⑦流雨の夢野編~最後の審判~【ゆずるう】

柚夏「...、、」


柚夏「大好き、だよ...」


セクメト「ふむふむ、ちょっと照れてるのが

     良い感じ」


セクメト「抱き締めて。というか、私が抱き

     しめれば良いのか」


と、彼女のリクエスト通りに抱きしめる。


 何か人間っていうより、等身大のぬいぐるみを抱きしめてる感覚に近いけど...。手にも毛が生えてるし


動物にぎゅっとされてるみたいで少し嬉しい。


セクメト「もうちょっとドラマチックに」


柚夏「どこの監督なの」


柚夏「お姫様抱っこでもする...?」


柚夏(流雨もこれだけ分かりやすかったら

   良いのにな、妹みたいで)


セクメト「バステトに自慢したいから、」


セクメト「写真、写真。自撮り棒使って」


セクメト「こっち向いてー」


セクメト「ちゅっ♡」


柚夏「なんかメイドさんと居るみたい」


セクメト「そう??恋人ってこんな感じ

     じゃない?」


 そうやって後ろで手を繋いで上目遣いで笑うセクメト。エンスタグラムとか流行りの事はよく分かんないけど


 なんか昼下がりに家族サービスするパパになった気分だ。


柚夏「流雨ってこんな感じなのか...」


セクメト「流雨はこんな事しないよ。ただ、

     私がテンションあげるために

     やってるだけ」


セクメト「今は緊急事態だからね、決して

     自分がしたくてやってるん

     じゃないんだから」


セクメト「本当はしたくてやってるん

     だけど」


柚夏「どっち」


セクメト「神はそういうもんなの」


セクメト「柚夏は表情が固すぎるんだよ。」


セクメト「こうやってアイドルみたいに

     可愛く出来たら良いなぁって、」


セクメト「柚夏は乙女なのにそういうとこ

     分かってないよね。」


柚夏(娘が出来たパパみたいだ...)


セクメト「あの子、そういうロマンチックな

     展開に憧れてるんだよ」


セクメト「特に"バステト"はね。」


と、ぎゅっと私の側に近付いて身体を寄せて腕を組むセクメト。こんな可愛い子に愛されてるのに、私の心は此処にあらずだった。


柚夏(可愛いんだけど、悪戯仔猫みたいな

   感じ。いつもの流雨と違って自由

   奔放で本当に無邪気な子供みたいだ)


柚夏「セクメトはバステトの味方か、

   そうじゃないのかどっちなの」


セクメト「なに??一緒にデートしてるのに

     バステトの話??」


セクメト「柚夏はあぁいう清楚派なの??」


セクメト「セクメトちゃん、大ショ〜ック

     なんだけど」


と温かいぬいぐるみの尻尾が足元に巻き付く。


セクメト「ねぇ、バステトと私どっちが

     好き??」


セクメト「バステトはこんなサービスして

     くれないよ?」


→A「セクメト(ライオン)派」

 B「バステト(猫)派」



Aセクメト派


セクメト「やったね。やっぱり私の方が好き

     かぁ、私も柚夏の事が好きだよ♡」


セクメト「食べちゃいたいくらい...///」


と、ぺろっとそう言いながらにんまり笑ってぬいぐるみの爪を舐めるセクメト。


柚夏「怖い怖い。私は食料か」



Bバステト派


セクメト「えぇ、バステトぉ??本人が目の前に

     いるのにそれ"選んじゃう"??」


セクメト「"君"の好みなんて聞いてないよ。

     柚夏の好みを聞いてるの」


柚夏「君??」


セクメト「んーん、なんでもない♡」




セクメト「兎に角、これで準備は整った。

     これなら藤奈にも負けないと思う」


そう言ってんー、と腕を伸ばしながら肩をゴキゴキ言わせるセクメト。


セクメト「まぁ柚夏の方も心配だと思うしね」


セクメト「さぁ、急いで彼女の元へ向かおう。」


セクメト「なんだか凄くやな予感がするから...」


と、ギュンッと凄いスピードで掛けていくセクメトさん。また来た道を戻るのか...


柚夏(というかめちゃめちゃ足早い...)


