第23章「後悔後に立たず、」【みさゆき】


美紗(....橘さんに、相談...しなきゃ)


 切ってたスマホの電源を付けて、シーウェのアプリ画面を起動する...。


『...あの後、お菓子を食べた雪音が私にキスをして欲しいと...言って』


美紗(...違う。...こんな文章じゃ駄目だ...、)


美紗(これなんて雪音にも悪いところが

   あったって言ってるようなもんだし、)


『晴華さんに相談したい事があります。話を聞いてくれると嬉しいです 美紗』


美紗「.....。」


美紗(...人に嫌われるのなんて、今まで

   何度もあったはずなのに...。)


美紗(なんで私はたった一人の人に

   嫌われただけでこんなに後悔してる

   んだろう...、、)


美紗(幻滅されるのなんて...もう

   とっくに慣れてるはずなのに...。)


 文章を書いて、消して...。また書いて消してを繰り返してく。


 ...いつもなら、...こんな文章書くのに時間なんて掛からないのにな...。


美紗(...文章って、...こんなに書けない

   ものだっけ...)


美紗(...駄目だ...全然、

   言葉が思い付かない...。)


美紗(私から文章をとったら一体何が

   残るんだろう...、)


美紗(私は、好きな人に一言謝る事

   さえ出来ないのか...、)


 ...今日あったこと、それに雪音の機嫌を直すための方法を見つけなきゃいけない。


 それが勝手にキスした事に対する誠意という奴だろう。例え雪音に嫌われたって...生憎、避けられるのにはもう慣れていた。


??『あなたにはもう関わらないでって

  ママから言われたの、』


美紗(...最初から人を好きに    

   なるべきじゃなかったのかな...、)


美紗(周りの人に愛されて育ってきた

   晴華さんみたいな人ならともかく、)


美紗(親にすら愛されなかった人が

   人を愛すなんてやっぱり

   無理だったのかな...。)


 くゆに助けて貰ってから私は何か少し勘違いをしてたのかもしれない、


 此処がこういう世界だったっていうことを


美紗(...それなりに頑張ってきたつもり

   だったんだけどね...。まだまだ普通

   の人にはなれない、か...、)


 その結果に少し安心してる自分も心の何処かにはいて、やっぱり私は他の人とどこか違うんだなって。改めてそう感じた


美紗(雪音の期待を私は裏切ってしまった...、)


晴華『何があったの?』


 ...これからどうしたらいいか、家に帰ってからすぐに私はシーウェで橘さんに今日あった全ての事を話した。


美紗『お菓子を食べた後、』


美紗『...雪音がキスしたいって、言って

   いるように思えて』


美紗『あの後、私は雪音にキスをしま

   した。...でも、その後...雪音は

   凄く機嫌が悪そうに見えて...』


美紗『どうすればいいか...。』


ブブッ...、


晴華『...酔ってる状態でキスされちゃった

   らねー。ゆっきーも急に美紗ちゃん

   に攻められて、ビックリしちゃった

   んだと思う』


晴華『ゆっきー自身も美紗ちゃんにどう

   対応したら良いのか、迷ってるん

   じゃないかなー?』


晴華『今は怒ってるというより、少し落ち

   着かない。...みたいな感じだねー』


 橘さんは雪音の様子が見えているのだろうか...?、そんな感じにも捉えられる言い方...。


美紗(一緒に住んでるみたいだし、...きっと

   そうなんだろうけど...。...早く謝りたい...、)


美紗『...どうしたら、雪音の機嫌は直り

   ますか?』


 という返事を橘さんに送って、そのまま私はスマホの電源をスリープモードにする。


美紗「...ふぅ」


美紗「今日は疲れたな...、」


 黒柴のみゆが寝ている隣で、クリーム色のソファの上でうずくまるように私は膝に顎を載せて体操座りする...。


美紗(...ねぇ、...雪音は)


美紗(私に何を、望んでるの?)


くゆ「...姉さん?」


くゆ「そんなとこで何してるの?

   ...ただいま」


 と、私と同じテスト週間で学校から早く帰って来たのか...くゆがドアを開けて居間に入ってくる。


美紗「おかえり、くゆ」


 その瞬間、ずっと隣で寝てたはずの黒柴のみゆが身体を起こしてキュンキュンと甘えるようにくゆに駆け寄って顔を擦り付け始めた。


...あれ?...私には?


