第10章「雪音が苦手なもの、」【みさゆき】

美紗(調理室は昨日行くのが初めてだった

   から...、丁度いいかも)


 ..場所が分からなくて遅刻ー、なんて流石にね...。樹理先輩達にもきっと心配を掛けさせちゃうだろうし...


美紗「...うーん、どっちだっけ...。」


美紗(二階?三階?三年生の廊下の

   突き当たりっていうのはまぁ、

   分かるんだけど...)


 スマホで時間を気にしながら...三年生の廊下にある階段を上っていく。


美紗(此処の学校階段が螺旋階段

   なんだよね...。...凄いよね、、)


美紗「えっと、調理室は確か...、

こっち...?」


 取りあえず突き当たりを覗いて...


 二階の階段を上がったその先に雪音の姿が見えた、


美紗「あ、雪音」


雪音「杏里さん。おはようございます」


美紗「おはよう、雪音。三年生の教室

なんて入学式以来だから、心配

だったけど...迷わなくて良かった

~」


雪音「確かに生徒会のお仕事がなければ

   私もこちらの調理室にはあまり

お世話になっていなかったの

   かもしれませんね。」


美紗「でも、雪音はなんで此処に?」


 雪音は調理室の扉の前に立ち止まって、入るのを躊躇(ちゅうちょ)しているようにも思えた


雪音「...いえ、その」


 雪音の鼈甲色に輝く瞳が、一瞬だけ揺らぐ。


美紗「苦手な物とか、もし雪音にある

   なら...私手伝うことくらいなら

   出来るよ?」


雪音「いえ、そこまで大それた事では

   ないのです...。...杏里さんには...

   隠し事は出来ませんね...」


美紗「...ごめんね」


雪音「人の瞳を見てお話をなさるのは何も

   悪い事ではありません、例えその

   過程で相手の感情が見て取れた

   としても」


雪音「杏里さんがお謝りになる必要は

   ないくらいの当たり前の事なの

   ですから」


美紗(...当たり前の、事...。)


美紗「...私雪音のそういう付け入る

   隙のないくらい完璧な正論言って

   くれるとこ、凄い好きだよ」


美紗「雪音に惚れ直しちゃうくらい、」


 だからどうか隠さないで欲しい...、


 なんて、思うのはやっぱり傲慢なのだろうか...。それは私にも分からないけど...


美紗(...それにしても雪音が入るのを躊躇

   するくらい苦手な物ってなんだろ、)


 扉を開けると、ピカピカに磨かれ光沢の放つ床が目の前に飛び込んでくる。


美紗「...あれ?床すごい、綺麗になって

   る...、」


 改装されたように光沢を放つ床、これ...まさか...


美紗「縁蛇さん達が...!?」


樹理「...明日のために掃除しててって

   曖昧な指示出したのも悪かった

   よ...?」


樹理「それにしても、本気出し過ぎじゃ

   ないかなっ!?、、...年末の大掃除

   でも此処までしないよ!?」


樹理「代茂技さんの方も完全に燃え尽き

   ちゃってるし、入り口の差がもう

   凄い目立っちゃってるという

   か...」


縁蛇「そんなに褒められると...照れちゃい

   ますね!!家の渡り廊下に比べた

   ら、素直で優しい床さんでした

   よ!!」


縁蛇「本番までには全部綺麗にしておき

   ますので、縁蛇に任せるのですよ

   っ」


代茂技「...え"、」


 調理室の奥の方で縁蛇さんと樹理さんが床の事について口論しているのが此処まで聞こえる。


美紗(うわぁ...結構広範囲まで綺麗に

   なってる...、縁蛇さん逹、掃除の

   プロか何かなのかな...?)


 1日で掃除したとは思えない、床の照り具合と新品同様の美しさに私は驚かされてた...、


美紗(家の机とかも一応借り物だから...

   綺麗にしときたいし...。縁蛇さん

   達に今度掃除の仕方教えて貰おう

   かな...)

 

雪音「...杏里さん。」


雪音「床が清掃なされているのは必ず

   この場でお考えにならなければ

   ならない事...ではないですよね?」


美紗「そ、そうだね...」


美紗(雪音、急にどうしたんだろ...?)


 声色は一切そのままなのに急に発言が厳しくなるから、、雪音の機嫌があんまり良くないっていうのはなんとなく分かるんだけど...、


美紗(あはは...なんか、最初に振られた

   時の事思い出すなぁ...)


