無くした指輪と得た愛【ゆずるう】


柚夏「バステト、」


 徐々にその光は強くなっていき、少しずつ身体に重力が戻って来る。


柚夏「身体痛った...。」


...変な体勢で寝たからかな。凄い夢を見た気がする


柚夏「私も大人気無かったな...、」


指輪を無くしたからって突然目の前から居なくなるなんて。


柚夏「...流雨の所に行くか、」


と立ち上がって流雨の元に戻る。


柚夏(確かこの辺(あたり)で分かれたん

   だけど...)


流雨「はぁぁ...、はぁー...」


 と両手を広げて息を吹き込みながら手を温める流雨。長時間外に居たのか手の平と顔が真っ赤になっていた。


柚夏「流雨...」


柚夏「もしかして...ずっと指輪を探して...?

   こんなにも寒いのに...」


柚夏(その間私は公園に行って不貞寝してた

   のに...)


柚夏「まだ捜してたの...?」


 夢の中で出会ったセクメトさんのように、ちゃんと素直に言えればいいのに。こんなぎこちない言葉じゃなくて


流雨「...指輪。さっきからずっと捜してるん

   だけど、3時間くらい...見つから

   なくて...」


流雨「どこに行ったんだろう...」


と泣きそうな流雨。今まで見たことないくらい感情的な表情だった。


柚夏「こんな寒い日に...3時間も...?

   ずっと指輪を捜してたの...?」


柚夏(どこかの誰かが拾ってないと良いけど...。

約20時間分の給料が誰かに使われる

   のか...、売られたりしてたら最悪だな...)


柚夏(これだけ捜してないんならもうこの辺

   にはないのかもしれない)


流雨「...うん」


柚夏「....」


柚夏「......。」


 なんだか、自分が寝てる間に流雨に悪い事をさせてるみたいで...。そもそも私が指輪なんてあげなければこんな事しなずにすんだんだし...。


柚夏「交番に行ってみよう」


柚夏「駅員さんとか」


柚夏「もしかしたら誰かが拾って届けて

   くれてるかもしれない」


流雨「うん...」


柚夏「....」


流雨「.....。」


柚夏「...流雨にとっては本当に安物の指輪

   だから。...また、買ったりしたら、私

   多分分からなったと思うし...」


柚夏「なんでそんなに捜してるの」


流雨「柚夏の大切な物だから」


柚夏「私の?」


流雨「柚夏が私にくれた優しい気持ち。

   それはお金じゃないの」


流雨「同じものを買ってもそれは”違う”」


流雨「柚夏の思い出が入ってない」


柚夏「...そっか」


 ...私はまだ怒ってるのだろうか。そんな事よりそんな大事に思ってくれたことに私の心が響いた。


 どっちの思いもある。指輪を無くしてしまった悲しさと


 一生懸命探してくれた流雨の謙虚さになんという言葉を掛けたら良いのか分からない。


柚夏「...見つかると良いね」


流雨「見つかってくれないと困る...」


柚夏「見付からなかったらもっと別の物を

   プレゼントするよ。クリスマスが

   こんなんじゃ味気ないし ね」


柚夏「もっと良いものを用意しよう」


柚夏「流雨は何が良い??丁度指輪はちょっと

   重すぎると思ってたし」


柚夏(お金のことなんてどうでもいい)


流雨「そんな事ない。...あれじゃないと、

   ...嫌。」


柚夏「あれじゃないと”嫌”...、か...」


柚夏「...ごめん、流雨。私が大人げなかった

   ...。ADHDの人が物を無くしやすいって

   知ってたはずなのに...。ごめん...」


と、何故か涙が出てくる。悲しくも何ともないのに


柚夏(公園で思いっきり漕いだのに。)


流雨「柚夏が怒るのも当然...、私が悪いから...。

   どんな理由があっても無くす方が絶対

   悪い...」


流雨「障害者とかじゃなくて、柚夏の恋人と

   して...不甲斐ない。」


柚夏「恋人...」


柚夏(流雨はそう思ってくれたんだ。私の

   一方的な好きじゃなくて...流雨も一生懸命

   私の事を好きになろうとしてくれてる)


そんな事で一喜一憂する自分が、なんだか凄く子供っぽく思えた


柚夏「...指輪はいつでも作れるけど、流雨は

   一人しかいないから」


柚夏「風邪引く前に今日は帰って寝よう」


流雨「....許してくれるの?」


柚夏「元から怒ってないよ」


流雨「あ、」


柚夏「どうしたの」


流雨「...内ポケットの中にあった」


柚夏「良かったじゃん。あって」


柚夏「...安心したから出てきたんだね。」


 本当に良かったと心の底からそう思う。もうそれは私の物じゃなくて、流雨の物だったから


柚夏(そっか、もう私の物じゃなくて流雨の物

   だったからそんなに興味なく感じた

   のか)


柚夏(流雨が私に興味ないのが悲しかった

   んだ)


柚夏(流雨は人間に興味ないから。)


柚夏「灯台下暗しってやつ」


流雨「死をもって詫びるしか...」


柚夏「授業料より全然安いし、仮の結婚

   指輪だから」


柚夏「”恋人がいるよ”っていう」


流雨「仮の結婚指輪...」


柚夏「でもまた買わずにすんで良かったよ」


柚夏「今の私ではお金がないから」


流雨「ううん、あの時の柚夏の思い出が

   詰まった指輪は一個しかない。同じのを

   買っても、全く同じじゃないの...」


流雨「無くしたお礼。何かさせて」


柚夏(珍しい...)


