第24話 水着集を見つけた寂しがりは自分の胸はどうなのかを質問する

「明日はバイトで遅くなるんだけどご飯どうする?」


「そうですね。星宮くんの家に勝手に上がって待ってるのも違いますし家に帰ってから連絡してくれたらいいですよ」


「でも、終わるの夜だから二条さんまでご飯の時間遅くなるぞ。確か、遅くにいっぱい食べると太るんじゃなかったか?」


「大丈夫です。考えて調理しますので」


「でも、もし太っ――」


「大・丈・夫、です!」


「分かりました……じゃあ、そういうことでお願いします」


 恐怖を感じる笑顔で詰め寄られ、俺は逃げるように頭を下げた。あのままだと、どうなっていたか……想像しただけでも恐ろしい。


 俺は席を離れて台所に立つと食器を洗い始めた。せめてもの恩返しとして食器洗いは任せてほしいと言っておいたのだ。それでも、まだまだ恩を返せてはいないのだが。


 なんとかして、普段の恩返しを出来ないものか……。


「星宮くん」


「どした?」


「暇です」


「スマホでも眺めてろ」


「飽きました。なので、何か楽しいことを提案してください」


「無茶言うな。今、洗い物してるだろ」


「ぶー。あ、そうだ。星宮くんの部屋探索させてください」


 何を言い出すんだと振り返ると二条さんはこれからイタズラでもする子どものように含みのある笑顔を浮かべていた。


「実はずっと気になっていたんです。星宮くんの部屋がどうなっているのか」


「どうも何も至って普通の部屋だけど」


「気になります。星宮くんかまってくれないですしつまんないです」


「なんか、最近わがままになってきてないか? ちょっと前まではなんて言うかおしとやか?じゃなかったっけ?」


「そうですか? そう感じるなら星宮くんと仲良くなれている証拠ですね」


 いや、絶対にわがままになってきている。だって、少し前までは……あれ、よく考えたら気遣ってはいるけど大抵二条さんってわがまま言ってる? で、俺が二条さんを甘やかしてる? いやいや、そんなことないはずだ。俺はあくまでも普通の対応をしているだけで――


「――宮くん。星宮くん。中、入りますね」


「ああ、分かっ――ってちょっと待った」


 俺の制止する声も聞かず、二条さんはわくわくした様子で部屋の扉を開けた。その先には俺の――


「本当に普通の部屋ですね」


 至ってどこにでもある普通の部屋が広がっている。


「だから言っただろ。普通の部屋だって。なんだ、エッチな本でも沢山落ちてるとでも思ったのか?」


 残念だったな。俺は本より――ごふんごふん。ここから先は企業秘密だ。誰にも教えない。


「え、ええええええ……」


「悪かった悪かった。もう部屋で自由にしてていいから……」


 壊れた二条さんは静かになり、部屋に消えていった。


 はぁ。二条さんってどういう女の子なんだろう。グイグイくるくせにちょっとエッチとか言うとすぐに壊れて……今時十九にもなってあんな純情な子いるだろうか。きっと、何も知らないんだろう。何も。なのに、微妙な知識があるからなのかたまにドキッとすることを口にする。意味が分からん。


「おわっ、びっくりした」


 洗い物を終えて振り返るといつの間にか二条さんが立っていた。


 いつの間にいたんだ……って、そ、それは!


 よく見ると二条さんの手に水着の女性が載っている雑誌が握られている。


 キッと若干涙目のような目で睨んでくる。どうしてそうなっているかは雑誌がエッチな物だからだろう。


「これ、これ!」


 雑誌を突き出しながら尋問するかのように詰められる。相変わらず、いいおっぱいだ。


「どうやってそれを見つけたんだ?」


 ダンボールに入れて、タンスの中に隠しておいたはずなのに。見つけたということはタンスを開けたということだろう。お嬢様みたいな話し方しといて礼儀がなってない。


「タンスを開けたらダンボールがあったので気になって開けました……そしたら、こんなこんな、ええええええっちな本が沢山隠されてて」


 そう、俺が所持しているこういう類いの本は一冊だけじゃない。少なくとも十冊以上はある。でも、全部俺が自分の意思で買ったものじゃない。家にあったのにはちゃんとした理由があるのだ。


