第123話 寂しがりとのお泊まり会 終

 朝早くから真理音に起こされたこともあり、今日はさっさと眠ることが出来る、と思い込んでいた。

 しかし、そんなことはなかった。

 馬鹿みたいに目が冴えて、夜行性の動物のようにぎらぎらとしていた。


「……あの、真人くん。しないんですか?」


 互いに背中を向け合わせていると後ろから小さな声が届いてくる。その声は震えていて、自信がなさそうに聞こえた。


「何を?」


「……え、えっちなことです」


「しない」


 即答すると落ち込んだような「そ、そうですか……」が返ってきた。

 寝返りをうって、真理音に目を向ける。

 背中を向けたまま、丸めた猫のようになっている。


 そんな、真理音の頭に手を置くとこちらを向いた。目に涙がついている姿を見て、心臓が大きく跳ねた。


「分かってはいます……私は真人くんに好かれていると。でも、あまりにも速く答えられると悲しいです」


 このまま、何も言わなければ俺は同じことを繰り返してしまうような気がする。何より、真理音にこんな顔させたままでいたくない。


「正直に言うと真理音と心も身体も繋がれたら良いな、って思う。俺だって男だし、真理音とそういうことしたいって思いはある。さっきも、ずっと我慢してたけど真理音の胸とか触りたいって気持ちがずっとあった」


 こういう気持ちを正直に言って相手にどう思われるかが怖い。欲望剥き出し。心の汚い部分をさらけ出す。そんなことして、相手に嫌だと思われたくないんだ。


「今だってそう。真理音に色々手を出したい気持ちがある」


 だから、結局目が冴えて眠ることが出来ない。


「でも、ちゃんとお互いの気持ちを大事にしたいし真理音自身を大切にしたい。ちゃんと考えないといけないことだから」


 もし、真理音に手を出して……その結果、真理音の将来の可能性を奪うようなことはしたくない。やりたいことが出来ない、とかは迎えてほしくないし迎えさせたくないんだ。


「だから、その……真理音がいいよって言ってくれるなら頑張りたい。色々と下手でおぼつかないだろうけど……」


「……じ、実は星を見に行った日の夜、ゼミの皆さんから聞いたんです。付き合えば、えっちなことをするって」


 誰だ、真理音に余計なことを教えたのは。衛藤さんか。それとも、他の誰かか。誰にしろ、いらないお世話……って言うか、え、知られてるの? ゼミの女の子にはもう知れ渡ってるの?


「何をするんですか、って聞いたら誤魔化されましたけど……夜はそういうことするんだよ、って」


 真理音は首を傾げながら、そういうことが何なのか本当に分かっていないようで何をするんですか、と訊ねてきた。

 本当に箱入り娘知識しかないらしい。女の子の日とか色々と学校の授業で教わっただろ。恥ずかしくて耳でも塞いでたのか。


「……お、俺と真理音で子供を作るんだよ」


「どうして、私と真人くんがえ、えっちなことをすると子供が出来るんですか? 子供は鳥さんが運んでくれるんじゃないですか?」


 絶句して何も言えなかった。

 ここまでだとは思っていなかった。箱入り娘知識でも、流石に子作りくらいは知ってるだろうと思ってた。

 でも、真理音は遥か上をいっている。

 これはもう、世間知らずとかでは済ませなさそうだ。だからと言って、正直に全部を教えるとどうなってしまうだろう。予想もつかない展開が待っていそうで出来ない。


「……その、俺と真理音が仲良くしてる所を鳥さんが観察するんだよ。そして、鳥さんが認めてくれたら子供を授けてくれるんだ」


 今はまだ、誤魔化しておいていいだろう。

 子作り云々についてはもっと先でいい。


「確かに、まだ学生なのに子供は困りますね。真人くんとの子供ですからほしいですけど……真人くんとの時間が減ると思うと」


「……そういうこと、俺以外には誰にも言わないようにな」


「どうしてですか?」


「どうしても」


 真理音のそういう姿を想像してほしくないんだから。


「それで、その……どうする? 何かしとくか?」


 ……何かしとくか、って何だ! ムードもへったくれもない!


