②海編【ゆずるう】


柚夏(...けど、火種はあんたが付けろと)


柚夏(こう か...??)


 出来上がったバーベキューセットを見ながら、私は火打ち石を使って火をつけた。


石と石を使って火種を作る。それから、よく燃えるティッシュと一緒に小さい木枝を入れてやる。


 チップを入れれば香ばしいスモークの完成だ。これは別のところに入れるっと


小栗「本っ当に、狛も勝手よね...」


柚夏「...あの人には本当にお世話になり

   ましたし、良いんですけどね...

   煙とか大丈夫ですか?」


小栗「建て前はそこまでにして、本音は

   どうなの?」


柚夏「...本当は少し癪に触りますけどね。

   でも、なんか気持ちは分かるんですよ」


柚夏「私も結構やきもち焼きですから」


小栗「ふふっ、そうよね。...その気持ち、

   とてもよく分かるわ」


小栗「私もあの子の事は嫌いじゃないのよ。」


小栗「ただちょっと隠しごとが多いわよね」


柚夏「隠し事ねぇ...、ある意味何も隠して

   ない気はしますけど」


柚夏「よくあの人についていけるなーって

   小栗先輩を見ていてそう思います」


小栗「本当にそうよ。狛ったら、私が手伝う

   って分かってて事前に用意させたん

   だわきっと」


柚夏「いや、あの人は私をパシリに使いたい

   だけですよ」


柚夏「第三者目線だから分かるんです。」


柚夏「というか、雨宮先輩と古池さんって

   知り合いなんですかね。釣り竿なんて

   朝持って無かったですし」


柚夏「当たり前のように竿を使ってますし」


小栗「その可能性はあるわね」


小栗「狛の家はお金持ちなのよ...。普通じゃ

ない方法だけどね...」


柚夏「普通じゃない方法...?」


柚夏「...極道とか?」


 男装してるし、口調とか結構キザっぽいし...ドンペリとか女性に頼ませてそう...。とかバーの店員のアルバイトとかしてるのかな


めっちゃ眠そうにしてたし


小栗「...ふふふ、違うわ。FXよ、FX。

   あの子株主なんですって」


そう言って口元を抑えて、笑顔で微笑む小栗先輩。


柚夏「株主...、ですか?」


小栗「...あの子はある才能があってね。その

   才能を生かして、FXから株主を

   してるみたいなの」


小栗「つまり成り金のお金持ちね。

   昔はお金も全然無かったみたい」


柚夏「”お金も全然無かった...?”」


小栗「父親がかなりの豪酒でパチンコや

   競馬でお金を溶かしてたの。」


小栗「それだけは教えて貰えたわ」


小栗「というか見たの。お父さんが縁を

   取り戻そうとしてるところ」


小栗「それで知ったって感じかしら」


柚夏「....」


小栗「お母様の名義だそうだけれど、二人で

   稼いでいるって言っていたわ。狛は

   勉強が苦手だから...」


小栗「頭の中で人の声が聞こえたり、壁の

   シミが動いて見えたり。数字や漢字が

   記号にしか見えなかったり」


小栗「自分しか読めない文字...その文字は

   ”天使”と”悪魔”の文字だって狛は

   言ってたわ」


小栗「それで昔凄い苛められてたみたい」


小栗「なんだそれって。おかしな子だって

   ”普通じゃない子”、だから学校は

   あまり好きじゃないとも言ってたわね」


小栗「でも、そのお陰でお金を手に入れれた

   とも言ってたわ。お母様から聞いた

   話だけれど」


小栗「スピリチュアルな事だからね」


柚夏「結構重症じゃないですか」


小栗「...そうなのよねぇ。学校は私のために

   通ってるとも言ってたわ」


柚夏「モテモテじゃないですか」


小栗「それだけじゃないような気がする

   のよ。狛にはもっと深い因縁が絡んで

   る気がしてならないの」


小栗「”神様”って何なのかしら」


小栗「私が助かったのも奇跡みたいな物

   だけど」


小栗「それと同時に"助からなかった命"も

   ある」


小栗「神様は見えないからこそ。神様だと

   そう私は思うの」


柚夏「神様、ねぇ...。”紙様”の間違い

   でしょう??」


 仮に神という存在がいたらお母さんを殺さなかっただろうし 私もこんな目に合わなかったはずだ。


柚夏(...神かぁ。どっちにしても、株の知識

  のない私にはあまり関係のない話なんだ

  ろうけど...)


柚夏(狛先輩も苛められてたのか...)


雨宮先輩「やぁ、お待たせ」


と声が聞こえたので顔を上げると雨宮先輩がクーラーボックスを持って立っていた。


柚夏「別に誰も待っていませんよ」


雨宮先輩「ビックリするくらい

     魚が釣れるね。此処(ここ)」


 雨宮先輩はクーラーボックスを重たそうに置いてから、アイスボックスを開けた。その中でピチピチと一際大きな鯛が跳ねている。


柚夏「...雨宮先輩でしたら、もっと良い

   ところで釣るお金はあるでしょうに」


雨宮先輩「プライベートビーチより釣れる

     ところはないよ」


雨宮先輩「小栗君かい?」


小栗「話してはいけない事だったかしら」


雨宮先輩「別に僕はどっちでも良いよ」


雨宮先輩「ただ、後輩には”悪い所”は

     見せたくないなって」


小栗「”悪い所”って...」


雨宮先輩「別に構わないけど、柚夏君には

     あまり知られたくなかったと

     いうか...まぁ奇才にも色々

     あるんだよ」


 と、雨宮先輩は本当に自分の事に興味がないのかさらっと会話を流す。


柚夏「...私が言うのもなんですが、良いん

   ですか?」


雨宮先輩「別に知られて困る訳でもないし。

     どこまで話したんだい??」


小栗「FXの事と貴方のこと」


雨宮先輩「そうしないとお金が無かった

     からね」


雨宮先輩「だから普通のマンションに暮らし

     ているし、君が思っているほど

     豪遊はしていないよ。株は一瞬で」


雨宮先輩「お金が消し飛ぶから。...お金だけ    

     が消し飛ぶものなら、まだ良いの

     だけれどね」


雨宮先輩「油断したら家ごと消し飛ぶから

     お勧めはしないよ」


柚夏「だから雨宮先輩はいつも強気

   なんですね」


背負ってる物が違いすぎる。


雨宮先輩「...強気の何がいけないんだい??

     強気じゃなきゃ、この世は

     やってけないよ」


 と、雨宮先輩は魚を取り出して包丁の背で頭を叩く。するとピチピチと跳ねていた鯛は気絶したのか、静かになった。


柚夏「先輩、料理も出来るんですね」


雨宮先輩「やっぱり素敵な旦那様になるには

     これくらいは必要かなぁ。料理の

     出来る男はモテるよ」


柚夏(やっぱ、一言余計なんだよなぁ...)


 まな板の上で捕れたての鯛を卸す雨宮先輩。凄く薄くて綺麗な三枚卸だった。


柚夏「ほう...」


雨宮先輩「因みに柚夏君なら、この鯛をどう

     やって調理するんだい?」


 捌かれた鯛を見ながら、考える。まずさっと鯛を湯通しして...余計な脂を取ってから...。...やっぱり王道の白味噌で...溶かして、味付け...。


柚夏「...まぁ。私なら、白味噌で出汁を

   取って...鯛の味噌汁でしょうか」


雨宮先輩「やっぱり鯛は刺身だよね

     生は、刺身。あー、美味しい」


と洗った手で箸を付けて切った鯛を雨宮先輩はむちゃむちゃと魚を食べていた。


 「小栗君も食べなよ」とお皿に盛り付けられた刺身を雨宮先輩は醤油を付けて食べている。


柚夏「...いや、なんで聞いたんですか?」


※キャプション


柚夏「というか、鯛全部食べちゃっても

   良いんですか?それ釣れた中でも

   一番大きい魚なんじゃ...」


雨宮先輩「僕が釣ったんだよ?この魚を

     どうするかどうかは釣った人の

     自由なんじゃないかい?」


 まるで子供の言い訳のように本当に悪びれもない様子で、刺身を人の前で食べる雨宮先輩。


 その光景を見て呆れる小栗先輩と私だった


小栗「狛...」


狛「流雨君なら分かってくれると思うけどね」


柚夏「それでも、普通は分けませんかね...」


 ...この人は常識という文字を何処に落としてきてしまったのだろう。正論なんだけど、”正論”なんだけどなぁ...


雨宮先輩「何故、僕が鯛を釣ったからって

     知らない人にあげなければ

     いけないのか」


雨宮先輩「"それ"を決めるのは僕だ」


雨宮先輩「法律で決まってもいないのに、

     誰がそう決めたんだい??

     僕には理解できないよ」


柚夏(私目の前に居るんですけど...、、)


柚夏「そういう問題じゃなくて...、折角皆

   で集まってるのに分けないって言うの

   は場の空気を悪くするというか...」


柚夏「自分がその立場だったらどうしますか」


雨宮先輩「いや別に何も思わないけど」


雨宮先輩「鯛を食べてるなぁとしか

     思わない」


雨宮先輩「君は本当にお人好しだね。僕は

     君ほど優しくないんだよ。君は

     聖人君子だ。...これで満足

     かい?」


柚夏(注意されて拗ねてるのか、この人...

 雨宮先輩も子供じゃないんだから...)


柚夏「雨宮先輩が同じ事されたら常識のない

   奴だって思いません?」


雨宮先輩「常識のない奴??」


雨宮先輩「僕は君みたいに人に良く

     見られたいと思ってないからね」


雨宮先輩「"普通じゃない"の何がいけないんだい??」


小栗「...独り占めは駄目なのよ、狛。私も

   貴女がのけ者になって欲しくない」


雨宮先輩「そもそも、良い風に見られたいの

     なら小栗君にも分けてるじゃない

     か。一人占めじゃないよ?」


柚夏(...思いやりをポイント制か何かだと

  思ってないか?この人...。...本っ当、

  雨宮先輩とは分かり合えないなぁ...)


 一人で鯛を半分平らげた雨宮先輩は小栗先輩に流雨と、金色の美しい女性を呼んできて欲しいと頼んだ。


小栗「後で、何で一人占めが駄目か論争よ。

   覚悟して頂戴。絶対納得させて

   みせるから」


雨宮先輩「ふふ、何度教わっても僕の考えは

     変わらないよ」


 と小栗先輩はそう言い残して遠くに行ったのを確認すると雨宮先輩は口を開いて言った。


雨宮先輩「彼女も物好きさ、変える意志の

     ない僕に何度も説教してくるん

     だよ?」


雨宮先輩「...僕が変わるより自分が変わった

    方が早いのに、無駄な事だね。」


 雨宮先輩は儚げに笑う。自嘲したかの様なその笑みに、全部計算なのかと疑いが知れる。


柚夏「...変わろうとは思わないんですか」


柚夏「好きなのに。」


 ...もしわざと、こんな事言ってるとしたら完全に頭が可笑しい人だ。小栗先輩の為にそう思わないのか


どれだけ辛い事があっても


 好きな人にこんな顔させてはいけない、雨宮先輩がやってるのは好きな人に対する冒涜的な行為だった。


雨宮先輩「好きだからこそ、変わる訳には

     いかないんだよ」


柚夏(流雨の件で良い先輩だと思ったけど、

  やっぱり雨宮先輩は人をあざ笑ってる

  だけなのか...?)


柚夏(分からない...)


