静谷流雨の杞憂【ゆずるう】


柚夏「此処が流雨の家...、」


柚夏「本当に今から会いに行くんですか?」


藤奈「逆にこのまま帰るって言うんですか。

   折角此処まで来たのに...」


流雨『私は嫌われるのに慣れてる。だから、

   "余計なお世話"って言った方が良い??』


柚夏「だって...、会いに行く勇気がない...」


藤奈「勇気的には私の方が勇気いるん

   ですけどね」


柚夏「というか、...凄い豪邸ですね。」


藤奈「海外でも活躍してる女優さんですから。

   神咲(しんざき)さんって聞いたこと

   あります??」


柚夏「神咲(かみざき)さん??あのよく海外

   ドラマに出てくる?」


藤奈「そうです、そうですっ、、」


藤奈「顔がそっくりなんですよ。人と

   オーラが違うというかっ!!、めちゃ

   めちゃ綺麗な人で!!」


藤奈「会った時は凄く興奮しました。」


藤奈「...やっぱり有名人は違いますね。」


藤奈「噂によると、仕事が忙しくて家政婦さんを

   雇っているんだとか」


柚夏(ということは、流雨は小さい頃から

   ずっと一人で遊んでたって事か...)


 流雨の家がこんな大きな家なんて知らなかった。尚の事、お金持ちに対して偏見を持っていた事に罪悪感が込み上げてくる


柚夏「...これから会って、何を話せって言うん

   ですか」


藤奈「それは話せば分かりますよ」


 と、気乗りしないで塀の外から庭を探索しているとガチャリとドアが開く。というか、玄関

どこ...


家政婦「どうかなさいましたか?」


柚夏「いえ、別に何も...」


藤奈「流雨さんに会いに来ました。こちらの

   方も」


家政婦「流雨さんのお友達の方でしたか」


 と流雨のお母さんが有名な女優というのもこの家からして分かる。というか家政婦がいる時点でお金持ちなんだろうなぁ...


藤奈「えぇっと流雨さんにお会いしたいの

   ですが」


家政婦「流雨さんに確認を取ってきますね。

    しばらくお待ち下さい」


と玄関に急いで入ってく。


 呼び出し音と共に少ししてからそっと出てくる流雨。まさしく、その姿は様子を遠くから伺う猫だった


柚夏(どうしたら良いんだろう。私古池さんの

   事相当嫌ってたから...今はそうでも

   ないんだけど...。)


流雨「...取り敢えず入って、」


柚夏「お邪魔しまーす...。」


藤奈「この間までは物が結構あって埃っぽ

   かったのにね。掃除したの??」


流雨「たまにはね...」


 そうして、無言の間が続く。昔は仲が良かったっていうのは本当なのだろうか...


流雨「柚夏はお金持ちが苦手なんでしょう?」


流雨「なんで来たの」


柚夏「藤奈さんに連れられて、無理やり...」


柚夏(流雨の部屋、本当に何も無いな...)


柚夏「それにお人形のお礼もしようと思って」


流雨「...それはどうも...。」


藤奈「芽月さんをお連れしたら、流雨の

   それなりの恩返しになるかなって」


流雨「お金持ちを嫌ってる柚夏を連れて来る

   事が??」


柚夏「流雨なら良いんだよ」


流雨「私なら良いの??」


柚夏「お金持ちでも悪い人と良い人がいる。」


流雨「思い出すでしょ。お母さんが

   亡くなったこと」


流雨「....。」


流雨「...なんで私だと良くて、古池さんだと

   駄目なの?」


柚夏「あの人は美紗の事を物か何かだと

   思ってる。恋人ならちゃんと相手に

   向き合うべきなのに」


流雨「柚夏はちゃんと向き合ってるの??

   恋愛と」


柚夏「少なくとも私はちゃんと向き合ってる

   自信はあるよ。流雨の家に来るくら    

   は」


まぁ、無理やり此処に連れてきてもらったんだけど...それは内緒だ。


流雨「”恋愛”って何」


柚夏「それは...」


 ...これは相当怒ってるなぁ、怒ってるというより機嫌が悪い。何かあったのかな。というか私が藤奈さん連れてるせいか...


