第97話 強がりと元カノ 復縁の提案

 学園祭が終わり、十月半ば。

 いよいよ、今日は高校にて同窓会が行われる日である。


 校門を前にして、足が止まる。見上げれば、二年前まで通っていた懐かしい校舎が手招くようにして待ち構えている。


 今日は誰もいない。いつもは隣にいてくれて、それが当たり前になってきている真理音も背中を押してくれた斑目もいない。


 ひとりぼっちだ。


 半年前までは、これが当然でなんとも思わなかった。これからも、こうしてひとりでいるばかりだと思ってた。でも、気づけばいつの間にか俺の周りには誰かがいてくれるようになった。まあ、その大半が真理音なんだけど。


 真理音は俺が同窓会に来ていることを知らない。嘘をついたのだ。本来ならバイトなんてないがあると事前に言った。不思議そうにしていた真理音を振り切るために斑目にも協力してもらい連れ回してもらっている。


 パンパンと二回、頬を叩いた。よし、と怖いと感じている自分を奮い起たせて同窓会の会場である体育館へ向かった。


 体育館には懐かしい……といっても、ほとんど誰なのか覚えていない人達でいっぱいだった。その中には無理に作った上辺だけの友達もいた。

 人間は不思議なもので、全然関わりがなかったとしても久しぶりに顔を会わせると当時を思い出して会話をする生き物である。


 適当に近況報告を互いに済ませているとトントンと後ろから肩を叩かれた。振り返ると琴夏だった。


「マナくん、やっほ!」


 いつもながらの笑顔を浮かべる琴夏は化粧によっていつもよりも綺麗に見える。実は俺と琴夏との関係は結構、知れ渡っていたりする。その結末がどうなったかは真理音と斑目、翔の三人しか知らないが、琴夏は学年のアイドルのような存在だったのだ。

 明るく可愛く気さくで誰にでもフレンドリー。そんな、琴夏がなんの取り柄もない俺と付き合っていることは弱みを握られているんじゃないか、等と囁かれたものだ。

 当時はそれをただの嫉妬やひがみとして聞き流していた。だが、別れた今はよく分かる。琴夏が浮気してると知って、俺は嫉妬せざるを得なかった。知りたくもなかった嫉妬する気持ちを知ってしまった。


「来てくれて嬉しいよ、ありがとね。この前はちょっとしか話せなかったから今日は沢山話そうね!」


 琴夏に同窓会に行く、と伝えるために電話した時は真理音に気づかれないようにするためバイトの休憩中にかけた。だから、その時は要件だけを伝えてすぐに切ったのだ。


 琴夏と少し話していると気づけば周りには誰もいなくなっていた。まだ、俺達が付き合っているとでも思われているのだろうか。

 恐らくそうなのだろう。当時の俺は琴夏と付き合えていることが嬉しくて度々惚気ていた。それが、周りはどう思うかも考えず、いつから浮気されていたのかも知らずに……愚かなやつだ。


「あのねあのね。この前の試合ね、三位だったんだー」


「へー、凄いな。おめでとう」


 しかし、どうして今になって琴夏はこんなにも話しに来てくれるんだろう。別れてから連絡なんて一切取ってなかったのに。


「……ねえ、マナくん。ちょっと、抜けよ?」


「抜けるってどこに?」


「教室行こ。今日は開放してるから自由にしていいって言ってたんだ……ふたりになりたい」


 琴夏からふたりになろうと言ってくれたのは願ったり叶ったりだ。タイミングを見て、俺から言おうとしていたがそのタイミングを中々見つけられず困っていた。


「いいよ」


 体育館を出て、俺達が最後に使っていた教室へと向かいだす。


「こうやって歩いてると色々と思い出すね」


「だな」


 中庭で弁当を食べたり、図書室でテスト勉強をしたり。琴夏と過ごした楽しい時間は今も心の中にちゃんと存在している。どれだけ辛い思いをしてもそれが消えることはない。


「マナくん、最後の席に座ろうよ」


 教室につくとそう言われ、俺達が最後に座っていた席に腰を下ろす。俺は後ろドアのすぐ近くに琴夏は窓側の一番後ろに。


「ふたりで放課後よくお喋りしたよね」


 琴夏と友達になったきっかけは二年生の時、ある授業で班が一緒になったことがきっかけだったといつの日か思い出した。その授業中、琴夏がボケたことにツッコミをいれた、というなんてことのないこと。それだけのことで、それまで話したことすらなかったのにその日から琴夏の方から話しかけてくれるようになった。

 段々、一緒にいることが多くなって笑顔が素敵で恋に落ちた。単純でチョロかった。そして、その夏。花火を見た後に告白し付き合うことになった。


「楽しかったよね」


 そう。琴夏の言う通り、楽しかった。楽しくてしかたなかった。憂鬱な学校も琴夏と会えると考えるだけで色鮮やかなものに変わった。

 でも、そんな色鮮やかなものはいつまでも続くことはなく、ある日、突然崩れて終わりを迎えた。


「……ねえ、マナくん。私といるの、嫌?」


「……なんで?」


「だって、前みたいに楽しそうにしてくれないから」


 浮気されて、元カノとニコニコと笑って話せるほど俺はまだ大人じゃない。心はきっとあの時に縛られたまま、解放されていない。


「それとも、ふたりきりだから今の彼女に申し訳ないって思ってるの?」


「は?」


「テニスの試合の日に一緒にいたあの子と付き合ってるの?」


 答えられなかった。真理音とは一旦、別れているから彼女という名目ではない。でも、何故か違うとも琴夏には言いたくなかった。


「なんだか、私ね……最近、すっごくモヤモヤしちゃうの」


「琴夏……?」


「この前の学園祭でね、マナくんとあの子が楽しそうにしてるのを見ると苦しくてね……ようやく分かった気がするの」


 心臓が大きく跳ねた気がした。


「……ねえ、マナくん。あの子と付き合っていないなら私ともう一度付き合ってくれないかな?」


 俺は琴夏から復縁を提案された。

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