々開かない。


流雨「...柚夏、開かない」


と、流雨のラムネを受け取り、私は蓋をギューッと押す。


カチッ


そして、流雨にラムネを返した。


柚夏(...このくらいで押せるかな?)


柚夏「これで開くと思うよ。」


と、流雨がキャップを押すとプシュっと音がしてビー玉が落ちていった。


流雨「柚夏、凄い...」


流雨「お洒落だね。」


柚夏(...昔の自分を見てるみたいだ)


柚夏「...うん、そうだね。ラムネ、

   美味しい?」


 シュワシュワと音を立てているラムネを流雨は少しずつ飲んでいっている。


流雨「ん...、嫌い...じゃない。柚夏、は...?」


柚夏「...私?えっと...懐かしい味がする、

   かな。昔飲んだことあって、また

   久々に飲んでみたいなぁって...」


流雨「柚夏、寂しい...?」


 涙が流れてくる...。別にもう、悲しくも何ともないのに...何でだろ...


柚夏

「...家族が居たとき、思い出しちゃって。

 あんな事もあったなって...」


流雨「...私は思い出ない...から、よく分から

ない...前から、そうだった...」


流雨「家族には絶賛反抗期中...。笑うの

   あんまり好きじゃないから...」


 流雨の場合、両親が仕事で忙しくて中々家に帰って来ないから...そっか、...こういう感情も流雨には無いんだ...。


柚夏「ううん、気にしないで。...ちょっと

   懐かしいなって思っただけだよ」


 涙を拭いて、私は顔をあげる。オヤジもクズだったと知る前の話だ...。あの頃の私は本当に何も知らなかったんだんだよなぁ...。


柚夏「それにしても...もう大分、回った

   ね...。そろそろ帰ろっか...流雨。

   金魚の話でもしながら帰ろう」


 と、私は流雨にあの時何がいけなかったか。相手の気持ちと、流雨の気持ちを噛み合わせで説明しながら神社へと歩いていったのだった...。


柚夏「金魚を飼いたいって人も居るだろう

   し、そういう人の為の事も考えないと

   駄目だよ?」


流雨「....ん」


柚夏「流雨、さっきから全然喋ってない

   けど...本当に分かってる...?」


柚夏(聞き分けが良すぎて...なんか、聞き

  流されてるように感じるなぁ...)


 ラムネをゆっくりと飲みながら、私達は神社に戻る為に、流雨と手を繋いで来た道を帰っていた。


流雨「...ん。...聞いてる」


柚夏

(んー...何か、違うなぁ...。流雨は聞いてる

話は聞いてるんだ...。...けど...納得?)


柚夏「...納得、してない?」


 流雨は少しだけ言葉に詰まったように、...ラムネを一口飲んでから。ゆっくりと話しだす。


流雨「本当の事言ったら...柚夏きっと、怒  

   る...。うっとおしいなって思う...」


柚夏「だからって、黙って私だけ一方的って

   いうのはフェアじゃないから、お互い

   様だよ。」


柚夏

「流雨が納得いくまで、説明してあげる

 から。それに何も言い返してくれないと

聞き流されてるみたいだし...」


流雨「...聞き流されてる。そう、思う...?

   なる程、偉そうって言われるのは

   そう思われてるから...?」


柚夏

(流雨って考えてる事、言葉に出るタイプ

だったのか...。...今、初めて知ったんだ

けど...)


