第8章「夢野世界、」【みさゆき】

くゆ「起きてよ...お姉ちゃん...、、」


美紗「ん...」


 隣で眠っていたはずのくゆが不安そうな顔をしながら私を揺さぶっている。


くゆ「姉さん、」


美紗「...大丈夫だよ、くゆ。...もしかして

   怖い夢でも見たの?」


 薄目を開けて、手探りで不安そうなくゆを抱き寄せて頭を撫でる。くゆは落ち着いたのか、抱き寄せるとすぐに大人しくなる。


くゆ「...落ちたりしないかな?」


美紗「ベッドから?...もう、くゆったら。

   お姉ちゃんが落ちないように...

   交代...、」


美紗「...あれ?でも確か...くゆって

   壁際に...」


 目が徐々に開くと、同時に視界が鮮明になっていく...。


美紗「...うわぁ!!凄いっ...!!」


 そこには今まで見たことのない、まるで御伽噺のような空の世界が目の前に広がっていた。


美紗「くゆ、ほら!!見て...すっごく、

   綺麗」


 室内で寝ていたはずなのに、目の前に広がる広大な青い空と白い雲。そこに広がる一面の花畑...、、


美紗(空中庭園だぁ...!!)


...それは、ずっと夢見てた、絵本の中の世界で。悲しみや、苦しみとは一切無縁で綺麗な美しい世界だった。


??「チョコレートの妖精、ガドー☆

   ショコラっ!!貴女の絆に、只今

   参上ですっ!!」


 此処からだと後ろ姿しか見えないけど、


 犬耳と身体以上に大きく丸めた尻尾の生えた、まるで、アニメに出てくる魔法少女のような


 格好をした女の子がキメポーズをキメていた。


美紗「え、本物の魔法少女っ!?見て、

   くゆ!!あの人露出すっごいよ!!

   きっと本物の魔法少女だよ!!」


くゆ「判定そこなの...?」


 魔法少女は魔法の杖を取り出し、得意気にステッキを10回くらい回わした後、こっちに気付いたのか、


はっ、と顔を此方に向けた後


バキッ


 っと、魔法少女の格好をした少女は徐に杖を取り出すと


 ステッキをアイスジュースのようにへし折った。


美紗「え?、....えぇぇぇぇえ!?」


くゆはなんだこいつ...とでも言いたそうな顔で魔法少女を見てる


美紗「...ねぇ、くゆ。魔法少女って魔法の

   杖がないと魔法使えなくなっちゃう

   のかな?」


美紗「...あっ、分かった!!魔法の杖を

   直すのが此処に来た目的なの

   かな!?」


くゆ「...あの人がそれ知ってて折ってた

   ら、とんだ茶番だよ...。

   何で折った...」


 魔法少女はなんとも言えない顔をしながら無言でこっちを向いて、折れた杖を両手で持って全力で走ってくる。


くゆ「...姉さん、...逃げなきゃ!!」


 怯えたくゆが強く私を引っ張る。...けど、何故かこの世界は大丈夫だって...何となく分かるんだ。


美紗(...何か、御伽噺を見ているような)


美紗「逃げちゃ駄目だよ。向こうが何か

   した訳じゃないよ?」


 その理由を少女を正面から見てはっきりと分かった。...この子、人じゃない。大きなリボンに覆われた服に、包装紙みたいに真っ白な服...。


美紗(...あっ、そっか...この子は...)


