⑫初めての家出?編【みさゆき】


美紗「おまたせっ」


美紗「ごめん、こんな早く来るって思って

   なかったから髪とかちゃんと結べてない

   や...」


雪音「此方こそ急に訪ねてきましたので...、

   急がせてしまいましたね。」


美紗「でも。凄いはやかったね?」


雪音「朝早くから運転手の方にお願いする

   より、自分自身の足で歩いた方が

   色々面倒が掛からなくてよいかと。」

   

雪音「杏里さんのお宅に近付いてから電話

   をかけましたので...。そのために到着が

   早かったという訳です」


美紗「あまりに早すぎるから。雪音が瞬間移動

   したのかなって、思っちゃった」


雪音「...仮に、人が光の速さで移動したと

   しても。ソニックブームを起こして周り

   が凄い大惨事になると思います。」


雪音「...それはさておき、」


雪音「...思い付きで行動してしまったのは

   少し反省しています。...今思えば誘拐

犯などの、格好の的でしたでしょうし...」


雪音「杏里さんも このような朝方は、ご迷惑

   だったでしょうか...。」


美紗「ううん、それはそれで」


美紗「雪音に時間を管理されて、悪い気は

   しないかな。好きな人の我が儘なら

   それはもうご褒美」


雪音「...言動の理解に、甚(いた)く

   苦しみます。」


美紗「もっと詳しく知りたい?」


雪音「いえ、もう結構です。多分お聞きして

   も理解出来ないかと思いますので...」


美紗「それがいいよ、変に気を使われるの

   も嫌(や)だしね。とにかく雪音は

   今のままで良いよって事が言いたかった

   のかな」


美紗「それに。この時間ならジョギングしてる

   人とかも結構いるし。夜と違って見晴

   らしもいいから」


美紗「起こらなかった事は後悔しない、

   自分の意思で選んだ道こそ一番

   (さいこう)の道だから。それが、」


美紗「人生楽しく生きるコツだよ。雪音」


美紗「対策はしないといけないけどね、」


雪音「....。」


美紗「雪音?」


雪音「いえ、...髪を下ろされると」


雪音「雰囲気が大分お変わりになられると

   思いまして...。」


美紗「え?今??」


美紗「...いや、...でも。性格とあんまり合ってない

   なぁって、自分でも鏡見てると凄い

   違和感じる時あるもん」


雪音「ですが。よく似合っていますよ。」


美紗「...ありがとう。」


 人に髪を褒められるのは、悪い気はしない...。それが雪音くらい綺麗な人に言われれば尚更


美紗「雪音って、本当に美人だから。雪音に

   そう言われるとちょっと嬉しいかも」


美紗(まだ髪を切る訳にはいかない

   し、雪音が長い髪好きで良かった)


雪音「お祖母様が仰られていた愛の女神が

   本当に実在するのなら」


雪音「きっと今の杏里さん

   のような方でしょうね。」


美紗(愛の、女神...。)


美紗「褒め過ぎだよ、女神ならもっと綺麗な

   色じゃないと...金とか。ピンクとか、

   栗毛とかそういう地味なのじゃなくて」


美紗「空の色で水色とか。白と青が海水みたい

   に広がる海みたいな色も良いよね...」


美紗(雪音の別荘に行ったときの絵画の

   女神様は本当に綺麗だったなぁ...本当に

   女神様がいるとしたらあんな感じ、)


雪音「栗毛でも素敵な方はいますけどね。」


雪音「...いつも私の側にいて、」


雪音「私の見ている世界より。もっと

   先の世界を知っていて」


雪音「絶対に出来ないと思ってた事でさえ」


雪音「...貴女は難なく成し遂げてしまい

   ました。今の私にとって、貴女が

   女神様みたいなものですよ」


雪音「杏里さん」


美紗(少女マンガに出てくる王子様みたいな

   事言うね、その顔で言われたら漫画の

   王子様だって落ちるよ)


美紗(しかも名前込み、何のサービスですか)


雪音「仲の良い友人とこのように

   心を通わせることも」


雪音「晴華さんと、本当の家族のように

   お話する事も。」


雪音「...貴女がずっと私に話し掛けて下さった

   から。だからこそ。今の私があります」


雪音「結果は、散々な目に終わってしまい

   ましたが...。それでも。晴華さんと

   話し合う事が出来て 本当に良かった

   です。」


雪音「お祖母様が

   言っていた女神様は」


雪音「私にとっての杏里さんかも

   しれませんね。」


美紗「雪音...」


雪音「今までやりたい事さえなかった私が

   初めて興味を持った人物、それが貴女

   なのですから」


雪音「...貴女は、私の為にも笑って下さい。」

   

雪音「この私が言うのです。ルックス

   は悪くないのですから...。もっと自信を

   持たれても良ろしいかと」


 少し広角をあげてはにかむ美人(ルビ:ゆきね)に指で髪を分けられる私。 


 遊んでない...?そういうの好き?


美紗(思ったより、距離近い...、(流石晴華さんの

   妹...、)


美紗「うーん。雪音に対してはいくらでも

   持てるけど...、」


美紗(普段言わない事すっごい言うけど、

   ...初めて、喧嘩したのかな。

   晴華さんあんまり怒らなそうだし...)


美紗(私に依存しないといけないくらい)


美紗「でも、ちゃんと言えて良かったね。

   此処最近ずっと元気なさそう

   だったから。心配してたんだよ。」


雪音「これを貴女に。」


美紗「えっ...?、」


雪音「...今日はこの絵を渡すために

   来たんです。」


※スライド


雪音は少し大きめの肩掛けのバックからフォルダーを取り出して、それを私に差し出す。


雪音「コンテストの用紙が余っていました

   から、捨てるくらいでしたら。記念に

   一枚何か描いても良いかと思ったのです。」


美紗「私が、見て良いの?」


雪音「見て良いもなにも、それは貴女にお渡し

   する為に描いたものですから。私は

   今まで沢山の物を貴女から頂きました」


雪音「そのお礼とでも思って下さい。」


雪音「日本で描く最後の絵という事で、クオ

   リティの部分については許して頂きたい

   のですが...」


雪音「一日で描いた物なので...。随分酷い出来

   ですが、どうしても貴女に受け

   取って欲しいと...思い、まして...。」


美紗「...うん、」


 私は雪音の描いた絵の入ってるフォルダーを彼女の手から受け取る。


美紗「開けるね。」


雪音「...はい」


美紗(雪音の絵...、)※紙袋を開ける音


美紗「わぁ...、」


 フォルダーの紐をほどくと、


 白い景色に笑顔で雪音に雪うさぎを見せる私と...、その横で微笑みながら自分の持ってる雪うさぎを見ている雪音がいて...。


 凄い、良い絵だった。今まで貰った絵の中で一番素敵な絵だった

 

 雪音との楽しかった思い出が絵を見た瞬間

視界から次々入ってきて、


 あの時諦めなくて良かったとか...、麗夜さんから雪音を守った時の雪音の怒った時の優しい顔が、


 心の底の明かりが 光を思い出すかのように灯ってく...。


 悩んで、一緒に考えて...。怒って泣いて、笑って...、


美紗「......、」


美紗「.............。」


雪音「杏里さんが、昨日私の作った雪兎が

   見たいと仰っていましたから。それで、

   そちらの絵を...」


雪音「所詮。1日で描いた絵ですから、...