柚夏「仲良くなりたい人とかだと、多分そう

   思ったりするんじゃないかな...。私も

   そう思ったから...」


流雨

「聞き分けの良い、楽な人とは思わない...。それは意外...。分かった。」


流雨「皆に優しく出来る柚夏みたいな人

   こそ長生きすべき。私なんかじゃな

   くて」


流雨「私は聖人君子じゃない。柚夏が

   思ってるほど優しくないんだよ」


流雨「...私が話すと皆傷ついちゃうから」


流雨「さっきみたいに柚夏に迷惑掛ける」


柚夏「迷惑なんて掛かってないよ。ただ、

   流雨がおじさんに敵意剥き出しに

   なって欲しくなくて...」


流雨「人間に興味ないのがそんなに悪い事

   なの...??」


柚夏「そう言われると私も人間なんだ

   けど...」


流雨「柚夏は人じゃない。人ならもっと

   もっと酷い事をいう...」


柚夏「私人間じゃなかったんだ。じゃぁ

   私はなんなんだろう」


流雨「恋人じゃないの??...柚夏が言ってた」


流雨「私は"優しさ"が分からない」


柚夏「"優しさ"、かぁ...」


柚夏

(流雨が何時も喋らないのって...まさか、

 聞き分けの良い楽な人の方が好かれるって

 本気で思って...。)


柚夏(...そうだなぁ、流雨だもの...)


柚夏「遠慮しないで、掛かってきて」


流雨「...良いけど、...負けても知らないよ」


柚夏「望むところ。」


流雨「...そもそも、金魚の知識が無い人に

   飼えるとは...思えない...。川に放流

   したりする大抵の人が金魚釣りの...」


柚夏「金魚の話じゃなくておじさんの話」


流雨「...柚夏はそんなにおじさんが好き

   なの??」


柚夏「別におじさんは好きじゃないけど、、

   楽しんでる人もいるから 礼儀とか、

そういうの」


流雨「礼儀、ね...。」


流雨「無意識でやってるから分からない...」


柚夏(...そういう、"病気"かぁ...)


 金魚の時の話をしながら、神社へと向かっていたのだが...流雨は本当に遠慮してはくれなかった...。


※スライド


柚夏

(...兎に角、流雨が本当に魚好きっていうの

 は身を通して分かった...。裏事情に

 詳しすぎて流雨に勝ち目が、ない...)


流雨「柚夏は、おじさんより私のが大事...??」


 と上目遣いで子どものように答える流雨。なんでそんな私がおじさん大好き人間みたいになってるんだろう...。一言も言ってないんだけどな


 流雨は言葉選びが無限に上手いのだ。隙を見せるとすぐそっち方面に持っていく。


柚夏「流雨の方が大事だけど、だからこそ

   分かって貰いたいというか...」


流雨「変わる気がない人に何言っても無駄」


柚夏(雨宮先輩のような事を...)


 それに心理学をしているのもあって、全て私が説明する事は流雨はもう事前に考えており


 それに対しての回答がすべて出来上がった状態で返ってくる...。こんなの勝てる訳が無い...


柚夏

「...確かに。...流雨の話を聞いたら、確実

に金魚のおじさんが悪いのは私もそう思 

 うけど、」


柚夏「...私は流雨におじさんに煩いやつ

   だなって思われたくなくて...」


流雨「おじさんに煩い奴だと思われても

   何も思わない」


流雨「私は柚夏さえ居てくれればそれで

   良い」


流雨「他の人間なんていらないの。」


 そういう訳にもいかなくて。私が死んだらこの子はどうなるんだろう。泣いて叫んで、そしてまた空っぽのように生きるのだろうか


柚夏「...確かに...その通りだけど、私は

  流雨に嫌われて欲しくないん

  だよ...。好き、だから...」


流雨「嫌われるのは慣れてる」


柚夏「流雨が他の人から嫌われるのは

   悲しい。」


 私は結局流雨の意見を最後まで、切り崩せずにいた...。もう最終的に一番苦手な感情論で流雨に食い尽いている...。


柚夏(...なんて、...惨めなんだろう)


