⑦流雨の夢野編~中盤~【ゆずるう】

 魔法のまどうしょ。ある日1人の女の子は一冊の不思議な本を見付けました、それは人の心が分かる不思議な本でした。


 少女はその力で人の欲にまみれた感情を見てしまいました。少女はその本を使って欲のない美しい世界を創ろうと努力しました。


 そうして、少女はルールを作りました。皆(みんな)が皆(みな)仲良くなれるルールを、その時本物の王様が現れてこう言いました。


その力を生かすも殺すのも"君次第"なのだと


バステト

「...私も人の心が読めるので、その少女と

 同じかもしれませんね」


バステト

「どうして、人は争うのでしょう。元はと言えば同じ箱舟の中にあった生命体なのに」


バステト

「私は人々の言葉を聞いて色んな法律を作りました。それでも『完璧な法律』は作れない」


バステト「喧嘩廃止制度、ネガティブ禁止制度

感情抑止制度、我慢制度、相手が優先制度、

見捨てるの禁止令...」


柚夏(禁止令多いな、皆仏様じゃないん

   だから)


柚夏「"そんな事出来ないなんて人間じゃない"

   はちょっと厳し過ぎませんか」


バステト

「悲しみや苦しみといった感情があるからこそ、悲劇は起こるのです。だからこそ...我々は"新たな存在"にシフトしなければなりません」


柚夏「新たな存在...?」


バステト

「苦しみも哀しみも感じない世界への

シフトチェンジです。」


柚夏「そんな事やったら」


バステト「歓びも幸せも感じなくなるでしょう」


バステト「でも、それで良いのです。私は完璧な存在になりたい。誰からも恐れず怖がらずに皆(みな)に公平でありたい」


バステト「恐れがあるから助けられないんです。そういった感情があるからこそ、私は動けずにいる。国民を"変えられず"にいる」


バステト「ここは『完全なる大地』。私は皆が幸せになれるよう日々努力しなければなりません」


バステト「どういった事が問題か、その問題に対してどう向き合えば良いのか」


と、そんな猫の女性の後ろに文字が見えてくる。


柚夏(なんだ....、これ...)


重罪、絶対に許さない、どうして、こんな事も許せないなんて人間じゃないと色んな文字がある中で一際目立つ


『セクメトなんで...』という文字。


柚夏「...セクメト??」


バステト「あぁ...セクメト、ですか...。」


バステト「何故その名前を?」


柚夏「あなたの後ろに文字が見えたから」


バステト「...? 不思議な事を言いますね。」


バステト

「セクメトは前任の王様の名前です。」


バステト

「そして、セクメトは人殺しをした

 "重罪犯"でもあります...。」


バステト「....、」


バステト

「何故彼女がそのような事をしたのかは分かりませんが、知り合いでしたので、ショックが大きくて...すみません。」


バステト

「そんな事しない方だと思っていたのに」


バステト

「...私は優しいので、全てを許します。が、彼女は殺人を犯しました。流石に殺人を犯した犯人を王様にしておく訳にはいけません」


柚夏(そりゃそうだ...)


柚夏(だから全権が変わったのか。)


バステト「彼女はかつて私を苛めた人を殺しました。ですが、それは...この世界にとっては重犯罪...」


バステト「一度殺人を許してしまうと他の者に示しが付きません。どんな理由であれ、彼女が殺人を犯した事に変わりはないのですから...」


バステト「藤奈さん(彼女)は謝ったのに、"私が許せなかった"せいで...」


バステト

「...この世界と私はリンクしています。

だからこそ、無意識のうちにセクメトは憎き藤奈を討ち取ったのでしょう。」


バステト

「ですが...それでは争いの火種は消えません。私が心の底から許さなければならないのです」


バステト「そのためにも計画を早めなければ」


バステト「『完全なる世界』へのシフトを」


柚夏「その人に会うことって出来るんですか?」


バステト「良いですけど...悪徳犯ですよ?

