⑩スランプ編【みさゆき】


美紗(話、長いなぁ...)


 始業式。やっと校長先生の話が終わって部活の大会とボランティアの表彰式の後...、そろそろ終わるかなって思ってたら


 また違う先生が待ってましたとばかりに階段を上った後。新聞で見たスポーツ選手の話?みたいなのをし始めて...これがまた、長ぁっい...


先生「フンフ選手のように皆さんも日々精進し、

   諦めずに行動すれば必ず努力が...」


美紗(...あ”-、...駄目。...足が、痛い...。

  しんどさの極みみたいになってるから...、)


美紗(見た目以上にきついから...、ほんと

   先生、頼むから先生、話、早く

   終わってぇ”ぇ...)


美紗(...それが駄目っていうなら、せめて

   足を動かす時間を、)


 うぅ、先生も用事がある人だけ残せば良いのになぁ...。スポーツに興味ない人からすれば地獄だよ...というか皆、足痛くないのかな...?


先生「さて、つまらない話は此処までに

   しましょうか。皆さん今にも眠って

   しまいそうですからね」


先生「此処からはもう少し皆さんが

   楽しめそうなお話をします。」


先生「皆さんはお正月はどのような夢を見ました

   か?見てない人は見ていない人で何の

   夢を見るか今後、楽しみですね」


美紗(....お正月の夢、かぁ。...結局、内容は

   思い出せなかったけど)


先生「こんな話を皆さんにしたのも先生、

   お正月に不思議な夢を見ましてね...」 


 何か凄く大事な夢だった気がする。


美紗(いや、何の夢かは思い出せないんだけど)


 大事な夢なら大事な夢で思い出してほしい。大事じゃない夢なら大事じゃない夢で引っ掛からないでほしい。


美紗(夢の内容がこんなに気になるっていうのも

   変(おかし)な話だよね...、雪音が引っ越

   さないですむ夢だったりして。)


美紗(ん~~~...ぬぬっ...、、)


美紗(......、)


美紗(...あ”-やっぱり駄目、だ。全っ然、

   思い出せない...。)


美紗(何となく引っかかってはいるんだけど、

  思い出せないんだよね...)


 始業式が始まって、途中から先生の話を聞き流しながらお正月に見た夢の事を考えていたら...いつの間にか始業式が終わっていた。


※キャプション


美紗(あー、助かったぁ...、)


 クラスの皆と教室に帰って。雪音のいる1-Aに行くと雪音の周りには結構人が集まっててて


 個人的に会いにいけるような雰囲気じゃなかった。


美紗(やっぱり雪音ってかなり人気だよね。

   側に居るだけで安心するっていうか)


美紗(会話だけなら、シーウェでいつでも

   お話し出来るんだけど...。雪音と話した

   かったなぁ...。)


美紗(まぁ...足も疲れてるし...、

   教室に戻ろ)


 担任の先生が来るまで待とうと自分の席に座ると、柚夏がこっちに来て話掛けてくる。


柚夏「相変わらず凄い人気だね。

   ...まぁ、もうちょっと経ったら

   話せるようになるんじゃない?」


美紗「見てたの?」


柚夏「少しね。引っ越しの事気にしてる

   みたいだったから」


柚夏「美紗ってそういうのあまり

   話さないタイプだし」


 解決しなかったっていうのも向こうは何となく分かってるんだろう。確かに私はそういうのをあんまり人に見せない


美紗「んー...迷ってる、のかな。」


柚夏「迷ってるって?」


美紗「雪音に大事な話があったんだけど、

   あの感じじゃ話せそうもない

   なぁ...って」


柚夏「...まぁ、良いけどさ」


柚夏「あの人は頭もキレるし人気者だから

   ね。仕方ないとこもあるよ」


美紗「いくら仲が良いからって、雪音を

   独り占めする訳にもいかないしね...。

   頭がキレて...人気者かぁ...」


美紗「...じー」


柚夏「.....なに」


美紗「いや仮装大会人気3位が言うと

説得力が違うなぁって。」


柚夏「...それは4位で終わった

   話だから、というかあんまり

   ぶり返さないで欲しいというか...」


柚夏「あれから本当に大変だったんだから

さ...」


美紗「でも、柚夏のとこには皆来ない

   よね?」


柚夏「今は、ね...」


美紗「何その意味深」


柚夏「私の場合は遠巻きに見てる人が多い

   から。それが本になったり、写真に

   なったり...」


美紗「柚夏も色々大変だったんだね...。」


柚夏「というか、古池さんの場合横の繋がりが

   あるからね。」


柚夏「先輩からとか後輩からだとか

   何かと繋がり易いけど」


柚夏「私の知り合い...。...んーっと...、美紗は

   知ってるから大丈夫か」


柚夏「...流雨と小栗先輩はそもそもそんな人付き

   合い広いタイプじゃないし、狛先輩は

   人付き合いこそ良いけど...」


柚夏「多分私の事紹介してくれないと思うし。

   朝乃先輩はどっちかというと流雨

   繋がりで、流雨の方が仲良いというか」


柚夏「二年生だしね。一年生で仲良い人って

   言ったら美紗くらいしかいないんだよ。」


美紗(小栗さんって。海いったときに雨宮先輩

と一緒に居たあの人の事?心臓病の)


美紗「二年生だと確かに言いづらいかもね。」


柚夏「でしょ?」


美紗「なんで私しか一年生の知り合い居ないの?」


柚夏「なんでだろうね...。ほんとこっちが

   知りたいよ...」


柚夏「先生来たから、またね」


美紗「はーい」


美紗(まぁ前の席なんだけど、)


美紗(んー...、でも雪音...。本調子じゃない

   のにあんなに話し掛けられて疲れ

   たりしてないかな...)


※スライド


美紗(雪音、まだお話してるかな?)


 先生の話が終わって夏休みの課題やポスターを提出して...取りあえず今日の学校は終わったんだけど...。


美紗(シーウェでも良いけど...、やっぱり

   雪音と直接お話したいもんね)


 話が一段落したら会おうってシーウェで送って、っと...雪音の通知が来たらあの場所に行こうかな。


美紗(それまで何しよう...、)


美紗(んー...)


美紗(まだ終わってすぐだから、そんなに

   遠くに行ってないと思うけど...)