流雨「...ごめんね。それが嫌なら私と

   話さない方が良いよ」


 と心の底から思ってる流雨。苛めの傷跡はこれだけ深いのだ。私が傷付けた訳じゃないのに、流雨はすぐ私が諦めると思って無感情でいる


そうすれば悲しくないから。


流雨「...本当にごめんね。」


お母さん

『本当にごめんなさい。柚夏』※手紙


お母さん『あなたを置いて先に逝ってしまう事を許して欲しい。あなたも殺そうと思ったけど、どうしても出来なかった。この世界は辛く厳しい物だけどどうか生きて』


お母さん『私の可愛い娘、柚夏。旅立つ不幸をお許し下さい』


 また、あの笑顔だ...。...自覚のない、目が細まって...自分の事より他人の事を考えてる...人の...笑顔。


 だったらどうしろと


 キスでもしてしまえば私の物だって分かってくれるだろうか。私が流雨を捨てないってわかってくれるのだろうか


 そんな考えが頭に思い描(えが)く。


柚夏「...流雨、...その...」


柚夏「...なんでもない」


柚夏(...こういう時にキス出来たら...。)


...流雨と繋いでいた手をぎゅっと強く、握る。


柚夏("大好きだよ"って、言えたら、、)


柚夏「もうすぐ神社のてっぺんだね...、流雨」


 あっという間に神社に着いていて...。まだ16時まで少し、時間があった...。


 木の木陰で、流雨と二人きり...境内の裏に座る。


柚夏「...今日はいっぱい、話せたね」


...さっきの流雨の笑顔が、頭からこびり付いて離れなくて...。


流雨「ん...、人と話して満足したのは...

久々...。楽しかった...」


柚夏「美紗もまだ帰ってないみたい」


流雨「...柚夏。...まだ、怒ってる?」


柚夏

「ううん、怒ってないけど...。...お母さん

 の手紙のこと思い出しちゃった」


流雨「手紙のこと...?」


柚夏「旅立つ不幸をお許し下さい、って」


柚夏「娘なのに敬語なんだよ。私の事が

   よっぽど怖かったんだ」


流雨「怖かった...?」


柚夏「...若い頃のお父さんに似てるから、」


柚夏「自殺したんだよ。お母さん」


柚夏「首に紐付けて、死んじゃった」


あーあ、折角隠してたのに


ともう一人の私が言う。そうして、私はまるで子供のように泣きじゃくった


柚夏「お母さんも消えて、流雨も消えて

   私はどうすればいいの、、どうしたら

   良いの」


柚夏「どうすれば良かったの。私なんて全然

   優しくない、お母さんを守れなかった」


柚夏「私はっ...、、」


流雨「柚夏...。」


柚夏「...流雨は、...私の事...信頼して

   くれてないんだね...」


柚夏「当たり前だよね、だって私お母さんを

   守れなかったんっだもの」


 ...流雨の手が私の頬を撫でる。


柚夏「...ごめん...なさい...、、ごめん

   なさい、、守れなくて、、」


流雨「...柚夏のせいじゃないよ。」


流雨「柚夏のせいじゃない。」


柚夏「...っく、お母さん...」


流雨「私は柚夏のお母さんじゃないけど、

   あなたを裏切る真似をしてしまって

   ごめんなさい」


流雨「私はもうあなたを裏切る真似はしない」


流雨「ずっと死にたいと思ってたけど、

   あなたを置いて此処にはいられない

   から」


柚夏「...。」


流雨「お弁当の事もだけど、あなたは私の

   障害を真剣に考えてくれた。だから

   言う、」


流雨「ADHDは精神病じゃない。

   "頭"の病気なの」


流雨「...だからこうするしかなかった。

私達は普通の人に裏切られて心を

無くす人が多い」


流雨「だからあなたは"とても良い人"」


柚夏「....。」


流雨「私に温かさを教えてくれて

   ありがとう」


流雨「私は自分から人を好きになる事は

   なかった。でも、あなたなら」


流雨「"柚夏"なら きっと愛せる。

   そう思ったの」


柚夏「...」


 何か言いたいのに、言葉が出てこない。本当に昔のお母さんにそっくりだったから


お母さんが生きてたらこんな風だったのかな


柚夏(あぁ、もっと早く気付いてたら...)


