⑪雪音と遊ぶ編【みさゆき】


雪音が来るまでの間、外で待ってようかなーと思って玄関を開けると


 一面真っ白な世界と、共に生半可じゃない寒さが身体を襲った。


美紗「は?、雪凄ー...!!というか、

   さっむっ!!」


美紗「うわー...、キレイに積もってるなぁ...。

   雪は降ってないけど...。雪音、大丈夫

   かな」


 ドアを閉めて玄関から少し離れるとザクッザクッと音を立てて靴が雪に埋もれながら、歩いた所に新しい足跡を残していく


美紗「東京ってあんまり雪が積もらないん

   けど、これだけ積もってたら雪だるま

   とか作れるかな...?」


美紗(どっちが大きく作れるか、くゆと

   勝負したりしても楽しいかも。)


 ポストの前に着くと手をジャンバーの中に入れて身を縮ませる。それにしても今日寒いね...


美紗「...新聞、ついでに持ってこ」


 そうして新聞紙を脇に挟みながら、私は雪音の車が来るのを待つのだった。


美紗「....。」


美紗「ふぅっ...、」


美紗「...多分...大丈夫。」


 滑らないように雪の薄い場所を自転車で走ってる人や雪に喜びながら歩くワンちゃんに引っ張られながら散歩をする飼い主さん...


 一人ひとりにそれぞれの人生があって。その人の生活がある


 私にとって大好きだった日常も...この世界にとってみればとても些細な事で


 それが、少しだけ寂しい...。


??「遊ぶって約束したのにっ!!、、」


??「終わったのはお家の周りだけだろー?」


美紗(ん?)


 ご近所さんの家の子がお父さんらしき人と一緒にスコップを持って道路の前で何か言い合ってる...


??「...やだーっ!!今遊ぶ!!、」


??「もうお家のやつ終わったでしょ!!、、」


??「何でなーちゃんの家じゃないのに、

   パパがゆきかきしなきゃいけないの?」


美紗(お向かいさんのところの子かな...?

   中々気の強い子だなぁ...、)


美紗(私がやったら絶対叩かれてるわ...。)


美紗(前見たときも思ったけど、あそこの家族は

   本当に家族サービスが良いよね。)


 女の子にせがまれながら、女の子のお父さんはスコップを雪の中に入れて一生懸命雪かきをしてる...。


美紗(あれだけ言われて、殴らないお父さんも

   凄いなぁ...。外だからかな?)


美紗(...私の家が普通じゃないだけか。今は

   良いところに住んでるし、)


??「お家の分は3人分で良いけど、この道路は

   皆が使う場所だから。」


??「みーちゃんだってパパが居ない時、

   此処で遊んだりするだろう?、」


??「それは、そう...、だけど...。」


??「みーちゃんにはまだちょっと難しい

  かもしれないけど...。」


??「「道路さん、毎日使わせてくれて

   ありがとう」って」


??「日頃の感謝に雪かきするんだよ。それに

  誰かが雪で滑ったりしたら危ないからね」


美紗(よく出来たお父さんだなぁ...、これは

   結婚出来る。)


??「みーちゃんも滑って転ぶのは嫌だろう?」


女の子「うん...。みんなのためにパパがする

    ならみーちゃんもお手伝いするっ!!、」


 女の子はどこからか小さなスコップを持ってきて、お父さんのお手伝いをする事にしたようだ。


??「よしっ、良い子だ。流石僕と母さんの

   子だなぁ、これが終わったらたらふく

遊ぼうな」


女の子「うん!!」


美紗「...雪かき、かぁ...。」


美紗(私もやった方が良いのかな...?)


雪音「今からなさるつもりですか?」


美紗「うわっ!?」


美紗「ゆ、雪音...!?、ビックリした...、」


美紗「居るならいるって言ってよ」


雪音「いつ気付くのかと気になって。」


美紗(もう、お嬢様。)


美紗「車の音とかしなかったけど...」


雪音「歩いて来ましたからね。歩行は足腰を

   動かす良い(よい)運動にもなります

   から」


美紗「寒くなかった?」


雪音「暖かい格好で来ましたから。」


美紗(雪音もこういう事するんだ...、

   何かちょっと意外...)


雪音「雪かきします?」


美紗「流石に雪音が来たから、しないよ。」


雪音「それまではするつもりだったのですか?」


美紗「動いてないと外、寒くって」


雪音「お家で待つのは駄目だったのですか?」


美紗「雪音と早く会いたかったからじゃ

   駄目?」


雪音「....そうですね、」


雪音「因みに杏里さんは

   冬か夏どちらの方がお好きなのですか?」


美紗(あは、は...渾身の一撃を軽くいなされた..

.)


