第7話 続・ふたりで二次会
「気になったんですけど、星宮くんってスイーツはあまり好きじゃないんですよね?」
サンドイッチを食べ終え、食後のコーヒーを飲んでいた二条さんが聞いてくる。
「嫌いって程でもないけどな。あれば食べるくらいだ」
「じゃあ、星宮くんの好きな甘いものってなんですか? お菓子ですか?」
お菓子も嫌いじゃない。けど、俺が好きな甘いものってのは心がキュンと癒されるもののことだ。
「この前のさ、教室でカップルが肩を寄せ合ってたことがあっただろ?」
「あ、あの、恥ずかしいやつですね」
思い出してか少しだけ頬を赤く染める二条さん。いちいち、反応がピュアだ。
「俺さ、ああいうのを見ると心がキュンとなってまるで甘い角砂糖を食べてる気分になるんだよ。だから、俺が言う甘いものってのはスイーツとかお菓子じゃなくて、カップルがイチャイチャしてるのを見ること」
「えっと……それは、星宮くんもああいうことを人前でしたい、ということですか?」
「違う。俺はあんなこと人前ではしたくない。だって、絶対に恥ずかしいだろ」
「ですよね。そうですよね。恥ずかしいですよね。はぁ、良かったです」
ほっと安心したかのように息を吐く二条さん。
「どうして二条さんが良かったんだ?」
「そ、それは、気にしないでください」
「そう言われると余計に気になるんだが」
「大丈夫です。星宮くんには余分な知識になりますので。とりあえず、話を戻しますと星宮くんは恋人同士があ、ああいうことをしているのを見るのが好きなんですね」
無理にでも路線を戻された気がするけど……まぁ、いいか。
「そういうことだな」
「でも、どうしてですか?」
「自分で恋愛するよりも見てる方が幸せだから。後、参考にもなるし」
「参考、ですか?」
しまった。つい、うっかり口を滑らせてしまった。
「いったい、何の参考にしてるんですか?」
二条さんの目が真っ直ぐ俺を捉えて離さない。まるで、教えてくれるまで逃しませんよ、という風に。
「あ、あー、そろそろ出ないか? 用もないのにいても店の人に悪いだろ?」
「まだ時間があります」
「でも、俺達が帰れば店の人も仕事終われるだろ」
「それも、そうですね。ここで、教えてくれなくても三次会すればいいですもんね。じゃあ、行きましょうか」
「ちょっと待て。三次会ってなんだ」
「星宮くんが気になることを言ったので教えてもらいたくて」
「俺のことも気にしないでくれ。二条さんのことも気にしないようにしただろ」
「星宮くん。女の子の秘密を探ろうとするのはご法度ですよ。でも、女の子が男の子の秘密を探るのは当たり前のことなんですよ」
「待て。俺はその当たり前を知らないぞ」
「じゃあ、今日でひとつ賢くなれましたね。では、行きましょうか。三次会へ」
どうやら、二条さんは本気で三次会を開催しようとしているらしく、スマホを出して近場のお店を調べている。
「本気で三次会するのか?」
「はい。あ、近くに遅くまでやっているカフェがありますしそこでお話の続きをしましょう」
「はぁ……分かった。言うよ言う。だから、三次会はなしで頼む」
「星宮くんは私と三次会したくないのですか?」
「したくない。もう帰りたい。勘弁してくれ」
「そこまで言われると傷つきますがそうですね。三次会はなしという方向で」
ふぅ、なんとか三次会は免れた。そのかわり、今からドン引きされそうなこと言わされるんだけどな。あーあ、言いたくない。
「実は、ちょっとだけ小説らしきもの書いてるんだよ。で、どういうイチャイチャさせようかなって時に参考にしてるんだ。はい、これでいいだろ?」
気持ち悪がられただろうな。人様がイチャイチャしてるのを有効活用するために観察してるんだもん。一種の変人だよな。認めたくはないけど。
「す、凄いです!」
「凄い?」
「はい、凄いです。星宮くんは作家さんだったんですね」
「いや、作家とかじゃないから。ほんと、ただのメモ書き程度なものだし」
「それでも、凄いですよ。尊敬です!」
可愛い子はよく自分を良くみせるためにあざとく男に取り入るもんだ。凄いと思ってなくても褒めて、男の気分を良くして自分の評価を上げる。外からだとそういうのがよく分かる。
でも、二条さんはどうもそうじゃないらしい。心の底からそう思っているらしい。きらきらと目を輝かせているのが証拠だ。
「あのさ、キモいとか思わないわけ?」
「どうしてですか?」
「だって、自分のキモい妄想を書き綴ってるんだぞ?」
「そうなんですね。私にはよく分かりませんがキモいとは思いませんよ。だって、世の中には沢山の物語があって、それらは全て妄想じゃないですか。なのに、星宮くんだけキモいだなんて思うはずないですよ」
「そっか……ま、なんだ。その、ありがと」
「お礼を言われることじゃないような気もしますが受け取っておきますね」
微笑む二条さんにつられるように笑ってしまいそうになるのを何とかして堪えた。
「あの、星宮くん。これ、見てください」
そう言って二条さんは一冊のノートをカバンから取り出し俺に手渡してきた。パラパラとページを捲るとあるページに青い猫型ロボットの絵が描かれていた。しかも、かなりレベルが高い状態で。
「私、絵を描くことが好きなんです。と言っても、模写する程度ですし難しいものは描けません」
「確かに、難しくはないだろうけど……上手すぎだろ」
「ふふ、ありがとうございます。ほんとの趣味は絵を描くことなんです。でも、子どもっぽいし馬鹿にされるかもと思って言えませんでした。料理も好きなんですけどね」
「じゃあ、なんで俺に?」
「星宮くんも話してくれたから私も言わないとと思いまして。どうですか? 大学生にもなって変ですかね?」
二条さんの絵を見れば分かる。どれだけ真剣にこの絵を描いていたのかが。
「そんなことねーよ。趣味なんて人それぞれだし、この絵を見たら変だなんて思わない。それに、二条さんが変なら俺は変態だしな」
「お上手ですね」
「上手くはねーよ」
「それもそうですね」
クスクスと笑う二条さんに今回は思わずつられて笑ってしまった。
「星宮くんに言えて良かったです」
「ま、こんな上手い絵を描けるなら自慢したくなるもんな」
「もう、自慢じゃありません。話せて嬉しいんです」
「そっか」
二条さんの言葉を流しながらノートを捲る。電気ネズミの小さな怪物が描かれていたり、あんパンのヒーローが描かれている。
「結構、子どもっぽいな」
「あー、やっぱり、子どもっぽいって思ってるんですね」
「二条さんがじゃねーよ。絵が子ども向けの作品ばっかだなって思ったんだよ」
「仕方ないじゃないですか。描きやすいんです。それに、人物画は苦手で」
「へー」
「そうだ。今度、星宮くんで練習させてください」
「嫌だよ。モデルみたいにカッコ良くないし」
「そうですか? 私はカッコ良いと思って……な、なんでもありません。忘れてください」
途中ではっとして急いで口を閉じた二条さん。忘れてと頼まれたがどうにも忘れることは無理そうだと思った。
いや、ぜんぜん嬉しくなんかはないんだけどね? でも、忘れられそうにないし仕方ないよね。うん。
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