③雪音宅編【みさゆき】

雪音「此方です」


美紗「わぁ...、凄いー...!!」


 待ち合わせ場所で雪音を待ってたら急に黒塗りの高級車がやってきて。


 メイドみたいな人が出て来たから凄いなぁ...って横目で見てたんだけど、


 その車から雪音が普通に降りてきて、そのままメイドさんに笑顔でどうぞって言われて、座って、訳も分からずそのまま凄い美味しいお紅茶を頂いたりして...


 気付いたら雪音のお家の前に着いてたみたい。


車が近くまで近寄る前に、和風の玄関の門が音を立てて開き始める。


雪音「此処までで構いません」


運転手「畏まりました。では、また後程。お客

    様がお迎えにあがられます際は気軽

    にお申し付け下さい」


雪音「ご苦労様でした。ではまた後程

   お願い致します」


 広いお庭で...凄い立派な鯉が泳いでるし、ししおどしなんて生で初めて見たかも...。


美紗「凄いっていう想像はしてたけど...、

   想像を遥かに越えてて私、びっくりし

   っぱなしだよ。雪音って本当に凄いお家に住んでるん

   だね」


雪音「そうでしょうか?狭くて落ち着きます

   から、私はこの家は大変気に入って

   いますよ」


美紗(...これは、...本気で言っている顔だぁ)


美紗「確かに別荘よりはそうだけど...、

   これを常識にしては...いけないです

   よ...?」


美紗(雪音がもし、私の家に来た時。どういう

  反応するかちょっと気になるけど...)


雪音「流石の私でも、そこまでは箱入り娘

   ではありません。他の方の自宅がどう

   いったものかはきちんと把握して

   いますよ」


美紗(というかこれ、いつ渡そう...?さっき

   運転手の人に渡しそびれちゃったし...)


 くゆに選んで貰ったお土産が入ってるバックを軽く抑えつつ


 広い庭を見ながら雪音の後をゆっくりと歩いて付いていく...。


 裏に回ると、今までの和風な感じから一気に洋風の建物に切り替わっていた。


美紗「えっ?!」


雪音「どうか致しましたか?」


美紗「ごめん、雪音ちょっと戻っていい?」


雪音「え、ええ...」


美紗(入口の方が和風、奥は洋風な造りに

  なってるのかな...?角を通り過ぎると

  急に切り替わるのとかイリュージョン

  みたい...!!)


美紗「...わぁっ、凄い。凄い!!

   ねっ、雪音っ?」


雪音「いえ...、実家ですので...。」


※スライド


 もうちょっと色々見たかったけど、雪音のお家に来させて貰って流石にそれは不味いなって思ったので...。


美紗「そもそも目的は橘さんのお手伝いな

   訳だもんね...、はしゃいじゃって

   ごめん。雪音...」


雪音「別に良いですよ。時間は沢山あります

   から。...それに、ですが」


雪音「お婆様が好きだったのですよ、

そのようなものが。お休みになられる

   度に今の杏里さんのようにしておられ

   ました」


雪音「見慣れている景色であっても、お婆様

   は何故あれほど子供のように興味を

   もたれたのか...今の私には到底理解は及びませんが」


雪音「きっと御婆様にとってはとても

   素晴らしい光景だったのでしょう」


美紗「え?だって、凄くない?和室と洋室

   がリバーシブルになるんだよ」


雪音「凄いのでしょうか、...私には曖昧過ぎ

てその言葉の意味がよく分かりませ

   ん。」


美紗(まぁ雪音にとっては小さい頃から

   見慣れてる景色だからね、)


晴華「おはようー、美紗ちゃんー。今日は私の

   こと手伝ってくれるってゆっきーから

   聞いたんだけど、本当に良いのー?」


美紗「あ、はいっ。雪音への贖罪(しょく

   ざい)なんで」


美紗「勝手に私が雪音にキスされた罰

   です...!!、、」


晴華「そこだけ聞いてると美紗ちゃんも大変だねぇ。」


雪音「後の事は貴方にお任せします。晴華

   さん...では、私はこれで失礼

   致します」


晴華「またねー、ゆっきー」


雪音「では、...また」


と、雪音は橘さんに私を任せてそのままどこかに行ってしまった。 


美紗(雪音はキスした時のお仕置きだって

   言ってたけど、)


美紗(多分、普段から忙しい晴華さんの

   負担を少しでも減らすために雪音

   なりに頑張って考えた結果なのかな...。)


美紗(それが晴華さんに本当の意味で

   伝わると良いんだけど...、)


美紗(...雪音が頼ってくれたから頑張る

けど、私そこまで晴華さんの事

知ってる訳じゃないからなぁ...、)


美紗(それにしても、橘さんと二人っきり

  で作業かぁ...。

  んー、別に嫌って訳でもないんだけど...。

  ...なんか、すっごい雪音の事でからかわれ

そうなイメージ)


美紗「橘さんの前では普段からあんな

   感じなんですか?」


晴華「ううん、ゆっきーがあぁなったのは

   此処最近だよ。今日は私の為に美紗

   ちゃんを貸してくれたんだね、」


晴華「あ、そうそうー。私の事は晴華で

   良いよー?、今日はよろしくね。

   美紗ちゃん」


美紗「あ、いえ...こちらこそ...、」


美紗「あっ。そうだ...っ!!」


美紗「これお土産です!!皆さんで、

   どうぞ」


と、ちょっとお高めのお茶菓子を橘さんに渡す。


車の中では渡しそびれちゃったけどっ...、


 くゆが選んでくれたやつだから、間違いないはず!!私も誘惑に負けて同じの買ったし!!食べたら凄い美味しかったし!!