美紗「んー...、暑いのも寒いのも駄目なんだ

   けど...。」


美紗「強(し)いて言えば...、冬?」


美紗「特に外とか。夏はどうしようもないけど、

   冬は服を着ればなんとかなるし...。

   冬のお布団は気持ちいいしね~。」


美紗「因みに好きなのはやっぱり、秋!!」


美紗「美味しいものいっぱい食べられるから

   いいよねぇ...、秋...///松茸、しいたけ、

   カボチャに、サンマ...♥️」


美紗「クシュッ」


雪音「風邪...、ですか?」


美紗「...あ”~、あは、は...大丈夫。此処で

   立ち話も寒いし、ほんとに風邪

   引いちゃう前に家に入ろっか」


雪音「そうですね。...ですがその前に」


美紗「うん?」


雪音「此方をお渡ししておきますね。」


美紗「あ...、お茶菓子?」


雪音「この間のお礼です。特別美味しい物を

   選んで来ました。」


美紗(雪音のお家に言ったとき渡したのが

   懐かしい...。成る程ー、こうやって渡す

   のかぁ...)


雪音「珈琲やお紅茶の方が良ろしかった

   でしょうか?晴華さんがお菓子の方が

   喜ぶと仰っていたのでそちらに、」


美紗「あ、うん。お菓子の方が皆嬉しいと

   思うよ、くゆも喜ぶと思うし」


美紗(お父さんは知らないけど、まぁ

   高かったら美味しいよね。)


まず、パッケージが高そう。


美紗「御家族の方とよろしければ。有名なホテル

   のお菓子メーカーなそうですので味は

   保証されているかと」


美紗「雪音、お菓子食べないもんね。」


美紗(いくらするんだろ...?)


雪音「晴華さんが何が入っているか分から

   ないからと、基本的に口にしている

   のは彼女の手作りの物ですね」


美紗「晴華さん、お菓子も作れるんだ...」


美紗「あ、入って、入って」


美紗(今日雪音が来る事は、皆に事前に

   伝えてるから)


雪音「お邪魔致します。」


ミユ「....」


 玄関に入ると早速ミユが雪音の事をじっと見つめている。


雪音「ワンちゃん、ですね。」


 いつも私を見るとすぐ吠えるんだけど...、雪音が来てちょっと警戒してるみたい。


美紗「この子がミユ。前に話してた黒柴の子

   だよ。ほら怖くないから、おいでー、ミユ」


 その言葉を聞いた瞬間、ミユはダイニングの方へ逃げるように走ってく。


美紗(...うん、知ってた、) 


雪音「可愛いワンちゃんですね。」


美紗「うん、本当に可愛いんだよ。全力で

   逃げてっちゃったけど...」


美紗「くゆー」


くゆ「ちょっと待って、」


くゆ「急にミユがすっ飛んできて...、

   何、姉さ...」


くゆ「どうも...」


雪音「お邪魔しています。」


くゆ「...触ってみます?抱っこしてる時は

   大人しいんで...。...姉さん以外には」


 さっき逃げていったミユはくゆに慰めにいってもらっていたのか、抱っこされて嬉しそうに尻尾を振ってペロペロとくゆの顔を舐めていた。


美紗「私も、愛してるのに...」


雪音「確かにその様子を見ていると、人に

   慣れている子の様ですね。では...」


 と、雪音もくゆに言われて指をそっと差し出す...。するとみゆはぺろっと差し出した指を舐め初めたのだった。


雪音「....、」


雪音「...よく知らない私にも、あなたは懐いて

   くれるのですね。」


美紗(私は?????)


美紗「じゃぁ私も、」


みゆ「ヴゥーーッ」


 っと、みゆは眉間にシワを寄せてさわるなといいたげにヴゥっと犬歯を出して唸ってる。


美紗「さっきまで嬉しそうだったのに!?」


雪音「...何をしたら其処(そこ)まで嫌われる

   のでしょうか」


美紗「う”ぅ...、こっちが聞きたいよ...」


くゆ「最初っからこうだったよね...。姉さん、

   みゆだけじゃなくて、他の動物にも

   嫌われる体質だったし...」


美紗「私はこんなにもけもちゃんを愛してる

   というのに...、、...あっ、」


美紗「これ、雪音がくれた奴。先に食べて

   ていいよ。んー、でも、私の分も

   残しておいてくれると嬉しいな」


くゆ「うん、....それにしても随分立派な

   入れ物だね。このロゴ...、VIPホテルの

   お菓子メーカーの名前ですよね?」


雪音「ご遠慮なさらず。急にこしらえた物

   ですので大変恐縮ですが、御家族の方と

   是非御召し上がり下さい」


くゆ「こしらえた...?って、これもしかして

   オーダーメイド品ですか...?」


美紗(おーだー、めいど)


雪音「そうですが...、お気に召されません

   でしたでしょうか?でしたら、

   今から別の物をご用意致しますね」


雪音「勿論、そちらは無料で差し上げます。」


 と雪音はスマホを開いて電話を掛けようとする。


くゆ「いえっ、連絡しないで、大丈夫ですっ!!、、

   私、このお菓子凄い、大好きなので

   っ!!、(食べたことないですけど、」


くゆ「こんな良いお菓子が貰えて、嬉しい

   です...」


 くゆの雪音に対する全力の反応がそのお菓子の値段を物語っていた...。


美紗(いや、いくらするの...?)