     彼女は自分のやった罪を中々

     認めようとしないんです。」


 現実で殺人犯に会うなんてまっぴらごめんだけど、その時私は何故かその人に無性に会いたくて堪らなかった。


 聞くからにそんな悪そうな人じゃなさそうだし、一回会ってみて彼女の話を聞く必要がある。この世界がどんな世界なのか


どうやったらこの世界から出られるのか


前任の王様に。


柚夏「捕まってるんですよね??」


バステト「勿論です。今彼女は精神病院に

     隔離されてますよ」


柚夏「でしたら、会いに行きたいです。」


柚夏「その犯人がどんな顔なのか」


バステト「何があっても私は知りませんよ。

     いくら説明しても、自分のやった事

     の重大さに気付いてないんです」


バステト「未遂とはいえ、ほぼ殺人犯なんです

     から」


と、去ってく猫のような女性。急いでいるのか二足歩行から四足歩行にきり変わる


バステト「道はあっちです」


バステト

「私は、他の場所に行かないといけないので

 此処で失礼させて頂きます」


 その後ろ姿に、"絶対に処刑なんてさせない"という文字が見えたのはきっと気のせいなんかじゃないだろう。


柚夏(処刑、か...。)


※スライド


街人B「あぁ、それならそこを真っ直ぐ行った

   突き当りにありますよ」


柚夏「ありがとうございます。」


街人B「憲法八千条、人間には優しく。

    それを守っただけですので」


柚夏(憲法八千条もあるのか、、)


 そうして、人に具体的な場所を聞きながら精神病院に向かう私。そして、刑務所に入るとそこには見知った顔の人物が捕らえられていた。


柚夏「流雨っ!?!?、、」


流雨「あぁ...。柚夏...」


柚夏「なんでこんな所にいるの!?!?」


流雨「ん〜。私が人を殺したから...?」


柚夏「なんで殺したのか聞いてるんだけど」


流雨「"殺す必要があったから"だよ」


柚夏「殺す必要...?」


流雨「私は殺人犯だよ?」


流雨「どうして、普通に話掛けてきてるの??」


柚夏「どうしてって、流雨と同じ顔をした

   人が処刑されるのを黙って見てられ

   ないよ」


柚夏「しかもなんで殺したのかも聞かず

   に」


流雨「処刑...ねぇ。それも良いかもね。」


流雨「...ふふ、随分お人好しなんだね。

   柚夏は」


流雨「初めて会った時もお人好しだった。」


流雨「だからこそ、この世界に来たのかもね」


流雨「こんな酷い世界に」


柚夏「今までの真相、話してくれる?」


流雨「良いけど信じてくれるかなぁ」


柚夏「鳥獣人とか猫獣人とかいる時点で

   信じるよ」


流雨「意外とロマンチストなんだね。」


流雨「...まずこの世界は現実じゃない。流雨の

   心の中の世界なの」


流雨「今の柚夏みたいに "誰か"に魂を無理やり

   連れて来られない限り、"この世界で

   人が死ぬ事はない"」


柚夏「誰かに無理やり連れてこられた...??

   流雨じゃなくて??」


流雨「なんで私だと思ったの」


流雨「私にはそんな力はないよ。そっちは

   専門外...、私は戦う事しか能が無いし、

   私達よりもっと上の存在だよ」


流雨「私にあるのはただの馬鹿力だけ。」


柚夏(それでも充分凄いんだけどな...)