美紗「あ、居た。柚夏ー!!」


柚夏「美紗?」


 教室からちょっと出た所に柚夏を発見して、駆け寄ったのはいいけど


 ...バックも背負ってるし、もしかして今日バイトの日だったのかな。


美紗「今からバイト?」


柚夏「バイトじゃないよ。今日は休み、他の人も

   始業式で午後は空いてるからこういう日は

   結構人手が足りてるんだよ」


美紗「あ、ならよかったー。っていう事は

   流雨さんに会いに行くの?」


柚夏「...まぁ。そうだね」


 柚夏は視線をそらせて、返事をする。照れてるの隠してるのが丸分かりなとこがすごいゆずかーさんらしい。


美紗「私も付いてっていい?私が居ると

   邪魔?」


柚夏「まぁ流雨は人見知りだけど...、人の事

   邪魔とか思うような人じゃないから」


 柚夏に駆け寄って、隣を歩いてく。すると向こうから歩いてきた二人組にぶつかりそうになった所を柚夏が肩を引き寄せて助けてくれた。


柚夏「言葉足らずで誤解されやすいだけで

   悪気はないんだよね。」


美紗(なんか、雨宮先輩うつってない...?)


美紗「相変わらずイケメン力は健在だね、」


柚夏「別に普通だよ。それに前見てなかった

   向こうも悪いだろうし」


美紗「え、と...。ゆずかーさん前からこんな

   感じだった...?」


柚夏「.....。」


柚夏「...最近さ」


柚夏「...言うより、...引き寄せた方が

   早いなって思って...」


美紗「流雨さん...」


※スライド


美紗(二年生の教室、ドキドキするなぁ...、

   一年生とはちょっと雰囲気

   違うし...。上級生って感じがする...)


美紗(4月になったら私も此処で勉強するん

   だよね...なんかちょっと新鮮な気分かも)


 二棟の廊下に着いて、柚夏と一緒に二階に上がって行くとかーさんは当たり前のように2年生の教室へと入っていく...。


美紗「...常連感凄くない?」


柚夏「この学校結構服装が自由だから、見た目

   だけで学年分からないし」


柚夏「堂々としてれば他のクラスから来た

   くらいにしか思われないから。まぁ私は

   一年生って知れ渡ってるけど...」


柚夏「あそこに居る人も一年生だし、そこに

   居るのは三年生だし...。わりといるん

   だよ、他の学年の人も」


美紗「へぇ...。よく覚えてるね」


 それにしても、視線がこっちに集まってるような気がする...。


美紗(多分、皆柚夏を見てるんだろうなぁ...)


流雨「....。」


美紗「流雨さん、こんにちはー」


流雨「........?」


柚夏「一緒に美紗も連れてきたんだよ。

   多分忘れてないと思うけど...」


流雨「...そう、...柚夏の友達」


柚夏「変なとこあったら教えるから

   もっと喋っていいよ...。流雨」


流雨「分かった...。別学年の場所は緊張する

   のは分かるけど...、緊張しなくても

   誰も捕って食べたりしない...」


流雨「と思う...」


柚夏「例えが随分ホラーチックだなぁ...、」


流雨「ううん、どんな人がいるか分からないから

   0とは言えない。違う意味で

   食べる人は割といると思うけど...」


柚夏「違う意味...?」


美紗「あは、は...。確かに、逆に緊張してたら

   食べられちゃうかも。でもそんな人

   いたら即退学ですよ」


美紗(瑞撫さんとか、物理的に食べそう。)


美紗(流雨さんってそういう会話もするんだ

   なぁ)


流雨「...そういう意味じゃなくて、

   二年生の教室で食べるって意味...」


美紗(汚れてるのは私だったわ。)


美紗「食べそうな人がいるので...」


柚夏「まぁ二人が楽しいのなら私は

   それで良いけどさ...。」


※スライド


柚夏「今週の金曜、大雪が降るんだって。

   アルバイト行くとき本当困るなぁ...」


美紗「大雪かぁ...。自転車だと滑るの怖いよね」


柚夏「ほんと、すごい怖いよ。信号の前で

   滑ったりしないよう気を付けないと

   いけないし」


柚夏「神経凄いすり減るよね。」


美紗「...ねぇ、柚夏はさ。急に絵が描けなく

   なったときってある?」


柚夏「スランプ中?」


美紗「まぁ、そんな感じ」


柚夏「そりゃ...ね。逆にスランプにならない

   人の方が珍しいんじゃない?」


美紗「それってどんな時?」


柚夏「どんな時...。まぁ忙しい時とか

   余裕がない時とか、かな」


柚夏「結局上手く描けない時って、大抵

   休みが足りてないんだよね」


美紗「そういう時どうするの?」


柚夏「私の場合は、時間を無理やり抉(こ)じ

   開けて。珈琲飲んだり近所の子供と

   遊んだりしてるかな」


美紗「ん”んー...。それが出来たら良いん

だけどね...。」


美紗(というか、疲れた時に近所の子供と遊ぶ

   と癒されるってどんな聖人。コーヒー

   飲むくらいは出来そうだけど...、)


美紗(そもそも雪音ってコーヒー好きなのかな)


