第7章「家族との団らん、」【みさゆき】


 髪にタオルを当てて、丁寧に水気を拭き取る。


美紗(...自分でもこの栗色の長い髪は

   気に入っているから大事に

   したいな、)


母「美紗ちゃん、ドライヤーは今から?」


 お風呂からあがるのを洗面所で待ちわびていたのか、


 クシを持ったお母さんが私の顔を見た瞬間に嬉しそうに笑顔で微笑んだ。


美紗「え?良いですよ。そんなことまで

   しなくても」


 洗濯機の蓋を開けて、今日着ていた服をまとめて中に入れる


母「ふふ、こっちがしたいの」


母「だって、くゆは嫌がるし、それに

  美紗ちゃんの髪って長くてとても

  素敵な髪なんだもの」


母「さぁ、さ、座って、座って」


 椅子を下げるお母さんの瞳は凄く嬉しそうで...それでいて...どこか少しだけ寂しそうに見えた。


美紗「...えっと...それじゃぁ...」


※スライド


 ゴォォっというドライヤーの音を立てながら、お母さんが丁寧にクシで髪をといでるのが鏡から見える...。


美紗(...お風呂、あがり...だから

   なのかな。)


 身体が少しだけ火照って、...ぼーっとする。それがなんとも心地良くて...。くすぐったくって...


美紗(...なんか、恥ずかしいな///)


 私は椅子の上で体操座りをしながら、火照った顔を隠すように下を見た


 お母さんに持ち上げられた髪の水分がドライヤーの温風で蒸発して、少しずつ軽くなっていくのが分かる。


母「はい、お終い」


と持っていた髪を下ろして、お母さんは

一回だけ丁寧に私の髪を撫でてくれた。


美紗「...ありがとうございます、」


母「...それにしても、美紗ちゃんの髪も

本当に良い髪ね。クシがすっと入って

いくからお母さん、久々にテンション

上がっちゃった」


美紗「えへ...///、髪...梳かして貰えて

   凄い、嬉しかったです。」


 ...お気に入りの髪を綺麗だって褒めて貰えるとやっぱり嬉しい。


 少し照れくさかったけど...、それでもやっぱり...嬉しかったから


母「あーん///、美紗ちゃんは本当に良い子

  なんだから!!良かったら、また

  梳かさせてね?」


美紗「是非、毎日じゃなくても大丈夫

   なので...またして欲しいです」


美紗(...今度、くゆにも気持ち良かった

   って言ってみようかな、)


母「...くゆちゃんね、昔はもっと素直な

  良い子だったんだけどね」


母「今は絶賛、反抗期中だから」


母「...ごめんなさいね。...美紗ちゃんに   

  こんな事頼むのもあれなのだけれど、

  くゆともっと仲良くしてあげて

  欲しいの」


 お世話になってるっていうのもあるけど、私はそれ以上にくゆの事は大事な家族だと思っていた。


 「みさ」さんと今の私ではやっぱり違うとこもあると思うけど...それでも、くゆは私の妹だった、


母「...あの子、寝る前に美紗ちゃんと

  一緒に寝たいのか美紗ちゃんの部屋を

  うろうろしてるの見ちゃって...」


美紗(えっ、そんな事してたの?)


美紗「確かに最近寝る前になんか物音

   するなぁって思ってたけど...あっ、

   あれ、くゆだったんだ...」


美紗(全然気付かなかった、)


