③お洒落なカフェは値段が大抵高いもの【ゆずるう】


 9月...。蝉の鳴き声が聞こえなくなった頃に

気付き始める夏の終わり...。…私は藤奈さんと

共にお洒落なカフェに来ていた


...観葉植物や木で出来た電球ならではの光。

周りの壁も木板が使われていて、自然の温かみを感じられるような隠れ家的なお店だ...。


藤奈「私の奢りで良いですよ。このくらいは

   させて下さい、芽月様」


柚夏「...えっと、...じゃぁ。...お言葉に

甘えて」


柚夏(此処で断るのも無粋だしなぁ...。

   ...けど出来るだけ、安そうなのを)


 メニューを開くと、平均1200円くらいの品がメニューとして書かれているのだが...。自炊をする私にとっては、余計に高く感じる...。


芽月(...こういうお洒落なカフェは場所を買う

   とも言うけども、平均的にやっぱり

   物価が高いな...。)


柚夏(1200円もあったら結構美味しい

   料理が三品、...いや四品は作れる)


藤奈「芽月様はハンバーグは食べられますか?

   此処のハンバーグって凄く美味しいん

   ですよ」


 と藤奈さんが言っているのは、きっと最初のページにあった、ハンバーグの事だろうとすぐ分かった。


柚夏(…他にハンバーグのメニューはない

   から...。…けどこれ、一つ1800円も

 しますよ?)


 メニュー表と、藤奈さんの顔を交互に見ながら私は店員さんが持ってきてくれた水を飲む...。


柚夏「えぇ...、私もよく作るくらいには。

   ...ハンバーグは好きです...けど...」


柚夏(高っか...!!)


藤奈「芽月様は自炊もなさってるんですね」


藤奈「なら、ハンバーグにしましょう。此処の

カフェでは鉄板で付いてくるんです

   よ。チーズもたっぷりで...」


藤奈「味も濃厚なんです。芽月様も一度、

   食べてみてみて下さい。癖になります

   から」


藤奈「ハンバーグセットを二つ、お願いしま

   す。...飲み物は、...芽月様はどうします

   か?」


 藤奈さんはそれを聞くと、1800円もするハンバーグセットを二つ頼んだ。合計で3600円(税抜き)の注文である…。


柚夏(最近の高校生はお金持ちなんだなぁ...。

   私には考えられないよ...、そんなお金あ

   ったら光熱費に回すだろうし...)


柚夏「...良いんですか?...こんなに高級なのを

   頂いて...もっと安いのでも...」


藤奈「まぁ、普通だと思いますよ??」


藤奈「芽月様との折角のランチですからね。

   ...流雨程とはいかないですけど、私も

   こういう時はお金は惜しみませんよ」


柚夏(...流雨程?)


 藤奈さんはせっかちな性格なのかテキパキと、店員さんが寄ってきた瞬間すぐに注文する...。常連なのか...??


柚夏(...なるほど、...確かにあの時も人が

   集まってたもんなぁ。リーダーシップが

   あるというかなんというか...)


藤奈「烏龍茶で大丈夫ですか?」


柚夏「あ、はい。大丈夫です」


 藤奈さんは烏龍茶を二つ頼むと、店員さんは注文を確認して厨房の奥へと消えていく。店員さんが奥に消えたのと同時に藤奈さんは口を開いた。


藤奈「...流雨とは上手くいっていますか?

   今日は流雨のお話をしに私を誘ったん

   ですよね?」


柚夏「...。」


柚夏「...やっぱり、流雨と付き合いの

   長い藤奈さんの方が色々と流雨の事...

   知ってるかなと...」


 ...藤奈さんは最初から私が流雨の事を相談したいと思っていたのを始めから気付いていたらしい。


柚夏(そりゃ、そうだよな...。他にこの人と

   話す事なんてないだろうし...)