柚夏「古池さんがスランプ...?あの人、スランプと

   は一生縁がなさそうだけど...」


美紗「描かなきゃいけないっていうのが

   多分凄いプレッシャーになってると思うん

   だよね...」


柚夏「...まぁ、転校するっていう話が

   本当なら。描けなくなるのも無理はないん

   だろうけど...」


美紗「ちょっと優しくなった?」


柚夏「色々あったからね...。古池さんには流雨の

   事を助けて貰ったお礼もあるし」


柚夏「たまたま父さんがお金持ち

   だっただけで...、お金持ち

   自体を嫌うのは違うのかなって」


柚夏「だから今度は真剣にアドバイスするよ

   ...流雨も、一緒にね」


美紗「柚夏...」


※スライド


 私は柚夏と流雨さんにお正月にあった事や、雪音が絵を描けなくなってしまった事...、


 それを直すために絵を描けない雪音を責めてしまった事...。今まであった事を全部二人に打ち明けた...、


柚夏「...強いね、美紗は」


美紗「ううん...、強くないよ。私...、

   雪音が絵が描けないのにイライラ

   しちゃうし...」


美紗「今だって...雪音は態度に出さずに

   頑張ってるのに、私は...。雪音に何も

   してあげれない...、」


柚夏「でも美紗は古池さんのために

   頑張ったんでしょ。...それだけ真剣だった

   から、本気だったんでしょ」


柚夏「...それ自体は悪い事じゃない

   大事なのはそこからどうするかだよ。

   気持ちのすれ違いは誰にだってある」


柚夏「私だって流雨に怒られてばっかだし、」


流雨「ん...」


柚夏「でも、そこから学ぶ事もある、」


美紗「....。」


柚夏「言葉にしなきゃ、分かんない

   んだよね。どんなに思ってても、

   伝わらない」


柚夏「だから、大事な人程ちゃんと言葉に

   しないと駄目なんだよ。」


美紗「私ね、...本当は、雪音に絵を描いて

   欲しくないの...、好きなのに...っ、

   離れたく、ないのに、、」


美紗「引っ越ししたくないって、雪音は私に

   言ってくれたのに...、私っ...。雪音の

   事、」


美紗「どうでもいいって、思ってるの

   かなぁっ...、、」


柚夏「...どうでも良いって思ってたらそんな風に

   泣かないでしょ。...美紗が古池さん

   の事好きだからに決まってんじゃん。」


美紗「う”っぐ...、柚夏ぁ...」


柚夏「...古池さんの前で泣けないのなら、

   それ以外のとこで泣けば良いん

   だよ。...好きなだけさ」


美紗「...うん」


朝乃「え~っと...芽月さ~ん...?」


柚夏「朝乃先輩...」


朝乃「本当、水差すようで、あれなんだけど

   ...、」


朝乃「...今、芽月さんが二年生の教室で

   一年生の女の子を泣かせてる...って凄い

   噂が広まってて...」


朝乃「しかも恋人(流雨さん)の前で振られた

   とか...。色々...」


流雨「...修羅場すぎて、草...」


柚夏「はぁッ!?、いや...ちがっ!?!?」


美紗「大丈夫...。私が、誤解...解く、から...」


 涙を手で拭いて、柚夏に話すと朝乃先輩が慌てたように喋り出す。


朝乃「いやいや!!今の状態の美紗ちゃんが

   何言っても、周りの人には逆効果

   だからっ...!!」


美紗「でも...、」


朝乃「大丈夫、大丈夫。ゴシップにはゴシップ

   を使うのが一番効果的な解決作だから」


朝乃「典型的だけど、いつの時代もそれは

   変わらないんだよね」


柚夏「...策が、あるんですか?」


朝乃「噂が広まる前に美紗ちゃんと芽月さん

   は教室から出た方が良いかな、『普通

   に』ね。捏造(しょうこ)を作られちゃう前に」


朝乃「本人がいないときに第三者から言った

   方が誤解が早く解けるのって早いんだよ

   ね、」


美紗(...なんか、慣れてるなぁ...)   


 という朝乃先輩の咄嗟の機転により、誤解が広まる前に柚夏と私は急いで教室から出て下の階へと降りてった...。


※キャプション


美紗「二年生の教室だって事、忘れてた」


美紗「...ごめん柚夏、迷惑...かけて」


柚夏「まぁ、こういうのは慣れてるし」


柚夏「余裕ない時は仕方ないよ」


美紗「でも...。」


美紗「....」


美紗「...流雨さん、置いてきて良かったの

   かな。折角会えたのに...」


柚夏「また会えるから良いよ。」


美紗「...二人で歩いてたら尚更柚夏、

   誤解されちゃうかも。一緒に

   居ない方が良いよね...」


柚夏「良いよ。別に」


柚夏「...人の目ばっか気にしてたらそれこそ

   何も出来ないし」


柚夏「泣いてる親友ほっといてどっか行く

   よりよっぽど良いよ。誤解はいつでも

   とけるしさ」


美紗「......。」


美紗「...は~あぁ...ぁ...、もう、さ...」


美紗「...柚夏って本当、イケメン...、、

   こんなの流雨さんじゃなくても

   惚れるわ、」


美紗「...柚夏が親友で良かった。って思う、     

   ...ほんとに」


柚夏「...そりゃ、どうも」


柚夏「...全然、カッコ良く、

   ないんだけどね...」


柚夏「ただ独占欲が強いだけだよ。

   お母さんが居なくなったから美紗

   から親離れ出来ないだけ。」


美紗「それでも今、それに助けられてるから

   良いんだよ。私としては役得。」


柚夏「なんて現金な奴なんだ、

   まぁ、良いんだけどね...。」


柚夏「美紗の元気がないと私も落ち着かない

   んだよ。1年だけど 美紗とは長い付き

   合いだしさ」※空欄スペース


柚夏「まぁ...、私も朝乃先輩が何とかして

  くれる事を願うしかないんだけどね」


美紗「だね、明日の学級新聞の大記事に

   柚夏が乗ってなきゃいいんだけど、」


柚夏「取材されたらちゃんと誤解だって

   言ってよ?」


美紗「分かってるよ、柚夏は流雨さんの物

   だもんね」


美紗「というか柚かーさんは恋人という

   より姉。」


柚夏「わかる。私も美紗は恋人っていうより

   妹だわ、」


美紗「というか誤解されないレベルでイチャ

   つけば良いじゃん」


柚夏「...プラトニックな関係なので。」


美紗「ヘタレかーさん...」


柚夏「...うるさい」


ブブッ...


美紗「雪音からかな、」


柚夏「なんて?」


 スマホを点けて出た『お待ちしています』の通知を見て、私はふぅ...っと、深呼吸する。


美紗(噂が広まって誤解されてないと良いん

   だけど、)


美紗「...ねぇ、柚夏」


美紗「今の私って、...雪音のとこに行っても

   大丈夫?」


柚夏「取り敢えず顔は、ね。さっきより

   全然ましな顔してるよ」


美紗「そっか、...あの、さ。...もし私が雪音に

   嫌われても柚夏は友達でいてくれる、

よね?いや、親友...?」


柚夏「そりゃね、親友。」


柚夏「でも、どうするつもり?」


美紗「...雪音に嘘付こうかな、...って。」


美紗「題して、【1週間何も描かない作戦?】

   は、は...、...ほんっ、と...凄い、」


美紗「作戦...」


柚夏「....。」


柚夏「...古池さんのところに行く前に美紗に

   言っておきたい事があって、」


美紗「なに?」


柚夏「...本当に行くの?」


柚夏「古池さんの、とこ...」


→『「うん、...行くよ」』

→『もうちょっとだけ居る』


→『「うん、...行くよ」』


美紗「うん。雪音も待ってると思うから。

   行ってくるね、柚夏」


柚夏「...そっか。気をつけて行ってくるんだよ、

   話なら何時でも聞くからー!!」


美紗「うんー」


美紗(お母さん。)


柚夏「そうだ、お菓子!!美紗の好きな

   お菓子!!明日沢山作って待って来るから

   ー!!」


美紗(ゆずかーさん、心配してくれるのは

   嬉しいけどちょっと過保護過ぎ

   るとこあるよね...)