   やはりお気に召さなかったでしょうか」


美紗「....。」


 言葉が出なくて、私は雪音の問いを必死に否定するように 無言で首を横に振る。


美紗「...ううん、」


美紗「...嬉しくないわけ、ない、よ...」


美紗「雪音が私の為に描いてくれた絵なんだ

   もん。こんな素敵な絵...、初めて

   貰ったよ...、」


美紗「....、」


美紗「........ね、」


美紗「...絵って、...やっぱり凄い、んだな、

   って」


美紗「...私、この絵。一生、大事にするから。」


美紗「だから...、」


美紗「本当に、...ありがとう、雪音」


 その瞬間ふらっと、雪音は体制を崩して倒れ込む。


美紗「雪音?!?!、、」


雪音「....。」


 雪音の身体をとっさに支えて、雪音の顔を見ると凄い眠そうに両手をつきながら目を瞑っていた...。


雪音「....だ、...大丈夫です。」


雪音「すみません...。」


美紗「...雪音、昨日」


美紗「...寝た?」


雪音「......」


雪音「.........。」


美紗(最近、無理してる感じはしたけど、)


 疲れて眠いのか、それとも答えたくない質問なのか雪音に返事はない


 目は閉じてるけど 寝息は聞こえないから辛うじて起きてるみたいだけど...


美紗「此処で寝たら風邪引いちゃうから、

   取り敢えず私のベッドまでは...歩けそう?」


雪音「...それだと、杏里さんにご迷惑が、...」


→A.雪音の事が心配だと伝える

→B.雪音が寝たいと思うような事を

  言ってみる



→A.雪音の事が心配だと伝える


美紗「雪音に何かあったら、絶対後悔

   するから。お願いだから今だけは...

   私の言うこと聞いて...」


美紗「お願いだから...、」


雪音「...。」


 その言葉を聞くと、雪音は力尽きたように目を瞑る。


美紗「えっ、」


美紗「雪音、雪音?」


 ...雪音の返事はない。


美紗「雪、音...?」


 かなり限界だったのかまるで眠り姫のように静かに寝ってる。


 死んでるみたいに綺麗に寝るからちょっと不安になるけど...、


美紗(えっと...取り敢えず晴華さんに

連絡して、それより先に雪音を

家に運ばないと、)


美紗「ふんっ...、ぬ”っ....!!」


美紗「う”ーー、ぐッ...」


美紗「...はぁ、はっ...休憩しながらなら

   行けるけど、すごい、...膝曲がって

   る」


美紗「もっていけたとしても多分...

   痛いだろうし、(体勢とか」


 お姫様抱っこってこんな重いの?、、上がるのは雪音の背中と足だけで、圧倒的に持ち上げる力が足りない...、


 肝心の胴体が結構重くて持てたとしてもすぐ、力尽きるし...。(普通の人より、凄い軽いんだけど、)


美紗(...どうやって家まで運ぼう、このまま

   じゃ雪音、本当に風邪引いちゃうし...)


 いくら雪音の体重が軽くても、意識を失ってる雪音を普段運動もなにもしてない私が家まで持ち運ぶのには無理がある。


美紗「....すぅぅぅ、」


美紗「くゆーーーーっ!!、

   こっち来てーっ」


ガララ...


くゆ「姉さん?、」


くゆ「急に大きな声出して、どうしたの」


お母さん「なになに?何かあったの?」


 驚いた様子のくゆが窓を開けて、雪音の姿をみたまま様子を伺うようにして顔を覗かせる。それを見て、お母さんも気になったのか一緒に出てきた。


美紗「ちょっと友達が寝ちゃって、一人じゃ

   持てないから運ぶの手伝って、くゆ」


お母さん「くゆちゃん。」


くゆ「分かった、今行く。リビングに運べば

   いいの?持っていくとしたらお母さんの

   部屋になるけど」


お母さん「緊急時だもの、それよりも

     早くその子を運んであげないと」


くゆ「そんなの二人いれば十分だから。

   それより邪魔にならないよう母さんは

   通り道開けといて、」


 すぐにくゆが家から出てきて、こっちに向かって走ってくる。


くゆ「よっ...、」


 私がやってもあまり持ち上がらなかった雪音をくゆは軽々と持ち上げて、お姫様抱っこをするよう両手で抱き抱える。


美紗「...あれ、一人...?」


くゆ「この人軽いから、すぐ持ち上がる」


くゆ「空手やってるから。ちょっと筋力

   あるだけだけだよ、...それに意識ないと

   重くなるから」


美紗「ごめん、私がもっと力持ちなら

   良かったんだけど...」


くゆ「姉さんはそのままで良いよ。ムキムキ

   の姉さんなんて絶対嫌(や)だし...」


くゆ「でも、大丈夫?この人...?、」


美紗「多分寝てるだけだと思うんだけど...、

   心配だから、念のため母さんに見て

   貰おうかなって」


くゆ「こんな真冬の早朝に外で...?」


美紗「私もそう思うけど...。」


美紗「この子は学校の友達で、普段はもっと

   しっかりしてる子なんだけど...」


美紗「最近立て続けに、家でも色々起こってる

   みたいで。いつも気を張ってたんだよ。

   昔の私みたいに...」


くゆ「...。」


美紗「...ごめんね、」


美紗(くゆは雪音の事あんまり知らないのに)


くゆ「良いよこれくらい。」


 靴を脱いで、リビングを抜けるくゆ。そのお手伝いをする


くゆ「ごめんじゃなくてありがとう。」


くゆ「本当に頼りになるくゆ大好き、」


美紗「本当に頼りになる、くゆみたいな

   頼れる妹が居て幸せだなぁ...」


くゆ「嘘臭い」


美紗「本当(ルビ:ほんと)だよ、、」


→B.雪音が寝たいと思うような事を

  言ってみる


美紗「雪音が私のベットで寝てくれたら、

   興奮するからっ...!!」


雪音「......。」


美紗(自分で言っといてなんだけど...、

   これは、完璧に、ミステイクな回答なの

   では...!?!?、、)