美紗(でも、...お土産、渡せれて良かったー)


晴華「わぁ、ありがとー♥️お土産は冷やして

   から皆さんにお渡ししするねっ、すぐ

   戻ってくるからー。安心してね?」


晴華「その間にね、美紗ちゃんにして

   欲しい事があるの」


美紗(して欲しい事?何だろう...?)


美紗「が、頑張ります...!!」


晴華「それはねー...、じゃーん!!これだよ

   ー!!」


美紗「...作業、服?」


と、橘さんからお洋服を受け取る。


 新品みたいに真っ白なお洋服だけど...、

良いのかな...?

   

晴華「作業するとどうしても汚れちゃうから、

   この部屋で着替えてねー」


美紗(普通に可愛い作業着、)


※キャプション


晴華「わぁ、美紗ちゃん。よく似合ってるよ

   ~♥️」


美紗「あ、ありがとうございます...///?」


晴華「うんうん、やっぱり女の子は皆

   可愛いもんねー。美紗ちゃん

   私服も可愛いし、センスも良いし

   絶対似合うと思ったよー。」


晴華「それに、私の心配もしてくれてー。

   すっーごく良い子だよねー、私はそんな

   美紗ちゃんがとーっても大好きだよ

   ー?」


美紗(なんか、さっきから...すっごい褒められ

てる...///、、)


 橘さんから貰った服が着替え終わって、次はお外に歩いて行ってるみたいけど...


どこに向かってるんだろう...、


美紗「というかそこまで褒められると、なんか裏が

   あるような感じで逆に怖いんですけど...」


晴華「ん?全然そんな事考えてな

   かったよー...?さては美紗ちゃん。

...人に褒められ慣れてないな~?」


美紗「そういう晴華さんは凄い褒められ

   慣れてそうですけど」


晴華「それは私を支えてくれた人達が

   居てくれたから、私が褒められる

   ようになったのも皆その人達のお陰

   だよ。」


晴華「あ、此処で一旦、ストーップ」


と、橘さんが足を止めたので私も足を止める。


 歩みを止めたその先には、晴華さんが育ててるのかな、立派な実が付いたお野菜やお花達が咲いてる


 ガーデニングスペースがそこにあった。


美紗(お母さんが育ててるから、辛うじて

  プチトマトの花だけなら...分かる...っ!!)


美紗「此処にあるお野菜やお花は晴華さん

   が全部育てたんですか?」


晴華「此処のスペースはね、庭の殆どの

   お花は庭師さんが育ててるん

   だけど」


晴華「ゆっきーに何かしてあげられないかなー

   って、相談したら此処の畑を頂いて

   ねー」


晴華「それからは此処でゆっきーに作って

   あげる料理に使うお野菜を、自分で

   一から育ててるんだー」


美紗「へぇ...、本当の愛が成せる技ですね...」


晴華「ふふ、そうだねー。最初の方は教えて

   貰ってやっと育ったーって感じだったけどね」


晴華「でも、今は育て方もしっかり覚えたからちゃん

   と育つようになってきてるんだよー?」


晴華「お花のお水をあげてー、肥料を新しく

   変えてあげるの。あそこにあるのが

   紅茶でー、こっちにあるのはー

   お野菜、その木は葡萄だよ。」


晴華「植物には炭素が良いって言う

   から羊の毛をちょっと埋めてるん

   だけど結構効果があるんだよ、」


美紗「えっと...、それで私は何をしたら...」


 さっきから、慣れた手付きで説明しながら橘さんはそつなく全部やっちゃってるし...。そしてもう終わっちゃってるし...。


晴華「美紗ちゃんにはねー、そこで私のしてる

   事を見てて欲しいんだー」


美紗「見てるだけですか...?」


美紗(雪音からは橘さんのお手伝いをして

   欲しいって言われてるんだけどなぁ...、)


晴華「ふふ、まだまだだねー美紗ちゃんー。

   見るのはとっても大切な事。

   じっくり観察して考えて、見て、感じ

   て...。そして...、覚える。」


晴華「それって、とても簡単に見えるけど、

   本当は凄く大事な事なんだよー」


美紗(うーん...。...でも、雪音に何て言った

  ら橘さんの事見てただけ、なんて

  言えないし...)


 軍手を付けながら、虫を掴んで逃がしてあげる晴華さん。


美紗(以外と虫平気なんだ...、)


 ...なんというか、テレビで明るく笑ってるモデルさんがする事とはどうしても思えなかった。


美紗(それにこのまま本当に見てるだけじゃ

  流石に駄目な気がする...、せめてこの

  辺の雑草抜いたりとか...。)