「いえ、やめておきましょう。皆さんが夜はそうだよ、って教えてくれたので言っただけで何をするのか怖かったですし」


「……こういうことの延長線をするんだ」


 真理音を抱き寄せて、唇を重ねる。

 俺が出来る、精一杯のことを。


「よ、よくは分かりませんでしたがよく分かりました。真人くんと嬉しいことをするんですね」


「そういうこと。だから、今は……その、手を出せない俺でも満足してくれるか?」


「当然です。真人くんがどれだけ私のことを考えてくれているのか分かりましたし……それに、今は抱きしめられたりちゅうしてくれるだけでとっても幸せですから」


 そう言ってくれて、ようやく心の中の何かが解消されたような気がした。あの時の後悔をもう繰り返さないためにも言ってよかったと思う。


「……あの、真人くんが触りたいなら触りますか?」


「はい?」


「その、む、胸。触りたいならいいですよ」


 今、真理音は白の下着をつけている。風呂を出た時、純白色の下着が堂々と置かれていた。目にした時は目を丸くした。隠しておけよ、と言いたかったが何も言えなかった。


「い、いい。そういう雰囲気でもないし」


「い、いいんですよ。九々瑠ちゃんにも愛奈ちゃんにも触られていますから。真人くんは触れなくて悔しくないんですか?」


 確かに、彼氏の俺がまだ触っていないのに斑目と愛奈は既に柔らかそうな二つの果実を手にしている。斑目はまあ許すとしよう。真理音と大の仲良しで友達同士なのだから。今後は許さないが。何よりも悔しいのは愛奈が既に触っていることだ。妹に負けていいお兄ちゃんがいていいはずがない。