 私と雨宮先輩は一緒じゃないんだ。自分の一方的な理論じゃなくて、お互い納得出来る範囲で付き合うのが恋愛だと思ってたけど


 でも、先輩達はお互い傷に触れないよう遠巻きに付き合ってる感じがするんだよなぁ...。好きとかそういうのじゃなくて


雨宮先輩「君達はいつだってそうだ。僕らを

     いつも奇怪な目で見てくる、

     だから僕は君みたいな人が

     大嫌いなんだ」


柚夏「はっきり言うなぁ...」


雨宮先輩「身を挺(てい)して流雨君を護った

     事に関しては評価してるけど」


雨宮先輩「ただそれだけ。」


雨宮先輩「君は恋愛に対して夢を見すぎ

     だよ。恋愛に好きも何もない」


雨宮先輩「...僕はそんな覚悟で彼女と

     付き合ってない」


雨宮先輩「綺麗事に侵食されてはないかい??

     空っぽの心に何を言っても通じ

     ないよ」


柚夏「...」


雨宮先輩「小栗君に構って欲しくて

     僕がおちょくってるのかって

     言いたいんだろ?」


 雨宮先輩はとってきた魚の鱗を取りながら、一方的に話掛けてくる。


雨宮先輩「そう思われてるっていうのは

     何となく分かるさ。実際、耳にも

     入ってくるし」


雨宮先輩「...けど、残念。さっきのは本当に

     思ってる事なんだよね」


雨宮先輩「僕は小栗君の事は愛(いと)しい程

     愛してるし、本当の意味で邪魔

     だとも思ってる。」


雨宮先輩「君にその意味が分かるかな」


雨宮先輩「分かるわけないよね。だって

     "発達障害者"の言葉だもの」


柚夏「どうしてそれを私に...」


雨宮先輩「僕はまだ"君"を信用してないって

     事だよ。この世界全員と仲良く

     出来ると思ったら大間違いだよ」


雨宮先輩「この世にはどうしても仲良く

     なれない人だっている」


雨宮先輩「僕と"君"みたいにね。」


雨宮先輩「僕らがいくら努力しようと、

     君達にとって"それ"は当たり前。」


雨宮先輩「僕は君らに合わせて、生きるのは

     もう疲れたのさ」


柚夏「疲れたのさって...」


雨宮先輩「僕は生まれた時から、劣等生

     なんだよ。」


雨宮先輩「分かってくれとは言わない。

     そもそも君らに分かるとも思って

     ない」


柚夏「...本当に、先輩はなんで一人占めが

   いけないのか...分からないんですか?」


雨宮先輩「ふふ...、君もストレートに

     聞くね。そうさ。僕は人の感情が

     よく理解できない、小さい頃

     それが理由で」


雨宮先輩「父親に精神病院に連れてかれたん

     だ。それなりに僕だって考えを

     改(あらた)めようとはしたん

     だけどね?」


柚夏「治そうと努力を続けようとは思わ

   なかったんですか?」


雨宮先輩「あははははは...っ、だよねぇ君は

    本当に期待を裏切らないね。

    勿論”悪い意味で”だよ」


柚夏「私だって、皆に合わせてやってるん

   です。雨宮先輩は嫌な事から逃げてる

   だけなんじゃないですか?」


雨宮先輩「"合わせてやってるぅ??"」


雨宮先輩

「君がそう思うのならそうなんじゃ

 ない?それでいいよ。僕もめんどくさい

 し、うん。確かにその通りだ」


柚夏(この人...本当、なんなの...)


雨宮先輩「けど、」


雨宮先輩「...流雨君でも同じ事思っている

     ようならすぐに別れる事をお勧め

     するよ」


雨宮先輩「君と彼女は不釣り合いだ。」


柚夏「...意味が分かりません。なんでそこで

   急に流雨が出てくるんですか」


柚夏「理由をちゃんと言って下さい、

   分かりづらいです」


雨宮先輩「...君は非を認めない人間だと

     思ってたのに、やれやれ僕の宛て

     が外れたね」


 流雨の件もあって、雨宮先輩の癖もなんとなく分かるようになってきた。この人、”具体的に聞かないと一切答えようとしないタイプ”なんだって


雨宮先輩「君の考え方ではいずれ彼女は鬱に

     なる。自分の考え方に強く矛盾を

     感じる事になるだろうね」


雨宮先輩「僕はね。父親に"売られたんだ"」


雨宮先輩「"研究対象"として、僕より競馬を

     とった。その気持ちが分かるかい??」


雨宮先輩「僕もそれで良いと思った。

     だって生きてるだけで、迷惑が

     掛かるから」


雨宮先輩「発達障害がどれだけ君達に対して

     気を使ってると思う??」


雨宮先輩「君達の”普通”は僕達の”普通”じゃ

     ないんだよ」


雨宮先輩「小栗君は"それ"をよく分かってる」


柚夏「....、」


 雨宮先輩の"鬱"という言葉が重くのし掛かる。...正直その言葉自体、もうあまり聞きたくなかった。


柚夏「実験対象として、売られた...って...」


雨宮先輩「僕には特別な能力があってね。

     その能力を知りたかったそうだよ」


雨宮先輩「病院暮らしはあまり悪くなかった

     けどね。学校より全然ましさ」


柚夏(そんなあっさり...)


柚夏(というか...病院行ってて、最近

  発達障害の事あまり調べてなかったな...。)


柚夏(近い内にもっと流雨の病気の事に

  ついて調べておかないと...。ついでに

  先輩の事も)


柚夏「...最初からそう言って下さい。

   というか...先輩、人の事言えるんです

   か...」


雨宮先輩「僕は君と違って手段は選ばない

     からね」


雨宮先輩

「ようするに、小栗君が鬱になったら

『僕が居る世界で生きたい』と思わせれば

 問題ないんだろう?」


雨宮先輩

「押し倒してキスすれば良い、それから

 依存させて僕なしでは生きれなくさせる」


柚夏(...あ。駄目だ、この人根本的にイっ

  ちゃってる。救いようないくらい

  狂ってる)


柚夏(頑張って下さい。小栗先輩...)


柚夏「...先輩って本当に頭のネジ半分くらい   

   飛んでますよね。」


雨宮先輩「ふっ、アスペルガーには最高の

     褒め言葉だね。統合失調症も

     泣いて喜ぶよ」


雨宮先輩「柚夏君もそれが確実に死なない

     方法だと思わないかい?僕も彼女

     に死なれたら困るし...」


柚夏「なら、まずならないようにする考え方

   をもって下さい」


雨宮先輩「まぁ、いざとなってからの手段

     かな。...僕ももう泣き疲れたんだよ」


小栗「話が盛り上がってしまってご免なさ

   い、待たせてしまったかしら...?」


と丁度、副会長と奈実樹さんを連れて帰ってきた小栗先輩にどういう顔をしたら良いものか私には分からなかった。


※キャプション


あれから少し経って...。12時35分。


柚夏「どう調理するってくだり、結局最初

   から私に押しつける気満々だったん

   じゃ...」


 雨宮先輩の食べた残りの鯛を半分だけ使った刺身に、釣った魚を一旦焼いてから、白味噌で煮出汁した物を私は皆に振る舞っていた。


樹理「こっちも焼きあがったのから皆自由に

   取って食べてねー」


 具材の鶏肉やネギなどは古池家の別荘から調達したもので、残りの具材はバーベキュー用の物として副会長達が焼いている。


小栗「ふふ、けど。こうやって皆で調理

   するっていうのも青春の醍醐味ね。

   柚夏さん」


 茶碗に注がれた具沢山の味噌汁を皆に配っていた小栗先輩は微笑みながらそう言う。


柚夏「はは...、それは良かったです」


 出来立てのお味噌汁を小栗先輩に渡すと先輩は受け取り、ゆっくりと啜る。


小栗「美味し...」


 優しい笑みで幸せそうに微笑む小栗先輩。...その顔はさながら天使の様でもあった。


小栗「初めての海なのだけれど、やっぱり

   テレビで見るのとは実際に体験するの

   は全く違うわね」


小栗「匂いに、ジュゥゥという音。あ、

   だけど野菜多めにしなきゃパパ

   に怒られるわね」


小栗「飯盒(はんごう)ね。飯盒、、」


小栗「こんな方法でご飯を炊けるだなんて

   思ってもいなかったわ。...それにして

   も、炊飯とは違うお米の匂い...」


小栗「お焦げが一番美味しいって聞いた事が

   あって、一度食べてみたかったの」


柚夏「お焦げは炊飯では味わえない

   特権ですからね。炊飯器で作るもの

   とは全く違った味ですよ」


小栗「...ふふ、出来上がるのが

   凄く楽しみだわ。早く出来ない

   かしら?」


 小栗先輩は黒い飯盒を見詰めながら、スマホを取り出して着信のない画面を確認するようにはぁっと小さく溜め息をつく。


小栗「狛の方は家事が苦手だそうで...逃げて

   しまったけど...。あの子は魚は捌ける

のに、料理はしないのね」


 最終的に雨宮先輩は私と先輩達に調理を押し付けて、それきりどこかに行ってしまった。


 一度捜しに小栗先輩が行ったが辺りには居なかったそうだ。普段は居ないのに急にふっと現れるところとかネズミみたいだなと思う


小栗「多分、すぐに帰ってくるとは思うけど...」


柚夏「...あの人、本当にただ鯛食べに来た

   だけでしたね...。」


小栗「狛、大丈夫かしら...」


柚夏「あの人の事ですから...、きっとまた

   何か企んでるだけですよ。心配し過ぎ

   もあまり身体に良くないですよ?」


柚夏「それに私は小栗先輩の胃が心配です」


 自分の分の味噌汁を注ぎ、口の中に流し入れる...。渇いた喉に温かい汁が染み渡った。


柚夏(...うん、美味しい。)


小栗「ええ...。」


柚夏「いくら雨宮先輩でもスマホがある

   んですから、何かあったらすぐ連絡

   すると思いますよ?」


小栗「そうだと良いのだけれど...」

 

美紗「刺身だー」


 と、サザエを焼いていた美紗が鯛の刺身をつまみに来た。


美紗「んー、まいっ!!」


 山葵が苦手な美紗は魚醤だけを付けて、口の中で鯛を味わう。その一方で、朝乃先輩は味覚がないのかと疑うくらいに山葵を大量に付けて食べていた。


朝乃先輩「あー...確かに、海で取れた鯛は

     全然味が違うね...」


柚夏(鯛の味、分かるのか...?!)


柚夏「...けど、私の作った物で良かった

   のかな。奈実樹さん達の方が料理に

   関しては美味しいと思うんだけど...」


奈実樹「バーベキューの方もあったし、

    芽月さんは料理も上手やから」


 人参や、玉葱など古池家が用意してくれた野菜類を焼きながら奈実樹さんはそう答える。


 というかめちゃめちゃ似合うな!!!奈実樹さんのエプロン姿、立ち姿が屋台にいるおばちゃん並みに似合ってる


樹理「それにしても、この白味噌のお味噌汁

   本当に美味しいよっ!!fantastic

   !!」


 その隣で美紗と一緒に取ってきたサザエを副会長が味噌汁を飲みながら焼いている。


 ギューッと閉まったサザエに醤油とバターが染み渡り、此処まで美味しそうな香りが漂ってくる。


樹理「うー...私も美紗ちゃんのお友達の

   ガドーショコラ食べたかったぁ」


柚夏「そんな大それたものでは...」


 鯛の味噌汁を食べ終えたのか、シートで休んでいた流雨は匂いに誘われてこっちに寄ってくる。


美紗「大した物じゃないなら来週のおやつに

   作って欲しいなー、柚夏のガドーショ

   コラが私一番大好きだから」


柚夏「作るのがめんどくさい、」


美紗「え...」


柚夏(美紗のこういう顔ってなんか癖になる

  な...。...なんだろう、別にそういう趣味   

  ないけど美紗はなんか苛めたくなると

  いうか...)