※キャプション


→『もうちょっとだけ居る』


美紗「なんで柚夏がそんな顔してんの、」


柚夏「...,断られたら大丈夫かなって思って。」


美紗「そこは嘘でも大丈夫って言っとく

   とこだよ、どうせ行くならそっちの方が

   良いでしょ」


美紗「もう柚夏は乙女心が分かってないなぁ」


柚夏「別に冗談でも良いんだけど、」


柚夏「そういうのが駄目で死んだ人を

   知ってるから」


柚夏「美紗はそんな弱い人じゃないと

   思うけど」


柚夏「もし駄目だったとしても、私が

   責任持って美紗の世話するから。」


柚夏「私の前から居なくならないでね」


美紗「大袈裟だよ。」


柚夏「こういうのは後ろ楯があった方が良い

   から」


柚夏「だからあんまり一人で背負い込まない

   でね」


 そういって、柚夏は私を抱き締める。


 凄く 優しい感じがする


美紗「...また誤解されるよ。」


 ほんとは『嬉しい』はずなのに


 心の奥底で喜びという感情をシャットダウンしてしまっている私がいる。私があの人の子供だから


 それとも私が元々こういう性格なのか


柚夏「誤解させとけばいい。」


 酷く寂しく思う。


美紗「流雨さんにも。誤解されるかも」


柚夏「それは、その分また何とかするから」


美紗「.....」


美紗「...そっか」


美紗「...ありがとう」


 でも、今だけはその気持ちをちゃんと受け止めたいと思った。


 柚夏はそれを馬鹿にしたりしないから


柚夏「これでスランプの事。隠してた

   のはおあいこだね。」


柚夏「...本当に後悔しない?」


→『後悔しない』

→『.....。』


※どっちも展開いっしょ。ただ、『.....。』の場合最初に「.....。」が付く。



→『後悔しない』


美紗「後悔しないよ。出来ない事を無理

   やりさせられる辛さは私が一番

   知ってるから」


美紗「...昔の自分と重ねて、あの時誰かに

   こうして欲しかったなって思ってる

   のかもしれない」

   

美紗「でもさ、それが例え自己満足でも。

   それで誰かが救われるなら。私は

   するだけしたいって思う」


 それが、昔からずっと憧れてた事だったから


 お父さんみたいに厳しい人じゃなくて、大事な人だけでも良いから、心から誰かを守れる存在になりたい。


 こんな冷たい人間でも


    手を差し伸べてくれた人がいるから。


美紗「...自分の意志で決めた事だもん、

   今は生きてるのが凄く楽しい私。後悔

   しないで生きられるのって、」


美紗「本当に幸せな事だから。」


美紗「だから...、嫌われても大丈夫。

   ...そりゃ、嫌われたら辛いけど、少なく

ともあぁすれば良かったって思わないじゃん」


柚夏「そうだね。」


柚夏「仮に駄目だったとしても、美紗は本当の

   意味で正しい事をしたから」


柚夏「もし、それを美紗が忘れそうになった

   時は」


柚夏「いつでも家(うち)に来なよ。お菓子と

   飲み物用意して、待ってるから。」


柚夏「...本当に、尊敬してる。って」


美紗「...頑張らないとね、」


美紗「かーさんの話も聞いた事だし。そろそろ

   行かないと本当の意味でやばいかも...」


柚夏「ほんとね。」


柚夏「...私はその選択肢を最後まで

   信じるよ。」


柚夏「美紗が選んだ、その選択を」


※キャプション


美紗「雪音、待ってるかな」


 雪音と初めて会って...それから雪音の事を知るきっかけになった沢山の思い出が詰まった、...始まりの場所。


美紗(あのベンチで雪音と会うのも何か久々

   かも...。あれから何度かお昼に見に

   来た事はあるけど)


美紗(あまりにも会えないから、柚夏に聞いたら

   生徒会自体お昼に会議してる事が多い

   らしくて)


美紗(そりゃ居ないわ、って納得して)


美紗(あの日はたまたま生徒会がお休みだったの

   かな。やっぱり此処にくると...色々、

   思い出すなぁ...)


雪音「...お久しぶりです。杏里さん」


美紗「うん、久しぶり雪音っ」


 そう言って雪音の隣に座って、挨拶する。今となってはもう当たり前だけど


 最初は隣に座るのさえ、緊張してまともに座れなかった事さえ。今となっては良い思い出でそれが随分昔の事のように感じる。


美紗(あの時の私かなり挙動不審だったな)


美紗「えっと...私、結構待たせてたり?」


雪音「この場所は気に入っています

   ので、時間の経過はさほど感じて

   はいませんよ」


美紗「この場所も久々だね。」


美紗「あの時みたいにのんびり出来たら

   良いのに」


雪音「...そうは言ってもいられません。進捗の方

   は大して変わっていないのですから」


雪音「...期限が近付いてもこの様です。」


雪音「私はいつになれば絵が描けるように

   なるのか、...絶対に、描かなければ

   ならない絵なのに。」


雪音の手に力がこもる。


雪音「...私は、本当にあの方の娘なので

   しょうか。」


雪音「...あの方の期待に応えられない、私は...