母「もう、お母さん、見ていられ

  なくって...!!」


美紗「...えっと、「みささん」とは

   仲悪かったん...ですよね?」


母「えぇ。あの頃のくゆちゃん、みさ

  ちゃんに対してすごく鬱陶しそうに

  してたわね」


美紗「それ...天の邪鬼だっただけじゃ...」


 手に取るように、くゆがみささんに対して冷たくしている映像が思い浮かんだ。


美紗「...取り敢えず、誘ってはみるけど...。

   多分断られると思うよ...?」


※スライド


 学校の宿題をしている間にくゆが二階に上がってくる音が聞こえたので、自分の部屋からドアを半分開ける。


 タオルを被って、階段を上がるくゆを上から覗いている形だ


美紗「くゆ、」


 なんで緊張してるかは分かんないけど、断られるって分かってて言うのってちょっと緊張するな...。


くゆ「...なに?姉さん」


 くゆは驚いたように眼を丸くして固まっている。そして、私から目を逸らすように左下に眼を逸らす


美紗「一緒に寝ない...?」


くゆ「...っ寝//!?、...っ!!」


 くゆの身体のバランスがガクッと崩れる、、


 スローモーションのようにくゆの体重が後ろに掛かって...、


美紗「くゆッ!!」


 すんでの所でくゆの腕が階段の手すりに届いて、がっしりと掴んだ。


くゆ「....。」


くゆ「...ふぅ、...危っな」


美紗「くゆ!!大丈夫!?」


 急いで階段を駆け降りて、くゆの側に駆け寄る。


美紗「無事で良かった...、階段で急に

   声掛けちゃってごめん!!、くゆに

   怪我があったら私、私...!!」


くゆ「...別に大丈夫だから、」


くゆ「怪我もしてないし、それに

   足元に注意してなかった私も

   悪い」


美紗「ごめんなさい...」


 ポロポロと涙が零れる。怪我してないって言われても、もし手すりを掴むのが少しでも遅かったら...、


くゆ「...姉さん、ごめん。心配してくれる

   のは嬉しいけど、...私謝られるの

   大嫌いだから」


くつ「...泣き虫で嘘つきな...大嫌いな

   あの人の事、...思い出すから」


美紗「くゆ...」


くゆ「私も今後気をつける、だからこれで

   お終い。」


くゆ「今のなし、悲しむ必要も、

   心配する必要もなし。

   ...分かった?」


 くゆは落ちたタオルを拾って、新しいタオルを取りに行ってしまう。


くゆ「...けど今のは母さんには黙ってて、

母さんきっと心配するだろうから」


※キャプション


美紗「....」


 トントンとドアをノックする音が聞こえる。


「入っていいよ」と声を掛けると、枕を抱えたくゆが仏頂面をしながら立っていた。


美紗「...くゆ、」


 すっかり髪の乾いたくゆは私の部屋に入って布団の上にぼふんと座る。


くゆ「だから、別に気にしなくていいって

   言ってんじゃん」


くゆ「そもそも姉さんと一緒に寝たいって

   バラした母さんが一番悪いん

   だし...」


美紗「....」


くゆ「そんな顔ずっとするんなら、一緒に

   寝てあげないから」


 下を向いて俯くくゆ、...こんなに優しい妹さんを私は「みさ」さんから奪ってしまっているのだろうか


美紗「えへへ...、これで許してくれる?」


...のうのうと...心臓に毛が生えたように


 私は当たり前のように此処に居て。別の誰かとして...当然のように生きている、本当に...それで良いのかな、


くゆ「....」


 くゆはぎゅっと枕を抱き締めて、目元に涙が溢れる。


美紗「...く、...ゆ?やっぱりどこか痛む

   ...?さっきどこか捻った?」


...なんとなく分かってるのに


 心のどこかでそれをちゃんと受け入れられない自分がいて。こんな事しか言えない自分がただ嫌になってくる...


くゆ「....私、もっと頑張るから、」


くゆ「...姉さんにそんな顔させない

くらい」


美紗「...私そんな酷い顔してる?」


くゆ「してる。」


美紗「.....、」


美紗(笑ってるつもりだったんだけどな

   ...)


 くゆには隠しててもやっぱりバレる。出来るだけあんまり気を遣わないようにして欲しかったんだけど...


 ...私は今まで幸せになっちゃいけない存在で、それをずっと我慢するのが当たり前だった


 だから幸せになればなるほど思う、


 現実はそんなんじゃなくって...愛なんて、本当は物語の中だけのお話だって分かってて...分かりたくても、頭がずっと拒絶して...理解出来なくて...


 今までの人生は...?耐えてきた、今までの私は...、私は...。私の物語は...


...今までの私の人生って、



...何だったの?




美紗「.....、」


美紗「くゆは心配しないで良いんだよ、」


美紗「私は大丈夫だから」


美紗(...お父さんは私よりただお母さんが

   好きだっただけで、)


美紗(...お父さんは私が良い大人になれる

   ように注意しようとしてただけ   

   。私は...多分...愛されてたん

   だよね)


美紗(家からは追い出されなかったし、

   一応育ててくれたし...)


美紗(それに今、こうやってくゆと居られ

   るのもお父さんが逮捕された事が

   切っ掛けで、)


美紗(くゆと会えたのも、全部お父さん

   が居たから。だからこそ今私の

   物語がある)


美紗(...悪者が居ない物語なんてつまん

   ないし、人生そういうものだよね)


美紗(まさか誰もお父さんが悪役なんて

   思わないだろうけど...、)


くゆ「...私じゃ、姉さんを幸せに

   出来ないのかな...、こうやって、

   また大事な人に悲しい思い

   させて、...苦しませてる」


美紗「...そんな事ないよ。くゆは

   私を救ってくれたよ?物語を

   これ以上ないハッピーエンドにして

   くれた」


美紗「それに私、もう痛いの我慢しなくて

   良くなったよ?」


くゆ「父親から虐待されてるなんてそんな

   の誰でも言えるじゃん...。...私は

   ただ、姉さんを幸せにしたいだけ

   なのに」


くゆ「それだけなのに...」


美紗「大丈夫だよ。」


 くゆの頭を優しく撫でる。こうやってすればいいのかな...?


美紗「...大丈夫、...私、くゆから

   色んなものを沢山貰ってるから...。

   妹とかお母さんとか、天の邪鬼

   とか」


くゆ「...天の邪鬼とか、」

   

美紗「でも、私偽物だけど...本当に

   良いの?」


美紗「くゆは」


くゆ「姉さんは姉さんだから。あの人

   じゃない...それにあいつ泣き虫

   だったし」


くゆ「...マフラー、春までには

   くれるって....言ったのに...。...あん

   な嘘つき、姉さんと似ても

   似つかないよ」


美紗「...そっか。みささんは私と違って

   器用だったんだね」


 くゆは布団の上から移動して、壁際に寝転ろぶ。布団の空いた空間に私も身体を入れた。


くゆ「...疲れたから、もう寝る」


 壁際を向きながら、横になるくゆ。...なんだか、急に抱きつきたくなった。


美紗「くゆ、」


 無抵抗のくゆをぎゅっと抱き寄せる。...けど、流石に夏だから、ちょっと暑くてすぐに離す。


美紗「してみたかったんだけど...7月

   だから、これはちょっと

   きついね...」


くゆ「....」


 くゆは名残惜しそうにちらっとこっちを見たけどすぐに壁際を向いてしまう。


美紗「...さっきの、凄く嬉しかった」


くゆ「明日には忘れて、」


 ...そうして私達はお互い深い、深い眠りにつくのでした。


美紗(柚夏とも...早くこうやって、話せ

   たら良いな)


  

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