藤奈「...他ならぬ芽月様の為ですから、喜んで

   お付き合い致しますよ。私も久しぶりに

   流雨の話もしたいですし」


 藤奈さんは水を飲みながら、仲の良かった頃の流雨の事を思い出しているのか懐かしそうな顔をしている。


 藤奈さんが時折見せる、その曇り顔は流雨に悪い事をしてしまった事を悔んでいるようにも見えた...。


藤奈「...芽月様は流雨の何をお聞きになりたい

   ですか?流雨の小さな頃のお話とか、

   ADHDの性質の事...、とかですかね?」


柚夏「...いえ、そういう話もしたいですけど。

   それより先に...えっと。...以前、」


柚夏「...私の誕生日の日に流雨から本当に

   素敵なプレゼントを貰ったんです。」


藤奈「それはおめでとうございます。」


柚夏「いえ...けど、私...携帯を持って

なくて...」


柚夏「その後急いで友達に頼んで流雨にメール

   を送って貰ったんですけど」


柚夏「アルバイトをしていると中々会え

   なくて...、実際にお礼を言えたのは...

   始業式で…」


柚夏「...やっぱり、こういうのって

気になりますよね...。恋人として...」


柚夏(...早く携帯買えよって話なんだけど)


柚夏(...やっぱり一人暮らししてて、毎月

   三千円は手痛い...)


藤奈「あー、なるほど...。一つ言える事と

   して。流雨はそういうのをあまり気に

   する性格じゃないですよ」


藤奈「普通の高校生の女の子なら多分、気にす

   るかしれないですけど...。流雨は良い意

   味でも悪い意味でも『一般的な考え方を

   してない』ですから」


藤奈「流雨はどんな事をしても人の事を責め

   たりするタイプじゃなくて...」


藤奈「...人の悪いところも全部自分のせいに

   する優しい子だと...私はそう、思って

   います」


柚夏「あ、どうも」


 後ろから「お待たせ致しました。ハンバーグセットで御座います」と、鉄板焼きの熱々ハンバーグが机の上に置かれる。


 店員さんは「大変お熱くなっておりますので、お召し上がりの際は鉄板にご注意下さい」と言って会釈をした後、去っていった。


藤奈「...それにしても。芽月様も、普通の女の

   子と同じような悩み方をするんです

   ね。」


柚夏「私だって人間ですから」


藤奈「…私、少しだけ芽月様に近親感が湧き

   ました。古池様は古池様で完璧な所が

   堪らないのですが...///」


柚夏「...近親感、ですか」


柚夏(...私だって。何も変わらない...ただ

  の女子高生なんですけどね...。)


柚夏(...まぁ、...少し。...皆より真面目過ぎる

ところもあるかもしれないけれど...)


藤奈「どうしたんですか?」


 ナイフとフォークを両手に持ちながら、顔を上げる藤奈さん。目の前ではジュー、ジューと香ばしい香りをしたハンバーグが私の目の前で音を立てていた。


柚夏「...私って、そんなに周りから出来る人に

   思われているんですかね...」


藤奈「出来る人は皆そう言いますよ」


 ハンバーグをナイフとフォークでカットしながら、溶けたチーズを付けて口の中に入れる...。


 ...藤奈さんの言った通り、確かにチーズの味がとても濃厚で美味しい。...私にお金があったら、流雨にも食べさせてあげられるのにな。


藤奈「ファンクラブも出来ているくらいです

   からね。...少なくとも私は芽月様を

   慕っていますよ、」


藤奈「私は貴方の勇気があったからこそ、

   自分の過ちに気付く事が出来ました。」


藤奈「...そして、貴方が居たからこそ。

   流雨の気持ちに気付く事が出来たの

   ですから...」


柚夏(...確かにそれは、...そう、だけど...)


 二年生の先輩から敬語で話されたり、いつの間にか私のファンクラブが出来てて8000円もした写真を買われてたり...。


柚夏(...どうして、こんな私なんかに皆...。

   憧れるんだろう...。...私には優れた

   特技なんて、何一つないのに...)