晴華「私は小学生の時の記憶がないからー、

   お母さんの事も、お父さんの事も

   そして、自分の名前も...」


晴華「普通は知ってて当然の事が

   私には何一つ分からなかった、」


晴華「記憶を失う前の私にとって、今の

   私は本当の私じゃなくて。全くと

   言って良いほどの別人。」


晴華「この身体の持ち主が記憶を失って

   なかったら私という存在自体、

   生まれなかったんだろうなって、」


晴華「記憶を失った私は一体何者なんだろ

   うって思った時にゆっきーが私に名前をくれたんだ。」


晴華「でも、私は最初から一人ぼっち

   じゃなかったし、ゆっきーや椿さんから

   始まって、それからメイドの皆さん、」


晴華「ファンの人から朝乃ちゃんって...私の

   大切な人が。大好きな人達が橘晴華とい

   う今此処にいる私の事を好きに

   なってくれた」


晴華「ゆっきーのお祖母様も。私の事を

   本当の家族のように育てて

   下さった、」


晴華「いつの間にか私には家族と思えるような

   人が周りに沢山いてくれて」


晴華「それが今の私にとっては皆の

   お母さんやお父さんのような、

   大きな心の支えになってるんだ、」


晴華「私は沢山の人に支えられて貰って

   今生きてる。」


晴華「だから私は安心して、自分を信じて

   夢に向かって、...橘晴華として、

   走っていけるんだよ」


美紗「...皆に支えられて今の自分がいるって

   言うのは私も、本当にその通りだと

   思います」


晴華「うん、私も美紗ちゃんだったらこの言葉

   の意味が分かってくれるかなーと

   思って」


晴華「だからちょっとの無理は許して欲しいの。美紗ちゃんなら分かるでしょ?」


美紗「分かりますけど、承認は出来ません。」


晴華「美紗ちゃんは一途だね。」


美紗「分かってるなら治す努力をしたら

   どうですか...?」


晴華「分かってる癖に、直らないって。

  私は周りにどれだけ心配されても。

   倒れないと分からない人なの」


晴華「例え、それがゆっきー相手でもね。」


パチンッ...、パチンッ、


美紗(この人には何を言っても無駄、か...)


 たくさん葉っぱの付いた枝を持ってから、橘さんはそれをハサミでばっさりと切り始めていく。


美紗(あれ?...折角綺麗な花もいっぱい咲いて

   るのに、切っちゃうんだ...。)


美紗「えっと、全部切っちゃうんですか?」


晴華「全部は切らないよー?間引きだから」


美紗「間引き...?」


美紗(って、何だろう...?)


晴華「...こうするとね、一つの茎に栄養がいっ

て良い実がつくようになるの。此処から落

   ちた花もその栄養分になるんだー」


美紗「へぇ...。あ、確かにちょっとしおれてる

のとかありますね、晴華さんが切った後

のやつは...」


晴華「そうそうー。少し悲しいけど、良いもの

   を作るにはこうした方が良いんだよ」


晴華「...よしっ、と。美紗ちゃんお疲れー、

   此処はこれでお終いー」


美紗「私何もしてないんですが...。大丈

夫かな...」


晴華「ううん、美紗ちゃんはちゃんと私のお話

に付き合ってくれてるよー?」


晴華「話相手っていう面で。」


晴華「それにこの畑の事は私に全部させて欲し

   いから、ゆっきーにはこれくらいの事しか

   私してあげられないし...ごめんね?」


美紗「いえ、事情が事情ですから...!!雪音の

   ために此処までしててすごいと思いまし

   たし...」


美紗「私も...、私にできるなにかを雪音の

   為にしてあげられたら良いんですけどね。」


晴華「んー、そうだねー。例えば美紗ちゃんは

ゆっきーにどんな事をしてあげたら、

   ゆっきーは幸せになれると思う?」


美紗「雪音が幸せに...?」


美紗(....。....そもそも)


美紗(...雪音の、本当の幸せって何だろう...。

  やっぱり感情が戻る事...?それとも雪音に

  とっての心配事を減らした方が雪音は幸せ

  になれるのかな...)


美紗(晴華さんは無理だって言うし、)


美紗「...んー、...やっぱり、すぐには思い

   付かないです...」


晴華「ふふ、そうだよね。...でもね、その答え

は簡単には見付つけちゃいけないんだよ

   。特に、美紗ちゃんには...」


晴華「...見付けて欲しくはないから」


美紗「見付けて...欲しくない?」


美紗(...やっぱり、...橘さん。私の事まだ信頼

  して貰えてないのかな...、というかこの人の考えてる事はほんとによく分からない...、)


晴華「...目標が大きい程ね。それが達成

   しちゃって、満足した瞬間。

   それから先はどうすれば良いん     

   だろうって思う事があるの」


晴華「お父さんとお母さんが見付かったら、

   ...私、正直、今の生活に戻れる自信が

   ないんだ。モデルのお仕事もきっと

   出来なくなっちゃうと思う...」


晴華「やっぱり普通の暮らしに戻りたい

   から」


晴華「美紗ちゃんにはそうなって欲しくない

   の。私はもう、戻れないとこまで来ち

   ゃってる...。私は...そうするしかなか

ったからね。」


晴華「ふふ、そんな顔しないで。笑顔だよ

   ー。笑顔っ!!私が言いたかったの

   はゆっきーを幸せにして欲しいなっ

   ていうただそれだけなんだからっ、

   ね?」


 最初は晴華さんの事、雪音のお姉さんだから取られたくなくてお節介かけてくるのかなって思ってたけど....


