⑬初めてのお泊り編【みさゆき】

ギィッ...、


美紗(あっ...)


美紗(まだ寝てる...?)


美紗(起こさないようにそっと...)


 雪音の鞄を持ち上げて、ドアを閉める。


美紗(なんかやってる事泥棒みたい

   だけど...)


 そこから雪音にもらったフォルダーだけ出して、鞄をすぐに閉じた。


パシャッ...。


美紗(これで良いかな、でも...本当、何度

   見ても、可愛い...。)


美紗「こんな素敵な絵なのに...

   なんで、雪音はこの絵をコンテスト

   に出そうとしないんだろう。」


美紗(この絵なら、絶対優勝だって

   出来ると思うのに...)


 雪音が私の為に描いてくれた絵。嬉しくない訳がない、


美紗「ん?」


 フォルダーの中に何か挟まってる...。


 2-A古池雪音、タイトル『かけがえのないこの時間』と書かれた小さな用紙。


美紗「これって、もしかして...コンテスト

   に出したつもりで描いたのかな」


美紗(雪音らしいや。)


※キャプション


カチ、カチ...。


美紗(起きませんっ、ように...)


ガタッ...


美紗「....、」


雪音「.......」


美紗(...起きて、)


美紗(ないよね...?)


 雪音が起きてないのを確認しながら、手に取った鞄をさっきと同じ場所に戻して...ほっと胸をなで下ろす。


美紗(...、)


美紗(ゆっくり休んで欲しいもんね...、

   此処最近ほんとに無理してた

   みたいだし...倒れるくらいには)


美紗(起きたら またなんかしそう、

   晴華さんも雪音も休む事を

   知らないから。)


 ついでに机のすぐ側に置いてあったお母さんの椅子を持って、今度は音をたてないよう、慎重に...


美紗(後で戻すから)


美紗(ちょっとの間椅子、借りる

   ね、お母さん)


 雪音の寝むるベッドの横に椅子を置くと、私はそこに腰かける。


美紗(んーーーっ、)


美紗(...ふぅ。)


美紗(流石に、今日はちょっと

   疲れたなぁ...)


美紗(雪音が寝てから 晴華さんとお話し

   て...。あれから大分...経った

   気はするけど...)


 雪音はかわらず、まるで毒林檎を食べてしまった白雪姫のように綺麗な顔をしたまま眠ってる...。


美紗(相変わらず綺麗な顔してる

   なぁ...)


美紗(眠い時に寝た方が精神的にも

   落ち着くし、寝れるときは

   寝た方が私も良いと思うから)


美紗(...私が白雪姫の王子様なら、)


美紗(ここで雪音にキスしただけで、

   幸せにさせられるんだろうけど。)


 でも、...本当にその人の事が好きになるとそんな気持ちなんか一切沸かなくて


 今は...それより雪音が安心して過ごせる日々を送ってもらえる事の方が私にとって、よっぽど大事な事に思えた。


美紗(ふわぁ...、私も...つられそう...。

   雪音が起きるまでは起きてるけど

...。)


美紗(状況説明したら私もすぐ出てく

   から、...人が居たら落ち

   着くものも落ち着けないし、

   ね。)


美紗(悪いけど、それまでは此処に

   居させてね。)


雪音「....」


 私も夜遅くまで色々してた時期があるから、


 無理してでもやりたいっていう気持ちは生きていくためには必要な感情だって事も知ってる。


 自分がしたくてした事で人に迷惑掛けるのは嫌だし、エネルギー切れは回復するのに時間掛かるから仕方ないんだけど...。


 それでもやりきった。っていう感情はちゃんと心に残ってて、そうやって少しずつ、自分が出来上がってくから。


美紗(だからこそ、晴華さんにもそれを

   分かって欲しかったんだけどな

   ぁ...)


美紗(でもあの様子だと...理解は出来る

   けど、やっぱりまだ晴華さんの

   不安は解消されてないみたい

   だし、)


美紗(不安に思わない、方法かぁ...。)


美紗(...雪音が不安に感じてないなら

   私は別にそれで良いと思うけど。)


美紗(雪音は雪音だし、)


 でも一緒に暮らしてる晴華さんより私の方がずっと家族みたいな考え方してるっていうのはどうなんだろう...、


 虐待されて逃げてきた、とかじゃなかったら。記憶を失ってなかった方が晴華さん的には幸せに暮らせてたのかな


こうやって、気を使うこともなく。普通の家族と笑ったり 我が儘言ったり...


雪音「...せい、かさ...」


美紗「.....」


美紗(...あぁ、)


美紗(そっか....)


美紗(晴華さんじゃないと...、駄目、

   なんだ...。)


美紗(心配症でも、ちょっと

   ストーカー気質になりかかってる

   ヤンデレでも...)


雪音にとって晴華さんは、たった一人の姉で...、晴華さんは、雪音にとってはもう欠かせない『家族』なんだ...。


美紗(くゆと私みたいに。)


 晴華さんの代わりなんて...、どこにもない。


美紗(私じゃ...違うんだよね。

   晴華さんじゃなきゃ、駄目

   なのに)


 なんて贅沢な悩みなんだろう。こんな可愛い妹に愛されて、どうして...。あの人はそんな簡単な事にさえ...、気付いてあげられないんだろう...。


美紗「...大丈夫だよ、雪音」


 今、この手を握るのが私の役目じゃなかったとしても


 それで雪音の寂しさを少しでも紛らわせるなら、...それで良い。あの人は私のずっと欲しかった物を持ってる


美紗「絶対分からせて見せるから...、

   同じ義理の妹を持つ姉として」


美紗「変わらなきゃいけない事だってある

   んだよ。」


美紗(...晴華さんは晴華さんの良さが

   あるって事、)


美紗(多分本人だけがそれをずっと

   知らないまま、生きてきたから)


美紗(だから私は...。)


 持ってきたスマホを取り出して、約束通り。撮った写真を晴華さんへと送った。


※スライド


晴華「「...え?」」


晴華「「ゆっきーが、本当に...その絵...、

    書いたの?」」


美紗「....。」


美紗「「はい」」


晴華「「あの日...、以来かな」」


晴華「「雪ちゃんがそんな絵、

描くの...。」」


晴華「「懐かしいな、」」


晴華「「人と一緒にいる絵なんて...、

    ゆっきー描いたの、いつぶり

    だろう...、」」


美紗(まぁ...、驚くよね)


 晴華さんの中の雪音はずっと止まったままだから...今の雪音の絵は、どうみたって別人が描いたくらい"感情"に溢れてる。


 絵本を読んだ事がない子供が初めて絵本の存在を知ったように、この絵には雪音の描きたい物が描かれてる。


晴華「「...私が仕事をしてる内に、」」


晴華「「ここまで...、変わったんだね

    ...。ゆっきー...」」


晴華「「美紗ちゃんに任せて、良かった。」」


晴華「「...絵が描けなくなってから、

    ずっと落ち込んでたはずなのに、

    ね...。」」


 落ち込んでたはずなのに、ね...。


美紗「「晴華さんだって、本当は

    気付いてるんじゃないんですか」」


美紗「「感情のない雪音なんて...もう、

    どこにも居ないんだっ

    て事」」


 ※少し経って晴華さんから返事が送られてくる。


晴華「「『あの子の感情が戻ったら、

    ...貴女は本当の意味で雪音と

    家族になるわ』」」


晴華「「...それがゆっきーが大好き

    だった霙さんが残した最後の

    言葉で、」」


晴華「「私なんかで良いのかなって、」」


晴華「「ゆっきーは感情がないから、

    利用価値がある私を必要と

    してくれてたのに、」」


晴華「「今更...、そんなの...、無理

    だよ...、」」


美紗(...あれ、これって...)