流雨「柚夏はお金持ちを見ると嫌な過去を

   思い出す。柚夏がお金持ちを嫌いという

   なら」


流雨「お金持ちはお金持ちと柚夏は柚夏の

   好きな人と過ごせば良い」


流雨「藤奈とも仲が良さそうだし...」


 今カノが元カノに勘違いされたみたいになってるんだけど、私藤奈さんとは本当に何も無いぞ...。だからそんな警戒する必要ない


ただ八千円で写真買われる仲なだけで。


柚夏「...お金持ちでも優しい人は居る。流雨

  みたいにお金をひけらかさずに使う人は

  好きだよ」


流雨「...最初からそう言って欲しい、」


と流雨は無表情をつらぬく。


 笑ったら可愛いのに、どうして流雨はいつも無表情なんだろう。


柚夏「流雨ってあんまり笑わないよね」


藤奈「それは...」


流雨「普通にずっと笑ってるのが気持ち悪い

   って言われたから。それからずっと

   無表情なの、...笑うのも疲れるし」


流雨「昔は笑ってた方が好かれると思ってた

   けど。そうでもないみたい」


流雨「それに最近本当に笑えなくなって

   きてね。笑う子が好きなら、笑う

   子と付き合った方が良いよ...」


藤奈「たまにする笑顔が良いの。ずっと

   笑ってるのは正直不気味だよ」


流雨「そうなんだ。最初から教えて欲し

かった」


藤奈「流雨がたまに見せる笑顔は本当に

   可愛いから、皆嫉妬して流雨に

   対してからかってただけだよ」


流雨「藤奈が言うと説得力あるね。」


煽りが凄い。


柚夏(なんだこのとても居づらいギスギス

   空間は...)