※キャプション


 カッカッカッ、と私達は王城にある地下室にランプを使って下へ下へと下がっていく。


 部屋の前でランプを照らすと、暗がりの奥にある部屋には大きな錠前とガッチリとした南京錠の鍵があった。


バステト(掃除や、手入れは行き届いてない

     のに立派な錠前...錆(さび)とかも

     全然付いていない。)


 気づいたら杖に掛けてあったその大きな鍵を私は藤奈の目の前で開ける。玉座に付いた頃からあったこの杖、この世界は本当に分からない事ばかりだ


 いつどうやって生まれたのか、幼い記憶はあるけど。親や家族の記憶は思い出そうとしてもしっかりしていない


 気付けば私は、王様になっていて皆の法律を考える存在になっていた。私はそんな存在ではないというのに...


バステト

(この、人間の頃の記憶はなんだろう...)


カチャカチャ...ガチャンッ


バステト「開きました。」


藤奈「じゃぁ、中に入ろう」


バステト「はい」


 と部屋に入ると、まるでダンジョンの最奥のように中に入った瞬間ぱっと明かりが付き


 剣を持ち鎧を纏(まと)った兵士達がガラスケースの中身を護るかのようにずらーっと立ち並んでいた。


バステト「うわぁ...、凄いですね。」


藤奈「あなたの城でしょ?なんで知らないのよ」


バステト

「私もあなたと同じでこの城の図面を

 全て把握している訳ではありません。」


バステト

(急に動き出したりとかしないですよね...?)


バステト(どうやって電源が付いてるんだろう)


バステト

「...前任の王様が辞めてからそう時間が

 経っていないのです。私にも知らない事は

ありますよ」


そして、お目当ての本を目にする。


バステト「...これが、王が残した。魔導書...」


 丁寧にガラスケースの中に入れられた本は見るものを魅了する効果でもあるのか、ドクンっと心臓が動きだす感覚におそわれる。


バステト「...本当にこの本さえあれば、感情を

     消す事が出来るんですね。」


藤奈「そうだよ。そう言われてる」


藤奈「そうすればバステトは"完璧な存在"に

   なれる。そして、もう悩むこともない」


藤奈「"完全な神"に」


バステト「完全な、神...」


バステト(今と何が変わるというの

でしょうか...)


藤奈「その本に選ばれたバステトなら」


 宝石が入っているのと同じぐらい、赤い高級なクッションに置かれているその魔導書の本を、...自らの手で丁寧に開けて 本を手にする。


バステト「これが、真理の魔導書...」


ドクンッ...。


バステト(まるで、生きてるみたい。)


バステト(この本がどれだけ貴重な物か調べる

     必要がありますね)


バステト

(これで、セクメトの処刑もなかった事に

 出来る。この本を藤奈に渡せば、私は

 歓びも哀しみもない『完璧な存在』に

 なれる。)


バステト(でも、本当に渡して良いの...?)


柚夏「「そいつの言う事を信じるなっ!!、、」」


バステト「えっ...」


藤奈「チッ、折角良いところだったのに」


バステト「柚夏さん、」


バステト「藤奈?」


柚夏「そいつに騙されちゃいけない。それは

   悪魔の罠だっ!!」


藤奈「...随分、セクメトとはお熱だった

   ようですね」


藤奈「でも、もう遅い。」


藤奈「今の王政の法律はかなりめりゃくちゃな

   物ばかり...、だから私がバステトの

   代わりに王の"玉座"となる」


藤奈「どうしてあなたばかりなの。私の方が

   あなたよりもずっと優れてるはず

   なのに」


藤奈「勉強の点も、テストの点も」


バステト「それは藤奈が...、、」


藤奈「王になるのはこの私にこそ相応しい。」


 藤奈は私のテストの点をいつも知りたがっていた。無理やり奪ってでも。いつも、私より上じゃないと満足出来ない...そんな人だった。


バステト(そうだ...、)


バステト(そんな事...知ってたのに...。)


柚夏「あの時反省したんじゃなかったの?」


藤奈「あぁ、あの時ね。」


藤奈「反省??何それ、美味しいの??」


藤奈「こんな、楽しい事。簡単に止められる

   訳無いでしょ」


柚夏「流雨と仲良くなるって言ってたじゃな

   いか」


藤奈「はぁ??何の事だか分からないわ」


藤奈「私が流雨と仲良くなるなんて」


藤奈「別に喧嘩してる訳じゃないし」


藤奈「...今はそんな事より、このお宝を

   どうすれば良いか」


藤奈「やっと見付けた。『人の心が分かる

   魔導書』、これさえあれば私は全ての

   原点になれる」


藤奈「この本を使って、人を掌握すれば

   イケメンや綺麗な人とハーレム状態に

   なれる」


藤奈「これはそれだけの力を秘めた本

   なのよ。」


バステト「それは、駄目っ!!、、」


バステト「その本を持たれると凄い嫌な

     予感がする、、」


その瞬間、バクンッと心臓が跳ね上がる。


バステト「ぐっ。」


バステト(なに、これ...)