 でも、後悔してももう遅い。お母さんはもう死んじゃってるし流雨は私のお母さんじゃない


柚夏(分かってるはずなのに...、)


柚夏「お母さん...」


 ふぅっと、溜め息を尽きながら上を見上げる...。...本当に、大きな木だ。この木は何年、生きているのだろうか...。


流雨「お茶でも買って来ようか?」


柚夏「いや、良い。大分気持ちも落ち着いて

   きたから」


柚夏「ごめんね...」


流雨「柚夏も本当の愛を求めてたんだね。」


柚夏「本当の愛...」


流雨「告白する人は何人かいた。でも、

   顔だけが目当てで、私に付いてこら

   れる人は誰も居なかった」


流雨「私の"発達障害"に」


流雨「喧嘩して、相手を怒らせて」


流雨「そんな生活が何度か続いた。そして

   ツイスターを辞めたの。あぁ、私は

   ツイスターをやってはいけないん

   だなって」


流雨「言って欲しかった。今日はもう疲れた

   から此処で終わろうって」


流雨「喧嘩したくなくて、でも本当に皆

   良い人だった。なんで私は喧嘩しか

   出来ないんだろうって」


流雨「ごめんなさいもありがとうも言え

   なくて。本気で反省出来なくて」


流雨「メンヘラとか、話が長すぎる。話が

   通じないとか色々言われた。親しき

   中にも礼儀ありって、本当にごめんって」


流雨「大好きだった。でも、大好きだった

   のは私だけだったの」


流雨「苛められたからって、それを武器に

   して私は"見えない誰か"とずっと

   戦ってたんだ」


柚夏「経験豊富なんだね」


流雨「5〜6人かな」


柚夏「多(おお)!!」


流雨「ネットサーフィンしてただけだよ。

   皆ネットの人」


柚夏「それでも凄いよ。」


流雨「私の言葉に誘惑されて、告白して

   きた人ばかり。私はただの高校生

   なのに」


流雨「付き合いとか。会ってみたことも

   あったけど笑顔で話す私の心は

   いつも"空っぽ"だった」


流雨「人と居ると楽しいって思わないの。

   一人の方が楽、人には良い経験が

   ないから...」


??『ほんと静谷さんってうざいよね。私達が

  何しても楽しそうにしちゃってさ』


??『頭も悪いのに、なんで皆からモテるん

  だろう』


??『ねぇ、教室移動ごとにバックとか隠した

  らどんな反応するかな。』


??『なにそれ面白そう』


流雨「.....。」


流雨

(何も楽しくない。皆が好きなdays need    

(デイズニー)に行っても、男の人と

 料理を一緒に食べても)


流雨("楽しくない"何でだろう。)


流雨(皆楽しそうにしてるのに、私だけ

   一歩後ろで見てるよう)


