第95話 タピオカチャレンジはイチャイチャを生むためだけにある
「大学にもタピオカって売ってるんですね」
「最近はどこにでもあるよな。人気になりすぎてるけど正直俺には何がいいのか分からん。だって、あれ。見た目は完全に北海道の湖に生息してる――」
「ま、真人くん。それはタブーですよ。全世界の女の子から真人くんを守る自信は流石にないです。それに、私も今から飲むんですから禁句です」
「そ、そうだよな」
大学にまで進出してきたタピオカを真理音は飲むと決めた。今は待機列に並びながら順番を待っている。前には二人組のどこかの高校の制服をきたJK。そんな、二人を見ながら真理音がこそっと話しかけてくる。
「私達も制服だったら制服デートでしたね」
「真理音は今でも余裕で制服いけると思う」
「私はもう卒業しましたよ……でも、真人くんと制服デートするならアリかもです」
やけに制服デートを強調される。
俺の制服は実家にまだ残っていたはずだよな、とそんなことを考えていると真理音の番となった。
今日はタピオカイチゴミルクティーを購入した真理音と近くのベンチまで歩く。最近、なんにでもタピオカが注入され、将来タピオカだらけになるとどうしようと不安だ。
「うっわー、スッゴー! さっすが、
「ちょ、わ、笑ってないで早く写真とって……これ、キツいんだから」
「分かってるってー!」
隣で大きな声でそう話すのは先ほど俺達の前に並んでいた二人組のJKだ。一人があの伝説のタピオカチャレンジを成功させているのをもう一人が写真に納めている。
「ま、真人くん……あ、あの、破廉恥なお遊びはなんですか?」
「え、えーっとだな。タピオカチャレンジって言って、その、胸の大きい女の子がああやって胸にドリンクを乗せて飲むっていう遊びと言うかなんていうか……一種の挑戦?だ」
男とは悲しい生き物であり、隣に自分を好きでいてくれる女の子がいても素晴らしいものを目にすれば自然と視線を奪われる生き物なのである。
食い入るように見ていると耳をつねられた。振り返るとかなりのご立腹を示すように頬をパンパンに膨らませている真理音。まるで、ハムスターがヒマワリの種を口いっぱいに詰め込んでいるように。
「ば、場所変えようか」
「……にも出来ます」
「え?」
「わ、私にも出来ます!」
「い、いや、その……真理音にはちょーっとだけ難しいんじゃないかな~」
真理音も素晴らしいものを持っているとはいえ、あの子ほどの大きさではない、はず。見た感じでだけど。
「大丈夫です。出来ますから!」
全力で身体をそりながら胸の上に容器を乗せる。グラグラと落ちそうで不安ではあるが一応成功したようだ。
「ど、どうですか。私にだって出来るんですよ。思い知りましたか」
「……はい、その、オメデトウゴザイマス」
「で、感想はないんですか?」
「えーっと、素晴らしいものを見られて眼福です!」
「ふふ、そうでしょうそうでしょう。タピオカチャレンジなんて余裕です!」
ふふん、と自慢気になる真理音。
恐らくは喜んでいるのだろう彼女にこれを伝えるのはいささかどうかと思ったが目のやり場に困るので素直に言うことにした。
「それで、だな。その……透けてる」
「……はい?」
「だ、だから、その……下着、透けてる」
容器の底が濡れていたせいで今日に限って透けやすい色の服を着ていた真理音の胸元がその通りに透けてしまっていた。大人っぽい赤と黒のデザインの下着に思わず釘付けになる。幼い顔の真理音がこの下着は正直反則だと思った。ギャップが凄い。
真理音は胸の上から容器を退けて恐る恐る視線を持っていくとすぐさま真っ赤に仕上がった。
「……えーっと、意外と大人っぽいのだな。その、似合ってていいと思うぞ。うん」
どこからそんな行動に至ったのか自分でも謎だが親指を立てて褒めてしまった。褒めておけばなんとかなる、と脳が勝手に命令を下したのだろう。
すると、真理音は泣きながら抱きついてきた。
「みゃ、みゃなとくん!」
今までにないほどの力で抱きしめられ少し苦しい。と、同時に見えてしまっている下着を隠そうとぎゅうっと近づいてくるから苦しいはずが気持ちよくもある。苦しめられて気持ちよくなっている訳では決してない。
「ま、真理音……その、みんなが見てる」
「嫌です嫌です嫌です。誰にも見られたくなんてありません。隠してください!」
「だ、だから、がっつり見られてるって」
「だから、真人くんに隠してもらってるんじゃないですか!」
「いや、隠せてないって……バレバレだって」
「ば、バレバレなんですか!? もっと、くっつかないとダメなんですか!?」
そう言いながらもっとくっついてくる真理音。全身が柔らかい感触に包まれて、もう何がなんだか分からない。
隣のJKはずっとクスクス笑っているし、傍を通る人も可愛いねーっと言いながら歩いていく。
真理音はそれすらも気づいてない様子で引っついたまま。
「抱きしめてあげないのかな」
「いやー、無理でしょ。彼氏の方、どう見たってヘタレじゃん。じゃなかったら、とっとと抱きしめてあげてると思うしー」
「確かに、そうかも。彼女も大変だね」
JK二人に言われて流石に腹が立った。
自分がヘタレなことくらい、自分が一番分かってる。
「真理音。ちゃんとくっついてろよ」
「え、ま、真人く――きゃっ!」
世間で言うお姫様抱っこで真理音を持ち上げる。
「「オオー!」」
JK二人と周囲から謎の歓声と拍手が送られる。
「ま、まな、え、え?」
真理音はようやくどういう状況だったのか認識したのか目をパチパチとさせている。
「真理音。見えそうだからちゃんとくっついてて」
すると、首に腕を回されきゅっと身体を密着される。羞恥からなのか、震えが伝わってくる。隠そうとする顔も真っ赤なままで目を閉じている。
「お、重たくないですか……?」
「……大丈夫だから。少しの間、我慢してくれよ」
「……はい」
頭の中に人気のない場所を思い浮かべる。
明確な場所が浮かんだ所で真理音を支える腕に力をより一層込めた。
「ヤバー、大学生の彼氏ってスッゴいカッコいいね……」
「うん。私もあんな恋したい……」
JK二人からそんな声が聞こえてくる。
全然、カッコよくなんてないんだ。元カノへの想いをいつまでも引きずって、好きだと言ってくれている子に返事も出来ないヘタレでカッコ悪いやつなんだ。だから、君達が恋をする時や既にしているなら自分の気持ちを大事にしてほしい。それだけで、何にも変えがたい素敵な恋愛を送れると思うから。
それを、言うことはなかったが二人を最後に見る。もう、二度と会うことがないはずの二人に営業スマイルを残していく。
どうか、彼女達が浮気をしないように。そして、浮気されないように、と願いながら。
そして、俺は真理音を連れて逃げ出した。
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