バステト(私と同調してるの...?)


藤奈「良いから、その本を渡しなさい!!、自分だけ秘宝を持ってなんとも思わないの?国民に配ってこそ王の器ってものよ!!、、」


柚夏「バステト、、」


藤奈「あなたは主人公でもなんでもない」


とバステトを足蹴りにして、硝子ケースの中に入っている魔導書を盗もうとする藤奈。やめろ、、と駆け付けた頃にはもう遅かった。


藤奈「王様になるのは、私にこそ相応しい。

   これさえあればあんたの泣き顔を

   いつでも見れるしね」


バステト「なん、で...」


藤奈「本当にあんたって馬鹿よね。...こんな

   簡単に人を信じて」


藤奈「だから騙されるのよ。何をやっても

   お人好しで、自分だけ幸せそうな

   顔して」


藤奈「昔から勉強漬けだった私にはその

   笑顔が眩しく見えた。グシャグシャに

   してやりたいくらい。」


藤奈「...そして、そんなアホなあんたが好き

   だった。あんたの話を聞いてあげると、

   嬉しそうな顔をするあんたが大嫌い

   だった」


藤奈「あんたは王様になって、私はただの

   絵描き。あんたより私の方が優れてる

   のに、私はただの"モブ"」


藤奈「この違いは何なのかしら。」


藤奈「そんなの許せる訳ないじゃない。あんた

   を苛めから救ったのは私、あんたは私に

   助けられたんだから」


藤奈「私より下の立場じゃないといけないの」


藤奈「私は、あんたの"ヒーロー"なんだから」


バステト「どうして...、信じてたのに」


藤奈「信じてたのに...??」


藤奈「何それ、気持ち悪い。」


柚夏「気持ち悪いって...」


藤奈「皆から嫌われてたあんたを助けてやったのはこの私、今更そんなこと言ってこの魔導書を独り占めする気だったんでしょ」


藤奈「あんたの魂胆なんて見え見えなのよ」


バステト「違うっ、、私は藤奈の事を...」


藤奈「私の事、を何??」


バステト「.....。」


藤奈「何も言えないじゃない」


藤奈「私のお母さんが乳がんで死んだとき、

   私にも痼(しこり)があるんだって」


藤奈「その瞬間、あんたには人の心がないと

   分かった」


藤奈「...それで私はあんたと関わるのをやめた

   わ」


藤奈「誕生日にロールケーキをあげたりも

   したのに」


 藤奈には盗み癖があった。お兄ちゃんが目を離した隙にゲームを取り上げて、次の日に買ったって見せ付けて


それは兄と同じ色のゲーム機だった。


お兄ちゃんは必死に捜してたのに。


 トイレに行ってる間にゲームが無くなったりもしてた。私が藤奈に勧めたゲーム


 そんな事するはずないって、見て見ないふりをしたけど カセットケースの中に私のやってたゲームがあって。それを「最近買ったんだって」


バステト(何をされても嫌じゃなかった。人を

    嫌いになることなんてないと思ってた)


バステト(でも...私はこの人と関わるべき

     じゃなかったんだなって、)