流雨「...言われないと分からない。」


柚夏「....。」


流雨「私も言うようにする。だから

   そんな顔しないで」


流雨「あなたには泣いて欲しくない」


柚夏「...」


流雨「私が握っててあげる...。不甲斐ない

   私だけど、今度は柚夏の番」


と、何故か急に膝枕される。


流雨「良い子...、良い子...」


流雨「柚夏は悪くないよ...。」


 そう言いながら長い髪を抑えて、左手で撫でる流雨は後光の女神に見えた。


柚夏「...。...流雨の笑顔が見たい」


流雨「笑えるかな。」


 流雨の表情は変わっていない。...微かに、口元が微妙に口角上がってるかなと言う感じだ...。


でも、凄く可愛い。


流雨「...柚夏」


柚夏「....なに...?、...流雨?」


流雨「"キス"して欲しい...?」


柚夏「そんな幸せで良いのかな...」


流雨「柚夏のお母さんも柚夏には

   幸せになって欲しいと思う。だから

   柚夏だけ生き残ったんだよ」


流雨「"幸せを手にするために"」


柚夏「幸せを手に入れるために...」


と、額にキスされる。


流雨「人はこういうのが好きなんでしょ??」


木の木漏れ日が、暑い夏を感じさせる。ジジジッと今まで聞こえなかった蝉の鳴き声が無言の中、響いていた...。


※スライド


柚夏「...流、雨」


 狼のように最後にぺろっと、口元を舐めて...。ぎゅっと、流雨のその小さな身体を私は抱き寄せる。


柚夏「...好き。...どうして良いか分からない

   くらいに...、好き、だよ...」


流雨「...柚夏、」


柚夏「...流雨が逃げないか、拒否しない

   かって...そんな事ばっか、考えてる...」


...ずっと。...このままで居たい...。この関係性で居たい。そう願うのは我儘なのだろうか


柚夏「...確かに、ネガティブで依存癖は...

   ある、と思う...。お母さんお母さん

   って」


柚夏

「...離れて欲しくない、好きになればなる

 ほど...辛い...。本当に辛い...」


柚夏「その肌に触れたい」


柚夏「...安心するから。」


柚夏「流雨はお母さんでもなんでもない」


柚夏「それは分かってる。」


柚夏「好きなのに、嫌われた方が良いの

   かなって思うんだ」


 ...こうやって。...キスしたりしたり恋人みたいな事したり


 嫌われないかなとか、...我慢すれば。するほどに、離れて欲しくない気持ちは...どんどん、増していく...。


柚夏「...私だって、」


柚夏「流雨みたいに格好良い人間に

   なりたかった...。」


 ポタポタと涙が溢れてくる、流雨にぎゅっとした状態で...、...本当に、今日は格好付かないなぁ...。


柚夏「流雨の信頼を勝ち取りたい。その

   ためにはどうすれば良いか分からない」


柚夏「流雨は逃げてって、私は一人ぼっちで

   美紗が居ても心の中は空っぽなの」


柚夏「"こんなの"本当の自分じゃない」


柚夏「私は、本当はこういう性格なの」


 流雨は懸命に何かを考えるように。軽く口を開く...。


流雨「...柚夏、偏見...本当に多い、酷い...