 晴華さんも晴華さんで色々思う事があったんだろうな...。


美紗(晴華さんにとっては雪音は大切な

   妹だもんね。そりゃ邪魔したくも

   なるわ...、、)


美紗「ごめんなさい...っ!!」


晴華「美紗ちゃん...?」


美紗「私晴華さんの事ずっと誤解して

   ました。晴華さんは雪音の幸せを

   本気で思ってたんですよね。」


美紗「私絶対雪音を幸せにしますから。

   ずっと、ずっと...!!雪音を誰よりも、

   幸せにするって誓います。」


美紗「晴華さんの分まで」


美紗(自分じゃ雪音を幸せに出来ないって

   思ってるから晴華さんはその分、

   私に託したんだ)


晴華「...」※ビックリ顔


晴華「.....」※幸せそうな笑顔


晴華「ありがとう、美紗ちゃん。」


 その時の晴華さんの顔を私は後にも先にも絶対に忘れないと思う。例えどんな事があっても、私は...


 雪音の感情を取り戻して、雪音をずっと幸せにしてみせるから。


※キャプション


美紗(よし、頑張ろ...っ)


 次は洋館の方に移動して行くみたい。晴華さん家では普段どんな事してるんだろう...。


 ...というか、晴華さん...。モデル仕事の休みの日には毎日こういうこと、してたりするのかな...?


 野菜育てに他にもいくつかしてるみたいだし、休みの日くらいゆっくりすれば良いと思うけどそういう所は私と違うんだよね。


美紗「...晴華さん大変ですよね。モデル

  のお仕事もあって、お休みの日まで

   こんな事」


晴華「...んー?確かに強い雨の日とかテント

   掛けてあげたりするのは大変だけどー、好きだから ねー。モデルのお仕事

   も全部」


晴華「お野菜が育つと嬉しいしー、それにね。   

   頑張って育ってくれたお花を見てると

   私も頑張ろうって気持ちになれるの」


晴華「大変って気持ちより、ゆっきーの為に

   何かしてあげられるのに幸せを感じるん

   だよー」


美紗「あんまり甘やかし過ぎると、相手の

   方が駄目になっちゃいそうですけどね」


晴華「...駄目な人ほど可愛いなーって

   思うんだけどねー、一般的には違う

   みたい。私ってちょっと可笑しい

   のかな?」


晴華「他の人からは「晴華ちゃんってあんまり人を選ぶ目ないよね。」って言われ

   ちゃうんだけど、掃除出来ない子とか、

   ご飯作れない子とか私が作ってあげたい

   なーって思っちゃうの。」


晴華「下手に包丁持ったりして怪我したら危な

   いし、...美紗ちゃんはそういう子どう思

   う?」


美紗「え...?」


美紗(掃除はまぁ、出来るけど...料理はちょっ

   と...自信ないなぁ...。でも、ずっと

   そのままでいるのはよくないと思う

し...)


美紗(それに今は怖くて練習出来ないけど、

   お父さんに...認められるお料理をいつか

   作れるようになりたいって思うし...)


美紗(...でも、...やっぱりどうしても。

...怖いんだよね。それが許されるなら...

  どれだけ心が楽になるんだろう)


美紗(料理はもう作らなくて良いんだ、

   って)


晴華「あんまり聞かれたくない内容だった?」


美紗「...いえ、私は料理が苦手で。...でも。

そのままずっと出来ないままっていう

   のは、少なくとも私は...嫌だなって」


晴華「...ふふ、そっか。美紗ちゃんはちゃんと

   出来て偉い子だねー」


美紗(...逃げるのはいつでも出来るし、でも

   やっぱりそのまま逃げるだけってのは

   嫌、だから。)


晴華「ん?どうしたのー?」


美紗「...晴華さんみたいな人って本当にいるんだなーって。そんな男の人が喜ぶ理想のお嫁さんみたいな人、

   リアルでいるんだなぁと...」


晴華「え...?私、そんな変なこと言った

   かな?」


美紗(晴華さんって、天性的な天然さん

   なのかなぁ...。今までのって別に意地悪

   とかじゃなくてただ天然だっただ

   け...?)


美紗(いや...。まさか、ね...。)


※スライド


美紗「わぁ...、綺麗な子...」


 神様の使いと言われてもすぐに納得してしまいそうなくらいに綺麗な

サラサラとした真っ白い毛並みが風にたなびいている。


美紗「今にも喋り出しそうなくらい貫禄がある...、何か凄いこっち

   見てるけど...」


 流石...雪音のお家で飼っているお馬さんだ...。飼い主に似て、ただの馬とは思えない気品さを醸し出していた...、


美紗「私を見ても逃げださないし、暴れない

   なんて...。流石雪音の飼ってるお馬さん

   だ...」


 因みに、さっきまで側にいた白い子猫は私が入ってきた瞬間フーッ!!って言って、


どこかに行っちゃったんだけど...。あの子が雪音が前に言ってた小梅ちゃんなのかな?


晴華「凄い勢いだったねー。」


美紗「まぁ...慣れてますから...」


晴華「ミルク持って来たんだけどねー、

   珍しい事もあるんだねー」


晴華「えっとね。この子がビアンカだよー、

   ビアンカはプライドが凄い高い子だから

   ー。ゆっきーと椿さん以外には背中に

   乗せた事がないんだよねー?」


ビアンカ「...ブルルッ」


美紗「それって、晴華さんもですか?」


晴華「勿論そうだよー。ゆっきーの子だもん、

   私は乗らないよ。よしよしー...」


 と、晴華さんはビアンカと歩きながら床が大理石で出来た専用のシャワー室に入っていく...。


 その間もビアンカさんはずっと私の方を凝視して歩いているんですけど私何かしましたか...?