藤奈「というか あなた本当に怒らないからチョロかったわ。自分から喋りまくるし、私の番は一体いつ??自分の好きなものばっか教えて」


藤奈「見せびらかすように自慢して。そんなの

   盗まれて当然じゃない」


藤奈「私が教えた物には一切ハマろうとしない

   し。なんで、皆から嫌われてるあなたに

   媚を売らなきゃいけないの??」


藤奈「当時はずっと笑ってたよね。それ

   正直気持ち悪かったから」


バステト「ずっと、そう...思ってたの...??」


藤奈「此処はあんたの"心の世界"。普通より

   本人の心が反映される」


藤奈「"私の世界じゃない"」


藤奈「あんたにとって、大事なこの本を破れば

   昔のあんたに戻ってくれるかしら」


藤奈「あの頃のすぐにピーピー泣いてた

   可哀想なあなたに」


藤奈「あの頃は本当に楽しかった。私があんた

   のヒーローで救世主で、何もかも上手

   く行った。それだけで充分だった」


藤奈「でも、今は違う。私の友達は王様になって

   うっとおしい法律ばかり作って皆良い

   迷惑してるの」


バステト「藤奈もそれに携わってた人でしょ」


藤奈「そうだけど、私は王様じゃないし。

   文句を言われても知らないし」


藤奈「っていうか...、何これ。ただの心理学の

   本じゃない。魔導書なんて嘘の噂

   流してそんなにも注目を浴びたかった

   の??」


 と、片手に魔導書を持ちながら力いっぱいページを掴んでビリビリに引き千切る藤奈さん。


バステト「なっ、ッ...!!!」


柚夏「やめろ!!」


バステト「柚夏、、」


その瞬間、身体が何かにつままれて引き裂かれたかのように胸が苦しむ。


バステト「ぐっ...」


『コミュニケーションに心理学はいらない。心理学は、相手に都合の良い人形になるための道具』


『心理学は普通じゃない人を治すためであって、自分が優しくされるための本じゃないから』


『名前、全然覚えてくれないよね。それって

その人に興味がないって事だよ』


『名前、全然覚えられなくて...すみません...』


バステト「あぁ、ぁっぁあああ...っ、、、」


『どうして。』


『一生懸命、人から好かれるように頑張ったのに』


『どうして皆。私の事を嫌うの』


『私は、皆の事大好きなのに』


『人間なんて大嫌い。』


『どうして、人を信じられないの』


『どうして』


バステト「私のっ、、命、、私の心臓っ!!」


バステト「やめて、藤奈っ...!!、、」


と、バステトは膝を崩して泣き崩れる。


藤奈「おっと、それ以上近付いたら

   この本がただじゃおかないわよ」


柚夏「くっ、」


藤奈「...その顔が見たかったのよ。この本を

   返して欲しければ」


藤奈「もっと私に懇願しなさい、、」


藤奈「私は今まであなたを見下していました。

   ごめんなさい、ってね。」


????【...この国の王のご尊顔だ、恥を知れ。】


藤奈「っくッ、、」


 と大きな爪で藤奈をしゅっと切り裂く大きな何か。赤いマントを着ているその"何か"はつぎはぎで作られたライオンのぬいぐるみだった。


 目立つ金色の王冠に背中の釘に刺されたその姿は前王である風格さえ漂っていた。


????【それはそんな良いもんじゃない。】


????【その本は、ただの"心理学の本"だ。】


????【破かれたら困るな】


と、本を咥えたまま凶悪なぬいぐるみのライオンが脳内で喋る。


 腰を低くして臨戦態勢になるセクメト。姿は大分変わってるけど、間違いない。あれはセクメトだ


セクメト

【いつもヒーローは、遅れてやってくる

 ってね。】


 ボロボロの本を咥えたセクメトはその本をバステトに向かってほうり投げる。