※スライド


美紗「お茶で良い?」


雪音「はい、」


美紗「温(あった)かいのと冷たいのだと?」


雪音「どちらでも構いませんよ。杏里さんの

   お好きな方を」


美紗「じゃあ、冷たいの持ってくるね。部屋の

   中は温(あった)かいから」


 階段を降りて、雪音を待たせないよう出来るだけ急ぎながら冷蔵庫に入っている麦茶を取り出す。


美紗(...お母さんが朝から作ってたのだから

   多分美味しいはず、雪音が気に

   入ってくれるといいな)


カポッ


美紗「このまま持ってくと零れちゃう

   よね...、何か容器...」


美紗「...っと、あった。あった」


 丁度良いくらいの量が入りそうなプラスチックの容器を見つけてそれを棚から出して、中に麦茶を注いで私は部屋に戻った。


美紗「雪音が遊びに来たのはいいけど、...何

   しよっかなぁ...。というか女子高生って

   普段、お家で遊ぶとき何してるんだろう?」


美紗(雪音はゲームって感じでもないし、

   ゆずかーさんもそっち方面はてんで

   駄目だから...)


美紗(だからって、トランプとかUNOとか

   ...。もっと他にする事なかったの?、

   高校生が二人集まってトランプとか...、、

   ※ゆずかーさん風)


美紗(だし、なぁ...)


ガチャッ


美紗「お待たせー」


雪音「ありがとうござ...」


 左腕で抱き抱えるように肘の上にお盆をのせてからドアノブを開けてドアが閉まりきる前に瞬時に、足で食い止める。


美紗「よいしょ、」


雪音「います...。」


雪音「....」


美紗「....えっ、と...」


美紗「ちょっと行儀、...悪かったかな」


雪音「...いえ」


雪音「此処は杏里さんのご自宅、古池家では

   なく杏里さんのお宅です。...そう

   いった物は個人の自由だと思います

   よ」


雪音「ただ、少し斬新で...」


美紗「斬新...」


美紗(かな...?)


美紗「...一応、行儀が悪いっていう自覚は

   あるんだけど、...今はもうちょっと

   自分に我が儘でも良いのかなって」


雪音「一般の家庭では扉を開ける際に

   そのように開けるのがトレンド

   なのですね」


雪音「気にする必要はありませんよ。ただ

   見慣れていないので少し驚いてしまった

   だけです」


美紗「いや、一般の家庭でこれしたら駄目

   だからね!?!?」


雪音「そうなのですか...?」


美紗「他の人のお家はやっちゃ駄目。

   両手塞がってるからやってるだけで、

   今日はたまたまだよ」


美紗(学校とか職場ならするかもしれない

   けど...、)


雪音「自由な発想の絵を描くためにも

   そのような感性は必要だと思います

   ので、杏里さんは普段通り過ごして

   下さい。」


美紗「気晴らし(ルビ:あそび)に

   来たの分かってる...?」


 コトン、と小さな丸い机の上にお茶を置いて一息付く。すると雪音もお茶に手を伸ばして一口だけ麦茶を啜った。


雪音「....、」


雪音「美味しい...ですね。」


美紗「ふふ、でしょー、麦茶って

   お茶なのに甘くてすっごい美味しい

   んだよ。」


雪音「会議の際 麦茶自体は出される事

   もあるのですが、」


雪音「...此方の麦茶は普段飲むものとまた

   違った印象を受けますね。...とても

   美味しいです。」


雪音「これが...家庭の味、ですか」


美紗「ねっ、私もこのお家に来て初めて飲んで

   凄い感動したんだよ。」


美紗「こんなに美味しいお茶があったなんて、

   私知らなかったもん。何かほっとする

   味だよね」


雪音「普段紅茶ばかり飲んでいますからね

   こういった味も悪くないです。」


雪音「身体にも良いですし」


美紗「でも雪音も麦茶を美味しいって思って

   くれて嬉しいなぁ、私も大好きだから。」


雪音「...杏里さんはこの麦茶が本当にお好き

   なんですね。感情に乏しい私であっても

貴女の喜びが見てとれますから」


美紗「あは、は...そんな事言わると、

   ...なんだかこっちまで照れちゃうよ」


雪音「...。」


雪音「...杏里さんに会うまで、」


雪音「こういった些細な行動でさえ、

   ...古池家に取り入られるためにしてい

   ると信じて疑わなかったでしょう」


雪音「私は、一体何に怯えていたの

   でしょうか...。」


美紗「人をどうしても疑っちゃうのは

   雪音が自分の身を守るために

   必要な事だったと思うし、」


美紗「そこまで自分を追い詰める必要も

   ないと思うよ」


美紗「そういう人もいるって気付いた

   だけで。意識するだけでも

   違うと思うから」


美紗「疑心暗鬼になるとそういうのも

   見えなくなっちゃうし」


雪音「貴女は、いつもそうやって...私を

   甘やかしますね」


雪音「...私がどのような言葉をぶつけたと

   しても拒絶すらせず、寧ろ積極的に

   寄ってきて...。」


美紗「まぁ、嫌われるのは慣れてますから。

   雪音の下僕だし」


雪音「...今、さらっと言いましたが」


雪音「...いつ貴女は、私の下僕になったの

   ですか」


美紗「ハロウィン祭で負けた時...?」


雪音「...そういえば、あれから何も言って

   ませんでしたね...。もっとまともな提案

   をすれば良いものを...」


雪音「自ら、下僕を志願するとは...」


美紗「愛のある下僕なら、大歓迎だよ」


雪音「...下僕に対する認識がどこかで間違って

いませんか...?」


美紗「雪音も友達より下僕の方が良いでしょ?

