第15章「幸せの黄色い兎、」【みさゆき】

※スライド


樹理「出来上がったあんを5cmくらいの

   大きに丸めてから、こしあんを中に

   入れてあげます」


奈実樹「それと、しべ用に黄色のあんは

    忘れずに残しておいて下さい」


樹理「あっ、と…。そうだったよね。

   ごめんナミ、しべの作り方は…、」


 樹理先輩は慌てて、先端が細長い箸とふるいを持ち上げて説明する


美紗(樹理先輩...大丈夫かな...)


樹理「余った生地はふるいで押し出して、

   先の長い箸でこうやって摘まん

   でっ、と…」


 まるで花の中央にある花粉が付いてる部分のように凄い極め細かなモンブランみたいなあんが出来た。


美紗「小さいモンブランとか出来そう、」


樹理「確かにこの形だとそう見える

   よね、」


樹理「栗ペーストを入れたら、モンブラン

   みたいな味になるかも」


樹理「ミニチュア和菓子シリーズとか

   作ってみても面白いよね。」


美紗「そういうのお店で売ってたら

   欲しいんですけどね、」


樹理「中々売ってないよね。そういうの」


樹理「えっとそれから、さっきの白あんの

方をヘラを使って5本の筋を入れて

   いきます」


樹理「中心を少しくもばせて…、さっき

   作ったしべをちょこんっと

   乗せてあげれば...、」


美紗「あっ、可愛い~、」


美紗「生地とあんこだけでこんなに可愛い

   お花が作れるんだ。」


奈実樹「他にも色んな作り方があるから

    好きな奴作るとえぇよ」


奈実樹「練習やから欲しかったら他の

    花もあげるけどいるか?」


美紗「えっ!?良いんですか!?欲しいです!!」


奈実樹「そこにあるから後で好きなの

    持ってき」


奈実樹「好きな人に食べてもろた方が

    和菓子も嬉しいやろしな。好きな

    だけ持ってってえぇで」


美紗「え、...凄い嬉しいです、和菓子

   好きなので、」


美紗「ありがとうございます」


美紗(なんか孫にお菓子をあげる田舎の

   お婆ちゃんみたい...、凄い嬉しい

   けど)


美紗「でもふりこで押し潰しためしべを

   花に見立てるなんて、本当に昔の

   和菓子職人さんって凄いね。」


雪音「そうですね。現代では当たり前と

   されています道具も開発されて

   いない時代、」


雪音「当時はもっと困難を窮めていたと

   考えますと...先人の知恵には本当に

   驚かされてしまいますね。」


 雪音の白い手が包み込むようにあんが握られていく…。やっぱり、雪音が作った生地は形も凄く綺麗だ


美紗(ま、雪音の方が綺麗なんだけどね、)


美紗「…よーし、私も上手いの作るぞー!!」


美紗(柚夏と絶対仲直り出来るくらい、

  良いのを作らなくちゃっ。)


 黄色のあんと白のあんをそれぞれを手の平でコロコロと丸めて、上に軽く切り込みを入れる。


美紗(…ん~、形がやっぱちょっと歪

   かなぁ...?なんで上手にまとまら

   ないんだろう、)


 奈実樹さん達に綺麗に丸く作る方法を教わってやっとなんとか納得のいく形になる、


樹理「頑張れ、美紗ちゃん...!!」


 手が急に揺れて線が歪む、別に焦る必要もないし、...失敗して怒る人もいないのに。


美紗(また作り直さなきゃ、)


美紗(どうして、上手く出来ないん

   だろ...昔から...こんな簡単な事

   なのに人前じゃできない...。)


 失敗したらまた作り直せばいいと思うと同時にまた、失敗したっていうレッテルが頭にまとわりついて離れない、




 …それこそ、まるで魔女の呪いに掛かってしまったかのように。




晴華「もしかしたら、」


晴華「さっきゆっきーが言ったみたいに、

   食べられる粘土って思った方が

   美紗ちゃん上手に出来るんじゃない

   かなー?」


美紗「食べられる粘土…?」


 さっき雪音と話した会話が頭の中で再生される


 「杏里さんは粘土を召し上がるのですか?」という雪音の台詞がまだ耳の中に残っていた。


晴華「何が苦手か分かれば、どうにか

   出来る事だってあるかもしれない」


晴華「料理は苦手でも粘土作りだったら

   面白いかもしれないよ。」


晴華「普通の兎は白いのが当たり前

   だけど、黄色い兎だっていても

   良いんじゃないかな?」


晴華「黄色はラッキーカラーだから♥️」


 そういう、橘晴華さんの手のひらに黄色い兎がちょこんと座っていた。


雪音「...皆違って、皆良い。金子みすずの

   著書ですね」


美紗「あ、確かに…それなら…」


美紗(粘土遊びなんていつぶりだろ...、

学校でしか触らなかったから)