   すれ違い...。私はそんな事言って

   ない...」


柚夏「すみません...。」


流雨「私がいつ柚夏の事を嫌いって言った??」


流雨「ただ、苛めで柚夏を巻き込みたく

   なかっただけ」


流雨「それを...柚夏に解決して貰ったし。

   まさか苛めがマシになるとは思って

   なくて...」


柚夏「マシになったって事はまだやってるの??」


流雨「藤奈が率先して苛めっ子を威圧してる

   みたいで、それだけで変わるんだな

   って」


流雨「ずっと一人だと思ってたから。もう

   そういうのは慣れてて、その事ばかり

考えてた。」


流雨「"周りに愛されてる"なって」


流雨「金魚の店員さんみたいな事もあるけど

   柚夏は私のことを怒ったよね」


流雨「私、怒られるのがあんまり好き

   じゃないの」


柚夏「怒られる...?」


柚夏「あれは”流雨のため”に...」


流雨「私のためって何?」


柚夏「流雨のためって...」


流雨「自分が嫌われたくないだけ

   じゃない?」


流雨「...そうやって嫌われた事があるから、

   私にもそう言った」


流雨「...違う??」


柚夏「.....。」


流雨「私は嫌われるのに慣れてる。だから、

   "余計なお世話"って言った方が良い??」


流雨「...考えてるのはこんな事ばっかりだよ」


流雨「"言葉が強すぎる"」


流雨「柚夏はネガティブっていうけど、私の

   方がずっとネガティブだよ」


流雨「ただ、口に出さないだけ...」


流雨「"私のために"が分からない」


流雨「"あの人"が言ってたのはそういう事。」


流雨「もっと自由に生きてみたらどう?」


柚夏「"自由"に...」


 疲れたと言わんばかりに寝そべる流雨。...そうしておずおずと...撫でる。まさか流雨にそんな事を言われるとは思ってもみなかった


流雨「...私だって...色々考えてる...」


柚夏「...返す言葉も、ないです」


 本気を出して喋るようになった流雨は、本当に強くて...。芯がある流雨の背中が少したくましく思えた...。


流雨「どうでも良い人に嫌われる分には

   良い。だけど、それで大切な人を傷

   付けるならやめておいた方が良いよ...」


流雨「疑心暗鬼。」


流雨「柚夏に足りないのは"嫌がられる勇気"...」


流雨「人生の難易度は自分自身で設定するん

   だよ」


流雨「あと...迷子の事はごめん...。モデル

  さんに会ってお話してた」


 ...私はそんな彼女の事を心からもっと知りたいと思ったのだった。自由さの中に強さを持つ彼女の事を


※キャプション


美紗「柚夏、ただいまー」


古池さん「...只今、戻りました」


 美紗の隣に居た古池さんは心なしか、楽しんでいるようにも見える...。古池さんが居るのに16時というピッタリの時間で現れたのは驚きだった...。


巫女さん

「では、皆さん。お食事の準備も出来ました

 のでお入り下さいませ」


柚夏「朝倒れた...朝乃先輩は、もう大丈夫

   そうですか...?」


 朝に会った大人の巫女さんに声を掛ける。やっぱり...置いていってしまったのは、少しだけ忍びなかったから...。


巫女さん

「はい、もうすっかり元気になられて

 部屋の中に先にいらしてますよ。」


 大きな畳の部屋に案内された先に、細長いテーブルが沢山並べられていて


 美味しそうな鯛や鮪の活造りといったお料理が綺麗に並べられていた。


朝乃「あ。芽月さん達、お祭りは楽しかっ

   た?」


晴華「柚ちゃん達は凄いラブラブしてた

   みたいだねー、おめでとうー」


流雨「ん...、」


柚夏(...橘さん。まるで、知ってるみたいな

  言い方だけど...。まさか...聞こえて...)


朝乃「ん...?どうかした?」


柚夏「いや、なんでも...」


晴華「...流雨ちゃんはー、柚ちゃんとー。

   ちゅー、したー?」


流雨「...ん、」


柚夏「何を、言わせようとしてるんですか

   ね!?美紗も、誤解しないでね!?」


と、流雨の口を軽く手で塞ぐ。そういうのは人前で言うんじゃありません...っ!!


美紗「...うん」


と美紗は心此処に在らずと言ったような状態で返事をする。何時もならロリコンだって言い出しそうなのに...どうしたんだろ...。


柚夏「美紗...?」


柚夏(古池さんと何かあったのかな...?)


※スライド


柚夏「でも...出店初めてなのに、最後もっと

   回った方が良かったよね...。流雨」


 私達は食事を摘みながら、神社で提供された豪華な食事と共に広い景色を楽しみながらゆったりと余暇を楽しんでいた...。


流雨「...ん、また来年。...行けば良いから」


柚夏「流雨...。...そうだね、今度は東京で

   お祭り行こっか。何処が良いかな...」


柚夏(流雨と二人きりで...、お祭りかぁ...)


晴華「...流雨ちゃん、凄いお話しするように

   なったねー。ね?、朝乃ちゃん」


朝乃「そうですね...。私達の前ではそんなに

   喋ってる感じではなかったですか

   ら...。でも、そういう静谷さんも」


朝乃「私は良いと思いますよ。可愛くて」


と、豆腐を口の中に入れる朝乃先輩。...明らかに醤油の量が半分浸かって...多すぎる気がする...。


晴華「朝乃ちゃんは誰にでも可愛いって

   言ってる気がするなー...」


朝乃「勿論宇宙一可愛いのは晴華さんです

   よ。晴華さんはもう人類の域を超えて

   ますから」


朝乃「...晴華さんは人間じゃないです。」


柚夏(...だから、先輩...。言い回しが...)