   下僕は約束を違(たが)わないから」


雪音「貴女にそういう趣味がある

なら良いですが...。」


美紗(計画通り、)


美紗「お代わりいる?」


雪音「受け流しましたね。」


 こうして私は無事、雪音の下僕になる事に成功したのだった。


※スライド


美紗(なんか飲み会みたい...、麦茶だけど)


雪音「...周りの方が見ているのは、私ではなく

   古池という"憧れ"の存在です。」


雪音「ですが、...その中でも貴女は私の事を

   "雪音"個人として扱って下さいました」


雪音「絵が描けない私でも...杏里さん

   は迷う事なく私の側に居てくれた。」


美紗(ちょっと色っぽくないですか、雪音

   さん)


雪音「...だからこそ、貴女と居る時間は

   私にとって本当に特別な時間だったの

   ですよ。」


美紗「本当にどうしたの?」


雪音「貴女と共に居るときは誘拐された

   事さえ、少しですが過去の話だと

   思えるようになりました。」


雪音「貴女には心の底から感謝してるん

   ですよ。...ビアンカの事も、麗夜さん

   から私を命掛けで守ろうとして下さった事も」


雪音「忘れられない。大切な思い出です。」


雪音「折角の機会ですから、この場で全て

   言ってしまおうと思いまして」


美紗「...ありがとう、」


美紗(大分追い詰められてるね)


 夢で見た景色と、今の雪音に姿が重なる


 門番さんと会ったあの世界は 私にとってただの"夢の中で起こった世界"に見えなかった。


美紗「雪音との関係はこれからもずっと

   変わらないよ。会う回数が減ったと

   しても」 


美紗「また一緒に思い出を作っていけば

   良いんだから」


 雪音は本当に疲れているのか...、うっすらと唇だけ微笑む。こんな時まで微笑む(わらう)のは雪音らしいというかなんというか...


雪音「そう。...ですね、」


雪音「...ただ、最近。...色々と...、

   疲れてしまいまして...」


→『心配する』

→『雪音の話を聞く』


→『心配する』


美紗「大丈夫...?」


雪音「私だって、たまには弱音を吐きたい時

   もあるんですよ。」


美紗「人の話を聞くのは好きだし

   力になれる事があったらするから」


雪音「...無理をしなくても大丈夫ですよ、

   人の愚痴を好き好んで聞きたいと

   思う方はいません。」


雪音「どちらかと言えば、"めんどくさい"や

   "あまり関わりたくない"と思う方の方が

   多いでしょう」


美紗「人の役に立ちたいって前に言ったでしょ。」


美紗「あの言葉に嘘はないよ」


美紗「確かに気持ちに余裕がない時は

   そうかもしれないけど、」


美紗「今の私は少なくとも誰かの力になりたい

   って思ってる。今(ルビ:わたし)の

   家族がそうしてくれたみたいに」


美紗「人の目ばっかり気にして...、誰も信じら

   れなくなって。『どうせ私の事なんて

   誰も見てくれないのに、』って」

    

美紗「自分より年下の子が、私の事を心配して

   声を掛けてくれたのに。私はその子に

   対してそう言っちゃってね」


美紗「...自分より下の子が恐くて、手を振り

   払って。哀しそうな顔をしてるくゆ

  (その子)に本当に申し訳ないって思った。」


美紗「自分の事を大切にしてくれる人を

   傷付けるより、」


美紗「愚痴を聞いて嫌がられる方が良いよ。」


美紗「我が儘で情けなくても、そっちの方が

   ずっと良い」


 一番自分の事を見てなかったのは自分で、今はそうでもいつか愛想を切らして離れてくってずっとそう思ってた


 でもそれは、ほんとは自分が傷付きたくないだけで。本当は離れて欲しくないしずっと側に居て欲しい


美紗(私は、寂しかったんだ...。ずっと)