バステト「セクメト...、、」


セクメト【自分の本はちゃんと持っときな】


セクメト【...闇の力が増幅してるとはいえ、

     やって良いことと悪い事がある】


セクメト

【その本があった所であんたには一生理解できないよ。人の心は"理解できない"理解してはいけない物だからね】


セクメト

【バステトが心を読めるのは、行動心理学に

 基づいた統計論の一つにすぎない。】


セクメト

【流雨は色んな可能性からそれに一番近い

 可能性を捜してるだけだ】


セクメト

【確かにその本があれば相手に好かれる

 かもしれない。でもそれは本当に

 "自分"って言えるの?】


バステト「....、」


セクメト【コミュニケーションに『心理学』は

     要らないんだよ】


そして、セクメトが吼(ほ)えるとまるで処刑場のように盛り上がる地形。そこでは処刑台の高い柱の上にセクメトが乗っていた。


セクメト【ようこそ、私の世界へ】


セクメト【これはあなたが思ってる本当の私。

     その本を見なければ、見る事も

     なかったのに】


セクメト【"私が本気で怒る姿を"】


セクメト

【あなたはただ単に私が"怖かった"だけ、

 怒らせてみたいという好奇心で眠れる

 獅子を叩き起こした】


セクメト

【そんなあんたを心の底から好いてくれる

 存在なんていない】


セクメト【だから苛めやすそうな私を虐めた。

     分かってるよ】


セクメト【我が王を陥れた罪は重いぞ】


藤奈「苛められる方が悪いのよ」


藤奈「あんたが紛らわしいことするから、」


セクメト【じゃぁ私があなたをいじめて良いん

   だよね。だって、"苛められる方が

   悪いんだから"】


グルルと縫われた獣の歯からニチャァと涎が出るセクメト


 ライオンの姿になったセクメトは飛び付いて、藤奈の首に噛み付いた。


藤奈「な、、なにするの、、」


藤奈「バステトの前でそんな事して良いと

   思ってるの」


セクメト【そんなの二の次だ。私はお前が嫌い

     だから断罪する】


セクメト【自分がやられる覚悟もないのに

     ほんとに馬鹿な人】


セクメト

【あんたをそのままにしておいた私にも

 責任はある】


セクメト【お前はもう私にとって"人間じゃない"。】


と、セクメトが言うと藤奈が苦しみ始める。


セクメト【真理の本はこうやって使うんだよ!!】


バラバラバラとひとりでにページの捲れる心理学の本。まるでセクメトの言葉に反応するようにそのページを開く


《私に関わらなければこんな目にあって

 ないのに》


《苛めなければこんな目にあわなかったのに。どうして私を苛めたの??どうせなんも考えてないんでしょ、馬鹿だから》


《痛い??でも私はめんどくさいの、というかお前の肉まじで不味いし。私そういう趣味ないんだわ。お前と違って"優しいから"》


《なんで顔を歪めてるの?謝る必要ないよ、私が殺したいんだもん。もっと楽しそうな顔してよ私を苛めた時みたいにさァ、》


そう言って、ぬいぐるみの顔を歪ませて笑顔で嗤うセクメト。


柚夏(でも...ずっと我慢してたんだよね。此処で怖いからやめた方がいいなんて綺麗な事は言わない)


柚夏(誰にだって裏の顔はある。流雨はこの凶悪な顔を見られたくなくてずっと隠れてたんだ)


バステト【私はバステトほど優しくないよ。

    でも、会いたかったんでしょ?私に】


バステト【私は会いたくなかったけど】


藤奈「流雨の癖に、生意気」


藤奈「そういう事を言わないのが本当に

   生意気!!!!、、」


と、セクメトを無理やり引っ張る藤奈。それでもセクメトは口で咥えたまま足を掴んで離さない。


《人間がライオンに勝てると思ってるの?

