第35話 強がりは合コンにて元カノと遭遇する
【真人くん。今どこにいますか?】
きた。きちゃったよ。真理音からの連絡が。そうだよな。別に一緒に帰る約束をしてる訳じゃないけど、帰る場所が同じでここ最近はマンションに着く頃には自然と顔を合わせていた。それが、なかったんだから心配性の真理音はどうしたんだろうって不安になるよな。
【合コン会場に向かってる】
結局、俺は合コンに付き合わされることになった。
講義終わり、翔から脅されたのだ。「去年、休んだ時のプリントをあげたのは誰だったっけ? テスト前に出そうな所教えてやったのは誰だったっけ?」とこれでもかというほど俺が断れないようにしてきた。ぐぬぬぬ。こんなことになるなら、多少単位を落としてでも翔との関係を断ち切っておけばよかった。
「ながらスマホは危ねーぞ」
「うるさい。誰のせいだと思ってんだ」
真理音から文の後に送られてきていたうさぎが泣いているスタンプを見ながら答える。これは、ひとりは寂しいということを表しているのか?
しかし、返事がないな。既読はついてるのに。着替えでもしてるのだろうか。
「さっきから何見てるんだよ」
スマホとにらめっこしていると翔が覗き込んでくる。
「もしかして、合コン攻略法か……って、なんだ連絡か。って、連絡!? 誰とやりとりしてるんだ?」
「うるさい。俺が誰と連絡とっててもいいだろ」
翔に見られないようにスマホを切ってポケットにしまう。
真理音には伝えておいたし……大丈夫だろう。今日は真理音のご飯を我慢するし、真理音も我慢してひとりで食べてくれ。
合コン会場はおしゃれな飲食店だった。
そこで、男女五人ずつで行われる……と聞いていたのだが、どういう訳か女子がひとり足りない。どうやら、女子の方にもひとりキャンセルの子が出たらしく、急遽追加で呼んだから遅刻してくるようだ。
ほんと、俺の来る意味なかっただろ。
元々、興味のない俺は断りをいれて向かいに誰もいない状態で出された料理を口にしていた。
真理音からの連絡がきていないかと思い、スマホをつけると大量のメッセージが届いていた。
【終わったら私の家に来てください】
【お話がありますので】
【すぐにですよ】
【何時になってもいいので】
【待ってますから!】
その後にメラメラと燃えているうさぎのスタンプが送られてきていた。これまた何個も連続で。
やばい……なんか、怒ってる。そんなに、ひとりでご飯を食べるのが嫌なのか? それとも、今日の食材が無駄になるからか? それとも、合コンに行ってしまったからか?
とりあえず、帰ったら謝ろう。てか、ほんとにもうひとりの女の子が来るかも分からないんだ。それに、真理音のことだから俺が帰ってくるまで正座して待っていそうだし。やば、めっちゃ想像できる。
よし、こんなつまらない所にいても仕方ない。帰ろ帰ろ。
「俺、急用が出来たから――って、誰も聞いてない」
みんな各々で盛り上がっている。てか、翔が連れてきたんだからお前くらいは俺のこと気にしろよ。まったくの無視か。そうやって、気を遣えないから今までに彼女出来たことないんだぞ。
お金を置いて勝手に帰ろうとした時、タイミング悪く遅刻してきた女の子が扉を開けて入ってきた。
彼女を見た時、俺は呼吸するのを忘れた。
なんで、ここに……。
彼女も俺のことを見て驚いたのだろう。目を丸くしたまま、突っ立っている。
友達に呼ばれて、我に戻った彼女は「なんでもないよ」と言って俺の前に座った。胃が痛くなってきた。もう、帰りたい。
「久し振りだね……」
「ああ……」
遅れてきたのは元カノだった
それにしても、合コンとか来るんだ……。
「元気だった?」
注文を済ませた琴夏がなんてことのない質問を投げ掛けてくる。
「ま、それなりに……皐月さんは?」
「私も元気だったよ。てか、皐月さんって他人行儀やめてよ。昔みたいに琴夏でいいよ」
琴夏は浮気していたことを俺が知っていることに気づいていない。大事にしたくなかったため、卒業と同時に大学は別になってお互い忙しいだろうから別れよう、と俺から告げた。その時、琴夏は大して悲しそうにもせずあっさりと受け入れていた。きっと、本当はとっとと別れたかったのだろう。その事が余計に俺の中に深く残ることになった。
琴夏はどうして別れたのかを知らない。だからだろう。元カレの俺に気さくに名前で呼んでいいよと言えるのは。
「いや、いいよ……皐月さんで」
「だーめ、琴夏」
「皐月さん」
「琴夏」
どうしても譲る気のないらしい。特段、琴夏と話をしたい訳でもないのだが一度拗ね出すと面倒なことは知っている。
「琴夏」
と、呼ぶと彼女はその顔からはあまり想像できないような無邪気な笑顔を浮かべる。
「むふふふ~はーい」
これだ。この笑顔に俺は心を盗まれた。
俺と琴夏がどうして関わり出したのかはもう覚えていない。ただ、琴夏といると楽しかった。何気ないことでも、彼女が笑うと俺も嬉しくなってもっと一緒にいたい。その笑顔を俺だけに向けてほしい。そう思った。だから、告白した。そして、付き合えるようになった。
けど、その笑顔はいつからか俺以外にも向けられていて、だんだん俺には向けてくれないものになった。
そして、ある日の放課後、見てしまった。彼女が他のクラスの男子と教室でキスしていたのを。俺は手すら握ったことなかったのに。
「おーい、マナくん。どうしたの?」
ぼーっとしていた俺の眼前で琴夏が手を振っている。
コイツには罪悪感とかがないのだろうか?
「別に……なんでもない」
「もしかして、気まずいと思ってる? まぁ、そうだよね。私もちょっとは思ってるし。でもさ、もう昔のことだから新しく友達として仲良くしようよ」
そう言うと琴夏は届いたドリンクを俺の方に差し出す。
「乾杯しよ」
俺は何も言わずに琴夏と同じようにする。
「かんぱーい。うーん、美味しい!」
それから、琴夏はこれまでのことをひとりでペラペラと話し出した。大学ではどうだのこうだのああだの言っている。
その話を俺は適当に相づちをうちながら笑っていた。変なごちゃごちゃは起こしたくない。変にケンカとかにもしたくない。笑っていればその内終わる。そう思いながら。
「マナくんも合コンとか来るんだね。姿を見た時、びっくりしたよ」
「今日は無理やり連れて来られただけ。そっちこそ合コンとかよく行くのか?」
「まあねー。付き合ってもなんか違くてすぐ別れちゃうんだよね。だから、新しい出会いを求めてね」
「へー。いい出会いがあればいいな」
何故だろう……何も喉を通らなくなった。
今すぐ、帰りたい。ここから、消え去りたい。真理音に……って、どうして真理音の姿が頭に浮かぶんだ。
その意味が分からなかった。
けど、こんな楽しくない場所にいるよりは真理音とご飯を食べている方が断然楽しい。
真理音に会いたい……合コンが終わるまでそう心が呟いて仕方なかった。
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