「星宮くんはふしだらです! 淫らです! 変態さんですーーー!」


「まぁ、待ってくれ。言い訳をさせてくれ。だから、じたばた暴れるな。下の階の人に迷惑だ」


「なんですか。何を言うつもりですか」


「その本、俺のじゃないんだよ」


「そんな見苦しい言い訳聞きたくありません」


「それが、本当のことなんだよ。俺がバイトしてた本屋あっただろ? その本はあそこで売れ残ったやつなんだよ」


「どういうことですか?」


「売れ残ったからって店長に持って帰ってくれって言われたんだ」


「意味が分かりません」


「だよな。俺だって意味が分からなかった。でも、店長が無理やり押しつけてきたんだよ。現在彼女のいない俺を気遣って」


「店長さん余計な気遣いです!」


 よし、怒りの矛先が店長に向いた。この調子でどんどん話を逸らしていこう。


「だよなだよな。俺だって持ち帰ってもどうしたらいいのか分からず、捨てようにもマンションでみんなの目があるからなかなか捨てられなくてどんどんたまっていったんだ」


「……星宮くんがこういうのが好きで買ったということじゃないんですね?」


「ああ」


 真顔で二条さんを見つめる。嘘がバレないようにするので精一杯だ。だいたい、どうして関係のない二条さんに問い詰められないといけないのか。彼女でもなんでもないのに。


「なら、許してあげます」


「許してもらわないといけないことしてないと思うけどな」


「しています。こんな、ええええええっちな本を持っていて……」


「えっちえっち言ってるけど全部水着の女性だぞ? 別に全裸のすっぽんぽんが載ってる訳じゃないんだからえっちでもないだろ。それともなにか。二条さんは水着がえっちだと思ってるのか? 思ってるならそっちの方がよっぽど淫乱な考えしてると思わないか?」


「うううううう……星宮くんは意地悪です。意地悪です!」


 泣きながらぽかぽかと胸を叩いてくる。この様を録画しておいて、何かあったときに使えたら便利だろうなぁ。


「星宮くんがこういうのお好きなのかなって思って不安になっただけなんです。なのになのに、星宮くんがいじめてきます!」


「悪かったって。ちょっと遊んだだけだよ。いじめてないから泣き止んでくれ」


 ティッシュを渡すと鼻をちーんとかむ二条さん。泣き止んでくれたようで良かった良かった。

 すると、二条さんは突然持っていた本を開き、真っ赤になりながら読み出した。時折、「あっ。ううっ。だ、大胆です。ぷしゅー」とか口にする。


 そんなになるならわざわざ読まなきゃいいのに……あ、読み終わったらしい。感想でも聞いてみるか。


「どうだった?」


「世の中は怖いことが分かりました。私には刺激が強すぎてまだ早かったです」


「二条さんには一生無理な気するけどな」


「あの、星宮くん」


「んー?」


「星宮くんは大きい胸がお好きなんですか?」


「うえぇっ!?」


 いきなり、何を言い出すんだ? 危うく咳き込みかけたぞ。


「な、なんで?」


「その、ここに載っている女性のみなさん大きいのでお好きなのかと……」


「そう言われても……俺はなんて言うか」


 大きくても小さくてもおっぱいに変わりはないし、おっぱいならどんなのでも需要があるから気にしたことないんだよな。


「わ、私のはどうですか? 私のはどう思いますか!?」


 雑誌を置いて、よく見えるように直立する二条さん。何故だか、目を瞑っているのでお触りオーケーという合図なのだろうか。

 二条さんの胸は雑誌に載っているような爆乳や巨乳ほど大きくはない。でも、一般的な?服の上からでも膨らみが分かるくらいのサイズはある。


 そんな胸を触っていい許可が出ているのに触らない男がどこにいるだろうか。もし、そんなやつがいればよっぽどの馬鹿かヘタレだ。俺は触る。もしこれで捕まっても二条さんみたいに可愛い女の子のおっぱいを触れたんだ。何も思い残すことはないだろう。


 俺は禁断の果実に恐る恐る手を伸ばした。


「な、何をするつもりですか!?」


「いや、目を瞑ってたから触って確かめてほしいのかと思って」


「な、何を言われるのか怖かったので閉じていただけです。なのに、星宮くんは触ろうとするなんて……やっぱり、変態さんです!」


 自分の胸を両手で隠しながら身を守る体勢の二条さん。悲しいことに初めてちゃんと男扱いされたみたいだった。


「だいたい、私達はまだそんな関係でもないのに触らせてあげたりなんてしません。汚れたくありません!」


「悪かったって。二条さんの胸が魅力的だからついつい欲望に負けたんだよ」


「ううっ、褒められてるのに星宮くんが変態さんだって知って喜べないです」


「男はみんな変態で狼なんだ。以後、覚えておくように」


 それでも、二条さんが本気で嫌がることはしないけど。

 だって、これは物語でもなんでもないただの現実なんだから。それに、生きて刑務所を出ても斑目に殺されると思うと……ふざけた真似は出来ないからだ。

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