 美紗にだけは本音を言って、機会があればと副会長達にはお伝えしておいた。


柚夏「...さて、流雨お代わりいる?」


 じっと立っていた流雨の顔を見詰めながら、お味噌汁の火加減を見る。...そろそろ火を消しても大丈夫そうかな。


流雨「ん...柚夏の料理、...一番、好き」


柚夏「それは嬉しいな、流雨」


柚夏(はぁ...捕まえて、ぎゅーぎゅーしたい

  ぃぃ...///)


 傍に居る流雨を見ながら、火を消して冷めないよう鍋に蓋をして私は流雨と一緒に魚のお味噌汁を食べる。


柚夏「ははっ。...幸せだね、流雨」


 ...こんなに大勢の人に囲まれて、食事をして皆で笑って。


 ...美紗だけと関わってきた私にとって、今までに考えられないくらいの騒がしい物だったけど


流雨「ん」


柚夏(...こういうのも、たまには悪くない。

  のかな)


 その後も、副会長達が作った醤油バター仕立てのサザエやドイツ性の見たこともない大きなウインナーなど


 今までに味わった事のない豪華なサマーバーベキューを私達は楽しむ事が出来たのだった。


※キャプション 


柚夏「ふぅ...」


 ひとしきり、バーベキューの片付けが終わった後。...私は軽くストレッチをしながらシートで横たわってる人達を見詰めた。


柚夏「見事に朝と立場が逆転してますね」


 美紗と流雨、それに朝乃先輩と副会長。過半数が午前中に力を使い切っており、皆で仲良くお昼寝している。


柚夏「...無邪気な顔で眠ちゃって」


 ...なんというか、小動物組が集まって寝ているとこう、癒される...


 美紗じゃないけど、まるで絵本みたいなこの光景にはほっこりするなぁ...。


小栗「うふふ、病院に集まっていた子達を

   思い出すわね」


 病院と学校だとやっぱり生活が違うんだな...。...小栗先輩、かなり入院歴も長いみたいだし、本当に元気になって良かったと思う。


柚夏(今でも時々辛そうだもんなぁ...現代は

  医療も発達してるけど...当時はもっと

  大変な事だったんだろう...)


柚夏「その子達は何をしてたんですか?」


小栗「その時はお誕生日に皆その子をお祝い

   していてね、お医者様も皆集まって」


小栗「...その子が皆の前でピアノを

   弾いてて、凄く上手だった覚えが

   あるの。」


小栗「とても綺麗だった。オリジナルの歌

   だと思うけど、綺麗な透き通った声で

   聞いてるだけの私も感動したもの」


小栗「今はプロのピアニストにでもなって

   いるかもしれないわね」


柚夏「そんなに上手だったんですか?」


小栗「プロも顔負けよ、彼女のピアノの才能

   は群を抜いていたわ。青い髪の子が

   その子を凄く慕ってていっつも」


小栗「くっ付いていたのも、その子の出す

   音に惹かれたからなんでしょうね」


雨宮先輩「...へぇ、小栗君達はそう思う

     んだね。」


 いつの間にやら小栗先輩と戻ってきた雨宮先輩は仲良さげに話している。突然居なくなった事は最初から無かったかのように小栗先輩は笑顔で微笑んでいた。


柚夏(さっきの心配はどこへやら...)


小栗「あら、狛は違うの?」


雨宮先輩「そうだね。君達が思う気持ちとは

     きっと少し違うんだろうね。」


雨宮先輩「...彼女達はすぐに目を覚ましそう

     かい?」


柚夏「まぁ、帰る頃には起きるんじゃない

   ですかね」


雨宮先輩「ふふ、子供達が眠る。つまり、

     今からは大人の時間という事だね」


柚夏「…冗談に聞こえないですよ?」


雨宮先輩「僕は17歳、つまり17禁でも

     おkなんだ。」


柚夏「良くないです。それに、17歳でも高校生はアウトですよ」


というか17禁ってなんだ 


雨宮先輩「...細かい事ばかり、君は気にする

     ね?そのくらい僕も知ってるさ」


小栗「柚夏さん。覚えておいて、これは

   知らなかったパターンよ。反論が

   具体的じゃないもの」


柚夏「流石ですね...」


 隣で、海を眺めていた古池さんは寛いだように立ち上がる。


古池さん「…では、皆さん。海を楽しみま

     しょうか」


柚夏「美紗が寝たらって…」


古池さん「たまたまですよ。...海と申します

     と、いつもゆったりしていました

     から」


古池さん「そのような事にあまり慣れて

     いないのです。」


奈実樹「私も、若い子みたいにはなぁ…」


柚夏「…本当に高校生ですか…」


朝乃「はぁぁ…。晴華さん…」


と、寝言で深い溜め息をつく朝乃先輩。...やっぱり橘先輩が居ないの寂しいんだろうなぁ...。


柚夏「…数少ない常識人の朝乃先輩が機能

してないだなんて…」


柚夏(常識人か、あの人)


 残りの人達はゆったりとバカンスを楽しんでいる。まぁ...こういうのも悪くはないけど...。この人達は果たして海に来た意味があるのだろうか...。


雨宮先輩「さて…海と言ったら...ビーチ

     バレーが王道だけど」


 そんな事お構いなしとでも言うように、いつの間に持っていたビーチボールを片手に雨宮先輩は口を開く。


狛「ビーチバレーをしようじゃないか!!

  勿論小栗君も強制参加で。小栗君も

  居るから3Pでね」


柚夏(...普通の事言ってるのに、何故この人

  が言うとあっち系にしか聞こえないん

  だ...)


小栗「…まぁ、私は良いけれど」


柚夏「先輩も乗っかるんですか?」


 意外だ...。絶対胸揺れるの見るのが目的なのに...。まっさきに断りそうな人だと思ってた。


小栗「だって、面白そうじゃない」


柚夏(あ、この人雨宮先輩の本来の

   目的に気付いていない...)


雨宮先輩「他の彼女達の分のくじもあるか

     ら、良い運動だと思って僕に

     付き合ってくれないかい?」


古池さん「そうですね...皆様もご参加なさい

     ますか?」


 あまり乗り気じゃないのか、古池さんは奈実樹さん達の様子を見ながら参加を決めるようだ。


奈実樹「構いまへんよ、古池嬢がご参加

    なさるのなら私も参加します」


柚夏(一番困る回答のやつですね...)


雨宮先輩

「折角だから罰ゲームを用意しよう。

 そっちの方がきっと面白いだろう

 からね?」


古池さん「なる程、確かにそちらの方が

      盛り上がるとは思われますが...

 一体どのような物に?」


 古池さんが罰ゲームという言葉に食い尽く。けど、それだけであの古池さんが参加するとは思えないのだけれど...。


雨宮先輩「恋人の秘密を教えるのはどうか

     な?柚夏君ならではの美紗君の

     秘密だって知っているだろう?」


古池さん「なる程、...よくお考えになられ

     ましたね。中々面白いご提案です」


柚夏「いや、それ罰ゲームにならなくない

   ですか?一切デメリットないじゃない

   ですか...」


雨宮先輩

「だから良いんじゃないか。彼女達は

 おねむの時間だからね、3ゲーム内では

 きっと起きないだろうし」


雨宮先輩「何をしてもOKさ」


柚夏「いや、良い訳ないでしょう」


...ということで、古池さんの参加も決まった事で強制的に奈実樹さんも参加となり...五人でくじを引いたのだった。


※キャプション


小栗「狛、勝負よ!!」


 小栗先輩は一番乗り気なようで、雨宮先輩の持っているボールを待っている。小栗先輩は張り切ったように腰を低くさせていた。


雨宮先輩「なんだい?」


 隣にいる雨宮先輩に私は視線を向ける。...一方私達は対戦相手ではなく、小栗先輩と奈実樹さん、古池さんの敵側のチームだった。


柚夏「…小栗先輩のクジ、わざと敵に回

   しましたよね?」


雨宮先輩「当然だろう?」


 一切悪びれる事もなく、雨宮先輩はくじに細工した事を堂々と肯定したのだった。


雨宮先輩

「…僕は彼女には全力でサーブを打つよ。

 波打つ小栗君の胸のためにね!!(ボソッ」


 ...隠して細工する方がまだタチがいいなと此処まで思ったのはこれが生れて初めてだった。


柚夏「…させないっ!!」


 投げ帰ってきたボールを雨宮先輩に取らせないように、スライディングで相手側のコートに投げ入れる。


 飛んできたボールをポンッと小栗先輩は古池さんのボールを受けて、最後に奈実樹さんがレシーブを決めた。


雨宮先輩

「ちっ!!僕にボールをパスしないか!!

 君はビーチボールのルールを知らない

 のかい!?」


雨宮先輩「ビーチボールといえば揺れる胸を

     鑑賞するゲームじゃないか...」


柚夏「生憎、性的なルールは存じ上げて

   いませんからっ!!」


雨宮先輩「くっ...、味方こそ最大の敵だった

     という訳だったのか...!?」


雨宮先輩「味方なら頑張れよ!!」


柚夏「さっきからめっちゃ頑張ってます」


 雨宮先輩はボールを取ることが出来ずに、ビーチボールは砂の上に落ちていった。


小栗「二人とも喧嘩しないで、ちゃんと

   やって頂戴ー!!」


と、向こうから小栗先輩の声が聞こえる。その瞬間私はハッとビーチバレーをしていた事を思い出した。


柚夏「私は何と戦っているんですか...?」


雨宮先輩「そんなの僕が知るわけない

     だろう?」


雨宮先輩「というか、相手コートは向こう側

     なんだけど君は分かってるかい?

     白内障が進行しているなら、」


雨宮先輩「眼科に行くことをお勧めするよ?」


柚夏「あ、敵ってこっちじゃなかったん

   ですね。すみません間違えてました」


雨宮先輩

「やっぱり、最後まで信じられるのは

 己自身だけという事だね。いいよ、

 掛かってくるといい...」


雨宮先輩「けど、3回目のアタックは譲らせ

     はしないよ?」


 相手側にレシーブを打つ、雨宮先輩との戦いが今まさに始まろうとしていた。


小栗「…うーん。なんで狛達お互いに

   ボールを取り合ってるのかしら」


雪音「…とても仲が良さそうですね」


 あっという間に、三ゲームは終わり...小栗先輩のチームのビーチボールの試合には負けたが、私は別の勝負には勝ったのだった。


雨宮先輩「やれやれ...罰ゲームは僕達かい?」


 雨宮先輩は出せる力を全部出せたのか満足したように、笑っている。...まぁ...いい勝負だったけど...人の気も知らないでこの人は...。


柚夏

「...えーと、本当に良いんですかね?勝手

 に話してしまって...。それに私、美紗と

 狛先輩は知っていますけど...」


柚夏「何せ副会長は今日初めてお会いした

   ので...」


奈実樹

「えぇよ、えぇよ。雨宮はんが知っとる

 はずやからね。芽月さんはなんも気に

 する必要はあらへんよ」


と奈実樹さんは微笑みながら、シートの上に座る。同じく私達もそれぞれシートの上に座ったのだった。


小栗先輩「あ、それと狛は自分の事話して

     頂戴よ?こういう機会じゃないと   

     貴女中々話してくれないんだから」


雨宮先輩「分かったよ、一つだけ本気で

     小栗君の質問に答えよう」


と雨宮先輩は参ったよとでも言うように自嘲気味に笑う。...チームを細工してそれはまぁ当然の結果と言えるだろう。


 他の人に聞かれないように、私はまずは古池さんの元へ向かう。負けは負けだからね...。美紗の話をするため私と古池さんは席を立った。


柚夏「...どんな話が良いですか?」


 もし美紗達が起きても良いように、奈実樹先輩が様子を見てくれてる。向こうでは同じように小栗先輩も雨宮先輩の話を聞いていた。


古池さん「そうですね...。では、芽月さん

     と杏里さんの出会いについて

     お伺いしても宜しいでしょうか?」


柚夏「"出会い"ですか...。そうですね...