美紗(....、)


 さっきまで出来なかった事が嘘だったかのように...あんに綺麗な線が引けていた。


美紗(今なら、いけそうな気がする、)


 おずおずと空いたくぼみに、めしべを潰さないように...、


入れた、


美紗「おぉ…。…出来た」


美紗「やった…!! やったよ雪音!!」


 感極まった私は思わず雪音の手を握り、ハイタッチする。


 ハイタッチが終わり、最初は驚いていた雪音も私の笑顔につられたのか、目を細めて微かに微笑んでた。


雪音「良かったですね。」


美紗「うん! これで柚夏とも仲直り

   出来るよっ、」


 例え柚夏に許して貰えなかったとしても、きっと頑張った思いは伝わるはず。


 それもこれも雪音のヒントがあったお陰だ、多分故意に言った訳じゃないんだろうけど...


 でもその一言で私は勇気を貰えた


美紗(晴華さんにも感謝しないとね、)


雪音「私自身、彼女に全くといって

   興味はございませんが…」


雪音「杏里さんは笑っていた方が魅力的

   だと思いますよ。」


美紗「ありがと、雪音は前もそうやって

   言ってくれたよね、私そんな笑って

   る時の方が良い?」


雪音「あの時とはまた意味合いが違って

   きますからね。」


美紗「でも確か私、雪音にとって弱きもの

   なんだよね…」


雪音「赤の他人よりは各上ですよ」


美紗「雪音のそういう所って、本当に

   痺れちゃう。…私凍傷起こしちゃ

   いそうかも」


雪音「では、起こさないように注意

   なさって下さいね。触れないのが

   私の一番のお勧めですよ」


美紗「私のレンジで解凍します!!」


晴華「ふふふっ、ゆっきー本当に

   楽しそう。やっぱり、二人は

   お似合いだよー」


雪音「...楽しい、ですか?」


雪音「…そうですね。予想外の出来事も

   多いですし、杏里さんと同じ時を

   過ごしていると飽きないというのは

   確かです」


美紗「橘さんも、ありがとうございました

   っ。橘さんが粘土と思えばいいって

   言ってくれたから、綺麗に出来ました!!」


晴華「私は何もしてないよー。頑張ったの

   は美紗ちゃんだからねー」


美紗(橘晴華さん。自分の手柄にしようと

  しないし、雪音も温厚だって言って

  たし…。やっぱり...橘晴華さんは

  良い人なんだよね...?)


※キャプション


奈実樹「では、片付けも終わりましたので

    最後の授業のお抹茶体験を始め

    させて頂きたく思います」


 樹理さんの手から、さっき作った梅の和菓子と見たこともない若草色の和菓子が目の前に置かれた。


美紗(紅茶と違って、最初はお菓子から

  なんだ…)


晴華「此方の和菓子は、焼き菓子ですか?」


奈実樹「はい。静岡県産のお抹茶を練って

    作らせて頂きました」


晴華「お抹茶の香りが濃厚でとても

   美味しいですね」


美紗(…なんか凄い茶道みたいな会話。

  茶道だからまぁ、当たり前だけど)


美紗(あっ、この抹茶味の焼き菓子

  美味しい…。けど、手作りって

  言ってたっけ…非売品かあ、)


美紗(くゆにもあげたかったなぁ...)


 目の前でお茶をたてる奈実樹さん。シャッシャッという茶碗に当たる竹の音が耳に心地良い…、


奈実樹「…どうぞ」


 と、奈実樹さんはたてたお茶を私の目の前に置いて同じように皆にも順番に渡していく。


 抹茶のいい香りが部屋の中に広まっていた


美紗(でも…本物の抹茶って苦いんだよね? 

  抹茶ラテとか美味しいけど…どんな

  味なんだろ…?)


奈実樹「お茶碗を扱う時は両手を使い

    ます。お茶碗をまず右手で持ち、

    左手を添えて両手で胸の

    あたりまで持っていきます」


 見様見真似で奈実樹先輩の飲み方を真似していく。なんというか…やっぱり慣れてる人の飲み方って凄く綺麗、


美紗(…慣れれば私もあぁいう風に出来るの

  かな?)