流雨「...それ以上は分からない。」


流雨「あとはバステトか、」


流雨「バステトはこの世界と現実が混合して

   るの。此処が本物の世界だと思ってる」


流雨「具体的に言うと二次元と三次元が

   混ざってる状態だね」


流雨「それ以上あってはならない領域に

   あの子はいる。あの子は"不完全な存在"」


流雨「...あの子は本来夢野の門番じゃ

   ないから。その事実を彼女は知らない」


流雨「自分が"何者"か」


流雨「此処が流雨の世界だって事。」


柚夏(此処が流雨の世界...。)


流雨「私が殺したのは、小さい頃私を

   苛めてた人達の"嫌な記憶"。」


流雨「普通過去の記憶は夢野の中でその人を

   殺したら一旦消えるんだけど、あいつ

   自分で自分の胸を刺しやがった...。」


流雨「...お陰でこのザマだよ。」


柚夏「藤奈さんが??」


そう言って、鉄格子の背中に凭(もた)れながら腕を組むセクメトさん。


間違った事は言ってないという態度だ


柚夏「...だったらセクメトさんは無実じゃん」


流雨「まぁ、嫌な古い記憶を消すのが私の

   仕事なんだけどね。」


流雨「必要ない記憶」


流雨「ただあいつだけは絶対に許さん。

   昔の藤奈は本当に感じ悪かったんだよ」


流雨「知識だけ身に付けやがって」


柚夏「あの藤奈さんは感じ悪かったもんね...」


と最初に会った藤奈さんを思い返す。


流雨「今の藤奈とは違うから。流雨の中の

   藤奈はあんな感じなんだよ」


流雨「...流雨の嫌な記憶が誇張されて、

   もっと酷い藤奈になってる」


流雨「初めて会った時は普通にショック

   だったわ。彼女にとって私は"比較する

   対象でしかなかった"と」


流雨「彼女は私とバステトを乗っ取る事でこの

   世界の門番になろうとしてる。門番は

   『最も神に近い存在』だからね」


流雨「...一応、私戦神の一柱なんだけどね。

   本当はめちゃめちゃ強いんだけどね...」


流雨「此処まで力が落ちちゃった。」


流雨「...藤奈がいくら謝ってもされた事は

   なかった事には出来ない。」


流雨「だから、私が代わりに流雨の記憶の膿を

   消してたんだけど...」


流雨「現行犯で捕まっちゃったん

   だよね...☆、」


柚夏「だよねって。」


流雨「流雨の為にやってあげてるのに、まぁ

   自分のためでもあるんだけど」


流雨「バステトは自分のやってる事を

   労(ねぎ)らわないし」


流雨「...私の方ももう限界、いくらなんで

   も数が多すぎるし"別に生きてても

   めんどくさい"っていうか」


流雨「もういっそバステトに殺された

   方が楽になるかな〜、なんて」


柚夏「"いっそ楽になるかな"って...」


流雨「この程度で怒るのは人間じゃない

   とか、普通の人はこのくらいの事

   普通に許してるとか...」


流雨「怒る事で有名な神様に言う??」


流雨「私は"普通の人間"じゃないんだよ。

   嫌なことされたら嫌だし、怒ったりも

   する」


流雨「それの何が悪いというの??」


流雨「...でも、流雨はそれを心の中では認めて

   ない。普通じゃないと、誰も自分の事を

   好きになってくれないから。」


流雨「"普通"ってなんだろうね。」


流雨「...挙げ句の果てに殺人鬼呼ばわり

   されるし、泣きたいのはこっちの

   方だよ。」


流雨「...今は別に門番がバステトでも

   良いかなって思ってるの。あの子は

   私と違ってしっかりしてるし」


流雨「誰にでも好かれる良い神って

   言うのも悪くない、」


流雨「そもそも"私から創られた存在"だしね。」


流雨「でも、私が殺されると...バステトも

   無事じゃすまなくなると思うけど」


柚夏「無事じゃすまなくなる...?」


流雨「柚夏は本当の自分が死んだら

   どうなると思う?」


柚夏「どうなるって」


柚夏「...本当の自分すら、分からないのに」


流雨「流雨は精神的に病んで、鬱病に

   なるよね。社会不適合者の自分が

   なんでこの世界で生きてるんだろう」


流雨「って、そう思うはず」


流雨「指輪の事もあるし」


流雨「...流雨は性格的にないと思う

   けど、他の人を巻き込んで自殺とか」

   