柚夏「...私は。...皆に憧れられる、ような

   そんな存在じゃなくて...。」


柚夏「...ただ、周りから省(はぶ)かれない

   ように必死なだけで...。」


柚夏「...それだけなんです。流雨にもエス

   コート出来なくて...、逆にエスコート

   されてる始末...。」


柚夏「どこかで失望されてないか...。

   ...いつも、不安で...」


 ハンバーグを切る手が止まる...。私は水を飲んでから溜め息を尽いて、窓の外を見つめた...。


藤奈「芽月様は自分の事をネガティブと、言い

   ますが...、逆に流雨の事を一切考えてな

   いのは本当に好きだと言えるのでしょう

   か?」


柚夏「.....。」


藤奈「...私はこうやって、恋に悩んでいる

   女子高生らしい芽月様の方が好き

   ですよ。」


藤奈「...それに。それほど流雨に対して

真剣に考えている芽月様の気持ちが、

   "ネガティブ"だと言うのなら」


藤奈「好きな人の腕に怪我をさせた私は何

   なんでしょう...。つまり、そういう

   事です」


藤奈「...過剰な謙遜(けんそん)は逆に

   相手を傷付けるだけですよ。」


 そう言って カチャカチャと、音を立てながらカットしたハンバーグを口に入れる藤奈さん。


藤奈「...やはり、此処のハンバーグは

   美味しいですね。」


柚夏「...。」


柚夏「...すみません、...流雨の話に戻り

   ましょうか」


 残りのハンバーグをチーズに付けながら、口の中に入れる。...人前で食べるとやっぱり味が違うなぁ...。


藤奈「良いですよ。どんな話にしますか?」


柚夏「...えっと、さっき。最初の方で藤奈さん

   『流雨程は』と...仰ってましたけど...

   それってどういう意味ですか...?」


※スライド


藤奈「....」


藤奈「...、...柚夏様は」


 藤奈さんは驚いたように、少しだけ目を見開いてから...。...食べ終えたハンバーグのフォークとナイフを鉄板の上に置き


 ...顔を上げて。...自嘲気味に微笑みながら、私を見つめる藤奈さん。


藤奈「...流雨は家政婦の人と一緒に

   過ごしているというのはご存知

   ですか?」


柚夏「...家政婦?」


 藤奈さんはデミグラスソースの付いた口元をお絞りで拭きながらそう、私に言ったのだった...。


藤奈「メイドさんに近いですね。服は、そう

   いうものとはかけ離れていますが...」


藤奈「お手伝いさんの事です。」


柚夏(...私は、)


柚夏(...この先の話を聞いても、...良いの

   だろうか...。...本当に。後悔しない

   のだろうか...?)


 ...流雨に内緒で、こんなズルい形で流雨の事を聞いて...。...流雨が必死に隠し続けていた事...。なんとなく分かってたけど


...この先を知ってしまったら、...私は


どうなって、しまうんだろう。


柚夏「...流雨は、」


 この話を聞いても、私は正気で居られるのだろうか


柚夏(嫌だ、...聞きたくない、言っちゃ...

   駄目だ...。)


...なのに。口が、言葉が。


(どうして、言ってくれなかったの)


という意志に反して...、声が、出てくる...。


柚夏『私、お金持ちが苦手なんだ。離婚した

   父親がそうだったから』


柚夏「...お金持ち、...だったん...ですか?」


藤奈「...はい。...流雨のお母さんは女優で

お家もかなり広いですよ。」


柚夏「....」


柚夏(お父さん...。)


柚夏(...なんとなく、分かってた...。)


 大好きな人に気を使われた悲しみと...。美紗に言った、お金持ちだから別れさせようと思った自分の言葉が...重く、のし掛かる...。


藤奈「...芽月、様?」


柚夏「....す、...すみません。ちょっと...」


 ボロボロと目頭が熱くなり、透明な液体が目から零れ落ちる。...私はそれに気付き、涙を指で拭き取るが、次々と溢れ出して止まらなかった。


藤奈「え!?」


 急に泣き出した私に驚いた、藤奈さんは慌てるようにバックの中を探り始める...。...写真でも撮るつもりなのだろうか...。


...藤奈さん、新聞部って言ってたし...。...『衝撃、あの芽月様。泣く』って感じの奴...。


柚夏(...はぁ。なんて嫌なやつなんだろう...。

   藤奈さんの事、人に言えた義理じゃない

   よ...、、)


 ...それに、そんなに仲良くない先輩の前で泣くとか...。...本当に...藤奈さんにとってもいい迷惑だ思う...。自分でも...。


藤奈「...と...っ...これ!、...もし!!