流雨「親の七光りとか、お母さんは凄いのに

   娘さんは普通だねとか...」


流雨「...別に良いんだけどね。全部本当の事

   だから」


流雨「私にはシーウェがあるし、現実で

   友達がいなくても大丈夫」


柚夏「携帯ってそんなに面白いの??」


流雨「同じ趣味の人が居てその人と話すの。

   アニメとか漫画の話とか」


流雨「でも、会話が長いって。あまり時間も

   取りたくないのに、相手にずっと話してて

   嫌われたりね」


流雨「だからどうして良いのか分からない...。」


流雨「現実では趣味が会う人なんて中々見つか

   らないからね...。だからこそ話し込んで

しまう...」


流雨「カウンセラーの人にはプロフィールに

   障害をちゃんと書いてするべきだって

   言われたけど、」


流雨「それでも長く話しちゃうの。会話の

   止め方が分からないというか...」


流雨「柚夏だって話が合う人の方が良い

   でしょ?」


柚夏「それはそうだけど...」


柚夏「それとは別に"流雨"っていう人柄の

   存在が知りたいんだよ。」


流雨「私という人柄の存在??」


流雨「柚夏は難しい事言うね。」


流雨「障害者相手より普通の人と付き合った方

   が絶対に良い。そっちの方がずっと、

   幸せになれる」


柚夏「流雨と私は幸せになれないの??」


流雨「私には人望がないから...」


流雨「正論を言って、相手が諦めて...それで

   おしまい。皆諦めて去っていく。それが

   "ネット"というもの」


柚夏「私はスマホの事詳しくないけど、どう

   にか出来ないの...?流雨が幸せに

   なる方法は??」


流雨「なんで...そこまでして私を選ぶの...」


流雨「...柚夏はADHDという障害をよく理解して

   ない。だから悲しむし、私と居ると

   不幸になる」


流雨「この世界は皆私の事が嫌いで、『常識』

   っていう言葉が一番大嫌い。だって、

   私には常識の欠片もないんだから」


柚夏「常識の欠片がなくても。私は流雨の事が

   好きだよ」


流雨「最初は皆そう言ってた。」


柚夏「流雨...」


流雨「だけど皆去っていった。流石に1日

   話してるのはどうにかしたい」


と、私は小さい流雨の身体を抱きしめる。


 いっぱいいっぱい頑張ったんだね。人に嫌われないように一生懸命考えたんだね。


その結果がこうだったら、もう仕方ないんだ。


流雨「....、」


流雨「柚夏はとても純粋。私が柚夏を利用してる

   とは思わないの??」


柚夏「ご飯を作ってるのは私の趣味だし、

   ごろごろしてる姿は猫みたいで

   ...可愛いと思う」


流雨「...本当は学校も行きたくないけど、

お母さんが学校には行っとけって...」


そりゃ、あれだけ苛められてたら学校にも行きたくないと思うだろう。それでも行けた流雨は充分偉いよ


流雨「一生懸命"普通"を演じた、普通の人は

   どう思ってるんだろうって心理学も

   勉強した。」


流雨「...それでも、苛めが止むことは

   無かった。」


柚夏「流雨...」


流雨「だからもう疲れちゃって、私は生きて

   ても死んでても同じ」


流雨「死ぬのは怖いから生きてるけど」


流雨「人と付き合うには私は向いてなさ

   過ぎる」


柚夏「恋愛に向き不向きもないよ。それと、

   簡単に死ぬとか言わないで」


柚夏「心配する人もいるから」


流雨「心配...??」


流雨「なんで自分の事じゃないのに

   心配するの?」


柚夏「流雨の事が好きだから。」


流雨「私の事が好き...??なんで...」


柚夏

「人形を贈ってくれたのも流雨だし、出来ない

 理由もちゃんと説明してくれる。それが

 出来る人は結構少ないんだよ」


柚夏「それに、実際流雨は私にとって凄く

   魅力的だから...。」


柚夏「私にはない"自由"を持ってる」


家族や、私にはない優しさ。


流雨「罰ゲームなら正直良い...」


流雨「辛いだけだから」


柚夏「誰かに言われてやってるんじゃない。

   私は私の意思で、流雨の事を凄く

   気に入ってるの」


柚夏「流雨は普通の子だよ」


流雨「普通の子...」


流雨「やっぱり分かってない。」


流雨「"普通"じゃないから嫌われるの」


柚夏「そもそも普通ってなんなんだろうね...。」


 人が目の前で死んでたり、遺書に一緒に死ぬつもりだったって書かれてたり。流雨が普通じゃなかったら私は何になるんだろう


流雨「柚夏はずるい。そんな事言われたら

何も言い返せない」


流雨「普通じゃないっていうのは、苛めら

   れたり...あなたの友達じゃないって信用

   出来ない事だよ」


流雨「普通の人は苛められない...」


柚夏「....」


柚夏「それは、普通じゃない。周りの人が

   普通じゃなかったんだ」


流雨「"柚夏の中"ではね。でも私の中では違う」


流雨「眠い...」


流雨「ずっと寝てたい。考えるのも生きるのも

   やめて、死んだらずーっと寝てたいな...」


柚夏「神様から貰った命だから駄目だよ。

   私が許さない、言ってくれたでしょ」


柚夏「裏切らないって」


流雨「怖いから今のところは死ぬ気はないよ」


流雨「...周りの人が普通じゃない??