   美紗と私は中学生の時に出会ったん

ですけど、」


柚夏「美紗と初めて会ったのは中学校の

   調理室でした。美紗は料理が上手く

   作れなくて残ってたみたいで、」


柚夏「そこで会ったのがきっかけです。」


古池さん「何故、芽月さんは調理室に

     いらしたのでしょうか?」


柚夏「それは、今回の罰ゲームには関係ない

   のでお教え出来ません。」


柚夏(...先生から余った食材貰ってたなんて

  貧乏臭くて、)


柚夏(古池さんに言う必要もないし、最初は

  美紗にも調理室から出て行って欲しくて

  たまらなかったんだよなぁ...。)


柚夏(まさか、あんな態度で美紗と親友に

  なるなんてあの時は思いもしてなかった

  けど)


柚夏(あの時の美紗には感謝しないとね...。)


古池さん「なる程...」


柚夏「それで、ガドーショコラを一緒に

   作って"懐いた"という訳です」


古池さん

「杏里さんらしいですね...。お話して

 下さって、ありがとうございます」


柚夏「此方こそ、どうも」


彼女は聞きたいことを聞けたのだろうか。もっと話すことあるのに


柚夏(でも、前よりは古池さんの事嫌じゃ

  なくなったな)


 と、古池さんとの会話が終わりシートに集まる。丁度小栗先輩達も終わったのか戻ってきた。


柚夏「えっと...次は小栗先輩ですね」


小栗「ふふ、芽月さんはどんなお話を

   してくれるのかしら」


 同じように、離れて小栗先輩とお話をする。雨宮先輩の方は奈実樹先輩とお話してるようだ。


柚夏「"雨宮先輩"の秘密ですか...」


小栗「なんでも良いわよ?何か知っている

   事あるかしら?」


柚夏「そうですね...さっき、小栗先輩が離れ

   た時にしていたお話でもしますか?」


小栗「あぁ、私が奈実樹さん達に調理を

   お願いしたときの話ね?」


柚夏「はい。雨宮先輩は小栗先輩を

   からかっているんじゃなくて、本当に

   一人占めしていけないのが分からないと...」


柚夏「先輩はその事、知っていましたか?」


小栗「...いいえ。だけど、そんな気はして

   いたわ」


小栗「それに本当の事を言わないのにも

   きっと理由はあるはずだもの」


 私は小栗先輩にずっと聞きたかった事があった。


柚夏「...小栗先輩は雨宮先輩に騙されたとは

   思わないんですか?」


小栗「騙された??」


柚夏「訳が分からない事を言われて、信じ

   られなくなったり...しないんですか?」


 何時も怒ってる先輩は、雨宮先輩の事をどう思ってるのだろう。


柚夏(どうして...そこまで雨宮先輩の事、

   小栗先輩は信じられるのだろう?)


 注意しても聞く気がない雨宮先輩に小栗先輩はそれでも真面目に話をし続ける。何故、そんな事が出来るんだろう...?


小栗「騙されるなんて、...違うわ。あの子

は人の言葉を誰よりも理解してる」


小栗「確かに、狛の言葉の意図を理解するの

   は簡単じゃないわ。けど...意味が

   分からないのは」


小栗「私の読解力が足りないだけだ

   もの。...狛の理解が足りてない」


小栗「よりを取り戻そうとしてるお父さん

   を見て、狛の気持ちが少し分かった

   気がする」


小栗「あの子は人に対する警戒心が

   人一倍強い子だから。」


柚夏「昔父親に実験対象として寄付金を

   貰っていたのは??」


小栗「初耳ね。あの子の能力を知ってれば

   不思議じゃないわ」


小栗「自分はネズミだって言ってたけど、

   そういう意味もあったのね」


小栗「...私の信頼度が足りないのよ」


柚夏「お父さんがクズなだけでは??」


柚夏「小栗先輩のせいじゃないですよ」


小栗「そうだと良いのだけれど...」


柚夏「お互いすれ違って、不安になったりは

しませんか...?」


小栗「勿論するけど、それよりも狛の事が

   知りたいって思う気持ちの方が強い

   わね。芽月さんもそうは思わない?」


小栗「流雨さんと居る時、例え彼女の事が

   分からなくとも。彼女の味方で

   居たいって気持ち」


柚夏「それは...」


小栗「それがコミュニケーションというもの

   なんじゃないのかしら?真意を知って

   も理解できない人ならそれで良いのよ」


小栗「貴女の事が理解出来ないだからお別れ

   ね。...そうするのは簡単よ?」


小栗「けど、そんな簡単な事すら出来て

   いないのだから。もう諦めるしかない

   じゃない」


小栗「私はあの子の事が気になるの。

   悔しいけどね」


柚夏「...はは、確かにそうですね」


小栗「...誰もあの子の事を理解出来な

   かった、うわべっ面ばかりで」


小栗「本当の狛を誰も知らない。だからこそ

   私が理解してあげなきゃいけないの。

   ...狛は人一倍臆病者だから」


流雨『あなたと私は、友達じゃない...』


柚夏「あー...」


小栗「...それに私は生と死の境目によく

   居たから、理解されないのがどれ

   だけ辛い事なのかも知ってるの」


小栗「...なんだかんだ言って結局、

   ほっておけないのよね。」


柚夏「ほっておけない、ですか...。すみま

   せん、色々質問してしまって...」


小栗「ふふ、けど中々楽しかったわ。貴重な

   体験をさせてくれてありがとう」


 小栗先輩とお話をしている間に雨宮先輩は古池さんと奈実樹さんに話をし終えたようだ。


柚夏「流雨」


 寝ている流雨の寝顔を見ながら、...目の前に置かれているスイカを見ないようにして私は深い溜め息を付いたのだった。


※キャプション


雨宮先輩「海と言ったら、やっぱり

     締(し)めはこれじゃないかい?」


 とスイカをビニールシートの上に敷いて、雨宮先輩は楽しそうに笑っている。


柚夏(まだ勝負するつもりなのか、この人は...。)


柚夏「元気ですね。先輩は...」


 はぁ...と深い溜め息を付く。...海でもなければこんな事に付き合っていませんからね...。


小栗「スイカもそんなに食べられないわよ?」


雨宮先輩「勿論、分かってるさ。だから

     小さなスイカを2つしか用意して

     いないじゃないか」


 小柄なスイカをシートの上にセットする雨宮先輩。色が薄いスイカと濃いスイカの2つだ。


雨宮先輩「柚夏君と海での最後の勝負が

     したくてね、古池君に頼んだんだ

     よ」


柚夏「...なんで色が違うんですか?」


雨宮先輩「黄色いスイカと、赤いスイカ

     別々を味わいたいくはないかい?」


柚夏「なるほど...中身が違うんですね、変な

   もの仕掛けてたりしないですよね...?」


 ビーチバレーの事もあって、どうにも雨宮先輩は油断ならない。次は普通にスイカ割りを楽しめたら良いんだけど...。


雨宮先輩「そう思うのなら君がどっちを

     選ぶか決めて良いよ?」


柚夏「え?良いんですか?」


柚夏(そうだなぁ...)


柚夏「でしたら...」


→「中身が赤いスイカにする」

→「中身が黄色のスイカにする」

  ※流雨の好感度上がる。珍しいの好き


雨宮先輩「そのスイカで良いのかい?」


柚夏「はい、割ったタイムが早い方の勝ち...

で良いんですよね?」


雨宮先輩「そうだね。見学者の人に

     時間はスマホで測って貰う事に

     しようか?」


柚夏「良いでしょう、望むところです」


雨宮先輩「まぁ見てればどっちが早いか

     とか分かると思うけど」


小栗「...折角なら、柚夏さん。狛と勝負して

   完膚なきまでに打ち負かせて

   あげてくれるかしら?」


柚夏「…そう、ですね。雨宮先輩の腐った

   根性を叩き直してあげます!!」


雨宮先輩「それは断るよ、腐っていない僕は

     僕じゃないからね!!」


 モゾモゾと寝ていた朝乃先輩が眠そうに目を擦っていた。他の三人はまだ寝てるのか、すぅすぅと寝息を立てている。


朝乃「...スイカ割りかしら?喉渇いてるから

   丁度良いわね...。ふわぁぁ...奈実姉ぇ、

   私ジュースが飲みたいわ...」


 ボーッと目が半目の朝乃先輩は、犬歯を見せて欠伸をする。揺れるピンクの髪がまるで犬の耳のように動いていた。


奈実樹「朝ちゃん、お茶買って来よか?」


朝乃「...いいえ、スイカで良いわよ。だって、

   近くに売って無いでしょう?」


奈実樹「ミキサー使うてもよろしいですか?」


と、奈実樹さんは起きた朝乃先輩の為に割れたスイカでジュースを作るようだった。


古池さん「えぇ、構いませんよ。すぐに

     ご用意させて頂きましょう」


柚夏(綺麗に割らなきゃなぁ...)


奈実樹「種無しのがえいよね」


雨宮先輩「種無しスイカだから、そのまま

     でも問題ないさ。美しいお嬢さん

     達」


雨宮先輩「...さて、柚夏君から先に指示する

     人を選んで良いよ」


 目隠しは同じ物を使うので細工はないようだけど...。罰ゲームもないみたいだし、雨宮先輩、純粋にスイカ割りをしたいだけなのか...?


雨宮先輩「先行も柚夏君に譲るよ」


 雨宮先輩。随分、ハンデをくれるけど...何か勝ち筋でもあるのだろうか?...私も先輩には勝ちたいし...慎重に味方を選ばないとな...。


柚夏(...さて...誰にスイカの指示を頼もう

   かな...。)


→朝乃先輩に指示を頼む

 ※晴華end必須選択肢(門番のヒント)

→小栗先輩に指示を頼む

 ※こぐこまルート必須選択肢。

→古池さんに指示を頼む

→奈実樹先輩に指示を頼む


※小栗を選択しないと、狛は小栗選ぶ。

 →小栗を選ぶと古池さんを選ぶ。

 


→朝乃先輩に頼む


柚夏「朝乃先輩、指示をお願いしても

   良いですか?」


 朝乃先輩なら、普通に指示してくれそうだし...。考え方も理数系で近いものがあるので、相性が良い可能性もあるにはある。


朝乃「...分かったわ」


 ふわぁぁぁ...と欠伸をしながら、目を細めている朝乃先輩。...選んだのは良いけど本当に朝乃先輩で大丈夫だったのだろうか...。


柚夏「じゃあ、私は朝乃先輩で...」


※スライド


 目隠しをした状態で、グルグルと木刀を使って10回回転する。フラフラとふらつきながら朝乃先輩の指示を待つ。


朝乃「右...、もう少し右ね」


柚夏(右...)