柚夏(流雨が人に興味を持つなんて)


流雨「柚夏が望む事何でもしてあげる」


柚夏「私が望む事、かぁ...」


柚夏「そうだなぁ...」


柚夏

「...昔、お母さんに買って貰った服があるんだけど。可愛いかったから、捨てるの勿体なくて...そのままにしてあったんだよ」


柚夏「どうせ着れないし、売るか捨てるか

しなきゃなぁとは思ってたんだけど...。」


柚夏「流雨なら似合うかなって」


流雨「その服を着て欲しいの...?」


柚夏「うん」


流雨「分かった。どんな服でも着てあげる」


柚夏(こういうところはセクメトさん

   っぽいな)


柚夏「いや、そんな変な服じゃないんだけ

   どね??」


柚夏(流雨って意外とこういう事は乗り気

   なんだよなぁ。可愛いって言われ慣れてる

   のかな)


柚夏(背も小さいし小学生みたいだし)


と、家に向かう私。


柚夏(すぐに暖房付けないと)


柚夏「この服、なんだけど...」


 もこもこでふわふわな可愛い服。捨てるには勿体無いくらい可愛くて、中々捨てきれなかったから


 流雨に着て貰うのがこの子にとっても幸せなのかなって。


流雨「どう...?」


柚夏「凄い可愛いよ」


 思った通り凄く可愛い。腕の裾が長くて指だけはみ出してるのがこう、男心をくすぐる。


 男の人が可愛いと思うのってこういうのなんだろうな


柚夏(...やっぱり流雨でないとね。)


流雨「...今まで柚夏の事を好きになっちゃ駄目

   だと思ってた。」


流雨「私には似合わないし、柚夏と仲良く

   なってもどうせ柚夏も嫌がるって」


流雨「でも、柚夏はそんな私でも仲良くして

   くれた。」


流雨

「...ずっと自信がなくて、好かれてるって信じられなくて。柚夏に好きって言われるたびに」


流雨「凄い嬉しいし...。」


流雨「もっと言って欲しいって思う」


流雨「...嬉しいっていう感情が死んでるの。」


『へらへら笑ってるの気持ち悪い』


流雨「でも、柚夏と一緒なら。きっといつか

   心の底から笑える日が来るのかなって

   思ったの」


流雨「...自分がそう思えるように、柚夏が

   好きな私を好きでいられるように」


流雨「私ももっと頑張らなきゃいけない」


柚夏「流雨...」


 何だか凄く愛しくなって抱きしめる。やっぱり少し冷たい。ずっと捜してくれてたもんな...


柚夏「もう一回指輪はめさせて」


流雨「柚夏がそれを望むなら。」


そして、私は流雨の前でかしづいて指輪を流雨の指にはめる。


柚夏「流雨が望み続ける限り、私と一緒に

   居て下さいませんか」


流雨「私なんかには勿体無いけど...、」


柚夏「流雨が良いんだよ。」


としゃがんでぎゅっとして抱きしめる。流雨の方もぎゅっと心の底から抱きしめてくれてる


...それが分かるんだ。


柚夏「流雨の自信が戻るまで、居続けるから」


流雨「指輪を無くしたのに、それでも私を

   愛してくれるの?」


柚夏「また見つかったから。また見つけられる

   よ」


柚夏「悲しい思い出を塗りつぶせるくらい

   これからはもっと沢山良い思い出を

   作ろう」


流雨「柚夏がした訳じゃないのに」


柚夏「好きっていう感情に、言葉なんて

   いらないよ」


と流雨を抱っこする。そしてそっと寄り添った。私が”そうしたいから”


そして、流雨の瞳から涙が出てきた


柚夏「今までずっと我慢してたもんね。

   流雨は”愛されて良いんだよ”」


流雨「...ありがとう、お母さんもお父さんも

   仕事ばかりであんまり帰って来なくて」


流雨「ふたりとも有名な俳優で、仕事が好きで

   よく連れ回された。でも、...いつかそれが

   疲れちゃったの」


流雨「私は1人になりたい」


流雨「俳優は蹴落とし奪い合う世界だから。

   何かを作る事だけが私の癒やしだった。」


流雨「私は二人の背中を追い掛けて生きてきた、」


流雨「お父さんとお母さんは出来た人間で、」


流雨「私はあんなキラキラした世界では生きて

   いけない、お母さんやお父さんみたいに

   なれない」


流雨「それでも、柚夏みたいな子とは会った

   ことがなかった。」


流雨「あぁ、これが”愛”なんだなって」


流雨「テレビやドラマの中じゃない、これが

   本物の愛なんだなって」


※キャプション


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