子供でも分かるよそんなこと》


そういって口で引っ張りながら腸を引きずりだして食べる流雨。見た目はかなりグロいけど、奥歯を使ってガリガリしてるその姿は大型犬を思い出させる


バリボリと骨を噛む音が聞こえる


それは、暗がりの中で行われた。


《罪の味。》


《終わったよ》


バステト「...何故、そんなに強いのに

     統治をしないのですか」


バステト「私なんかよりずっと向いてるのに...」


すっ、と獣人の姿になるセクメト。その姿は以前の流雨の姿でなくライオンの耳を生やした女性の姿だった。


柚夏「王様...」


セクメト「"流雨がそれを望んでるから"」


セクメト「そもそも私はそんな柄じゃ

     ないしね。私は流雨の中の

     才能みたいなものだから」


セクメト

「本当の流雨は実際これだけ凄い才能に恵まれてる。バステトは普通の人間になりたかった、流雨が作った人格だから」


セクメト「でも、障害は生まれ持った物

     だから治る物じゃない。」


セクメト「だからいつか流雨が自分が発達障がいでも良かったって。心の底から言える日が来るのを楽しみにしてるよ」


セクメト「普通の人とは違うけどADHDは他の人にはない特別な才能がある。」


セクメト「他の人から見れば異質かもしれないけど、異質だからこそ柚夏に出逢えたかもしれないからね。」


※キャプション


バステト「あの...、ありがとう。」


セクメト「もう普通の人を牢屋に閉じ込めるなんてやめな。自分の意見をしっかり持ちなさい」


バステト「自分の意見...」


セクメト

「私が言ってなかったら柚夏が行ってたと思うから」


柚夏「私の出番全然なかったけどね」


セクメト

「信じるなら。自分を嫌う人間じゃなくて、自分を信じてくれる人にしよう」


セクメト「柚夏みたいな。」


セクメト「だって、どうでもいい人にかまけてたらこういう時、ほんとに大事な人を守れないでしょ」


バステト「どうして助けてくれたの...、私は

     貴女の事を処刑しようとしたのに」


セクメト「柚夏が居たからだよ。柚夏が居なかったら力は戻ってないし、どうでもいいって思ってた」


セクメト「嫌な方の私でも柚夏は"可哀想"だって思ってくれたから。」


セクメト「バステトに全部丸投げしてた私も悪いし」


セクメト「どうせ頑張ったところで誰にも理解されない。」


セクメト「バステトの事を思ってくれる人がいるなら頑張ってみようと思って。ただそれだけの理由だよ」


 その言葉を聞いて、ぎゅっと泣きながら心理学の本を両手で握るバステト。


バステト「大好きだった、一緒に遊んで楽しかった。私は、藤奈に何をしたの...」


ぼふっとセクメトが肉球を押し当てる。


藤奈「人っていうのは完璧じゃないの。まず自分意外に興味ない人ばっか」


藤奈「"怒らないから"、今回みたいに舐められるんだよ」


バステト「....」


バステト「...これくらいで怒るなんて、傘とかで叩かれた事もあるし。それに比べれば...」


セクメト《比べんな》


セクメト「あんたはあんたで良いんだよ。例え母親の方が辛かったって、言われても流雨には流雨の辛い事がある」


セクメト「大事なもんなら簡単に奪われんなよ」


バステト「...っく、、」


泣きながらその場を去っていくバステトを追う。


バステト「彼女の言う事はほんとに正論。でも...私は...」


柚夏「皆と仲良くなりたかった。」


バステト「...分かってる。皆から好かれるのは

     無理だって」


バステト「私が邪魔した、、」


バステト「セクメトの周りは皆幸せそうで、」


バステト「なんで、セクメトだけ。私が悪いのでしょうか、気持ち悪いんでしょうか、」


柚夏「気持ち悪くなんかないよ。」


そうして、震えてるバステトの手を優しく抱きしめる。


バステト「私より貴方の方がつらい目にあってるのに、...苛められるのは私のせい...」


柚夏「流雨のせいじゃない。」


バステト「苛められる私が悪いの...?」


柚夏「流雨は悪くない。」


柚夏「"辛いのに順位なんて無いから"」


 本を通して流雨の思い出が流れこんでくる。靴が無くなったり、スクールバックが無くなって体育の授業に先生に皆の前で言われたり


 真剣に本を読んだり、死にたいって思いながら裸足で家に帰ろうとしたり。画鋲が靴の裏側に付いてたり


流雨の全ての過去が頭の中に流れこんでくる。


バステト「覗かないで下さい、、」


と尻尾で手を叩くバステト。


痛かったかな。大丈夫、なんで、見ないでといった文章が文字付きで見える


怖い。


友人に裏切られて、欲に満ちた感情に当てられて、...何も信じれなくなる。私だってそうだった


柚夏「大丈夫だよ。怖くない...」


バステト「セクメトの言う通り、私は親の七光で美人に生まれました。だからこそ皆に優しくした」


バステト「あぁ〜あ、本当に何が悪かったん

     だろう...。...ほんとに」


柚夏「相性が悪かったんだよ。全員から

   好かれるなんて無茶な事言わないで」


バステト「...私って何なんだろう」


セクメト「だから言ったでしょ。自信を持ちなさいって」


バステト「セクメト」


セクメト「あなたはバステト。それ以上でも

