⑨大晦日編【みさゆき】


美紗(約束の時間まであと48分

   くらい...?早く来すぎちゃったかな)


 スマホで時間を確認すると22時12分。


 何かあったときの為に早めに来たのは良いけど思ったよりも早く着いてしまった。


美紗(んー、色々見て回るのも良いけど、

   体力も残しておきたいし)


美紗(それにしてもこの時間ほんと

寒いなぁ)


美紗(大晦日だもんね。)


 ずっと立って待ってるのも疲れるし、駅のホームに座りながら水筒に入ってる温かいお茶を飲んで、ほっと一息...


美紗「...ふぅ」


美紗「...美味し、」


美紗(やっぱり寒い日は温かいお茶に限るよ)


 暫くの間ぼーっとしながら


 止まった電車から人が降りてく姿や、カンカンカンと大きな音を立てて過ぎ去っていく電車をなんとなく眺めていた。


美紗(...今の人、振袖だったよね)


美紗(此処で降りる人達は皆お詣り

   目的で来てる人達なのかな。

   スーツの人も居るけど)


美紗(それにしても...電車に乗って、大晦日に

   好きな人とお詣りかぁ...。なんか、

   よく考えてみたら凄いロマンチック...)


美紗(...ねぇ、待って。)


美紗(振袖...?)


美紗(ってことは、雪音さんも

   今日振袖で来ちゃったりとかしちゃう

   感じ...??)


美紗(うわぁ...///、久々に雪音に会うだけ

   なのににやけちゃうかも///)


 まぁそういう私はバリバリ私服な訳なんですけども...。そもそも正月=振袖っていう発想自体なかったよね...、うん...


美紗(この私服も結構可愛いし、大丈夫だよね?)


美紗(流石に振袖の可愛さには敵わないけど)


美紗(雪音に会う前にちゃんと身だし

   なみ整えておきたいな。)


美紗(そろそろトイレ行こ、)


 ホームの案内所のトイレマークの道を辿りながら歩いていくとすぐにトイレは見つかった。けど...、


美紗(ぱっと見5人ぐらい並んでるなぁ...。

   どうしよう...)


美紗(んー...こういう時のトイレって凄い

   混むよね...。さっきまでわりと

   時間あったけど...)


 普通にトイレ使ってる人の前で髪結ぶのって、結構勇気いるし...。


 かといってホームで鏡を見ながら結ぶのもそれはそれで人の視線を集める事になる


美紗(髪型、変じゃないよね...?時間は、

   ...無いわけじゃないけど...。ん”ー...)


美紗(正直すっごい微妙...)


美紗( あっ。そういえばこの前来たとき

   駅の近くにコンビニなかったっけ)


美紗(流石にこんなに並んでると結びづらいし

   取り敢えず外に出てみようかな)


 と、私は小走りで近くのコンビニを捜すべく駅のホームを出たのでした。


※スライド


美紗(このまますぐに結んで、行けば充分

   間に合うよね。コンビニの場所

   何となくだけど覚えてて良かった)


美紗(あるのは、知ってたもん。うん。)


 駅の周りを歩いてると迷うこともなく、わりとすぐにコンビニがあった。


美紗(思ったより近かったけど)


美紗(今はそっちのが助かるし、えっと、

   トイレは...)


美紗(あった!!しかも鏡の方に

   誰も居ないじゃん、やった)


美紗(...やっぱり歩くのって大事だね。

   こういう穴場が見付かるから)


美紗(えへへ...まぁ、いうほど歩いて

   ないんだけど)


美紗(でも、歩くのは大事だから!!

   うん!!良い運動になったと思うしっ)


 早速、トイレの前で髪を結び直そうと鏡を見ながら髪を束ねていると


 突然知らない女性が鏡に映る。


美紗(美人だなぁ...黒髪ウェーブのコート)


美紗「あっ、すいません。」


 真後ろに居る女性に、ちょっと距離が近すぎるような気がするけど...。よっぽど早く使いたかったのか鏡の後ろに立ってる


美紗「すぐ終わるんで、」


 急いで場所を空けてから後ろに一歩下がって女の人の邪魔にならないように結んだ


 すると女性は鏡の前に出るわけでもなく、ただ私の顔を見ながら面白い物を見るようににやにやと鏡越しに笑っていた...。


美紗(...?)


女性「うちやで、うちや」


美紗「えっ?」


美紗「へっ、あ!?、奈実樹さん?!」


美紗(奈実樹さんの私服、初めて見た!!、、)


奈実樹「急に知らへん女の人が背後に立ったら

    驚く思うたんやけど」


奈実樹「案外そうでもないみたいやね。違う

    意味で驚いとったみたいやし」


美紗「す、すいません!!学校と全然雰囲気

   がっ、和服のイメージがあって、」


美紗「というかすごい美人ですね、」


奈実樹「普段はそうでもないか?」


美紗「いつものも悪くないんですけど、

   個人的にはそっちの方が好きです。」


奈実樹「ギャップ萌えで更に良く見えとるん

    やろ。ふふっ、まぁ気付かへんかった

    んはそれで堪忍したるわ」


奈実樹「それより、急いどるんやろ?」


美紗「あっ、はい...。約束までの時間が

   あまりなくて...」


美紗「でもどうして分かったんですか?」


奈実樹「焦っとる時ってお洒落が結構大胆に

    なるしなぁ」


奈実樹「それにこっちは旅館業やで、

    そんなん見ただけで分かるわ」


奈実樹「ちょいと貸してな?」


 ふわっと、髪が浮いて


 慣れた手付きで髪を編んでいく奈実樹さん。シュッシュッと、毛先を霧吹きスプレーで濡らした毛先がまるで魔法の様にウェーブしていく...。


美紗(髪濡らす奴とか、普段常備して

   らっしゃる系女子だ...!!、、)


美紗(えっ? 前樹理先輩、奈実樹さんの事

   女子力ないって言ってたけど)


美紗(今の状況どう考えても女子力

   のそれですけども!?)


美紗(女子力の化身化してますけど!?あれ?)


奈実樹「姉はんに比べたらまだまだやけど、

    まぁえぇんやない?」


奈実樹「気に入らんければ、ほどいてな。」


 気付いたら美容院でやってもらるようなくるくるした可愛い髪型に変わってる...。


美紗「え、絶対にほどきませんっ!?こんな

   プロみたいのっ、本当可愛いし!!

   うわぁ...凄い...、、」


美紗(こんな可愛い髪型なら、雪音も...か、

   可愛いとか...?///言ってくれる

   かな...///)


美紗「本当可愛すぎて、私じゃない

   みたい...。ずっとこれでいたいなぁ...」


奈実樹「残念ながらもって1日やね。

    ところで時間の方は大丈夫なん?」


美紗「ですよね...」


美紗「えっ...、あっ!?そうだっ、

   時間っ...!!」


 コンビニの時計を見ると、もうすぐ11時。


 50分前についたはずなのに、あれ?!普通に遅刻しそうになってる!?


美紗「ああああぁ!?って、もうこんな時間?!」


美紗「今から行ってギリギリ間に合うかな、」


美紗「すみません、もう、行きますね!!」


美紗「走って、5分は...いや、考える時間が

   あるなら行かないと」


奈実樹「恋人待たすと色々厄介やしな

    はよ行ってあげんとね。ご機嫌とり

    は大変やから」


奈実樹「1日向こうの言いなりにならんと

    かんし」


美紗「あは、は...そうならないように頑張り

   ます。また今度、ちゃんとお礼させて

   下さいねっ!!」


美紗(...遅刻しそうなのに、こんな嬉しいの。

   えへへ...///雪音にバレたら、

怒られちゃうかなぁ...///)


※スライド


美紗(久し振りに雪音と会える...っ///、)


 11時に間に合うかどうか、分かんないけど


シーウェをする時間さえ今は惜しい。


美紗「...うん、」


 そして私はスマホをバックにしまって、全力で来た道を走る。


 雪音に早く会いたい、少しでも早く


美紗(どっちだっけ、)


美紗「はっ、はっ...」


 息を切らしながら


 両手で膝を支えて辺りを見回す。するとこちら2番出口と書いてある来た時に見た大きな矢印があった


美紗「えっと...、こっち!!2番出口っ!!」


美紗(息が、あがって...、苦しい、けど...、

   でも。それよりずっと...!!雪音と会える

   事のが、何倍も嬉しいから...///!!)


 胸の高鳴りが、止まらなくって...。早く、雪音に会いたいって...、手も、足も。身体全体が。彼女に会える喜びで震えてる。


 だからっ...、私は止まれない、ううん、

止まらないっ...!!