            古池家の失敗作、なのでしょうか...」


美紗「...それを言うなら、私だって失敗作

   だよ。」


雪音「...杏里さんがですか?」


美紗「どれだけ、頑張ってもお父様には認めて

   貰えなかったから...。これでも結構、

   頑張ってきたんだけどね」


美紗「今だって 髪で大分隠してるけど、服を

   脱いだらアザだらけだし...」


美紗「あの人の期待に応えられない事が、

   一番の恐怖だった。」


雪音「杏里さんのお父様が逮捕された

   原因って...」


美紗「...虐待だよ、お父さんは私を虐待してた

   から捕まったんだよ。」


美紗「...お父様にとって、私は『邪魔』な

   存在で」


美紗「お母様から無償で愛を奪う醜い存在

   だった。子供が生まれてから、

   お父さんより子供を大事にする」


美紗「...お母様が見てないとこではいかに

   私よりお父さんが優れてるか、そんな

   話ばっかりだった。」


美紗『お前は私より下なんだ。年齢も、力だって

   学力だって、絶対に子供は親に勝てない』


美紗「...いつか愛してくれるって、思ってた。」


美紗「そんな根拠なんてどこにもないのに。

   親だから、心の何処かでは私の事を

   思ってくれてるって。」


お父さん『殺した訳でもないのに、なんで

     そんなに大袈裟なんですか?』


お父さん『ただ私は娘を"教育"しただけで、

     娘の教育について警察から

     とやかく言われる筋合いは

     ありません。』


お父さん『私は娘をちゃんと学校にも行か

     せてますし、塾にもいかせて

     ます。学校に通う方にも良い

     お父さんだと言われていて』


お父さん『"親"の役目はちゃんと果たしています!!、』


お父さん『私を逮捕すれば娘も悲しむし、

     娘の内申点にも響く、貴方達の

     せいで娘の将来がどうなっても

     良いのですかっ、、』


美紗『....。』


美紗「どれだけ頑張っても雪音はお母さんに

   なれないし、私もお父さんになれない」


美紗「もしなれたとしても...それはもう

   お父さんに似た、別の人なんだよ。」


美紗「...悲しいけどね。」


美紗「私も、ずっとお父様の望むような人

   にならなきゃいけないって思ってた。」


美紗「そうしないと殴られるし、そうしないと

   誰も愛してくれなかったから。」


美紗「でもそれは...、もう私じゃないの。

   お父さんが欲しかったのは

   何でも言う事を聞く良い子じゃない、」


美紗「...お父さんはただ私が邪魔だった

   だけなんだよ、」


美紗「ほんと馬鹿だよね、」


美紗「...でも、今の家族が私の事を

   本当の意味で...愛してくれた。何も

   出来ない私の事を、」


美紗「ただ生きてるだけで良いんだよって、、

   言ってくれた、」


美紗「ほんとに、...嬉しかった。たった

   それだけの事なのに、涙が止まら

   なかった。」


美紗「だから...私も雪音を助けたいって、

   思ったんだよ。...皆がしてくれたみたい

   に、私も、そういう人間になりたかったから」


※スライド


雪音「私は...」


雪音「椿様には、なれない...。」


雪音「....」


 私もそうだったから分かる。お父さんの望む人になりたくて、それでもなれないって分かったあの瞬間


 ただ頭の中が真っ白になって、訳が分からなくて『何で生きているんだろう』っていう疑問だけが木霊のように広がってくあの感じ


美紗「ねぇ、覚えてる?」


美紗「デッサンの授業の。あの時私緊張

   しちゃってまともに雪音の隣に座れ

   なかったんだよね」


美紗「...でも。今は雪音の隣にこうやって

   当たり前に座ってて、当時は雪音だって」


美紗「私と付き合うのは無理だって思ってた

   のに」


美紗「結局、此処まで仲良くなって。前とは

   全然違う生活をしてるんだから」


美紗「雪音は雪音のままで良いんだよ

   絵が描けない雪音も。」


美紗「"人間らしくて"凄い素敵だと思う。」


雪音「....。」


雪音「そう...、ですか。...あなたらしいですね。

   貴女のそういう所、...好きですよ。」


雪音「だからこそ、ずっと絵を描きたいと

   思っていたのですがね...。」


雪音「...杏里さんの事を結構気にいっていた

   ので、離れたくなかったんです。人を

   手放したくない、なんて」


雪音「子供のように思えますが。それでも

   なんとか出来ないかと頑張ったんですよ」


雪音「それなのに...、」


美紗「.....。」


 雪音の急な発言に、思考が止まる頭。


美紗(これは、友達の発言じゃない、)


ちょっと待って、それって...


美紗「雪音って、私の事...。結構好き...?、、」


雪音「まぁ...」


雪音「好きなんでしょうね...。色々助けて下さい

   ましたし。嫌いになる理由もない

   ですし...」


美紗「晴華さんじゃなくて!?、」


雪音「...何故そこで晴華さんが出てくるの

   ですか、」


美紗「いや、私の事なんてノー眼中だと

   思ってたから。いや、ビックリ...」


雪音「あなたは自分で思ってるよりも魅力的

   ですよ。私が気に入るくらいには」


美紗「...それは、光栄です...、」


雪音「好きでなければ」


雪音「諦めてさっさと引っ越しするはず

   ですから。つまり引っ越しに対して

   未練があるのは」


雪音「貴女から離れたくないと思って

   いるからではないのですか...?」


美紗「え...、そんな褒められても何も出ないよ??」


雪音「別に貴女は今のままで良いですよ。

   私に好かれたからと言って、

   何も変わる必要はありません」


雪音「というか...、夢だと思いたいんですね...、

   絵さえ描けない私などから好かれても迷惑

   というのは仕方無いです。」


美紗「....い、いやっ、嬉しい!!嬉しい

   よ!?本当にっ!!、、」


美紗「ただ、ビックリして...。普通に

   私の事はただの人として見てると

   思ってたし...、」


雪音「....、」


美紗(...でも、雪音...こんな事急に言うくらい  

   くらい...。精神的に参ってるん

   だよね...)