   良かったら!!」


 藤奈さんは急いでバックから出した物を私に手渡した..。...それは、スマホやカメラではなく...。


...藤奈さんのイメージとは違った綺麗な青に白い刺繍の入ったハンカチだった。


柚夏(...ハン、カチ)


藤奈「...芽月様。...大丈夫、ですか?」


 私が中々、そのハンカチを受け取らずにいると、藤奈さんはハンカチを私の瞼に当てて涙を拭い始めたのだった...。


柚夏「...ハンカチ、...汚れちゃうんで、

...大丈夫ですから...。」


藤奈「...大丈夫じゃないです。...ほらっ、動い

   ちゃ駄目ですから。鼻もこれでちゃんと

   拭いて下さい...」


藤奈「"女の子"なんですから...」


と、藤奈さんはティッシュを私の鼻に押さえつけて咬ませようとしたので


 私は藤奈さんに「自分でかめますから、、」とポケットティッシュを藤奈さんから受け取る...。


柚夏「...貴女が、以前。女性同士なんてって

   言ったのに」


藤奈「え?...あ、あぁ。言ってましたね。

   そういえば...その時」


柚夏「...その時?」


柚夏「...貴女は。...どれだけ私がその台詞で

   悩んだんだと思っているんですか!?」


藤奈さんの事。...自分も言う資格なんてないけど...、...あー、もう知ったもんかっ!!


 そもそも藤奈さんが流雨を傷付けたの忘れてるのが悪いし...!!やった方はやった記憶がないから良いよな


柚夏「...自分の言った事、...もう忘れたん

ですか?...自分が言った言葉には

   もっとちゃんと責任を持つべきだと、

   私は思いますけどね」


藤奈「...流雨を苛めてる時は、我を失ってて...

   何しても良い...って思ってて...。最初は

   悪いと思ってたんですが...」


藤奈「気付かない流雨が悪いって、段々

   エスカレートしていったんです...。

   まるで、自分じゃないみたいに」


藤奈「なんであんなに苛めてたのか...」


柚夏「結局、私にしてるじゃないですか!!

   あれが流雨なら下手したら骨折してて

   もおかしくないですらね!?」


柚夏「私だったから良かったものを...」


 はぁ、と...。自分でも...こんなに人に対して意見を言えるんだなって...。...自分でも思った。


柚夏(最低だ、私...。)


藤奈「返す言葉もありません...。」


藤奈「流雨と友達だったのに、」


藤奈「"障害者"だって分かってたのに。」


藤奈「...、...今考えても...あの時、なんであん

な恐ろしい事をしてしまったのか...

   自分でも信じられなくて...。」


藤奈「流雨の事、好きなのに...」


藤奈「でも、これだけは言えます。...あの時は

私の魔の手から流雨を守ってくれて、

   本当にありがとうございましたっ...!!」


と、頭にテーブルを付ける勢いで頭を下げる藤奈さん...。...こうやって出会ってなかったら、きっと私は藤奈さんの事...。


柚夏「...。....前にも言いましたけど、...私が

   助けたのは、貴女じゃなくて流雨です

...。...だから、...感謝されても」


柚夏「...私には、...よく分からないです。流雨

   にするならともかく、私が感謝される

   意味が...。私が貴女に優しくされ

   ても意味がありません。」


柚夏「流雨に謝ってもらわないと」


柚夏「...今日の藤奈さんを見て、正直、藤奈

   さんの事は良い人だと思いました。

   でも...、...貴女は私の大事な」


柚夏「人を...傷付けようとした人です。...私も

   藤奈さんの事...言えないんですけどね」


柚夏「お金持ちがどうとか、こうとか」


柚夏「父親の事ばっかり。」


あの人はどれだけ私を傷付ければ済むんだろう。それとも忘れないでっていう母さんの呪い...??