美紗(今まで会えなかった分、うんっと

   お話ししよう、雪音と話したい事が

   いっぱいあるんだ。)


※スライド


雪音「...相手は私と純粋に仲良くなり

   たいと思っているだけなのに、『誘拐

   された事があるので信じられません』と」


雪音「そのような事を言われてしまえば、

   誰だってその方とはもう付き合いたくない

   と感じるはずでしょう。」


雪音「...比較的安全な日本の生活において、

   誘拐される事の方が世間一般的には

   珍しい分類に入ります。」


雪音「杏里さんと仲良くなりたいと思えば

   思う程、杏里さんには私の気持ちなど

   分かるはずもないと」


雪音「私はただ人を好きになるさえ出来ない

   のです。だからこそ此処まで追い詰められ

   ても満足の行く絵の一つすら描けない、」


雪音「杏里さんも付き合うのならもっと優秀な

   方の方が良いでしょう」

   

雪音「...彼女にとっても、私にとっても」


晴華「いや、その辺は大丈夫だと思うよ。」


晴華「美紗ちゃんわりと面食いなとこあるし、」


晴華「あの子ちょっと事情が特殊だから。

   むしろゆっきーみたいな子の方が安心

   すると思う。」


雪音「信じられる方と信じられない方では

   信じられる方の方が良いでしょう」


晴華「私は人を信じれないゆっきーも好き

   だけどね。でもそれだとゆっきーは

   成長しない、」


晴華「目をそらすのは簡単だけど」


晴華「自分がそうだって

   思い込んでるだけかもしれない」


晴華「事実なんてその人にしか分からない

   事だから」


晴華「辛いよね...、」


晴華「ゆっきーは優しすぎるんから。

   誰かの期待には必ず答えなきゃいけないと

   思ってる」


晴華「その役目がゆっきーである必要は

   ないのに。」


雪音「人目もあるので」


雪音「後ろから抱き締めるのはやめて下さい。」


晴華「たまたま知り合いに会ったとか、」


晴華「美紗ちゃんの事だからそういうので

   断れずにちょっと遅れてるだけ

   じゃないかなー?」


雪音「.....」


晴華「不安なら私がこうやって人目をはばからず

   抱き締めてあげるし、きっとすぐ来ると

   思う」


雪音「目立つので。」


 夜の11時。東京のホームの2番出口に急いで向かうと晴華さんと2人でお話してる雪音がそこに居て...、


 角を曲がった瞬間、雪音とバッチリと目が合った。


美紗(あれ...、)


美紗(雪音って、こんな...、...細かったっけ、)


雪音「...杏里さん、、」


雪音、痩せた...?


晴華「あ、王子様のご帰還(ごきかん)だねー、」


雪音「彼女は歴(れっき)とした女性ですよ。」


晴華「ゆっきーのって意味だよー♥️」


美紗「遅れて、ごめっ...。はっ、はぁ...雪音、

   はぁ、はぁ...晴華さんも...、」


美紗「お待たせ...、しま...した.....」


 走った負荷は後でくる事を、、今、身をもって思い知る...。でも待たせてたら急ぐのは当たり前、だから...。


晴華「お疲れ様ー、美紗ちゃん。」


晴華「その髪型自分で結んだの?すっごく

   似合ってるねー」


美紗「....すみません、っ、ちょっと...」


美紗「全力で走った後なんで...、頭が...

あんまり、回らなくって...。今...」


美紗(...痩せた?って、...聞きたいけど、

   でも...わざわざ晴華さんの前で言っても

   余計に、心配掛けちゃうだけだろう

   し...。)


美紗(どうしよう...)


晴華「大丈夫?焦らないで良いよー?

   それに時間はまだいっぱいあるからー。

   ちょっと休憩していこ?、ね?」


美紗「すみません...」


美紗「...雪音も、ごめんね、折角誘ってくれた

   のに...遅れちゃって...」


美紗「ちょっとごめん、」


 かぽっと、持ってきた水筒を開けて、温かいお茶を喉に流し込む。走った後は冷たいお茶の方が美味しいけど、贅沢は言ってられなかった


美紗「ふぅ...」


雪音「大丈夫ですか?」


美紗「うん、平気、私こう見えて

   結構タフだから」


美紗(...晴華さんが来るのは予想外だったけど、

   二人で話せる日もいつか来るよね。)


美紗(早速、ちょっと失敗しちゃったけど、

   何か良い感じに奢って晴華さんにも

   雪音の友達として認めて貰わねば)


晴華「ペットボトル、冷たいのあるから

   良かったらあげるよー。走ったら

   喉渇くもんねー」


晴華「まだ紅茶も残ってるからー、遠慮

   しなくていいよー」


美紗「え、あっ、ありがとうございます、」


美紗「本当に貰っちゃって良いんです

   か?」


晴華「うん、私はそんなに喉渇いてないから

   それとー...」


美紗「...飲んで良い?」


雪音「何故、私(わたくし)に聞くのですか?」


 その言葉を聞くやいなや、すぐにキャップを開けて砂漠化してしまった喉に冷たいお茶を勢いよく流し込む。


美紗(あぁ...、やっぱり走った後は冷たい水

   だよね。美味しいぃぃ...///)


 ゴクゴク、と喉元に水が通っていく音がもの凄い間近で聞こえた。


美紗「ぷはぁ、...はぁ、生き返るぅ...、」


美紗(これが...、天国...、)


晴華「タオルにー、クシもあるよー」


美紗「え、えっと...?」


 あと、ウウェットティッシュもー。と、晴華さんの腕に女子力必須アイテム達がどんどん積み上げられていく...。


美紗「も、もう大丈夫です!!お茶だけ

   で充分助かりましたからっ、そんなに

   返せませんよ、」


雪音「晴華さん、...少し構い過ぎですよ。」


晴華「ごめん、ごめんー。ちょっとやり過ぎ

   ちゃったかなー?あんまりしすぎると

   困っちゃうもんね、ゆっきーも」


雪音「困っているのは杏里さんの方です」


美紗(...こうやって見てると、晴華さんって

   本当に姉妹みたい。私にとってのくゆ

   みたいな、)


晴華「ん?」


美紗「ん、いや...、本当遅れちゃって

   すみません...。もう大丈夫ですから、

   お参りに行きましょう」


※スライド


美紗「雪音も、本当にごめんね?」


雪音「いえ。此処(こちら)も急でしたから」


雪音「来て頂けなくても仕方のないものだと

   割り切っていましたし」


雪音「ですから、...何の問題もありません。」


美紗「んー...でもやっぱり、スマホ...、

遅れるって打っとくべきだった

かなぁって...」


雪音「来て頂けただけでも喜ぶべき

   ことでしょうから」


美紗「いや、でも雪音に会いたかったって

   いうのは本当だよ!?!?」


美紗「約束の50分前には来てたし、

   むしろ早すぎて遅れたぐらいだし、」


雪音「それで忘れて夢中になっていたのですか」


美紗「....いや、まぁ...」


美紗(今日の雪音の発言、トゲがあるなぁ...。)


美紗「....実は待ってる途中で

   奈実樹さんに会って、」


美紗「私より奈実樹さんの方が結ぶの上手いし」


美紗「ちょっと時間があったからそのまま

   結んで貰ってたの。雪音が可愛いなって

   思ってくれるかなって」


美紗「久々に会うし、」


美紗「実際遅刻はしちゃったけど、

   でも雪音の事放置して遊んでた訳じゃ

   ないよ、、」


美紗「時間になったらすぐこっち来たし」


雪音「......」


美沙(...んー、この感じ...。初めて雪音と

   会った時みたい...、、)


雪音「...上級生の方に、髪を結んで貰うのは

   楽しかったですか?」


美紗「自分で結ぶより人にやって貰った方が

   綺麗になるし、」


美紗「...やっぱり、怒ってる...?」


美紗「遅刻したの、」


雪音「...別に怒ってなどいませんよ。」


雪音「それこそ私に怒りのような感情が備わって

   いれば今頃絵も完成していますし」


雪音「それに以前より私には感情が

   ないとそのように

   申しているではありませんか」


雪音「例え杏里さんが先にしていた私の予定より

   もその方との逢瀬を堪能していた

   としても私に文句の一つもありません」


美紗(凄い皮肉が込められてる、、)


美紗「ごめんて、」


美紗「雪音を蔑ろ(ないがしろ)に

   したわけじゃないから、、」


雪音「杏里さんとお会いしたかったのは

   私だけだったのですね。残念です。」


雪音「私が絵に勤しんでいた間。貴女は

   三年生の方と至福の時を過ごしていたの

   でしょう」


美紗「奈実樹さんと会ったのは今日だけだよ、」


雪音「そんなもの分からないですよ。」


雪音「言葉ではなんとでも言えます」


美紗(私だってもし晴華さんと一緒にいるのが

   楽しくて、)


美紗(遅刻しましたって言われたら。)


美紗(今の雪音みたいに)


美紗(そこに私が居る必要はないんだなって

   思う、)


美紗(...どうしたら、雪音が一番

   だって信じてくれるんだろう)


雪音「....」


雪音「...私はこのような性格なのです。」


雪音「貴女が歳上の方の方が良いというの

   なら」


雪音「その方と一緒にお付き合いして下さい」


美紗「雪音が本当に付き合いたくないっていう

   ならもう近寄らないよ、」


美紗「でも...、雪音が私のことちょっとでも

   好きなら一緒にいて欲しいって思う...。」


美紗「雪音は私と会うのをずっと楽しみに

   してくれたのに...、ほんとに申し訳ない

   事したな、って、」


雪音「....。」


雪音「...貴女もこのような言葉を投げ掛ける人

   ではなく」


雪音「もっと常に心から優しい方と一緒に居た方が

   幸せでしょう。」


雪音「可愛い格好を私の為にしてくれたと

   言ってくれる人と」


雪音「...そのような言葉を期待するの

   なら、晴華さんの方が合っています。」


美紗(雪音にそういうのを望んでる訳

   じゃないんだけど...、)


晴華「いや、多分美紗ちゃんと私は合わないよ」


晴華「美紗ちゃんお世話されるのとか

   あんまり好きじゃないし」


美紗「...むしろ出来ない人に対してイライラ

   するタイプなので...」


雪音「...今回出来なかった訳ですが」


美紗「責任とって、四つん這いで雪音の足

   舐めれば今回の失態は許されます

   かね...、、」


雪音「不衛生なのでそこまでしなくて良い

   です。」


美紗(雪音の足に汚いとこはないよ。)


