第23話 寂しがりはモーニングコールをすると言い寝坊する
「星宮くん。時間割見せてください」
「なんで?」
「なんでも、です。はいはい、早くしてください」
「はい、は一回じゃなかったか?」
「それは、分かった時の話です。今は急いでほしいので急かしています」
「横暴だな。はい、どうぞ。見ても面白くもなんともないだろうけど」
「ありがとうございます。ふむふむ」
何を真剣に見る必要があるのか。ただの紙切れごとき、風が吹けば舞っていくぺらっぺらな物。それを、二条さんはこれでもかと凝視する。ふむふむって現実に言う人初めて見たなぁ。
「ありがとうございました」
「面白くもなんともなかったろ?」
「はい。これっぽっちも面白くありませんでした」
「だろうな。時間割だってウケ狙ってる訳じゃないし」
「そもそも、笑いたくて見せてもらった訳ではありません。ひとつ、星宮くんに提案したくて」
「最近、提案すること多くない?」
「まぁ、細かいことはいいじゃないですか」
「普段はそっちの方が細かいくせに……で、提案って?」
「これ見てください」
二条さんに見せられたのは二条さんの時間割。所々、違いはあるものの受けている講義は大体が同じだった。
「こことこことここ、被ってますよね」
二条さんは俺の時間割と自分の時間割を比べながら指で示す。
「確かに、被ってるな」
「そこでです。これからは一緒に登校しましょう」
「あー……一応、聞いとくけどその理由は?」
「ひとりで登校するのは寂しいからです」
分かってたけど安定の二条さんだ。世界は今日も平和だ。二条さんとの関係だけが変わりつつある中、それ以外は何も起こらず、変わらずの日常が送られている。
「残念だけどそれは無理」
「どうしてですか?」
「俺、いっつも時間ギリギリまで寝てるんだよ。だから、去年も何回か寝過ごして自主休講したりしてる」
「それでよく単位取れましたね」
「そこは秘密の協力者のおかげがあったからな。とにかく。そんなわけだから二条さんと一緒に登校は無理だ。そんなに誰かと一緒に登校したいなら斑目にでもお願いしてくれ」
「あ、いい方法が浮かびました」
「悪い予感しかしないんだが……」
「私が起こしに行きますよ」
ほら、みろ。なんだよ、その幼なじみポジションの女の子がしてくれそうなシチュエーション。俺は望んでないぞ。
「俺、寝起き悪いし準備に時間かかるから。二条さんを遅刻させる訳にもいかないし」
思いやりをもって断ると納得してくれるだろう。なんたって、善良なお断りなんだから。それでも、と無理にでも言ってくるならよっぽどなわがまま娘だ。
すると、二条さんは待ってましたというように目を輝かせた。
「いい方法を閃きました。連絡先、交換しましょう。モーニングコールして起こします」
「連絡先の交換ねぇ」
「はい。モーニングコール以外にも何かと必要になると思いますしこの機会に」
「交換はあくまでもいいとして……モーニングコールって」
「いい方法だと思いませんか? 星宮くんは休まないで済みますし私は星宮くんと登校できます。これは、断る方が変ですよね? ね?」
よっぽど断ってほしくないのだろう。発情期かと勘違いされそうなほど鼻息を荒くしながらグイグイ近寄ってくる。
「分かった分かった」
「それでは、早速交換しましょう」
二条さんとスマホを振り合って連絡先を交換する。なんだか、最近追加する連絡先が増えた気がする。二条さんと斑目の二人だけだけど。
「見てください、連絡先の数が増えました!」
嬉々として見せてくるスマホの画面。
そこには、俺と斑目、自宅の三件しか入っていなかった。
なんて、可哀想なんだ……俺でももうちょい入ってるぞ。親と高校の時にぼっちが嫌という弱気から作った友達の連絡先が。
「なんて言うか……良かったな」
「はい。あの――」