雪音『私の何が目的なんですか...?』


美紗(...あぁ、)


 やっぱり姉妹だな...、って...。


 言葉こそ、違っても。


最初に会った時の雪音と同じ事言ってたから...。


『 利用価値がないと誰も。愛してくれない 』


美紗「「私は、損得以外の付き合い

    も。いっぱいあると思いますよ。」」


美紗「「子供の事が好きな人もいれば嫌いな

   人だっている。嫌いな人を見ていた

   せいで」」


美紗「「それしかないって思っても。実際には

   子供が好きな人が居ない訳じゃない」」


美紗「「きっと、自分がそう思ってる

    だけで...。」」


美紗「「実際はそういう人ばかりじゃない

    はずですから。」」


美紗「「汚いのだけ見てたら、この世界  

    は全部汚い物まみれですよ」」


美紗「「だから私は綺麗なのが好き

    なんです。」」


晴華「「でも...、そう、思っちゃうんだよ。

    私は...嫌な人間、だから...」」


晴華「「そんな私が...、ゆっきーと

    本当の意味で家族なんか、

    なれる訳ない...、それがお祖母様の

    予言だったとしても」」


晴華「「あんな良い子の、私なんて...、

    家族に、、相応しくない。」」


晴華「「ゆっきーの感情が戻って嬉しい

    はずなのに...、」」


晴華「「いざその時が来ると、どうして

    いいか分からないの...。」」


美紗「「どうして家族にならないん

    ですか?」」


晴華「「...山の中で血塗れで死にかけて

    て、何してたか分からない子供に、」」


晴華「「急に家族になれって言われ

    たら誰だって...、怖い...、

    でしょ...。」」


美紗「「それは昔の話ですよ。今の晴華さん

   じゃない」」


晴華「「でも私ならそう思うよ。気味の

    悪い子供だって、」」


晴華「「人殺しとか、お母さんを殺した

    とか、」」


晴華「「だから私はゆっきーの家族に

    なんて...、なれないんだ

    よ。」」


晴華「「どれだけ、愛してても。」」


美紗「「晴華さんがもし、雪音が記憶喪

    失で血塗れで死にかけた過去が

    あったら」」


美紗「「雪音の事怖いって、」」


美紗「「...思うんですか。」」


晴華「「...。」」


美紗「「晴華さんが家族に相応しくない

    かどうか決めるのは、晴華さん

    じゃなくて。雪音です。」」


美紗「「それでも、住みたくない、住みたい

    は晴華さんが決める事なん

    ですよ。」」


 流石に、さっきの言葉は晴華さんも堪えたようで...。彼女からネガティブな返事は返ってこなかった。


晴華「「もし...、少しでも。ゆっきーが私と

    住みたいって思ってくれるなら...、」」


晴華「「暮らしたいって、」」


晴華「「...私がそう、思っても...、

    雪ちゃんは"住みたい"って思ってくれる

    かな。」」


美紗「「誰にだって、幸せになっていい権利は

    あるはずです。それで人を陥れる

    のは駄目ですけど、」」


美紗「「幸せになりたいと思う

    こと自体はそんなに悪い事じゃ

    ないと思います。」」


美紗「「見付かった時、晴華さんが傷だらけ

    でも。子供が親を虐待する事はない

    ですし、(力関係的に」」


美紗「「何か理由があって親を刺したとか。」」


晴華「「いや、血塗れなだけで包丁とかは

    なかったけど」」


美紗「「紛らわしいですね。」」


晴華「「やっぱり空白の時間があると何をしたか

    分かんないよね。お母さんの血が凄い

    付いてたみたいだけど...」」


晴華「「椿様もその事を最近思い出したみたい

    なの。血が付いてる子供がいて、それを

    忘れたってどういう事?」」


美紗「「ショッキングだから隠した、とか」」


晴華「「そんな感じじゃ無かったんだよね。

    本当に"思い出した"、って感じだったの」」


晴華「「なんか、この件を深堀するなって

    言われてるみたい...。神様か何か分から

    ないけど、」」


晴華「「でも、本当に怖いの。思い出そうと

    すると凄い...、怖い。真っ赤な何か

    が身体に付いて...」」


晴華「「鉄の匂いと、凄い焦げ臭い音。」」


美紗(焦げ臭い、音?)


美紗(身体に纏わり付く赤いのって

   血、だよね。ペンキとかじゃ

   なければ)


美紗(火事で。お母さんが上から振ってきた物

   から晴華さんを庇って行きなさい、って

   してる内に、崖から滑り落ちたとか?)


美紗(いや、まぁ分かんないけど...

   虐待の線ではなさそう。)


晴華「「そこから先の事は記憶が飛んでて、

    意識が朦朧としてたから...」」


美紗「「無理やり思い出さなくて良いと思い

    ますよ。ただ、ちょっとだけでも

    思い出した事を雪音に伝えて下さい」」


晴華「「そうだね。ありがと、美紗ちゃん」」


美紗「「晴華さんも思い出せたら良い

    ですね。」」


晴華「「あんまり良い記憶じゃなさそう

    だけどね」」


※スライド


美紗「「因みに晴華さん的には雪音に

    もっと、こうしてほしいなー

    って思ってるとことか」」


美紗「「ありますか?」」


 晴華さんと雪音の間には壁というより...、むしろ何か深い溝のようなのがあるんじゃないかなって


 二人を見ててそう思う。仲は良いはずなのに、お互いどこかしらで何か距離があるっていうか...


美紗(晴華さん、雪音に対してあんまり

   欲がないんだよね...。(欲があるって

   いえばあるんだけど)


美紗(人間らしさを感じないっていうか、

   そういうとこが ねぇ...)


 ...晴華さんからのちょっとした我が儘でもあれば、その溝が埋まる良いきっかけになりそうな気はするんだけど


晴華「「ゆっきーが大好きだった人の

    悲願が叶ったんだもん、他に

    望む事なんてないよ。」」


美紗「「そうですか...。」」


美紗(私もくゆになんかしてほしいことある?