美紗「愛馬専用のシャワールームなんてあるん

   だ...、お世話大変そう...。」


晴華「あははー...何匹も居たら大変だと思う

   けどビアンカ専用のシャワールームだからね

   ー。」


晴華「お湯だと洗い易いし、ビアンカも

   大人しい子だからそこまで

   大変じゃないよー」


 ビアンカの身体にシャンプーを付けて、塗っていく晴華さん。


 その後、柄の長いブラシで鬣を洗った後、流してからすぐさま身体を別のブラシで洗っていってる...。


美紗(凄い手慣れてるなぁ...、...というかそれ

   よりもシャンプー中なのにまだこっちを

   ずっと見られてるの凄い気になる...)


晴華「...昔のゆっきーはこの子の殺処分が

   決まっても、悲しい顔一つしなかっ

   たんだよね。...ううん、出来なくなってた」


晴華「あんなに明るかったゆっきーの笑顔が

   突然消えて、凄く怖かったの。」


美紗「殺処分!?!?え、何したんですか」


晴華「といってもビアンカは全然悪くない

   よ、寧ろ悪いのは人間の方。」


晴華「小さかった私はその頃の事はよく

   覚えて無くいんだけど...、後で

   メイドさんからビアンカがゆっきー

   を助けてくれたんだって知った」


晴華「誘拐事件でゆっきーを守ろうとした

   ビアンカが犯人を蹴り飛ばしたん

   だよ。凄い大暴れで興奮してて

   大変だったんだって」


美紗「だからって殺処分なんて...、そんな

   のあまりにもビアンカが...。」


晴華「どれだけゆっきーがビアンカの

   事好きだったか知ってたから」


晴華「だから私も必死に反対したんだけ

   ど...、子供、それに拾われたばかり

   の子供の話なんて誰も信用して

   くれなくて...」


晴華「それを救ってくれたのがゆっきーの

   お婆様の霙(みぞれ)さんだったの。霙さんは

   凄い剣幕で私の話を信じてくれて、」


晴華「ビアンカだけじゃなくて、私の心も

   一緒に救ってくれた。...そんな霙さんが亡く

   なっちゃって」


晴華「私が霙さんの為にもゆっきーをずっと

   守っていかないとって...思ってた。」


晴華「でもね、...美紗ちゃんがゆっきーに

あげたあの本を読んで思ったの」


晴華「あぁ、...この人なら安心して雪音を

   任せられるって。」


美紗「晴華さん...」


 ブルブルと水滴を払うビアンカ。晴華さんはビアンカの首を優しく撫でながら、丁寧に濡れた身体をタオルで拭いていく...。


晴華「...昨日、ゆっきーが私の部屋に寝に来て

   くれたんだけど。...そんな事、ゆっきー

   が誘拐されかけたあの日から...初めてだ

   ったんだ」


晴華「...もう、ないと思ってた。それに

   シラフであんな事言われちゃったらね

ー。...ビックリしちゃったー」


美紗「え、...どんな事ですか?」


晴華「私に無理をして欲しくないって、昨日

   言われちゃったの。...私がゆっきーを

   心配させちゃってたんだって」


晴華「...そんな事今まで一度もなかったのに」


 ビアンカを温風室に移動させながら、ゴゴゴと乾いた毛を棚引かせ気持ちよさそうに目を閉じているのを晴華さんと見ながら私の隣で晴華さんはそう、語っていた。


晴華「美紗ちゃんには本当に感謝してるよ」


晴華「美紗ちゃんに会ってから、ゆっきー

   は前よりも学校での事をお話するように

   なったし。...私もそれが本当に嬉しか

   った、」


晴華「まるで本当の姉妹みたいに。」


晴華「私はお仕事が忙しくてゆっきーと一緒にいて

   あげられる時間も短いし、美紗ちゃん

   なら私よりもゆっきーの事を幸せにして

   くれるって...思ってる。」


晴華「さっきの話ね、美紗ちゃんは自分では

気づいていないと思うけど」


晴華「美紗ちゃんは充分ゆっきーを良い方

   に変えてくれてるよ」


晴華「...この事が話したくて、お手伝いして

   貰ったのもあるんだけど。あははー、

   それ以外にもいっぱいお話しちゃった

   ねー。」


晴華「こんな真面目なお話するつもりじゃなか

   ったんだけどなー、もっと普通の女の子

   みたいなお話を沢山するつもりだったん

   だけどねー。...なにか、ごめんね?」


美紗「いえ、晴華さんのお話が沢山聞けて

   すごく良かったです。他の人には絶対

   聞けないお話だったと思いますし」


晴華「そうなんだよねー、今日したお話は絶対

   他の人に言っちゃ駄目だよー?。お父さんとお

   母さんが見付かったら辞めたい、」


晴華「なーんて、言ったらきっと大騒ぎになる

   だろうからねー。モデルのお仕事は勿論

   好きだし辞めたくはないけど...」


晴華「お父さんとお母さんと今まで会えなかっ

   た分、色々してあげたいからー...そのた

   めにもこれからもーっと、もーっと!!」


晴華「有名になれるように頑張らなき

   ゃだよねっ!!今は美紗ちゃんがゆっき

   ーにはいてくれるから私もーっと、

   頑張れそうだよー♥️」


美紗「それは良かったですけど...でも、あんま  

   り頑張り過ぎないで下さいね?雪音も

   そして、私も心配しますから...。」


晴華「勿論だよー」


美紗(...晴華さん、本当に分かってる

   のかなぁ...)