??「ほら、あれ...今のは練習だから。

   魔法なんてないんです、、」


??「この世にない。はいお終い、

   ...あぁ、死にたい」


 へし折ったステッキをポイッと投げ捨ててチョコレートの妖精、ガドー☆ショコラは頭を抱えてうずくまった。


??「そりゃ、こんな格好してたら一度

   はしようかなって、思うじゃない

   ですか、」


??「似合わないのは分かってますけど、

   私だって女の子だからしてみたい

   っていうか、、」


 でもやっぱり未練があるのか、一度自分で投げ捨てた、折れてしまったステッキを拾い集めてる


くゆ「...姉さん、この人相当ヤバいよ。

   多分関わったらだめなタイプの人

   だと思う...」


美紗「けど、話しかけないと何も始まら

ないから...」


...此処はやっぱり、...夢の中?...なのかな。でも、


ビュオオオッと強い風が花を撒き散らし、赤い花弁が空を舞った。


美紗「本当にこの世界に居るみたい...」


??「私は、可愛いものとか別に興味ない

   ですから。本当、、ありえない

   ですから...」


??「そもそも似合わないですし...、」


美紗「えーと...?チョコレートの精霊、

   ガドー☆ショコラさん?」


??「...その名前、痛すぎるので出来れば

   やめて欲しいのですが」


美紗「可愛い名前だと思うんだけどなぁ...

 ?じゃあなんて呼べば...」


 くゆは警戒したように私の腕を握ってじっとショコラさんを見てる。


??「私達の一般名称の【門番】で」


くゆ「一般名称...?」


門番さん

「分かりやすく言うと、犬と犬種

 みたいな感じですかね」


美紗「犬と犬種...、」


門番さん

「犬とコーギーみたいな。

 犬が門番、コーギーがガドーショコラ」


美紗「あ、それ凄くわかりやすい!!

   えっと...、...此処は?」


門番さん「夢野原野だけど...」


くゆ「...あんた何者?」


 くゆは無意識なのか、私をいつでも守れるよう右手の平を私に向けている。声色的にも門番さんを警戒してるみたいだった


門番さん「...私は芽月柚夏様の深層心理と

    リンクしてるモノです」


くゆ「...姉さんと喧嘩している人が姉さん

   に何の用?」


 私を守ろうとするくゆの足は少し震えてる。


美紗(この人柚夏に似てるし怖くないん

   だけど...敬語だから、柚夏と初めて

   会ったときを思い出すなぁ...。)


美紗(でも...くゆにとっては柚夏は知ら

   ない人だもんね...、)


門番さん「...私はそこに居る杏里様と、

     芽月様の「復縁したい」という

     強い思いがシンクロして

     出来た思念とでも申しましょうか」


美紗「剣道の大会でお祝いに柚夏にガドー

   ショコラを作ってあげた事があるん

   だけど...」


くゆ「姉さんの!?」


 くゆの門番さんを睨む視線が、より一層強くなると同時にくゆの足の震えが止んだ。


門番さん「...いや、その私はどうすれば

     良いのですか?」


美紗「その時のリボンの色と同じ、名前も

   そうだし...」


門番さん

  「はい。美紗様が私を一生懸命作って

   下さった事、今でも昨日の事の

   ようによく覚えております」


くゆ「...姉さんと仲直りしたいのは

   分かったけど、」


くゆ「というか、私関係ないんじゃ...」


門番さん

「そんな事を申されても...私には神様

   の御心は分かりませんし...、」


くゆ「どうでもいいけど...その柚夏って

   人があなたを形成してるの?」


門番

「不正解ではないです。ですが...正解

 でもございません」


門番

「【門番】は、本来の柚夏。...柚夏様の

 心にリンクしてはいますが...所詮、

 【私】はただの思いの思念です」


 律儀に私達の質問に答えてくれる門番さん。


初めて見たときは、もっとネガティブな人だと思ったけど...話してみると意外と丁寧で良い人...なのかな?


美紗(他に何か質問する事は...?)

※ループで全部聞ける



→A.「この世界について聞く」

 B.「何をしてたのか聞く」




 

