第20章「そこは、まるでお見合い会場のようで、」【みさゆき】


美紗「柚夏、ほら見てっ」


美紗「凄い良い景色だよ」


 青い空が太陽に反射して、如何にも夏って感じ。夏だからちょっと暑いけど肌に風が当たって心地良い...、


柚夏「そうだね...」


 一方、柚夏はというとコンクリートを見つめて気まずそうにご飯を食べてる。


 やっぱり柚夏は雪音の事がちょっと苦手みたい、


美紗(でもそれじゃ折角の青空も見え

  ないよ?こんなに綺麗なのに、)


 これぞ夏って感じの良い天気なのになぁ


 そう思いながら私は今日の為に用意しておいたシートを敷く。


美紗「あれ?柚夏...」


 身体を起こして、顔を上げると丁度皆の中のお弁当が見える形になる。


美紗「流雨さんのお弁当の中、アスパラ

   巻きも玉子巻き卵とか...これ全部

   柚夏の料理だよね?」


 柚夏の料理は基本的に味が染みてて色が濃いからすぐ分かる。


 というか、それ以前に流雨さんと柚夏のお弁当の中に入ってる具材がまったく一緒だったから。


美紗「流雨さんにお弁当作ってあげてる

   の?新婚さんみたいな事してるね。」


 柚夏の料理って凄く美味しいから流雨さんがちょっとだけ羨ましくなる。


美紗(それにしても柚夏...、流雨さんに

  対しては凄い甘いよね。見た目が

  小さいからっていうのもあるんだろう

  けど)


美紗(手作り弁当を作るって。相当

   その人の事、気に入ってないと

   出来ないよね。)


美紗(...あっ。...柚夏って重度のロリ、

   いや、子供好きだから...。)


柚夏「流雨はかなりの偏食で、同じ物

   を好んで食べるから」


柚夏「ほっておくと鮪のおにぎり一個で

   済ませちゃったりとかそういうのも

   ザラじゃなかった訳、」


柚夏「だから最終的に自分で作るように

   なったんだよ。」


柚夏「だから美紗が思ってるのとは違う」


美紗「えー...柚夏私には交換してくれない

   とくれないのにー。流雨さんは良い

   なぁ。私も柚夏の料理食べたいよー」


流雨「ん...」


 と流雨さんはお弁当の中身を私に差し出す。


美紗「え?良いの?」


美紗(本気で貰うつもりはなかったん

   だけど...、流雨さん優しいな、)


柚夏「ただでさえ少な目の流雨のご飯が

   減るから駄目です。」


 と、柚夏様の敬語のうえに許可が出なかったので


 私は手元にあったお母さんが作ってくれたお弁当をモグモグと摘まむ。


美紗(でも、お母さんが私のために作って

  くれたお弁当も大好きだから...、)


美紗(お父さんの時は冷蔵庫にある物を

   レンジでチンして食べてたしそれに

   比べれば今の私は幸せだなぁ。)


流雨「...柚夏」


流雨「友達は大事...、」


 優しい流雨さんは私の事を気遣ってくれたみたい。


 でも結構前からこんな感じだったからなぁ...、逆に柚夏が急に私に優しくなったらどこか頭でも打ったのかなってなる。


 これが柚夏と私にとってのコミュニケーションみたいなものだから。


美紗(まぁ、端から見るとそう見えるの

   かな)


美紗「ありがとね、流雨さん。でも

   お母さんの料理も美味しいから

   大丈夫だよ。」


美紗「交換すると減っちゃうし、本当は

   どっちでも良かったんだー」


柚夏「...つまり、そういうこと、」


美紗「久々に柚夏と食事が取れて嬉し

   かったんだよ。言うほど久々じゃ

   ないけど」


美紗「人のお弁当の中身を欲しがる

   友達に柚夏は恵んでくれるかなーっ

   て」


柚夏「これが私と美紗とのコミュニケー

   ションの仕方なんだよ。」


流雨「...そうなの?」


美紗「けど、ゆずかーさんは私に対して

   もっと優しくしても良い気がする。

   あれかな?獅子は我が子を崖から

   付き落として、楽しむっていう...」


柚夏「...楽しんだら駄目でしょ」


美紗「成長をね。ふふ、ゆずかーさんに

   勝ったぜ」


 柚夏はため息を尽きながら、ポケットの中から小さな袋に入ったクッキーを取り出す。


柚夏「...折角、おやつ持ってきたのに」


美紗「調子乗って誠に申し訳ございません

   でした。柚夏ー、頂戴ー」


 こうやって、柚夏に負かされるっていうのが何時ものパターン。


 柚夏はクッキーを流雨さんと、私に渡す。


美紗(あれ?柚夏さん、私のやつラッピング

  いつもより雑じゃない?)