雪音「...この場所にこうやって、座っていられる

   のももう残り僅か(わずか)なの

   でしょうか」


雪音「...貴女と一緒に居られるのも。」


美紗「もぉ、そんな事、言わないでよ。今生

   の別れじゃないんだから、夏休みとか

   バイトしてお金貯めていけばいいだけ

   だよ」


雪音「...そうですね」


美紗「あ、信じてないでしょ?雪音。

   海外にはお母さんもいるから

   行こうと思えばいつだって」


美紗「行けるんだよ。雪音に会うためなら

   英語だって頑張るし、」


雪音「時間と共に記憶が色褪せる

   ように思い出も永遠とは思って

   いません。あなたも、...そして私も」


雪音「今は悲しいですが、いつか

   そこまでしなくていっかと思う

   ようになるのです。人は怠惰ですから」


美紗「じゃぁ、行動で起こせばいい?」


雪音「....貴女と会うのを楽しみにして

   いますよ。」


美紗「信じてない?」


美紗「...雪音はさ、私が無理して会おうとしよう

   って思ってる?」


美紗「私は雪音の顔が好きだから。会いに行き

   たいって思ってる。雪音以上に、好きな

   顔なんてない。」


美紗「あと、ずっと言ってなかったけど

   声も好き。ハスキーお嬢様ボイス最高、

   英語で聞きたい」


雪音「そこまでくるともう、慣れですね...。」


美紗「...だから。言葉にして言って欲しい。

   私に来て欲しい、って」


美紗「私がその約束を破らないように。」


雪音「私がもし、絵を描けなくても。嫌わないで

   欲しい、そして...貴女がそれでも私の

   事を好きだと言ってくれるのなら、」


雪音「...杏里さんに引っ越し先に遊びに

   来て欲しいです。」


雪音「...私が、海外に行っても。...来て頂け

          ますか?」


美紗「....うん」


美紗「うん、分かった。...絶対行くよ。」


美紗「...約束」


 そういって、私は右手の小指を雪音に差し出す。


 すると雪音はまるで知らない物を見た雪豹のように首を傾げる。


美紗「指切りげんまん、知らない?約束する

   時にするの」


雪音「指切り...、物騒ですね。約束のために

   指を切るのですか?杏里さんが」


美紗「え?怖、それに、なんで私限定!?」


美紗「こうやって、小指を絡ませて、ゆーび

   きりげんまん、嘘付いたらっ♪、針

   千本の~ますっ♪、指切った、って」


美紗「約束するんだよ。」


雪音「なるほど。約束を破れば、針千本

   を飲ませるという事ですか...その...中々

   惨いですね。」


美紗「その発想がもう怖いね!?ま、まぁ

   約束破るつもりはないから!!でも

   実際、飲ませる訳じゃないよ?」


雪音「...来なければ杏里さんが死にますからね。」


美紗「...うん、行くよ?絶対、行くけど...

   うーん、想像したくない...。」


雪音「...ふふっ、あなたは、まるで"奇跡の

   鍵"のようですね」


美紗「奇跡の鍵?」


雪音「いえ、今のは言葉のあや、といい

   ますか。...そのような物はない

   という事は私も分かってはいる

   のですが...」


美紗「聞いてもいい?」


雪音「...本当に、大した話ではありませんよ」


美紗「うん、聞きたい。」


雪音「...昔お祖母様(おばあさま)がよくお話

   なさっていた、おまじないのようなもの

   です。」


雪音「貴女の言う、"指切りげんまん"のような...」


雪音「"愛の女神"、それは、誰一人として侵す

   事の許されない楽園に住まう者。」


雪音「"破壊の邪神"、楽園に住まう女神を怨み、

   妬み、愛の女神の隙を狙っている事を

   日々忘るべからず」


雪音「"奇跡の鍵"、その真実の意味を知る者に

   愛の女神は知恵を授けん。」


雪音「"奇跡の鍵"、その真理の意味を履き違えた者

   に破壊の邪神は永久(とわ)の眠りを

   授けん。」


雪音「運命をも超越し、奇跡を以て、愛しき子に

   "必然たる未来"を与えよ」


美紗「んー、それがおまじない?」


美紗(というより...何かの言い伝えみたいな

   お話...。"愛の女神"に"破壊の邪神"かぁ...、

   すっごいファンタジー)


美紗(でもそういうの嫌いじゃないよ。)


美紗「難しいね。」


雪音「えぇ、...意味はよくわかりませんが、

   これだけは何故かはっきりと覚えて

   いて...」


雪音「...何故か頭の中に残っているのです。

   寝る前にお話して下さったからだと

   思うのですが、」


美紗「雪音は愛の女神っていると思う?」


雪音「いると思いますよ。杏里さんに逢わせて

   下さいましたし」


美紗(嬉しい事言ってくれるじゃん)


 雪音ははにかんだ顔で微笑んでいる。それは笑顔だったけど、お婆ちゃんの事を思い出してるんだろう。少し寂しげな笑顔だった。


美紗「....」


美紗「...雪音っ、」


雪音「...はい。」


 私はこれから、雪音に嘘を付かなくちゃいけない...。純粋な彼女を騙して、...『怠惰』という幸せを...雪音に知って貰うために。

 

 そのためなら、...私は、悪魔にもなろう。もともと悪魔みたいな性格だし、人に嫌われるのには慣れてる。


美紗「あの、さ...」


美紗「今週の土曜日。大事な話があって...」


雪音「...分かりました、今週の土曜日は1日

   オフにします。どうにせよ、今は

   絵が描けるような状態ではありませんからね。」


美紗「ありがとう。雪音」


美紗「それとね...、一週間何も描かないで

   欲しいの」


雪音「...本気で。言っているのですか」


美紗「ほら、一週間描かなかったら、

   絵もそろそろ描きたいなーって思う

   ようになるんじゃないかなって。」


雪音「...信じて良いのですね?」


その言葉にゴクリ、と生唾を飲み込んで。


美紗「...うん。信じて。」


 今じゃなくても、いつかきっと...そうなれるだろうから...。今じゃ、なくても...いつか絶対、描けるようになる。


美紗(あぁ...、嘘を付くのって、...こんな

   に心が苦しいんだ...。)


※キャプション


美紗「私の家と雪音の家、どっちがいい?」


雪音「杏里さんのお宅ですか?」


美紗「雪音のお家みたいに広くないけど

   黒柴のミユだっているし、私以外には

   人懐っこいし。凄い可愛いよ」


雪音「杏里さん以外にですか?」


美紗「うん...。なんか私動物に避けられ

   やすいんだよね...、動物大好きなのに

            なんでだろ?」


雪音「...猫もですか?この間、杏里さんを

   見たら逃げていましたし...」


美紗「雪音の考えてる事が今凄い分かった

   けど、...うん。そう...」


美紗「雪音には寄ってくるのに。」


美紗(猫ちゃん凄い大好きなのに、、)


雪音「とても良い才能だと思います。」


美紗(雪音にとってはね...)