晴華「ゆっきーの足は綺麗だよ」


美紗「でも雪音からあのメールが来た日から

   ずっと楽しみにしてたのは本当だよっ、、」


美沙「アプリに通知入れて、デートの日

   って書いてたくらいは」


美紗「...てっきり今日は二人きりだと

   思ってたし、」


晴華「私、邪魔しちゃったかなー?」


美沙「いえ、晴華さんと3人で居るのも

   楽しいですから。」


美紗「...それに。普段と違う

   雪音も見れるチャンスですし、」


雪音「どうして...、まだそんな事

   が言えるのですか、、」


※襟元握ってる

→なので、美沙はまったく発言に対して

 何も思っていない。不安なのを察してる


歩みを止めて、立ち止まる雪音。


晴華「ゆっきー...?」


美沙「...雪音?」


雪音「自分だって晴華さんを連れているのに、

   どうして自分だけ言われなくては

   ならないと、」


雪音「たった二~三分の遅刻でその

   ような事を言われる筋合はないと、、」

   

雪音「会っていないと言っているのに、」


雪音「会っていると決め付けられて」


雪音「...言い訳だって。まともに、

   聞こうともしなかったのに、」


雪音「...貴女は」


雪音「...どうして、このような人間を好きで、

   いられるのですか、、」


※キャプション


雪音「自分だって晴華さんを連れているのに、

   どうして自分だけ言われなくては

   ならないと、」


雪音「たった二~三分の遅刻で、その

   ような事を言われる筋合はないと、、」

   

雪音「会っていないと言っているのに、」


雪音「会っていると決め付けられて」


雪音「...言い訳だって。まともに、

   聞こうともしないのに、」


雪音「...貴女は」


雪音「...どうして、このような人間を好きで、

   いられるのですか、、」


※キャプション


雪音「誘拐されて人を信じられない私に、」


雪音「こんな人だったのかと...、」


雪音「...どうして、あなたは仰らないのですか...。」


くゆ『姉さんはもっとちゃんと怒った方が

   いいよ』


 時々、怒らない事に対して怒られる事がある。


 出来ない事にイライラする事はあっても。誰かに怒りをぶつけられたり


 謝られたりすることに対して何の感情も抱かない


 私にとってはそれが普通で。特段怒るようなことでもなかったから


 怒らないのなら怒らない方が良いと思うし、相手にとってもいちいち愚痴を聞かれるのもめんどくさいと思う


 それが例え自分に向けられた感情だとしても


 それで怒ったり悲しんだり、人と違ってそういう事をいう機会があんまり無かったから。


→A.『小さい頃から殴られてたから

   それくらい平気だし』

→B.『八つ当たりされるのは慣れてるから』



Aの場合


美紗「私は小さい頃から殴られてたから。

   それくらい平気だよ」


美紗(は、流石にちょっと重すぎるし...)


美紗(雪音を変な道に引きずり兼ねないことは

   ちょっと...。というか万が一そうなられた

   ら困る...)


美紗(もう殴られるのはやだし...)


美紗(足を舐めるくらいならいいけど、

   するならもっとこう。SMチックな感じが

   良いなぁ...)


Bの場合


美紗「八つ当たりされるのは慣れてるし。」


美紗「誰だってストレスがたまってる時は

   そうなるよ」






雪音「...想像と違う。」


雪音「融通が効かない、」


雪音「椿様のお子さんは本当に優秀で。

    良い家で育っているのに、人に対して

   文句を思う事も許されない。」


雪音「...古池家の人間として完璧でないと

   駄目なのに、」


雪音「私は何をやっているのでしょう。」


美紗『お父さん、出来たよ、頑張って

   作ったから』


―――だから、私を見捨てないで


美紗「...ずっと、

   頑張ってたんだね。」


美紗「誰だって失敗が続いたら不安になるし」


美紗「何もかも嫌になって全部投げ出したく

   なる。」


美紗「でも、...それで良いんじゃないかな。

   期待をされたところで何しても嫌いに

   なる人は嫌いなるし」


美紗「私みたいに何しても何も感じない

   人だっている。」


美紗「例え絵が描けなかったとしても、

   雪音に対する態度は変わらないから。

   安心して良いよ」


美紗「顔が良いから許される。」


晴華「最後の一言で台無しだよ」


雪音「...思えば貴女は逢った時から

   そうでした。」


雪音「私が何を言っても嫌な気持ちひとつせず、

   貴女がそんな私の事を理不尽に思った

   事も一度もなかった。」


雪音「今回だってそう。」


雪音「描くことに拘わって、私は大事な物を

   見逃していたのかもしれません」


晴華「もう、心配なさそうだね。」


晴華「...私はお仕事に戻るよ。やっぱりそういう

   のは私より美紗ちゃんの方が良い

   と思うから」


雪音「自分も仕事だというのに私の事を心配して

   付いて来て下さったのです。」 


美紗「...二人きりのが良いなとか

   言っちゃってすみません...、」


晴華「年相応で良いと思うよ、そういうのを

   言えない人もいるから」


晴華「私の事は気にしないで。

   後は二人で楽しんで来て」


 ばいばいー、と笑顔で手を振る晴華さん。その笑顔とは裏腹に、晴華さんの瞳は疲れの色を見せていた。


晴華「...はい、晴華です、」


晴華「...お疲れ様です。

   マネージャーさんですか...?あっ、

   いえ、今すぐそっちに...」


美紗「晴華さん。」


晴華「ん?」


美紗「これ、遅刻したお詫びです、」


 と言って、私は晴華さんの手に両手いっぱいののど飴を渡す。


 ラムネみたいなカラフルなちっちゃなハート型が可愛いSTK(ステキ)のど飴。


晴華「ありがとう、」


晴華「飴だと舐めるのに時間掛かるから、

   こういうのだと、凄い助かるよ。」


 小袋状で美味しいから私もとても気に入っていた。ビタミン配合で疲労にも良いから、お詫びと言ったら晴華さんも受け取ってくれるだろう。


美紗(見た目も可愛くて食べやすいし、疲れてて

   も普通に食べられるから)


美紗(確かに二人きりになるチャンスは

   欲しいって言ったけど。)


美紗(家族で出掛ける時間も大事だもんね)


 一回振り返って、雪音の方を見てから電車に乗るのを見ると


 晴華さんも雪音の事を心配してるんだろうなって


美紗(そんな気にするならいっその事仕事

   休んじゃえば良いのに、)


美紗(そういう訳にもいかないんだろうな...)


雪音「...これで、二人きりになりましたね。

   ...杏里さん」


美紗「そうだね」


雪音「あまり嬉しそうではありませんね。」


美紗「晴華さん見てると過去の自分を思い

   出すんだよ、無理してやってた時期をね」


美紗「昔の自分を見てるみたい。」


雪音「杏里さんは晴華さんの対処法を知って

   いるのですね...。」


美紗「対処法って、」


雪音「私が何を言っても受け取ろうと

   しないですからね。「悪いから」と

   言って」


美紗「あの手の人は自尊心がすごい薄いから、

   本能的にすぐ断っちゃうんだよ。でも

   凄く押しに弱い。」


美紗「だからお詫びって言って無理やり押し

   付けたんだよ、お詫びって言っていや、

   良いですとか言えないでしょ?」


雪音「.....。」


美紗「あげちゃえばこっちの物だし、結果は

   どうあれ向こうは受け取ってくれたから」


雪音「私もそういう考え方が出来れば良いの

   ですけどね...」


美紗「慣れだよ、慣れ。長所は短所になるし、

   短所は長所になるから」


美紗「真面目は一見短所に見えるけど、頼りに

   なるって言い換えれば長所になるでしょ?」


美紗(ただ暗い事を考えるのが嫌なだけ

   なんだけどね。)


雪音「...私は貴女が思っているより

   優れている人間ではありません」


雪音「それが出来るのは貴女が今まで頑張って

   来たから」


雪音「晴華さんを自分の我が儘で引き留め。

   貴女が困るのを見て安心感を覚えるような

   人間に」


雪音「そのような事は出来ません。」


美紗(まぁ、イラついてたら仕方ないよね...。)


雪音「...感情が増えるたびに、少しずつ

   自分の心が醜くなっていく」


美紗「それは違うよ。」


美紗(誰だって、この人に好かれたい。

   自分の事をもっと思って欲しいって

   いう感情はどこかにある)


美紗(なんで見てくれないのとか、そういう

   ので怒るのは相手がうざいなって

   思わない限り良いことだと思う。)


美紗(勿論、やり過ぎは良くないけど

   雪音はもっと我が儘になっても良いと

   思うけどね)


美紗「雪音はただ...」


→A『晴華さんに休んで欲しかった』

→B『辛かった』

→C『私を一人占めしたかった』






→『晴華さんに休んで欲しかった』


美紗「雪音は晴華さんに休んで欲しかった

   だけでしょ。」


美紗「雪音はさっきから晴華さんを自分の

   我が儘に付き合わせたって言ってる

   けど、」


美紗「むしろ仕事が忙しくて無理して笑ってる

   人に対して。何も思わない妹の方が

   どうかと思うよ」


雪音「...それは、」


美紗「人生なんてそんなものだから。」


美紗「こうでなきゃいけない

   理由なんて、何処にもないんだよ。」


美紗「それを決めてるのは自分自身だから」


美紗「雪音の我が儘は結果的に晴華さんを

   休ませる事に繋がってるし、家族が健康で

   長生きして欲しいって思うのは」


美紗「それだけ雪音にとって。

   晴華さんが大切な人だっていう

   証拠なんじゃないかな」


雪音「....」


美紗「あの人はそうでもしないと休まないし...」


雪音「...我が儘で、」


雪音「良いのでしょうか。」


雪音「...彼女には実の両親と出会うという

   夢があって。私には夢も何もないのに」


雪音「たった、一人の都合だけで」


雪音「彼女の邪魔をして

   良いのでしょうか...、」


雪音「.....」


雪音「...それでも、私は晴華さんの事が

   好きなんです。血は繋がっていなく

   ても、私の姉で居て欲しい...。」


雪音「晴華さんのつらそうな顔は見たくない、」


雪音「我が儘とは思いますが」


雪音「彼女はどう考えても働きすぎだと

   思うのです。」


美紗(今更感凄いな...、、)


美紗「私もそう思ってたよ」


雪音「...そうなのですか。」


雪音「大丈夫。大丈夫って言いながらいつも

   体調は悪そうですし、自分より頑張ってる

   人にゆっきーは頑張ってるよと言われても」


雪音「説得力がないんですよね。」


美紗(容易に光景が想像出来る...)