雪音「...杏里さんにとって。得ということ

   ですか、理由は...形容し難(がた)い

   ですが...」


雪音「私が寝た後。何をしたか教えて

   下さい...」


美紗(ちょっと気になってる...?何もしないけど、

   変な事したら麗夜さんに●されるし、)


 雪音の前で私は腰を下ろして、振り返る。


美紗「乗れる?」


雪音「....。」


雪音「....えぇ、」


 雪音は悩んだ末、限界だったのか私の背中におとなしく掴まる。


美紗(ちょっと重いけど、これならいけそう。)


 背中で少し揺れる雪音を抱えながら、部屋まで連れていく...。あんまり人を抱っこする機会ってないけど背中に人が乗ってるとあったかい。


美紗「...よいしょ、」


雪音「......」


 玄関まで着くと、丁度二階に行こうとしていたくゆと会う。


くゆ「姉さん、その人どうしたの?」


美紗「疲れて寝ちゃったみたいだから、

   上に連れてこうかなって」


くゆ「おんぶしながら二階まで運ぶの

   しんどくない...?」


美紗「...うん。というか靴、どうしよう

   かなって...」


くゆ「玄関なんだから。一回降ろすしかない

   じゃん」


美紗「あ、確かに」


くゆ「母さんの部屋に運んで良いか聞いて

   くる。流石にその段差じゃ無理あるし」


美紗「えっ、でも...」


くゆ「母さんー」


くゆ「...良いってさ、」


美紗「...ありがとね、くゆ。」


くゆ「...当たり前でしょ。別に

   人が倒れてるんだから」


美紗「それでも、だよ。」


くゆ「....。」


くゆ「今はそれより、その人を部屋に連れてく

   のが先でしょ。早く部屋まで行くよ、

   私も出来る事はするし」


美紗「うん、本当にくゆは頼りになるなぁ...」


くゆ「別に普通だって、」


くゆ「すみません、ちょっと失礼します...」


 そう言いながら。私が雪音を降ろして靴を脱いでる間に、くゆは雪音の靴を脱がしてそのままお姫様抱っこしながら部屋へと向かっていった。


美紗「うーん...」


美紗(業者のような手際の良さで

   持ってかれた、)


美紗(本当に私にはもったいないくらい

   出来た妹で...、いや私がどんくさい

   だけ...?)

 

※キャプション


お母さん「...うん、」


 雪音の荷物をベッドの横の棚に置いてから、お母さんの方に近付く。


お母さん「心肺呼吸、脈。共に正常、」


お母さん「...疲労で少し寝ちゃってるみたい

     だから、少し休めばきっと元気に

     なるわ。」


美紗「うん...」


くゆ「本当に大丈夫なの?」


お母さん「確かに普段は頼りにならない

     お母さんだけど、い、ち、お、う

     っ、これでも専業主婦になる前は

     看護士をしてたんだから。」


くゆ「でもそれ、大分ブランクあると

   思うんだけど...」


お母さん「ブランクとか言わないで、」


お母さん「大・丈・夫、よっ...?家族に何か

     あったときの為に今でも勉強は

     続けていたし、」


お母さん「それに体調の悪い人は一目見た

     だけで分かるから。仕事柄、ね?」


お母さん「後は...、この子のお母さんには

     私から電話するとして...」


美紗「あ、ううん。それは私がこの子の

   お姉さんに伝えておくから、そっちは

   任せて」


お母さん「そう...?美紗ちゃんがそういう

     なら...」


 母親として頼りがいのあるところを見せたかったのか、お母さんは人差し指をくっつけてしょんぼりとしてる。


美紗「ううんっ、この子お母さんとうまく

   いってないみたいで多分勝手に連絡

したら凄く困ると思うからっ...、」


お母さん「....、」


お母さん「...お母さん、お友達のそんな事情も

     考えずっ、電話をしようとっ...。」


美紗「え。やっ...、普通ならそうすると

   思うし、お母さんは何も悪く

   から、大丈夫だよ。」


お母さん「普通はこっちがフォローしなきゃ

     いけないのに、美紗ちゃんに

     気を使わせちゃうお母さんって...」


美紗(えーっと...、何て言ったら

   落ち込ませずにすむんだろ...)


くゆ「そういうのが気を使わせてるんだっ

   て...。」


くゆ「部屋であんまり煩くしてると

   この人起きちゃうでしょ、母さんは

   こっち。」


 と、くゆはお母さんの手を引っ張って部屋の外に出ていく。


美紗(あ...、)


くゆ「姉さんだって急に友達が倒れてびっくり

   してるんだから、母さんが姉さんの事

   疲れさせてどうすんの」


お母さん「美紗ちゃんに格好いいとこ見せた

     かったのにぃぃ...、」


くゆ「それで台無しだよ。」


ガチャン。


美紗「...あの人達が今の私の家族なんだ。

   ...お父さんはお仕事に行ってて

   いないんだけど、」


美紗「面白い人達だよね...、本当に」


 カチ、カチと時計の針が時を刻む音が聞こえる。


美紗(私もお母さん達みたいに此処から出て

   行った方がいいかな...。人がいると

ゆっくり休めないよね...)


美紗(...まぁ、取り敢えず晴華さんには

   シーウェで連絡しなきゃとは

   思ってたから...。)


 ...音を立てないようドアを閉めながら、私は晴華さんに雪音の事を伝えるため一旦、自分の部屋にスマートフォンを取りに戻った。


美紗「どうしようかな...、」


美紗(別に此処にいてもいいんだけど...。起き

   たとき急に知らない部屋で目が覚めたら

   絶対、恐いよね...。)


美紗(こういうとき、気を使うのもあれだし、

   出来れば一人でゆっくりさせてあげたい

   んだけど...)


美紗(...やっぱり。心配だから、...戻ろう。

   シーウェは通知をミュートにして...、

   部屋に戻ってから打てばいいかな。)


通知をミュートにしようと、電源を付けて画面を開くと ぶわっとシーウェの通知画面が一斉にくる


ポロンポロンと鳴り響く通知の嵐。


美紗「....、」


美紗(...晴華さんの通知数、...え、えぇ...

   80件くらい来てるけど...)


美紗(私の携帯だよね?雪音のじゃなくて、)


美紗(心配なのは分かるけど...。)


美紗(今からでも返事送った方が良いの

   かな、)


美紗(電話も7回くらい掛けた形跡ある

   し...)