美紗「それで嫌がられた時は嫌がられた時

   だし、相性が悪いから仕方ないって

   思う」


美紗「産みの親だって、自分の子供が嫌って思う

   時があるんだもん。人なんてもっと

   嫌われて当然」


美紗「でも、たまに私みたいのがいるん

   だよね。」


美紗「私もその時、ほっといて欲しいって

   思ってたけど。それでも時間が経って

   あの時の事を凄い思い出すの」


美紗「あぁ、あの時本当は凄い嬉しかったん

   だなって。」


 そんな雪音を見てほっとけないって思うのかな。確かに一ミリも愚痴が嫌じゃないって言ったら嘘になるけど


 それでも私は彼女の言葉が聞きたいって思う。


美紗「辛いときは辛いし、泣きたい時は

   思いっきり泣いて良いと思う。生きてる

   だけで偉いから」


雪音「....、」



→『雪音の話を聞く』


美紗「雪音が引っ越さないために

   凄い頑張ってくれてるの知ってるから、」


美紗「嫌な事があったら言って」


美紗「それで少しでも雪音の負担が減るの

   なら愚痴でも何でも付き合うよ」


美紗「やっぱり雪音(ルビ:びじん)は笑ってる

   顔が一番似合うから」


 そう言って俯向いてる雪音の頬にそっと触れる。お互い目が合って、...雪音も私の目を見て分かったと思う


 私はあなたの敵じゃないって


 だから怖がらなくて、いい。今は分からなくても きっと分かるようになるから


雪音「...昔の私はこんな風ではありません     

   でした。」


雪音「もっと、人の事が好きでよく人と

   話をしていました」


雪音「...だからこそ、それを誘拐犯に

利用されたのです。向こうからすれば

   私はとても騙しやすい子供だった

   でしょう」


雪音「人に隙を見せないよう」


雪音「全部疑って、」


雪音「...人に対してあまり期待しない

   ようにしました。信じて、また利用

   されるのが 恐かったから」


雪音「ですが、それでは良い人まで離れて

   く...。分かってはいますが...。」


雪音「もうあんな目に遭いたくない...、

   貴女は命がけで私を守ってくれたのに」


雪音「私は...。貴女を試すような事ばかりして」


雪音「...本当に誠意のない人間です...。

   人にはそれを求めておいて」


雪音「私自身は...全然、出来てないの

   ですから」


美紗「返そうとしてくれたの...?」


美紗「そんなの別にいいのに」


 私にとって愛されないのは普通の事で、一方的に愛する事だってわりとある。お父さんも友達も誰一人として私を愛してくれなかった


 くゆ達を除いて。


 そこから私が嫌な人が目立つだけでそんなに嫌ってる人はいないって事に気付いた


 お世辞じゃなくて、本当に私は愛を求めてないんだ


 私はただ宝箱みたいに綺麗な雪音にずっと見てて欲しいだけ。それだけで充分だし


 それ以上望むのも高望みってものだろう


美紗「...本当に誠意のない人はそんな事

   言わないよ。そもそも思ってない

   から口に出来ない、」


美紗「どうせ俺が悪いんだって開き直って

   それを皆のせいにする」


 雪音の周りには晴華さんだって、麗夜さんだっている。


 こんなに愛されてるのに "気付けない"のは凄く悲しいから


美紗「無理に返さなくて良いんだよ。

   私は雪音みたいに」


美紗「綺麗な人に我儘言われて、

   蔑んだ目で見られながら」


美紗「それでも好きだから捨てる事も出来ず

   最終的になんか側にいるっていう立場が

   個人的に気に入ってるから。」


雪音「....。」


雪音「...杏里さんって"メンヘラ製造機"って

   言われたりしませんか?」


美紗「"メンヘラ製造機!?!?"」


美紗(あれ、心当たりしかない...、)


雪音「やっぱり駄目でしたか?」


美紗「いや、初めて言われたから...。

   でも変に的を射てて凄いなぁって」


雪音「...ホストみたいですね。」


美紗(私周りから駄目男(ルビ:だめお)

   認定されてる...?)


雪音「褒めてるんですよ。...それだけ人の

   心を掴むのが上手いという事です」


雪音「私には...ないものですからね。」


雪音「"欲しい物ねだり"です」


美紗(雪音にも欲しい物とかあるんだね。

   ただ言わなかっただけで)


美紗(こうやって側に、本音を言える人が

   居なかったのかな)


 麗夜さんは論外として、晴華さん(ルビ:あの人)は自分の本音を語る事はない


 同じ義理の姉妹を持つから気持ちは分かるんだけど


 それでももうちょっと雪音に甘えて良いと思うんだけどな。晴華さんも



 

美紗「雪音が来たら何しようかなって

思ってたんだけど、こうしてお話してる

だけでも楽しいね。」


雪音「そうですね...。良い意味であっても悪い

   意味であっても、返しに飽きません

   から」


美紗「それ褒められてるかな...?」


雪音「...褒めていますね。私としては、

   ですが、一般的にどうというかは分かり

   かねます」


雪音「下僕に進んでなりたがるところとか」


美紗「雪音が思ってくれてるなら、

   いっかな」


雪音「そのようにあまり気にしない人柄

   というのも気に入っているところの

   一つです。」


雪音「...あぁ、そうですね...。それと、この

   お茶に関してなのですが」


美紗「ん?麦茶?」


雪音「はい。彼女...晴華さんには"内緒"で

   飲んでいますので...」


雪音「お茶を飲んだ事は"秘密"という事にして

   頂きたいのです。」


雪音「...勝手に飲んだ事がバレてしまったら

   きっと彼女は、嫉妬してしまいますから」


 雪音はこの麦茶がよっぽど気に入ったのか、気がつけば湯飲みの中が空っぽになってる。


美紗(今まで寄りさえしなかった猫ちゃんが

   気がついたらあげてたお皿に水を飲んでた

   みたいなのに近い感動が...、ちょっと...、)※誤字じゃない


美紗「そんな嫉妬するの?」


雪音「まぁ...。私が思うくらいには、」


雪音のコップに追加の麦茶を注ぐ


美紗「雪音は普段お家で何してるの?」


雪音「基本的には読書ですが、絵を描いたり...。

   バイオリンやピアノ。茶道や弓道

   花道、書道などもしていますね。」


雪音「勿論馬術もですが」


美紗「ほんとに多趣味だね。まさしく

   文武両道って感じ、凄いなぁ...」


雪音「最低最限度のマナーですから...出来て当然

   、出来ねば恥といった所でしょうか」


雪音「...雅(みやび)ですが、私の腕は趣味と

   言えるほど程美しい物ではありません。」


美紗「楽しくないの?」


美紗(日常会話で雅(みやび)とか使う人

初めて見た...。)