流雨「衝動的に電車に飛び込んで一生払え

   ない借金を背負って、家族が払い続ける

   とか」


流雨「それは流石に嫌だから、普通に車に

   引き寄せられて事故かな?」


柚夏「...なんでそんな事が普通に言えるの」


流雨「人間は本当に弱いからだよ。まぁ、

   人間じゃない私達が言うのもなん

   だけど、」


流雨「私達は忘れられたら終わりだからね。」


流雨「"自分"を殺されて、都合の良い人間

   になったら 誰でもそうなるでしょ。」


と、怒りを込めて左腕をぎゅっと握る流雨。誰だって冤罪で殺されたい人間なんていないんだ


柚夏(...もうあんな思いをするのはいやだ。

   私の前でもう誰も死なせたくない...。)


柚夏「どうにか出来ないの?」


流雨「"どうにか出来る"って」


流雨「...柚夏にとって、所詮私は他人

   でしょ?」


流雨「なんでそこまで身体をはるの?」


流雨「私を逃したら、柚夏だってただじゃ

   すまないよ」


柚夏「...」


柚夏「...お母さんが亡くなったからじゃない??」


柚夏「...守れなかった母親の代わりにセクメト

   さんを守りたいなんて、自分自身の

   エゴだけど」


柚夏「それでも流雨を助けたいと思うんだ。」


流雨「私を助けたところで柚夏のお母さんは

   帰って来ない。それでも守りたいの...?」


柚夏「守りたい。」


流雨「...私は発達障がいだもん。普通の

   人が私を本気で好きになるわけ

ない、」


流雨「今は良いかもしれないけど、この先

   ずっとそうで居続けるとは限らない」


柚夏(ずっと牢獄の中に閉じ込められてたら

   卑屈になるのも無理ないか...。)


柚夏「その時はその時だよ」


流雨「"その時は、その時"か...」


柚夏「発達障がいって分かっても。私は

   相変わらず流雨の事が好きだよ、」


柚夏「勉強しても。」


柚夏「流雨はもしも私が障害者になってたら(  

   あの時腕を折ってたら)それを理由に

   別れたいって思う?」


流雨「そんなこと、思う訳ない」


流雨「だって柚夏はあの時私を助けて

   くれたから...、」


柚夏「...それと一緒だよ、発達障がい者なんて

   関係ない。」


柚夏「私は今心の底から流雨に逢えて

   良かったと思ってる。だから目の前に

   いる流雨を死なせたくないんだよ」


柚夏「例えこの世界が仮想の世界だったとして

   も。...流雨には死んで欲しくない。」


流雨「...嬉しいこと言ってくれるじゃん。」


流雨「力が...、」


 すると、流雨の頭からクリーム色の大きな丸い耳がぴょこんっと生えてきた。


流雨「今のでちょっとだけ流雨の気力が

   戻ったみたい、」


 そういって歯を食いしばってぬぅぅーーー!!と、檻を曲げる流雨。


流雨「手が痛い...。やっぱり本調子

   じゃないとこんなもんかな...、」


流雨「...人間はほんとに非力だよね。」


柚夏(確かに猫より熊の方が強そう

   だけど...この人も人間じゃないのか)


柚夏「此処から出られる方法ってないのかな?」


流雨「ん〜...。別に教えても良いんだけど

   何か対価が欲しいなぁ...」


柚夏「対価...?」


柚夏(なんかいつもの流雨と様子が違う...)


流雨「例えばぁ、柚夏の"血"とか??」


流雨「別にいらないけど」


柚夏「いらないんかい」


流雨「もっとテンションあがるやつ」


流雨「普通にキスで良いよ。ぶっちゅーっと」


柚夏(流雨って、こんな性格だっけ...)


と完全にからかってる流雨。普通に腹がたったので、お望み通りキスしてやる。


何処にキスする??