くゆ「今は何もないから」


と、みゆを抱っこしながら私の隣に座るくゆ。


 くゆに抱っこされたみゆは尻尾を千切れんばかりに振りながら笑顔でへっ、へっ、と幸せそうに笑っていた...。


美紗「...私には、なんで懐いてくれない

   の。...みゆちゃーん」


 ぷいっとそっぽを向かれ、みゆは大きな欠伸をしながらリラックスするようにくゆにもたれてる。


くゆ「いずれ、みゆも姉さんに懐くよ

   ...ね、みゆ?」


みゆ「キュウンキュン」


 私の前ではそんな声一度も発してくれた事ないけど...。


 ...元々くゆは動物に好かれやすいし、私が動物に嫌われてるというよりきっと私よりくゆの方が好きなだけなんだよね、うん。


くゆ「触る?」


 私が手を添えると、ヴーッと犬歯を見せながらみゆは唸る。


 みゆが私に触らせてくれるのはいつもご飯を貰えてご機嫌が良いときだけだった...。そして触ってるのに気付くと噛まれる


美紗「んー、...今日もやっぱり...ご機嫌斜め

みたいだね。...うん、機嫌が良いとき

   なんてすぐ終わっちゃうよね、うん」


くゆ「こら...!!人に唸っちゃ駄目だって毎回

   言ってるのに...。でも可笑しいな、外でも唸るような事しないんだけど...」


 ...あははー、みゆはきっと照れ屋さんなのかな、今にも噛み付かんとしてるけど...。きっとそうだよね。


くゆ「...ところで、...姉さん

   もう勉強終わったの?」


美紗「うん、学校でね。ある人に

   教えて貰ったんだ」


美紗「...けど、...今絶賛、その人を怒ら

   せちゃってそのことを先輩と相談

   してる...。」


 シーウェを開きながら、雪音の通知を何となく開いてみるけど...当然のように雪音のアカウントからは何の返事もない...。


美紗(...そもそも、雪音。あまりスマホに

   文字とか書かない人だから当然と

   言えば当然なんだけど)


美紗(もしかしたらなって...、、)


美紗「...くゆは最近、テレビにも出てる

   橘晴華ちゃんって聞いたことある?」


くゆ「あー...最近ネットニュースの広告で

   よく見る人が確かそんな名前だった

   気する...」


美紗「メールの相手、そのモデルさん。」


くゆ「...姉さんの人脈、どうなってんの?」


くゆ「数々の日本屈指を誇る大手

   メーカーを束ねるスポンサーの

   会長の娘に読者モデルって...」


美紗「橘さんはテレビ通りの人で、普通に

   優しくて良い人なんだけど...

   時々何考えてるか分かんない

   時もあって」


美紗「不思議な人って感じかな」


くゆ「...ふぅん、...そうなんだ。...姉さんは

   その人の事その、...好きなの?」


...ブブッ


 と、バイブがなったのでロック画面を開いてシーウェの画面を見る...。そこにはさっき橘さんに当てた返事の内容が記(しる)されていた。


晴華『それは、美紗ちゃんが考えないと

   意味がないよー』


美紗「ですよねー...」


 ガックリと視線を下に逸らすと、くゆの膝の上でみゆはくつろいだようにリラックスをしながら目を細めてる。...可愛いなぁ。


くゆ「返信?」


美紗「うん。...でも人付き合いって、

   ほんとに難しいね」


 みゆを抱っこしようと手を伸ばすと、くゆが噛む寸前で後ろに下げる。噛もうとした黒柴のみゆの口を軽く掴み、顔を固定するくゆ。


美紗「...なんで、そんな怯えた顔してるの

   みゆ?...撫でられるの嫌い?」


 くゆが固定してくれてるから噛まれる心配は無いんだけど...、苛める?という顔でこっちを見る黒柴のみゆ。


くゆ「こいつ散歩の時、撫でられると尻尾

   振ってるからそんな事ないよ」


 くゆはそう言ってるけど...。...私、みゆに何か嫌われるような事しちゃった?


...それにしても、どうしてそんな身体震わせてるの?