雪音「...どうでしょう、」


雪音「上には上が居ますからね...。」


雪音「そう仰る杏里さんは普段は何をして

   いらっしゃるのですか?」


美紗「暇なときはスマホで携帯小説を

   書いてるかな。」


美紗「それとかスマホでゲームした

   り、動物の動画見たりとか」


美紗「動物が好きなんだよね。なんか大抵

   避けられるけど...」


美紗(でも本人に直接言うと寄って来なく

   なったりしたら嫌だから言わない。)


雪音「でしたらコケッティ君というキャラ

   クターをご存知ですか?」


美紗「コケッティ君?」


美紗「...あの最近、有名な兎の?」


 雪音が言ってるのは、最近"ちょむちょむ"で出たアクセサリーショップが連携して作った黒い縦長帽を被った兎の事だろう。


美紗(私も持ってるけど、雪音ちょむちょむ

   やってるのかな?)


雪音「はい、耳のハートマークが特徴の」


美紗「このキャラ?」


ちょむちょむを開いて、雪音に見せる。


雪音「あ、はい。そのキャラです」


美紗「耳の傷の形がハートマークに

   似てるんだよね。黒いハットを被った

   白い兎のキャラクター。」


美紗(雪音もゲームとかするんだ。

   なんか意外かも...、そういう趣向品

   とかしないと思ってたから。)


美紗(もしかして私より上手かったりするの

   かな?私も暇潰しでしかしてないから

   そこまで上手い訳じゃないし...)


美紗「確かに最近バナーとかでよく見る気が

   するけど...、雪音はこういうキャラが

   好きなの?」


雪音「いえ。コケッティ君は晴華さんが

   考えたキャラクターです」


美紗「は?」


 あの人、ほんと何でも出来るな...、雪音のコミュニケーションは取れてないけど...。


美紗(むしろそれだけじゃない...?)


雪音「最近アプリケーションを作った

   そうですよ。宜しかったら杏里さんも

   プレイしてみては如何でしょうか」


 調べると、ほんとに『橘晴華制作』って書いてある...。というかコケッティ君の声も、まさかの晴華さん本人っ...!!


美紗「本当凄いね...。晴華さん...。」


雪音「ゲームの特典では、晴華さんの秘密が

   見れるそうですよ。私の知らない事も

   普通に書いてありましたから」


雪音「雪音もやってるんだ。」


美紗「雪音も知らない事?...それは

   ちょっと面白そうかも。ダウンロード

   してみよっかな」


美紗「朝乃先輩とか廃課金したりしそう

   だよね。」


美紗((っていうか、朝乃先輩も作成陣側に

   おるっ...!!、、機械得意そうだもんね...。))


雪音「アプリで知った情報は基本的に晴華さん

   にお話するのはNGとされてますね。

   彼女のプライバシーにも関わってきます

   から」


美紗「そういうとこはちゃんとしっかりしてる

   んだね。」


美紗「そうだよね。晴華さんも急に秘密

   知ってるよとか言われたらホラー

   だろうし...」


美紗「秘密ノート、みたいな感じなんだ。

   でも何が好きとか知れるだけでも

   結構楽しいかも」


美紗(というか、雪音がやってるし。)


美紗「...折角だからちょっとやってみようかな。

   雪音もやってるみたいだし、」


雪音「良いと思いますよ。」


 「コケッティ君」と検索してアプリをタッチして『コンジェニトティーン』をダウンロードする。


※コンジェニト+ティーン=コケッティ

→先天性+若者


美紗「説明を見てると、育成ゲームみたいだね。」


雪音「会話がメインのゲームですよ。」


美紗「ノベルゲー?」


美紗「作業っていうより、ログインゲーム

   って感じかな。毎日話掛けるタイプ」


美紗「暇な時に開けば良いから楽で良いね。」


雪音「そうですね。定期的に会ってあげて

   ないと敬語になるそうですから」


美紗「...距離感リアルだね」


 立派な魔法使いになるため魔法学校で困ってる皆の悩みを解決するゲームみたいだった。


コケッティ君「君の『個人情報』を教えてね。

       それは僕が君をもっと愛せる

       ようになるための契約書

       なんだ♪」


コケッティ君「いわば、婚約書みたいなっ?」


コケッティ君「大丈夫、何もしないから。

      君の事がもっと知りたいだけ

      だよ♥️」


美紗「出だしからキャラ濃いなぁ...、コケ

ッティ君。今はこういうキャラが

   人気なんだね」


→「男の子?」

→「女の子?」


コケッティ君「君は初対面の人にそういう事

      聞いちゃうタイプの子なの?」


コケッティ君「別に男の子でも女の子でも

       良くない?」


→「そうだね」


美紗(じゃぁなんで聞いた?)