→A「ほっぺにキスする」

 B「手の甲にキスする」


A「ほっぺにキスする」


流雨「柚夏って意外とむっつり??」


流雨「それにしてもほっぺか...、60点くらい

   かな」




B「手の甲にキスする」


流雨「へぇ、手の甲にキスか。中々

   紳士的だね。でも普通は唇とかに

   しない??」


流雨「まだまだ柚夏には早かったかな。」


柚夏「普通に檻越しだとしにくいから、」




と、檻を両手でこじ開ける流雨。ぐにゃりと曲がった檻を見ながら、私はぽかんと口を開く。


気づけば、流雨の手にはぬいぐるみのような熊の手のように不自然な大きな付け手が生えていた。


流雨「このくらい百獣の王だから当然だよ。

   ...バステトに任せて、もう引退しちゃった

   けどね」


と、出ていっていいのか私をその大きな手で握って普通に脱出する流雨。どれだけ長い爪してるの


柚夏「良いの?」


流雨「折角脱出の機会があるんだから、出て

   当然でしょ」


柚夏「どこに行くの??」


流雨「取り敢えず、バステトが来なそう

   なとこかな」


柚夏(というか、良いのかな...。普通に

   脱出して)


柚夏「何か急いで何処かに行ってたけど」


流雨「どうせ、また藤奈に良い風に言われてる

   だけだよ。あの子ほんと騙されやすい

   から」


流雨「とにかくバステトがいなさそうな所に

   行こう」


※スライド


流雨「リア充街、陰キャのバステトには

   無縁のところだよ」


柚夏(明るい顔で嫌なこと言うな...)