朝乃「行き過ぎてるわ、半歩左よ」


 朝乃先輩の指示通りに行くが、足がフラついて思うように歩けない...。よたよたとよろけながら私は懸命に朝乃先輩の付いていった。


朝乃「そこよっ!!」


...思いっきり木刀を振りかざす。


 バコッと木刀でスイカを叩く音がしたので、目隠しを取った。黒かった視界から、熟れたスイカの(赤or黄)色い色が鮮やかに目に映った。


奈実樹「タイムは2分30秒やね」


柚夏「少し時間掛かっちゃいましたね...」


朝乃「あー...ごめんね。芽月さん、...寝起きで

   私、指示下手クソだったよね...」


奈実樹「朝ちゃん寝起きやしなぁ...」


※負けルート


→小栗先輩に指示を頼む


柚夏「小栗先輩良いですか?」


 雨宮先輩と組まれると一番不味いだろう小栗先輩を私は選ぶ。...よし。これで、雨宮先輩の事を知り尽くしてる人と手を取れた。


小栗「勿論よ、二人で勝ちましょう

   ね。絶対に狛をギャフンと言わせ

   てあげるんだから」


柚夏「えぇ、必ず」


と小栗先輩と手を組ながら私は小栗先輩と作戦会議をする。耳元で話すように、しゃがみこんで小声で話をした。


小栗「...狛はかなり耳が良いのよ。そのせい

   なのかしら?雑音が大嫌いみたいで、

   特に機械音に対して敏感なの」


小栗先輩「だから指示中に機械音を出して

     みるわね。」


※スライド


 目隠しをして木刀で10回回転した雨宮先輩は、目が慣れるまでじっと立ったまま動かない。


柚夏(...流石、古池さんだムダを一切省いて

   いる)


 その後、バランスを取り戻した雨宮先輩は古池さんの的確な指示で真っ直ぐに進んでいく...。


 その瞬間、小栗先輩の携帯から機械音が鳴り響いた。


雨宮先輩「なっ!?小栗君!?」


 狼狽える雨宮先輩はすぐさま目隠しを外して小栗先輩の顔を見る。それでも不安そうな雨宮先輩は大声で叫んだ。


雨宮先輩「私の負けで良いから!!だから

     っ、その不快な音を今すぐに

     止(や)めて!!」


と、本気で焦ったように雨宮先輩は落ち着かない様子で狼狽えていた。


 軽くパニック状態になっている雨宮先輩に、小栗先輩はすぐに音を止めて走り寄る。

 

小栗「ごめんなさい、狛。貴女が其処まで

   機械音に弱いって私、思ってもなく

   て...ごめんなさい...。」


ぎゅっと小栗先輩が雨宮先輩を抱き締めると、徐々に落ち着いたのか雨宮先輩は苦虫を噛み潰したような顔で顔を上げた。


雨宮先輩

「...流石の僕も今のは怒るよ?小栗君

 の事が嫌いになってしまいそうだった」


小栗「...本当にやりすぎていたわ。...ごめん

なさい」


柚夏(あの時の雨宮先輩の声...まるで別人

だと思った...それほど、焦ってたのか...)


柚夏(...あの雨宮先輩でも苦手な物があるんだな)


雨宮先輩「...もう少し、君がこの時を止めて

     くれるのなら許してあげてもいい」


小栗「...分かったわ」


 小栗先輩に抱かれるように、雨宮先輩は十秒くらい抱きしめられていた。


柚夏(...これはスイカ割り所じゃなさそう

  だなぁ)

 

雨宮先輩「...まったく、どこでそんな悪知恵

     を覚えてきたんだい?」


 貴様かという目で、雨宮先輩が此方を睨んでくる。なんでだ。


柚夏「いや、違いますけど...。」


 ...まぁいいよとでも先輩は言うように、小栗先輩の胸に抱かれながら、目を閉じて大人しくなったのだった。


雨宮先輩「...」


※キャプション


→古池さんに指示を頼む


柚夏「じゃぁ...古池、さんですかね...」


古池さん「...本当に私で良いのですか?」


→いいえ

→はい


→いいえ


古池さん「...芽月さんは生産性のない事に

     無駄な時間を使う変態的なご趣味

     がおありになられるのですね」


古池さん「ですが、私にはそのような趣味は

     ございませんので悪しからず」


※選択選び直せる。→古池さん除去になる


→はい


柚夏(極力したくないんだけど...)


→それでもする

→やめる※いいえと同じ


 確実に勝ちを狙うなら、博識の知識を持つ古池さんだろう。雨宮先輩が古池さんと組まれたりなんかしたら鬼に金棒だろうから...。


柚夏(...けど、古池さんかぁ...やっぱり

   まだお金持ちに苦手意識が...)


 この海のバカンスを用意してくれたのも古池さんのお陰なんだけど...、どうしてもお父さんの影がチラつく...。


柚夏(雨宮先輩はお金持ちって感じじゃない

  からまだ大丈夫だったけど...古池さんは

  生粋のお嬢様だからなぁ...)


古池さん「どのような指示になさいましょう

     か?」


 と、古池さんは私に話しかけてきた。古池さんの黄金色の瞳が逆光により鈍く光る。


柚夏「...どのような指示、ですか?」


古池さん「芽月さんの能力を最大限に生かせ

     る方法論です。如何に無駄を省

     き、能力を引き出すかが要に

     なってくるでしょう」


柚夏「考えてくれるんですか?」


古池さん「私が支持者であるのならば、

     どんな形であれ、古池の名に

     恥じない勝利を掴み取らねば

     なりません」


柚夏(...やっぱり)


柚夏「地位が崩れるから、ですか?」


 地位や名誉でお金は手に入り、またお金で地位や名誉を守る事が出来るのを私は知っている。


柚夏(...初めての子育てによる、育児疲れ)


柚夏(母さんの自殺も、本当の理由はもみ消

されてた。そんなに地位が、名誉が、

お金持ちにとっては大事なのか...?)


古池さん「それも、間違いではありません。

     ですがそれが全てでもないのです」


古池さん「お婆様が残して下さった物を

     私は守りたいのですよ。たまたま

     地位が誇りと同じでしただけ...」


柚夏「...誇り。ですか」


古池さん「...さて、では行きましょうか」


柚夏(そういえば...)


柚夏(...一切、スイカ割りの話してなかった)


※スライド


 私は目隠しをしてから、木刀で10回回転する。フラフラと三半器官のバランスが乱れる中、私は木刀で身体を支えながら立っていた。


柚夏(指示が...、)


 ない。


ゲーム開始後古池さんは指示する気があるのだろうか、一切無言を貫いている。


柚夏(どうすればいい?指示無しでこのまま行)


古池さん「...ストップです。」


 声が聞こえて、足を止める。


古池さん

「10歩直進したら、思い切り木刀を

 振りかざして下さい。Early(早く)」


古池さん「run(走る)」


柚夏(...信じる、しかない!!)


1歩、2歩、3歩...10歩目まで切り抜けると私は木刀を構えて全力で振りかざす。


柚夏「はぁぁぁぁああっ!!」


 バコッ...!!


固い物が当たる音がして、私は目隠しを取ったのだった。


柚夏「当たった...」


 澄まし顔の古池さんと目が合う。...私は驚きが隠せなかった。...あの一瞬で私の歩幅を計算したのか。


柚夏(...この人、本当に...人間か...?)


奈実樹「1分03、流れるように

    早かったなぁ。これはええ勝負

    なりそうやなぁ」


朝乃「古池様、凄っ...」


 綺麗に割れたスイカを見ながら、神業とも言えるであろう。この光景を見ても信じられずにいた...。


※勝ちルート


※キャプション


→奈実樹先輩に指示を頼む


柚夏「奈実樹先輩が良いです」


奈実樹「...うちでえぇの?古池嬢とか

    小栗はんやなくて...うちなん?」


 奈実樹さんのお姉さんの幹白さんにはとてもお世話になったし、それに私も奈実樹さんとスイカ割りを一回楽しんでみたかった。


柚夏「はい、奈実樹さんとスイカ割りが

   したくて...駄目ですか?」


奈実樹「あかんくないけど...。まさか芽月

    はんが選んでくれる思うてへん

    かったから少し驚いてしもうてなぁ」


奈実樹「...うちは勝負事とかは向いて

    へんさかい、今からでも変えて

    えぇんやよ?」


→変える

奈実樹「ふふ、選んでくれておおきにな?」

※選択選びへ


→変えない


奈実樹「強情やね。そういうの、嫌いや

    あらへ んよ...?...うちも、その...嬉しい」


 頬を赤らめながら、少しの間視線を逸らす奈実樹さん。...なんというかその、色っぽいですね。...見てるこっちがなんか恥ずかしくなってくる。


奈実樹「けんど、芽月はんの期待答え

    られへんかったらその時は寛仁して

    な...?」


柚夏「勿論ですよ。それに、スイカ割りを

   楽しむのがスイカ割りの目的ですから」


※スライド


雨宮先輩「早さじゃなくて綺麗に割った方の

     勝ちにしないかい?」


柚夏「...はぁ」


 いきなりルールを追加する雨宮先輩。


雨宮先輩「あの可愛いわんこ君もジュースが

     飲みたいようだし、丁度君が

     樹理君のべっぴんさんな彼女を

     選んでてそう思ったんだ」


柚夏「良いですけど...」


 目隠しをしてから10回転して、フラフラと歩いていく...。


奈実樹「右やよー、もうちょい左やね」


 視界が黒い中、時間制限がないので時間を掛けてゆっくりと奈実樹さんの指示でスイカに向かっていく。


奈実樹「そこやね。後は芽月はん頑張ってな」


柚夏「...はッ!!」


ボコッと音がした。


柚夏「あー...中心からずれちゃいましたね」


奈実樹「それでも、かなり割れとるよ。

    芽月はん凄いなぁ...」


 次は雨宮先輩の番だ。雨宮先輩は小栗先輩の指示を聞きながら、普通にスイカ割りを楽しんでいる。


 「いきなさい、狛」と小栗先輩が言うと、雨宮先輩はスイカを木刀で叩いた。


雨宮先輩「...さて、柚夏君のはどうかな?」


柚夏「んー...皆さんに判定してもらい

   ましょうか?」


 奈実樹さんと小栗先輩は私が割ったスイカを、朝乃先輩と古池さんは雨宮先輩が割ったスイカの方が綺麗に割れていると判定した。


柚夏「引き分けですね」


雨宮先輩「僕は中心を当てたのに、外して

     こんなに割れるなんて...君は馬鹿

     力なのかい?」


柚夏「...これでも筋肉痛です」


雨宮先輩「は?自慢かい?」


柚夏「本気ならもっと汚く割れますよ」


 雨宮先輩は目を細めて、不機嫌そうに私の割ったスイカをミキサーの中に入れている。


 雨宮先輩の割ったスイカは奈実樹さん特性の調味料を入れてジュースになっていた。そのジュースを真っ先に朝乃先輩は飲み干したのだった。


朝乃「あー、生き返るわねー...。流石、奈実姉

   ぇのジュース。美味しいはずだわ」


奈実樹「皆も飲んでなぁー」


※キャプション




朝乃ちゃん選んだら


※負けルート(※注意 晴華end必須選択肢)


※キャプション


奈実樹「1分10秒や、ね」


 指示者に小栗先輩を選んだ雨宮先輩との勝負の差は歴然で、先輩達は私達の2倍をも上回るスピードで勝利を掴み取った。


朝乃「...奈実姉ぇ、あれはルール的には

   ありなの?」


 と首を傾げて、朝乃先輩は驚いた顔をしながら奈実樹先輩に話しかけている。その意見は私も少し気になっていた。


柚夏「勝ち負けは別にどっちでも良いです

けど...確かにあれは指示者ではない

   ような...」


 というのも、小栗先輩は勝負が始まる前にスイカの前にスタンバイしており


 始まった瞬間、小栗先輩はずっと無言でコンコンと雨宮先輩が来るまでスイカを叩き続けるという謎めいた行動をしていただけだった。


奈実樹「スイカを叩いたらあかんいう

    ルール制限は無かったからなぁ」


雨宮先輩「柚夏君は支持者を選ぶ権利は

     あったのだから、君に文句を

     言う権利はありはしないよ?」


雨宮先輩「ふふ、僕の勝ちだ。」


 と、勝った事が余程嬉しかったのか雨宮先輩はドヤ顔で嬉しそうに此方に近付いてくる。


雨宮先輩「これで小栗君も柚夏君より、僕の

     方が優れているという事が

     分かっただろう?」


小栗「確かに勝負ではそうだったけれど...。

   2年生の子も寝起きだったのだから

   勝って当然よ」


...その小栗先輩の何気ない一言が、全私を傷付たのだった。


柚夏(...その寝起きの先輩を選んだのは

   私なんですけれどねー!!)