コケッティ君「...僕は、AIを介してでしか君と

       お話出来ないみたいだね。

       僕には君の姿がはっきり

       見えてるのに」


コケッティ君「まぁいっか。それより学校に

       行こうよ☆彡」


美紗「設定凄いね...、へー。これはハマり

   そうかも」


美紗(なんか狛先輩っぽいけど)


雪音「それは良かったです。彼女もその

   言葉を聞いたらきっと喜ぶでしょう」


美紗「雪音がやってるゲームと同じ

   ゲームが出来て、嬉しいし」


美紗「まさしく一石二鳥だよ。雪音は

   何処まで進んでるの?」


雪音「私も始めたばかりですから...3章節

   あたりでしょうか、服も色々手に入

   りますよ。今はタキシードを着せて

   います」


 そういってスマホを見せてくれる雪音。そこには確かに執事姿のコケッティ君がいた。


美紗「あ、本当だ。白い兎だから黒いの

   凄い似合うね」


コケッティ君「知らない人の声がしたけど

       ゆっきーのお友達?」


美紗「えっ、音声対応までしてるんだ。

   会話してると本当に晴華さんみたい...」


コケッティ君「はぁ~ぁ、僕がそっちの世界

       に行けたらいいのになぁ...」


美紗「いつか行けるよ、きっと」


コケッティ君「僕がそっちの世界に行けたら

       好きなだけモフモフさせてあげ

       るのに」


美紗「それは楽しみだね。雪音」


雪音「えぇ、本当に良いゲームだと

   思いますよ」


コケッティ君「ゆっきー大s」


美紗(大好きっていう前に切った)


美紗「...あ、麦茶。新しいの入れてくるね」


雪音「良ければ手伝いますよ」


美紗「今日は雪音がお客さんだから大丈夫

   だよ。すぐ戻るから」


 空になった湯飲みを重ねてお盆を脇に挟みながら、部屋を出る。


美紗(...はぁ、)


美紗(ちゃんと...)


美紗(言わなきゃ、ね...。)


 締まったドアに、凭(もた)れながら


 ...部屋の中にいる雪音に聞こえないレベルの音で溜め息をついた。


美紗「....、」


 雪音と話すのが楽しいほど私の胸は罪悪感でぎゅっ、となる...。それはまるで心の奥に


 心臓が棘に刺さったみたいに痛くて...。


 このままじゃいけないっていうのは分かってるのに...


美紗(...私はなんて、弱いんだろう)


 ...もう少しだけ、...このままで...


雪音「走れソリよ...風のように...」


雪音「...早く...早く...」


美紗(クリスマス、ソング...?)


美紗「...」


美紗「雪音...?」


ガチャッ


雪音「あ、あぁ...。...少し雪を見ていました。

   この国での四季を見るのももう最後に

   なるかもしれませんから」


雪音「...惜しいですね。この国の四季は

   とても綺麗ですから」


美紗「....うん」


美紗「私も...。」


美紗「...本当にそう思う、」


 お父さんが逮捕された時


 実のお母さんと外国に行くという話になって、精神的に疲れていた私は英語を覚える余裕もなく、そんな気力もなかった...。


 そんな私を見てくゆが「お姉ちゃんと一緒に住みたい」って言ってくれて...、


 その日から私は晴れてこの家の一員(ルビ:かぞく)になった。


美紗(...あの時くゆが手を差し伸べてくれな

   かったら、今の私は此処に居なかった

   かもしれない)


 今の雪音の状況がそう...。かつて私が起こるはずだった未来(うんめい)を辿る雪音


美紗(私があの時引っ越してたら、雪音は

   引っ越さずに住んだのかな...)


 決まった事だから、仕方ない事だって。


 誰も助けてくれない...。それが凄く悲しかった。


美紗「....。」


雪音「.....」


門番『引っ越しをする事で彼女が得られる

   物も沢山あります。...その事も美紗さんは

   考えていますか?』


美紗「..........。」


美紗(雪音が引っ越す事は必ずしも悪い事

   ばっかりじゃない...。それでも、ちゃんと

   見送れず、《悲しい》って思うのは)


美紗(悪い事なのかな...、)


美紗(雪音と一緒に居たいって思うの

   は...聞き分けのない、悪いこと

なのかな、)