雪音「...ワンちゃんとはあまり接する機会は

   ありませんでしたね。噛んだりは

   しないのですか?」


美紗「うん、私以外に噛まれたこと見た事

   ないってくゆも言ってたから」


雪音「...分かりました。当日は雪が積もるそう

   ですので、車で向かいますが良いです

   か?」


美紗「うん、なんで住所知ってるのかは

   聞かないでおくね。」


 そうして、私は今週の土曜日に雪音と遊ぶ約束をして...。せめて、その日が来るまで...雪音と一緒に居たいと


 何処までも青く続く空に願ったのだった。


※スライド


美紗「....、」


 私、知ってる...此処...


 沢山の稲が棚引いている黄金の麦畑...。雪音に似た顔の...人がいた場所...


サァァァ...


美紗(...風が、気持ちいい...)


??「まぁ...素敵な、雪の結晶...」


 雪音に似た雰囲気の女性が見詰める手に握られていたのは本物のようにキラキラと光る大きな雪の結晶。


 でも本物と違ってこの結晶は全く冷たくない...。かえって、人肌で温かいくらい...


美紗(...この人と、...もっと側に居たい)


 目の前の女性にそんな言葉では言い表せないくらい、強い焦燥感に駆られる。


 ずっとこの人の側にいられたら どれだけ幸せだろう


 私は多分 この女性の事が本当に好きだったんだろう。これを渡してしまったら、この時間が終わってしまうのを私は心の何処かで知っていた


??「...あなたは、もうこの世界にいない

   人。...意識を呼び覚まして、

   心に身を委ねてはいけません...」


??『貴女が"それ"を渡したいのは本当に

   私ですか...?』


美紗「...雪、音?」


 その瞬間、はっ...と、目(ルビ:ゆめ※視覚から覚醒するため)から覚めたように意識を取り戻す。


美紗「私...。」


 さっきとは違って、ぼやけた感覚はなくなって。自分の意思で手が動く


 もやが掛かったようにただ懐かしさを感じて話していたあの人の姿も。今は完全に雪音の姿に変わってる...。


??「"奇跡の鍵"は、確実に貴女を

   導いています」


??「現に私とこうやって話をしているのが

   その何よりの証拠。」


??「今はそう...杏里、美紗さんですね。

   貴女とずっとお話がした

   かったんですよ。」


→A『貴女は雪音、なの...?』

→B『3サイズを教えて下さい』



美紗「貴女は雪音、なの...?」


??「その質問に関しては正解とも言えます

   し、そうじゃないとも言えます。」


??「貴女の知る雪音が"雪音"だと言うのなら

   確かに私は"雪音"ではないのかも

   しれません。」


??「ですが、私は雪音の大部分を占めている

   人格。美紗さんに他人のように話

   されるのは少し寂しいですね...。」



→B『3サイズを教えて下さい』


??「現実の雪音に聞いて下さい。」


??(貴方が二次元の壁を越えられると

いうなら、ですが。...というか、もっと

   まともな回答がありませんでしたか?)


??「...気になるのは分かりますが、世の中

   にはTPOなる物があるんですよ。意味は

   各自で調べて下さい。」


??「...時間がないので続けますが、」


??「私は此の世界で"門番"と言われる。雪音の

   生きる最後の砦で、雪音が雪音であるため

   の最たる理由(ルビ :きおく)です。」






美紗「雪音の、門番さん...?」


美紗(柚夏の時と全く違う感じ...、

   もっともっと...深いところで繋がってる

   ような...。そんな...)


門番「...期待して(ルビ:おもって)いた反応

   とちょっと違いますね。」


門番「門番に逢うのは初めてではないの

   ですか?」


門番「...少し面白くないですね。貴女の初めて

は私が良かったのに」


美紗「ご、ごめん...。」


門番「ふふっ、別に良いのですよ。

   それが貴女の才能だというのなら尚更」


門番「...私は才ある方が好きなので。それを

   見付けるのもまた一興ですから」


美紗(...雲ひとつない顔で、雪音が凄い

   ハキハキ喋ってる...。なんかすごい...

   晴華さんみたい...)


門番「...ですが、それはいつ切れても可笑しく

   ないくらい。脆い繋がりです。」


門番「実際に、私の姿がまだ貴女には見えて

   いないですから。私の存在(ルビ:ちから)

   が弱まっているのもありますけどね...」


→A『大丈夫なの...?』

→B『本当の姿?』



→A『大丈夫なの...?』


美紗「大丈夫なの...?」


門番「私の方は大丈夫ですが、私が消えて

   しまったら彼女はきっと耐えられない

   でしょうね。」


門番「...だから、最後に貴女にお会い出来て

   本当に良かった」


美紗「最後、なんて...。」



→B『本当の姿?』


美紗「実際の姿は違うの?」


門番「...えぇ。私の、実際の姿はそれは

   美しいですから。」


門番「ただ、今の状態では...」


門番「ちょっと難しいですね...今は雪音の

   精神を安定させるので精一杯なので。」


門番「私の姿ももう随分曖昧ですし...、

   美しかったのは覚えているのですが、

   名前の方はもう殆んど覚えてなくて...。」


門番「...美紗さんが雪音のままで良いって

   言わなければ、どうなっていたことか...」


美紗「結構、愚痴いっぱいなんだね。」


門番「雪音は自分にも人にも厳しい人

   ですからね。私としてはもっと有給休暇を

   とっても良いと思うのですが、」


門番「働きすぎは身体にかえって毒ですよ。」


美紗(ほんとに雪音の大部分占めてる性格...?)


門番「手を抜くために仕事をしてるんです。」





 そうして雪音の姿をした門番さんは今にも消えてしまいそうな淡い笑みを浮かべた後、吸い寄せられるように空を見あげた。


門番「...もっとお話したかったのですが。」


門番「まだその域ではないと...、夢が醒め

   かけてしまっていますね...」


パキッ...。


 その瞬間、空から何か大きな物がひび割れた音がして


 とっさに上を見上げると、そこだけ世界が欠けてしまったかのような青い空に似合わない、黒くて大きな亀裂が入っていた。


美紗「ちょ、ちょっと待って!!