→B『辛かった』


美紗「元から人にはそういう感情があって」


美紗「雪音はただそれを

   我慢してただけ、」


美紗「余裕がないときは誰だって

   心は荒(すさ)むし」


美紗「自分は本当に出来ないのかなって

   思う。」


美紗「そんな時にそれを見た人が

   心配してくれるんだけど、」


美紗「それに対して鬱陶しいって

   思う自分も居て」


美紗「ほんとに、【心が狭いな】って。」


美紗「私も言う程、心が綺麗な

   人間じゃないよ」


美紗「...出来ない事は【出来ない】、したくない

   事は【しない】。それを我が儘だって

   言う人もいるけど」


美紗「実際そういう人の方が周りの人に

   好かれやすいんだよね。」


美紗「そう思うと。負け犬の遠吠えに

   しか聞こえないっていうか、」


美紗「そういう人の方が

   上手くやってるんだなって」


美紗「どうせやるなら楽しい方が

   良いじゃん、嫌なことでもさ」


美紗「我が儘って思うから駄目なんだよ、

   我が儘じゃなくて、【必要な事】なんだなって

   思う。」


美紗「それである日耐えられなくなって。

   自殺したらそれこそ本末転倒だし」


美紗「追い詰められるくらいなら我が儘に

   生きた方が幸せなのかなって。」


美紗「人って、自分が本当に幸せじゃないと

   人を幸せに出来ないし」


美紗「自分が辛くないからこそ

   人に優しく出来るんだと思う。」



→『私を一人占めしたかった』


美紗「私を一人占めしたかった...?」


雪音「....。」


雪音「貴女のその能天気ハムスター、のような

   思考も見習わないといけませんね...。」


美紗「それって褒めてる?」


雪音「皮肉っています。」






美紗「だから、雪音ももっと甘えて

   良いんじゃないかな。」


雪音「...甘える、ですか。」


美紗「もっと人を頼るっていうか、

   我が儘になって良いと思う」


美紗「感情を吐き出すのは大事

   だよ。」


美紗「雪音が頑張ってると、晴華さんももっと

   頑張らないとって思うし」


美紗「雪音が仕事を休んで、一緒に遊んで欲しい

   って言えば。晴華さんも断れないはずだよ。

   雪音の頼みとあらば尚更」


雪音「それで言うことを聞いてくれるような

   人なら良いのですが...」


美紗「雪音の頼みなら大丈夫でしょ」


雪音「そう上手くいく物でしょうか...

   私の頼みだけで」


美紗「出来なかったら出来なかった

   時だよ。その時はまた何か

   考えればいい、」


美紗「雪音が晴華さんに抱きつく

   とか、『私より仕事の方が良いの...?』って」


雪音「...それは最終手段としてとって

   おきます...。」


美紗「...倒れたら元も子もないからね。あの人

   心配だからって言っても、多分まだ頑張れ

   るからって休まないだろうし」


美紗「『休まないで、』って言われたら絶対

   来るでしょ」


雪音「...確かにそうですね。」


美紗「私もくゆの言葉には弱いから、そんな事言われたら休まざる負えないし...、」


雪音「杏里さんには妹さんがいらっしゃるの

   ですよね。」


雪音「杏里さんは、...妹さんの事をどう

   思いますか」


美紗「普通に可愛いと思うけど...」


雪音「...本当に可愛いと思っているの

   でしょうか」


美紗「というと...?」


雪音「可愛いと思っているならどうして

   休まないのですか」


雪音「倒れたら、私が心配する事を分かっている

   はずなのに。」


美紗「まだやれると思ってるからじゃない?頼まれたら断れない人はねー...」


雪音「やれてないじゃないですか」


美紗「あの人、ほんとに人の言葉聞かないよね...」


雪音「...倒れるまで自分が疲れてるって、分からないんです。」


雪音「倒れても、分かってなさそう

   ですが...」


美紗「まぁ...私も昔はそんな感じだった

   からね...。」


美紗「晴華さんは多分、人に心配

   される事自体苦手なんだと思う。」


美紗「雪音が嫌いじゃなくて」


美紗「人に無償で愛されるのって、受け入れるの

   に結構時間が掛かるの。特に私みたい

   に親から見放された人は」


美紗「雪音が晴華さんに甘えられないように、

   晴華さんも人に甘え慣れてないん

   だよ」


美紗「だから、我が儘な雪音を見たら

   晴華さんももうちょっと気をゆるめても

   良いのかな、って」


美紗「思うようになると思うよ。ほんとに

   信頼してる人なら、我が儘ばっか

   言ってとか思わないから」


美紗「むしろ信頼してくれてるのかなって、」


美紗「お姉ちゃんは妹に頼られるのに

   弱い生き物だからね。」


 それから私は、雪音と晴華さんの話で盛り上がった。


 晴華さんはいつも紅茶を飲んでるイメージがあるけど、


 実は砂糖二杯くらいのカフェラテが好きとか(紅茶は雪音が好きだから凄い持ってきてるらしい)


 朝は水色とピンクの下着を持ってきて「どっちの下着が良い?」って、


 笑顔でメイドさんみたいな感じで聞いてくるみたい。


 休みの日までそんな事をしなくて良いと言った事があるけど


 晴華さんはそれを好きでやってるんだって。


 雪音にとってそれがもう日常になっていた。


 晴華さんのお話をしてる雪音は凄く嬉しそうで、聞いてるこっちまで楽しくなった。


雪音「...絵が、...描けなくなってしまった

   のです。」


雪音「...どうしても貴女にその事を

   知っておいて欲しかった。」


雪音「今回杏里さんを誘ったのはそれが

   理由です」


雪音「何も」


雪音「言っては下さらないのですね。」


美紗「そうだね。」


美紗「出来ない時は出来ない

   だから、無理にそうしてとは

   言わないよ」


美紗「雪音が思ってるみたいに、

   怒ったり幻滅したりもしないし...」


美紗「ただ、...そっかって感じ。

   その為に雪音がどれだけ頑張ってきたかも分かるし

   私が出来るのは」


美紗「気分転換をする事だよ。」


雪音「.....。」


美紗「ちょっと、外出ない?」


※スライド


美紗「んーーーっ!!っ、と」


美紗「やっぱり、外の空気は気持ちいね。雪音」


 腕をまっすぐ伸ばして、外の空気を全身で受け取る...。


 冬の空気だからちょっと肌寒い、けど...。今だけは、その風がとても愛しく思えた。


雪音「...確かに、そうですね。」


雪音「この時間ともなれば観光客の殆どは

   境内に向かっているはずでしょうから、

   ...尚更なのでしょう」


美紗「雪音も人居ない方が好きだもんね。」


雪音「二酸化炭素が出ますからね」


美紗(そこ?)


美紗「流石に神社の方はもう人がいっぱい

   いるね...。でも、鐘を付いてるのは

   此処からでも見えそうだよ。」


雪音「もっと早くお話していれば、

   除夜の鐘が鳴る前に参拝

   出来たかもしれませんね」


雪音「今更という物ですが」


美紗「そこまで時間通りにお詣りしたかった

   訳じゃないから良いよ。」


美紗「それに、雪音とまた来年行く口実も

   出来たし」


雪音「無理に私に合わせる必要はありませんよ」


美紗「だって、綺麗に終わっちゃってたら。

   それこそ最後のお別れみたいになってた

   でしょ?」


雪音「....。」


雪音「...」


美紗「雪音は思った事、ない?」


美紗「...なんで、私が雪音の側にずっと

   居るんだろう、って」


雪音「まぁそれは。」


美紗「...実は、私は雪音を悪の組織から守るために

   派遣された影のエージェント、」


雪音「....」


美紗「って、言うのは、流石に冗談で」


美紗「...普通、告白が失敗した時点で」


美紗「とっくに諦めてるのにね。」


雪音「でしたら。何故...」


美紗「答えは簡単だよ。」


美紗「ただ【諦めたくなかった】から。」


美紗「それだけ、」


美紗「雪音と仲良くなるのを諦めたくなかった

   から。これも一瞬の我が儘だよね。」


美紗「でも私はその選択肢を選んで良かったと

   思う。あの時、そこで雪音を諦めてたら」


美紗「多分、この光景はなかったと思うから」


 黒の世界で見える綺麗な灯火。楽しそうに話す家族連れの人や、怒ってる彼女に対して全力で土下座をしながら許しを乞う人。


 除夜の鐘を勢い良く素振りしてる住職さんの後ろで順番を待ってる人達。はぐれて、お母さんを捜しながら奇声をあげて。叫んでる女の子、


 ...これだけ人がいると、自分の悩みや不安なんて 大した事ないのかなって。


美紗「大事なのはそこからどう楽しむか、

   なんじゃないかな」


 皆それぞれの願いや思いがあって、それを礎にして頑張ってる。


美紗(というか、ぎゅうぎゅう詰めでのんびり

   後で此処からお詣りするのも悪くないかな

   ぁって)


美紗「だからね、私はまだ信じてるんだ。

   雪音が幸せになる道はまだ終わって

   なくて、」


美紗「続いてるって」

   

美紗「物語は簡単に終わらないから」


美紗「物語なんじゃないかな、」


雪音「...杏里さん」


ゴーン、ゴーン...