「……本当にいいのか?」


「はい。その、直接はダメですけど服の上からでいいなら」


 それは、当然のことだ。直接だなんて、俺の方がどうにかなってしまう。


 ゆっくりと手を伸ばして、服の上から膨らみに触れた。柔らかくて気持ちいい感触が手に伝わってくる。


 なんっだ、これ。下着と服っていう障害物があるのにふにふにで柔らかくて……もう、プリンだとかパンケーキだとか分からない。この世のもんじゃないだろ。


「んっ……ま、真人くん……」


 気付いたら夢中で揉んでいた。服の上からでも下着の上からでも分かるこの感触をずっと味わっていたくて病み付きになっていた。


「ご、ごめん。痛かったか?」


 これは、流石に愛奈で練習していない。すれば、犯罪だ。日の目を浴びることが出来なくなる。だから、初めてだ。これも。これより先のことも。

 知らない世界に飛び込むことは力量が分からず怖くなる。強かったのか。弱かったのか。自分の力が値しているのか。それが、真理音を傷つけてしまわないか。


「い、痛くないです。くすぐったかったというか……変な気分になってきたというか……九々瑠ちゃんにも愛奈ちゃんにも触られてもこんな気分にならなかったのに」


 真理音の息が荒い。

 ここから先へは絶対に踏み込んではいけない気がした。


「真人くん……何だか、身体が熱いんです。私は可笑しくなったんでしょうか?」


「そ、そんなことない。興奮した証拠だと思うから」


「興奮?」


「運動した後と同じ気分ってことだ」


「ですが、私は動いていません。ただ、触られていただけです」


 どうしてこうも知りたがるのだろうか。

 どうしてこうもすぐ納得してくれないのだろうか。


「だから、真理音の頭と身体がえっちな気分になってきてるってことだよ……言わせるなよ」


「す、すいません。自分の身体なのに真人くんに説明してもらって……」


「……いや」


 沈黙の空気が重たい。

 もう、何もせず寝た方が身のためだ。お互いの。


「……真人くん、ちゅうしていいですか?」


「……うん」


 興奮しているからなのだろうか。いつもなら、すぐ離れていく柔らかい感触が長い間重なり合っている。


 離れると真理音は照れ臭そうにぎこちなく笑顔を向けてくる。


「真人くんの腕を枕にしたいです」


「そういえば言ってたなそんなこと」


 左腕を伸ばすとその上に真理音の頬が乗せられる。寄り添われ、距離が近くなり、息が届いてくる。


「何だか、朝から一緒にいて、買い物に行って、ご飯を食べて、お風呂に入って……こうやって、寝るまで同じだと一緒に生活しているような気がしますね」


「将来はそうなってるんだし予行演習でちょうどいいだろ」


 伝わっただろうか?


「将来……予行演習……っ!?」


 どうやら、ちゃんと伝わったようだ。


「ま、真人くん……そ、そそそれって……っぅ!」


 赤くなったであろう顔を見せたくなくて、真理音を胸の中に抱く。


「真人くん。真人くん」


 胸で何度も名前を呼ばれるが決して答えることはなかった。


 真理音は俺から離れることはない、と言ってくれた。俺だってそうだ。真理音から離れるつもりなんてない。それどころか、真理音を離すつもりがない。


「真理音。大好きだよ」


 彼女の温もりを感じながら耳元で囁く。

 すると、パジャマを弱々しい力できゅっと握られた。


「私もです」


 真理音の腕が背中に届き、優しく抱きしめられる。同じようにして、真理音を抱きしめながら俺達は静かに眠りについた。


 朝になり、目が覚めると腕の中には眠っている真理音がいた。珍しく、俺の方が早起きだったらしい。苦しくないだろうかと心配になり、真理音を解放する。

 すると、まるで起きているかのようにすがるように近づいてくる。どうやら、眠ったままでも離れるつもりがないらしい。


 しかし、夜は何かと思い出したくないことをした気がする。深夜テンションだったが、あの真面目ま真理音までもが不真面目なことをしていた。深夜テンションとは恐ろしい。


 そんなことを考えながら真理音のことを微笑ましく見ていると目を覚ました。きょろきょろと目を動かしながらどういう状況かを認識しているようだ。


「おはよう」


「お、おはようございます。何だか今日はお日柄もよく」


「緊張してるのか?」


 笑いそうになるのを堪えながら言うと真理音は頬をぷくーっと膨らませた。


「だって、夢の中でも真人くんと一緒で起きても真人くんと一緒で嬉しくて……舞い上がってるんです」


「そっかそっか」


「にんまりと笑うなんて酷いです」


 朝からでも真理音が傍にいるだけで楽しい気持ちが込み上げてしょうがない。むくれている真理音を引き寄せながら抱きしめた。


「もうちょっとこうやってくっついてたいんだけどいい?」


「……朝ご飯の時間ですけど、真人くんがお望みであるなら仕方ありませんね」


 俺達は時間を忘れてただくっついていた。幸せでしょうがなく、寝起きから恋人と一緒にいることの喜びを学んだ。



――――――――――――――――――――

いつも、御愛読くださってありがとうございます。

今日は一つお願いがありまして、こんな後書きをさせて頂きます。


それは、単純に星が欲しい、ということです。(ダジャレではありません)


本来、星は本当に評価してもいい、と思われた時に読者様が入れてくれるありがたいものです。

なのに、現在はこうやって後書きや前書きで評価してほしい、という作品がとても多いように思えるんですね。

そして、それが当たり前みたいな風潮になりつつあると思うんです。


読者様にとっても評価求められ過ぎるとうんざりしてしまう方もいるのではないかと思います。


なので、強制でもありませんし評価されなくとも完結まできちんと書きます。この作品、すっごく好きですから。


今後一切、こういうお願いはしないと思います。ですので、ほんの気紛れやほんの少しでも良いな、と思って頂けたら星を頂けると幸いです。


長ったらしくなってしまい、申し訳ありませんでした。

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