…それにしても、このお茶碗見た目よりも重いな


奈実樹「お抹茶が出される際は、飲む方の

    方に茶碗の正面の模様が見える

    ように置かれていますので、

    模様に口を付けないよう」


奈実樹「左手に置かれた茶碗を右手で

    添えながら2回ほど時計回りに

    回します。…それからお抹茶を

    頂きます」


 奈実樹さんが飲み始めるのを見て、私も抹茶に口を付ける。


美紗(…あー、すごい…抹茶)


 この上とない、抹茶だった。…砂糖の入ってない抹茶はこういう味がするんだとこの時私は初めて学んだ。


美紗(思ったより苦いな...、)


奈実樹「お抹茶は二、三度で飲みきって

    下さい。最後の一口はスッと

    音を立てて吸います」


美紗「…音を立てて良いんですね?」


奈実樹「作法として問題はないんですよ。

    蕎麦などもそうですから」


美紗「なるほど…?」


奈実樹「飲み終えたら、向こう側に回して

    いたお茶碗の正面を出してくれた

    方の側に向くように注意して」


奈実樹「反時計回りにし、静かに右手で

    置きます…。これで今日の体験は

    終わりです」


奈実樹「質問がありましたら、樹理か私に

    聞いて下さい。本日はご参加

    頂き誠にありがとうございました。」


皆「本日は、ありがとうございました。」


 奈実樹さんは直ぐ様、片付けの準備をし始める。


 その後ろを縁蛇さんと代茂技さんが追い掛けて、今日の事について話してた。


奈実樹「後はこっちが何とかするから

    樹理は美紗ちゃんの質問、

    聞いたってな」


奈実樹「和菓子は冷蔵庫の中にあんから」


樹理「ううん、私もナミを手伝って

   からするよ」


奈実樹「…樹理、お客さんを蔑ろにしたら

    あかんよ。樹理が指名されとるん

    やから」


晴華「何かありそうだねー。…私達は

   もう先に帰っちゃうけど…

   美紗ちゃん良かったら、メール交換

   しない? ゆっきーとも」


雪音「私、あまりメールはしないの

   ですが…それでもしたいもの

   なのでしょうか?」


美紗「あっ、私したいです!! 

   勿論、雪音とも」


晴華「美紗ちゃんシーウェしてる?」


 シーウェはシーウェブの略で、最近若い人に流行ってる連絡ツール。


 メールよりも話しやすくて、スマホを持ってる人なら大抵の人がしてるアプリだ。


美紗「あ、そっちのがありがたいです」


晴華「良かったー、個人メールなら

   こっちの方が使いやすいもんね。

   可愛いスタンプとか送れるから

   私愛用してるんだー♥️」


雪音「私のメールは…」


晴華「大丈夫、ゆっきーのも勝手に

   作っておいたよー」


雪音「…勝手に、ですか。貴女は

   また強引に…」


晴華「この機会を機にシーウェに慣れる

   ようにゆっきーといっぱい話して

   あげてねー。勿論私にもどんどん

   送って良いよー」


美紗「えっと、じゃぁ今日帰ったらすぐに

   送りますね」


 赤外線でスマホを振って、橘晴華さんのアイコンが浮き出てくる


 アイコンを見ると、やっぱり橘晴華と同一人物なんだなという実感が更に強まった。


美紗(えっ、なに…この、超美人!!)


 その後、すぐに雪音の雪兎のアイコンをしたフレンドが来たので、すぐに登録を許可した。


美紗「雪音のアイコン可愛い…」


晴華「朝乃ちゃんが可愛いアイコン見付け

   てくれたの。本当に可愛いから、

   ゆっきーに使って欲しくてー」


 橘晴華さんは嬉しそうに微笑みながらそう言った。…けどこれ、


 ハイライトとか明らかに気合いの入れ方が…橘晴華さんにあげたものじゃ…、


晴華「じゃぁ、またねー」


雪音「お疲れ様でした。また月曜日に

   お会い致しましょう」


 と、橘晴華さんと雪音は二人で親しげに帰っていった。


美紗(…けど今はそれより、問題は)


樹理「…うぅ、美紗ちゃん。どうしよう…    

   私ナミに嫌われちゃったよぉ…、、」


美紗(こっちだよね...、)


 ぎゅっと私の裾を掴んだまま、ずっと涙を耐えていたのか樹理先輩の瞳から涙が零れたのだった。


※キャプション


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