美紗「あ、除夜の鐘。」


雪音「.....。」


雪音「...今年も、もう終わりですね。」


美紗「そうだね。」


美紗「...また新しい年も、雪音と

   過ごせますように。」


雪音「言ってしまうと願いは叶わないと

  言われているんですよ」


美紗「そ、それを言うなら、そもそも神社

   まで行ってないし...!!」


雪音「それを言ってしまったら。その願い

   自体が叶わなくなってしまう

   でしょう」


美紗「だったらっ、これは雪音とふたりの約束、」


美紗「神様のお願いじゃなくて」


雪音「....ふふ、」※切ない表情


雪音「...例え、その言葉が気休めの言葉で

   あっても。...嬉しいです」


雪音「私は貴女のように心の底から泣いたり、

   笑ったりといったような事は

   まだ出来ませんが...」


雪音「...ですが、これだけは分かります。」


雪音「杏里さんと出会えた事は私にとって

   とても幸せなことだった、と」


雪音「ありがとうございます。共感して

   くれて。」


雪音「私の話を最後まで聞いて下さって。」


雪音「...以前まで、」


雪音「涙とは ...弱い人が抑えきられない

   感情のため泣くものだと」


雪音「ずっと思っていました。」


雪音「でも、違ったのですね。...人が涙

   を流す理由は、それだけじゃない」


 雪音は私の涙を親指で掬って、指に滲んでいく涙をただ、優しい目で見つめていた。


雪音「貴女の涙はこんなにも優しく、そして

   温かい」


雪音「私も、出来ることならば...、

   引っ越したくありません...」


雪音「一度でも良かった。杏里さんの見て

   いる世界と同じ世界を」


雪音「私も...この目で見てみたかった。

   全ては私の力不足が原因です。」


雪音「古池の娘としても、貴女の友人と

   しても...。...失格ですね」


美紗「そんなことない、確かに最初は

   雪音の顔目的で近付いたけど、」


美紗「今は普通に、友達として雪音の事が

   好きだよ。」


雪音「...顔が良いのに

   罪はないですからね。」


美紗「顔だけじゃなくて、性格も。育ちが良い

   からすぐ否定しないとことか好きだし」


美紗「ほんとは凄い良い人で。目標の為に

   それだけ頑張れるのって凄いと思う」


美紗「生徒会のこともそうだけど」


 最初から諦めれてしまえば、何も辛くない


出来ないなら、手放せば良いのに。


雪音「杏里さんと離れたくない気持ちも

   ありますが」


雪音「...私もお祖母様の思い出が

   残った館に住みたいんですよね。」


雪音「結局、最後は自分の為でもあるのです。」


雪音「生徒会の仕事だって、人付き合いを知る

   良い機会でしたし。習い事だっていつか

   事業を立ち上げた時の勉強にもなります。」


雪音「それに、仕事をしてる時は 嫌な事も全部忘れられるので。」



雪音「...今の現状に嘆いてる暇があれば、

   それをどう解決するかに時間を割いた

   方が時間を有効活用出来ると思うんですよね」


雪音「まぁ、先程杏里さんに愚痴を言って

   しまったばかりなのですが。」


美紗「雪音のそういうところが好き

   なんだよ」


雪音「愚痴を言うところですか?」


美紗「いや、違う」


美紗「苦手な事なのにちゃんと

   向き合ってる事。」


美紗(...私はお父さんからずっと

   逃げてるし、料理の事だって

   あれから練習してない)


美紗(お母さんはいいって言うけど

   自炊が出来ないと食費も霞むし...)


美紗「苦手な事なのに、

   一生懸命...頑張ったんでしょ」


美紗「それだけで凄いよ。」


雪音「....」


雪音「実際なるまでに至ってませんから。」


雪音「そういうのは出来た後に言って下さい」


美紗「というか生きてるだけで偉い。」


美紗「少なくとも雪音が努力した分は

   描けるようになってるはずだよ。」


 そう言って、雪音の右手を見る。雪音は上手く隠してるつもりだけど


 筆の跡が付いて赤くなっている右手を庇うように左手で添えてるのも


美紗(ただ、引っ越したくないだけなのに。

   神様は...なんでこんなに意地悪なんだろう。)


美紗(そもそも金賞とれないと引っ越しって

何...、雪音が絵を描けなくなってるから?)


美紗(引っ越す予定が予定より早まったって

   言ってたし...。別に日本にいるから描け

   なくなったんじゃないと思うんだけどなぁ...)


美紗(そもそも悪いのは誘拐した人達なのに。

   雪音が言えないなら 雪音のお母さんに

   言ってみる...?、)


美紗(私が言うだけでも違うかも知れないし...)


雪音「...努力自慢をするつもりは無かったの

   ですけどね。」


雪音「結果が伴わなければ、全てにおいて

   無意味ですから。結果を見せれない者に」


雪音「努力(ゆめ)を語る資格はありません。」


美紗「だからと言って雪音に描けない絵を

   無理やり描かせるのは、どうかと思う」


雪音「元はと言えば引っ越したくない

   というのはこちらの都合ですからね。」


美紗(それをいうなら雪音のお母さんが引っ越し

   たいっていうのも向こうの都合だと

   思うけど...、)


美紗「...こんなに綺麗な手なのに。我が儘かも   

   しれないけど、雪音がつらそうに

   してるのを見るのは 辛いよ。」


雪音「つらい...、ですか」


美紗「だからさっ、」


美紗「二人で、考えよ」


美紗「一緒に居れる方法...、...それとかさ、

   雪音が絵を描ける方法とかっ...、」


美紗「私だって雪音の友達だもん、

   お願いだから...もっと頼らせて...、

よ」


雪音「...」


雪音「...今更、許可を取る事でもない

   でしょうに。貴女はいつもそう

   してきたのですから」


美紗「え?」


雪音「...自覚がなかったのですね」


美紗「あ、でも絵を描くのは一旦ストップ

   しよ、というか...、雪音...休憩ちゃんと

とってる?」


雪音「今までも休んではいましたので、

   その点は問題ありません。」


美紗「...何時間くらい?」


雪音「睡眠時間は3時間あれば

   充分でしょうか、」


雪音「いつもは寝てますし」


美紗「...うん。」


美紗「取りあえず3日は絵描くの...

   禁止かな」


美紗(口調がいつもと違うのは

   それが理由か...、)


※キャプション


小さく欠伸をする雪音。


美紗(いや、完全に睡眠不足、)


美紗(可愛いけど...)


美紗(普段とのギャップが)


雪音「すみません...。」


美紗(そりゃイライラもするわ...、)


雪音「ですが、...描かないという選択肢は

   あり得ません。椿様は晴華さん程

   甘くはないので」


雪音「一度すると仰った事は必ず

   実行なさる方ですから」


美紗「うん。前にも雪音そう言ってたもんね」


美紗(自分の足元にも及ばないくらい

   凄い人だって)


雪音「杏里さんには此方をお渡しして

   おきます。」


美紗「これは...?」


雪音「コンテストの申込用紙書です。この用紙

   は参加権もとい、入場券にもなって

   います」


美紗(ちょっと薄暗いけど...、近付けば

   まぁ...、読める...?)


雪音「コンテストは1月の第3土曜日。」


雪音「会場は討議会議場にて行う予定だそう

   です。テーマは杏里さんもご存知の通り」


美紗「『愛』、だよね...」


 申込用紙に描かれているテーマは雪音から聞いた通り『愛』をテーマにした作品と大きな文字で書かれてる。


美紗「雪音の代わりに私が描いたりとかは、

   出来ないよね...」


雪音「...プロの方でさえ銅賞を取れない方も

   いらっしゃる中、技術力も評価

   されるコンテストで」


雪音「金賞を取れる勇気があるなら

   良いですけど」


美紗「多分...、いや...まず、無理ですよね...。」


 雪音の絵を見たことあるから言えるけど、小さい頃から絵画の勉強をしていた雪音と高校生から習った私とじゃ


 当たり前だけど絵の上手さが全然違う。濃淡の濃さとか色の使い方とか。黒でも色んな黒があって、筆の種類で絵の質感とかも変わってくる


美紗(鉛筆と食パンで書いた事はあったけど、

   あぁいうのは技術であって一朝一夕で

   手に入る物じゃない、)


↓※画像にて用紙に書かれてる


『芸術コンテスト『心の会』

 代表取締役 会長 古池 椿


 『心の会』芸術コンテストは、各大手企業の代表が才あるアーティストを発掘しその活動を支援するため、作られた公募展です。


 より良い地域の発展と優れた芸術作品を身近に触れる良い機会として、審査員の目に留まった作品もコンテストホール内での展示を予定しています。


 今年のテーマは《愛》や《愛情》といったものをテーマに、作品の募集を行いたいと思います。


 最終審査を通過した作品は、2/1(◇)~2/14(◇)までコンテストホール美術館にて展示を致します。創意あふれる作品を奮ってお寄せ下さい。


【締切】

20✤✤年01月1✤日 (土)

作品提出・応募締切


【募集内容】

絵画、映像、創作(物作り)