 《 晴華さん からお電話です》


 ポロン♪ポロン♪と音をたてながら、赤と緑のよく見知った画面が出る。※SE


 考える間もなく本人から電話がかかって来たので、若干、恐怖を感じながら、私は電話に出た。


美紗「はい。美」


晴華「ゆっきー!?」


美紗「いや、違います...。美紗...、ですけど...

   晴華さん。私に何度か電話、しました

   ?」


美紗(ちょっとかけ過ぎな気が...)


晴華「ゆっきーは無事なのっ!?」


 晴華さんの初めて聞く切羽詰まった声に

なんか、こっちまで不安になってくる...


美紗「取り敢えず、雪音は無事なので...。

   落ち着いて下さい」


晴華「ゆっきーが何も言わずに、出て

   行って、、朝ご飯を作ろうとしたら

   部屋に、居なくてっ」


美紗(前に雪音が言ってた『杏里さんは

   晴華さんの事を全く、知らない』

   って...)


美紗(もしかして...この事...?)


晴華「取り敢えずって、どういうこと?

   もしかして、ゆっきーに何かあった

   の!?、」


晴華「ゆっきーは今、どこ!?」


晴華「私っ...、」


美紗「何も無いです、...本当に何もないです。

   ただ雪音が私の家に来て絵をプレゼント

   してくれただけです。」


美紗「サプライズプレゼント。」


美紗「ですから。まずは一旦...落ち着き

   ましょう?」


美紗(...これは、...雪音も相談出来ない

わ...。)


美紗(雪音は部屋で寝てるだけって言っても、

   なんか...、逆効果になりそうだし...)


美紗(...そもそもこんな事、お互い初めて

   だろうし...。普段から喧嘩するタイプ

   じゃないもんね...)


美紗(私は言われまくってるけど)


美紗「雪音も、今の晴華さんをみたら。

   落ち着いて話が出来ないと思いますよ」


美紗「まずは晴華さんが落ち着かないと」


晴華「...私、またっ、、ゆっきーが誘拐に

   あったと...、思って...、、」


美紗「心配なのは分かりますけど、」


美紗「『雪音は誘拐には遭っていません。』

今雪音は私の家にいますし...、無言で

   出ていったからって心配し過ぎ

   です。」


美紗「そういう考え方をするから、雪音も

   『いつ誘拐されてもおかしくない』

   って。疑わなくて良い人まで」


美紗「疑わないといけないんです」


美紗「雪音が誘拐されたのはいつですか、

   それから」


美紗「何年の月日が経ったんですか...。」


晴華「.....。」


美紗「過去に誘拐されたから。雪音を危険から

   守るため、警戒するのはとても大事な事

   だと思います。」


美紗「ですが、それで雪音の首を絞めてたら

   意味がない。貴女がそれを一番分かってる

   と思いますよ」


晴華「本当に美紗ちゃん...、なんだよね...?

   ボイチェンの反応もないし」


晴華「凄い大人っぽい、」


晴華「...固定ナンバーもあってるけど...」


美紗(今...一番大丈夫じゃないのは...

   晴華さんでは...?(色んな意味で... )


美紗「私は本来。こういう性格ですよ

   同じ、義理の姐として言いますけど、」


美紗「『籠の中の小鳥、』では"自由"に空を

   飛ぶ事さえ 出来ませんよ。」


美紗「...貴女は雪音の"お姉ちゃん"なんです

   から。もっと雪音の事を信じてあげても

   良いと思います。」


晴華「.......」


晴華「お姉ちゃん...、か...。」


美紗「"義理"であっても。"お姉ちゃん"

   なんですよ」


晴華「...美紗ちゃんの言うとおり、だね。

   ごめん、ね...ちょっと落ち着いた

   よ...。」


晴華「最近、色々あって...」


晴華「なりすましも...。癖までは...、

   真似出来ないもんね。」


晴華「....」


美紗「後で掛け直した方が良さそうですね」


晴華「いやっ、えっ 待って!!、まだ

   切らないで!!、まだ大丈夫だから...っ!!」


美紗(また色々で誤魔化そうとしたし...)


晴華「分かった、言うから。癖みたいな

   ものなの、」


晴華「美紗ちゃんも分かるでしょ?私を拾って

   くれた人に、迷惑掛けたくないって

   気持ち、」


美紗「分かりますけど、私はもう終わった事

   なので...」


晴華「そう簡単に踏ん切り付かないんだよー、

   ゆっきーの事好きだからこそ、行くって

   言ったのに、」


美紗「怒ってるのはそこじゃないです。」


晴華「ゆっきーと交代、出来ない?」


美紗「今の晴華さんと話しても混乱

   すると思うので、」


美紗(雪音に逃げようとしても、無駄ですよ。)


美紗「今の晴華さん。万全じゃないでしょう?」


晴華「それは...、そう...、だけど....、」


美紗「雪音だって。もう高校生なんです

   よ...。ひとりで出掛けたい時だって

   あると思います」


晴華「でも...、今までそんな事...」


美紗「信頼、されてないんですよ。」


 シーウェだから電話代は掛からないと思うけど...。長くなりそうなので、椅子に座った。


美紗「隠しごとばっかりするから。雪音に

   少しでも頼った事あります?」


晴華「....、」


美紗「全部晴華さんがやってるんですね。

   ちゃんと出掛ける前には何処に行くとか

   言わなきゃいけない、」


美紗「晴華さんは、雪音に行き先をいちいち

   伝えてますか?」


晴華「うっ...、」


美紗「前からずっと感じてたんです

   けど...」


美紗「晴華さんって。雪音に対して少し過保護

   過ぎるところありますよね?」


美紗「自分は言わないのに。」


美紗「だから、あれしたいこれしたいって

   言わないんですよ。」


美紗「護身術を教えたり、誘拐に合わないように

   どうすれば良いかとか雪音と一緒に考え

   ましたか?」


美紗「雪音に必要なのは、過保護じゃなくて

   一人立ち出来るようにどうするか考える

   事です。」


晴華「私には、ゆっきーしかいないから...、」


美紗「朝乃先輩が居るじゃないですか、」


晴華「...朝乃ちゃんは、私の...ファンの人

   だから...、私の事、応援してくれてる

   だし...。私が何もしてなかったら、」


晴華「そもそも出会ってすらなかったと

   思うから...」


美紗(...普段、こんな事言う人じゃない

   のに...。これは相当参ってるなぁ...、)


美紗(何故そうなる前に言わない、朝乃先輩

   とか雪音に...私より人望あるのに、)