くゆ「...よいしょっと、」


 くゆがみゆをしっかりと持ち上げると、柴犬のみゆはくゆにしがみつくように尻尾を下に丸めて潤んだ瞳でくゆを見つめていた。


 ポンポンと、くゆが抱っこして軽く背中を叩くと震えがなくなる。


美紗「ねぇぇぇ、どうしてなのぉぉ?私はこん

   なにもみゆを愛してるのに、、気に入

   らない事があったら直すからぁぁ...」


みゆ「クキュ、クゥ...」


美紗「なんでそんな悲痛そうな声で鳴く

   かな~...?」


 みゆは私と真逆の方向を向きながら、くゆに撫でられて徐々に下がった尻尾が上がり初めていた。


くゆ「何かあったの?」


美紗「...私が...私が、知りたいよ。...私

   みゆに何もしてないんだよ!?本当

   だよ...?くゆなら、...信じてくれるよね?」


くゆ「...分かってるって、」


くゆ「姉さん動物好きだしそんな事しない

   ってくらい...。こいつ姉さんに

   対して極端に人見知りしてるだけ

   だから...」


美紗(...くゆは動物に好かれるから、

良いなぁ。...私も一回で良いから

   みゆをモフモフしてみたいな...)


くゆ「...そうじゃなくて、学校で。」


 くゆは私が悩んでる時はこうやって必ず毎回側に寄ってきてくれて...、


 ...本当にくゆはなんて良い子なの...!!!お姉ちゃん凄い、感動しちゃった...、


くゆ「姉さん...?」


美紗「ううん、本当にくゆは私の自慢の妹

   だなって...、」


 きっと、学校では私よりも友達もいっぱい居て皆からも信頼されてるんだろうなぁ...。


くゆ「きゅ、急に何...///!?」


美紗「...ん?別にいつも思ってる事を口に

   しただけだよ。いつもくゆに相談

   乗って貰えて私、凄い幸せ者だなって。」


美紗「...本当にありがとう、くゆ」


くゆ「う、うん...///」


 くゆはみゆをぎゅっ、と抱き締めて顔をうずくめた...。...冬なら気持ちよさそうだけど、くゆ、暑くないのかな?


美紗「んー、くゆは...さ」


くゆ「...うん、...な、何///?」


美紗「...相手の望んでる事をしてって

   言われて」


美紗「それで、相手の機嫌を

   逆に悪くさせちゃったら

   どうすれば良いと思う?」


くゆ「....」


 くゆは、無言で抱っこしてたみゆをソファーから降ろす


 ...が、みゆはキュンキュンと抗議をするように足元でうろついて暫くすると、ジャンプしてくゆの膝の上に飛び乗った。


美紗「なんで、そんな事してもそんな反応して

くれるの...?私ならそのまま無視なのに

...」


 座ったみゆを再度、くゆは降ろすがみゆは頑なに膝の上から離れようとはしない。...この差はなんーだろー?