カップル達が沢山いる。繁華街


柚夏「流雨ってこういうとこが好きなの?」


流雨「憧れるけど。好きと言ったらどうかな、

   流雨は楽しい気持ちをあんまり外に

   出さないようにしてるけど」


流雨「柚夏に守って貰った時は本当に

   嬉しかったし、心の底から憧れた。」


柚夏「セクメトは素直な気持ちの流雨って事?」


流雨「まぁ大体そんな感じ。流雨が無理やり

   感情を押さえ付けてるから、大分

   弱ってるんだけどね...。」


とそういうぬいぐるみの耳と尻尾が垂れ下がる


流雨「本来はこんな性格なんだよ」


流雨「ただ苛められて、普通の人として

   生きなきゃいけないようになって...」


流雨「ストレスがたまって。失敗ばかりして

   ちょっと落ち込んでる」


流雨「柚夏の指輪を無くしたのも」


柚夏『失くしちゃったの??』


柚夏「私のせいだ...、流雨が指輪を無くした

   からそのまま逃げ出したの...」


セクメト「よくそれで私に会えたね!?!?」


セクメト

「流雨って結構自分を責める所があるから。今頃きっと凄い捜してると思うよ」


セクメト

「此処まで怒りが伝わってくる...大切な指輪を

 無くした怒りが」


柚夏「それはもう良いよ。私も悪かったし」


と、向かった先はメイド喫茶。


流雨「苺パフェ、チョコレートマシマシで、」


店員「畏まりました。お嬢様♪」


流雨「柚夏、これめっちゃ美味しいよ。」


と、にこにこ顔で笑う流雨に少し違和感を覚える。


柚夏「セクメトは流雨なの??」


流雨「そうとも言えるし、違うとも言える。

   そんなの今はどうだっていいじゃん」


流雨「"私が流雨かどうかなんて"」


流雨「楽しければ」


流雨「次は服屋さん。行こ行こ、柚夏

   そういうの好きでしょ」


そうして流雨を名乗る人物と私がかつて憧れていたデートのように時が進む。でも、何かが違う...眼の前の流雨は楽しそうに笑ってるのに


私の顔は引きつっていた。あんなにも流雨に憧れてたのに、どうしてなんだろう


流雨「私の事、流雨だって思えない?」


柚夏「声も顔も流雨なのに、全然違う。

   君は一体なんなの??」


流雨「小さい頃の流雨だよ。藤奈に苛められる

   前のね」


流雨「そして、"遠い未来"の流雨でもある」


→A「遠い未来の...?」

 B「小さい頃の...」


A

セクメト

「あっ、やっぱりそっちが気になっちゃう??」


セクメト「私、未来では王をやってるの。権力もかなりあったんだよ。まぁ、もうやめちゃったんだけどね」


柚夏「藤奈さんのせいで...?」


B

セクメト「...やっぱり柚夏は優しいね」


柚夏「藤奈さんに苛められる前の流雨...」



??「あー、あー。その話はしないで」


??「私あいつの事大嫌いなの」


??「あいつが私を変えさせた。昔はバステトも

  泣いてばっかだったけど、今はもう慣れ

  ちゃってあんな感じ」


??「...慣れちゃったら駄目なのに。」


??「バステトはこの世界の事を

  よく知らないんだよ」


柚夏「そういえば、王様!!、、」


??「王様ねぇ。そういえばそんな事もしてた

  なぁ...適当だったけど」


柚夏「適当だったの!?」


??「今の王権よりはかなりマシだったかな」


??「前王じゃ味気ないから、セクメトって

  呼んでよ。」


柚夏「じゃぁ、セクメトは何者なの」


セクメト

「私は流雨の人格の一部。楽しい事が大好きで、流雨の本来の性格」


