①先行料理体験【なみじゅり】

 湿気で蒸し暑い夏も終わり、カラッとしたサマーライフの近付くクソ暑い日の7月中旬。


奈実樹(夏休みはお客はんも増えるやろう

    なぁ...。夏は新鮮な良い魚がいっぱい

    入ってくるで、新鮮な内に捌(さば)か

    ねば...)


奈実樹「暑いなぁ...やっぱ部室のクーラーは

    最高やなぁ、」


コンコン


奈実樹「開いとるで」


雀「副部長さんはこちらでしょうか」


奈実樹「...こっちは暑くるしゅうて死にそう

    なんや、手短に頼むな」


雀「近い内に会長がデモンストレーションの

  視察にいらっしゃるので、お願いします」


奈実樹「古池嬢か...珍しい。それなら

    何時もより真面目にやるよう

    後輩達にも伝えとくわ」


雀「宜しくお願い致します。」


と、出ていく会計さん。


奈実樹(それにしても古池嬢か、初めて

    デモンストレーションをした時

    以来やな。)


奈実樹(...古池嬢は超お嬢様やからな。いつも

    よりコンロとか綺麗にしとかなあ

    かんなー)


縁蛇「誰か来るのですか」


奈実樹「...あぁ、偉い人が料理教室に

    来るんよ。偉い人言うても偉い人の

    "娘さん"やけどな」


奈実樹「この学校の生徒会長さんやで」


奈実樹「他にも生徒会の人が来るから

    色々準備しとかなかんな...。」


※スライド


視察日、当日。


パパーンッ!!!


と急に、大きなクラッカー音が鳴る。


??「えっ!?」


縁蛇「調理部へようこそーっ!!なのですよ

   っ!!」


 舞い上がった色んな色の紙テープが古池嬢

もとい他の方々の頭の上に降り注ぐ。


奈実樹(いや、何しとんねん...、)


奈実樹「...古池嬢に嫌われても知らんで」


奈実樹(...後片付けは縁蛇に任そう。)

 

縁蛇「生徒会の皆さんを祝してっ!!」


??「...え、縁蛇さん?」


縁蛇「あっ、あなたは...!!この間の"邪魔"

   だった人ですね!!」


縁蛇「ここで会ったが百年目ですよ!!」


奈実樹(なんや。知り合いか、...それにしても

    初対面で"邪魔扱い"される関係って

    どんな関係やねん)


??「....その節は本当にごめんね」


??「代茂技さんも」


代茂技「...い、...いえ」


代茂技「...大したことではないので、、」


奈実樹(代茂技はんの知り合いか?)


奈実樹(縁蛇が何やったか知らんけど、

    あんま言いすぎるのも良くないで)


??「出会い方は失敗しちゃったけど、

  それでも仲良くしてくれると

  嬉しいな」


奈実樹(素直でえぇ子やん。)


代茂技「...。...いえ、こ、こちらこそ、

    宜しく...お願い致します...//」


奈実樹(そこまで深い仲でもなさそうやな...)


??「でも、一緒の部活に入ってるなんて

  本当に二人は仲が良いんだね。

  羨ましいな」


??「料理とか好きなの?」


代茂技「....///」


縁蛇「貴女、生徒会の人だったのです

   か!?」


??「え?違うよ!?私は...ただ書記さん

  に連れて来られただけで...、

  どうしてかは分かんないけど...」


縁蛇「成る程....、という事は、、」


縁蛇「もしかして!!、調理部に入りたい

   のですか!?興味ありげな感じです

   か!?なりたい感じですかね!?」


??「いや...あの...」


縁蛇「部員が増えますよ!!代茂!!

   これで使えるお金も増えますね!!

   がっぽがっぽなのですよっ!!」


縁蛇「この紙、あなたにあげますね!!」


??「...えっと」


奈実樹(そろそろ止めるか...。)


樹理「Stopだよ。エンジャ、ステイ」


と、調理部の書名の紙を後ろから樹理が取り上げる。


奈実樹(...タイミング、思いっきし被ったな。

    マジか...)


樹理「思い込みは縁蛇の悪いとこ

   じゃないかな、せめて長所になる

   ようにね...」


樹理「っと、ウチのMemberが余計な事

   しちゃってごめんね?」


??「...ア、アリスみたい」


奈実樹(また新しく新入生のハートを射止め

    とるな。樹理は...)