美紗(...まぁ、柚夏のクッキーが手に

   入ったから良いけど美味しかったら

   見た目はあんま気にしないし、)


美紗「頂きまぁーす♥️」


 柚夏から受け取ったクッキーを口の中にひょいっ、と入れる。


チョコレートとバター味の二種類だ。


美紗「ん~っ///、アイスボックス好き

   なんだよね///」


美紗「さくさくほろほろとした食感

   (ひょっかん※ルビ)が、たまん

   ない~////」


雪音「お二人は無事に仲直りなされた

   ようですね」


 来てくれるかちょっと不安だったけど、少し経ってちゃんと来てくれた雪音。


 私の隣に高そうな敷物を敷いてその上に正座で座る、別にそのままでも良いんだけど


美紗「うん。雪音のお陰だよ、」


 柚夏と仲直りするための和菓子作り、そのきっかけをくれたのは紛れもない雪音だったから。


雪音「私は何もしていませんよ」


雪音「杏里さんが勇気を出して芽月さんと

   向き合う事が出来たからこそ、

   生まれた結果なのですから」


 橘さんの趣味なのか、可愛らしいお弁当箱を片手に雪音は目を閉じながら玉子焼を口に入れる。


美紗(メイドさんが作るには可愛い過ぎる

   もんね、兎さんのウインナーとか

   どうやって作ってるんだろ...。)


美紗(っと、今はそれよりも二人が仲良く

   なれるよう私がサポートしなきゃ、)


美紗「雪音、柚夏も...折角二人で顔合わせ

   たんだからもっとお話しようよ。」


 せっかく一緒に食べてるのに、これじゃ何か駄目な気がする。


美紗(私にとって柚夏も雪音もどっちも

  大事な人だから、二人にはなるべく

  仲良くして欲しいんだけど...、)


美紗(なんでこんな静かなの!?!?)


 雪音はもくもくと多分、橘さんの作ったのであろうひよこの形をしたつくねを食べてる。


柚夏「...えっと、ご趣味は」


雪音「乗馬を少々」


 先にご飯を食べ終えた流雨さんが眠たそうな顔で目を細めている。柚夏はそれを見て、流雨さんのお弁当を回収していた。


柚夏「今日は何点だった?」


流雨「...85」


柚夏「85点、か...。前より上がったね」


流雨「キャベツ...」


柚夏「やっぱりそこくるよね...。煮る時間

   30秒増やしてみるかな...」


...お弁当の点数か何かのお話かな?よくわかんないけど...。...というか、ちょっと待って。


美紗「えっ、今ので、会話終了!?二言で

   終わってるじゃん、英会話だって

   もっと積極的にお話してるよ!?」


柚夏「いや...だって話す事ないし...」


 流雨さんはとてとてとベンチに移動して、仰向けに寝ころんで日向ぼっこを楽しんでいる。


美紗「別に本人は結婚したい訳でもない

   のに、両親がもう年だからって理由

   で婚活し始めちゃった30代半ばの

   人みたいな感じになってるよ!?」


美紗「私達、まだ学生なんだよ...?もっと

   学生らしい会話をしたら良いん

   じゃないかな?」


柚夏「学生らしい...、」


 柚夏は両手を組んで、少し考えるように顔を傾げてから口を開いた。


柚夏「高校を卒業したら古池さんは就職

   なさるのですか?それとも進学」


雪音「はい、私は進学の道を考えて

   います。今後の方針に向け企業設立

   を考えており、スキルアップを

   目指し日々成長を心掛け...」


美紗「確かにこれ以上ないってくらい学生

   の会話、だけど...ッ!!もう企業の

   面接みたいになってるよ...っ!!」


美紗(柚夏と雪音が仲良くなるのはもう少し

  時間が必要なのかなぁ...、)


 はぁっ...とため息を吐いて、ゆっくりと吸うと少しだけ落ち着ついた。


美紗(多分何度か誘えば、柚夏と雪音も

  もっと仲良くなれるよね。)


美紗(...これからも皆と一緒に食べたいっ

   て一回言ってみようかな、)


柚夏「...古池さん、」


 柚夏の声のトーンが一気に真面目になる。柚夏の顔を見ると、見たこともないような真剣な顔で雪音の事を見詰めていた。


雪音「如何なさいましたか?」


美紗(やっぱ無理させちゃったかなぁ...、

   私の我が儘のせいでごめんね、

   柚夏...、、あー、でも喧嘩はしないで、)