愛・愛情をテーマにした作品。


【提出方法】

作品説明の作文と作品を提出し、

その後面接にて作品の発表を

して頂きます。


【参加費】

絵画部門 1万5000円

映像部門 1万円

創作部門 2万円



【賞金】


絵画部門・映像部門・創作部門

各部門ごとに賞金あり。


《絵画部門》


金賞 賞金500万円&企業絡みでの最優秀賞作品を

   授与した方の願いを一つだけ叶えます。

   ※例 自分のアトリエが欲しい等


銀賞 賞金100万円&画材等、豪華景品


銅賞 賞金50万円&イラストスタジオ




A『参加費高っ』

B『賞金、500万!?!?』


Aの場合


美紗「参加費、結構高いね...。」


雪音「それだけ参加者の方に対してのサービスが

   手厚いのですから」


雪音「食事や飲み物といったものも良い物

   が取り揃えられていますし」


Bの場合


美紗「「「賞金、500万!?!?」」」


雪音「専属のオーダーメイドの絵画でしたら、

   それくらい優に越えますよ。」


雪音「高すぎると参加者が参加しなくなって

   しまいますし、それくらいが丁度

   良いかと」


雪音「賞金も賞金ですし...」






美紗「というか、銅賞でも50万円!?、

   しかもイラストスタジオまで付いてる

   って、、」


雪音「展覧会も兼ねていますからね。」


美紗「私もちょっと行ってみたい」


雪音「結果発表の当日はもっと凄いですよ。

   資産家の方や有名なアーティストの

   方。著名人の方なども来ますから」


雪音「冬将軍さんとか、」


美紗「冬将軍さんって、」


美紗「『雌犬のおいぬ様』だよね。

   信仰心が高すぎて凄い(ヤバい)天使に

   疲れた時の女神が」


美紗「禁断の書を読んで犬になって、地上で

   暮らす話。人間みたいにドヤ顔したり」


美紗「名前が普通に雌犬っていう。本人も

   その名前を気に入ってるし」


美紗「普段は「わっふ」しか鳴かないのに

   たまに普通の人間みたいに二足歩行で

   垂直平行しながら歩いたり」


美紗「禁断の書でバグってるからいきなり真上に

   飛んでってどこ行くねーんしたり、」


美紗「凄い強い神様なのに、「483円しか

   盗んでないから良いだろ」って

   言った賽銭泥棒に」


美紗「徐に近付いていって、凄い自然に二足歩行

   で立ってからバックドロップ

   キメるのが面白かったんだよね。」


雪音「よくご存じですね。」


美紗「内容が凄い面白くて、普通に大人でも

   読める本だよね。高校生だけど」


美紗「チケットってどれくらいするの?」


雪音「3万円です。」


美紗「高っ、」


雪音「それでも開催された年はすぐにチケットが

   完売しますからね。結婚式会場の

   ような豪華な施設で、黒い暗幕の中」


雪音「上映されるんです。」


美紗「それを聞くだけで、なんか凄そうだね。」


美紗「そんなレベルの高いコンテストで

   入賞した作品が入ってきたら、

   三万円でも見たいかも、」


雪音「入選した作品を美術館にそのまま寄付して

   下さる方も多いので」


雪音「その日が特別なだけで、普通に

   入選した方の作品は見れますよ。」


美紗「『企業絡みでの最優秀賞作品を

   授与した方の願いを1つだけ叶えます。』

   って...」


雪音「それが引っ越しを取り止める条件ですね」


美紗「これでお願いしろって事?」


美紗「普通に引っ越ししたくないじゃ駄目なの?」


雪音「...椿様は本当に多忙な方ですので、

   そういった機会でしか本当にお会いする

   事が出来ません、」


雪音「これでもかなり、時間を頂けた方です。

   そのような中でお願いするなど...」


雪音「本当に尊敬している方なので

   お願いしづらいんですよ...。」


雪音「杏里さんと別れても良いなど

   ではなく...、」


美紗「分かってるよ。本当に尊敬してるんだね」


美紗(常日頃からお母さんと話してないと

   話って結構切り出しづらいよね。)


美紗(でも不思議だな、なんでそんなに慕ってる

なら雪音を引っ越しさせようとするん

   だろ...。)


美紗(普通、そういうことしてたら嫌だよね?)


雪音「椿様が開催するコンテストは一般的な

   コンテストと違って」


雪音「椿様立ち会いの元、金賞を受賞した方に

   『企業絡みで最優秀賞者の願いを一つ

   叶える』のが恒例となっています。」


美紗「応募方法は『愛』をテーマに

   した作品で...絵画、映像、創作物の

   三種の部門から」


美紗「各作品の金賞、銀賞、銅賞を決定

   致します。」


美紗(絵画部門以外も、賞金はちょっと違うけど

   大体絵画部門と同じ感じ)


紗(動画だと光学一眼レフカメラとかだけど)


美紗「部門は三部門あって...。雪音が出す

   のは絵画部門だから...絵画部門の提出

   方法...提出方法...えっ、」


美紗(裏面に詳しく書いてある...)


 絵画部門の提出方法。作品と共に作品の主旨を書いた用紙を会議場に当日持参。その後、作品についての旨を審査員の前にて発表。


美紗「このコンテスト、面接もあるの...?」


雪音「絵画といえども、面接形式で椿様本人

   と他二名の方々の前で自分の描いた作品に

   対する説明をしなければいけません」

   

美紗「面接もするとか、本当に

   コンテストだね。」


雪音「見る側は良いですけど発表する側は

   結構緊張しますよね。」


美紗「雪音も緊張とかするの?」


雪音「しますよ。緊張、というより椿様が

   目の前にいらっしゃる動揺ですが、」


美紗「慣れって怖いね。」


美紗(絵を描けない雪音に、感情をテーマに

  した作品。...でも、雪音が描いた絵じゃ

きゃ、まず金賞すら取れない...。)


美紗(でもなんで...。雪音の苦手な『愛』が

  テーマなんだろう...、雪音のお母さんなら   

  雪音の事情を知ってるはずなのに...)


※キャプション


取り敢えずその後は、寝不足で軽い貧血状態のままお参りするのは危ないって事で。


 3日間は絵を描かないよう雪音に念入りに釘を刺しながら、メールをするからちゃんと寝るように説得した。


 また落ち着いたらゆっくり二人で話そうって


美紗(凄いしんどそうな顔してたし...、流石に

  家帰ったら寝るよね...?)


美紗(二人で一緒に考える約束したし、

  私もコンテストについてもっとちゃんと

  調べておこう)


美紗「うーん...、申込用紙をまとめると...」


お家に帰って、机の上でノートを開く※SE


取り敢えずその後は、寝不足で軽い貧血状態のままお参りするのは危ないって事で


 3日間は絵を描かないよう雪音に念入りに釘を刺しながら、メールをするからちゃんと寝るように説得した。


 また落ち着いたらゆっくり二人で話そうって


美紗(凄いしんどそうな顔してたし...、流石に

   家に帰ったら寝るよね...?)


美紗(二人で一緒に考える約束したし、

  私もコンテストについてもっとちゃんと

  調べておこう)


美紗「うーん...、申込用紙をまとめると...」


お家に帰って、机の上でノートを開く※SE


美紗

「①愛をテーマにした絵画、動画、

    アート作品(物)で金賞をとる事。

   →雪音の場合『絵画で金賞』が

        引っ越ししないのに必要な条件


 ②氏名は作成者本人。偽造は駄目。

  描いた本人じゃないのに自分が描いた物

  と言って提出するのは許されざる諸行。

  

   →私が描いても意味ない。

 

    ☆雪音のお母さん曰く、

     『雪音が描いた作品で』金賞が条件


   ③絵だけじゃなくて、面接も評価される。

   →いかに『愛』というテーマを面接で

    審査員に伝えられるかが鍵」


↑画面いっぱいに表示(※ノート用紙)


美紗「ノートに書いてみたは良いけど...、

   はぁ~ぁ...、」


美紗「...完全に詰んでる、、」


美紗(あの状態の雪音が愛を伝えるのとか

   絶対無理だし、)


美紗(本人も愛とは程遠い性格してるって

いってもんね...。)


 抱き枕を抱き締めながらベットの上に寝転んで、思いっきり息を吸って


 そして吸い込んだのと同じくらいの大きなため息をつく。


美紗「雪音が金賞を取るのが条件だから、

   私にはどうしようもないし...。」


美紗「金賞って、どうやって取るん

   だろ...」


美紗「....」


美紗(...駄目だ、眠くて...。全然思い浮かばない

   ...)


美紗(.......また、...あす、...かんがえ...よ)


※真っ暗画面


「「...彼女と...ば、」」


「「貴方は...ない苦しみの底へと落ちてゆく。」」


「「それでも、貴方は何故...を持ち続け...が

  出来..でしょう」」


美紗((...?))


 真っ暗な世界の中で


 何かに足を捕まれてるように身体が重くて、思うように動けない...、


美紗((...誰))


美紗((私を呼ぶのは...、誰))


 それでも。真っ暗で、何も見えない中、私はその声の先にいる人にどうしても、会いたくて、もがくように闇の泉の中


 その声を頼りに、彼女の元に歩いてく...。


「「...貴方のその...の、強さはどうやら本物の

  御様子。本当に変わらない...す

  ね、...何時まで経っても...は変わっ、てない」」


 そこに立って居たのは、ぼやけた写真のように霞んでる女の人の顔


美紗((なんで...、))


 私の記憶が反映してるのか、どうしても彼女の事が思い出せない。


「「...ずっと、貴女を見てきました。」」


美紗((私を知ってるの...?))


 向こうからは私の声が聞こえないのか、彼女はただ寂しそうな顔をしたまま物思いげに話続ける


「「貴方の望みは私の望みと少し、...似て

きているのかもしれません」」


 その瞬間、眩しい光が見えて。ビッグバンのように破裂したかと思うと光は虚空に広がって粒子状になって意識が遠ざかってく


美紗((待って、行かないでっ...!!))


 必死に女性に手を伸ばしても、まるで闇に引きずり込まれるようドンドン光から離れてって...