※キャプション


晴華「ゆっきーには私が上手い具合に言って

   おくから大丈夫。私に任せておい

   てー」


美紗「いえ、良いんです。多分雪音は事情

   があれば怒らないと思うし...それ

   に、雪音に嘘をつくのはやっぱり

   嫌ですから」


 約束してたお昼の時間、雪音と晴華さんと三人で食事をとる事になったんだけど


 その時に雪音に今日の事をなんて報告するかはもう、私の中で決まってた。


晴華「...うん、そ、っか。美紗ちゃんなら頑張

   れそうだもんね。私も応援してるから、

   頑張って!!」


と、扉に入った瞬間。すぐに晴華さんは私の役目はもう終わったからーとでもいうかのように再度ドアに手を掛けていた。


美紗「え?」


晴華「美紗ちゃんごめんねー。私まだする事

   があってー...、またすぐに戻ってくるか

ら、その間ゆっきーとお話しててねー」


美紗(この人最初から私に手伝わせる気なかったな!?!?)


 ...いや、というか頑張ってって、確かに頑張るって言ったけど、私一人で!?


 う、嘘。晴華さんがそ、側に居てくれる前提で私っあんな大丈夫ですよ。的な事言ったのに...!!、、


美紗「えっ!?、ちょっ...、まっ」


雪音「では、晴華さんがいらっしゃるまで

   お話致しましょうか。」


美紗「....あ、...はい」


ラスボス感が、凄い。


雪音「どうぞ、おかけください」


 と、丁度雪音の向かい側にある柔らかそうな椅子が私の太ももに軽く触れる。


 ...別に隠し事をするつもりはないんだけど、というかどっちかというとその逆なんだけど...。


美紗(...いつも通りにお話すれば良いだけ

   だから、そう、いつも通りに...)


美紗「雪音は晴華さんと食べるのはいつも

   一緒じゃないの?」


美紗(...。...うん。分かってた。分かってた

   よ、私。晴華さんが急に居なくなるとか

   予想外だったの、分かるよ。私)


美紗(でもまずは晴華さんの話から

   遠ざけるべきだった)


雪音「本日は彼女がお料理を作って下さるそうです

   よ。このような日くらいはフレンチでも

   良かったのですが、彼女がどうしても

   と聞かなくて...」


美紗「あぁ、だから晴華さん出て行っちゃった

   んだ。...そっか、晴華さん料理も出来る

   もんね。本当に何でも出来て凄いな

   ぁ...」


美紗「あ、でも。この日くらいはって今日、

   何か特別な日だったの?私来ても大丈夫

   だった?」


雪音「えぇ、今日は6年前...晴華さんと私が初めて

お会いした日ですので。本来の彼女の

誕生日を知る術は見つからず...、」


雪音「そのため、9月15日が晴華さんの

   仮の誕生日ということになっています」


美紗「えぇ!?晴華さん今日、誕生日だった

   の!?言ってくれたら何か用意したの

   に」


雪音「...いえ、私もそのようには思ってはいた

   のですが。少し考え事をしていまし

   て、自分の事で手いっぱいだったので

   す...。」


雪音「普段でしたら、考えもしないような事を

   本当に実行するというのは、...こう、

   何か...落ち着かないものですね」


美紗(あー...晴華さんが昨日、雪音が寝に来て

   くれたって言ってたけど...。その事?)


美紗「あー...、...気恥ずかしい感じ?」


雪音「...貴方が私にそのようにさせるように

仕向けたはずなのですが。あえてそれを

   私に言わせる必要性はあるのでしょうか?」


美紗「えへへ、冗談、冗談。でも雪音、本当に

   頑張ったよね...。今までしようと思わな

   かった事をしたんだもん。それだけでも

   凄いよ」

 

雪音「...初めからそのように仰って頂ければ

   良いのですよ。」


美紗「うん」


雪音「ところでなのですが、そちらのご様子

   は如何でしたでしょうか?」


美紗「...その事、なんだけど」


美紗「雪音に嘘を付いてもすぐばれると思う

   し、本当の事を言うね。」


美紗「晴華さんのお手伝いは結局最後まで

   出来なかった。ごめん...約束は午後

   までって話だったもんね...、」


雪音「....」


雪音「...やはり、...そうでしたか。今日という

   日くらいはお休みをして頂きたかったの

   ですが、彼女にはそれさえも難しいの

   でしょう。」

 

美紗「良いの?」


雪音「仕方ありません。自分でも出来なかった事

   を杏里さんに強制する程、私は愚か者

   ではないですから」


美紗「なにそれ、酷いよー...もぉ...。...えへ

   へ///」


晴華「お待たせー、ん?何か楽しそうな雰囲気

   だねー」


雪音「それほど大した事ではありませんよ」


晴華「恋人同士の二人っきりの秘密ってやつかな

   ー?」


雪音「杏里さんをあまりからかうものでは

   ありませんよ。」


晴華「あははー、ゆっきーにこのお話をするの

   はまだちょっと早かったかなー?」


 ガタンガタンと、銀色の動く台を引きながらやってくる晴華さん。流石晴華さん、コックさんの帽子も凄い似合ってる...。


晴華「アンティパスト、フレッシュパスタに

   ー、ニョッキとー、チュッピンと後は

   最後にデザートでドルチェを持って

   くるねー♥️」


美紗「わぁ...、パスタ以外全然何か分かんない

   けど...!!すごく、美味しそうな匂いが

   しますっ!!」


 晴華さんは手慣れた仕草で並べた透明なグラスにコップに水が注がれた後。


 お絞りやフォーク、ナイフは音も立てずに、置いていき...