美紗「...今から全部お話しますので、聞いて

   下さい。電話に出られなかった理由も。

   雪音が無言で出ていった理由も」


晴華「...うん」


美紗「と言っても昨日雪音が家に来たのは

   知ってますよね?」


晴華「うん...。ゆっきーが美紗ちゃん家に

   行ったはゆっきーから直接聞いてるよ。」


晴華「美紗ちゃんに雪兎の作り方

   教わったから、一緒に作ろうって」


晴華「ゆっきー、凄く...楽しそうにしてた

   から...。」


美紗「あんまり嬉しくなさそうですね。」


晴華「えっ...、そんな事ないよっ、、

   ゆっきーが楽しそうにしてるのは私も

   凄い、嬉しいし...」


美紗「雲行きが怪しいですね。」


晴華「...でも、ね...。」

   

晴華「...ちょっと、...寂しくなっちゃっ

   て。私が居なくてもゆっきーはもう

   大丈夫なんだな、って...、」


晴華「私が居なくても美紗ちゃんがいる。」


晴華「だからといって、それをゆっきーに強要

   する気はないよ。ゆっきーの成長は

   私としても、嬉しいし」


美紗「それですよ。それ」


美紗「なんで、"寂しい"って言わないんですか」


美紗「私には言っておいて。」


晴華「怒ってる...?」


美紗「怒ってますよ。本当に大切に思ってる人

   には何も言えないのに、私みたいな関わり

   の浅い人に聞かれてすぐ答えるとことか」


美紗「...昔の、自分をみてるみたいで。」


晴華「ゆっきーの事が嫌いじゃないの。」


晴華「...構い過ぎだって思われたくなかった

   から、行方も出生も知らない子にゆっきー

   は手を差し伸べてくれた。」

  

晴華「本当に嬉しかった、感謝してるの。だから

   こそゆっきーには私の為に悩んで欲しく

   ない、というか...、」


美紗「度を過ぎればそれも、迷惑なんですよ。」


美紗「晴華さんが本当の事を言ってくれないっ

   て、泣いてましたよ。雪音」


美紗「そんな状態で電話出来ると思います?」


晴華「だって、両親に実際会った訳じゃ

   ないし、もっと落ち着いてから」


晴華「ゆっきーには全部話そうと思ってたん

   だよー...、」


美紗「晴華さんは隠し事が多すぎなんです。」


美紗「...雪音は、ただ、貴女の本音を聞きた

   かっただけなのに。それなのに何も相談

   されずに付いていくって言われたら。」


美紗「それこそ、雪音が無理やり晴華さんの

   行動を縛ったって思われても仕方ない

   ですよ。」


晴華「.......。」


美紗「貴女が人が良いっていうのは知ってます

   けど、雪音にくらい本当の自分を見せても

   良いと思います」


美紗「...精神を追い詰めてまで。絵を描く

   なんて絶対可笑しいと、私は雪音に...

   私なりの言葉でそう...伝えました。」


美紗「鬱になって自らの首を絞めるくらい

   なら、絵なんて描かなくていい。」


美紗「くゆが一緒に住みたいと母親に

   言ってなかったら...」


美紗「私は今、この世界にいたかも...」


美紗「...分からないです。」


美紗「雪音にはそんな風になって

   欲しくない。妹の雪音も頑張ってるん

   ですから」


美紗「貴女も"休む"努力をしてみては

   如何ですか?」


晴華「......。」


美紗「最初は難しくても、慣れれば楽ですよ。」


 こんな嫌な事さえも、あったと感じられないくらい...窓の外から見える空はどこまでも青く澄み渡ってる。


美紗(こういう私も、最初はお姫様みたいに

   綺麗な雪音を恋人にしたいって思ってた

   かもしれない...)


 コンテストで絵を描かなきゃいけないってなった時、雪音に言われてはっと、気付いた。雪音に依存してたのは私の方だったのかなって。


美紗(私に晴華さんを怒る資格があるのかは

   分かんないけど、)


美紗「まぁ...、そんなわけで...。」


美紗「...私も独りで知らない土地に行かなきゃ

   いけないストレスがきっかけで、

   一回鬱になった事があるんですよね。」


美紗「周りの環境が変わるのは凄いストレス

   になります。」


美紗「ですが、その中でも人は頑張って

   生きていかなければなりません」


美紗「晴華さんも雪音も、」


美紗「今は、お互い別々の場所でゆっくり

   休んだ方が良いと私は思います。」


美紗「別に私が同じ屋根の下、雪音と一緒に

   居たいんじゃなくて。」


晴華「分かってるよ。」


美紗「雪捨離して下さい、雪捨離、」


美紗「...鬱病は、真面目な人ほど掛かりやすい

   病気ですから」


美紗「だからこそ、」


美紗「雪音は晴華さんに何も言わず、

   私の家まで絵を持って来たんだと

   思います。」


美紗「私は大丈夫だから、って」


美紗「晴華さんが居なくてもやってける。

   だから晴華さんは自分の唯愛を追い

   求めて欲しい。」


美紗「今考えたら危ない事をした、って

言ってましたけど...。」


美紗「雪音はしっかりしてるから、」


美紗「誘拐なんか起こさない。大丈夫、」


美紗「"助けられなかった"じゃなくて、」


美紗「"雪音を信じてあげられた。"」


晴華「....。」


晴華「そうだね...、雪ちゃんがそう言ってるん

   なら。私も言わなきゃいけないね。」


美紗「因みに、雪音は絵を渡した後。そのまま

   疲れて寝ちゃったので、今は今の家族の

   母の部屋で寝かせてます。」


晴華「そっか...、雪ちゃんには苦労ばっか

   かけて申し訳ないね。」


美紗「証拠録った方が安心します?

   でも、雪音本当静かに寝てたから

   録っても、聞こえるかな...」


晴華「....いいよ、」


晴華「美紗ちゃんの言葉は疑ってないから。」


晴華「...私の方が年上なのに、...美紗ちゃんの

 方が、お姉ちゃんとしてもちゃんと

   してるね。」


美紗「...くゆに比べれば、まだまだですよ。」


晴華「それでも...」


晴華「充分、凄いよ...。」


美紗「....。」


晴華「昔はね...、」


晴華「ゆっきーよく笑う子だったんだ。

   私の手を取ってデートしましょうって、

   言ってくれて、」


晴華「私が雪ちゃんの家に住む事になっても

   嫌な顔一つせずに『今日から家族

   が増えるのですね、』って」


晴華「プレゼントまで用意してくれて...。」


美紗(昔の雪音...、今と大分違うんだね)