   まだ、聞きたい事がっ...!!、、」


門番「なんでしょう?」


美紗(全然動じないね。この人、、

   空、凄い事になってるけど、)


美紗「愛の女神様って知ってますか?」


門番「...これも、また運命なのでしょう。」


門番「愛の女神の事はよく知っています。」


美紗「えっ、知ってるの!?」


美紗(普通に知らないって言われると思った。

   お願いだから、まだ覚めないで)


門番「ですが、愛の女神に人の願いを叶える

   といった俺TUEE的な素敵能力はありませんよ?」


美紗「え...、」


門番「そのような都合の良い存在は、存在しません」


門番「あれは勝利の女神と同じで、

   チャンスがある者の前にしか訪れ

   ない物ですから。」


門番「そもそも材料が全く足らない状態

   ですからね。今の状態では愛の女神の

   "あ"の字もないです。」


門番「そもそも雪音が絵を書いていない時点で彼女と会うのは、"不可能"です。」


美紗「どうにかして絵を描くって事は...。」


門番「あなたもそれじゃ無理って分かってる

   から、私に相談したのではないですか?」


美紗「....。」


門番「では逆に、問いましょう。美紗さんの

   考える悪とは一体何でしょう?」


門番「引っ越しをさせようとしている椿。

   いえ...雪音の母親でしょうか」


門番「引っ越しをする事で雪音が成し遂げる

   可能性を消そうとしているのは、雪音の

   母親からすれば"美紗さんの方"です。」


門番「海外のよりよい学園生活、新しく作られる

   人間関係。約束された将来への道...。」


門番「引っ越しをする事で彼女が得られる

   物も沢山あります。...その事も美紗さんは

  考えていますか?」


美紗「...引っ越した方が雪音にとっては

   幸せ...、になるかもしれないって

   いうのは、分かるけどっ...でも...っ!!」


門番「...それが問題なのです。確かにこのまま

   では雪音の精神が保ちません、」


門番「だから、あなたが椿よりも雪音を

   大事に思っているという事をあの子に

   証明しなければなりません。」


門番「それが"次の扉"へと繋がります。」


門番「私があなたに言えるのはここまでです、」


 空の亀裂はどんどん広がって大きくなっていって...、空から落ちていく破片がパリンと小さな音を立てて涙のように崩れ、散っていく...。


門番「"真実の鍵"は選ばれた者にのみ

   に許される選択権、確立した未来

            への切符。...人知を超えた力です」


門番「ですが...その力を引き出せなければ、

   何の意味もありません...。」


門番「抗う事も許されず、あの子の

   運命の歯車が狂っていくのをただ黙って

   見る事しか出来ない...。」


門番「それが私は何よりも...、辛い...」


門番「...この世界は、そう遠くない雪音の

   ■■なのですから」


 門番さんの声と同時にパキ、パキンッ...と黄金色(こがねいろ)の世界がメッキのように剥がれ落ちていく中で


雪音に似た彼女はただ、そっとそう呟いた。


※キャプション




美紗(....夢)


美紗(....涙、出てる)


美紗「.....。」


美紗(...あれが、今の雪音の...

   心の中...)


美紗(ただの悪い夢だって思い

   たいけど...。)


美紗(...今の雪音の状態と合わさって、

   想像出来ちゃうのが、なんとも

   なぁ...)


 全てを受け入れる表情で粒子のように散っていく雪音の姿をした女性の姿が、今でも頭の中にはっきり...、残ってる...。


美紗(ただ、見てるしかできなかった...。

   ...最後に手でも伸ばしてあげれば

   良かったのに...)


 でも 一番辛かったのは...


 その事すら分かってるように悲観する事も拒む間(ルビ:じかん)もないまま...、壊れてくあの世界で


 彼女がそうなる運命(ルビ:こと)を受け入れてる事だった。


美紗(丁度、コンテストまで...

   あと一週間...。)


美紗(...何かしなきゃいけないっていうのは

   分かるけど...)


 脳裏にあの雪音の門番さんの顔がよぎる。


美紗(でも...、もう...これ以上、雪音に

無理して欲しくない。)


美紗(...どうすれば良いの...)


美紗(....。)


美紗(...門番さんは、私の思いが雪音の

   お母さんより強い事を証明すれば

   良いって言ってた)


美紗(そうすれば、"次の扉"が開かれるって。)


美紗(...楽園に住む女神は、どうしたら

   会えるんだろう。)


 夢の内容は、よく分からなかったけど...、あの人が言ってたのは凄く...大事な事だっていうのは分かる。


美紗(愛の女神様が本当にいるって分かった

   だけでも、良かったかな...、)


美紗(私は、どうすれば雪音を...

   門番さんを助けてあげられるんだろう。)


 もう夢の中じゃないのに。私はそう彼女に、心の底で問い掛ける...。


 ...名前も知らない、大切な人...、


 あの人と何をしたかも。何を話してたのかすら覚えてないのに


 心の奥で彼女が大事な人だというのは、覚えてる...。


美紗「....。」


美紗「...そろそろ時間かな、」


 起き上がって、四つん這いになりながらベットの上に置いてある時計を見る。


美紗「...あと1時間、くらい?長いような

   短いような...。」


美紗「ん〜...どうしようかな、

   もっと時間あったらお風呂入りた

   かったんだけど...」


美紗「...入ってるとき雪音が来たら

   気まずいし...、昨日の夜一回

   入ってはいるけど...。う"うーん...」


美紗(下手したら雪音に会える最後のチャンス

   かもしれないし...)


 雪音に嘘付いて、一週間...。それが雪音にとって間違った選択肢だったとしても...


 私はそれを選んだ事に後悔しない。最後の時間は、日本に居て良かったっていう思い出を作ってほしいから


美紗「...今苦しんでる雪音は今しか助けられ

   ないから」


美紗「後悔しない人生、ね。」


 立ち上がって服を着替えながら周りを見る。部屋は綺麗にしたし...、掃除機もかけたし...、趣味のノートもしまったし...。


美紗「朝ご飯、食ーべよっ、」


 そんなこんなで、歯磨きしたり顔を洗ったりしてたら丁度いい時間帯になっていた。


※スライド

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