 コトン、と銀色の丸い蓋を開けると真っ白なお皿の上に黒くて少し長い貝殻が乗った料理が目の前に置かれる。


 ...それはまさに小さい頃にお母さんと行った一流、レストランのフルコースのようだった。


美紗「凄い...、ですね...。」


晴華「え...?」


美紗「えっ?」


晴華「...あっ、...そうだねー。テーブル

   マナーは二年生の授業で5月の校外

   合宿で行くからー。その時に勉強する

   と思うよー」


美紗(晴華さんにとってはこれが普通かーーーっ!!!なーる、ほどねーー!!)


美紗「そうなんですか?それにしても、美味し

   そうなフランス料理ですね!!」


晴華「イタリア料理だよー♥️」


晴華「...んー。説明ー、は別に無くてもいいかなー?時間が勿体

   ないもんねー。」


美紗「説明?」


晴華「この料理はこれが使われててーってや

   つだよー。ゆっきー、これは食べるの

   初めてじゃないからカットしても大丈夫

   ー?」


雪音「えぇ、構いませんよ」


と、雪音はナフキンを巻いてフォークを手にする。...いやぁ、その...テーブルマナーは想定していませんでしたよね。


 よく考えれば分かる事だったんだけどなぁ...。しまった...


美紗(見よう見真似じゃ...、ナイフとかはまだ

分かるけど、流石にナフキンは自信ないなぁ

   。晴華さんから付け方、聞こう

   かな...)


晴華「普通に食べて大丈夫だよー。」


美紗「あ、...ありがとうございます。」


 晴華さんも私に合わせてくれているのか、ナフキンを付けずに普通に食べてくれてる。


...雪音は普通に上品に食べてるけど、


 けど...、雪音のそういうブレないとこが、好きなんだよねぇ~...///////


美紗「えっと...じゃぁ、いただきますー」


※キャプション


美紗「はぁ...、ご馳走様っ!!でしたー!!」


晴華「えへへー、私の作った料理が美紗ちゃん

   のお口に合ってて良かったよー。ありが

   とねー、美紗ちゃんっ」


美紗「ほとんど食べた事ない料理

   でしたけど、皆凄っく美味しくて!!

   それに、トマトとお魚ってあんなに

   合うんだって私知りませんでした!!」


晴華「ふふ、喜んで貰えて嬉しいよー」


美紗(へへー///、今度、柚夏にもお願いして

みようかなー///。もし知らない料理だっ

たら試しに作ってみようかなとか言って

   作ってくれそうだしっ)


 食事も無事に終わって、本当に幸せな気分でお腹もいっぱいになった頃...。


 ふっ、と時計を見ると、もう午後を回っていた。


美紗「雪音と晴華さんとお話ししながらご飯

   食べてたら、あっという間に時間が過ぎ

   ちゃった...。」


 晴華さんのお手伝いは午後までっていう約束だったから、もう帰らなきゃいけないんだ...。嫌な時間が過ぎるのは遅いのに、


美紗(...なんで、楽しい時間って本当にすぐに

   終わっちゃうんだろう。もっと此処に

   居たいのになぁ...って、はぁ...。また私の悪

い癖...)


 あぁ、駄目駄目!!そうやって昔、お友達の家に居すぎて迷惑掛けちゃったんだもん。


 ご両親に不審がられちゃって、私のせいで向こうが悪者みたいになっちゃったし...。


美紗(でも...、もうちょっとくらいは...良い

...よね?。用事があるからって雪音が

言ったら帰ればいっかな...)


