第25話 プレゼント選びは難しい

 六月も残り僅かとなってきた今日この頃、俺はカレンダーと抱擁する前のような熱烈な見つめ合いをしていた。


 どれだけ見ても日付が近づくことも遠退くこともない。着実にその日その日へと近づいている。


 さて、どうしたものか。


 悩んでいるとスマホから着信音が鳴り響いた。画面を見ると斑目九々瑠と表示されている。


 出たくないという心の声に従って鳴り止むのを待っていたが、一向にその気配がなく仕方なく出ることにした。


「もしもし」


「出るのが遅い!」


「耳元で叫ぶなよ。うるさいな」


「さっさと出なさいよ」


 二条さんは寝坊して焦っていたとはいえ、もっと丁寧な感じだった。対して、斑目ときたらギャーギャーうるさくて仕方がない。どうして、ふたりが友達なのか未だに分からない。


「で、なんだよいきなり電話してきたりして」


「次の金曜日がどういう日か分かってる?」


 次の金曜日――それは、俺がカレンダーを見て悩んでいた理由と直結している。その時点で斑目が何を言いたいのか分かった。


「二条さんの誕生日だろ」


「そうよ。真理音の……って、どうして知ってるのよ? てっきり、知らないだろうから教えて真理音に貢がせようと思ったのに」


「貢がせって……もうちょい本心隠せないのか?」


「祝うように意識させようとしたってことよ」


「そんなんなくても祝うつもりだ」


 常日頃、何かとお世話になっているんだ。折角の誕生日、普段のお返しも込めて盛大に祝って少しでも恩返しがしたい。


「いい心がけね。もちろん、私も盛大に祝うつもりよ。年に一度のスペシャルデイなんだからね!」


「プレゼントあげるのか?」


「当然でしょ。星宮、土曜日の予定空けておきなさいよ」


「なんでだよ?」


「なんでもよ。いいわね。もし、空けてなかったら爪で引っ掻きまくるわ」


「やることがリアルで怖いんだが……まあ、暇だし空けとくけどさ。ところで、二条さんの好きなものってなんだ?」


 二条さんの誕生日は知っていても好きなものが分からない。何を欲しがっているのかが分からず、ずっと悩んでいたのだ。


「真理音ってわがまま言わないし、あんまり好きってものがないのよ」


 俺には随分とわがまま言ってるような気もするんだが……今は置いておこう。


「まぁ、あんたがあげるものならなんでも喜ぶわよ」


「それが、一番難しいんだよな」


「あの子と付き合っていた時はどうしてたのよ?」


「……適当に欲しいって言うものをあげてた。それ以上でも以下でもねぇよ」


「悪かったわ。嫌なこと思い出させて」


「別にいい。もう、前の話だし」


「真理音ならどんなものでも喜んでくれるわ。でも、少しはあの子のことを考えてプレゼントしてあげて。その方がもっと嬉しいと思うから」


「分かってるよ」


 肩たたき券でもきっと喜んでくれるだろう。だからって、肩たたき券はあげないけど。


「ところで、星宮はどういった服装が好きなの?」


「なんだよ、急に。誰かとデートでもするのか?」


「しないわよ。いいからあんたの好みを聞かせなさい」


「そう言われても……」


 服装なんて気にしたことないんだよな。これといって好みの服装なんてないし……あ、でも、小説のヒロインにはよく爽やかそうな服装着てもらうな。だからって、妄想を現実に求めるのも違ってるし。


「その子に似合ってたらなんでもいい」


「あんた女心なめてるの?」


「いや、なめてはねーけどよく分かんねーんだよ」


「はぁ……こういうの着てほしいとか着てほしくないとかあるでしょ」


「強いていうならあんまり肌が出ないようなやつかな。スカートとかいいけど、露出が多すぎるってのは好きじゃない」


「なるほど。星宮は独占欲が強いタイプね」


「待て。どこから、そういう話になった?」


「だって、そうでしょ。他の誰にも俺の愛する女の肌を見せたくないって言ってるようなものじゃない」


「全然、違うだろ。お前の頭ってそんなに馬鹿だったか? もっと、賢かっただろ」


 少なくとも、高校生の頃は学年上位に名前を連ねていたはずだ。俺とは違って。


「あんたに馬鹿なんて言われたくないわ」


「そりゃ、悪かったな」


「ふん、それじゃ切るわよ」


「あ、ちょっと待て」


「何よ?」


「俺と電話してドキドキしたか?」


「きっっっっっも! ドキドキなんてするわけないじゃない。いい、私をドキドキさせることが出来るのはこの世で真理音だ――」


 うるさくなったので途中で切った。

 二条さんと電話した時と今とでは感じてる違和感らしきものが全然違う。全く、緊張することなく平然とした自分が確かにここにいる。それは、きっと斑目とは付き合いが長い方だからだろう。


 斑目からメッセージが届いた。


【ちょっと! 最後まで言わせなさいよ!】


 俺はそれに返事することなく検索画面に打ち込む。


【女の子 誕生日 プレゼント】


 すると、オススメらしきものがずらっと検索されて出てきた。膨大な種類に一瞬吐き気がする。


 花。アクセサリー。服。小物。色々ありすぎだろ。二条さんはどれをあげると喜んでくれるだろうか。いっそのこと、全部あげれたら悩まずに済むけどそんな豪遊出来るほど金がある訳じゃないし。


「こんなことならもっとバイト頑張ってたらよかったな」


【無視しないでよ!】


 斑目からまたメッセージが届いた。

 俺はそれに返事することなく、プレゼントを考え続けた。どうせなら、喜んでもらいたい。喜ぶ姿が見たい。そんなことを思いながら。

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