柚夏「流雨の本来の性格??」


セクメト「考えられないと思うけど。昔は人も大好きだったし、お洋服とかもスカート着てて似合わないって言われてやめた。」


セクメト「...そういうのが重なって、私はバステトに人格を乗っ取られた。苛められたくない、嫌われたくないって、あの子の強い思いが」


セクメト「"本来の私"に打ち勝ってしまった。本当は柚夏とキスしたりするのは嬉しいのに」


セクメト「あの子はそれを嫌に思ってる。自分はそんな存在じゃない、"人に嫌われてなんぼの存在"だって」


柚夏「そんな...」


セクメト「バステトの法律、見たでしょ??」


柚夏「あれは酷かった...。多すぎる」


セクメト「昔は私が王様だったの。でも今は

     あの子に支持する人が圧倒的に多い」


セクメト「だって、藤奈が全部あの子の行動を

     制限してるから」


セクメト「だから私は力を失って、こんな状態にいる。あの子の人格が完成すればする程。"私という人格は消えて無くなっていく"」


柚夏「それって不味くない...??」


セクメト「不味いどころじゃないよ。」


セクメト「私という人格がなくなれば、流雨は"流雨"じゃなくなって、完全に狂う。その前になんとかしなくちゃいけないんだけど...」


セクメト「バステトがあんなんじゃね...。バステトは藤奈に利用されてる事に気付いてない」


セクメト「この世界は今完全に言ったもん勝ちの世界になってる。藤奈がバックに居て、"バステトを利用して法律を作ってる"」


セクメト「藤奈がバステトに私を捕まえさせたのも彼女にとって私が邪魔だから。意地悪いよね、よりにもよって自分自身に捕まえさせるなんて」


セクメト「バステトは兎に角 人に嫌われたくなくて、完全に藤奈側の立場に立ってる」


柚夏『大事な物を取られたのに取り返さないんですか』


街人A『そういう法律ですから。この世界では怒ったら精神病院に閉じ込められるんです』


セクメト「ほら、心辺りがあるだろう??」


セクメト「"この世界はおかしい"。その事に

     バステトは気付いてないんだ」


セクメト「此処は流雨の深層世界なのに」


セクメト「だからこそ、流雨の気持ちに強く左右される。柚夏が此処に来たのも 多分今の流雨の精神状態があまり良くないからかな」


セクメト「友達だったのに、許してあげられない。だから せめて彼女の言う事は聞こうと」


セクメト「それで埋め合わせしようと

     してるんだ」


セクメト「柚夏は藤奈じゃないのにね。」


セクメト「指輪を無くしたのも、謝った藤奈を

     許してあげられない事も。」


セクメト「両方の立場に立っておきながら」


セクメト「バステトは藤奈の口車に完全に

     乗せられてる。」


柚夏「じゃぁ、どうすれば良いの」


セクメト「流雨がもっと"楽しい"って心の

    底から思えば良いんだよ。」


セクメト「でも私自身がもう、そう思えない

     からさ」


セクメト「見てよ、この格好。ほぼ人間

     でしょ?」


セクメト「...私は過去の藤奈を何度も殺して、

     流雨の嫌な記憶を消してたんだ」


セクメト「"此処は夢の中だから"」


セクメト

「彼女は此処を現実世界か何かと勘違い

 してる。それを知ってるのは、本物の

 門番である"私"だけ」


セクメト「流雨がそんなんだから...、」


セクメト「あいつは私の全てを奪った。そして

     私の大事な正義感(バステト)