晴華「そろそろかな、ゆっきー」


雪音「えぇ、...杏里さん」


 晴華さんは立ち上がって、上機嫌そうにお皿を片付け始める。


 ...うん。短い時間だったけど雪音のお家、すっごく楽しかったな...、


美紗「あ、うん。大丈夫だよ、ちょうど今帰ろうって思ってたから」


 鞄を肩に掛けて、忘れ物がないか確かめる。...よし、何もないよね。


雪音「何かご用時でもありましたか?」


美紗「へ...?、だって約束って午後までじゃ

   ...?」


雪音「晴華さんはご用時がありますので、

   お手伝いは午前のみという形を取らせて

   頂いたのですが、何かご用があるのでし

   たら」


美紗「....ううん、私ももっと雪音と一緒に

   居たいって思ってた。お手伝いの時間

   が午後までだったから、」


美紗「私てっきり雪音に用事があってもう帰ら

   なきゃいけないんだなって思って...。で

   も、まだ雪音と一緒に居て良いんだよ

   ね」


雪音「...、...えぇ。勿論、構いませんよ。貴女

   がそのように望むのなら。今の私にそれを咎める

   理由もありませんからね」


美紗「雪音、...えへへ、大好きだよ。」


雪音「...愚問ですね。古池の血筋である

   私が杏里さんから好かれるというのは、

   当たり前の事であって、なり得て必然な

   事ですから」


※スライド


 雪音に付いていくと、さっき晴華さんと一緒に入った馬小屋とは思えない立派な小屋の中に入っていく。


雪音「何時もはこの時間に乗馬をしているの

   ですよ。...ビアンカ、いますか」


美紗「乗馬!?って、あのっ!!王子様が白馬

   に乗ってあれなっ、あれ?!」


 すると、首を縦に振りながらブルルと

凄い勢いで自分から寄ってくるビアンカ。


というか、またすっごい、こっち見てるけど...私、何かしたのかなぁ...。


雪音「あれとはよく分かりませんが...、馬は

   とても臆病ですので、大きな声を出して

   しまいますと...その興奮して、」


雪音「...普通の馬でしたら蹴られて当然の行為

   ですよ?また、それと同時に絶対に彼女

   の背後に立ってはいけません」


雪音「そこは彼女にとっての死角ですから。

   背後に立っても、蹴られて死んでも当然です」


美紗「...あー。...そうだったんだ。ごめんね...

   さっきから睨んでるのは煩かった...、

   からとか...?」


と、撫でようと手を伸ばすと首を下げて下がり始めるビアンカ。


そして手を下げると上から見下ろすように私の顔をまたじっと見つめている。


美紗「えぇっと...」


雪音「彼女が気に入りませんか?」


 ビアンカはそれはもう何度も首を縦に振って、頷いている。


...具体的にいうと、見てるこっちがちょっと寂しくなってくるくらいには振ってた。


雪音「...なる程、騒がしくしていましたから

   ね。ビアンカが嫌ってしまうのも無理は

   ありません」


雪音「ビアンカ、」


と、雪音がビアンカの名前を呼ぶと首を下げ始める。すると、雪音は

何かベルトのような道具をカチャカチャとビアンカに付け終えると


 ふわっと、手綱を持ってビアンカの上に跨がった。


 それは...まるで、絵本に出てくる白馬に乗った王子様のようで...なんというか、もうこれ以上ないってくらいに似合ってて...、


 ...雪音が格好良すぎて、喉に言葉がつっかえてて、そう。


 ...今、ただ言えるのは、感動で涙が出そうなくらい...雪音、...本当っ格好良過ぎぃぃぃ/////


美紗(はぁぁぁ...///雪音、私の...女王様...///)


雪音「では、...少し失礼しますね。ビアンカも

   走りたいようですので。三周程、した

   ら戻って来ます」


と、雪音が話終えると同時に外に向かって駆けていくビアンカ。揺れる雪音の美しい髪、...もうなんというか、全てが完璧だった...。


美紗「ありがとう...、ございますッ!!」


美紗「...はっ!?見とれてる場合じゃない!!、

   スマホで写真、撮っとかないと!!」


 急いで鞄からスマホを取り出して、写真を撮る...。でも、距離が結構あるしどうしてもぶれちゃって上手く撮れない...っ!!


美紗「...っく、今までスマホで良いって思って

   たけど、まさかこんな時にゆずかーさん

   が愛用してるデジカメの重大さに気付か

   されるなんてっ...!!」


※スライド


雪音「...ビアンカ、ご苦労様でした。」


ビアンカ「ブルルッ...」


と、長い尻尾を左右に振りながら頷いているビアンカを撫でる雪音。


 ビアンカも広い芝生を走り回れて楽しかったのか凄く上機嫌そうに

している。


美紗「雪音、すっごい格好良くて私、

   凄く興奮しちゃったよ!!本当に白馬

   に乗ってる雪音格好良かった!!」


雪音「興奮し過ぎです...。ただ芝生を走り回っ

   ていただけですよ」


雪音「ですが、...私もビアンカに乗っている時

   はとても清々しい気持ちになりま

   す。...最近の私は、...可笑しいですね」


雪音「...ビアンカ」


 ビアンカを撫でている雪音の目は、とても優しくその姿はまるで慈愛に満ちた女神様そのものだった。


雪音「...あの時、私を救ってくれた貴女を守っ

   てやる事が出来なかった事が今となって

   とても辛く思う時があるのです」


雪音「私を救ってくれた貴女を当時の私は

   悲しみすら感じる事が出来ませんでし

   た...。ですが、今は...違います。貴女が

   いない生活は...今の私には考えられません」

   

雪音「貴女を見捨て、何もしなかった...。

   こんな私を貴女は許してくれますか。

   ...ビアンカ」


 雪音をじっと見ていたビアンカは首を下げて、ブルルと雪音に顔を

すり寄せ始める。


雪音「貴女は本当に...、最高の愛馬ですね」


 そして、雪音の習い事が始まる前に...。次こそ本当に私は帰る準備をし

始める。


美紗「雪音、今日は本当にありがとう。凄く

   楽しかったよ。...もっと一緒に居られた

   ら嬉しいけど、習い事応援してるから」


雪音「はい...。では、また明日。学校で杏里さ

   んとお会い出来ることをとても楽しみにして

   います」


美紗「うん、じゃぁまたね。雪音」


雪音「はい。では、また」


 そうして、黒塗りの高級車に連れられて...私はそのままメイドさんとお話ししながら自宅へと帰ったのでした...。


美紗「はぁ...///、白馬に乗った雪音、本当に

格好良かったなぁ...♥️」


 そう...、その時の私は本当に何も分かってなかった...。


...私が恋人になろうとしている相手が如何に巨大な組織のリーダーで、


 そして、雪音は私なんかが手を出してはいけない存在だったのかを...。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る