第19章「良い提案、」【みさゆき】

 午前中の授業が終わったお昼放課、柚夏の肩をちょんちょんと軽く叩く


美紗「柚夏、柚夏っ」


 柚夏の肩に手が触れるその制服の布の感触がなんだかとても懐かしく感じた。


 少したってから目の前の椅子がガタッと揺れて柚夏が振り返る


柚夏「...あぁ、美紗どうしたの?明日の

   テストの話?」


美紗「放課後早々現実に戻さないで」


美紗「でもなんとか拝み倒して本場の英語

   を知ってる雪音から英語の勉強を

   教えて貰える事になったから、」


美紗「今回のテストはむしろ私にとって

   御褒美みたいなものだよ。」


美紗「っていう予定だからぁっ!!!、」


柚夏「土下座して頼み込む事を予定に入れない方がいいよ...。」


美紗(良い点数を取ったら雪音に見直して

   貰えるし、)


美紗(仮に点数が悪くても、それはそれで

   冷めた目で雪音が私の事見て

   くれそうだし...。)


美紗(いや、流石にそこは頑張るけどね...!!)


美紗(雪音の発音めっちゃ良さそう、)


柚夏「まぁ英語はほぼ暗記問題だからね。」


柚夏「単語の意味さえ分かっていれば

   解ける問題も多いし、数書けば

   覚えられる教科だから頑張ってね」


美紗「柚夏、文系に関しては結構スパルタ

   だよね...」


柚夏「電車の中で解けるのが良いん

   だよね。数学は面白いけど流石に

   電車内では勇気いるし、ね。」


柚夏「というか英語は理数系でもよく出て

   くるよ。大抵法則の名前とかだった

   りするけど」


美紗「というか、そうじゃなくってっ」


美紗「今から雪音と一緒にご飯食べない!?

   流雨さんも誘ってさ!」


 今日の授業中どうしたら柚夏と雪音が仲良くなってくれるかずっと考えてたんだけど


 そもそも、二人が一緒にいる機会が少ないって事で最終的にまずはお昼ご飯を一緒に食べるのが一番良いかなっていう結論になった。


美紗(流雨さんとも仲良くなりたいし、私が

  仲介人になって雪音と柚夏にお話して

  貰ったらそれこそ、一石二鳥だよねっ!!)


柚夏「...まぁ良いけど、一応理由聞いて

   いい?」


美紗「うん。あのね、柚夏は雪音の事

   誤解してるんだよ。」


美紗「土曜日に雪音が柚夏の事どう思って

   るのか聞いてみたんだけど」


美紗「雪音は柚夏の事、嫌ってない

   って言ってたよ。むしろ興味

   すら感じてないってっ!!」


柚夏「....。」


 柚夏は呆れたようにため息を付いて、手を頭に当てている。


柚夏「...それ、嫌われるより余計タチ

   悪い事言われてるって気付いてる?」


美紗「嫌われてないなら大丈夫じゃない?」


美紗「これは一斉一隅の大チャンスだよ!!

柚夏だって綺麗な人と仲良くなり

たいでしょ?」


柚夏「いや...嫌われない=仲良くなれる

   チャンスって思えるのが逆に凄い

   わ...。」


柚夏「美紗って時々ビックリするくらい     

   底抜けにポジティブな時あるよね...、まぁそういうとこも嫌いじゃないけどさ...」


美紗「柚夏は離婚したお父さんがお金持ち

   だったから同じお金持ちの雪音が

   苦手なんだよね?」


柚夏「...違う人だって言うのは分かってる

   んだけどね。年齢も性別も違うし、

   関係ないっていうのは分かってるん

   だけどさ...」


柚夏「...美紗の言う通りだよ。お金持ちの

   人を見るとどうしてもね...」


柚夏「...だから、」


 柚夏は目を少し反らしてから、瞳を閉じまるで何かを決意するかのように小さく縦に頷いて、私の目を見詰める。


柚夏「...美紗が古池さんと付き合って

   いるって初めて聞いたとき、どう

   やって別れさせようって思った。」


柚夏「もう誰にも美紗を奪われたく

   なかったから...」


 ...これが柚夏の思ってた本当の気持ち。


 雪音に対して厳しいとは薄々思ってたけど...それだけ柚夏のお母さんを見捨てた父親の事が許せなかったんだろう、


美紗(私とは逆だね...。)


美紗「...そう、だったんだ」


柚夏「...私は、両親が居ないからさ。皆、

   同情で私に関わってきて。...私は

   『可哀想な子』扱いだったんだよ」


柚夏「本当に可哀想なのは追い詰められて

   死んだ母さんの方なのに。あの時、

   私が勇気を出して母さんを元気付け

   られてたら」


柚夏「お母さんは死なずにすんだかも

   しれない、」


柚夏「...そんな後悔が、日が経つたびに

   増してってね。」


美紗「...」


柚夏「だから、他の人と変わらず接して

   くれた美紗だけは絶対に大切に

   しようって思った」


柚夏「守れなかった母さんの分も、大事に

   しなきゃいけないって」


美紗「うん...」


 柚夏と初めてあった中学2年生の春。柚夏があの時私に料理を教えてくれてから...、


美紗(この人は性根が凄い優しい人なんだ

   なっていうのはすぐ分かったから、)


美紗(だから柚夏とどうしても友達になり

  たいって、毎日話し掛けたんだよね。)


美紗(懐かしいなぁ...。あの時初めて食べた

  ガドーショコラの味が本当に美味しくて...)


柚夏「親友に恋人が出来たんだったら

   真っ先に喜ばなきゃいけない

   はずなのに...。」


柚夏「...また、お金に大事な人を取られる

   んだなって思ったら...。いつの間

   にか自分の感情が抑えられなく

   なってた」


柚夏「後から自分の都合で別れさせようと

   思ってた自分が...本当。嫌になって

   さ、美紗に顔向け出来なくて...」


柚夏「あの時はほんとごめん。これからは

   私も出来る限り応援するようにする

   から」


美紗「...ううん、...私も柚夏の

   気持ちが聞けて嬉しかったから。」


美紗「柚夏は色々大袈裟なんだよ、

   私は心がとても広いのでその

   くらいじゃ怒んないよ。」


美紗「私が本気で怒るのは誰か大事な人が

   傷つけられた時ぐらいだよ。その

   中には柚夏も入ってるから」


美紗「だから、もう謝るのは禁止、」


美紗「私は楽しい雰囲気の方が好きだからね。私の事が好きならそれくらいしてよ」


柚夏「美紗のお願いは出来るだけ聞いて

   あげたいんだけど...。正直、

   古池さんと仲良く出来るって

   言われるとあまり...。」


柚夏「二人の邪魔をするつもりはないん

   だけど...彼女とはそもそも相性が

   あんまり良くないというか...、」


美紗「そんなに警戒しなくても大丈夫

   だよ。雪音は別にとって食べたり

   しないんだから」


美紗「それに、柚夏には私が好きに

   なった人と仲良くして欲しいし」


柚夏「あんまり気は進まないけどね。

   ...そんな風に言われたら断るに断れ

ないし...。私も一応頑張ってはみるよ、」


美紗「っと、」


 お母さんが作ってくれたお弁当箱を持って、私は教室から出る。


美紗「柚夏は流雨さんを誘って屋上に

   来て。私は雪音誘って行くから、

   屋上で待ってるからねー!」


美紗「なるべく早く来てね!!」


柚夏「...はは、分かったよ。」


 柚夏はそう言ってそのまま2年生の教室に向かって歩いていった。


美紗「私も早く雪音誘って屋上行かな

   きゃね」


※キャプション

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る