   って言われたら困るんだけど)


美紗(一緒に買い物とか、私がセッティング

   した方が早い?)

 

晴華「「あ、でも」」


美紗(でも?)


晴華「「心配性は消さなきゃな、

    って思ってるよ。」」


美紗(自分の事っ、、、)


美紗「「ほんとに雪音に望む事ないん

    ですね。」」


晴華「「ゆっきーじゃなくてもそうだよ。

    誰かの為に何かをするのは

私が一番したい事で」」


晴華「「人から必要とされるのが

    好きなの。今度は、周りの人達が

    私の事を覚えてくれるように」」


晴華「「それで人を救えたら素敵

    じゃない?」」


美紗「「それで晴華さんが身体を壊したら

    本末転倒じゃないですか」」


晴華「「そうだね。」」※遅れて


晴華「「それが良くない結果を生む

    って分かってるから。こんな長い

    時間まで付き合ってくれたんだよね」」


 それでも、今まで頑張って話した甲斐はあったようで


晴華「「誘拐ももう起こらないって。

    頭では分かってるんだけど」」


晴華「「心配するのは駄目だって、わかって

    ても...どうしても、不安に

    なるの。」」


 まぁ...、思っちゃうのは仕方ないよね...。うん。それはそう簡単に治る物じゃないし そこはどうしようもない。


 でも問題なのは、その次にきた文章の方だった。


晴華「「だからいっそ。ゆっきー

    の事は美紗ちゃんに任せて」」


美紗「「はぁ...。」」


晴華「「ため息!?」」


晴華「「ゆっきーにはもう美紗ちゃん

    がいて、私よりも上手に愛して

    あげれるし」」


晴華「「...私はお仕事でゆっきーと

    会う時間も減るから、物理的

    に心配出来なくなるよね」」


美紗「「自己犠牲としては完璧な100点

    ですけど、モラル的にはっきり

    言ってクソ追試です。」」


晴華「「えっ...。もしかして、私の

    好感度...、低過ぎ...!?」」


 モデルさんにクソとかいうにはちょっとためらったけど、あまりにも酷かったので。追試つけといた


美紗「「それ一時期流行ってたやつですよね。

    最近あんまり見なくなりました

    けど」」


晴華「「メディアってすぐ衰退しちゃう

    からね。」」


晴華「「でも、そんなに酷いかな

    ー...」」


美紗「「酷いです。」」


晴華「「...ぐ、ぬぅっ。その自覚は、

    あんまりないんだけど...」」


美紗「「どうしてそこまで自分が幸せ

    になるのを嫌がるんです

    か?」」


 自尊心がないにも程がある。何度同じ話をすれば気が済むのか、


晴華「「.....。」」


晴華「「真面目に答えないと、駄目

かな ...?」」


美紗「「駄目です。」」


晴華「「多分...、聞いても変な話だと

    思うよ?」」


美紗「「それを判断するのは私です。知った

    気でいるよりよっぽど...」」


 晴華さんはまだ何か隠してる。もっともっと、根の深い...物を


 それを多分引っこ抜ぬくか何かでもしない限り、何を言っても彼女の心には響かない。...そんな気さえしてきた。


美紗(この人、聞かないとほんと答えないん

   だもん)


晴華「「美紗ちゃんは物好きだね。

    本当に...」」


晴華「「...私ね、」」


晴華「「家族になったら戻れない気が

    したの」」


美紗「「戻れない。ですか?」」


晴華「「...本当はそうじゃないのに、

    自分だけが幸せでいる

    のが怖かった。」」


晴華「「私は本来ここに

    いない存在だから...」」


美紗「「何でですか?」」


晴華「「最近夢を見るの、記憶が消えて

    なかった時の夢...。」」


晴話華「「今とは全く違う生活をしてて。」」


晴華「「お洒落とか、モデルなんて

    テレビの中だけの世界で...」」


晴華「「帰る場所もあって、家に帰っ

たら、お母さんとお父さん

    がいて...。」」


晴華「「その時は凄い幸せなんだけ

    ど...、」」


晴華「「キィィィ、って何かが擦れる音と

    同時に凄い音と匂いがして、

    身体が血で滲んでて」」


晴華「「気付くと皆居なくなってて。

    ...私を置いて、どこかに

    いっちゃうの。」」


晴華「「最後まで必死にお父さんとお母さんを

    捜すんだけど、いくら捜しても

    居なくて」」


晴華「「疲れて。後ろを振り返ると...」」


晴華「「そこに...もう

    1人の私が、立ってて。」」


晴華「「『返してよ。私から奪った物、全部、返してよ、、』」」


晴華「「...って。その子は

    凄く辛そうな顔で私にそう言うの」」


晴華「「すっごいリアルで、最近その

    夢が続いてて...」」


晴華「「私の記憶と何か関係あるのかな。」」


ギシッ...※SE


※キャプション(休憩)


美紗「雪音...、」


美紗(見てたの...?)


美紗「起きてたなら。言ってくれても

   良いのに、」


美紗(タイミング。)


雪音「だから今、申し上げたでは

   ありませんか。行動で」


美紗(心臓からちょっと変な汗が...、

   ゾクッてする悪戯好きなん

   だから...、もぉー...。)


 お化けとかは平気だけど急に後ろで物音したら普通にびっくりする


美紗「そうだけど...。雪音って、

   人驚かすの結構好きだよね...」


雪音「そんな私はお嫌いですか?」


 と、雪音は瞳を閉じて穏やかな顔をしながらそう言う。なんて綺麗な顔で言うんだ


美紗「そういうとこも含めて、全部

   好き。かなぁ...、私の反応見たく

   て意地悪する雪音も可愛いし、」


美紗「私が困ってたから。それ以上は

   踏み込もうとしないで 上品に

   誤魔化しちゃうとこなんかも」


美紗「格好いいな、って」


美紗「尊敬してるから。」


雪音「...私は」


 ゆっくりと開く雪音の瞳は、まるで遠くを見つめるかのように。どこか霞んでいるようにも見える。


雪音「椿様のお考えも、晴華さんの事も。

   何もかも分からないままで。」


雪音「貴女が思っているよりも

   ずっと」


雪音「無力で、非力な人間です。」


雪音「...尊敬も何も、あったものでは

   ありません。」


 と布団で少し顔を隠す雪音。目の前で寝ちゃった事に少し恥ずかしさがあるんだろう


美紗「雪音は全部一人で背負いすぎ

   だから。人の考えなんて聞かないと

   分からないもんだよ」


美紗(むしろ、最近悪夢見て辛いから寝れないって

   いうのをノーヒントで分かったら、

   逆に怖い...)