雨宮先輩「ふふ、あのイケメンで有名な

     柚夏君より僕は器用だと証明

     されたんだよ」


雨宮先輩「これで君も僕の事、世界一の

     理想の旦那様と認めるよね?」


 と雨宮先輩は上機嫌そうに小栗先輩に話しかけている。雨宮先輩って本当に私の事、ライバル視してるよなぁ...。


柚夏(...そんな事しなくても小栗先輩は

   私より雨宮先輩の方が好きに決まって

   るのに)


奈実樹「どうぞ、さっき割ってくろうた

    スイカジュースやよ」


柚夏「あ、すみません。頂きます」


 雨宮先輩と小栗先輩にコップを回し、奈実樹さんから頂いたジュースを片手に飲みながら乾いた喉を潤す。


小栗「ありがとう。芽月さん、奈実樹さん

   も」


奈実樹「此方こそ、えぇ試合見させて貰うて

    おおきにね」


 そう言って、奈実樹さんは私達のコップを配り終えると微笑みながら去っていった。


小栗「...けど、体力的には芽月さんの方が

   上なのだからあまり調子に乗っては

   駄目よ狛?」


雨宮先輩「...どうしてだい?僕は柚夏君に

     勝った。君にとって、今の僕は

     調子に乗ってるのかい?」


雨宮先輩

「...勝ったと言うことはその人より、

 優れてるという事だろう?どうして

 君は喜んではくれないんだい?」


小栗「..."理想の旦那、様"ね...」


 小栗先輩は困ったように、雨宮先輩に対して掛ける言葉を真剣に考えているようだった。


柚夏(人の会話に口をはさみ出すのは

  少しあれかもしれないけど...)


柚夏「...本当に理想の旦那様にしたい人

   はそんな勝っても自慢しない人だと

   私は思いますよ...世界一なら尚更...」


雨宮先輩「....そんな事、分かってるさ」


雨宮先輩「僕は彼女に相応しくない人物

     だってね」


雨宮先輩「片付けも終わったようだし、

     僕は先に着替えてくる」


 と、雨宮先輩はそのまま先に更衣室にいってしまった。


柚夏(...あれ?雨宮先輩が珍しく、私の話を

  聞いてる)


 小栗先輩はそんな雨宮先輩の気持ちを察してか、雨宮先輩を追うことはなく黙って先輩の背中を見守っていた。


美紗「え!?...4時00分!?」


 と驚いている美紗。バーベキューが終わって美紗達が寝ている間に、2時間程時が進んでいたのだった。


柚夏「あー、もうそんな時間か...」


美紗「もう20分しかないよ...。あ、この

   ジュースすっごく美味しいね!!」


柚夏「...それは良かったね。それ奈実樹先輩

   が作ってくれたんだよ」


副会長「...ナミの...作ったジュース!?」


 私の声で起きたのか、目が覚めた副会長もさっきの美紗と同じ様に時間が経ってしまった事を嘆いていたのだった。


※キャプション


雪音に頼む

小栗に頼む


→勝ちルート


 スイカ割りで割ったスイカの破片を奈実樹先輩と朝乃先輩がミキサーの中にかき集めている。


 どうやら本当に奈実樹先輩は朝乃先輩の為に本格的なスイカジュースを作るようだった。


雨宮先輩「はぁ...僕の負けだよ」


雨宮先輩「小栗君、君の豊満な胸で可哀想な

     僕を慰めてくれないかい?...あ、

     勿論意味深な方で良いよ」


小栗「折角、途中まで普通の意味だったのに

   そっちを選択してしまったの...?」


柚夏「雨宮先輩は勝負に負けても

    相変わらずですね...」


 流雨もまだ寝てるので、私は勝負をした雨宮先輩と小栗先輩の元へと向かう。


雨宮先輩「何時までも勝ちに固執するような

     ネガティブな旦那様は小栗君も

     見ていて嫌だろう?」


小栗「そうねえ...。確かに過度にネガティブ

   な人だと私もどう接して良いものか

   迷ってしまう時はあるわね...」


小栗「けど、必ずしも悩むという行為自体は

   悪い事ではないわよ?」


 小栗先輩の意見に納得するように目を閉じながら雨宮先輩は深く考えるように大きく頷いた。


雨宮先輩「なるほど...小栗君は行為をする事

     自体は悪くないんだね」


小栗先輩「...どうして貴女は何時もそっち

     方向に持っていってしまうの...?」


柚夏「...悩みは少ない方が生きるのは楽

   なんだろうなぁとは私は思います

   ね」


小栗「けど悩むのは、より良い選択をする為

   でしょう?...それは良い事だと思うわ」


小栗「私も毎日病院のベッドで明日、死んで

   しまったらどうしよう...って何時も

悩んでいたもの。」


小栗「悩んだってどうしようもない事

   なのに、ずっと同じことをね...」


小栗「どうせ死ぬなら悩むだけ時間の無駄だ

   とも思った。楽しい事だけを感じれば

   良いとさえも思ったわ」


小栗「けど、...あなたは生きてって手術中に

   誰かに言われて...気付いたの。」


小栗「"生きているからこそ、悩む事が

   出来るんだって"」


小栗「沢山悩む事はそれだけ沢山生きている

   という証じゃないかしら?」


柚夏「小栗先輩って...、仏様か何かですか?」


柚夏(実際に仏様みたいな人が居るんなら、

   小栗先輩のような人の事を言うん

   なんだろうなぁ...)


 小栗先輩のする話はしっかりとした重みがあり、それでいて説教臭さを全く感じない。


 生と死の話をあっさりと言ってる辺り人生を見据えてる気さえする...。


小栗「えっ、そこまで大それた話じゃない

   のよ!?本当にそう思ってるだけで...」


 そう言いながら慌てて、両手を開いて首を振る小栗先輩。こういう所は普通の女の子って感じがするのになぁ...不思議だ。


雨宮先輩「僕の選んだお嫁さんだぞ?当然

     じゃないか。」


雨宮先輩「...僕のだからな?」


 何をどう勘違いしてしまったのか、雨宮先輩はジト目で私を睨んでいる。


小栗「私は物ではないわ」


柚夏「そもそも狙っていませんよ...」


古池さん「生きてるからこそ、悩む事が

     出来る。ですか...」


古池さん「...では。...悩む事の出来ない方

     は果たして、どうなのでしょう

     か?」


 日傘を差しながら、古池さんは澄まし顔で微笑んでいた。...いつの間に話を聞いていたんだろうか?


柚夏「...古池さん?」


古池さん「芽月さん、先程のスイカ割りの

     ご活躍。とても素晴らしいもの

     を拝見させて頂きました」


柚夏「どうも...」


 古池さんは私のスイカ割りの勝利を称えてから、首を傾げて言った。


古池さん「私もお話をお聞かせ頂いても

     宜しいでしょうか?」


 古池さんの入るスペースを私は後ずさって作る。古池さんは私に軽い会釈だけしてその隙間に入ってきた。


小栗「本当に其処まで大した事ではない

   のよ?」


 古池さんに物怖じせず、普通に話している小栗先輩。...以前もそうだったけど、それだけでも小栗先輩は十分凄い人だと私は思う。


古池さん「其方を判断するのは、私ですから」


柚夏

(あの豹のような目つきでじっと見つめら

れると全て見透かされてる気がして...苦手

なんだよなぁ...)


小栗「...そうねぇ、少し良い?」


古池さん「構いませんよ。...どうかなされた

のですか?」


小栗「悩む事が出来ない人...というのは、

   貴女自身の質問って事なのかしら?」


古池さん「....」


 小栗先輩と古池さんが無言で見つめ合う。...小栗先輩は古池さんの無言が気まずくは無いのだろうか?


古池さん「その通りですね」


 古池さんは無言の沈黙の後、そうとだけ口にしたのだった。


小栗「貴女自身もよく分かっていないのね。」


 小栗先輩は古池さんの目をしっかりと見詰めて頬に手を伸ばす。そして、じっくりと古池さんの瞳を見ながら、小栗先輩は口を開く。


小栗「悩みは誰でもあるわ。勿論貴女にも

   ちゃんとある。だから、安心して...」


小栗「悩みだと気付いていないだけ...。

   ふふ...。本当にただ、それだけなのよ」


 小栗先輩はそう言うと、古池さんの側から

離れたのだった。


柚夏(...これは雨宮先輩が惚れるのも

   分かるな)


古池さん「...悩むとは、何でしょう?」


小栗「ふふ、それがもう悩みなのよ」


古池さん「...なる程、これが...悩みなのです

     か...。」


 古池さんは何かに納得するように目を閉じて、首元に触れる。


 ...何時もマフラー付けてたから、もしかしてマフラーを掴もうとしているのだろうか...?


美紗「雪音っ、皆と何お話してるの?」


と、美紗はいつの間に起きたのかこっちに近付いてきて古池さんに抱き付いたのだった。


柚夏(あれ...?美紗、前よりも古池さんに

  積極的になってない?...気のせいか?)


古池さん「杏里さん...、おはようございます」


美紗「おはよう、雪音。寝ている間に

   すっごい時間過ぎちゃったよ...柚夏

   だって起こしてくれても良いのに」


柚夏「自分で起きなさい。16時30には

   帰るよ。だからあと、美紗には30分

   しか残されてないね...」


美紗「うぇー!!そんなぁ...!!」


 とガックリと肩を落とす美紗。そりゃ、折角海来て2時間寝てたら経ってましたーっていうのは辛いのは分かるけど...。


柚夏(スイカ割りの時にでも起こしてあげ

  れば良かったかな...)


美紗「じゃあ、せめてっ!海!!最後に

   泳ごうよ!!」


 雨宮先輩はその言葉よりも先に沖に足を運んでいた。


雨宮先輩

「僕はごめんだけど、パス。濡れるの

 は苦手なんだ。だから先に更衣室

 で子猫ちゃん達の帰りを待っているよ」


柚夏(雨宮先輩こういうの好きそうなの

  に意外だな...)


小栗「私は入って行こうかしら?良い思い出

   になりそうだもの、狛写真お願いして

   良いかしら?」


雨宮先輩「良いよ、けどすぐに僕行くから

     ね?」


小栗「構わないわ、飾る用に一枚あれば

   いいの。お願いね狛」


雨宮先輩「分かったよ。君のお願いは僕には

     断れないし、ね」


 雨宮先輩に皆携帯を預けている。夕暮れの薄く掛かった赤い海が、波に反射して光っていた。


柚夏「けど、この時間だとギリギリ寒そう

   ですね...。どうなんでしょう?」


 流雨も起きたのか、首が少し動いている。


柚夏(うん、最後だし流雨も誘おっか)


柚夏「流雨ー、最後に海入らないー?」


 起き上がって、副会長を下敷きにしている流雨に声を掛ける。流雨はこくんと首を縦に振った。...その反動で、副会長はガバッと起きたのだった。


※キャプション


奈実樹に頼んだ場合


→引き分けルート


雨宮先輩「中心の方が美しくはないかい?