美紗「...?」


 隣にいる雪音の視界が明らかに私を遠ざけてる。


 何かしちゃったかな...?と首を右に傾けると、雪音も私と同じように鏡になるように首を傾けたのだった、


美紗(...後ろ?)


 後ろを振り返ると、本物そっくりの猫の剥製がガラスケースの棚の上に置いてあるのに気が付いた。


美紗「あ、なにこれ、可愛いー//」


 昨日は気付かなかったけど、前からあったのかな?


 それにしても...本物にしか見えないくらい可愛い黒猫さんだ、


雪音「...それが、...美紗さんには可愛く

   思えるのですか?」


美紗「確かに私の感覚はおかしいかも

   だけどこれは普通の黒猫さん

   だよ!?」


美紗(柚夏にもよく、怖いよって言われる

   けど縫いぐるみから綿が出てたり

   するクマとか可愛いくない...?)


けど、これはそういうのじゃなくてどっちかというと剥製に近い黒猫さんだった


雪音「...この、絶対に殺すシリアルキラー

のような眼をした獣が...美紗さん

は...お好きなのですか?」


美紗「絶対に殺すシリアルキラーの眼を

した獣は誰だって怖いよ!?」


雪音「....」


 黒猫の剥製を視界に入れないようにしたいのか、遂に雪音は目を閉じてしまった。


美紗「...雪音、...猫、苦手なの?」


雪音「...古池グループの娘である以上、

私に弱みはございません。」


美紗「...そうやってずっと、嫌な物

   我慢してきたの?」


 だとしたら、...雪音のお母さんと直接

お話しなくちゃいけないかもしれない。


雪音「...我慢、ですか?...美紗さんに

   とってこれが我慢なのですね」


美紗「我慢じゃないの...?」


雪音「祖母からは小さな頃に引っかかれて

   しまってから、こうなってしまった

   らしいのですが...」


雪音「これは我慢という物なの

   でしょうか?」


美紗「...ごめん、離れよっか、」


 と雪音の手をとって黒猫の剥製が見えないところまで移動する。


雪音「....、」


雪音「...杏里さん、皆さんには私が我慢

   しているという事を内緒にして

   頂きたいのです。よろしいでしょう

   か?」


美紗「うん、最初からそのつもりだった

   し」


美紗「それに好きな人が本気で嫌がる

   事しないよ。雪音が嫌って言う

   なら尚更ね、」


美紗「今度もし猫が目の前に現れたら

   その時は私に任せてよ、むしろ

   私猫ちゃん大好きだから!!」


雪音「......」


雪音「...杏里さんにはお伝えしても

   良さそうですね」


雪音「...貴女は他の方とは少し何か

   違うようですから。」


 雪音は一度、深く頷いてから口を開いた


雪音「...私は小さい頃に誘拐をされかけた

   事があります」


※キャプション


雪音

「誘拐なんて、ニュースの中の世界だけで

 ...かつての私は他人事のように思って

 思っていました。」


雪音

「...拳銃を持った誘拐犯が突然目の前に

 現れ、「こっちに来い!!」と...腕を強く

 捕まれた所までは覚えています。」


雪音

「下手をすればあの時私はいつ殺されて

 ていても可笑しくない状況でした、」


雪音

「…弱みを握られてしまえば、後々

(のちのち)めんどうな事に繋がります」


雪音

「麗夜さんもこの学校には通う事が

 出来ませんから、その間に狙われて

 しまったら私の命も」


雪音

「ひとたまりもないでしょうね。」


 そう、まるで自分の事を他人事のように呟く雪音。その瞳は普通の人から伝わってくるような恐怖や怒りといった《感情》は一切なく


 雪音の瞳はただ、一点に虚空を見据えてた。


雪音「誘拐にあった日からそうなの

   です」


雪音「私は一般の方よりも感情が

   薄い傾向にあるようです、眼を

   見て頂ければすぐに分かるかと

   思います。」


美紗「でも...どうしてそんな大事な事、

   私に教えてくれるの?」


美紗(黙ってた方が確実なのに...)


雪音「そうですね...。」


雪音

「誰かにこの事をお話する日が来る

 なんて…私自身、そのような日などは

 ないと思っておりました。」


 その一瞬、雪音の瞳に微かに感情ような物が宿ったようなそんな気がした...。


 遠い誰かを懐かしむような、そんな...