晴華「でも、あの日から...。ゆっきー

   の笑顔も感情も全部、別人みたい

   に変わった...、」


晴華「信じられなかった、...信じたく、

   なかった。」


晴華「私のせいで、」


晴華「今のゆっきーもゆっきーだけど...、

   あの子は私の心を救ってくれたのに。

私は、」


晴華「何一つ、あの子にして

   あげられなかった...、」


晴華「ずっと...、後悔ばかり...。」


晴華「 記憶がなくて。何も分からない

   私達に名前をくれたのは、あの子

   だった。」


晴華「美紗ちゃんはゆっきーの感情を戻して、」


晴華「麗夜はゆっきーを守る為に頑張ってる、

   でも私は...雪ちゃんに何をして

   あげてるんだろう。」


晴華「私は...、ちゃんとゆっきーの役に

   立ててるのかなって、」


 晴華さんには晴華さんの、雪音には雪音の...思いがあって...。


美紗(それは雪音の口から直接聞いた方が、

   良いと思うけど...、私の方から雪音に

   伝えておくか...こんな状態じゃ言え

   ないし、)


 雪音の感情が消えたのを自分のせいだと思って、きっと何度も、何度も、後悔して...その結果が、今の状態だとするなら...。


 悪いのは誘拐犯であって、守れなかった晴華さんのせいでも誘拐された雪音が悪いわけでもない。


 そんな事分かってても、晴華さんは 自分を責めずにいられないんだろうけど


美紗(そう思ってる晴華さんも、多分自覚が

   あるんだろうな...、)


 "やめられる"なら"やめてる"。それが依存

   

晴華「ただでさえ最近、一緒

   にいてあげられる時間が少なくて...。」


晴華「私が守ってあげないとって、ずっと

   思ってたんだけど...、...私も麗夜の事、

   そんなに言えないね...」


美紗「知らなかったら、」


美紗「これから直していけば良いんですよ。

   少しずつ。ただ、心配し過ぎもスト

   レス貯まっちゃうって事だけ」


美紗「知っておいて欲しくて。この話を

   晴華さんにしました、」


美紗「でも...。結構長くなっちゃっいましたね、

   すみません、」


晴華「いいよ、いいよ。それに私こそ

本当に、ごめんね...何度も電話掛け

   ちゃって...」


美紗「...良いですよ。でも、猫科の動物って

   構い過ぎるとほんとストレス溜まっちゃう

   んで」


晴華「ゆっきー猫ちゃん苦手だけどね。

   マフラーにぎってるとこは、凄い雪豹

   っぽくって可愛いけど」


美紗「あ、それ。分かります、」


晴華「ね、」


晴華「でも一回鬱になった事がある美紗ちゃん

   だからこそ、ゆっきーは美紗ちゃんは

   敵じゃないって思うのかな。」


晴華「そういう人も。今のゆっきーには

   必要だと思うから」


美紗「といっても、今の私に出来るのは見守る事

   くらいですよ。」


晴華「それでもだよ。」


美紗「...まぁ、今出来るのはそれくらい

   しかないですからね、」


美紗「ですが、これだけは安心して下さい。」


美紗「どのくらい掛かるかは私も分からない

   ですけど...、」


美紗「雪ちゃん(ルビ:その子)が。いつ雪音の中

   から目覚めても良いくらい、私も雪音の事

   を幸せにしたいと思ってますから」


美紗「それが惚れた女の宿命です。」


晴華「....、」


晴華「...ヒュー、格好いい~。」


晴華「とっても詩的で。素敵な表現、

   美紗ちゃんになら ゆっきーを

   任せても大丈夫かな。」


晴華「...ゆっきーが美紗ちゃんの事選んだ

   気持ちも分かる気がする、麗夜も

   美紗ちゃんの事度胸はあるって。」


晴華「認めてたし...、美紗ちゃんは相当、

   凄いよねー...」


晴華「天然ジゴロ力、まるでコミュケーション

   のブラックホール。私じゃなかった

   らイチコロだね♪」


美紗(嬉しい、ような...、嬉しく、ないよう

   な...)


※キャプション


晴華「でも、ゆっきー絵が描けたんだ。

   今日はお赤飯かなー?」


晴華「.....、」


晴華「うぅ”....、」


晴華「本当は一番に私に見せて欲しかったんだ

   けど...、ゆっきーが美紗ちゃんに

   見せたいなら...」


晴華「仕方ないよね...。ちょっと寂しい

   けど...」


 と、指先をいじいじしながら、寂しそうに晴華さんがスマホに話掛けてるのがこっちまで伝わってくる


美紗(何となく誰かに似てるんだよなぁ...って

   思ってたけど...。あー...そっか、義理の

お母さん(ルビ:なつきさん)...、)


美紗(なんか、放っておけないというか...)


美紗(まさか晴華さんに嫉妬される日が来る

   なんて)


美紗(思ってもなかったけど...)


美紗(晴華さんって、思ったより凄い

   寂しがり屋...?)


美紗「道のりは、長そうですけど...」


美紗「取りあえず "雪捨離" しましょう」


晴華「雪捨離?」


美紗(...なんか人から聞くとお寿司のネタ

   みたい)


美紗「雪音が居なくても、晴華さんには

   朝乃先輩がいるじゃないですか。」


美紗「今は晴華さんの"心配のしすぎ"が問題

   なので、晴華さんの雪音に対する

   "必要のない不安"を」


美紗「少しずつ減らしてくんです。」


美紗「今回の事とか」


美紗「人って必要以上に心配されると、

   心配されてる側も不安になって

   くるんですよね。」


美紗「それは晴華さんも同じです」


美紗「雪音の不安が伝わってきて、また

   晴華さんも不安になります。」


美紗「だからこそ、晴華さんの方から

   不の連鎖を絶ち切らないと駄目

   なんですよ。」


晴華「私が、最終的にゆっきーを不安に

   してるって...言いたいの?」


美紗「直せば良いだけです」


美紗「...全部が全部晴華さんのせいとは思って

   ないですけど、その要因が原因で雪音が

   弱ってるのは事実です。」


晴華「第三者目線からそう言われるって

   ことは、そうなんだね...。」


 ...思いのほか 事の重大さに気付いてくれたのか、考えるように晴華さんは答える。


 本人にも自覚はあるけど 今までそうやって雪音の為をもって接してきたからこそ。次の一歩が踏み切れない


あと一押し、何かあれば行動に移せると思うんだけど...。その切っ掛けがね...