縁蛇「樹理先輩ー、クラッカー作戦失敗

   しちゃいましたね!!」


縁蛇「なんで私が指示したみたいになって

   るのかな!?...もぉ...エンジャ

   これ片付けしといてよ...。」


縁蛇「"らじゃ"なのですよ!!あなたも

   早とちりしてしまって、ごめん

   なさいなのですよ」


と縁蛇さんはぺこりと頭を下げる。


縁蛇「これでおあいこですね!!」


??「....う、ん。」


縁蛇「よーしっ!!ピカピカにします

   よ!!代茂!!」


代茂技「ま、前みたいにやり過ぎないよう

    にね...」


縁蛇「はっはっはっ、人は失敗して学ぶ

   生き物ですよ!!代茂。私を侮らな

   いでください!!今夜はやり遂げま

   すよ」


代茂技「....え?今、...今夜って?」


 縁蛇と代茂技はんはロッカーを開けて、箒を出し始める。


奈実樹(別に今掃除する必要ないんやけどな)


??「....あの!!」


樹理「食事は楽しくて賑やかの方が良い

   よね。私的にはソウ、グッド

   だよ!!Win-Winの関係って

   やつだよね」


??「さっきはありがとうございました

   っ!!」


樹理「どういたしましてだよ。エンジャは

   あれでも良い子だから、仲良しで

   いてあげて欲しいかな?」


樹理「ちょっと"ベクトル"があれなんだけどね...」


??「...その!!」


樹理「ん?どうしたのかな?

   何でも言っていいよ、私は人見知り

   しない方だから」


??「アリスみたいで本当に可愛いですね!!」


樹理「Alice?それって、私の事?」


??「はいっ!!私物語とかそういうの

  大好きなんですっ!!本当に美人で

  興奮しちゃって!!」


奈実樹(...アリス、か。"本当に美人"は流石

    やな。)


奈実樹『アリスみたいな子やな...』


奈実樹「ふふっ、確かに樹理はアリス

    みたいやな。」


樹理「今笑った!?!?」


奈実樹「うちが笑ったらなんか可笑しいか。」


樹理「いや、ナミってあまり笑わないから...」


奈実樹「...お皿、もう一枚追加しはるね。」


奈実樹(予定してた分より人数増とるけど

    ま、なんとかなるやろ)


樹理「えー...何か凄い複雑だよー...。私はナミ

   みたいな真っ黒な黒髪に憧れてるん

   だよ?」


奈実樹「厳密には"灰色"やけどな。」


樹理「...でも、褒めてくれてありがとう。

   すごく嬉しい///」


 感極まり、後輩と意気投合しながら嬉しそうにハイタッチ握手を交(か)わす樹理。樹理は後輩に対して嫌な顔一つせず笑って握手する。


奈実樹(うちだってそんな事されたことない

    のにな...。うちが後輩やったらしてくれ

    とったんかな...)


奈実樹(...樹理を溺れ掛けさせたうちが

    いうか、ただ後輩と楽しく遊んどる

    だけやろ)


美紗「...わー//、えへへ...//」


樹理「そんなに嬉しそうな顔、されちゃうと

   私も嬉しくなってきちゃうよ。」


奈実樹(モデルの握手会場かいな...)


※スライド


古池嬢「"優雅"ですね」


??「...そうだね、」


奈実樹「緊張せんでも大丈夫やよ。調理部

    副部長の鐘鏡 奈実樹(しょう

    きょう なみき)申します」


奈実樹(挨拶は大事よな。)


??「あ、どうもご丁寧に...その、」


??「私は杏里 美紗(あんり みさ)って

  言います!!」


美紗「綺麗な動きで思わず見とれちゃい

   ました。凄いですね。しょ...しょう

   きょ」


奈実樹「ふふ、ややこしい名前やもん

    なぁ。奈美樹で構へんよ。

    そして、こっちのアリスはん

    は...」


樹理「アリスじゃないよ」


樹理「私は樹理・シェリー・ルシェル。

   私はこの部の長というやつをやらせて

   貰ってるんだよ」


 えっへんと胸に手を当ててそらせるポーズもすごい自然で、違和感が一切ないところが凄いな。流石ハーフ


書記「ところで副会長、この子も試食会

   に参加させて頂いてもよろしい

   かしら?」


樹理「うん、勿論だよ。」


美紗「副会長さん!?え!?」


奈実樹「そうやよねぇ...。部長より、

    生徒会副会長の方を説明した方が

    凄いと思うんやけんどもねぇ」


樹理「だって私はナミと一緒に料理を

   作れる調理部のが好きなんだ

   もん...///」


奈実樹「....樹理はずっこいなぁ、なんで

    こんなえぇ子が地味なうちなんか

    好いちょうくれるんか」


奈実樹「ほんま分からんよ。」


美紗「えと...」


樹理「良いよね?ナミ」


奈実樹「ふふ、断る理由もあらへんからな」


奈実樹(さて、和室部屋に入るか。)