雪音「...事実を言ったまでですよ。

   私が不甲斐ないのには変わりません」


美紗(いや、雪音はほんと悪くない。)


美紗(これは言われないと絶対分からない)


美紗「ロボットじゃないんだから限界は

   あるよ。人は寝なきゃ身体は休まら

   ないし、頭も働かない。」

  

美紗「私だって料理は下手だし、上手く

   いかないことだって沢山あるけど」


美紗「出来ない事があるから。だから

   出来る人の事を本当の意味で凄いって

   思えるんじゃないかな」


美紗「その人が全部出来たら人間なんて一人で

   良いでしょ?」


美紗「...出来ないって認められる事も。

   それはそれで、一種の才能なんだと思う」


美紗「失敗することで得られる物だって

   あるんだから。肉じゃがとか。」


※肉じゃがはビーフシチューを作ろうとして

 生まれた料理。


雪音「...そうですね。」


雪音「貴女は」


雪音「いつも私を励ましてくれる。」


雪音「私の持っている物が消えても...、

   それでも貴女は私を好きでいてくれるの

   でしょうか」


美紗「勿論、その顔ならヒモになっても

   多分いけると思うんだよね。出

   来れば働いて欲しいけど...、」


雪音「そのようなだらしない生活、私が

   耐えられません。」


雪音「やっぱり勝ってる方が良いですね。

   年収も才能も」


美紗「あはは...、」


雪音「....。」※微笑んでる


雪音「...どうか、」


雪音「...助けてあげて下さい。晴華さん

   の事、彼女は私の大切な友人であり

   大事な家族です。」


雪音「...私は彼女の事をまだ失いたくあり

   ません。もう...、誰も失いたく、

   ないのです。」


美紗「気付いてたんだね、」


雪音「...これは只の独り言ですよ。

   私はメールの内容も分かりませんし

   内容も知りません」


雪音「ただ、人を見る目はあるんですよ。」


美紗「じゃぁ私も、独り言かな」


美紗「任せて、こういうのは

   得意だから。人間関係なら

   お手の物だよ、」


美紗(私は私の出来る事をする。

   そのためにも縁蛇さんに早く

   連絡しないとね。)


美紗(あの人私がそういう人と知り合いなのは

   知らないはず)


美紗「ごめん、ちょっと電話済ませ

   てくるから 雪音は此処で

   待ってて。」


美紗「それとも一緒に居た方がいい?」


雪音「そのような年齢は過ぎています。

   ...冗談でもからかい過ぎです   

   よ」


美紗「出てっちゃ駄目だからね。」


雪音「そこまでお世話にならないですよ」


 ちょっと冗談っぽく言って、ナチュラルに縁蛇さんに電話する作戦。大成功


美紗(まだ雪音に負担を掛ける訳には

   いかないもんね。教えるのは

   雪音が元気になってから)


美紗「電話、電話...」


京都、観光。チケット神社


 あのサイトに書いてあった縁蛇さんの電話番号に連絡する。


美紗「080の...、」


プルルルル※SE


美紗(本当にこれであってるのか

   ちょっと不安だけど。ちゃんと

   繋がるかな...、)


??「はい、」


美紗「縁蛇さんですか...?」


縁蛇「hell,my name is ennjya!! 」


美紗「えっ、なんで英語...?」


縁蛇「こういう業界ってイタ電も普通に

   多いですからねー、」


縁蛇「英語で喋ると大体そういう輩は切る事を

   最近発見したのですよっ、」


縁蛇「ノーベル賞物ですかね?縁蛇」


美紗「いや、分かんないけど...」


縁蛇「本当の用事なら切りませんし、

   それよりそろそろ来る頃かなー

   って思ってましたよ。みさぴー」


美紗「え?さっき神社調べたばっかりなのに...」


美紗(そしてまた名前が...、いや...まぁ、

 もう慣れたけど...。)


縁蛇「"赤瞳(あかめ)の兎さん"でしょう?」


美紗「どうして分かったの?」


縁蛇「なんかそんな感じがしたのです。

   というか、普通の人なら手・遅・れ

   ...で、す、が、」


縁蛇「縁蛇の能力じゃなくてっ、なんで

   したっけ...、あ、そうそう霊能力

   ですっ!!、霊能力を使えばっ、」


縁蛇「Doogleマップで依頼者の住所

   特定すらも、容易い事なのです

   よ!!凄いっ!!」


美紗「エゴサーはエゴサーで凄い

   けど、それは霊能力とはちょっと

   関係ないんじゃないかな...。」


美紗(それはそれで凄いけど...)


縁蛇「今から行きますので、電話代も

   掛かりますから切りますよー」


美紗「え?もう?」


縁蛇「もっとみさぽんさんが縁蛇とお話した

   い気持ちも分かりますよ?縁蛇

   は、でも彼女急がないとマジで」


縁蛇「あ、縁蛇ついうっかり言い忘れ

   るところでした。」


美紗(マジで何)


縁蛇「みさ風味(ふうみ)さんは、」


縁蛇「大事な人から何か貰ったと思う

   んですよ。それを使って行動すると、」


ブッ...。


美紗「えぇ...、」


美紗(もう一回かける...?

   電話代はこっち持ちだし)


ツー、ツー


美紗(あっ、電池切れだ、これ...)


美紗(それか電波の悪い所いる...?

   まぁ、縁蛇さんだもんね...。

   用事は伝えられたからいっか、)


美紗(...でも縁蛇さんが言ってた大事な物って。

   やっぱり...雪音の絵の事だよね?)


 それに縁蛇さんの話を聞いた瞬間、雪音から貰った絵の事だってすぐ思ったから...。他に貰い物ないし


美紗(雪音の絵を使って行動しろ

って...、)


美紗(雪音が描いたあの絵を。コンテスト

   に出せ、って...事...?)


※スライド


美紗(...縁蛇さん(ルビ:あのひと)の言う

   事って結構当たるんだよね...。)


美紗(.....)