美紗「自分の思った感情(こと)を出来るだけ

   口にして下さい。相手の事が分からない

   のが一番、不安の要因になりますから」


晴華「分からないのが不安って事...?」


美紗「はい。...私も今まで、そのくらい察せ

   ない方がおかしいって思ってました

   けど、」


美紗「"おかしい"のは私の方で、普通の人は

   そこまで人の目を気にしてないんだな

   って思いました。」


美紗「言葉にしないと、人は分かりません」


美紗「コミュニケーションは相手の機嫌を

   "伺う"ためじゃなく、相手の事を"知る"

   ためにあるのですから」


美紗「怖がったりするのはコミュケーション

   って言えないんですよ。」


美紗「それは一方的な"脅迫"」


晴華「....」


晴華「美紗ちゃんも結構辛い過去を持ってる

   からね」


晴華「辛いに良いも悪いもないけど」


美紗「雪音の描いた絵、」


美紗「...気になります?」


晴華「そりゃー...。気になるけど...」


晴華「今、雪捨離って言ったばかりだし...、」


美紗「良かったら送りますよ」


晴華「えっ、」


晴華「良いの?」


美紗「癖を治すためには飴も必要

   ですからね。」


美紗「前払い、って事で」


美紗「凄い良い絵だったので、他の人にも

   見て貰いたくて。」


美紗「私が見て欲しいって言うのもあります

   けど」


美紗「特に晴華さんは見た方が良いと

   思います。」


晴華「んー...、見たいのは山々なんだけど...」


晴華「...やっぱり...。ゆっきーが美紗

   ちゃんの為に描いた絵だから...」


美紗(雪音はそういうの気にしないタイプ

   だと思うけど...)


美紗(知らない人ならともかく、晴華さん

   なら大丈夫な気がする)


美紗「でも、今私が写真を送らなかったら

   いつ見られるか分かりませんよ?」


美紗「...後悔しませんか?」


晴華「.....う"〜ん」


美紗(見たいなら見たいって言えば

   良いのに)


美紗「それに、雪音なら晴華さんが

   見たいって言ってたから見せたって

   言っても」


美紗「普通に許してくれると思います

   けどね」


美紗(駄目なら後で全力で謝ればいいし)


 雪音なら別に、キレて殴ったりしないでしょ。それでも駄目ならひっくり返って仰向けで誠意を見せれば


晴華「.....。」


晴華「ううん...、やっぱりいいよ」


美紗(これでも、駄目か...)


晴華「ありがとね、美紗ちゃん。ゆっきーが

   見せたくなったら 多分見せてくれる

   と思うから」


晴華「大丈夫だよ。」


美紗「....」


美紗「晴華さんは雪音の絵を見たいん

   ですよね?」


晴華「そりゃねー、好きな子の描いた絵は

   気になって当然だよー。」


美紗「だったら素直に『見たい』って言えば

   良いじゃないですか」


美紗「晴華さんがそう雪音に言えないの

   は、自分が家族の一員として扱われる

   のが嫌だからですか?」


 雪音と家族になるのが嫌じゃなくて、本来家族じゃない人の家族になるのはどうしても気を使う。


 特に晴華さんの場合、記憶も両親も分からない中 雪音や雪音のお母さんに嫌われるのは住む家を無くすにも等しい


 だからこそ、雪音を敬愛して『溺愛』する。雪音の都合の悪い事は全部笑顔で心の中にし舞い込む。それが"晴華さん"という人だ


それは分かってるんだけど...、


晴華「私は、元はと言えば"いない"存在

   だからね。」


晴華「私がいることで家族に注がれる愛情、

   ゆっきーが得るはずだったものを

   なくすわけにはいかない」


晴華「...それが分かるって事は、美紗ちゃんも

   この後私がなんて言いたいか分かる

   でしょ?」


美紗「でも、そこにいるじゃないですか。」


晴華「....」


晴華「「ほんとにね。」」


美紗(...やっぱり晴華さん、雪音と似てる

   よね...、こっちのが"酷い"けど)


美紗「まぁ...別にそれは良いんですけど、

   晴華さんが見たくないっていうなら

   それはそれで」


美紗「でも...。ちょっと考えてみて

   ください」


美紗「雪音が見て見てって、自分で酷い出来

   (ヘタクソ)と言ってる絵を見せると思います

   か...?」


晴華「...」


晴華「....確かにそう言われると希望はない

   ねー、」


美紗「ですよね」


美紗「でも、本当に良い絵なんですよ。」


 晴華さんが(※見たいって)言いたくないのも分かる。けど、こっちはこっちで疲れてる雪音に頑張ったご褒美の置き土産を残したい


美紗(さっき、お姫様抱っこ失敗したし

   こうなれば私の得意分野で絶対晴華さんに

   雪音の絵を見たいって言わせてみせる、)


美紗(それがダンディズムってやつよ。)


 これは私と彼女の戦い、というかこれだけ電話したなら私の意見も通して頂きたいんだが


美紗「晴華さんがそう思うのは晴華さんの

   自由なんですけど、妹としてはそういう

   のって凄い見られたいんです。」


美紗「そして、後で『上手かったよ』って

   言って欲しい。」


美紗「それが妹と暮らして、分かった事

   です。晴華さんはお姉ちゃんを持つ

   『妹』の気持ちが全っ然、分かって

   ない、」


美紗「...雪音が言おうとしないから、もう

   言っちゃいますけど。」


美紗「晴華さんは、雪音の気持ちを全っ然

   分かってません!!、、」


晴華「いや、美紗ちゃんが怒るの...?」


美紗「雪音が怒れると思いますか。」


美紗「いやでも...、私は今までゆっきーの

   望む事をしてきたし、」


晴華「どの下着が着たいか毎日どっちが良い?

   ってコーディネートしたり、今日は何が

   食べたい?とか、」


晴華「会話から今日の飲みたい紅茶を

   選んだり...」


晴華「...ゆっきーの私物も、掃除、洗濯物、

   家事だって、全部...私がしてるの

   に、」


美紗「付き合いたての恋人だって

   そこまでしませんよ。」


美紗(ラノベのメイド系ヒロインかな...?)


晴華「生理周期とかチェックしたり」


美紗「...それは普通にしてないです。」


晴華「えっ、」


美紗「え?」


晴華「でも鉄分足りなくなったり、イライラ

   したりそういう理解も必要かなって」


美紗「いや...、まぁ...確かにそっち方面に

   理解がある人はモテますけど。」


美紗「そっちじゃなくて、」


美紗「雪音は...、あんまり自分の事

   言わないじゃないですか」


美紗(むしろなんでそれが分かって、

   それが分からないんだろう...)