美紗「...あれ?」


美紗(夢...?)


美紗「んー...。なんだっけ...、」


美紗「...何か、大事な夢を見たような...」


※キャプション


美紗(...んぅ、...何か、飲みたい。)


 なんか最近、身体が重い...気が、する。


美紗(お茶飲も...)


 朝起きてぼーっとして、寝たいのに...、眠くない...。


 ...でも、2時間くらい経つと何か急に...凄い、寝くなって...


 横になったらいつの間にか寝てる...。


 結局、あの日見た夢の内容はよく思い出せずに私はというと正月を過ぎてから3時間に一回ぐらい夜中に目が覚めるという日々を過ごしていた...


美紗(...寝起きロシアンルーレット、)


※寝起きロシアンルーレットとは、寝不足の

 際、確率で起こる拳銃で撃たれたかのような

 偏頭痛の事をいいます。


美紗(雪音なら分かるけど、なんで私まで

   寝不足になってるんだろう...)


美紗(私はなにもしてないのに...)


 手探りで手すりを握りながら階段を降りてくと、うっすらぼやける時計の短い針が6の数字を指しているのに気付く。


美紗「6時...」


美紗(...まだぜんぜん寝れる)


 冷蔵庫に入ってたペットボトルのお茶を飲むと、渇いた脳に水分が行き渡ったのか、少しだけだけ頭が冴えた...。


美紗(ちょっと前まで朝から勉強漬けの毎日

   だったのに、)


美紗(随分怠惰になったなぁ...。ずっと

   信じられなかったけど)


 台所に飾ってある家族写真を見て語る。たまにこうやって『みさ』さんに心の中で喋ると少しでも彼女が私になれる感じがするのかなって


 くゆとか今の家族に何となく話すまでもないかなって事は毎回彼女に話をしていた。


美紗(別に縁蛇さんみたいに声が聞こえる

   訳じゃないけど、気持ちだよね。気持ち。)


美紗(皆のお陰で、ちょっとだけ人を好きに

   なれたよ。でも)


美紗(大事な友達が凄いコンテストで金賞を

   とらなきゃいけなくなって、)


美紗(金賞が取れないと海外に行かないと

   いけないんだって。)


美紗(最近それで寝むれなくて、皆に心配

   されてるんだけど)


美紗(話したところでどうしようも

   ないし、それより私に何か出来る事

   はないのかなって)


美紗(『みさ』さんならそういうとき

   どうする?)


美紗(受け入れる?、それとも...)


※スライド


飲んだお茶を冷蔵庫に戻して、ゆっくり階段を上りながら部屋に戻ると


 机の上にある一冊のノートがそのままおきっぱなしになっていた。


美紗「...。」


 雪音が引っ越さずにすむ方法、どうしたら雪音が少しでも絵を描きたいと思うようになるのかなとか、


 絵を描くのが楽しくなるような事って、なんだろうとか...。


 ...眠れるまでアイデアを書いたこのノートも


 最初はこうすれば雪音がまた絵を描けるようになるかもしれないって、


 張り切って書いてたんだけどね...


※キャプション


 時は戻って、お正月から2日経った次の日。


くゆ「姉さん、大晦日はどうだった?」


美紗「んー?別に普通だよ。

   友達とお参りしようと思って

   たんだけど、思ったより早く

   着いちゃって」


美紗「髪を結ぶために、コンビニに

   行ったんだけど。そこで学校の

   先輩に会ってね」


美紗「ちょっと遅刻しちゃったけど、

   最終的には許してくれたし。」


美紗「友達も凄いストレスがたまってるみたいで

   相談に乗ってたら、除夜の鐘が鳴って」


美紗「そのまま放って置くことも

   出来ないから、体調がまた良い

   ときに行く事になった。」


くゆ「結構散々じゃない...?」


美紗「それだけ聞くとね。」


美紗「タイミングが悪かったんだよ、」


美紗(あ、雪音からシーウェきてる...、)


雪音『おはようございます。杏里さん』


雪音『あなたの約束通り、三ヶ日は何も

   せずに過ごしましたよ。やはり、しっかり

   と睡眠を取っていると身体が随分と楽ですね。』


美紗(そりゃそうだ。)


美紗『なら良かった。明けましておめでとう、

   雪音』


雪音『明けましておめでとうございます。

   杏里さん。続きを書かせて頂きますね』


雪音『もともと休日は取るつもりで

   いたのですが、コンテストとは

   別に描いていた絵にも支障が出ていまして...』


雪音『感情とは関係ない物すら、

   今は描けなくなっています。』


美紗『だから描いちゃ駄目だって。

   自信失くすから、』


雪音『流石に椿様もその事に気づいたのか、お正月の

   会食の予定を全てキャンセルして下さって...』


美紗『全部?』


雪音『はい。「体調が優れない時は

   無理をせずしっかりと休まな

   ければなりません」』


雪音『「そのような考え方をして

   いては、いずれ過労死しますよ」と言われてしまいましたが、』


美紗(めっちゃ的を得てる...)


雪音『Work addictionの私には辛いですね。』


 ワークは分かるけど、addictionが分からなくて


 調べてみると Work addiction は英語で【仕事中毒】って意味だった。


美紗(ワーカーホリックね、)


 気持ちは分からなくもないけど、今はそんなことしたらむしろ逆効果だ


美紗『折角休みを貰ったんだから、絵の事は

   一旦忘れて。今は雪音が一番したい事を

   すれば良いんじゃないかな』


雪音『私が一番したい事ですか?』


美紗『うん。』


美紗『雪音、前に乗馬が好きって言ってたし

   ビアンカに気が済むまで乗ってみても

   良いんじゃない?』


美紗『ビアンカも喜ぶと思うし、』


雪音『確かに最近はあまりしていません

   でしたが...』


美紗『たまにはそういうのも良いんじゃない?何かを

   頑張るためにはその分、気分転換も

   必要だよ。』


 そんな日が3日くらい続いて...、取り敢えず私が言った絵のお休み期間はあっという間に過ぎていった。


美紗『もうそろそろ学校だけど、色々試して

   みて調子はどうですか?』


雪音『朝から描いてはいるのですが。

   やはり...、以前より描けなくなって

   いますね...。』


美紗(そう簡単に治るわけないよね、)


美紗『絵を描くのが嫌になって来てるん

   じゃない?』


雪音『絵を描くのが嫌...?』


雪音『私がですか?』


美紗『因みに、どんな感じに描けないの?』


雪音『そうですね。どのように表現したら

   良いのでしょうか...、手が痛むとはまた

   違うのですが...』


雪音『絵を描く以前に手が止まって動かないの

   です。』


美紗『一生懸命やってるのにね。』


 ノートに書いた方法に×印がまた1つ増えていく。コンテストまであと2週間ちょっと...


 それまでに、雪音が絵を描けるようにしないといけないのに...。


美紗(何がいけないんだろう...。)


美紗(なんで雪音は、絵が描けなくなった

   んだろう...。本来ならあんな上手な絵が

   描けるのに...、)


美紗(私より全然、上手いはずなのに、)


美紗(結構休んだのに描けないって、

   どうすればいいの...?、)


美紗(普段休んでないから、急に

   休んだ反動でやる気がなくなった...?)


美紗(雪音に限ってそんな事ないと思うけど、)


美紗(雪音と離れたくないから、一生懸命

   頑張ってるのになんで...、)


美紗(時間がないっていうのはそっちも

   分かってるはず。)


美紗(雪音は、私と離れても平気なの...?)


雪音『...ごめんなさい。』


 普段の雪音からは考えられない『...ごめんなさい。』という、私に対するシーウェでの【謝罪】の文章


美紗『ごめんなさい...、』


??「どうして、お前は俺の子供なのに

   こんな事すら、出来ないんだ...ッ!!」


??「このっ、出来損ないがッ!!、、」


...信じ、られなかった。自分、自身が...


 人にされて嫌だった事を、人にやっていた事が。


美紗『私は、絶対お父さんみたいにならない

   から』


美紗「...普段は、怒らないのに...。」


美紗(...これじゃぁ、私が雪音に無理やり

   絵を描いて欲しいみたい。)


美紗(×が増えてく度、雪音に対する期待が

   不安になってった。いつの間に、出来ない

   事が【駄目】な事に、変わっていった?)


美紗「...やってる事、完全にお父さんと一緒、

   だ...、...私、」


美紗「今まで私が雪音の為に考えた

   事って...、」


美紗「全部、私が...雪音に『させたかった...

、事...』だったの...かな...。」


※スライド


美紗「.....。」


美紗『ごめん、また後で連絡するね。昨日

   あんま寝れなくて...、本当、ごめん

   ...。』


美紗「..........。」


美紗『起きたらちゃんと返事するから。』


美紗『雪音は何も悪くないよ。』


美紗(雪音は、)


 そう、雪音に言い残して。スマホの電源を消して、スマホを持ったまま倒れ込むようにベットに横たわる...。


 グシャグシャになったシーツを掴みながら、目をつむって。...すごい頭の中がゴチャゴチャするけど...。でも...、


...今はただこうする事しか私には出来ない、から。


美紗(.....私って、...なんなんだろう。)


※キャプション


美紗「....。」


 少し眠たからか、さっきよりまだ落ち着いてる...、かな...。


美紗「ん”んぅ"...、」


 まだちょっと辛い気持ちは残ってるけど...。流石にあのままじゃ...、雪音も不安になる、よね...。


美紗「...返事、...返さなきゃ」


美紗「えーっ...と、スマホ...」


美紗「...机の上に、ない...。あれ?