美紗「「電話しましたよ」」


晴華「「え、誰に?」」


美紗「「頼れる助っ人です。」」


晴華「「頼れる助っ人...?」」


美紗「「住所特定したそうなので。

    今からそっちに向かうそう

    です」」


晴華「「凄い、急」」


晴華「「住所特定って?」」


美紗「「そういう人なので...」」


美紗「「私の気持ち分かります?」」


 裏で秘密裏(ひみつり)に行動したり、逆に本人にとって大事な事を黙ってたり


 人にそういうのをされても文句は言えない


晴華「「でも私、今凄い髪ボサボサ

    だよ...?」」


美紗「「ギリギリまで黙ってた罰

    ですかね。そういう事

    気にしない人なので、(多分」」


晴華「「モデルとしてそれは、

  ちょっとー...」」


美紗「「それより晴華さんに伝えたい

    事があって、」」


晴華「「伝えたい事?」」


美紗「「さっき見せた絵を、コンテスト

    に出したいんです。」」


晴華「「美紗ちゃん、それ本気で

    言ってる...?」」


晴華「「私達はゆっきーの事を沢山

    知ってて、ゆっきーがどれだけ

    頑張ってあの絵を描いたの

    かも。知ってるから。」」


晴華「「凄く感動するよ...?、でも会場にいる人

    全員が全員ゆっきーの事を」」


晴華「「知ってるとは限らない。多分、

    知らない人の方が殆んどだよ」」


晴華「「それに、出せたとしても...。」」


美紗「「それでも。」」


美紗「「私はあの絵が好きなんです。

    もっと色んな人にあの絵を見て

    欲しい。」」


美紗「「雪音はこんな絵も描けるんだよって。」」


美紗「「いざとなったら、私が描いた

    事にします。ですから」」


美紗「「この絵をコンテストに出す方法を

    教えて下さい。お願いしま

    す、」」


美紗「「この絵が愛じゃないって

    いうのなら」」


美紗「「私はどんな絵が愛なのか

    分かりません」」


晴華「「本気...、なんだね。」」※遅れて


晴華「「...分かった。」」


晴華「「ちょっと待ってて、」」


 ...少し経って、晴華さんの返事が返ってくる。


晴華「「あのね。今ゆっきーに絵を

    教えてる先生がいるんだけ

    ど、」」


晴華「「その人はそのコンテストで

    金賞を何度も取ってる人

    なの。」」


晴華「「その人が明日も居るから、

    ゆっきーを回収するついでに

    詳しく教えてあげるよって」」


晴華「「言って下さってて、かなり

    厳しい事言われちゃうと思う

    けど...、大丈夫?」」


 私のために掛け合ってくれたんだ、晴華さん...。


 今となってみれば晴華さんには結構、きつい事言っちゃったけど...。


美紗(なんだかんだいって、ほんっとに

   頼りになる先輩だよね...。晴華さん...)


美紗(自己犠牲は厭わない人だけど...、

   それさえ無くなったらもっと良い

   関係になれるのかな...)


 少しでも雪音が日本に居られる可能性があるなら、少しでも、雪音の描いた思いが救われるなら。私はその可能性に賭けたい。


 私が出す答えは初めから決まってる


美紗「「今までコンテストで入選した

    事もない学生が、大人が本気

    で描くようなコンテストに

   勝とうなんて」」


美紗「「難しいのは百も承知です。

    それでも私は、雪音の描いた

    あの絵の事を誇って欲しい」」


美紗「「私は彼女の事が好きだから。

   それだけ私がこの絵を気に

   入ったって伝えたいんです」」


美紗「「よろしくお願いします。」」


晴華「「青春、だね。先生の方には

    私から伝えておくよ」」


晴華「「美紗ちゃんも大分変わったね。」」


晴華「「それと...、あともう一つ...、あって

    ー...」」


美紗「「どうしたんですか?」」


晴華「「お客さんが来るなら、今日

   くらいゆっきーをその子のお家に

   預けておいても良いんじゃないかっ

   て...」」


晴華「「先生が...言ってて...」」


美紗「「あー...。でも、私もどっちか

    というと居候の身なので...。

    若干、頼みづらさはあります

    けど...」」


晴華「「無理までしてする必要はないからね?、

    難しかったらすぐに運転手さん

    に連絡するから、、!!」」


美紗(晴華さん的にはすぐにでも家に

   帰って来て欲しいのが、凄く

よく分かる一文だぁ...)


美紗「「お願いするだけしてみます」」


美紗(確かに今の晴華さんに雪音は会わせられ

   ないよね...。お互い気を張ってゆっくり

   休めないだろうし)


美紗「「雪音に聞いてきますね。」」


コンコン、


美紗「雪音、ごめん。ちょっと

いい?」


美紗(再度寝た直後に起こすのは

   申し訳ないんだけど、)


美紗(本当にちょっとだけだから...。)


雪音「...屋敷に帰るのですね。

   迎えが来ましたか、」


美紗「...いや、その事なんだけど...。」


美紗「その、良かったら...」


美紗「お家(うち)...。泊まってく...?」


※キャプション


美紗(お母さん、可愛い子好きだから

多分。大丈夫...)


雪音「...晴華さんが」


雪音「私、一人で泊めるのを認める

   なんて...驚きですね。」


雪音「何か言っていませんでしたか?」


美紗「いつもくっ付き過ぎなぐらい

   だからたまには、って。絵の先生

   に言われたんだって」


雪音「....、」


雪音「そうですか...」


雪音「...すみません。杏里さんには

   色々とご迷惑をお掛けして

   いますね。」


美紗「雪音が頑張り過ぎなだけだって。」


美紗「私もそういう時期あったから。

   でも、実際自分が

   こっち側に立ってみると」


美紗「迷惑とかそういうのより。

   大事な人の役に立てて嬉しい、って

   思うかな」


美紗「喜んでちゃいけないけど。」


美紗「お茶、持ってくるからその間に

   泊まるかどうか考えておいて」


 そういって私がドアノブに手を掛けると、雪音は何か話し始める。


雪音「無理に、」


雪音「...気を使う必要などありませんよ。

   本当に迷惑でしたらそのように仰って

   下さい。」


雪音「...彼女も。きっと面白半分で

  貴女にそう言ったのでしょう、」


美紗「雪音は私とお泊まりするの、嫌?」


雪音「...嫌、というわけではなく、...中々割り

   切れないのです...。このような

   事自体、初めてで...、」


雪音「人前で倒れて、あまつでさえ 眠って

   しまうなんて...。」


美紗(まぁ...。高校生だったら普通じゃない...?)


美紗「まぁ...疲れてるって事じゃない?」


美紗「私なんて、精神が不安定な時に

   くゆの手を叩いちゃった事あるし」


美紗「雪音のがまだ可愛いよ」


雪音「貴女の経験に比べれば、私の経験は

   薄いと思いますが...」


雪音「私は今まで...、人に頼らずに生きて

   来ました。ですから、こうなった

   際に誰も助けてくれる人なんて...」


雪音「居ないと思ってたんです...」


雪音「....。」


美紗「雪音が思ってるより。人は

   雪音の事が好きだよ。」


美紗「確かにそういう人もいるけど...、私は

   良い人もいるって知ってるから。」


美紗(私くらい図太くなると、

   過去の事だって思えてくる

   けど...)