     まで奪いやがろうとしてる」


セクメト「私を牢屋にぶち込んで、私の

     知識まで奪おうとしてる」


セクメト「あいつは絶対許しちゃいけない。」


セクメト

「バステトはセクメト(私)から生まれた

怒りの神の名残だ。いつも笑顔でとても優しい人だった」


セクメト「何もかも許して、笑って。どんなに辛くとも人のせいにしないで...、、私が一番彼女の事をよく知っている」


セクメト「だって、...自分の分身なんだもの。」


柚夏「セクメト...」


セクメト

「あの子が藤奈を本当にいらないと思ってくれないと、藤奈は消えない」


セクメト「いくらやっつけても。ネガティブに

     支配されちゃうの」


柚夏「...。」


セクメト「私に本来の力があったら。ぶち

     殺せるんだけど」


柚夏「圧倒的暴力」


柚夏「現実で藤奈さんが死ぬ訳じゃないん

   だよね??」


セクメト「勿論。私は過去流雨を苛めてた

藤奈さんしか消してない。そもそも顔も覚えてないし」


セクメト「でも、なんとなくあいつって

     分かるんだ」


セクメト「玉座は完全に乗っ取られてるし、後は私の大切なあれが見付かったらもうおしまい。」


柚夏「大切なあれ?」


セクメト「本だよ。本、魔導書」


セクメト

「彼女は魔導書を持って人の心を知ろうとしてるんだ」


セクメト「その本を使って流雨は自分の存在を消そうとしてる。私の命より大切な記憶...」


柚夏「命より大切な記憶...」


セクメト「私はまだ優しかった藤奈の記憶を覚えてる。でも彼女は今それどころじゃなくて、自分で自分の首を締めてる事に気付いてない。」


セクメト「人の気持ちが分からないから、魔導書を奪って自分自身の感情を消そうとしてるんだよ」


セクメト「悲しみや怒りを消すために」


柚夏「バステトを止めるにはどうすれば

   良いの」


セクメト「魔導書はそんな大したもんじゃない。あれは流雨が必死に努力した、大切な記憶」


セクメト「バステトは"心理学の本"なんだ。それが彼女の正体、流雨が必死に人から嫌われたくなくて、勉強した心理学の本」


セクメト

「だからこそ彼女は人の心を見て分かる。額の上にある五つの瞳で心の中を読み取れる」


セクメト「だが、あれが世に渡ったらまずい」


セクメト「あれは世界に一つしかない特別な本。心の中に刻まれている、流雨の優しい記憶」


柚夏「それが藤奈の手に渡ったら」


セクメト「間違いなく流雨が流雨でなくなる」


柚夏「今すぐ止めないと」


セクメト「ううん。今すぐ行っても正直今の

     私達に勝ち目はない」


セクメト「それ程までに私の力は衰退してる

     んだ」


セクメト「いくら殺しても死なない幽霊に何度挑んでも、疲れて終わるだけ。」


柚夏「幽霊...、、」


セクメト「幽霊みたいなもんだよ。消しても

     消しても死なないんだから」


と大きな長い爪を立てながら威嚇する流雨(セクメトさん)。このセクメトさんは流雨の怒りからくる威嚇だろう


セクメト「現実の流雨は全然怒らないから...」


セクメト「私が怒るしかないの。」


どっちかというと、バステトさんの方が流雨に近いのはそういった理由だったのか。


セクメト「バステトを助けたいなら私を

     もっと幸せにして」


柚夏「もっと幸せに??」


セクメト「心の底から生きたいと思わせるの。私がもっと頑張れば、流雨を助けてあげられる」


セクメト「私がもっと人を信じれば、バステトを助けてあげられる」


セクメト「今の私は大分弱ってるから」


柚夏「どうすればいいの」


セクメト「プリクラを撮ろう!!チェキ、チェキ」


セクメト「正直、柚夏って格好良いよね。格好良いって言われてるの気にしてるから言わなかったけど」


セクメト

「本当に流雨は心の底から柚夏の事を信頼してるんだよ。だからこそ本当に好きになって、嫌われたくないの」


そうドストレートに言われると照れる。この子は、流雨の幼い人格なんだ。苛めもなくて、もっと幸せだった頃の流雨の人格...


セクメト「私がもっとしっかりしてたら...。」


セクメト「バステトに負けないくらい、藤奈の事が好きだったら...藤奈は色々助けてくれたのに」


セクメト「だから、本当に藤奈を好きならその人格を消さないといけないんだよ」


柚夏「....。」


柚夏「分かった手伝う。」


※スライド


セクメト「柚夏と二人っきりでデートだー、

     嬉しいな。バステトを差し置いて

     先にデートしちゃうのは」


柚夏「皮肉がかってるねぇ」


セクメト「だってバステトって暗いし、騙されやすいしそれでいてすっごい頑固なんだもん」


柚夏「流雨の事あんまり悪く言わないであげて」


セクメト「もう一人の自分だから言えるんだよ」


セクメト「もっと気楽に行けばいいのにさ」


セクメト「だから分離するんだよ。本の状態で出てる時点でまだ子供」


セクメト「本当の神様なら付喪(つくも)自体が主になるのに。私みたいにさ」


プリクラを二人で撮ってチェキをする。というか、チェキってなんだろう


セクメト「メイド喫茶とかでメイドさんと写真を撮ることだよ」


柚夏「わぁお」


セクメト「言わないでも分かるよ。私が本体だからね」


と、セクメトの身体にライオンのような立派な尻尾と耳が出ていた。


セクメト「大分力が戻ったみたい。これなら

    藤奈にも勝てるかな」


セクメト「最後に、はい」


セクメト「キスだよ。キス」


セクメト「今度は唇に」


柚夏「えっ、え...////、、」


柚夏「まだ、流雨にもしてないのに」


セクメト「したじゃん。神社で」


柚夏「あれはノーカン、、キモかったから」


セクメト「ノーカンとかあるんだ。まぁ

     良いから早くぶっちゅーっと」


柚夏「す、するよ...」


セクメト「はい、ちゅっちゅっちゅっちゅ」


柚夏「適当じゃない??」


セクメト「自分が気持ち良ければそれで良いの」


セクメト「下手もへったくれもないよ」


柚夏「それ、私の台詞」


セクメト「それに本気でやったらそれこそ気持ち

     悪いでしょ??」


セクメト「これくらいの方が丁度良いんだよ」


と、ぺろっと舌舐めずりをする流雨。そういうところが獣っぽいなぁ


セクメト「そういう柚夏の顔を見るのが

     好きだからさ」


セクメト「大好きって言って欲しいの。」



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