藤奈「...お父さんの??」


柚夏「...私の母親はお父さんに殺されたん

   です。"浮気"という形で...」


柚夏「それからどうしてもお金持ちとは

   良い気持ちにならないって、流雨に

   言っちゃったんですよ...。」


藤奈「あー...」


藤奈「お食事中に申し訳ありません。」


柚夏「別に良いですよ。こっちから話したん

   ですから」


 ...お互い無言で視線を下に向ける中、藤奈さんは何か閃いたように口を開く。


藤奈「...流雨の為、そう。...流雨の為ですっ!!」


藤奈「流雨の為に、私に芽月様の相談に乗らせ

   ては下さいませんか...?」


※キャプション


柚夏「流雨のため...ですか?」


藤奈「そうです。流雨の今後の為にも、芽月

   様がそのような状態だと流雨も不安に

   なってくるじゃないですか」


 父親の事を考えると腸(はらわた)が煮えくり返るくらい怒りの感情に支配される。藤奈さんはただ本当の事を言っただけなのに


 藤奈さんは私の目を真剣に見ながら、そう語った。...藤奈さんの言い分は確かに正しいと思う、...けど、

 

藤奈「利害の一致ですよ。それに立場上、

   私の方が芽月様より下の立場なんです

   から」


藤奈「私が貴女を蔑む事は絶対にありませ

   ん。」


柚夏「.....。」


 ...視線の先。...自分の手が目に写る。目に映った私のその指は、まるで自分の意思から反した別の生き物かのように。小刻みに震え続けていた...。


流雨『私は嫌われるのに慣れてる。だから、

   "余計なお世話"って言った方が良い??』


柚夏「...私は流雨に信頼されてませんし、

   もしかしたら藤奈さんの方がされてる

   のかも」


柚夏「付き合わない方が良いって言われるし、

   先輩にはちょっかい掛けられるし...」


柚夏「...私は...流雨に見合ってない、最低な

   奴です...から...。それが分かっただけ

でも...」


柚夏(なんで黙ってたの、流雨...)


柚夏(私がそう、流雨に...思わせてたって、

事...?)


藤奈「...今の芽月さん。...まるで...昔の私

   を見ているみたいですね」


 お金持ちが嫌いって言った手前、流雨はどんな気持ちで私と関わってたんだろう。もしかして自分がお金持ちだから離れようとして...


柚夏(そりゃ、先輩に見合ってないって

   言われる訳だ...)


 カランコロンと、藤奈さんが飲んでいた烏龍茶の上に浮かんでいる氷が音を立ててコップの縁に当たっている。


 その音を聞いて、私は一瞬だけ顔を上げるがすぐにまた俯いて、藤奈さんに対して軽い皮肉をぶつけていた...。


柚夏「...私は、...流雨を叩いたりは、するつも

りはないですよ」


なんで、私はこんなに心が狭いんだろう。


柚夏「....」


柚夏「....すみません、...少し言い過ぎ

   ました。バイトでストレスが溜まって

   るんですかね」


柚夏(...何度も同じ事ばっか藤奈さんに揚げ足

   取ってる私も、...結局、同罪なんだ

   よな...。)


柚夏(自分は悪くない、自分は悪くないって)