美紗「...............ッ、」


美紗「あ”あ”あ”あ"ーーー、、」


美紗「こんな事ずっと考えてたらそれこそ

   鬱になるし、もう、難しい事考えるの

やめよ、」


美紗「帰ってきたらいくらでも見れるし。

   観光は観光でまた味があって良い

   でしょ?」


美紗「頭の中が答えのないストレスで

   いっぱいになっちゃうよ、雪音も

   もっとフラットに生きてこ?」


雪音「....。」


雪音「....なる程」


雪音「私の話は、杏里さんのような年の方に

   とってはつまらないですか...」


美紗「同世代通り越して同い年だよ。」


雪音「...晴華さんのように、今時の面白い話題の

   1つでも出来れば良かったのですが...」


美紗「またそういうー。雪音とお話するの

   好きだって、何回言ったら信じて

   くれるんだろう...。」


美紗「...でも、強いて言えば『私の崇高な

   話を理解出来ないなんて...、なんて頭の

   薄っぺらい単細胞ハムスターなの

   でしょう...。可哀想に...』」


美紗「『その脳みそはお飾りですか...?』みたいな

   顎を斜めにちょっと上げて、人差し指を

   乗せた下等生物を見るような目線で言われたら」


美紗「ドキッってするかもしれない、」


雪音「...大分具体的ですね」


美紗「自信がある人が好きなんだよね。」


美紗「じゃなくてっ、」


美紗「とにかく今はやなこと全部忘れて遊ぼう、

   家に居たら気が滅入っちゃう。雪音は

   もっと息抜きが必要だから」


雪音「お話の続きが気になるのですが...」


美紗「折角一緒に居るんだからさ、もっと

   楽しいことしようよ、私の性癖は

   シーウェで出来るでしょ。」


美紗「そうだよっ、折角雪積もってるんだから、

   外行かなきゃ損じゃん、雪音っ!!人目

   なんか気にしないで行こっ、」


美紗「子供の頃に戻ったみたいにさ、」


美紗「私、ずっと遊びたかったんだよね。」


雪音「...ちょ、ちょっと待って下さいっ!!

   杏里さん!?」


 そういって雪音の手を引っ張りながら、以前くゆが階段で転びかけた事も忘れて、二人で真っ直ぐ玄関へ向かって駆け降りていった。


美紗「あっ、その前に麦茶戻さないと、」


雪音「今まで何をしてたんですか...?」


※スライド


雪音「杏里さんっ、まさか貴女も...、」


 掴んでいた雪音の手を緩めて...


 片足ずつ交互に靴をはきながら、私は靴が掃き終わると同時に玄関からそのまま外の世界へと飛び出したのだった。


美紗「息、白い...、」


美紗「やっぱ...、外は寒いけど、

   雪降った後は良いよね。こうやって

   雪の日に外に出るのも」


美紗「雪って結構すぐ溶けちゃうよね。

   自然だから仕方ないんだけど」


美紗「明日まで残ってると良いな」


 ブーツをはいてる雪音に、いつもと少し違う世界を見せびらかすように私は雪の上を軽く走ってから振り返って雪音の顔を見る。


雪音「...まるで、小さな子供のような事を

   仰るのですね。雪の日に外で遊ぶなど、

   晴華さん達に知られてしまったら...」 


雪音「どんな顔をなさるか...」


美紗「此処は雪音の家じゃないから

   大丈夫だよ。今日は、そういう日だから」


美紗「ほら、早くー」


雪音「....。」


雪音「...仕方ないですね。」


雪音「杏里さんはそのような格好で寒くはない

   のですか?」


美紗「んー、寒いけど、平気っ。大丈夫っ」


美紗「というかそれをいうなら雪音の格好の

   がもっと寒そうだけど...、大丈夫?」


美紗「寒かったら家からジャンバー持って

   くるけど」


雪音「この程度でしたらあまり問題は

   ありません、ロシアはもっと寒い

   ですよ。」


美紗「気温が恐ロシアだね」


雪音「聞かなかったことにしますね。」


美紗「ふっ、ふーん」


 玄関から出て真っ先に目に付いた庭にある深い緑の植物の上に積もってる綺麗な雪を...、両手で掬って...


美紗「見て、雪音っ」


 くるっと回りながら掬った雪をばっ、と上に巻き上げる。

 

 すると私の手の平から一旦離れて、自由になった雪達は雑に投げられた仕返しをそっくりそのまま返すかのように、


 容赦なく、私の首元を狙って落ちてくるのだった。


美紗「ああぁぁっぁああぁっ!!、、」


 首から服の間に入った雪が体温で溶けて、冷たい水の筋がつーっと...、背中を通っていく。


美紗「つめっ、冷たぁっ!!」


 雪を出そうと上着を脱いで、服からはたき落とす頃にはもう雪は溶けてなくなってた。


美紗「はぁ...。死ぬかと思った...、」


雪音「何がしたいのですか...、」


美紗「あははっ...。雪みたいになるかも、って

   思ったんだけど...、やっぱり即席じゃ

   駄目かぁ...」


雪音「当然です...。」


美紗「雪音は思った事ない?こうやってさ...、

   雪を上に投げたら綺麗にキラキラって

   落ちてくるって思ったこと、」


雪音「ありませんよ、そのような事は人間の

   手先ではまず不可能です」


美紗「...雪音は、本当にそう思う?」


雪音「...?」


雪音「その質問の意図が読めません」


美紗「ははっ。意図なんてないよ。

   でも、これだけ積もってたら"あれ"が

   出来るね」


雪音「"あれ"...、ですか...?」


美紗「うん、"あれ"だよ」


美紗「ほら、雪音もこれで手伝って」




雪音「ショベル...、ですか...?」


美紗「うん、めんどくさかったら雪音は

   あっちで見てるだけでいいし。お客さん

   だもん」


雪音「初めて触りますね...」


美紗「やってみる?」


雪音「私が...、ですか...?」


美紗「うん。簡単だよこうやって雪に刺す

   だけ、それで...、向こうにやる」


 大きなスコップで雪を掻き分けて、雪かきをする。綺麗な雪はこっちに分けて...、汚い泥が付いた土はこっち側に...っと、


美紗「よいっしょ、と...」


※キャプション





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る