第四部「鬼ごっこの鬼は誰?」【ゆずるう】


柚夏(あの子どのクラスなんだろう)


 昨日買った飴玉を渡そうと、お昼にあの子を捜していたら


柚夏「あ。」


 私と目があった瞬間。流雨は困ったような顔をしながら後ろに2、3歩下がってから


流雨「......。」


急に逃げだした。


柚夏「何故!?!?、」


柚夏(...逃げられるほど会いたくない?!、

   ただお菓子あげようと思っただけ

   なのに...なんで、)


柚夏(えっ、、そんな不審者に見える!?!?、、)


 ...視線が合うだけで逃げられるなんて...。流石にちょっと傷付く...。リアル猫でももうちょっとは待ってくれるぞ


柚夏(...いや、"結構"、 かな...。)


 走り去っていく流雨の後を追いかける。こういう時くらい、走るべきなんだろうけど...。


柚夏(廊下は走っちゃいけないし...。

   ...というか、結構待ってくれるな...)


流雨「...私に 関わらないで...。」


柚夏(仲良くしたいオーラが隠しきれて

   なかった? そんな"変質者"みたいな

   感じじゃないんだけど...。)


 螺旋階段の物陰(かげ)に隠れながらそう言う流雨。その姿は身体の小ささも相まって遠くから警戒する猫みたいで可愛い


 お昼までそんなに時間がないので決死の思いで近付くと、物陰に隠れていた小動物のようにばっ、とその場から逃げていってしまう


柚夏「ちょっと、待って...!!角は危ない

   から!!走ったら駄目だよっ!!」


 その言葉を聞いた流雨が、勿論そんなことするはずがなく...


 ...するはずないのが普通なんだけど(本気で捕まりたくないなら)、律儀に廊下の角でスピードを落とし始める流雨さん。


柚夏(...えー、律儀... 可愛い...)


 廊下で走るのは悪い事だって分かってるのかな。顔が凄い困ってる


柚夏(捕まりそうだから。)


 保育園の子なら多分逃げられてるんだろうけど、これなら普通に捕まえられそうだ


 曲がり角なのもあって...。流雨は意外にすんなり捕まった。


柚夏「掴まえた、」


柚夏(...私がすり足名人なのもあるけど...

   なんか、すごい 弱い者苛めしてる

   みたい...。)


 『廊下を走ってはいけない』という純粋な気持ちを踏みにじってしまったというか...、


柚夏(いや、まぁ...それがまた純粋な子

   らしくて良いんだけど...。人の顔

   見て逃げる方も悪いよね...)


柚夏(理由分かんないのに。言ったら

   解放するから...)


流雨「...うぅ」


 意味の分からない飴配り人間に捕まってそのまま硬直して固まってる流雨。まるで捕獲器に掛かってしまった仔猫みたいな顔する


柚夏(...急に知らない人から手を握られたら

   怖いか、)


柚夏「もう逃げない?」


流雨「まぁ...」


 手を離すと俯いたままちゃんと逃げずにいる流雨。まぁ...逃げてる子を追い回してるこっちも悪いんだけど...、


 別に怒ってないからそういう顔をしないで欲しい。ただ気になっただけだから


柚夏(というかなんで、逃げられた

   側が逃げる側の心配をしてるん

だろう...。)


柚夏(...はぁ、最近...調子悪いなぁ。

   ...あの日から全然、変われてない...)


柚夏「...なんで逃げたの?」


 ネガティブな事を諭されないように声を出したら、思ったより低い声が出てしまった。


柚夏(...今の声、ちょっと"怖く"なかった...!?。

   えっ... 大丈夫...???怖いとか思われたら

   当分、立ち直れないんだけど...)


  つらかっただけで別にそんな怒ってないから、


 だから、そんな顔しないで。肉食獣の威嚇じゃあるまいし


 ...その分 頬を撫でる。流雨のほっぺたを親指で撫でる。ごめん...。ちょっと怖かったね。


 というか何度も同じこと言えないから(ネガティブな奴だと思われるの嫌だし)...行動で伝わって欲しい。


流雨「...怒られると思った」

柚夏「私が?流雨は私に何かしたの?」

柚夏(覚えないな...。この間迷惑掛けた

   からとか?)

柚夏(それならまだ良いけど...、知らない

   うちに彼女に対して威圧してた

   とか、それとも...今の声が原因?!)


 というか、何かしたの?って完全に無愛想じゃん...、、他に言い方なかったの私???


流雨「逃げるから」

柚夏「そりゃ、逃げたらなんで逃げられたの

   かなって思うよ」

流雨「.....」

流雨「それはそう。」

柚夏(良かったーーーー!!!今の怖がら

   れてなかったぁぁぁ!!、、なんか

   この人めっちゃ付いてくるんですけど

   怖(こわ)...)

柚夏(とか、思われてなくて良かったー...。)

柚夏「....、」

柚夏(...今まで築き上げてきた自分が音を

   立てて崩れていくのが分かる...。

   私、こんなだったか......?)


流雨「別に貴女の事が嫌いな訳じゃない。」

流雨「ただ...、一人で居る方が楽だから...」

流雨「私は『怒り』っぽいし...人にあんまり

   興味がないの。人の名前もすぐに

   覚えられない」

流雨「そんな人と居ても楽しくない

   でしょう?」

流雨「優しい貴女に傷付いて欲しくないの」

柚夏「....。」


 なんでこの子は人と付き合う前に人を拒絶するんだろう...。絶対何か...、人に言われたに違いない


 彼女がそうなる"理由"が必ずある。普通はそんな事『言われないはず』だから


柚夏「...私は、"楽しい"けどね...。」

柚夏「というか 怒りっぽい...?」

流雨「怒りっぽい...。」

柚夏(怒ったとこ見たことないんだけど...)

柚夏「...寂しくないの?」

流雨「.....。」

流雨「...人に嫌われるのは慣れてる」

流雨「だから別に寂しくない」


 もっとこの子に自信を持ってほしい。こんな可愛い顔してるのに友達がいないなんてどういうことなんだろ...(人の事言えないけど...)


柚夏『君が可愛いから仲良くなりたいって

   思ったんだよ。』


いや、駄目だ 純粋にキモい。これが私なら普通に引いてる


 可愛くなかったら友達になりたくないの?って思われてもいやだ。


 どうやったらこの子が自信を持ってくれるかな...って、思いながら飴玉の包み紙をむく...。


柚夏(...しまった、あんまり甘い物好き

じゃないのに...)


 なんか手に持ってたから 思わずむいちゃったけど...。流雨は飴玉に興味を持ったのか 私の手をじっと見つめていた。


柚夏(これはお菓子に興味がある人の顔、)


柚夏(...え、おやつを持ってるときの

   猫みたい...///ええ...、...可愛い...///

   凄い見てくる...)


 可愛すぎて顔が引きつってしまう。こういう顔が怖いって言われるんだよ、冷静になれ。


 相手はただの可愛い女の子だろ...、ぬいぐるみとか人口的に作られた洗礼された可愛さじゃないんだから


柚夏(いや、まぁ...人によって作られた

可愛さなんだけど...)


柚夏(人間に対して可愛い、ってなったら

   もう変態みたいでしょ...。もー...)


柚夏「食べる...?」

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