もじもじと身体を揺らせる二条さん。この前みたいにトイレでも我慢してるんだろうか。
「モーニングコール以外でも連絡してもいいですか?」
きっと、斑目としかやり取りしたことがないんだろう。だから、俺とやり取り出来たら嬉しいんだろう。
「いいよ。バイト中以外なら返事できるから」
すると、二条さんはスマホを口元までもっていきながら微笑んだ。
「ありがとうございます」
よほど、嬉しかったのだろう。背景に花が咲いたのが見えた気がした。
その日の夜、二条さんからのメッセージを受信した。
【明日の朝は頑張って電話しますね】
送られてきたメッセージ。それは、ついさっき帰る時にも言われた内容と全く同じものだった。
【ん、よろしく】
だから、俺も全く同じ内容を文章にして送った。すると、うさぎがメラメラと燃えているスタンプが送られてきた。気合いが入っているのだろう。
【寝坊しないようにお風呂に入って寝ます】
【おやすみなさい】
【あ、へ、変な想像しないでくださいね!】
と、赤面しているうさぎのスタンプが送られてきた。それに、詳しく答えることもなくおやすみとだけ送り返した。
二条さんの裸なんて興味ないんだからね!
翌朝、二条さんから電話がかかってくるのだと思うと自然といつもよりも早く目が覚めてしまった。
しまったな。二条さんが起こしてくれるのに目覚めてしまった。
背筋を伸ばし、寝ぼけたままスマホをつけると約束していた時間を既に過ぎている。
「ん? は? あれぇー!?」
二条さんから着信があった痕跡はない。とにかく、色々考えるのは後にして二条さんに電話してみた。
「もしもし……?」
「二条さんか?」
「あれ……どうして、朝から星宮くんの声が聞こえるんですか? 寝惚けてるんでしょうか?」
「うん、二条さんは寝惚けてんだよ。モーニングコールはどうした?」
「もーにんぐ……あわわわわ忘れてました。いえ、正確には忘れていたというよりも頑張って起きるぞと意気込みすぎて寝るのが遅くなって起きれなかったというか」
寝惚けた頭から覚醒して、言い訳をこれでもかと並べてくる。きっと、今はあのベッドの上で正座しながら次の言い訳でも考えているのだろう。なんとなくそんな姿が想像できた。
「風呂入ってとっとと寝たんじゃないのかよ」
「ベッドには入りました。でも、星宮くんとメッセージのやり取りできたことが嬉しくて画面を眺めていたら眠れなくて」
「意気込んでたのか画面見てたからなのかどっちだよ」
不意にドキッとしてくることを言ってくる。まだ、完全には起ききれていないのだろう。そうでないと、どういう意味なのだと考えてしまうから。
「どっちもです。あの、時間は大丈夫ですか?」
「俺が早く起きたからそこは心配しなくていい。でも、俺も寝てたらふたりで遅刻してたかもな」
「ふたりで遅刻……それは、なんだか大人の匂いがぷんぷんしますね」
「朝っぱらから何言ってんだよ……やっぱ、寝惚けてるだろ」
「星宮くん。電話ってこそばゆいですね。すぐ近くから星宮くんの声が聞こえてきてドキドキします」
二条さんの言うことはよく分かる。すぐ近くで話しているだけで妙な背徳感がある。
「星宮くん?」
「早く仕度した方がいいんじゃないか?」
「あ、そ、そうですね。朝ご飯も作らないといけませんし。それでは、切りますね」
「あ、あのさ」
「はい」
「その、俺もちょっとは緊張してた。だから、早く起きたんだ。じゃ、じゃあ、また後でな」
言い切ってからすぐに電話を切った。
きっと、こんなことを言ってしまったのは俺も寝惚けているからだ。だから、つい口が滑って余計なことをげろったのだ。
この日、二条さんと顔を会わせた時、彼女はすっごく嬉しそうな笑みを浮かべていた。
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