     柚夏君のスイカは中心からズレて

     いるじゃないか。」


雨宮先輩「小栗君が柚夏君の方を選んだのに

     僕は納得がいかないよ?」


小栗「芽月さんはしっかりと割れている

   もの。私は勝負は何時でも平等よ」


雨宮先輩「勝ちに固執するつもりはないけれ

     ど、僕は勝ちか負けかはっきり

     したいんだよね」


 雨宮先輩は携帯を片手に、小栗先輩と雨宮先輩は割ったスイカの美しさについて討論しているようだった。


柚夏「まぁまぁ、どっちも勝ったという事で

   良いじゃないですか」


 さっき奈実樹先輩から頂いたばかりのスイカジュースを小栗先輩と雨宮先輩に手渡す。


小栗「ありがとう、芽月さん」


 小栗先輩は微笑みながら、ありがとうとジュースを二つ受け取って片方を雨宮先輩に手渡した。


雨宮先輩「...流石、樹理君が好きな人だ。

     普通に美味しいね?」


 雨宮先輩は携帯をパーカーのポケットに入れて、味を均一にするためなのかこぼれないように


 スイカジュースの入った紙コップをソムリエの様に回している。


小栗「えぇ、流石奈実樹さんだわ。お店で

   売ってても可笑しくない味よね」


雨宮先輩「見た目もお洒落だし、僕もこの味

     は好みだよ」


 よほど美味しかったのか二人の話はいつの間にやら、スイカジュースの話に切り替わっていた。


柚夏(確かに、どうやって作ってるのか

   想像出来ない味だ...。何を入れている

   んだろう?)


※スライド


家でも作ってみたいと思い、奈実樹さんの元へと私は歩いて行く。


副会長「起こしてくれても良いじゃんナミ

    ぃぃ...。それより、何で朝乃さんの

    が先にジュース飲んでるの?」


奈実樹「樹理、寝とったやん」 


 副会長はむすーっと膨れ面をしながら、ぷいっと奈実樹さんに向かってそっぽを向いている。


朝乃「えーと...何か私が怒らせるような事

   したならすみません。樹理さん...」


副会長「...ルシェルさん!!」


朝乃「けど前奈実姉ぇが樹理さん呼び

   じゃないとルシェルさん怒るって...」


副会長「私は貴女からはそう呼ばれたくない

    のっ!!I know her than you!!

(私のが彼女の事知ってるの!!)」


 朝乃先輩は困った顔をしながら、助けを求めるように奈実樹さんを見ていた。


柚夏(犬ってよくそういう顔するよなー...)


柚夏「...どうしたんですか?」


朝乃「あ、芽月さん。...えっとね」


奈実樹「樹理が朝ちゃんに先にジュースを

    飲ませたのに嫉妬しとるだけやで」


 その言葉を聞いた朝乃先輩は納得したように口を開く。


朝乃「え?あ、そういう事だったの?私と

   奈実姉ぇが仲良くしてるのが樹理さん

   は気に入らないのね!まるで昼ドラ

   みたいだわ」


柚夏(...朝乃先輩が火に油を注いでる)


樹理「...ギュー、アアアッ!!」


 どこから出ているのか、まるで子供の玩具みたいな声を出す副会長。


朝乃「...えっ、...何!?」 


 朝乃先輩は驚いたように樹理先輩を見つめている。...本当わざとじゃないんですよね?


奈実姉「あーそれな、狐の威嚇する時の声

    やで。樹理が怒ってる時に時々

    その音出る」


朝乃「狐...」


朝乃「...つまり、犬科の狐に嫌われるって事

   は、私は犬ではないと言う事よね

   っ!?」


 朝乃先輩のその問に答える人は此処には誰も居なかった。


朝乃「返事無い...芽月さんまで...」


柚夏(...へー。朝乃先輩、同じ犬科なのに

  副会長からは嫌われているようだ)


奈実樹「ところで、芽月さんどないしたん?」


 と、奈実樹さんは残りのスイカジュースを作りながらこっちを向いて微笑んだ。


柚夏「...あ、いえ。スイカジュースが凄く

   美味しかったので、レシピ良かったら

   お聞きしたいなぁと思いまして」


柚夏(けど、こんな雰囲気で聞いても良いの

  だろうか...?)


奈実樹「そうやなぁ。砂糖とそれから...少量

    のMSG、Nacl、バジル、

    レモン汁。分量は味見して調節

    しとるからなぁ...」


柚夏「MSG...?」


柚夏(Naclは塩化ナトリウムって事くらい

なら知っているけど...MSGって初めて

  聞いたな...)


奈実樹「これやよ」


柚夏「味の源、市販の奴ですか?」


 テーブルの上にあった白い粉を取る奈実樹さん。透明な容器には味の源と大きな文字で書いてある。


柚夏(有名だから名前だけは聞いたことある...)


奈実樹「やっぱり王道は、昆布の旨味の

    グルタミン酸やけど鰹に含まれる

    イノシン酸、干し椎茸に含まれる

    グアニル酸」


奈実樹「アミノ酸と言えば、Glyとかもあり

    やで。エビに含まれるアミノ酸」


柚夏「という事は...添加物ですか?」


柚夏(けど...こうやって実際見ると、味の源

  って塩や砂糖みたいな感じに近いな...)


柚夏「舐めてみて良いですか?」


奈実樹「えぇけど...単品では美味しく

    ないで?」


 手の平に味の源を少しだけ掛けて、ぺろっと舐める。うーん...、難しい味だ...。


柚夏「...塩味(えんみ)は感じますけど...

   塩という感じ ...ではないですね」


 カタンと元にあった場所に味の源を戻す。


奈実樹「添加物を毛嫌いする人も多いけど、

    実際添加物は大抵の物に含まれとる

    よ」


奈実樹「肉にも黒ずみを防止するために

    亜硝酸ナトリウム入っとるし、

    味噌も保存伸ばすために添加物

    入っとるし...」


柚夏「そうなんですか...」


柚夏(というか、添加物とそうじゃないもの

  の違いってよく知らないな…身体に悪い

  ってよく聞くからそう思ってたけど...)


奈実樹「今使っとるのは元は食べ物から抽出

    した物やし、身体に害はないって

    科学的に証明されとるものやからね」


奈実樹「けど個人によっては危ない物も

    あるから、そこは注意しなあかん

    けどね。」


柚夏「危ない添加物ですか...?」


奈実樹「例えば海老アレルギーの子が海老

    から取れるアミノ酸であるグリシン

    を摂取したらまずいやろ?」


柚夏「なる程...確かに...」


奈実樹「大人でもアレルギーの人はおるし、

    特にそういうのが悪目立ちして

    世間からは添加物は嫌われとるな」


奈実樹「けど加工や、着色が無い食べ物

    なんて実際誰も食べんよ?賞味期限

    が2日でカビるなんて嫌やろ?」


奈実樹「消費者のニーズに応えれば応える

    程、添加物は増えていく。それを

    求めるようになったのは消費者なの

    にな?...不思議やね」


柚夏「実際、添加物と添加物じゃないもの

   って何が違うんですか?」


奈実樹「それはな、味付け以外に使うのを

    添加物言うんよ」


柚夏「えっ...」


奈実樹「砂糖も味付け以外に使用すると

    添加物になるんよ。光沢とかに

    使うんなら添加物やね」


柚夏「そうだったんですか...」


柚夏(メディアって鵜呑みにしたら駄目だな...)


樹理「ねぇナミ、このスイカジュース、

   ゼラチンで固めても美味しそう」


奈実樹「けど、もうそろそろ帰る時間なんや

    ない?」


樹理「あー...そっか...今度また作ろ?」


奈実樹「...ふふ、そうやね。朝ちゃんとの

    会話は終わったんか?」


美紗「ねー、柚夏ー!!最後に海入ろー」


 とついさっき起きたのか、流雨と美紗がシートの上で手を振っている。流雨も乗り気なようで...。


柚夏「寝起きでよく、そんな大きな声

   出せるなぁ...。先輩達もどうですか?」


樹理「ねぇ、ナミ。行こ?」


奈実樹「そうやね。...最後やし、行こか」


 そうして、私達は海へと向かって走り出したのだった。


美紗「あ、ずるい!!ちょっと、待ってよー!!」


※キャプション


柚夏「...ちょっと、待った!!」


 海面に付くと、失ってしまった時間を取り戻すかのように美紗と副会長は我先にと海に入っていく。


美紗「え?何、柚夏?」


 私の声で止まった二人は驚いたように、足を止めて振り返った。


美紗「残りの時間も、もうあんまり残って

   ないから、私早く入りたいんだけど...」


副会長「私も美紗ちゃんの意見に賛成!!」


 時間が無くて焦る二人。...けど、これは下手すれば命に関わる事でもあるから...。


柚夏「二人とも、何か忘れてません?」


柚夏「...海に入る前には必ずすべきことが

   あるのを」


美紗「すべき...」


副会長「事...?」


 二人とも分かっていない様子で考えるように首を傾けている。時間を掛けるのも可哀想なので私はすぐに答えを口にした。


柚夏「準備、体操です!!」


美紗「あー....えー、別に良くない?

   柚夏真面目過ぎるよ...それに後30分

   しかないし...学校じゃないんだから...」


美紗「うちの学校プールないけど...」


 美紗はマジかーとでも言いたげに、海水から出てすぐに準備体操を始める。副会長もその姿を見て一緒に準備体操を始めたのだった。


副会長「えっと...それでも美紗ちゃん、

    お友達の言うこと聞くんだ...」


柚夏(...可哀想だけど、足を吊ったりしたら

大変だからね。)


柚夏(折角遊びに来たんだから、溺れる可能

  性がないようにしないと)


美紗「...柚夏、今してないと後で

   長いんですよ。電車で永遠説教祭り

   は嫌です...」


 手を延ばしながら、伸脚をして足を延ばす美紗。


 ...言いたい放題だけど。...誰のために準備体操させているのか分かっているのだろうか?


柚夏(...まぁ、短縮ぐらいは多目にみて

  あげる、か。しないよりは全然マシ

  だし...)


美紗「...まぁ、たまにならそれも悪くない

   ですけど。」


副会長「え?」


 他の方々は当然のようにラジオ体操を先にしていたので、...その辺りは流石お嬢様方だなぁとは思う。


美紗「...柚夏もしてないの?さっきスイカ

割りしてたみたいだけど...」


 ゆっくりと海に浸かる小栗先輩達を羨ましげに見ながら美紗は言う。


 私は屈伸をしながら、美紗に合わせて軽く身体を動かす。


柚夏「...さっきしてたから別にする必要は

   ないけど、流雨がまだ途中だから私は

   一緒にしてから入るよ」


 流雨も美紗に合わせるように準備体操をしているが、微妙についていけてないのがまぁ、もう可愛いのなんの...。


美紗「じゃあ、柚夏より早く終わらせる

   からね」


柚夏「準備体操の目的を見失うんじゃ

   ありません」


※スライド


 ...準備体操が終わり。雨宮先輩はスマホで皆が海水浴している写真を撮ってから、更衣室へと去っていった。


柚夏「...雨宮先輩、疲れたんでしょうかね?」


小栗「あれだけ勝負をしていれば、それも

   おかしくはないけれど...」


 海水に浸かりながら、私達は足の着く浅瀬で各自、自由行動をしている。


 美紗の提案から古池さんを含む、雨宮先輩以外の全員が最後の思い出にと海に浸かっていた。


柚夏「もしかして、先輩泳げなかったり

   するんですか?」


 古池さんと奈実樹さんに見守られながら、幸せそうに泳いでいる美紗と副会長を横目に私は軽い感動を覚える。


柚夏(美紗、やっとまともに古池さんと...。

  ...本当に良かったなぁ。...おめでとう)


小栗「そうねえ...濡れるのは嫌いって言って

   いたけれど...。」


小栗

「狛は泳げない時は泳げないってはっきり   

 言うもの。単純に乾かすのがめんどくさい

 とかそういう理由だと思うわよ?」


 近くにいる小栗先輩と一緒に歩くスピードで流雨の浮き輪を押しながら、ゆっくりと進んでいく。


柚夏「...それにしても、流雨は泳ぐのが苦手

   だったんだね」


...ある意味、流雨が泳げなくて良かったかもしれない。浮き輪に浮いている流雨はまるで子供のように凄く可愛かった。


柚夏(...いつか流雨と子供を育てられたら

  良いなぁ。養子の子とか、一緒に暮らし   

  て子供のように可愛いがりたい...)