藤奈「....。」


 そんな皮肉に、逆切れすることなく最後まで私の言葉を受け止める藤奈さん。流石に言い過ぎたかな...と思って顔を上げると


 藤奈さんは私が想像していた顔とはまったく違った表情で頬に涙を浮かべていたのだった...。


藤奈「...流雨の事を思い過ぎて、苦しい気持

   ち。...今の芽月さんの気持ち、...本当に

   よく分かります」


藤奈「彼女達は基本的に人間が嫌いです。

   興味がなかったり、だからこそそれ

   以外の分野にとても秀でています。」


藤奈「人間は本当に醜い生き物です。だけど

   だからこそ、過(あやま)ちに気付け

   る。だからこそ、成長出来る。」


藤奈「発達障害(アダルトチルドレン)は

   小さい頃に愛を受けなかった人が

   圧倒的に多いんです。」


藤奈「私は芽月さんがどんな目にあったのか

   知らないので、分からないだろって、思

   われても仕方ないです...、けど...」


藤奈「私も、...流雨に、色々気を使われて

   悔しかった事がいっぱいあった

   から...。」


藤奈「...芽月様に対してもそれはきっと

   変わってないんだろうなって...、」


藤奈「..."大切だからこそ"、突き放すんです」


柚夏「大切だからこそ、突き放す...」


柚夏「何でですか??」


藤奈「相性の問題ですかね。芽月様は

   真面目過ぎるんですよ」


柚夏「真面目過ぎる...」


藤奈「...これでも昔は流雨と一番仲が良かった

   ですから。」


藤奈「今は芽月さんとですけどね」


 と、藤奈さんは笑顔で笑ってみせた。


柚夏「よく笑えますね」


藤奈「これ以上好感度も下がりませんから」


柚夏「"強い"ですね。あなたは、」


柚夏「...柚夏で、良いですよ。...様は、先輩

   に呼ばれると、少し違和感があります

から...」


 ...ずっと、置いてあった藤奈さんが頼んで下さった烏龍茶を手元に寄せて私は一口飲む。


柚夏「...ハンバーグ、美味しかったです。  

   ...今日はあの、色々...ありがとうござい

ました。...時間とかとってもらって」


藤奈「...私は、贅沢物なので。一つ芽月さんに

   お礼にお願いをしても良いですか?」


藤奈「...芽月さんが嫌だったら全然無視しても

   良いんです」


藤奈「私にその権利はないですから」


柚夏「...なんですか?」


 先程のピリピリとしたような空気は、少しずつだったが...確実に減っていった...。


...私も、昔の藤奈さんの悩んでた事も興味がない。と、いう訳でもないし...。


藤奈「...さっき、泣いていた理由。...私に教え

   て頂けませんか?流雨の相談でしたら

   私も力になれるかもしれないですから...」


柚夏「.....。」


 私は目の前にある、店員さんが下げているハンバーグの鉄板と飲んでいる烏龍茶を見ながら目を閉じて言った。


柚夏「...税抜き、1800円ですもんね」


藤奈「烏龍茶入れて、380円プラスですね」


柚夏「...確かにそれは」


柚夏「...言わない訳には、いかない

   ですよね...」


藤奈「"いかないですね"」


藤奈「差し当たりがなければ、ですが...」


 ふぅ...と私はため息を尽きながら、口を開く。


柚夏(...最近この話、する機会多い気がするな

   ぁ。...まぁ、別に良いのだけれど...)


柚夏「両親も居なくて、つい流雨に依存

   しちゃうんですよね。親が浮気したから

   甘え方が分からないんです」


藤奈「...私も似たようなものですよ」


柚夏「恋愛したら相手が不幸せになる。

   周りに居た人達がそんな風だと、

   ちゃんと生きていかなくちゃって」


柚夏「好きな可愛い物も断捨離して。お母さん

   のために捨てた物も結局、全部無駄

   でした」


柚夏「私は流雨が去ってしまうのが怖い。

   だからお弁当で引き止めて、恩返しの

   代わりにずっと居てくれたらなって」


柚夏「全部自分の為なんです...。」

 

藤奈「それで良いんじゃないですか」


柚夏「え...??」


藤奈「依存症でも、メンヘラでも良いじゃない

   ですか。それが嫌だったら相手も逃げて

   くし」


藤奈「自分がそれにわざわざ合わせる必要も

   ありません。お母さんが死んだから

   しょうがないって思うのも手です」


藤奈「それはもう、"過去の事"なんですから。

   柚夏様の前にお母さんが戻って来ること

   はけしてありません」


柚夏「....。」


藤奈「それからどうするかが一番大事だと

   思いますよ。自分が汚いから、だったら

   綺麗にすれば良いじゃないですか」


藤奈「汚いままでもそれはそれで余裕が

   出来た頃に綺麗にすれば良いんです」


藤奈「凝り固まった汚れでも毎日磨けば綺麗に

   なるんですから」


藤奈「たまにでいいんです。毒を吐いても」


柚夏「引かれても??」


藤奈「器が狭い人に関わるべきじゃない

   ですよ」


藤奈「柚夏様のお母様が亡くなって大変

   だった事を聞かせて下さい」


柚夏(お母さんが亡くなって、大変だった事...)