じゃぁ、なんで私は苛められたの」


藤奈「流雨が優しくて可愛いから...。」


流雨「は..??」


流雨「なんで」


藤奈「うっとおしいって人もいたし、

   勉強で忙しくて苛立ってた人もいるし」


藤奈「それこそ苛められたくなくて仲間の

   ふりをしてた人もいるし」


流雨「...私ってそんな悪い事したのかな。」


流雨「誰も助けてくれなかった。先生達も

   犯人は検討付いてるからって、そのまま

   卒業して終わった」


流雨「謝ってくれなかった。」


藤奈「ごめん...」


流雨「誤解は解けたから良い。貴女も

   忙しかった、そうでしょう??」


藤奈「...。」


流雨「うじうじと過去の事をいつまでも

   悩んでる私が悪いの...」


流雨「過ぎたことをいつまでも思ってる私が

   ...」


柚夏「過去の事でも辛い事は辛いよ」


流雨「私は"辛い"の?」


流雨「それすら分からない...」


柚夏「苛めは普通じゃない。ただの理不尽だ。

   だから怒っても良いんだよ」


と私はその小さな身体を抱きしめる。


流雨「もう怒り方も忘れちゃった...」


流雨「それに本人目の前に、いるし」


藤奈「流石に写真は撮りませんよ。ベスト

   ショットでも」


流雨「...まぁ、柚夏が抱きしめてくれたから

良いかな。」


柚夏「お菓子でもいる??持ってきたんだけど」


流雨「柚夏の鞄の中にはいつもお菓子が

   入ってるの??」


柚夏「今日はたまたま入ってただけだよ」


流雨「じゃぁ私は紅茶を用意するね」


流雨「藤奈にも...」


と険悪なムードは続く。その中でも楽しそうに辺を見回してる藤奈さんは凄い鋼メンタルだなぁと思った


柚夏(もうちょっと時間がかかるかな。

二人が仲良くなるのは)


ジャムの入ったクッキーに紅茶がとてもあう。一息付いて、そろそろ退席を願うとするかな...


流雨「まさか直接謝りに来るとは思わ

   なかった。」


藤奈「凄い勇気がいるけどね。」


柚夏「お金持ちのことは??」


流雨「...あぁ、それは言われ慣れてるから」


これ凄いね。と硝子で作った朱雀を見る


流雨「たまたま工芸する機会があって

   作ってみたの。」


やはり凄い天才肌だ。


流雨「私は女優じゃなくてこういうので

   稼ぎたいんだけどね。お母さんの事が

   好きだから」


流雨「...柚夏には酷な話だった?」


流雨「家で働きたい。外に行きたくない、

   そもそも人間に興味がないの」


 苛めがなければ今頃流雨だってこんな顔してない。流雨が悪いんじゃなくて周りの環境が悪いんだけど


柚夏(きっとそれを言ってくれる人も

   居なかったんだろうな...)


今日はもう帰った方が良さそうだ。


柚夏「また来るから」


紅茶だけ飲んで、取り敢えず今日はもうこの辺りで退場する事にした。


藤奈「そりゃ、簡単には許して貰えないよね...」


と、玄関を出ると外で誰かが歩いていた。


??「あっ、藤奈っち久しぶり〜」


??「藤奈また流雨を苛めて遊んでんの。混ぜてよ」


流雨「.....。」


藤奈「一斗(かずと)」


藤奈「それが逆なんだわ。仲直りした」


一斗「は???あんな苛めてたのに」


藤奈「そういうの格好悪いなって思って、

   弱いもの苛めとかそういうの」


一斗「ふーん、見ない間に随分良い子に

   なっちゃって。藤奈」


一斗「一緒にまた流雨苛めようよ」


藤奈「そういうとこが駄目だって言ってるの」


一斗「そちらの人は」


藤奈「私を改心させた張本人。あんまり

   苛めないでね」


藤奈「二人を苛めたら一斗でも許さないから」


一斗「この人が??ふーん...中々良い顔してるね」


一斗「こんな人いるなら紹介してよ。ホスト

   とか欲しがってる知り合いいるから

   紹介するよ」


一斗「実り良いよ」


柚夏「流雨の悪口言う人言う人の言葉は

   遠慮しておきます。」


一斗「おぉ、怖い怖い。今更辞めても

   やったことには変わりないのに」


藤奈「それでも私は流雨を苛めない」


一斗「ふーん。まぁ良いけど」


一斗「今度また藤奈の学校紹介してよ」


一斗「暇になったらまた連絡入れるから

   宜しく」


藤奈「相変わらずチャラいねぇ...」


柚夏「知り合いですか。あまり良い人には

   見えなかったですけど」


藤奈「中学の頃のですね。生理的に生きてる

   奴なので、まぁ」


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