A.「この世界について聞く」


門番

「此処は【夢野世界】...、この世界の

 提供主は美紗様となっています。」


くゆ「提供主...、というかさっき夢野原野

   って言ってなかった?」


門番

「この場所が【夢野世界】の中にある

【原野】であるのは相違ありません。」


門番

「呼び方は【個体】により違いますからね」


門番

「外核の部分は、状態によっても変化が

 目まぐるしい環境なので...特にその辺り

 はお気になさらずお楽しみ下さい。」


門番

「覚えずとも物語にはさして、差し

 つかえはありませんので」


美紗「....?」


門番

「分かりやすく説明しますと、此処は

 美紗様の頭の中の世界を具現化した

 世界です。精神世界、とも言いますね」


くゆ「それって危険じゃないの...?」


門番

「いいえ、そんな事はございません」


門番「...此処は美紗様の世界です。人には

  【防衛本能】という心理的な生理機能   

  が無意識化の中に備わっています。」


門番

「例えるのなら...人は自分を排除しようと

 しても「いや、まだ死にたくない」と

 いう自己防衛本能が働きますよね?」


門番

「...美紗様で例えてみましょう。

 美紗様は辛い虐待から逃れるため、

 この美し過ぎる世界を形成しました」


門番

「せっかく作ったこの世界を美紗さん

 は無下に壊そうと思いません。仮に

 それを否定する美紗さんが居ても、」

 

門番「必ずそれを守ろうとするでしょう」


門番「...それが生きてきた希望という物

   なのなら尚更。」


門番

「...つまり、柚夏様の頭の中に居る状態

 よりよっぽど安全な状況下というわけ

 です」




→B.「何をしてたか聞く」


美紗「門番さんは何をしてたんですか?」


門番「今のあなたにお話しても理解が

   出来ないかと」


門番「...他に質問はありますか?」






美紗「柚夏も、仲直りしたいって...思って

たから...。...あなたは此処に居るん

ですか?」


門番「はい。美紗様の仰る通りです、

   分かって頂けてなによりです」


門番「始めましての挨拶と説明は大事

   ですよね、...では、私はこれで」


美紗「...待って下さいっ!!」


美紗「柚夏はどうして怒ってたん

   ですか、、」


門番さん

「...それが貴女に言えたら、こんな世界

 に来てないですよ...。」


 急に弱気になってしまった門番さん。でも、柚夏も仲直りしたいって思ってるんだったら...


美紗「私がお母さんの事言ったから?

   それとも雪音と恋人になったか

   ら...?」


くゆ「姉さん、何かいる...、」


 裾を摘まんで、くゆは視線を花畑の奥に向けている。


門番さん「...あ、いやっ...、」


門番さん「...来ないでっ!!、、」


 門番さんはお花畑の中にいる存在に凄い怯えるように、青ざめた顔で腰を抜かす。


門番さんが怖がっていたのは...、


ガサッ、


髪の伸びた人形「....」


美紗「お人形さん、」


 前髪が隠れ足の2倍以上に伸びた、長い黒髪のお人形がとてとてと歩いて此方に近付いてくる。


くゆ「姉さん!?それ呪いの人形じゃない

   の!?触ったら呪われるから...!!

   今すぐぽいっして!!ぽいっ!!」


美紗「あなたは何処から来たの?

   お名前は?」


 人形を抱っこして、人形の前髪を分けてあげる。すると青い瞳が太陽の光で光って凄く綺麗な人形さんの顔が表れた。


お人形「...お母さん?」


美紗「門番さんでいいのかな...?

   今、めっちゃ、私の隣で震えてる」


お人形「お母さんと遊ぶ...」


美紗「遊ばせてあげたいけど...門番さん

   今にも気絶しそうなくらい恐がって

   るし...」


門番さん「....南無阿弥陀仏 、 南阿弥陀...

ひぃぃ...、、」


 門番さんは頭を抱えてお経を唱えている。そんなにこの子恐いかな...?


美紗「確かに髪はちょっと長いけど、

   よく出来てる人形だよ。カラクリ

   で首とかも動くように出来てるん

   だね」


美紗「門番さんって魔法って使えるの?」


門番さん「まぁ少しは...、、」


 私はお人形を抱きながら、恐がってる門番さんに話し掛ける。


門番さん「...子供を喜ばせるために

     かじった程度なんで...そんな

     あれなんですけど...すみません...」


美紗「ハサミとか出せたりしない

   かなぁ、」


 門番さんは俯いたままお手をするように右手を私の方に差し出し、門番さんが手を握った後ぽんっと軽い煙が出てきて


 手の平にハサミが出てきた。


美紗「おー、」


門番さん「これで許して...、、来ない

     で、、」


美紗「ありがとっ、流石チョコレートの

   精霊ガドー☆ショコラだね...!!」


門番さん「...門番」


※キャプション

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