くゆ「...それって理不尽じゃない?」


 降ろすのを諦めて、話し出すくゆ...。


美紗「理不尽...かな?お父さんの時もそういう

   事多かったし...。その程度の事なら私に

   とっては別に理不尽でもなんでもないよ」


 くゆはテーブルに乗っていたリモコンを持ち上げてテレビを付ける...。ニュースのキャスターがトレンドのお店を紹介しているのか


 コンビニの機械化について、取材をしている女性がテレビに映っていた


くゆ「...姉さんは、もっと誰かに対して

   怒っても良いと思う。...あんな

   父親、普通じゃないよ。」


くゆ「どんな理由があっても娘を虐待して

   良い理由なんてない...、」


くゆ「...そんなの本当の親のする事じゃないから。...それと比較す

   るのは...、...姉さんの為にも言うけど」


くゆ「間違ってる。私は姉さんの家族とは

   違う、姉さんを本当の家族だって

   思ってる。...それだけは

...分かって」


...無音の部屋の中で。...ニュースキャスターのお姉さんがコンビニの人と話している声だけが何となく聞こえていた。


美紗「...みたい、だね。...でも、お父さんも

お母さんが好きで。ただ離れて欲しく

   なかっただけだよ」


美紗「...あまりにもお母さんが凄い人で、

浮気してるか不安で...。

   ...それにお父さんに似なかった私が

   悪いから」


美紗「...お父さんにとって、私は邪魔者

   で。...私は要らない存在だった。

   それは変えようがない事実だから」


美紗「でも今は、くゆが居てくれるから。

   ...だから全然理不尽なんかじゃないよ。」


くゆ「...姉さんは、...っ!!...もっとッ!!!」


 くゆは私が怒鳴られるのが怖い事を知ってる...。...だから、こうやって途中で止めてくれる...。


くゆ「....ごめん」


...心配してくれてるって、ちゃんと分かってるから。


美紗「...ううん。...ごめんね、くゆ」


くゆ「...。...姉さんが謝る必要ないよ」


美紗「ううん、...それでもごめん」


 テレビがCMに入り、ポップな曲が流れると共にくゆはリモコンでテレビの電源を消した。


くゆ「....」


くゆ「...私なら、...両方ともの意見を聞く」


美紗「ん?...さっきの?」


くゆ「自分がどう思ったのか、どういう経緯で

相手を助けようと思ったのか、相手はど

う感じたのか...聞く。考えてそう思って

  たとしてもそれは絶対だなんて言えない」


くゆ「...人は、...そんな簡単な感情を持って

ないからね。」


くゆ「姉さんが明らかにクズな父親の事を

   許しても、私はいやなんだよ...。    

   ...姉さんに...そんな事させた奴は

   許せない。」


くゆ「例え姉さんが何も思ってなくとも、

   ...私は姉さんに嫌って欲しい。それが

姉さんにとっての、危険だって分かって

ほしい」


くゆ「...これは私の押しつけだけど、姉さんは

もっと自分の気持ちを大事にすべきだと

思う。...他人の事ばっかじゃなくて、さ...」


美紗「自分の気持ち、ね...」


美紗(あの時は...雪音がお願いしたから...

キス、したいって思った。...雪音が

   望んでるから、叶えたいって...思った)


美紗(難しいなぁ...、私は相手が望んでいる

事を叶えるのが幸せで。言われた事に

添えれないのが不幸だってずっと

   教わってきたから...。)


美紗(でも...それは多分、違う、んだよね)


 雪音は私にキスしたがってた。...けど、元に戻った雪音は...勝手にキスをした事に対して...本気で怒ってた。


...それは、私が雪音の『したくない』っていう気持ちを...無視、したから?


美紗「くゆ、女の子って難しいね...、」


 さっきと同じ様に、膝に顎を乗せて体操座りをする。...そして私は一度だけ軽く溜め息を吐いた。


くゆ「...姉さんも女の子でしょ。」


美紗(くゆの言ってた通り、やっぱり聞かない

   と本当の気持ちは全部分かんない

   ...んだよね。)


美紗「...くゆは女の子からモテモテそうだよ

ね。相手の気持ちをちゃんと怖がらずに

聞けるから、くゆのそういうところ

私も見習なくちゃね」


 くゆのお陰で大分元気が出てきた。...うん、ずっとクヨクヨしててもしょうがないよねっ!!


くゆ「本命にモテなきゃ意味ないよ...、」


美紗「え?くゆ好きな子いるの?誰誰?

   どんな人!?」


 へぇぇ...、いつの間にくゆさんも好きな人が出来てたんだ。くゆが相手なら男性でも女性でもどっちでもうまくいきそう、


くゆ「...いや、良いんだけどね。...叶わない

恋だし」


美紗「そんなの言ってみなきゃ分かんない

   じゃん?」


くゆ「私はその人の傍で話を聞いてるのが

   一番幸せだから、...そういうのは別に

   いいんだよ。...それに...言っても、困るだけだって分かってるから」


美紗「それって悲しくない?言えるだけ

   言ってみたら?」


くゆ「....。...時間はいっぱいあるから別に

今じゃなくても良い訳だし///、」


美紗「そうやって、その人に好きな人でも

   出来たらどうするの?くゆは慎重すぎる

   から、駄目なんだよ。命短し恋せよ、

   乙女だよ?」


くゆ「...姉さんだけには言われたくない、、」


美紗「え?」


 その後、くゆは何故かご機嫌斜めで...。夕食の後は一切私に口を聞いてくれなかったのだった...。


 ※因みに次の日にはちゃんといつも通りの優しいくゆに戻ってました。


※キャプション

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