美紗(雪音は多感なお年頃だからね。)


美紗「...あ、」


美紗「じゃぁさ、私と二人の時は普通

   の女の子として行動しても

   良いって事にしよう」


美紗「シーウェとかでも雪音が思った

   事とか、全然話して良いし。

   一人の女子高生としての勉強」


美紗「っていう綱目の元で。」


雪音「....、」


美紗「駄目...、かな?」


雪音「駄目とは言っていません」


雪音「...気を使わない関係の場合、関係

   性が壊れてしまうデメリットと

   平行して考えていたのです。」


雪音「こちらも、折角出来た友人を

   手放したくないですから」


美紗「大事に思ってくれるのは嬉しい

   けど、嫌われる恐怖に怯えなきゃ

   いけないっていうは」


美紗「友達として致命的だと思わない?」


雪音「そうですね。」


雪音「....、」


美紗「そこで良い提案を思い付いたん

   だけど。」


美紗「私が嫌いにならないように、仲直

   くなりたかったら。紐で拘束した

   写真をネットに拡散するっていう

   のは」


美紗「それなら安全だよね、」


雪音「...それこそ友人という関係だと

   言えるのでしょうか...。」


美紗「そんな私が。顔も声も良い雪音を

   嫌いになる訳がないと言っても

   通じないと?」


美紗「これなら驚きの説得力でしょ?」


雪音「私が何かの腹いせに投稿したらどうする

   のですか...。自分の首を締める

   事になりますよ。」


美紗「雪音はそんな事する人じゃないって

   分かってるから。その時はそれで」


雪音「...私はその回答に驚きを隠せ

   ません。」


美紗「...雪音みたいに出来る人からそう

   言われるとちょっと興奮

   するよね。」


雪音「......、」


雪音「...貴女は思った事を口にし過ぎです。

   お陰で考えていた事が、色々台無しに

   なりました。」


美紗「でも、ちょっとは安心した?」


雪音「違う意味で逆に不安になりま

   したが。」


雪音「...どうなってしまっても、

   私は知りませんよ。」


美紗「え?拡散する?それは

   それでいいけど」


美紗(首輪も付けた方が雪音的には安心

   だよね...、みゆの首輪、大きさ的

   に大丈夫...?)


雪音「良くないです。」


雪音「そっちの方向に無理やり話を持ってい

   こうとしないで下さい。私も

   そこまで鬼ではないですよ...」


美紗(別に本当にしても良いんだ

   けど。この流れになってる

   からまぁ...いっか...、)


雪音「杏里さんの言葉を

   疑う訳ではないんですが...」


美紗「ん?」


雪音「今の彼女を一人にしても良い

   のか、私としては気になっています...。」


雪音「一応此方の方でも晴華さん

   には確認をとってみますが、」


美紗「うん、そっちのが良いよ。」


雪音「随分あっさり認めて下さるのですね。」


美紗「晴華さんとは違うよ。」


美紗「だって、そういうのって

   気にするだけ疲れて損するだけ

   でしょ?」


美紗「晴華さんの事が心配なんでしょ。

   断る理由なんてないよ」


雪音「そう...、ですか。」


 今はまだ少し落ち着かないと思うけど、それがきっと当たり前になる日がこれから来るようになるから


 今の雪音を見てると、その日もそう遠ないんだろうな、って。なんとなくだけど 分かるんだ。


美紗(晴華さんの事も縁蛇さん

   なら何とかしてくれる...、)


美紗(雪音。)


美紗「じゃあ、持ってくるね。」


 そういって、ドアを締める前にちょっとだけ見えた雪音の顔がどことなく嬉しそうな顔をしてたのはきっと気のせいじゃない。

 

 なんか、こっちまでちょっとほっこりした。


※スライド


美紗「えっと...、お母さん、...ちょっと

お願いしたい事があるん

   だけど...。」


美紗「....。」


美紗「友達、家に泊めて良い...?」


お母さん「可愛いから許す。」


くゆ「やっぱ...、そうくるよね、」


お母さん「だから言ったでしょ?」


くゆ「言われてみないと分かんない

   から。泊まるかどうかはその人

   次第だし」


美紗「断った方が良い?」


くゆ「姉さんが泊めたいんでしょ?

   だったら別に。それでいいよ」


くゆ「一々私に聞く必要もない

   でしょ」


お母さん「くゆちゃんはお友達にお姉

     ちゃんをとられるのが嫌なのよね。」


くゆ「そういうのを姉さんの前では

   言うなって言ってるでしょ」


お母さん「まぁまぁ、それでどうなの?

     くゆちゃんの方は」


くゆ「母さんがそうさせたんだよ。」


美紗「くゆが嫌なら、私が向こうの家で

   泊まっていけばいいだけの話

   だから。」


くゆ「それは駄目。」


くゆ「向こうが泊まりたいって言ってる

   のに、私だけ嫌って言ったら。それ

   こそただの嫌な奴じゃん。」


くゆ「お土産だって貰ってるし」


美紗「私にとってくゆもそれだけ大事

   って事だよ。1日だけでも嫌な思い

   はさせたくないなって」


くゆ「...というか、」


くゆ「姉さんこそいいの?相手は

   お嬢様でしょ?別に泊まるのが

   嫌って、訳じゃないけど...」


くゆ「マナーとか知らないし...。お

   嬢様と何か食べた事とか今まで

   ないよ?」


美紗「私も雪音とちょっと食べたこと

   あるけど、そのときは何も

   言われなかったし。大丈夫だよ」


美紗「一応。雪音にも伝えておくけど...」


美紗「私もマナーはよく分かんない

   から、大丈夫。」


お母さん「いや、くゆもお嬢様と食事

     ならしてるからそこは問題

     ないわよ~」


くゆ「は?」


くゆ「誰と」


お母さん「あれ?知らなかったの?私は

もうお父さんから聞いてる

とばかり...」


お母さん「お嬢様なら此処にいるじゃ

     ない。貴女のと・な・り

     に♥️」


お母さん「『元』だけど、ね。」


※キャプション


麦茶を注いで。部屋に戻ってくると丁度メールを打ち終えたのか、雪音がスマホを裏返して膝に置くのが見えた。


雪音「...晴華さんの大よその状態は確認

   出来ました。先程、屋敷にお客様が

   いらしたようです。」


美紗「えっ、もう?」


雪音「...何か、ご存知の様ですね。」


美紗「...え、あっ。」


雪音「目を剃らしても無駄ですよ。」


美紗(雪音も晴華さんが心配なんだ。)


美紗(縁蛇さんが来てるって

   言うのは流石に駄目だけど、)


美紗(大丈夫って事だけでもなんとか

   伝えられないかなぁ...)


それとも、いっそ全部雪音に...