     それ以下でもない」


セクメト「あれ嫌ー、これ嫌ーとか」


セクメト「もっと我儘になっても良いん

     じゃない?」


セクメト「あなたは"良い子"過ぎるのよ」


バステト「....。」


セクメト「もっと人間らしく生きなさい」


セクメト「許せない事は許さなくて良い。

     藤奈のことも自分の事も」


セクメト「私の事も無かった事にしなくて

     いい」


セクメト「最近笑ってないだろ。あんた」


セクメト「ほら、表情筋の練習にー、っと」


バステト「...私なんて、笑顔が可愛くないから」


セクメト「はい、私なんてなんて言わない。」


セクメト「貴女を可愛くさせようとしてる

     私に失礼でしょ??」


バステト「.....」


バステト「...相手を思いやり過ぎるのも良く

     ないことなんですね。」


セクメト「ストレスたまっちゃうもんねぇ」


柚夏「バステトはバステトさんだよ。都合の

   良い存在じゃない」


柚夏「流雨の言ってた事よくわかったよ。自分

   の事をあんまり人に押付けちゃいけない

   ね」


セクメト「柚夏はお母さんが亡くなって理想の恋人像を求めた。でもそれは"私"じゃない」


セクメト「"私"じゃなくて良いんだよ」


セクメト「見て見ぬふりをしても」


セクメト「失敗しても、それは成功への

     道筋だから」


セクメト「バステトも柚夏も自分をもっと

     晒すべきなんだよ」


柚夏「君は...」


セクメト「柚夏がくれたラピスラズリ。本当は

     凄い嬉しかったんだよ」


セクメト「柚夏の事は凄い好き。でも1人の

     時間も大事だし」


セクメト「逆にバステト、流雨はそれが

     言えなかったみたいだけど」


 「告白してくれて嬉しかった」とライオンの少女は笑って言う。


あぁ、これが"恋"なんだなって。


セクメト「またきっと会えるよ」


セクメト「そろそろ夢から覚める時間。」


セクメト「これ以上居ると柚夏の意識が

     混濁しちゃうから」


柚夏「...そうだね。私ももっと頑張らなきゃな

   と思ったよ」


バステト

「その前に、此処から出るためにはクイズが必要なんです。お互いの事が分かってるかどうか」


セクメト「めんどくさいけど、そういう決まり

     だから仕方ないね」


バステト「私達は本当に心の開いた相手にしかこのドアは見せないんです」


そして、バステトが急に上から垂れ下がった束の紐を引っ張ると字幕のようにドアがガタンガタン、と落ちてくる。


バステト「さて、問題です。」


セクメト

「もうちょっと一緒に居たいけど、

 長く眠りすぎるのも身体に良くないからさ」


バステト「流雨の門番は何??」


A「ライオン」

B「猫」

C「犬」


柚夏「ライオン」


バステト「正解です。」



バステト「セクメト、彼女は一体どんな神様??」


A喜

B怒

C哀

D楽


→B


セクメト「"怒りを喰らう神様"なんて言われてる

     よ」


バステト「戦いの神でかなり残忍な方だとか、

     まぁ実際見て分かりましたけど」


セクメト「あれが美味しいんだよ。勿論展開的

     にね」




バステト「では、私は??」


A喜


バステト「嬉しいのが、ここになるまで追い詰められていたんです...。昔は皆に嫌われないよう笑顔を振りまいてたけど」


バステト「今は大事な人の前だけ笑うように

   したいと思います」


セクメト「お、良い笑顔」


バステト「茶化さないで下さい///」


バステト「もう子供じゃないんですから。自分

     のことは自分でしないと」


とその言葉を胸の内に秘めるバステトさん。なんかこういうの良いな。


バステト「個人的な質問になりますが、休みの日にはどうしたら良いと思いますか??」


A寝る

B休む

C外に出かける

D一緒に出かける



→D


バステト「チョコレート、良いですね。」


柚夏「あの時のパフェにしよう」


バステト「ファミレスに行った時の」


セクメト「...良かった。これで私もようやく

     引退出来る」


セクメト「ラピスラズリは努力した後、良いことが起る石だから、あんまり人気なくて買ってくれてありがとね」


セクメト「私を選んでくれて」


セクメト「二人で行ってきなよ。私は私でやらなきゃいけない事があるから」


バステト「セクメト...」


セクメト「新しい仕事。まだ王座に居なくちゃ

     駄目みたいだし」


セクメト「引き継ぎはちゃんとしなきゃね。」


バステト「本を守って下さってありがとう

     ございます」


セクメト「それも仕事」


 そして、バステトと二人で最後にパフェを食べる。その時のパフェはとても大人びて美味しかった。


バステト「では、此方に」


と光るドアにエスコートするバステト。


バステト「愛しく、優しき貴女に心から

     感謝の思い出を」


そして優しく頬にキスをして


バステト「では、いってらっしゃい」


とバステトは微笑んだのだった


※キャプション


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