柚夏「中学の時は生活保護を受けながら、雑草

   を食べてた時もありましたが...。あれ

   は真似しない方がいいとだけ...」


柚夏「クローバーが凄い分かりやすくて

   美味しいです」


藤奈「...色々、あったんですね」


柚夏「...そうですね。今はアルバイトが出来る

   のでそこまであれではないですが...。

   あははぁ...、あの時は大変でしたね」


柚夏「出来ればあの生活はもう、送りたくない

   というか...。あ、でも銀杏の美味しさ

   には目覚めましたね。焼くと美味しいん

   で」


柚夏「クコの実って言うドングリも、中々

   イケるんですよ。神社はどっちもタダで

取り放題で...!!」


藤奈「銀杏ですか...?ドングリって食べられる

   んですね」


 きょとんとした藤奈さんの顔を見て、やってしまったな...と痛感した...。


柚夏「いや、...その、...ドングリは渋くて食べ

られたものじゃないです...。アク抜きの

   手間を考えたらクコの実を捜した方が」


柚夏「って、...何かすみません...。普通は

   そんな話しないですよね...」


柚夏(...それに普通は、銀杏焼いて主食として

   食べないですもんねー...。...そろそろ秋

   だから銀杏楽しみだな...)


柚夏「私、焼いた銀杏が好きなんですよ。

皆はスイーツとかが好きだと思います

   が」


藤奈「そんな事、ないと思います。茶碗蒸しで

しか銀杏って食べた事ないので...一回

   焼いて、食べてみますね」


柚夏「いや、そこまで美味しいものでは...!!

   ケーキとかに比べれば全然味も素朴

   ですし...、喜んで食べるものじゃないで

   すよ」


藤奈「でも、芽月さんはお好きなんですよ

   ね?」


柚夏「...そうです...が...。普通の人からした

   ら、多分エグいと思います...」


柚夏「茶封筒に入れて電子レンジでチンする

   方法もあったり。まぁ、金槌で割って

   焼いた方が断然美味しいですけど」


藤奈「芽月さんはどう、思いますか?」


柚夏「...銀杏の味、ですか?」


藤奈「はい」


柚夏「...ちょっと...焦げた所が美味しいと

   思います...。」


柚夏「...もうこの話はお終いにしましょう。

   話を戻しますよ?」


藤奈「はい、良いですよ」


と、藤奈さんは楽しそうに烏龍茶を飲んでいた。


柚夏(...余計な事、話しちゃったな。...はぁ、

   貧乏な奴だと思われても今のは仕方ない

   かもしれない...。)


柚夏「流雨の事についてです。」


藤奈「はい」


柚夏「そういうこともあって

   (目の前で父親が浮気した)」


柚夏「...親友の恋人が、古池さんで。その

   古池さんと付き合うのを大反対した

   んです...。その時に私、流雨に相談した

   んですよね...」


 あの時の光景を思い浮かべながら...私は藤奈さんに流雨と話した場面を必死に伝えた。


※スライド


柚夏「あの時の流雨は、私もお金持ちは苦手だ

   って言ってくれて...。なのに...私はそれ

   を知らなくて...流雨に、」


 また、涙が零れ始めてきた...。


藤奈「...芽月さんは、流雨の事。...お母様を

   自殺させたお父様と同じ、お金持ちだ

   と、知って...嫌いになりましたか?」


私はその言葉を聞いて、ブンブンと首を横に振る。...それだけは、絶対に違うって言えるから...。


柚夏「...」


柚夏「...最初は不安でした。...けど、それより

   も...流雨が私に隠して、私が流雨の事を

   苦しませていた事の方が...とても、」


柚夏「...ショックでした。」


 私の話を全部聞き終えると、藤奈さんは大きくため息をついて目を閉じたのだった...。


藤奈「...はぁ。...流雨は芽月さんでも私でも

   全然変わってないんだって。芽月さんの

   話を聞いて分かりました」


藤奈「...あの子はあぁいう子なんだって。...

   人の事、怒らせる天才ですよね。...人

   が心配しても自分が悪いんだって」


藤奈「昔から、聞かなくって...。本当に、

   馬鹿みたいに優しい子で...。...ほって

   置けない、しょうがない子なんだか

   ら...」


柚夏(本人が居ないからって言いたい放題

だなぁ...。...まぁ、...分からなくはない

   ですけど...)


柚夏「....流雨は、私が嫌うって思ってたん

   ですかね」


藤奈「...芽月さん」


 藤奈さんは最後の烏龍茶を飲み終えると、立ち上がって両手をテーブルの上に乗せた...。


藤奈「今から、流雨の家に乗り込みましょ

   う!!引っ越ししたとかは聞いてない

   ですから、多分居ると思いますから」


柚夏「....はい?」


※キャプション"

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