 柚夏の顔に一切物怖じせずに堂々とした姿勢で返す雪音。えっと...私、どうしたら良いんだろ...。


美紗「柚夏...、」


柚夏「美紗をどうか幸せにしてやって

   下さい」


 柚夏は雪音に頭を下げて、10秒ほどそのままの姿勢で止まっていた。


美紗「...柚、夏」


...やだ、私感動で涙出てきそう。


雪音「...言葉の責任は取ります。」


雪音「一度申し上げました事は曲げる

   タイプではございませんので、

   その辺りはご安心下さいませ」


柚夏「...そう、....私は先に教室行ってる

   よ。流雨は一回寝ちゃうと中々起き

   てくれないから」


柚夏「あとこれ、お嬢様の口には合わない

   かもしれないけど」


 柚夏は雪音にさっきのラッピングされた2種類のクッキーが入ったお菓子を雪音に渡す。


美紗(あー、私のが雑だったのは雪音に

  私のを渡そうと思ってからだったんだ...、)


美紗(これは柚夏さんモテるわ...、、)


 そう言って柚夏は立ち上がって、流雨さんに声を掛けてから背中を向けて帰っていった。


雪音「...彼女が頭を下げるとは考えても

   いませんでしたね。」


美紗「...うん、私もだよ。柚夏、頭下げて

   たとき目閉じてた」


雪音「...よくご覧になっていますね。」


美紗「まぁね。でもやっぱり私の一番の

   親友は、格好いいなって」


美紗「私の自慢の友達だよ。」


 柚夏はプライドより私を選んでくれた、その事が私は何よりも嬉しかったんだ。


美紗(ありがとう、柚夏...)


雪音「プライドを捨てるという行為を友

   の為に自ら選ぶ...。私には到底考え

   られない事ですが、」


雪音「それだけ彼女に対する貴女の思い

   が強かったという事なのでしょう。」


雪音「それだけの価値が彼女にとっては

   貴女にあるようです。大変興味深い

   結果ですね。」


美紗「うん」


雪音「...貴女の周りに集まった方はまるで

   人が変わったように、変わって

   いってしまう」


雪音「私にとってそれは恐怖でもあり。

   己を律する概念との戦いになり

   ます。」


雪音「感情に触れるという行為は各にも

   疲れる事項ですね」


美紗(樹理先輩や柚夏が変わっていったのを

  見て自分にも感情を感じたって事

  かな...?)


 ...そっか、雪音も柚夏や樹理先輩を見て、きっと楽しいとか嬉しいっていう感情があるんだって気持ちに変化していってるんだよね。


美紗「雪音、これから二人で沢山楽しい

   事をしよう?」


美紗「いっぱいお話して。いっぱい色んな

   物を見て、そうやって感じた気持ち

   を一つ一つ大事にしてこうよ。」


美紗「...最初は今までの自分じゃなく

   なっていくのって不安で、怖くなる

   時もあるけど」


美紗「でも、それが私の生きたかった世界

   に全部繋がってて、今ではそれが

   もう手放し難くない宝箱になって

   たから」


美紗「今の私はちゃんと幸せだよ。」


 雪音はその言葉を噛み締めるように、瞳を閉じて一度だけ縦に頷いた。


雪音「...そろそろ予鈴が鳴ってしまいます

   ね。次回のテストの点でも幸せに

   なって下さるように私は安里さんに

   お祈りしましょう」


 そう言って雪音は柚夏から貰ったお菓子をポーチの中に入れて、シートをたたみ始めるのだった。


美紗「英語...」


 雪音は私の自信のない口調に察したのか、首を傾げて口を開く。


雪音「副会長さんにまだ頼んでいらしゃら

   ないのですか?試験は明日のはず

   なのですが...」


美紗「雪音様、どうかお願いします。

   私めに英語を教えて下さい」


 やっぱり、書いただけじゃ不安だし雪音に土下座して頼み込む。


 これで雪音に教えて貰えるんなら、私は喜んでそれをしよう。


美紗(この間、樹理さんに教われば良いっ

   て言われてなぁなぁで終わったから

   なぁ...。)


美紗(この際、はっきりと雪音に教えて

   下さいと頼み込む!!そして私には

   もう後がない...っ!!)


美紗(そのためなら土下座だってなんだって

   してやる、雪音が望むなら足を

   舐める事だって厭(いと)わない)


美紗(いや、むしろ、こちらから綺麗なおみ足を舐めさせて...ッ!!!!)


雪音「杏里さん...。そのようなところまで

   芽月さんを見習わなくとも良いの

   ですよ?貴女は逆にもっとプライド

   を持って下さい...」


 軽く雪音はため息を付いてから眼を閉じてこう言った。


雪音「...仕方ありません。午後に1時間程

   時間を取りましょう。勉強方法など

   だけでしたら、私でもお教え

   出来ます」


美紗「本当に!?」


雪音「仮にも私の恋人になられる方に、

   赤点はとって欲しくはないです

   から」


美紗「頑張りますっ!!」


 絶対断られると思ってた、やった!!私はやったよ!!えへへー、今日の授業早く終わらないかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る