雪音「大丈夫なんでしょう?」


美紗「えっ...、」


雪音「言えない事を無理に詮索する必要は

   ありません。」


雪音「そのような時は言える事だけを

   言えば良いのです。それは、

   恐喝となんら代わりありません

   から」


美紗「...うん、」


美紗「晴華さんの事は心配だと思うけど、

   今日は雪音が居なくても大丈夫だと

   思う。」


美紗「理由は言えないけど...。」


雪音「今はそれだけ知れれば充分です。」


雪音「ありがとうございます、杏里

   さん。」


美紗「雪音は...本当に良い人だよね。」


美紗「そうやって言葉にしてくれると

   助かるよ」


雪音「貴女程ではないですよ。」


雪音「....。」


雪音「立ち話もなんですし」


雪音「喉が乾いていますので、お茶を

   頂いても良ろしいでしょうか?」


 私がずっと立ってる事を気にして。雪音はそう言ってくれる。本当に然り気無く。相手に気付かれない言い方


美紗「あ、うん。これ」


 お母さんお手製の麦茶を二人で飲みながら。このままずっと雪音と一緒にいられたら、と思う...。


雪音「良いですね。」


美紗「ね、」


美紗「そうそう。さっき言いそびれ

   ちゃったけど、お母さん達も

   泊まって良いって」


雪音「そうですか...。」


雪音「...お言葉に甘えて、今日は杏里さん

   のお宅にお邪魔させて頂く事に

   しましょう。」


美紗「あっ、じゃ...じゃぁ。今日は1日

   お願い致します。」


雪音「が、それに伴い一つだけ条件が

   あるのですが、良ろしいですか?」


美紗「え?なに?」


雪音「条件といっても。簡単な事

   ですよ」


※スライド


雪音「私に対して成るべく普通に接して

   下さい。特別扱いをするのでなく、

   成るべく普通に。」


雪音「ご家族の皆様にもそう伝えて

   下さい。折角の機会ですから...」


美紗「雪音、最近明るくなったよね。」


雪音「貴女がそっちの方が好きだと言ったの

   でしょう。嫌でしたら、そのままで良い

   ですが...」


美紗「戻さなくて良いから。私もそっちの方が

   好きだよ」


雪音「そうですか。」


美紗「皆にもそうやって伝えておくね。」


 と、飲み終えたコップを持ってこうとすると「私も行きます。」と雪音が腕を軽く掴む。


美紗「....。」


 それが私はほんのちょっとだけだけど、...嬉しかった。


美紗「えっと、じゃぁ...。お母さんの

   部屋にずっと居させてもらうのも

   悪いから」

  

美紗「雪音の荷物、全部持ってきて貰って

   いい?私の部屋に置こうかなって」


美紗「コップ置いたらすぐ戻ってくるから。」


※スライド


荷物を持った雪音と一緒にお母さんの部屋を出ると。すぐにリビングについた。


美紗「お母さん。部屋貸してくれてあり

   がとね。友達、起きたから」


美紗「挨拶したいって。」


雪音「本...。いえ、今日はお世話に

   なります。急なお願いになって

   しまって申し訳ござ...すみません。」


美紗(急に習慣変えるのって難しいよね。)


雪音「家族の方にはご迷惑を御掛け

   致しますが、宜しくお願い致

   します。」


お母さん「いえいえ、此方こそ。

     礼儀正しいお姉さんですね。」


 後で洗おうと思ってたコップを洗いながら。お母さんはにこにこと笑ってる。


雪音「ありがとうございます。お母様

   も見た目だけではなく、心の方も

   お綺麗で。」


お母さん「あら、上手いわ~」


美紗「普通に接して欲しいんだって。」


お母さん「あー...、そうだったのね。

     お母さん今、完全に理解

     した。」


雪音「これは普通ではないのですか?」


美紗「礼儀正しいのは悪い事じゃない

   けどね、育ちが良いのは

   凄い伝わってくる。」


雪音「難しいですね。普通という物

   は...」


美紗(でも普通、皆が悩んでるのは

   逆の事なんだけどね...。)


※キャプション


部屋に戻って、荷物をまとめて机の横に置く。1日くらいなら此処に置いといても邪魔にならないよね


美紗「これで全部?」


雪音「えぇ、本来泊まる予定はなかったので。

   備品などは持ち合わせていないですね...」


美紗「そりゃねぇ...。」


美紗(タオルとか布団はまぁ...どう

   にかなると思うけど)


美紗(.....。)


美紗(...流石に、歯ブラシとかは新品

   じゃないと駄目だよね。お風呂に

   入るなら洗う物も必要だし...)


雪音「必要なものだけ持ってこさせま

   しょうか」


美紗「んー...、」


美紗「折角だから。買いに行く?」


雪音「ですが...。外ももう暗いですよ...」


美紗「でもほら、まだ18時前だし」


美紗「それに学校から帰って。お店に

   行くと大体そんな時間だよ」


雪音「買い食い...ですか?」


美紗「それに雪音が欲しい物が見つ

   かるかもしれないし、」


雪音「そうですね...。」


 ...雪音が迷うのも分かる。


美紗(一人で買いに行けばいい話

   なんだけど。)


 でも、折角だから雪音といきたい。もし夏だったらまだいけてたかもしれない


美紗(コンテストが終わったら。いつまで

   雪音と一緒に居れるか分かんないし、)


美紗「雪音は私の事、優しいって

   言ってくれるけど」


美紗「全然そんな事ない...。こうやって

   自分の気持ちを押さえ付けて」


美紗「雪音を困らせてる...、」


雪音「逆に、それは杏里さんが人が

   好きだという証拠ではないでしょうか。」


美紗「買い被りすぎだよ...。」


雪音「ですが、そういう方の方が世間で

   信頼されやすいのは事実です。」


雪音「人を愛する事が出来るのも 

   一種の才能だと、私は貴女から

   学びましたから。」


美紗「私と一緒に行くより、あるか

   分からない誘拐が怖いって...。

   思ってても...?」


雪音「誘拐が怖いんですかね。私は」


 雪音はそんな事を聞かれると思ってなかったように複雑な顔をして。


雪音「少しお聞きしたいのですが...」


雪音「...私がただ誘拐されただけで

   終わるような。道徳心のある

   人間に見えますか?」


と答えた。


美紗「あ、うん...」


美紗「うん....。」


雪音「見えますか?」


美紗「....私が間違ってたって。説得力

   を今の言葉だけですごい感じ

   ました...。」


美紗「本当にそうだよね...」


雪音「私が怖いのは、人から"裏切られる"事です。

   初めから疑って掛かれば何も怖くありませ

   ん」


雪音「期待して。裏切られるのが怖いんです。」


美紗「じゃぁ...、」


美紗「...雪音は私と一緒に、居たい...?」


雪音「行きたい?ではなく?」


雪音「貴女と一緒に居て楽しいのは事実です

   よ。」


 ...私と一緒に居て楽しい。


美紗(雪音はそう思ってくれてるんだ。)


 それだけで私の心は晴れ始めた雲のように、ゆっくりと気持ちが穏やかになっていくのが分かる...。


美紗(そっ、かぁ...、)


雪音「約束を破ってしまう事に

   少し抵抗があったんです。」


雪音『危ない事はしない。』


雪音「これも晴華さんとの一つの思い出で、」


雪音「彼女も私の為を思って言った

   言葉ですから。...もう随分と昔の話

   ですけどね。」


 どうやら雪音は誘拐の事じゃなくて、暗くなったら外に出るべきじゃないっていう事を気にしてたみたい。


美紗(本当にただの勘違いだったんだ。

   というか、思ったより理由が

   なんか。悲しい...。)


美紗「晴華さんのこと、本当に大好き

   なんだね。」


雪音「えぇ。彼女は私の大切な家族

   ですから」


美紗(どっちがお姉ちゃんだか...)