朝乃「地上に舞い降りた...女神

  (ゴッテス)...」


晴華「私は女神じゃないよー?」


柚夏「...まぁ、その気持ちは分からなくも

ないですが...」


 隣でお刺身を食べている流雨の顔を見ながら、私はそう答える。私にとっても流雨は天使(マイスイートエンジェル)だから...。


柚夏(女神って感じじゃないよなぁ...)


晴華「えっ、柚ちゃんまで?柚ちゃんが

   冗談言うなんて珍しいねー...」


柚夏「え?そうですか...?」


晴華

「そうだよー、朝乃ちゃん基準になっちゃう

 と、私人間じゃなくなっちゃうよー...」


柚夏「はは、それは確かにそうですね」


朝乃「私基準...。」


 カチッと、巫女さんが小さな鍋に付いているブルーの着火剤に火を付けていく...。


 真っ赤な炎が揺らぐように燃えていて、とても綺麗だ...。


柚夏(...こういうのも旅館みたいで様になる

   なぁ...。...いつか、こうやって流雨と

   旅館に泊まるのも...)


柚夏「...流雨、凄いね」


流雨「ん...分かる、綺麗」


柚夏「そうだね...。流雨...」


 此処で、皆が居なかったらロマンチックなムードになっていたのだろうが...。何せ人目がある所で肩を凭れたりは出来ない...。


柚夏(...まぁ、...他にも何か機会はあるだろ

   うから...。今は食事を楽しもう...)


 わいわいと六人で盛り上がってる中で、美紗と古池さんはまるで熟年夫婦のようにそこだけ時間がゆっくりと流れていた...。


古池さん「美紗さん、美味しいですね」


美紗「うん、美味しいよ。雪音...この蝋燭

   みたいに熱い恋をしたいな...」


古池さん「消えて無くなる感じでしょう

     か...?」


柚夏(古池さん、...反応、手厳し過ぎないか...?)


美紗「溶け合うという意味では、消えて無く

   なるっていうのも分かるよ」


柚夏(美紗も美紗でよくそれで 凹まない

  よな...)


古池さん「消えたら、何も残らないと...

     美紗さんはお考えになられないの

     ですね」


美紗「...二酸化炭素が残るから」


古池さん「...なる程、確かに」


柚夏

(...会話が、意味不明過ぎる。...古池さんは

今のでどこにどうやって納得したんだ...?)


 ...食事も、粗方(あらかた)食べ終わり...。そろそろ帰る時間が近付いてくる...。なんか...、そう考えると少しだけ寂しいな...。


柚夏「...今日も。...もうお仕舞いだね、流雨」


 時間が来るまでゆったりとくつろいでいると...遠くで何か、音が聞こえてきた...。


....ドンッ、...パチパチ...。


美紗「ね、見て!...花火!!」


 祭りの醍醐味と言える、色とりどりの火薬...。薄暗い夜空に打ち上げ花火が大きな音を立てて咲いている...。


柚夏「...此処からでも、よく見えるね」


晴華「凄い...、綺麗だねー...」


朝乃「...はい。...とても...」


 皆が、花火に夢中になっている間。...流雨の手を引き寄せて握る。ぎゅっと...、今はそれだけで充分だった。


柚夏(...流雨と、これからも。...ずっと

一緒にいられますように...)


柚夏「...また、この花火を見に来ようね。

   流雨...。...いつか、...きっと」


流雨「ん...」


 ...そうして、私達の京都の旅は終わりを告げたのだった...。


 荷物をまとめて、巫女さん達にお礼を伝える。そういえば、お米の件も忘れずに用意して置かないとなぁ...。


美紗「縁蛇さんまたねー」


柚夏「ありがとうございました。」


縁蛇「お疲れ様なのですよー、また学校で

   お会いましょー」


巫女さん「お疲れ様でした」


と、ブンブンと手を振りながら、見送る巫女さん達...。その後は各自、東京へと向かう新幹線に乗って...真っ直ぐ自宅へと帰って行ったのだった


※キャプション


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