   どこやった...?」


 取り敢えずベットの上を見ても何もないから、シーツを全部引っ張って、中を覗いてもスマホの姿はどこにも見当たらない。


美紗「あれ?どこいったんだろ?

   どこかにはあると思うんだけど...」


美紗「あっ...、」


 ...少し不安になって。本格的にスマホを捜そうとベットから降りて スリッパを掃くため視線を下げる...と、端末が目に入った。


美紗「あーぁ...持ったまま寝ちゃってたん

   だ...。はぁ...、でも...下がマットで、

   ほんと良かった」


美紗「電源は付くよね、うん...」


 このスマホ、今のお母さんが高校生だからって...くれた物だから本当(ほんと)壊れなくて良かったぁ。


美紗(スマホの電源の待ち時間って変に

   長いから、こういうとき凄い焦る...。)


美紗(あの人の事だから、壊れても怒らない

   と思うけど...)


 怒られるとか、怒られない以前に。私にとっては嬉しかった思い出だから、出来れば壊れて欲しくない。


美紗「ふぅ...。ちょっと焦ったけど、通知も

   ちゃんと来てるし...、ひとまず一安心...?、

   かな...?」


美紗「...でも。なんて返事、返したら良いん

   だろう。」


 シーウェの通知を一旦閉じて、アプリを最起動させる。


 鯨のキャラクターが塩を噴いている待ち画面が出て、すぐに通知が来てる一番上の雪音のアイコンをタップした


雪音『ご期待に沿える事が出来ず、すみ

   ません。』


雪音『貴女が悔やむのも無理はありません。

   私が描かなければ何も始まらないの

   ですから、...不甲斐ない自分を責める

   ばかりですね。』


美紗(謝られると責めるようになっちゃう

   から、謝らないように言わないと...。)


 通知を巡ると雪音は私が寝た間にも返事をしてたのか、新しい会話が増えてる。


雪音『何も思い浮かばないのです。本当に、

   ...何も。キャンバスは絵を描くものだと

   いうのに、キャンバスという存在その

   物が認識出来なくなっています』


雪音『まるで、...絵という概念そのものが

   私の中から消えてしまったように』


美紗(さっきの返事、...すみません。に

  変わってる...)


 書かれてる返事は全部時間が空いてて。言葉を選びながら書いたんだろうなって分かる...


美紗『雪音まだいる?』


美紗『今、起きた。』


美紗(既読、付いてる...)


美紗『待たせちゃってごめん。』


美紗『雪音は謝らなくて良いよ。どれだけ

   頑張っても、出来ない事は出来ないって

   知ってるし』


美紗『むしろ、私が変に期待したから雪音を

   焦らせてたかもしれない。』


美紗『雪音ならなんでも出来るって、私にだって

   出来ない事があるのに、雪音だけ

   それを望むのは、どうかしてるよね。』


美紗『お父さんに昔、凄い厳しく育てられたから

   、そういうのが出ちゃったんだと思う。』


美紗『本っ当ごめん、雪音...!!私、すっご

   おおおっい、反省したから。許して欲しい。』


美紗(こんな事...、...書いたら、

   雪音に嫌われちゃうかな...。)

 

雪音に本当の事を『  』。

→言う

→言わない



→言う


美紗(...)


美紗(.....書こう。)


 コンテストの『絵が描けない』って、あの時普通の人でも言い辛い事を雪音は、私に打ち明けてくれた...。


 ましてや、誘拐にあって、感情まで失ってしまうくらい怖い目にあって...。あんなに弱味を握られるのを嫌がってた雪音が私を信頼して


 教えてくれたんだ、


 凄く、...不安だったと思う。私が思ってる以上に...雪音は勇気を振り絞って私に相談してくれた。


 そんな雪音に、私だけ嫌な感情を隠すというのは 友達である雪音に対して凄い失礼な事だった。


美紗(...雪音が信じてくれてるのに、私が

  怖がってたら...本当の友達なんて

  言えない。)


美紗『...雪音の力になるんだって、絶対雪音に

   絵を描かせるんだって。』


美紗『それが、目的になってた。』


美紗『大事なのは、雪音が絵を描くことじゃ

   なくて。雪音が引っ越ししない事

   なのに。』


美紗『...駄目だった数が増えてくたび、だったら

   私はどうすれば良いの、私はどうしたら

   良いの、って』


美紗『何で、『出来ないの、』って...』


美紗『目的がそれなら...そうなって当然だよね。

   私は雪音が引っ越ししなければそれで

   良かったのに、』


美紗『本当...ごめんなさい。...謝ってすむ

   話じゃないけど。』


美紗『絵が描けなくても、皆から出来ないって

   言われても。私は雪音の事が好きだから』


 既読がなくなって、多分スマホを閉じたんだろう。


雪音に嫌われて...、無視されたらどうしようかな...。






→言わない


美紗(雪音も今は落ち込んでるだろうし...、

   私の都合で大変な時に不安になる事

   言うべきじゃないよね...。)


美紗『キャンバスが絵を描く物じゃなくて、

   ただの紙にしか思えない、かぁ...。』


美紗『脳が絵っていう存在を忘れたいと

   思ったらそうなっちゃうよね。』


雪音『この文章でよく分かりましたね』


雪音『先程の文章は自分でも何を書いている

   のか、少し分からなくなっていたの

   ですが...』


雪音『杏里さんの読解力には驚かされる

   ばかりですね。心を読まれてしまわれた

   のかと錯覚すら覚えてしまうほどに』


美紗『雪音に比べたら私なんてまだまだ

   だよ。それに...期待に応えられない

   辛さも痛いほど、知ってるから』


美紗(知ってる、はずなのに...、ね...。)


美紗『一回、色々見直してみる。』


美紗『雪音もちゃんと休んでね。心配する

   から...』


雪音『分かっていますよ。...お互いに』


※キャプション


美紗「んー...」


  でも...、雪音に無理はして欲しくないって、考えれば考えるほど...、良い方法はどんどん思い浮かばなくなっていって...。


美紗(そりゃ、そうだよね...。)


美紗(だって...、絵って...無理やり描くもの

   じゃないのに...。絵は自分が描きたいの

   を描くものであって、)


美紗(描きたくないものを描くものじゃない。)


美紗(描きたくない時に描いた絵なんて...、

   そんなの...)


美紗(雪音が『描いた』絵じゃなくて、雪音が

  『描かされた』絵、でしかないもん...)


 だから結局、最後はいつも「無理しないでね」とか「ちゃんと休んでね。」とか...。


 私はただ、...その日から逃げるような文章しか雪音に送る事が出来なかった。


美紗「...ノート、片付けなきゃ。」


 ノートを裏返して、ふぅっと大きな溜め息を付く。


美紗(明日は、学校かぁ...。)


 このノートも...、結局私が雪音に無理して絵を描かせるために書いたノートだったのかな...。


 ノートを見るたびに、...嫌な気持ちになる。


美紗「....」


 裏返したノートを持ち上げて、私は本立ての奥の方へ、


美紗「....違う。」


美紗「...こんなん、...じゃ、ない、」


美紗「...私がしたかったのは、雪音に無理やり

   絵を描かせて引っ越しをやめさせる

   こと、じゃないっ...。」


美紗(本当(ほんと)にこれで、良いの...?)


美紗(最後まで...見て、見ないふりして。

   このままそれだけ認めて終わりにして、

   それで...、)


美紗(...結果はそうなっちゃったけど、

   同じことをまた、繰り返すの...?)


美紗「違う...、此処で終わったら、本当にそう

   なっちゃう、」


 私はぎゅっと、力いっぱい、もう見たくもないこのノートを掴んで...


 そして、思いっきり、広げた。


 今まで書いた文字のある部分を全部まとめて、手で千切った後、それをぐしゃぐしゃに丸めてゴミ箱に捨てて、


 ペン立てから取り出した太いマジックペンで表紙に『雪音を幸せにする本、改』(※改は◯で囲ってる)と大きな文字で書く。


美紗(よし、これで嫌な事は、全部おしまいっ!!

  こんな気持ちじゃ、雪音を幸せにする

  なんて絶対、出来っこないもんっ!!) 


美紗(考えろ、私っ...!!)


美紗「今、私が雪音にできる事...、」


 雪音に愛を知って欲しい?楽しく絵を描いて欲しい?私が雪音を家にずっと匿って、引っ越しさせなければ...?


美紗(それは、駄目だ、雪音がお母さんを

   困らせてまで家に居たいとは思えない、)


 愛を知るのが怖いっていうのなら、愛なんて一生知らないままで良い。


 絵が描くのが嫌というなら、絵も、筆だって握る必要はない。


 愛が分からなくても、絵が描けなくても。人は生きていけるから...。


 いっそのこと、引っ越し自体をめちゃめちゃにしてもいいんだけどね。それなら、全部私のせいになる、


美紗(お母さん達には迷惑掛ける事になる

   けど...、)


美紗「...でも、...それじゃ、駄目なんだよね...、」


美紗(...雪音はお母さんに認められたいん

   だもん、雪音が望んでるのは、実力で

   金賞をとってお母さんに認めて貰う事、)


美紗「 それが、簡単に出来たら苦労しないん

   だけどね...、」


美紗(雪音には束縛してる枷(かせ)を全部

  外して、絵のしがらみから逃げて、誰に

  もとらわれない自由な世界がある事を知って欲しい。)


美紗(...私もそうだったから。親に認められ

  なくて全部なくなった時、初めて本当の

  自由を知った。最初は手放すのが怖かった

  けど)


美紗(....でも。今は生きてて良かったって思ってる。)


美紗(...あぁ、そっか...。)


美紗(雪音を幸せにする方法、)


美紗(それは、雪音にコンテストに出なくて

   良いよって。言うことだったんだ...。)


※キャプション




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