美紗「もっと仲良くなれると良いね。

   晴華さんと」


雪音「....。」


雪音「そうですね。」


美紗(本当は周りが凄く気にしてる

   だけで...、)


美紗(私が思ってるよりも。雪音は

   誘拐の事気にしてないのかな...)


美紗「今は暗い時に出掛けるのは怖い?

   また誘拐されたりとか。心配じゃない?」


雪音「...誘拐するなら一人の時の方が

   比較的、楽ですから。」


雪音「わざわざ難易度が高い状態で

   誘拐する必要はないと思い

   すよ。」


雪音「以前、杏里さんが言った通り。

   仮に私が誘拐されたとしても」


雪音「...よっぽどの手練れでなければ、

   返り討ちに出来ると思います」


雪音「ですが、安全に越した事は

   ありません。」


美紗「心配掛けたくないもんね。」


美紗(私も夜中に帰った事があるけど、変な

   人がいたら 白目向いてとり付かれた

   幽霊のフリしたら)


美紗(悲鳴あげて逃げていったから。効くと

   思うけど...。流石にこの提案は

   どうかと思うし...、)


ガタン...、


美紗「....」


美紗「ねぇ、それって」


美紗「逆にいえば。手練れと会ったとき

   に勝てる人が側にいれば」


美紗「晴華さんも認めてくれる

   って事だよね?」


※キャプション


くゆ「良いように使われてる気が

   するんだけど...。」


雪音「良かったのですか?」


くゆ「良いですよ。別に。...姉の頼みは

   断れませんから」


 くゆはそういう理由なら、と視界がいい方が良いでしょって。少し後ろの方で距離をとりつつも愚痴をこぼしていた。


美紗「店についたらくゆの好きなもの

   買ってあげるから。ね?」


くゆ「私が物で釣られると思ってる?

   まぁ。良いけどさ...」


くゆ「...ジュース。なにか飲みたい、

   暖かいやつ、ココアとかそういう

   の」


 はぁっ、とくゆの白い吐息が少し暗くなった空にのぼっていく。


美紗「寒いなら何か買おっか?」


くゆ「店のが安いから。わざわざ自販機

   で買わなくて良いよ」


雪音「御二人は本当に仲が良ろしいの

ですね。」


くゆ「...この人知ってる?」


美紗「うん。」


くゆ「珍しい、姉さんが私達の事話すなんて」


美紗「雪音にも血の繋がってない

   お姉さんがいてね。私達みたいに

   なれると良いねって」


美紗「さっきまで話してたんだ。」


くゆ「ふーん...。」


くゆ「...まぁ、私からしたら年上

   だけど」


 くゆは少し雪音に興味を持ったのか、さっきまでのどこか緊張したような雰囲気がちょっとだけ和いだ気がする。


美紗「くゆは空手の県大会で優勝した

   事もあるし、大人にも勝っちゃう

   くらい強いんだよ。ねっ、」


くゆ「向こうが子供だからって舐めて

   掛かってたから、隙がないプロ

   には流石に勝てないよ。」


くゆ「そもそも体格からして全然

    違うし...。」


雪音「それでも。凄いと思いますよ。」


くゆ「...そうですかね。」


雪音「そうですよ。」


 まだちょっとぎこちないけど、好きな人と妹が仲良くなっていくのを見るのはこっちとしても嬉しい。なんかほっこりする


美紗(いつかくゆにも雪音を紹介出来たら

   良いな。くらいには思って

   たけど、)


美紗(思ったよりも二人とも早く

   仲良くなれそう)


 そんな事を思いながら歩いてると雪音の足が急に止まった。


雪音「あ...、」


美紗「ん?どうかした?」


猫「にゃぁんっ!!」


 と塀の上から猫ちゃんの鳴き声が聞こえたかと思うと、鳴き声の主は勢いよくこっちに向かって走ってきた。


美紗「猫ちゃんっ////!!、、」


 と雪音を通り過ぎて勢いよく、くゆのお腹にダイブする猫。まだ子供なのか大人の子よりもちょっと小柄。


美紗「かわいい...」


くゆ「まぁ...、こっちだよね...。」


 ゴロゴロとくゆの肘の上で甘えるように顔を擦り付けてる。可愛いなぁ...


美紗「昔からくゆは動物に好かれやすい

   よね。」


美紗「動物園に行ったとき、触れ合い

   コーナーで皆くゆの方にいってた

   もん」


くゆ「でも今は護衛中だから。持って

   たら邪魔になるだけだよ」


美紗「そんな物みたいな」


 と折角来てくれた猫ちゃんを撫でることなく、抱き抱えて地面におろそうとするくゆ。とそれを止める雪音


雪音「お待ちください、」


くゆ「はい...?」


雪音「私は大丈夫ですから。ちゃんと

   持っていて...あげて下さい、」


 なにがなんだかよく分からないといった表情のくゆに私は小言で言う。


美紗「...雪音は、猫が大の苦手なの。」


くゆ「アレルギーとかかな。」


 奥にいる雪音の視線がこっちに付き刺さってる気がする...。そのままにしておけ、と...


くゆ「...でも両手塞がってるのは流石に

   に不味くない?」


美紗「それだよね、うー...もうちょっと

   一緒に居たかったけど...。ごめん

   ね」


くゆ「じゃぁ、姉さんが持っててよ。」


美紗「え、いいのっ!?」


 って、くゆが抱っこしたまま私の方に乗せると猫ちゃんはシャーと歯を剥き出しにして。必死に身体を捻らせてながら凄い勢いで飛んで逃げていった。


くゆ・美紗「あ...」


くゆ「まぁ...。問題は解決出来た

   けど...」


美紗「今の凄い可愛かったなぁ~...♥️」


美紗「必死な顔で頑張って身体捻って

   ってて、あの顔すっごい良かった

   よね///!!ワンちゃんも良いけど、」


美紗「やっぱりあぁいう顔がたまらないって

   いうか、ツンデレなとこがまた良いんだよ

   ねぇ~♥️」


美紗「あぁ...可愛いなぁ...♥️」


 この後家に帰ったら雪音に無言でコロコロをひたすら掛けられる事になるんだけど...、それはまた別のお話...。


※キャプション





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