美紗「畳だ、すごーい...」


古池嬢「...時々なのですが、このように

    生徒会で試食会を行う事も

    ありますね。」


樹理「今回の場合は料理教室の試食会

   だから、良かったら食べていって

   くれる?」


美紗「料理教室...?」


樹理「うん。と言っても試作を作る予定は

   明日だけど、午前は筑前煮と和菓子

   作り体験!!」


樹理「その後の午後からは、皆で作った

   和菓子を使って茶道体験っ!!」


樹理「っていうのを考えてるんだ。

   なんだけど...」


美紗「どうしたんですか...?」


樹理「本番はもう予約が埋めつくされ

   ちゃってる状況で、ちょっと難しく

   って...」


樹理「明日なら...練習で先行体験させて

   あげられるんだけど....どうかな?」


美紗「い、行きます、行きますっ!!

   行きたいです!!」


樹理「用事が出来たら無理しないでね?」


樹理「...はぁ、...良かったー!!私も明日

   頑張れるよ!!」


奈実樹「けんど、ラッキーやね。樹理は

    すごい人気やから1日で参加人数

    がオーバーしてまうんよ」


奈実樹「来月の予約ももう全て埋もうて

    しもうてはるんよね...」


美紗「え?そんな人気なのに先行体験

   なんて...良いんですか...?」


樹理「うん、私達はそういうのは気にして

   ないけど...ね?ナミ」


奈実樹「そういうのウザいけんどね、

    しょうもないけど気にしてはる

    先生方もいらはるね」


美紗「....雪音がいるから、...ですか?」


書記「"好意"は素直に受け止めてくれると

   嬉しいものですわ」


書記「そのようにネガティブに感じ

   取らず真摯に受け取りましょう。」


 書記さんの落ち着いた言葉が負の雰囲気をピシャリと切り裂く。


奈実樹(流石やな...。)


雀「今のは惚れちゃいそうなくらい格好

  良かったですよ。」


雀「...大好きです、先輩」


書記「....。...ちょっ、...ちょっと待っ

て...///....録音するからもっかい、

   もっかいだけ...//」


雀「はい、分かりました。無理です♥️」


奈実樹(と思ったけど、ただの残念美人

    やったか...)


雀「.....、」


雀「...っ、...すみません...ちょっとだけ...、

  抜けます...」


書記「雀ちゃん?」


奈実樹「体調でも悪いんか??」


雀「...すぐに、戻ってきますから」


と、雀はんは急にどこかに行ってしまった。書記の人は少し迷ってからそれを追い掛けて和室から出てく。


美紗「大丈夫かな?」


奈実樹(うちも追い掛けるべきか...でも

    うちがおらんと何も始まらんな、)


奈実樹(...心配やけど、ここは書記はんに

    任せるしかないな。)


美紗「でも流石に先行体験ただでさせて

   貰うのもあれだし」


美紗「来月分のチケットを先行体験分の

   チケットとして取りに行っても

   良いですか?」


樹理「うん、勿論良いよ、」


樹理「学年ごとに人数制限が決まってる

   から場所が近い三年生だけって

   事はないから安心してね、」


美紗「三年生で定員が埋まるくらい人気

   なんですか...?」


奈実樹「回数ごとに増えてっとるからな。

    初回はそこまでおらへんかった

    けど、最近特に樹理人気が凄まじい

    んよ」


奈実樹「回ごとで着てる服も違うしな」


奈実樹(うちの姉はんがサイズ覚えて、

    勝手に作ってしまうから...樹理専用の

    マネキンまで作ったゆうし)