柚夏(けど、流雨はどうなんだろう...流雨が

  子供嫌いならまぁ、仕方ないか...。)


柚夏(...白い大きな犬とかなら、モフモフ

  してて良いかな?大きな犬と寝てる流雨

  か...破壊力、高いな。)


柚夏「小栗先輩って、子供好きですか?」


 まずは小栗先輩に聞いてみて良さそうなら流雨にも聞いてみよう...。


小栗「...え?そうねえ...確かに可愛いとは

   思うけど...。」


柚夏(...思うけど?)


 私は勿論子供好きだけど、流雨と同い年の小栗先輩だとどうなんだろうか?


小栗「...もう、大きな子供が一人近くにいる

から。...その子のお世話だけで今は手一杯かしら?」


柚夏(雨宮先輩...)


柚夏「あー...確かにそうですね...。それと、

   小栗先輩は将来的に子供と過ごしたり

   したいと思っていますか?」


 浮き輪の向きを変えて、美紗達から離れすぎないようにUターンする。そのまま小栗先輩とゆったりと海の中を歩いていった。


小栗「...それは、考えても居なかったわね。」


小栗

「養子を授かっても良いけれど、そもそも

 の性格としてお互い静かな所が好きなの

 よね。...今はまだそういう事は考えられ

   ないわ」


柚夏「静かなのが好きな子も一応、居るには

   居るんですけどね...。」


柚夏

(...やっぱり、子供って言うとわんぱくな

イメージが強いのかな...?けど、それは

それで元気で私は良いと思うけどなぁ...)


柚夏(それに満足するまで遊び倒してあげれ

  ば、子供って体力無いし、皆静かになる

  のに...)


小栗「確かにそうね...、...病院に居る子は

皆そうだったけれど外から来てた子は

騒がしくて...」


小栗「どうにもそっちのイメージが強かった

   みたい...。柚夏さんが気を悪くして

   しまったのなら謝るわ、ごめんなさい」


 と、小栗先輩は丁寧に理由まで教えてくれたうえに頭を下げて謝ってくれたのだった。


柚夏「いえ、そんな...!!小栗先輩が謝る

   必要はないですから...!!」


小栗「いいえ、偏見で決め付けるのは

   よくない事だわ。...そういう発言には

   気をつけないと」


柚夏(小栗先輩、人が出来ていらっしゃる...!!)


柚夏「...けど...そういう理由だと...そう

   思っても仕方ないですよね...」


海に顎までつかせながら、ゆっくりと沈み。私はまた立ちあがる。


小栗

「...けど、ね。例え静かな子だったとして

 も、それでも私は養子は授からないとは

 思うわ」


柚夏「...どうしてですか?」


小栗「狛は耳が良いから本当に無音じゃない

   と落ち着かないらしいのよ。」


柚夏「...なる程、先輩達はお互いにそう

   なんですね」


小栗「柚夏さん達はどうかしら?」


 小栗先輩に促され、私は流雨が乗っている浮き輪に向かって声を掛ける。


柚夏「...流雨は、さ。その...子供は好き?」


流雨「...別に、嫌い...じゃない...」


柚夏

「じゃあさ。...いつか養子とか、そういう

 のさ...、私は良いと思うんだけど...」


流雨「...流雨は、...どう思う?」


 流雨は此方に顔を向けて、私の顔をじっと見つめる。私が止まるのに合わせて小栗先輩は歩く足を止めて立ち止まった。


流雨「....」


柚夏

「どうかな...?...その、別に子供苦手なら

 無理する必要はないからね?」


柚夏

(この沈黙だけは慣れないなぁ...。やっぱり、私の我が儘過ぎるかな?)


 少しの間、微動だにしなかった流雨はまるで動くのを思い出したカラクリのように顔が少しだけ動いた。


柚夏(...やっぱり、駄目...だよね...)


流雨「...柚夏が」


流雨「...私じゃない、他の子を見てるのは...

   嫌」


柚夏「......」


 ...流雨の瞳に映った私の顔はもう、それはそれは酷い物だった。


柚夏「....ッ////」


 海水に入り、すぐに顔を出しブルブルっと海水を飛ばして私はパチパチッと両手で頬を引き締める。


小栗「...初々しくて、見てるこっちの方が

   恥ずかしくなってくるわね///」


柚夏「...分かってます。分かってますから...

...からかわないで下さい///」


小栗「ふふ、流雨さんよりも柚夏さんのが

   乙女なのね」


柚夏「...あー、もぅ///!!小栗先輩なんて

   知りません!!流雨!!、ちゃんと

   浮き輪、掴まってて」


 私はガッと流雨の浮き輪を掴み、海水に顔を付けて全力で泳いで美紗達の方に向かったのだった。


柚夏「あ、けど石とかには注意してください

   よ!?危ないですから!!」


小栗「ふふ、...柚夏さん貴女、本当に、

   優しい、のね」


※キャプション


 早く着替え終わったので、私は部屋の中に居た古池さんの別荘管理をしている方にお礼をお伝えしようと近寄った。


別荘の方「お嬢様の御友人の方ですね?

     お疲れ様です、あの此方良かった

     らどうぞ」


別荘の方「恐縮ですが、残りのスイカ

     ジュースを冷却して箱詰めさせて

     頂きました」


 高そうな紙袋の中に冷温材と、お店で売っているような透明なプラスチックの中にスイカジュースが入っている。


 その中には一目で高いと分かる高級感溢れるお菓子が一緒に添えられていた。


柚夏「あ、すみません...。わざわざご丁寧に

どうも...。今日は本当に色々と用意

   して頂いてありがとうございます。」


 スイカジュースを別荘の方から受け取って、「どうぞ御友人の方。おくつろぎ下さいませ」と言う別荘の方の勧めで高そうなソファーの上に座る...。


柚夏(...何これ...すっご...!!すっごい!!

ふわふわする!!...なにこれ、すっご!!)


 思わず、後ろを見てソファーを確認する。触り心地は抜群でもう、もっふもっふだった。


柚夏(このソファー、いくらするんだ...?)


 目を閉じながら、立ち続ける別荘の方に自分だけ座っている事に何か申し訳なさを感じる...。


柚夏「バーベキューセットとかも大変でした

よね...?重くはありませんでしたか?」


別荘の方「いえいえ、お嬢様のお友達の方々

     でしたら喜んでご奉仕させて頂き

     ますよ。」


別荘の方「お嬢様にはいつもお世話に

     なっておりますから」


別荘の方

「私達もお嬢様のお友達の方に喜んで

 頂けたのでしたら、とても幸せです」


 別荘の方は90度に頭を下げながら、後ろに下がる。「お気になさらず、顔を上げて下さい」と古池さんが言うと


 おずおずと別荘の方は「失礼します」と古池さんに顔を上げた。


古池さん「お疲れ様です。長井さん、本日は

     色々と急な要件をお聞き下さって

     ありがとうございます」


別荘の人「お嬢様...。...私には、勿体なき

     お言葉です...」


古池さん「長井さん、何か変わった事は

     ありませんでしたか?」


 別荘の方は古池さんの近くで、小声で何やら話すと頭を下げて後ろに後ずさった。


樹理「それにしてもシャワー室すっごい、綺麗だったよね」


奈実樹「えらいお洒落やった...うちの家も

    あんな綺麗やったらもっとお客はん

    増えるんやろうね...」


樹理「えー、檜風呂は檜であの匂いが

   たまらないのに...」


朝乃「あのシャンプーも、凄い高い奴なん

   だよ。晴華さんのCMのやつでも一番

   高級な奴なのっ」


美紗「匂いに包まれてるんですよね。五回

   くらい聞いたので覚えちゃいました」


朝乃「...そうなの。今、私晴華さんの匂いに

   包まれてるんだわ...うふふふ...、」


朝乃「つまり晴華さんに抱かれてると言って

   も過言じゃないのよ!...けど現実は」


美紗「現実でもきっと大丈夫ですから、朝乃

   先輩。私、現実じゃなくてネットの話

   聞きたいです」


 皆仲良く、一緒に話しながら出てくる。が、小栗先輩達の姿が見当たらなかった。


柚夏(まだ着替えてるのかな...?)


 無言で皆の後ろに居た流雨が私を見つけると、こっちに向かって早足で掛けてくる。なんて可愛いんだ...。よしよーし...寂しかったね。


流雨「ん...柚夏、置いてった...」


 可愛い顔でふんすっと私の上に座る流雨。いや、その...それは...。


柚夏「流雨のシャワーシーンはまだちょっと

   早いから、私には」


流雨「...好きって、言った...」


柚夏(もう、超好き)


柚夏「好きだからこそ、なんだよね。

   分かって...」


 流雨の背中を猫のように撫でながら、私は目を閉じる。...あー、良い。凄く良い...。


美紗「あ、雪音ー」


 美紗は古池さんをぎゅっと抱き締めて、すぐに離れる。古池さんは美紗の事を少しだけ見てそのまま構わずに話し続けた。


古池さん「では、皆さんお帰りになられる

     準備は宜しいでしょうか?」


柚夏「小栗先輩達が見当たらないのですが」


古池さん「お二人ともお外でお待ちして 

     いらっしゃいましたよ」


古池さん

「忘れ物などは無いようでしたので、

 そろそろお暇いたしましょう。」


古池さん

「長井さんにもご迷惑が掛かってしま

 いますから。皆さん、本日は大変

 お世話になりました」


 周りに居た人達がずらっと出てくる。十人の人達が頭を下げて、「行ってらっしゃいませ、お嬢様」と古池さんと共に見送られながらずっと頭を下げ続けていたのだった。


雨宮先輩「...ほら、もう二人っきりの時間は

     お終いだよ。小栗君」


小栗「あ、帰るのね?」


 外で小栗先輩と話していた雨宮先輩を見つけて、朝と同じくヘリで帰る古池さん以外の皆で電車に乗り込む。


美紗「楽しかったですね、海!」


副会長「寝ちゃったのは少し、

    残念だったけど来れて良かったよ!」


柚夏「...美紗。もし私が寝てたら、

   駅着いたら声掛けて...。美紗だけだと

   不安なんで朝乃先輩もお願いします...」


朝乃「アラーム掛けておくよ、晴華さんの

   動画聞いてるから。そこは安心して」


柚夏「....」


 ガタンゴトンと、疲れていた私は無言で流雨と一緒に目を閉じながら揺られて家へと向かって行ったのだった。


※キャプション





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