雪音

「本来他者にこのような事が知ら渡れば麗夜さんが何時も仰っている通り、...身の安全のため証拠を徹底的に排除すべきなのでしょうが」


美紗「…うん」


雪音「…」


雪音「…不思議なものですね、」


 雪音は今にも消えてしまいそうな儚げな笑みで、微笑みながら答える、


 それはまるで空から降ってくる白い雪のように寂しい微笑みだった。


雪音

「今の杏里さんと慕っていた祖母の姿

 が重なって見えたものですから...」


雪音

「だからこそ、…杏里さんの言葉に色味を

 感じたのでしょう」


雪音

「たったそれだけの自分でも笑ってしまう

 程、些細な理由です。」


 …此処で、雪音のおばあさんの話を聞くのは野暮ってものだろう、


 雪音がおばあさんの事を本当に慕っているのは今の雪音を見ただけでも分かる。


 感情をあまり感じない雪音が此処まで感じる人だから…、…少しでも、話を逸らすべきなのかなって思った。


美紗

「それから雪音は大丈夫だったの...?」


雪音

「ビアンカが私を助けて下さい

 ましたからね。傷一つ負うことなく

 無事でしたよ」


雪音

「ビアンカがいなければ今の私は此処には

 居なかったかもしれませんからね。…

 ですから彼女にはとても感謝しています、」


 ビアンカさんの話をする雪音は少し、感情的で


 雪音がビアンカさんの事を心から信頼しているのが深く感じとれる、


美紗(命の恩人だもんね、)


美紗

(…良かった。…雪音にも、信用出来る人がいるんだね、そういう人の存在って本当に大事だと思うから)


美紗

「...それにしても、ビアンカさんってすごい強いんだね。拳銃持った人を相手に無傷で勝つなんて、」


美紗「本当に強い人なんだね。でも、

   雪音が無事で本当に良かったよ」


 ビアンカさんって事は外人さん?…雪音のボディーガードさんって麗夜さんって人とビアンカさんの2人なのかな


 2人とも凄く強そうだけど…どんな人なんだろ…?


雪音「…ふふ、失礼しました。ビアンカは

   私の屋敷の愛馬の名前ですよ」


美紗「え!?、、愛馬///?!」


美紗「完全に人だとばっかり

   思ってた…////、えぇ~...、

   恥ずかしい…///」


雪音

「説明していなかった私にも否があります

 から。恥ずかしがる必要はありません」


美紗「でも雪音、馬飼ってるのっ!?」


 そういうのは外国だけの世界だと思ってたけど日本でも実在してるんだ…!!


雪音「白毛の子なのですが…まだ小さいのに、誘拐犯を後ろ脚で蹴って下さって…」


美紗(しかも白馬ですと...ッ!!!!!、、)


 白い馬に乗って、優雅に走る…雪音…。


妄想の中の雪音

「お疲れ様です。ビアンカ、」


 白馬さん、雪音に凄く懐いてるみたいだし、小さい頃から一緒に馬と暮らしてるって...雪音って本当に物語の中のお姫様なんじゃ…、、


美紗(…うん。…絶対、似合う。)


雪音

「その誘拐犯は二度と自分の足では立てなくなりましたけどね。…流石、ビアンカです」


美紗「…わぁお」


美紗(急に引き戻される現実)


 馬の後ろに立ったら危ないって言うもんね…、それにしてもビアンカさん容赦なさすぎじゃ…、まぁ...完全に自業自得なんだけど...。


雪音

「…当時の私はきっとその事がとても怖かったのでしょう。ですが…現在はその感情を思い出す事に大変苦労しています」


雪音「…分からないのですよ。…あの日から」


雪音「それが大事なものだったのかさえ

   …それすらも今の私には分かり

   ません。」


雪音「...感情があれば何か、変われるの

   でしょうか」


雪音「お祖母様の見えていた景色が私にも

   理解出来るように...なる日が来るの

   でしょうか...」


??「ゆっきーーーーーっ!!」


 …兎のように、突然、、真っ白な影が雪音に抱きつく。


??「こんなとこに居たんだー?もぉっ!! 

  ゆっきーほんとに捜したんだよ?」


雪音「晴華さん…、」


 驚いたように、目を丸くする雪音。あれ…?今までの雪音となんか違う…、、


なんていうか…、


美紗

(雪音ってそんな顔、…するんだ。

 凄い美人…髪さらさら...雪音と

 仲良さそう…、)


美紗(えっ...、っていうか...、誰...?)


美紗(…どういう関係??)


晴華「今日はディレクターさんがインフルエンザにかかっちゃってー、」


晴華「寂しかったよー、ゆっきー、、急遽お仕事お休みになっちゃったからー、来ちゃった♥️」


 白髪の女性はやっと此方に気付いたのか、私の瞳を見つめて笑顔で微笑んだのだった。



※キャプション


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