美紗「私が雪音の絵を見てほしいって

   いうより」


美紗「雪音が晴華さんに見て欲しいって、

   言って貰えたら嬉しいんじゃない

   かなって。」


美紗「晴華さんは雪音の絵を勝手に見る

   事に対して、あまり乗り気じゃない

   みたいですけど」


美紗「私はそれより晴華さんが

   一生懸命描いた雪音の絵を見て」


美紗「『頑張ったね』って、心から

   成長した雪音の姿を見て欲しかったん

   です。ずっと 今までの雪音じゃないって

   事を」


美紗『誘拐された、あの頃の雪音は

   もういない。』


美紗「"我が儘"って」


美紗「お互いの事を信頼してない

   と成立しないんですよ。雪音だけが

   心を開いてても」


美紗「晴華さんが雪音に心を開いてないって、

   分かったら...」


美紗「私だったら、凄い ...寂しいです。」


晴華「....。」


晴華「本当に...」


晴華「私は...、"雪ちゃん"の家族になれると

   思う?」


晴華「いつまで経っても 自分が何者かも

   分からない、どんな場所で産まれたかも

   分からないんだよ...?」


晴華「そもそも自分の事さえ」


晴華「よく分からないのに」


晴華「それでも...私がゆっきーの家族で

   いて...良い...、理由なんて...。」


 その時の晴華さんの声はいつもの晴華さんからは想像できないくらい とても小さなものだった。


晴華「美紗ちゃんだって、くゆちゃんや

   お母さんの事を本当の家族だって。」


晴華「言える...?」


晴華「お父さんだって、美紗ちゃんからしたら

   知らない大人の人は怖いでしょ?」


晴華「友達のお母さんのお父さんだからって。」


美紗「...言えますよ。」


美紗「家族だって。言えます。」


美紗「同じ男の人でもくゆのお父さんは違う」


美紗「怖がらせないように目を反らして話

   掛けてくれるし、全部がお父さんとは

   違う。」


美紗「私はくゆと血は繋がってなくても、

   家族です。危ない目にあってたら

   全力で助けるし」


美紗「危ない目に会う前にどうにかします。」


美紗「...家族になれるとか、なれないとか

   じゃなくて」


美紗「家族って思うか、どうかだと思います」


美紗「折角、私達にはそれを伝えるすべが

   あるのに、それをしないなんて勿体ない

   じゃないですか。」


美紗「確かに私は大人の男の人が苦手です。

   でも、悪いのはお父さんだけで

   すべての人がそうな訳じゃない。」


美紗「だからこそ」


美紗「晴華さんにも自分の世界を広げて

   欲しいんです。」


美紗「雪音に叱られたら私のせいにして

   良いですから。...雪音の絵を一回、

   見て頂けませんか?」


そうすれば、晴華さんの時間(とき)は進む


晴華「私に絵を見せたいだけなら、勝手に

   送っちゃえばいいのに...」


晴華「わざわさ確認まで...。」


晴華「...。」


晴華「...良いよ、此処までされちゃったら私も

   しない訳にいかないし。ねー...。」


晴華「私の方からゆっきーに言うよ。美紗ちゃん

   に見せて欲しいって言ったって。」


美紗「え、でも」


晴華「だから...。私の為に自己犠牲とか

   "やめて"ね?」


美紗「あ、はい...。」


美紗(一瞬、声がマジだった...。)


美紗「くゆがもし晴華さんにだけ見せて

   私に見せてなかったら。私もちょっと

   悲しいですしね。」


美紗「後でシーウェで送ります。」


晴華「私の方に送ってくれれば良いから

   画像、他の人から見えないように

   しとく?」


美紗「晴華さんって、お仕事はモデルなのに

   機械の方に結構詳しいですよね?」


晴華「んー?何となく分かるだけだよー。

   どういう文字で書いたら こういう事が

   出来るかもって。」


晴華「通話しながら、画像を送るのも可能だよ。

   普通はパソコンでしか出来ないように

   設定されてるけど、」


晴華「それ専用にプログラムを書き換え

   ちゃえばっ、スマホでも。」


 ポン...、と音が鳴ったと思うと上の方に画像画面が出てくる。


晴華「やろうと思えば。簡単に」


晴華「書き換えるとその分容量が大きくなっ

   ちゃうから、どうしても音質は

   下がりがちだけどねー。」


晴華「それ用のものがあれば良いんだけど...、

   まぁ...美紗ちゃんにはあまり関係ない

   話だから大丈夫かな、」


 電話の奥でさっきから凄いタイピング音が聞こえるけど...。カチカチッ、と音がすると音声画面が縮小して、真ん中が赤く点滅してる大きなマップが出てくる。


美紗(あれ...、この辺私の近く...)


美紗「あ」


 スマホの画面が急に真っ暗になった。


晴華「ごめん、今のは忘れて」


美紗(...忘れて、って言われても...。逆にそう

   言われると気になっちゃうよね...)


晴華「あー...、今日は駄目駄目だなぁ...。

   何時もこんなミスとかしないんだけど

   ...。自信なくなっちゃうよねー...」


美紗「晴華さん、もしかして雪音にGP...」


晴華「ねぇ、美紗ちゃん...。」


晴華「...なんで人の記憶ってデータ改ざん

   出来ないんだろ、ねー...。無くなるの

   は一瞬なのに。なんでだろうね?」


 別の何かを消されそうな気配がしたので、私は何も見なかった事にした。


カタカタカタ...


晴華「これで送れるー?」


美紗「あ、はい。今から写真撮ります、」


晴華「え?撮ってないの?」


美紗「その前に雪音が寝ちゃったので、

   雪音のカバンに戻してそのままですね。」


美紗(晴華さんに気付いて欲しくてそっち

   ばっか気にしてたから...、)


晴華「それなら、切っちゃった方が早いかも。

   クライアントと息が合わないとこういう

   事起きちゃうからお仕事では注意し

   ないとねー。」


美紗「あ、すみません...。折角してもらった

   のに...」


晴華「ううん、お陰でちょっと癒された

   から。画像、待ってるねー。

   美紗ちゃん」


美紗(...癒された?え、今ので...?)


晴華「あと...本当に荒れてる時に電話掛けちゃ

   ってごめんねー...。...学校に居るときとか

   仕事中は大丈夫だから...」


美紗「分かってますよ。それじゃぁ...また、

   後で画像送りますので」


美紗「続きはメールで」


晴華「本当、ごめんねー...」


ブッ...。


美紗(ふぅ...、長い戦いだった...、)


美紗(話してみると晴華さんも何か色々

   抱えてそうだなぁ...。)


美紗(...二人がもっと早く私とくゆみたいな

   関係になれると良いんだけど、そしたら

   雪音もきっと...)


美紗「....んー。」


美紗「だいぶ時間経っちゃったけど...、

   そろそろ雪音起きてるかな?」


 こうして、晴華さんとの長い電話を終えた私は


 音をたてないようゆっくりと階段を降りながら。雪音のいるお母さんの部屋へと戻っていくのでした。


※スライド


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