奈実樹「...そやなぁ、今度は夏休み開けの

    昼にチケットを販売する予定

    やからくるならその時やね。」


美紗「夏休み明けのお昼ですね」


奈実樹「戦場やけど。まぁ、頑張ってな」


美紗「"戦場"...、ですか...」


奈実樹「そりゃもう。バーゲンセール前の

    奥様方のごとくな」


美紗「が、がんばります...。」


※スライド


美紗「...あれから書記さん達戻って

   来ないですね...?」


樹理「そうだね...、もう帰って来ても

   おかしくないけど...何かあった

   のかな...?」


 ブブッ、と古池嬢と樹理のポケットからバイブ音が同時に鳴り響く。


樹理「...噂をすれば、だね。...雀さん、

   寝不足で倒れちゃったから書記さん

   が保健室まで送ってくって」


美紗「え...?」


樹理「...休み時間に間に合いそうもない

   から先に召し上がってね。ごめん

   ね、美紗ちゃん。だって」


雪音「私の方のメールも同様の内容

   でした」


美紗「....そうなんだ、」


雪音「何か引っ掛かっているようですね」


美紗「ううん!なんでもないよ、それに

   私の勘違いかもしれないし」


雪音「何か、メールの内容に違和感が

   あったのですね?」


美紗「うーん...、えっとね...。...あの時の

   雀さん。...何処か痛かったのかなっ

   て思ったから...」


樹理「んー...寝不足は確かに頭が痛く

   なるけど...。」


樹理「仕込みを作ってるとどうしても

   寝る時間が短くなっちゃうから、

   雀さんの気持ち分かるなぁ...」


奈実樹「...言うてくれれば手伝うたんに。

    無理したらあかん 毎回言うとる

    やろ、心配なるから...」


樹理「だってナミに迷惑掛けたくないし...。

それに、私ナミのお世話になりたくない

   もん...」


樹理「...同等でいたい。」


樹理「それにナミの方が起きてるし」


奈実樹「...樹理、そういうのは隠すべきや

おまへん」


奈実樹「料理いうんは協力してこしらえ

るもんなんよ、こしらえとる人が

苦痛感じとうたら食べてくれる人に

   もそれは伝わってまう」


奈実樹「それに起きられる時間も人に

    よって違うしな」


樹理「...それは、ごめんなさい...」


奈実樹「わこうてくれればそれでえぇん

    やよ。料理は上手い人が一人居れ

    ば良い訳やない」


奈実樹「それを忘れたらあかんからな。」


奈実樹「...話折ってもうてごめんな、頭痛

    やない感じやったんよね?」


美紗「時間もないので...、えっと...食べ

   ながらでいいですか?」


※キャプション


雪音「いつ頂いても、変わらない美味しさ

   ですね」


奈実樹「ありがとうございます※方言」


樹理「筑前煮はナミが作ったんだよ。ナミ

   の作る和食は本当にすっごく

   美味しいんだから!!」


奈実樹「まぁ...和食はなぁ...。洋風料理は

    樹理には到底敵わんよ」


樹理「ううん、私にはこんな味出せない

   から...」


奈実樹「...そんな事、あらへんけどね。...

    というか私らが喋べっとると

    美紗ちゃん話せへんね」


美紗「あ、...いえ!私、話すより人の話を

   聞くほうが好きなので、あまり気に

   しないで下さい」


美紗「.....、」


美紗「...やっぱりやめておきます。

   こういうのってあんまりよくない

   ことだと思うので...」


古池嬢「そうですね。美紗さんがそう仰ると

    いうのならそれがきっと正しい

    選択肢なのでしょう」


古池嬢「...御馳走様でした、とても美味しか

    ったです。明日の体験講習も楽しみ

    にしていますよ」


美紗「...あっ、御馳走様でした!!」


奈実樹「古家の令嬢さんにそう仰って

    頂けるとこちらも鼻が高いな。」


奈実樹「美紗ちゃんもあんがとな、

    どうもお粗末様でした。」


雪音「そろそろ予鈴も鳴る時間ですね。

   今日は此処までに致しましょう」


樹理「片付けは後で私達がしておくから、

   心配しないでね。」


※キャプション


奈実樹『何で泣いとるん?』


??『...う、...うぇええん!!』


奈実樹(困ったな、こういう時はどうすれば)


奈実樹(そういやおかんが元気ないとき

    料亭のおかずをくれたな。)


奈実樹『...ちょい待ってな。』


??『うっ、ううっ...、』


奈実樹(何の料理が良いか、レシピレシピ)


奈実樹(甘い料理がえぇなぁ。あ、これなんか

    えぇやん)


奈実樹『筑前煮、食べへんか?』


??『.....』


奈実樹『筑前煮。嫌いか?』


??『...食べたことない、和食』


奈実樹『筑前煮、知らんのか?甘くて美味

   しいんよ。ほら、食べてみ』


奈実樹『うちが作ったのやからただでえぇよ、

    旅館のサービス思っとき』


奈実樹『ただやぞ、ただ。食べへん理由なんか

    ないやろ?』


??『....Let's、eat』


 恐る恐る、彼女は箸を手にとって人参を口に入れる。外国人なんかな


奈実樹(アリスみたいな子やな。それか天使が

    地上から落ちてきたみたい)


??『...おいしい、』


奈実樹『やろ、うちの料理は旨いからな!!』


トントントントン...


奈実樹「....。」


奈実樹「...そういや、そんな事もあったな。」


※スライド

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